ストロンチウム化合物を含むフィブリン組成物
フィブリノゲン、トロンビンならびにストロンチウム(Sr)含有化合物および/または場合によりカルシウムなどの別の金属を含有する化合物を含む無機成分を含む粘弾性ヒドロゲルゲルまたは液体製剤の形の、骨治癒および骨再生に使用するための組成物。ストロンチウム含有化合物は、トロンビン溶液に溶解してもよいし、結晶粒子形態で血餅に加えてもよい。成分を混合すると、ゲル化が起こり、マトリックスを形成する。本組成物はまた、可塑剤として作用するヨード含有化合物を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年4月23日に出願された米国仮特許出願第60/925,716号の優先権の利益を主張する。米国仮特許出願第60/925,716号は、その全体が本明細書中に参考として特に援用される。
【0002】
本発明は、概して、骨治癒および骨再生に使用するための組成物、具体的には、フィブリノゲン、トロンビンならびにストロンチウム(Sr)含有化合物および/または場合によりカルシウムなどの別の金属を含有する化合物を含む無機成分を含む粘弾性ヒドロゲルゲルまたは液体製剤に関する。ストロンチウム含有化合物は、トロンビン溶液に溶解してもよいし、結晶粒子形態で組成物に加えてもよい。成分を混合すると、ゲル化が起こり、マトリックスを形成する。
【背景技術】
【0003】
骨治癒および再生における現在の実務は、移植骨(自家または同種移植片)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの骨セメントまたは注射用もしくは移植可能カルシウム塩空隙充填剤のいずれかで骨空隙を埋めることである。自家移植片は、本出願の「ゴールドスタンダード」選択であるが、ドナー組織制限、外傷、感染および罹患率に関する問題がある。同種移植片については、疾患伝播および免疫原性(imunogenicity)の危険をはじめ、いくつかの問題がある。自家および同種移植片の両方とも、二次的リモデリングによる生物学的および機械的特性の喪失を示す。このような制限により、移植骨の代替材料が注目されてきた(非特許文献1)。
【0004】
PMMAは、非吸収性ポリマー材料である。その重合の間に、未反応の単量体、触媒および低分子量オリゴマーが、ポリマー中に捕捉されるようになる。これらの化学薬品は、材料が外へ浸出し、局所細胞傷害性および免疫学的応答をもたらす可能性を有する。PMMA重合は、熱壊死を引き起こす可能性を有し得る高温の発熱を有する。この発熱はまた、PMMAの、任意の薬理作用物質または化学療法薬を組み込む能力も制限する。欠損からのPMMA漏出は、極めて重大な合併症、例えば、隣接構造の圧迫(さらなる手術を必要とする)および/または塞栓症をもたらし得る。
【0005】
ナノレベル(10−9m)の骨マトリックスは、膠原線維からなり、カルシウム塩の小さな結晶が埋め込まれている。骨の自然な構成を刺激するために、骨の修復にカルシウム塩が用いられることが多い。既知のカルシウム塩をベースとする「注射用空隙充填剤」がいくつかある。カルシウム塩セメントに伴う1つの主要な問題として、そのin vivoでの凝結の必要があり、これは、通常、化学反応によって達成される。したがって、細胞および薬理作用物質などの充填剤中に組み込まれる任意の生物製剤が損傷を受ける可能性を有し得る。さらに、増量剤が「流体」でありすぎる場合には、欠損から隣接空間に漏出し、構造の圧迫および塞栓の可能性につながり得る。欠損からの関節の近位への漏出は、関節機能を損なう可能性を有し得る。
【0006】
リン酸カルシウム(CP)塩ヒドロキシアパタイト(HA構造Ca10(PO4)6(OH2))は、骨のミネラル相に最も近く、実験台で容易に合成できる。また、他のカチオン(例えば、マグネシウム、ナトリウムおよびストロンチウム)またはアニオン(塩化物、フッ化物およびカーボネート)が結晶に置換されているHAを調製することも可能である。本発明に関しては、CP結晶中の、カルシウム(Ca2+)イオンのストロンチウム(Sr2+)イオンでの置換である。ストロンチウムおよびカルシウムは両方とも、アルカリ土類金属に属し、身体中の全カルシウムおよびストロンチウムの99%を超えるものが骨中に局在しているという点で互いに似ている。ストロンチウムは、骨強度と正の関係を有すると同定される唯一の元素である、すなわち、骨の機械的強度は、ストロンチウム含量が増大するにつれ高まる。ストロンチウムの治療効果の可能性は、以前から知られている。しかし、治療の可能性が、正常な、安定なSr2+(84Sr、86Sr、87Srおよび88Sr)とその放射性同位元素(85Sr、86mSr、87Srおよび88Sr)との混同によって見過ごされてきた可能性があるということが文献で示唆されている(非特許文献2)。最近、ストロンチウムの治療効果が脚光を浴びており、研究によって、げっ歯類および骨粗しょう症の患者における骨組織形態計測によって評価されたように、ストロンチウム塩が、in vitro(低用量であっても)およびin vivoで、骨形成を刺激し、骨吸収を阻害することが実証されている。非特許文献3。
【0007】
ストロンチウムの強力なタンパク同化および再吸収抑制効果は、新規抗骨粗しょう症薬の開発につながった。経口活性薬(有効成分ラネル酸ストロンチウム)は、脊椎骨折の危険を低減し、骨塩密度を高めることがわかっている。非特許文献4。この薬物は、2原子のストロンチウムと結合している1分子のラネル酸からなっている。ラネレート(ranelate)基は、胃腸管中で耐用性良好であるので担体として選択された。腸中で、ストロンチウムイオンは、ラネレート基から放出され、腸粘膜によるストロンチウムの吸収につながる。ストロンチウムは、吸収されると、骨組織に対して強力な親和性を示し、ヒドロキシアパタイトの最外水和層中に組み込まれるようになる。少量が骨結晶に溶け込み、ここで、カルシウム原子を上回るストロンチウムの割合は、1:10を超えず、その結果、結晶の形成も物理化学的特性もストロンチウムの存在によって変更されない。ラネル酸ストロンチウムは、骨形成を骨吸収から切り離すための第1の医薬であると示唆されている。In vitroでは、ラネル酸ストロンチウムは、コラーゲンおよび非コラーゲンタンパク質合成を増大させ、前骨芽細胞分化を増強し、破骨細胞分化を阻害し、破骨細胞機能を低下させ、破骨細胞アポトーシスを増大させる。動物モデルでは、骨密度の増大は、生体力学的骨強度の増大と密接に相関している。ラットモデルでは、ラネル酸ストロンチウムは、骨量を増大させ、微小構造および骨の形状を改善し、骨の抵抗力の増大をもたらす。卵巣切除したラット(骨粗しょう症のモデル)では、ラネル酸ストロンチウムは、骨吸収を低下させるが、高い骨形成は維持する。骨強度の決定要因はすべて、ラネル酸ストロンチウム処理によって正に影響を受ける(骨量、寸法、微小構造および内因的な骨組織品質)。骨の機械的特性の増大は、最大負荷の増大のみならず、本質的に塑性エネルギーの増大による、不具合へのエネルギーの劇的な改善をも特徴とする。非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7。ストロンチウムの作用様式は、十分には理解されていないが、骨形成の増大は、1,25(OH)2ビタミンDの循環レベルの変化または副甲状腺ホルモン効果の変化と関連していないと考えられている。ストロンチウムは、多数の閉経後の女性において、すべての部位で抗骨折効力を示した。非特許文献8。
【0008】
ストロンチウム含有骨セメントの形のストロンチウムの局所的な適用も、その他の研究者によって調べられている。非特許文献9;非特許文献10。非再吸収性Sr−HA骨セメントは、主に、ストロンチウム含有ヒドロキシアパタイト(Sr−HA)充填剤およびビスフェノールAジグリシジルエーテルジメタクリレート(BIS−GMA)樹脂からなっていた。この材料は、注射によって送達でき、PMMAよりも良好な物理的/機械的特性を有するので椎体形成術のために使用できると提案された。ストロンチウム含有ヒドロキシアパタイト(Sr−HA)骨セメントは、in vitroおよびin vivoの両方で生物活性であると実証された。In−vitroでは、細胞接着(SaOS−2)および骨ミネラル化にとって、非ドープヒドロキシアパタイト(hydroxypatite)(HA)骨セメントよりも有効であると思われた。In−vivoでは、Sr−HA骨セメントは、自然骨と結合した。
【0009】
両方とも参照により組み込まれる、米国特許第5,736,132号および同5,549,904号では、トランスグルタミナーゼ補充接着性組織接着剤は、約7.0〜約8.5のpHで、約0.5mM〜約100mMの範囲の量のカルシウムおよびストロンチウムなどの二価の金属イオンを含むことが好ましいと言われている。トランスグルタミナーゼ補充接着剤は、関節骨折、軟骨欠損、表面の軟骨欠損、全層欠損、離断性骨軟骨炎、半月板断裂、靱帯裂傷、腱の断裂、筋障害、筋腱間接合部障害、軟骨組織移植、骨移植、靭帯移植、腱移植、軟骨移植、軟骨骨移植、植皮固定および血管、代用血管の補修および微小血管血管吻合における組織の治療において使用してよいと主張されている。これらの特許の第一の焦点は、接着剤へのトランスグルタミナーゼの組み込みである。
【0010】
対照的に、本発明は、トランスグルタミナーゼを組み込まず、ストロンチウムの局所送達のための、また新規骨の形成を補助するための骨の欠損または空隙中への注射を企図する。文献データによって、元素ストロンチウムは、骨吸収を阻害しながら同時に骨形成を刺激できることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Parikh SN.2002年;J.Postgrad.Med.48:142−148頁
【非特許文献2】Dahlら、Bone;28(4)446〜453頁
【非特許文献3】Ferraroら、1983;Calcif Tissue Int.35:258−60
【非特許文献4】Meunier PJら、2004;N Engl J Med.350(5):459−68
【非特許文献5】Kendler、2006;Curr.Osteopor.Rep.4(1):34−9
【非特許文献6】Marie、2006;Curr.Opin.Rheum.18Suppll:S11−5
【非特許文献7】Ammann、2006、Bone.38(2付録1):15−8
【非特許文献8】Closeら、2006;Expert Opin Pharmacother7(12):1603−15
【非特許文献9】Wong,Chi−Tak、2004、「Osteoconduction and osseointegration of a strontium−containing hydroxyapatite bioactive bone cement:in vitro and in vivo investigations. Publisher: University of Hong Kong」(Pokfulam Road、Hong Kong)
【非特許文献10】Zhaoら、2004;J Biomed Mater Res B Appl Biomater.69(1):79−86
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、新規骨の形成を補助するために、骨の欠損もしくは空隙中、または骨梁組織の髄腔中(ここで、一時的に骨髄と置き換わる)に注射できる組成物を提供する。データによって、元素ストロンチウムは、同時に、骨吸収を阻害しながら、骨形成を刺激することができることが示されている。
一態様では、本発明は、骨治癒および骨成長において使用するための組成物を提供し、ここで、組成物は、フィブリン、トロンビンおよびストロンチウム含有化合物を含む。本組成物は、カルシウム含有化合物をさらに含んでなり得る。組成物は、注射用ゲル、注射用パテ、注射用ペーストまたは注射用液体形態の形態である注射用組成物であることが好ましい。
【0013】
その他の実施形態では、組成物は、1種以上の可塑剤を含んでなり得る。特定の実施形態では、可塑剤は、ヨード含有化合物である。本明細書において可塑剤として使用するための例示的ヨード含有化合物として、ジアトリゾ酸、イオデコール、イオジキサノール、イオフラトール、イオグラミド、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドおよびそれらの混合物および多価アルコールからなる群から選択される化合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。その他の実施形態では、可塑剤は、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセロールまたは単糖、二糖、三糖、多糖からなる群から選択される糖およびそれらの組み合わせである。その他の実施形態では、可塑化効果は、とりわけ、塩化ナトリウムおよびカオトロピック剤などの低分子量化合物の組成物の調整によって達成される。
【0014】
本組成物は、ゲルまたは液体形態であり得る。特定の態様では、本組成物は、ゲル化相に先立って、またはその間に、液体またはゲルとして送達されてもよく、または予め形成されたゲルとして組織欠損中に送達されてもよい。
【0015】
本発明のその他の態様では、組成物は、フィブロネクチンなどのマトリックスタンパク質、細胞結合性タンパク質または血液凝固因子XIIIおよびプロテアーゼなどの血漿由来タンパク質からなる群から選択される1種以上の細胞外タンパク質を含む。
【0016】
さらにその他の実施形態では、組成物は、プロタミン、ヘビ毒、トランスグルタミナーゼ、FXIIaまたは生理学的に許容されるアルカリバッファー系などの凝固誘導物質をさらに含んでなり得る。
【0017】
特定の実施形態では、本組成物は、治癒過程の間に、再吸収され、組織と置換されるようなものである。
【0018】
本発明の組成物に用いられるストロンチウム含有化合物は、塩化ストロンチウム、ラネル酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ストロンチウムアパタイト、ピルビン酸ストロンチウム、ストロンチウムα−ケトグルタル酸およびコハク酸ストロンチウムからなる群から選択されるものであり得る。これらは、単に例示的ストロンチウム含有化合物であり、ストロンチウムを含むその他の化合物を、本発明の組成物に容易に用いることができる。
【0019】
組成物は、群カルシウム擬態薬、オステオカルシン、L−アルギニンなどのアミノ酸およびアルギノミメティクス(arginomimetics)およびアルギニン類似体からなる群から選択されるストロンチウムコリガンドをさらに含むものであり得る。
【0020】
本明細書に記載される組成物では、ストロンチウム含有化合物および/またはカルシウム含有化合物は、(微)粒子または固体形態であり得る。例示的実施形態では、ストロンチウム含有またはカルシウム含有(微)粒子形態は、100ナノメートル〜500μmの範囲の粒径の大きさを有する。その他の実施形態では、ストロンチウム含有またはカルシウム含有成分は、例えば、0.5〜50ミリメートルの範囲の寸法を有する多孔性または非多孔性固体の形態をとり得る。粒径は、0.5〜5ミリメートルの範囲にあることが好ましい。
【0021】
特定の実施形態では、カルシウム含有化合物は、リン酸カルシウムである。リン酸カルシウムは、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0022】
特定の実施形態では、カルシウムの一部がストロンチウムで置換され、カルシウムおよびストロンチウム塩の混合物を提供することが企図される。
【0023】
特定の実施形態では、カルシウム塩に対するストロンチウム塩の割合すなわちパーセンテージは、.25%〜100%の範囲である。特定の実施形態では、本発明の組成物は、骨形態形成タンパク質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ビスホスホネート、上皮成長因子、インスリン様増殖因子およびTGF成長因子からなる群から選択されるタンパク質またはタンパク質の組み合わせをさらに含んでなり得る。骨成長促進または骨増強効果を有する任意のタンパク質を使用してよい。さらにその他の実施形態では、ストロンチウム含有化合物は、ストロンチウムを生物活性ガラスに加え、ストロンチウム含有生物活性ガラス物質を製造することによって作製する。
【0024】
特定のその他の実施形態では、本組成物は、組成物のゲル化が、種々の成分の混合時に起こるものである。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、生存被験体において、前記被験体の海綿骨に、本発明のストロンチウム含有組成物を含む組成物を注入することによって、罹患骨、傷害を受けた骨または欠損した骨を治療することを含む。被験体の海綿骨への、このような組成物の注入は、ストロンチウムを含まない同様の組成物の適用で観察されたものより速い速度の治癒をもたらす点で有利である。
【0026】
また、本明細書において、
(a)骨またはその一部を機械的に固定するステップ、および(b)欠損を、前記欠損の修復と因果関係のある量の本発明の組成物で埋めるステップを含む、欠損を有する骨を修復する方法も考慮される。例示的実施形態では、欠損は、骨折であり、前記修復は、前記骨折の骨治癒である。本発明の特定の態様では、前記組成物の適用は、前記組成物の適用の不在下で観察されるものよりも速い治癒速度を引き起こす。前記組成物の適用は、ストロンチウムを含有しない同様の組成物の適用で観察されるものよりも速い治癒速度を引き起こすことが好ましい。
【0027】
また、前記欠損部位を本発明の組成物と接触させるステップを含む、骨欠損の部位で新規骨成長を促進する方法も考慮される。前記組成物中のストロンチウムの存在下では、ストロンチウムを含有しない同様の組成物の存在下で見られる骨成長と比較して、前記骨成長速度がより速いことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ストロンチウムを含有する血餅上で増殖させたヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2)の細胞増殖を示す図である。用いられる記号は、Ca/Srである。引用符で囲まれた値は、最終血餅中の濃度である。最終血餅中のこれらの濃度を達成するために、バッファー中の濃度は倍になっている。
【図2】ストロンチウムを含有する血餅上で増殖させた、ヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2)のDNAアッセイを示す図である。用いられる記号は、Ca/Srである。引用符で囲まれた値は、バッファー中の濃度である。この値は最終血餅中では半分になる。
【図3】ストロンチウムを含有する血餅上で増殖させたヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2)の30分にわたるアルカリホスファターゼ生成を示す図である。引用符で囲まれた値は、最終血餅中の濃度である。これを達成するために、バッファー中の濃度は倍になっている。
【図4】トロンビンバッファーが、カルシウム、カルシウム/ストロンチウム混合物またはストロンチウム単独のいずれかからなる場合の血餅の比濁法分析を示す図である。用いられる記号は、Ca/Srである。引用符で囲まれた値は、バッファー中の濃度である。この値は最終血餅中では半分になる。
【図5】12.5mM SrまたはCaを含有する培地で増殖させた血餅の生存パーセンテージ(MTS増殖アッセイによって測定されるような)を示す図である。
【図6】フィブリン血餅およびストロンチウム粒子を含有するフィブリン血餅上で培養されたNHOst細胞の染色を示す図である。フィブリン血餅上(上部パネル)またはストロンチウム粒子を含有するフィブリン血餅上(下部パネル)で14日間培養されたNHOst細胞の生存(左パネル)死滅(右パネル)染色。
【図7】NHOst細胞とともに培養されたフィブリン血餅の横断図を示す図である。細胞染色緑色(生存)および赤色(死滅)。上部フィブリン血餅。下部粒子を含有するフィブリン血餅。
【図8】完全に閉じられたドリルホール(両側が閉じられている)のグラフ表示を示す図である。
【図9】物質中フィブリンの存在下での、ウサギ大腿骨顆部のμCTを示す図である。
【図10】骨形成のグラフ表示を示す図である(評価:1:低;2:中程度;3:高骨形成)。
【図11】80%Sr物質を含むウサギ大腿骨顆部のμCTを示す図である。
【図12】フィブリンで治療されたウサギ大腿骨顆部欠損の組織学的染色薄片を示す図である。
【図13】フィブリン血餅中Sr80%で治療されたウサギ大腿骨顆部欠損の組織学的染色薄片を示す図である。
【図14】PTHの生物活性に対するSrCl2の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、骨治癒および骨再生において使用するための、トロンビン、フィブリン組成物および/または不溶性または可溶性型のストロンチウムおよび/またはストロンチウムおよび/またはフィブリン可塑剤を含む場合も、含まない場合もある無機粒子に関する。トロンビンまたは無機粒子含量のいずれかの量を変更することによって、適用または標的組織が決定するようにゲル化期間を制御することが可能となる。フィブリン可塑剤または修飾剤を用いて、製剤の機械的特性を増強すること、または凝固時間をさらに遅延することができる。可塑剤の例として、ヨウ素含有造影剤、例えば、ジアトリゾ酸、イオデコール(iodecol)、イオジキサノール、イオフラトール(iofratol)、イオグラミド(iogulamide)、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール(iotrol)、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドおよびそれらの混合物および多価アルコールが挙げられる。
【0030】
本組成物は、最小に侵襲的な技術を用いて、ゲル化相に先立って、またはその間に、液体として送達されてもよく、または予め形成されたゲルとして組織欠損中に送達されてもよい。本製剤は、治癒過程の間に、再吸収され、組織と置換されることが企図される。
【0031】
フィブリノゲン溶液は、5〜200mg/mlの範囲の、好ましくは、範囲50〜100mg/mlにあるフィブリノゲンを含む水溶液である。フィブリノゲン溶液はまた、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、細胞結合性タンパク質、その他の血漿由来タンパク質[例えば、血液凝固因子XIIIおよびプロテアーゼ]を含み得る。 フィブリノゲン溶液はまた、フィブリン単量体、誘導体およびフィブリンIを含み得る。
トロンビン成分は、当技術分野で公知のさらなる化合物ならびにストロンチウム化合物をさらに含んでなり得る。用いられるトロンビンの量に関して具体的な制限はない。本発明の一実施例では、前記トロンビン成分(b)中のトロンビンの量は、最終の凝固組成物中で、少なくとも約1IU/ml、最大30IU/mlの量であるようなものである。
【0032】
トロンビンの代わりに、またはトロンビンに加えて、本発明は、成分(a)のためのその他のゲル化誘導または凝固誘導剤、例えば、プロタミン、ヘビ毒、トランスグルタミナーゼ、FXIIa、生理学的に許容されるアルカリバッファー系。
【0033】
トロンビンバッファーは、その他の物質の中でも、二価のカチオンを含有する水溶液である。バッファー中の二価のカチオンの濃度は、5〜50mMの範囲であり得る。二価のカチオンは、群カルシウムおよびストロンチウムから選択されることが好ましく、比は、0:1〜0.975:0.025であり得る。二価のストロンチウムイオンは、塩化ストロンチウムまたは任意のその他の水溶性ストロンチウム塩、例えば、ラネル酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、ピルビン酸ストロンチウム、ストロンチウムα−ケトグルタル酸またはコハク酸ストロンチウムの形で加えることができる。トロンビンバッファーはまた、ストロンチウムの新規に同定された分子標的(G−タンパク質共役受容体またはカルシウム感知受容体、Piら、J.Biol.Chem.2005)のためのコリガンドも含み得る。コリガンドは、群カルシウム擬態薬、オステオカルシンおよびアミノ酸から選択される。L−アルギニン、アルギノミメティクス(arginomimetics)またはアルギニン類似体が好ましい。ストロンチウム含有トロンビンバッファーはまた、ストロンチウム含有無機粒子と併用してもよい
粒子成分は、ナノ〜3000μm未満の範囲の粒径直径を有し、適用時には不溶性でなくてはならない。粒径は、100ナノメートル〜50ミリメートルの間が好ましく、0.5mm〜50mmの間がより好ましい。粒子は、適用時に不溶性である任意のストロンチウムのキレートまたは同様に適用時に不溶性であるストロンチウム置換カルシウム塩であり得る。置換のためのカルシウム塩は、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。粒子のカルシウムのストロンチウム置換は、0.25〜100%の範囲であり得る。最終ゲルを得るために混合することは、温度18〜37℃の範囲にわたって、好ましくは、37℃で達成できる。
【0034】
フィブリノゲン溶液は、5〜200mg/mlの範囲の、好ましくは、50〜100mg/mlの範囲のフィブリノゲンを含む水溶液である。フィブリノゲン溶液はまた、フィブリン単量体、誘導体およびフィブリンIを含み得る。フィブリノゲン溶液はまた、細胞外マトリックスタンパク質、例えば、フィブロネクチン、細胞結合性タンパク質およびその他の血漿由来タンパク質、例えば、血液凝固因子XIII(FXIII)およびプロテアーゼも含み得る。
【0035】
トロンビン溶液は、最終凝固(ゲル化)組成物において0.1IU/mlの最小最終濃度を有する水溶液である。この溶液はまた、緩衝され、アミノ酸、タンパク質または添加剤(例えば、L−アルギニン、マンニトールおよびアルブミン)を含み得る。
【0036】
トロンビンバッファーは、その他の物質の中でも、二価のカチオンを含有する水溶液である。バッファー中の二価のカチオンの濃度は、5〜50mMの範囲であり得る。二価のカチオンは、群カルシウムおよびストロンチウムならびに分子比(1:0〜0.975:0.025のカルシウム対ストロンチウムであり得る)から選択されることが好ましい。
【0037】
粒子は、投与時に不溶性である任意のストロンチウムのキレートまたは同様に適用時に不溶性であるストロンチウム置換カルシウム塩であり得る。置換のためのカルシウム塩は、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせであり得る。粒子のストロンチウム置換は、置換された粒子の割合として0.25〜100%の範囲であり得る。
【0038】
組成物中の粒子含量は、凝固可能タンパク質の2〜100%、好ましくは、30〜50%(重量/容積)の範囲である。粒子成分は、適用が求めるように、サブミクロン〜3000μm未満の範囲の粒径直径を有する。最終ゲルを得るための均質化は、温度18〜37℃の範囲にわたって、好ましくは、37℃で達成できる。
【0039】
骨修復を補助するための本発明の組成物の効力は、生物活性分子を組み込むことによってさらに改良できる。これらは、マトリックスと化学的に結合させてもよいし、粒子成分上に吸着されてもよく、または遊離分子として、もしくは薬物粉末のいずれかとして、フィブリンマトリックス中に捕捉されてもよい。これらの分子を用いて、骨代謝を刺激できる(同化作用およびまたは異化作用)。同定されている適切な分子として、骨形態形成タンパク質(BMP)、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ビスホスホネート、上皮成長因子、インスリン様増殖因子およびTGFスーパーファミリー増殖因子が挙げられる。適した分子はまた、骨同化作用/異化作用周期と関連していないが、骨修復/リモデリングと並行して起こる生理学的過程と関連しているその他の因子を含んでもよく、例えば、血管新生刺激因子(血管内皮増殖因子(VEGF)および血小板由来増殖因子[PDGF]も組み込んでもよい。これは、ストロンチウムの作用様式として特に注目され、タンパク同化剤1,25(OH)2ビタミンDおよび副甲状腺と区別されると考えられる。
【0040】
可塑剤はまた、フィブリンまたはトロンビンと混合して、製剤の機械的特性を増強することができ、または凝固時間をさらに遅延することができる。可塑剤の例は、水溶性ヨウ素含有造影剤、ポリエチレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール、単糖、二糖、三糖および多糖ならびに任意のそれらの組み合わせからなる群から選択される。適したヨウ素含有造影剤は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願番号US20050119746(LidgrenおよびNilson、2004)に詳述されており、その例として、ジアトリゾ酸(メグルミン)、イオデコール(iodecol)、イオジキサノール、イオフラトール(iofratol)、イオグラミド(iogulamide)、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール(iotrol)、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドがある。造影剤は、非イオン性で、低浸透圧を有し、フィブリン集合が生じるのを可能にし、例えば、イオジキサノールが好ましい。
【0041】
本発明の組成物は、有用な骨治癒法において、このような方法で使用するためのキットにおいて使用してよい。組成物は、骨成長を促進するために、または特に、長骨における治癒のために使用してよいということが企図される。具体的には、本発明は、トロンビン、フィブリンおよびストロンチウムを含む骨修復組成物に関する。組成物中のストロンチウムの存在は、ストロンチウムを含まないような組成物と比較して、骨治癒およびまたは骨生成の増強につながる。
【0042】
本発明の組成物を、長骨、例えば、大腿骨、脛骨、上腕骨、橈尺骨などの修復および再生に使用してよい。
【0043】
本発明の組成物を用いることで、欠損を有する骨に、機械的、構築的および構造的能力を回復させるかまたは部分的に回復させ、一方で、骨治癒および再生を支配する生物学的過程の適当な基質として役立ち得る構造的表面積を提供することが可能となる。
【0044】
実施例において示されるように、本発明の組成物は、骨修復に関与する、細胞性および生物学的過程を加速する。
【0045】
本明細書において以下に用いられる場合、語句「長骨」とは、直径よりも少なくとも2倍長い長さを有する骨を指す。通常、語句「長骨」とは、四肢の骨、すなわち、脛骨、腓骨、大腿骨、上腕骨、橈尺骨、手根骨、中手骨、指節骨、足根骨および中足骨を指す。より具体的には、語句「長骨」とは、本明細書において用いる場合、四肢の4種の主要な骨、すなわち、脛骨、大腿骨、上腕骨および橈骨を指す。
【0046】
本発明の組成物の使用によって治療され得る「骨欠損」は、骨中の任意の異常、例えば、空隙、空洞、立体構造的不連続、骨折または傷害、骨切断、手術、骨折、奇形の治癒、癒着不能骨折、骨格奇形、加齢もしくは疾患によって生じた任意の構造の変化であり得るが、これらに限定されるわけではない。本発明の組成物は、大きな治療可能性を提供する。海綿骨が、例えば、骨粗しょう症、無腐性壊死または癌のために病気になると、周囲の皮質骨は、より圧迫骨折または圧潰しやすくなる。これは、海綿骨がもはや、周囲の皮質骨に内部の支持体を提供しないためである。本発明の組成物は、骨粗しょう症、骨壊死または無腐性壊死ならびに罹患骨、不十分にしか治癒していない骨または重篤な外傷によって骨折した骨を含むその他の骨疾患などの状態における骨の強化において使用できる。
【0047】
本発明の別の態様は、欠損を有する骨を修復するためのキットを提供する。本キットは、骨またはその一部を固定するための機械的に固定する装置および本発明の組成物を含む。固定装置の例として、これらに限定されるわけではないが、フランジ、ロッド、バー、ワイヤ、ステープル、スクリュー、縫合ならびに種々のギプス、スリーブなどが挙げられ、これらは通常、外部の固定装置である。したがって、本発明のキットは、外部の機械的に固定する装置を含むことが好ましい。
【0048】
本発明の別の態様では、骨欠損、例えば、骨折、空洞空隙などを治療する方法が提供され、それらを本発明の組成物と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、欠損を本発明の組成物と接触させるステップの前または後に、骨またはその一部を機械的に固定することを含み得る。
【0049】
本発明の組成物は、骨性(骨)欠損もしくは空隙中に、または骨梁組織の髄腔中(ここで、組成物が一時的に骨髄と置き換わる)に送達される注射用組成物として、および/または新規骨の形成における補助として使用され得ることが有利である。本組成物は、当業者に周知の技術を用いて、骨梁組織または任意のその他の骨組織中に注入してもよい。例示的なこのような技術およびこのような技術を実施するための装置はとりわけ、例えば、米国特許公開番号第20080065091号、同20080058828号、同20070073307号、米国特許第4,969,888号および同5,108,404号において論じられている(これらの特許文書の各々は、参照により本明細書に組み込まれる)。通常、組成物を骨に注入するために、家庭用コーキングゴムと類似の注入装置が用いられる。通常の骨セメント注入装置は、ピストル型の本体を有し、これが、骨セメントを含有するカートリッジを支持する。引き金が、ばねで留められたラムを作動させ、これが、一回分の容積の粘性状態の骨セメントを、適切なノズルを通して、治療の標的とされる骨の内部中に押し込む。米国特許第4,969,888号および同5,108,404号の教示によれば、空洞はまず、骨の内側の海綿骨をぎっしり詰めることによって形成され得、この中に骨セメントが注入される。
【0050】
本発明の注射用組成物にSrを組み込むことの追加利点は、放射性乳白剤としてのストロンチウムの既知特性による蛍光透視などの技術を用いて、送達および治癒過程がモニターされることを可能にすることである。そのようなものとして、本発明の組成物におけるSrの使用は、単に、画像化機能だけではなく、治療機能と診断機能の両方を提供する。
【0051】
本発明の組成物は、注射用ゲル、注射用ペースト、ペースト、パテの形、または再水和可能な凍結乾燥形で使用してよい。本明細書において用いる場合、用語「ゲル」とは、ゼリー状の、粘度の高い、柔らかい、部分的に液体の物質を指す。本発明のゲルは、13ゲージのシリンジニードルを通して押し出すことができる。本出願において使用する場合「ペースト」とは、液体と固体の間の稠度を有する、柔らかい、湿性の物質を指す。本発明のペーストは、パテほど固体ではなく、ゲルよりは固体であり、いくつかの実施形態では、注射可能であり得る。
【0052】
用語「パテ」とは、本発明の練り粉様/粘土様組織修復組成物を指す。この物質は、適用時に、撹拌し、または練って、前記稠度の練り粉とし、埋め込み部位のものに密接に近似する形に成型してもよい。
【0053】
「注射用」とは、本発明の、圧力(シリンジを用いる導入によるような)下で埋め込み部位に導入される能力を指す。本発明の注射用組成物は、例えば、in vivoで要素の間に、または限定空間(すなわち、とりわけ骨片の間または人工補装具と骨の間の界面中)に導入してもよい。
【0054】
「シリンジ」とは、本発明の流動性組織修復組成物、例えば、中でも特定のゲルおよびペーストを注入または引き抜くために使用してよい任意の装置を指す。
【0055】
本組成物は、被験体の皮質骨または海綿骨中に注入される(被験体は、ヒト、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ被験体であることが好ましい)。本出願において使用する場合「皮質骨」とは、髄腔を囲む骨の骨幹部の緻密骨を指す。皮質骨は、膠原線維の三重らせんからなる高密度構造であり、ヒドロキシアパタイトで強化されている。皮質骨は、化合物構造であり、ヒト身体の長骨の主耐荷重成分である。ヒドロキシアパタイト成分は、骨の高圧縮強度に関与し、一方で、膠原線維成分は、ねじれ力および張力の一部に貢献している。本発明の組成物は、このような骨の一部に導入し、有益な骨治癒または骨増強効果を付与してもよい。
【0056】
骨梁は、皮質骨と同様の組成物のものであり、「海綿骨」の主な構造成分であり、成体長骨の骨幹部の層板骨とは異なって組織された、ミネラル化された規則どおりに並んだ平行な膠原線維からなる成体骨を指す。海綿骨は、通常、皮質骨によって囲まれた長骨の末端に見られる。海綿骨は、格子を形成する骨片を有し、間隙は骨髄で埋まっている。骨梁または海綿骨(spongy bone)と呼ばれることもある。好ましい実施形態では、本発明の組成物は、骨梁中に送達される。
【0057】
本発明の骨を固定する方法はまた、骨固定または本発明の組成物との接触に先立って、欠損を再形成するステップを含み得る。このような再形成または骨再調整は、例えば、ドリルまたはグラインダーまたは欠損を再形成するのに利用可能な任意のその他の装置を用いて実施してもよい。
【0058】
骨を固定化するために用いられる装置は、修復されるべき欠損の種類ならびに骨の種類および配置に応じて変わる。通常、固定装置は、外部固定装置である。例えば、ギプスなどの外部固定装置が好ましく、本発明の組成物の注入に伴って本発明の方法において利用される唯一の固定装置である。しかし、いくつかの状況では、より侵襲的外科処置を使用することが必要となる可能性があり、内部固定装置を用いることを同様に利用してよい。
【0059】
修復はモニターすることができ、やがて、骨を固定するために用いられる装置は除去できる。欠損の部位での骨再生は、手術直後および手術後所与の時間間隔でとられた軟組織X線(7.5mA;0.5秒)によって評価できる。試験動物における骨再生はまた、全般的な形態を評価すること、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン(65〜80kV;20秒)および三次元(3−D)CTスキャン(Marconi、M.times.8,000)によって、試験の終了時に調べることができる。組織学的研究を実施して、組織の骨染色を調べることができる。
【0060】
本発明の方法では、組成物はまた、骨修復において使用できる細胞、例えば、骨細胞前駆細胞などと組み合わせることができる。当技術分野では周知である骨細胞前駆細胞として、骨形成細胞を特徴とする、骨髄間質細胞の造骨性亜集団が挙げられる。本発明の方法によって利用される骨細胞前駆細胞として、造骨性骨形成細胞自体および/または骨細胞前駆細胞を形成する胚性幹細胞を挙げることができる。骨細胞前駆細胞は、公知の手順を用いて単離できる。このような細胞は、自己記述的供給源のものであることが好ましく、例えば、ヒト胚性幹細胞、マウスまたはヒト骨細胞前駆細胞、マウスまたはヒト骨細胞前駆骨髄由来細胞、マウスまたはヒト骨細胞前駆胚由来細胞およびマウスまたはヒト胚細胞が挙げられる。これらの細胞はさらに、本明細書において上記で定義される、RobinsonおよびNevo(2001)によって記載されるように、増殖因子を分泌する細胞として働き得る。
【0061】
本発明の組成物はまた、種々の活性治療薬をさらに含んでもよく、その例として、骨成長促進剤、骨細胞前駆細胞またはそれらの組み合わせが挙げられる。組成物はまた、少なくとも1種の薬剤、例えば、ビタミン、抗生物質、抗炎症薬などを含み得る。
【0062】
特定の好ましい実施形態では、ストロンチウム置換カルシウム化合物を調製するために、ストロンチウムが、当業者に公知の技術を用いてカルシウム含有塩に組み込まれる。さらに、ストロンチウムは、従来組織修復において使用される生物活性ガラス組み込んでもよい。「生物活性ガラス」とは、生物活性の特徴を示す任意のガラスであり、内因的に接着性ではなく、通常は、適切なin vivoまたは擬似体液やtris−ヒドロキシメチルアミノメタンバッファーなどのin vitro環境で曝露されると、硬組織および軟組織の両方と接着性結合を形成できる非晶質固体である。接着性結合は、バルクバイオガラス材料からのイオン種の放出によって生物活性ガラス上にヒドロキシ炭酸アパタイトの表層を作成することによって達成される。手術および整形外科的処置、ならびに口腔外科の分野では、生物活性ガラスの多数の応用があり、例えば、欧州特許第1405647号および欧州特許出願第1655042号に、ならびに国際出願WO96/21628、WO91/17777、WO91/12032および米国特許公開番号第20080066495号(各々、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【実施例】
【0063】
本発明の一実施形態では、ストロンチウム含有化合物は、トロンビン希釈バッファー中の二価のイオンとして用いられる。トロンビン溶液は、希釈バッファーを用いて調製する。フィブリノゲン溶液およびストロンチウム含有トロンビン溶液を混合して、ゲルを形成する。
【0064】
本発明のもう1つの実施形態では、製剤にストロンチウム含有化合物を塩粒子として加える。トロンビン溶液および粒子を混合して改変トロンビン溶液を調製する。フィブリノゲン溶液および改変トロンビン溶液を混合してゲルを形成する。
実施例I:バッファー溶液に溶解したストロンチウム含有化合物。
【0065】
一連のバッファーは、再蒸留水で調製した。これらのバッファーについては、トロンビンバッファー中の二価のカチオンは、Caまたはカチオン濃度が40mMで一定に維持されるようなCa+Sr混合物(塩化ストロンチウムについての以下の表参照のこと)。トロンビンを、トロンビンバッファー中、4IUの濃度に希釈した。
【0066】
【化1】
次いで、フィブリノゲンを、トロンビンと1:1の割合で混合した(従って、ゲル化血餅中のストロンチウム濃度は半分となる)。このために、2mlのトロンビン溶液を、5mlのシリンジに移してもよい。2mlのフィブリノゲン(Tisseel、Baxter、凝固可能タンパク質、[フィブリノゲンおよびフィブロネクチン]72〜110mg/ml)を、別個の5mlのシリンジに移した。フィブリノゲンおよびトロンビンを含有するこのシリンジを、組み合わせることを目的として、任意の最新式ミキサーと接続してもよい。
【0067】
in−vitro実験のためには、150μlのフィブリノゲン溶液を、24ウェルプレートのウェルにピペットで加えることによって血餅を調製した。このプレートをプレートシェーカー上に置き、ウェル底中へ確実に均一に分配させた。次いで、ウェルに150μlのトロンビン溶液を加え、プレートをプレートシェーカー上に置き、確実に均質な血餅とした。ヒト骨芽細胞様細胞株(SaoS−2)を、血餅上で最大7日間培養して、細胞増殖/細胞分化において何らかの相違が観察され得るかどうかを確かめた。図1は、トロンビン希釈バッファーに塩化ストロンチウム(SrC12)が加えられた場合の増殖の結果(アラマーブルー)を示す。同様の結果は、酢酸ストロンチウム(SrAc)についても利用可能である。
【0068】
アラマーブルーアッセイは、代謝性アッセイであり、増殖を測定するために用いられることが多い。ストロンチウムの添加は、20mM CaCl2を含む正常血餅と比較した場合に、これらの血餅上での増殖の大幅な増大をもたらした。同様の結果はまた、DNA染色を用いて増殖を定量した場合にも観察された(図2)。7日後、カルシウムストロンチウム混合物またはカルシウムのみを含有する血餅上で増殖させた細胞間に明確な相違を観察することができた。したがって、本発明者らは、ストロンチウムは、骨芽細胞様SaOS−2細胞の増殖に対して正の効果を有すると結論付けた。
【0069】
これらの最初の実験は、細胞増殖における相違を調べるよう設計され、骨芽細胞分化を調査するための十分な時間を提供しなかった。酵素アルカリホスファターゼは、分化の初期指標であるが、レベルは、実際には約10〜14日までピークに達しない。予備結果は、ストロンチウムを含有する血餅におけるアルカリホスファターゼ発現の増加を示している(図3)。酢酸ストロンチウムの場合には、これらの値は、重要ではないと思われる。これらの実験は、14日の調査期間で反復されている。
【0070】
細胞研究観察に加え、比濁法(turbidmetric)分析を実施し、血餅構造がストロンチウムの結果として変更されたかどうかを調べた(図4)。血餅濁度は、線維の平均断面積に直接比例しており、従って、血餅が濁るほど、線維直径は増大した。
【0071】
図4中の比濁法データは、カルシウム含有血餅との比較において、ストロンチウム含有血餅の動力学および吸光度が極めて小さな相違しか示さないことを示す。これは、カルシウムとストロンチウムは、同様の結合部位、特に、FXIII結合部位を占めることができるという観察結果によって説明することができる。
【0072】
最初の実験については、細胞を、血餅の表面に播種した。この播種法を選択した理由の1つは、いくつかの細胞種は血餅内に播種されると、細胞死が大量に生じ、細胞は血餅の表面に移動を行うということである。この効果についての可能性のある説明は、骨芽細胞様細胞がCaCl2を補給された培地中で培養される場合に説明され得る。図5は、12.5mMのCaCl2の存在下、組織培養プラスチック上でのSaOS−2細胞培養の結果を示す。細胞死(MTSアッセイによって測定されるような)は、塩化カルシウムの存在下で培養された細胞について生じる。これは、細胞培養の最初の24時間内に起こる。それに反して、ストロンチウム含有化合物の存在下で培養された細胞の増殖においてはわずかな減少しかない。いくつかの細胞、すなわち、線維芽細胞およびケラチノサイトが高カルシウムを必要とすること、従って、血餅のカルシウム濃度によって影響を受けないことを指摘することは重要である。
実施例2:フィブリン/ストロンチウムドープ−リン酸カルシウムナノ粒子
トロンビンを、トロンビンバッファーで4IUの濃度に希釈した。フィブリノゲンを、トロンビンと1:1の割合で混合した。このために、2mlのトロンビン溶液を、5mlのシリンジに移してもよい。2mlのフィブリノゲン(Tisseel、Baxter、凝固可能タンパク質、[フィブリノゲンおよびフィブロネクチン]72−110mg/ml)を、別個の5mlのシリンジに移した。粒子(1μm未満のナノ粒子)を、最終血餅容積のパーセンテージ重量(w/v)として組み込む。これらは、秤量し、別の5mlのシリンジに入れる。
【0073】
粒子およびトロンビンを含有するシリンジを、ルアーアダプターを介して接続し、シリンジからシリンジへ内容物を移すことによってトロンビンおよび粒子を均質化する。トロンビン/粒子およびフィブリノゲンを含有するシリンジを、ルアーアダプターを介して接続し、内容物を均質化する。材料は、約30秒間液体のままであり、この時間の間に、欠損に注入できる。
【0074】
in−vitro実験のためには、24ウェルプレートのウェルに150μlのフィブリノゲン溶液をピペットで加えることによって血餅を調製する。粒子(1μm未満のナノ粒子)を、最終血餅容積のパーセンテージ重量(w/v)として加える。プレートをプレートシェーカー上に置き、ウェル底中へ確実に均一に分配させた。次いで、ウェルに150μlのトロンビン溶液を加え、プレートをプレートシェーカー上に置き、確実に均質な血餅とした。予備研究では、ヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2またはNHOst)を血餅上で最大14日間培養して、細胞増殖、細胞分化において何らかの相違が観察され得るかどうかを確かめた。
【0075】
粒子を含有する血餅上に播種された細胞の定性分析は、正常なフィブリン血餅と比較した場合に良好な生体適合性を示す(図6)。定量されていないが、粒子を含まないフィブリン血餅上の細胞は、形態がより丸みを帯びており、一方で、粒子を含有する血餅上のものはより広がっていると思われる。これのさらなる証拠は、血餅の横断図において見ることができる(図7)。これについては、細胞を、血餅中に播種した。数日後、フィブリン血餅中の細胞を、血餅の表面に移した。比較によって、血餅を含有する粒子中の細胞は血餅中のままであり、広がっており、好都合な形態を示した。
実施例3:ウサギ大腿骨顆部欠損モデルにおけるストロンチウムドープヒドロキシアパタイトの使用
上記の研究は、ストロンチウムは骨形成を刺激し、同時に、骨吸収を抑圧することを示唆する。先の研究は、骨芽細胞様細胞および一次骨芽細胞に対するSrC12の効果を調査した。脊椎増強において使用できる製剤を同定する試みの過程で、ストロンチウムでドープされた修飾されたヒドロキシルアパタイトをウサギ大腿骨顆部欠損モデルにおいて試験し、ストロンチウムの骨形成を刺激する可能性を評価した。カルシウムヒドロキシルアパタイトは、硝酸カルシウムおよびリン酸アンモニウムを高pH値(水酸化アンモニウムで調整した)で一緒に撹拌することによって実験台で製造できる。得られた沈殿を遠心分離、洗浄、乾燥およびか焼すると、ヒドロキシルアパタイト様物質が得られる。硝酸カルシウムを、硝酸ストロンチウムと、それぞれの置換パーセンテージで組み合わせることによって、骨欠損にフィブリンとともに一緒に注入できる、ストロンチウム−カルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子を製造することが可能である。
【0076】
この例は、ストロンチウム置換カルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子が、フィブリン単独または純粋なカルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子よりも良好に新規骨形成を刺激することを示すデータを示す。これらの結果は、予備細胞培養の際に得られたデータのin vivo確証を提供する。
【0077】
材料および方法:
本実施例において記載される研究では、以下の化学試薬を用いた。硝酸カルシウム四水和物;99% A.C.S.試薬[Sigma−Aldrich;237124−500G;FW:236,15];硝酸ストロンチウムp.A.>99%[Fluka;85899 500g;Lot&Filling Code:1086321、53706181;FW:211,63];リン酸アンモニウム二相性p.A.[Riedel−de Haen;30402 500g;FW:132,06];水酸化アンモニウム[Sigma−Aldrich、318612−2L;バッチ番号:11103PD;FW:35,05;H2O中、5N];EtOh96%;Fibrinkleber[Baxter AG;Fibrinkleber TIM 3;08P6004H;5ml;1500434];トロンビン[Baxter AG; B205553 thromb.SD TIM 5;500IE;US 5ml]; 塩化カルシウム二水和物(ミニム99%)[Sigma; C7902−1KG;バッチ番号:044K0160];および塩化ナトリウム[Merck、1.06404.1000 1kg;Charge/Lot:K38062004 745;FW:58,44.
実験は、以下のとおり種々の溶液を使用した:40mM CaCl2+200mM NaCl:250ml再蒸留水中、1.47g CaCl2+2.92g NaCl;凍結乾燥トロンビン−5ml 40mM CaCl2+200mM NaClで再構成および凍結乾燥フィブリノゲン−5mlの3000KIE/アプロチニン1mlに再構成。
【0078】
実験は、以下のとおりに各々6つのウサギの膝を含む4つの試験群で実施した:
群1.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)
群2.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)+100%Ca(0% Sr置換)
群3.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)+75% Ca(25% Sr置換)
群4.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)+20% Ca(80% Sr置換)。
【0079】
試験物質の調製:
フィブリノゲンは、再構成し、1mlシリンジ[Braun;omifix−1ml;Luer]にシリンジあたり0.5mlフィブリノゲンで分注した。トロンビンは、再構成し、40mM CaCl2+200mM NaClで16IU/mlに希釈した。これも、1mlシリンジに、シリンジあたり0.5mlを分注した。
【0080】
ヒドロキシルアパタイト粉末は、等容積の2M 硝酸カルシウム溶液(またはストロンチウム置換のパーセンテージに従って、硝酸ストロンチウム、得られた溶液は合わせて2Mを有さなくてはならない)および1.2Mリン酸アンモニウム溶液とともに撹拌することによって製造した。硝酸カルシウムにリン酸アンモニウム を添加すると、ペースト状物質が沈殿する。等容積の水酸化アンモニウムをその後添加すると、沈殿物のpHが11に上昇し、ペースト状沈殿物を液体にした。完全に撹拌した後、混合物を遠心分離し、上清を廃棄し、沈殿物をアルコール(エタノール96%)で2回、再蒸留水で1回洗浄した。洗浄ステップの間、沈殿物を常に浄化し、遠心分離し、上清は廃棄した。その後、沈殿物を真空下、60℃で1日間乾燥させ、製粉し、1100℃で1時間か焼した。
【0081】
冷却した後、ヒドロキシルアパタイト様粒子を熱で滅菌し、1mlシリンジに、シリンジあたり0.3gを分注した。
【0082】
ウサギの処理
12匹のウサギを用いて主な実験を実施した。それらを鎮静させ、大腿骨顆部にボアホール(直径4.5mm)をドリルで開けた。粒子を含むトロンビン成分を噴出させた後フィブリノゲンを、または対照としてフィブリノゲンを含むトロンビンのみを噴出させることによって、試験材料のうち1種を用いてこれらのドリルホールを各々埋めた。1mlシリンジの円錐体が、ドリルホールに完璧に適合し、そのために直接適用が可能であった。
【0083】
それぞれの材料を注入した後(24の膝について無作為化した)、皮膚を縫い、その後8週間、ウサギをモニターし続けた。
【0084】
術後分析
8週間後、ウサギを安楽死させることになり、膝をμCTによって分析し、薄片を組織学的に染色した。
【0085】
結果
μCT分析:ストロンチウムサンプルの高い乳白度のために、定量結果を得ることは困難であり、そのため分析は、μCT像を肉眼で評価し、それらを定量化することによって半定量的に実施した。骨形成の評価は、3つのレベル(1:低;2:中程度;3:高)で実施した。閉じられたドリルホールの評価は、閉じられたドリルホールには「+」を、閉じられていないドリルホールには「−」を与えることによって行った。データは、図8〜14中にグラフで示されている。μCT像はスナップショットであるのに対し、すべてのグラフは、評価可能な処理された動物の平均である。
【0086】
図8は、完全に閉じられた(両側が閉じられている)ドリルホールのグラフを示す。評価された、フィブリンで埋められたウサギ顆状突起欠損のうち、両側が閉じられたものはなく、したがって、ゼロパーセントの完全に閉じられたドリルホール境界が図8において見られる。粒子中25%Srの置換は、80%の閉じられたドリルホール境界という最高の値をもたらした。
【0087】
図9では、フィブリンの存在下におけるウサギ大腿骨顆部のμCTがある。欠損はまだ明確であるが、残存する物質(フィブリン)は見えず、ドリルホールの片側はまだ開いている。
【0088】
ストロンチウムの添加は著しい効果を引き起こす。図11は、80%Sr材料におけるウサギ大腿骨顆部のμCTを示す。欠損はまだ明確であるが、欠損のほとんどは埋まっており、材料(Sr80%)ははっきりと目に見える。新規骨形成は明らかに同定可能であり、ドリルホールの両側は閉じられている。
【0089】
上記の結果はまた、組織学的研究を用いて確認された。図12は、フィブリンで処理されたウサギ大腿骨顆部欠損の組織学的に染色された薄片を示す。試験物質は存在していない。したがって、炎症の兆候は見られない。いくつかの短い海綿骨骨梁がドリルホールの内側に見られる。掘削器具管(bur canal)の開放時に、新規に形成された骨物質は、海綿骨の形のものである。血管は、ドリル腔の内側にほとんど規則的に分布しており、あまり血管新生されていないわずかなスポットのみを示す。いくつかのより大きな血管は、ドリル腔の片側の骨物質に接近して存在する。
【0090】
フィブリン血餅中80%ストロンチウムで処理したサンプル(図13)では、ドリル腔の40〜70%は試験物質で埋められている。試験物質は、ドリル腔の内側の細長い形のサンプル中すべてにある。1サンプルでは、より顆粒に近く、一方で他の2種はより粗い試験物質を示す。3種のサンプルのうち2種では、フィブリンは、試験物質に近い、より大きなパッチとして存在する。炎症は1サンプル中に数個であり、その他の試料では、3〜10の大きな炎症で変動する。1サンプルでは、試験物質は、新規に構築された骨組織に直接接触しているのに対し、その他の2種では、より離れて存在する。2種のサンプルは、ドリル腔の内側に規則的に分布する血管を有しているのに対し、第3のものは、群生した血管新生を有する。
【0091】
考察
μCTデータは、Sr25%置換ヒドロキシルアパタイト様粒子を含有する製剤は、その他の試験された物質よりも良好にドリルホールの閉鎖を引き起こし、密度は低いものの80%置換粒子に匹敵する骨形成を誘導することを示す。
【0092】
フィブリン単独は、より少ない骨形成しか引き起こさず、ドリルホールは片側のみ閉じられる。純粋なカルシウムヒドロキシルアパタイトを含有する製剤は、あまり密度が高くないが、骨形成またはドリルホールの閉鎖を誘導しないと思われる。
【0093】
高ストロンチウム濃度製剤は極めて密度が高く、新規骨形成を誘導するが、Sr25%よりも大幅ではない。さらに、ドリルホール閉鎖は、低濃度のストロンチウムと比較して悪く、したがって、低濃度のストロンチウムであっても、骨形成を誘導するのに十分である。
【0094】
組織学的結果は、カルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子中のストロンチウムの置換は、新規骨の形成を誘導することを示唆する。血管新生、骨芽細胞の移動、従って、新規骨形成の必要条件は、すべてのサンプルにおいて検出された。
実施例4:ストロンチウムは、骨芽細胞に対するPTHと相乗効果を有する。
【0095】
本実施例は、骨形成因子の活性化に対する、副甲状腺ホルモン(PTH)およびストロンチウム(SrC12として用いられる)の組み合わせが、骨芽細胞におけるcAMP産生の増大を好むかどうかを調べるための、ラット骨肉腫細胞でのin vitro研究を記載する。本明細書に記載される研究は、SrC12は、骨芽細胞におけるcAMPの生成において、PTHと正の相乗効果を有することを示す。このような効果は、CaCl2で処理された細胞については観察されなかった。cAMPは、タンパク同化骨形成を誘導することが知られているので、本明細書に示されるデータは、SrおよびPTHの併用療法は、in vivoでの骨形成の増大につながるという結論を支持する。
【0096】
材料および方法
骨肉腫細胞株UMR−106(NewLab Bioquality AG、Erkrath、Germany)を用いて、バイオアッセイを実施した。
【0097】
以下に記載されるアッセイは以下の培地を用いた:
細胞培養培地:DMEM(Sigma、D6546;4500mg/l グルコース、ピルビン酸Na、Na2CO3を含み、0.584g/l L−グルタミンを補給した);10% FCS;2mM L−Glu。
【0098】
飢餓培地:DMEM(Sigma、D6546;4500mg/l グルコース、ピルビン酸Na、Na2CO3を含み、0.584g/l L−グルタミンを補給した);2mM L−Glu;
SI培地:10ml 飢餓培地;2mM IBMX
飢餓培地中、20mM SrCl2:19,6ml培地 0,4ml 1M SrCl2
飢餓培地中、20mM CaCl2 19,6ml培地 0,4ml 1M CaCl2
細胞培養
UMR−106細胞を、30000個細胞/cm2の密度で増殖培地に播種し、37℃/8.0% CO2でインキュベートした。24時間後、培地を、新鮮培地、20mM SrCl2含有する培地または20mM CaCl2を含有する培地のいずれかで交換した。細胞を、37℃/8.0% CO2で24時間、さらにインキュベートした。細胞を、以下の手順に従って回収した。
【0099】
細胞を、HBSSで2回洗浄し、6mlのトリプシン/EDTAを用いて、室温で3分間表面から剥離させた。トリプシン消化は、12mlの増殖培地を用いて停止した。遠心分離(3分、1000rpm、RT)後、細胞を、12mlの飢餓培地に再懸濁し、CASY細胞カウンターを用いてカウントした。死細胞の割合は、どの実験でも10%を下回っていた。細胞を、飢餓培地で1.6×106個細胞/mlの最終濃度に再懸濁した。50μlの細胞懸濁液を、96ウェルプレートの各ウェルに移し、37℃、8.0%CO2で30分間インキュベートした。
【0100】
フィブリノゲン溶液中、264μg/ml TGplPTHサンプルでの細胞の処理
サンプルを、2mM IBMX(SI培地)を含有する新たに調製した飢餓培地で希釈した。SI培地の調製には、DMSO中、30μlの0.67M IBMXストックを、10mlの飢餓培地に加えた。
【0101】
すべてのサンプル希釈物を、この培地で調製し、UMR−106細胞におけるホスホジエステラーゼ活性を阻害した(Janik、P.、1980;Chasin M.およびHarris、D.N.、1976)。37℃で30分インキュベートした後、50μlの希釈サンプル(結果に示されるように)を細胞に加えた。cAMP産生細胞を、37℃、8.0%CO2で1時間インキュベートした。各サンプル濃縮物を、2連のcAMP分析に従って、少なくとも2連で細胞に加えた。
【0102】
cAMP Biotrak酵素免疫アッセイ
cAMP EIAの試薬調製。アッセイバッファー、溶解試薬1A/1B、溶解試薬 2A/2B、cAMP標準、抗血清、cAMPペルオキシダーゼコンジュゲートおよび洗浄バッファーは、製造業者(cAMP Biotrak EIAキット、GE Healthcare)のマニュアルに従って調製した。1M 硫酸停止溶液は、53mlのH2SO4(濃度=18.76M)を947mlの再蒸留水で希釈することによって調製した。
【0103】
細胞溶解およびcAMPの希釈。cAMPの抽出のために、100μlのPTHを含有する細胞懸濁液を、25μlの(最終希釈1:5)、cAMP Biotrak EIAキット(GE Healthcare)の一部である、溶解試薬溶媒1Aとともにインキュベートした。完全な溶解のために、細胞を、500rpm、室温で15分間振盪した。抽出されたcAMPは、溶解試薬1B(cAMP Biotrak EIA kit)を用い、最終的に1:20に希釈した(アッセイプレートでの1:1希釈(125μl溶解試薬1Bを加えた)と、それに続く、ELISAプレートでの1:10希釈(90μlの溶解試薬1B+10μlの希釈細胞懸濁液)。
【0104】
cAMP作業標準の調製。非アセチル化アッセイ(cAMP Biotrak EIAキット)の凍結乾燥cAMP標準を、アッセイバッファーに溶解して、32pmol/mlの濃度を得た。2倍希釈シリーズは、32pmol/ml〜0.5pmol/mlの範囲で調製した。
【0105】
内部対照。100μlの各標準およびサンプル希釈物を、適当なウェルに移し、2連で分析した。さらに、2種の異なる内部対照、非特異的結合(NSB)対照およびゼロ対照(0)が、cAMP ELISAの特異性を示すために必要であり、製造業者(GE Healthcare)によって推奨されるように実施した。
【0106】
酵素イムノアッセイ手順。100μlの抗血清を、NSB対照を除くすべてのウェルに加えた。抗体反応は、振盪しながら4℃で2時間実施した。50μlのcAMPペルオキシダーゼコンジュゲートとともに、振盪しながら4℃で1時間インキュベートした後、すべてのウェルを、300μlの洗浄バッファーを用いて4回洗浄した。最後に、各ウェルに、150μlのTMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)を加え、基質反応を、室温で10分間可能にした。反応は、100μlの1M H2SO4を加えることによって停止し、およびプレートリーダーを用いて450nmで光学密度を直ちに調べた。
【0107】
データ分析。光学密度は、ソフトウェアKC4を用いて、450nmでサンプルの吸光度を測定することによって、プレートリーダー(Synergy HT)で調べた。バックグラウンド補正、平均値、標準偏差、変動の係数の算出および標準曲線の作製は、Microsoft Excel 2000で実施した。Sigmaplot9.0を、4パラメータフィットおよびEC50算出のために用いた。PLA1.2(Stegmann Systemberatung)を並列直線分析および相対力の検出のために用いた。
【0108】
結合しているcAMPペルオキシダーゼコンジュゲートのパーセンテージ。各標準およびサンプルの結合しているcAMPペルオキシダーゼコンジュゲートのパーセントを、以下の関係を用いて算出した:
【0109】
【化2】
標準曲線。cAMP標準曲線は、パーセントB/BO(y軸)を、logc(cAMP)(x軸)の関数としてプロットすることによって作成した。
【0110】
サンプル中のcAMP濃度。希釈係数(20×)を考慮して、産生されたcAMP量は、標準曲線のパラメーター(傾きおよび切片)を用いて算出した。
【0111】
直線性:cAMP ELISAの標準曲線の相関係数(R2>0.95)を評価した。
【0112】
バイオアッセイ分析のためのサンプルの調製。分析のために、サンプルを、2mMのホスホジエステラーゼ阻害剤IBMXを含有する飢餓培地(SI培地)で、2400nMTGplPTH(13,2μg/ml TGplPTH)の最終濃度に希釈した。すべてのサンプルについて、150μlの以下の8シリーズ希釈物を調製し、50μlを細胞(細胞での総容積:100μl)に直接加えた。すべてのサンプルおよびすべての希釈物について、OD450の平均値、標準偏差、cAMP濃度および変動係数を算出した。
【0113】
【化3】
段階希釈の表。用量反応曲線を作製するために、各サンプルについて7回の1:1段階希釈ステップを実施し、すべての希釈物は、3連で分析した。
【0114】
結果
PTH生物活性に対するSrCl2およびCaCl2の影響を、5つの異なる実験にわたって独立してモニターした(図14)。これらの研究によって、TGplPTH処理に先立つUMR−106細胞の、20mM SrC12をともなう24hプレインキュベーションは、生物活性の2倍の増大につながるのに対し、CaCl2は、PTH生物活性の変化を示さない(図14)ということが示された。これらの結果は、ストロンチウムおよびPTHが、cAMP産生に対して相乗作用を有することを示し、PTHおよびストロンチウムの組み合わせは、in vivoでのタンパク同化骨形成につながり得るという結論を支持する。
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年4月23日に出願された米国仮特許出願第60/925,716号の優先権の利益を主張する。米国仮特許出願第60/925,716号は、その全体が本明細書中に参考として特に援用される。
【0002】
本発明は、概して、骨治癒および骨再生に使用するための組成物、具体的には、フィブリノゲン、トロンビンならびにストロンチウム(Sr)含有化合物および/または場合によりカルシウムなどの別の金属を含有する化合物を含む無機成分を含む粘弾性ヒドロゲルゲルまたは液体製剤に関する。ストロンチウム含有化合物は、トロンビン溶液に溶解してもよいし、結晶粒子形態で組成物に加えてもよい。成分を混合すると、ゲル化が起こり、マトリックスを形成する。
【背景技術】
【0003】
骨治癒および再生における現在の実務は、移植骨(自家または同種移植片)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの骨セメントまたは注射用もしくは移植可能カルシウム塩空隙充填剤のいずれかで骨空隙を埋めることである。自家移植片は、本出願の「ゴールドスタンダード」選択であるが、ドナー組織制限、外傷、感染および罹患率に関する問題がある。同種移植片については、疾患伝播および免疫原性(imunogenicity)の危険をはじめ、いくつかの問題がある。自家および同種移植片の両方とも、二次的リモデリングによる生物学的および機械的特性の喪失を示す。このような制限により、移植骨の代替材料が注目されてきた(非特許文献1)。
【0004】
PMMAは、非吸収性ポリマー材料である。その重合の間に、未反応の単量体、触媒および低分子量オリゴマーが、ポリマー中に捕捉されるようになる。これらの化学薬品は、材料が外へ浸出し、局所細胞傷害性および免疫学的応答をもたらす可能性を有する。PMMA重合は、熱壊死を引き起こす可能性を有し得る高温の発熱を有する。この発熱はまた、PMMAの、任意の薬理作用物質または化学療法薬を組み込む能力も制限する。欠損からのPMMA漏出は、極めて重大な合併症、例えば、隣接構造の圧迫(さらなる手術を必要とする)および/または塞栓症をもたらし得る。
【0005】
ナノレベル(10−9m)の骨マトリックスは、膠原線維からなり、カルシウム塩の小さな結晶が埋め込まれている。骨の自然な構成を刺激するために、骨の修復にカルシウム塩が用いられることが多い。既知のカルシウム塩をベースとする「注射用空隙充填剤」がいくつかある。カルシウム塩セメントに伴う1つの主要な問題として、そのin vivoでの凝結の必要があり、これは、通常、化学反応によって達成される。したがって、細胞および薬理作用物質などの充填剤中に組み込まれる任意の生物製剤が損傷を受ける可能性を有し得る。さらに、増量剤が「流体」でありすぎる場合には、欠損から隣接空間に漏出し、構造の圧迫および塞栓の可能性につながり得る。欠損からの関節の近位への漏出は、関節機能を損なう可能性を有し得る。
【0006】
リン酸カルシウム(CP)塩ヒドロキシアパタイト(HA構造Ca10(PO4)6(OH2))は、骨のミネラル相に最も近く、実験台で容易に合成できる。また、他のカチオン(例えば、マグネシウム、ナトリウムおよびストロンチウム)またはアニオン(塩化物、フッ化物およびカーボネート)が結晶に置換されているHAを調製することも可能である。本発明に関しては、CP結晶中の、カルシウム(Ca2+)イオンのストロンチウム(Sr2+)イオンでの置換である。ストロンチウムおよびカルシウムは両方とも、アルカリ土類金属に属し、身体中の全カルシウムおよびストロンチウムの99%を超えるものが骨中に局在しているという点で互いに似ている。ストロンチウムは、骨強度と正の関係を有すると同定される唯一の元素である、すなわち、骨の機械的強度は、ストロンチウム含量が増大するにつれ高まる。ストロンチウムの治療効果の可能性は、以前から知られている。しかし、治療の可能性が、正常な、安定なSr2+(84Sr、86Sr、87Srおよび88Sr)とその放射性同位元素(85Sr、86mSr、87Srおよび88Sr)との混同によって見過ごされてきた可能性があるということが文献で示唆されている(非特許文献2)。最近、ストロンチウムの治療効果が脚光を浴びており、研究によって、げっ歯類および骨粗しょう症の患者における骨組織形態計測によって評価されたように、ストロンチウム塩が、in vitro(低用量であっても)およびin vivoで、骨形成を刺激し、骨吸収を阻害することが実証されている。非特許文献3。
【0007】
ストロンチウムの強力なタンパク同化および再吸収抑制効果は、新規抗骨粗しょう症薬の開発につながった。経口活性薬(有効成分ラネル酸ストロンチウム)は、脊椎骨折の危険を低減し、骨塩密度を高めることがわかっている。非特許文献4。この薬物は、2原子のストロンチウムと結合している1分子のラネル酸からなっている。ラネレート(ranelate)基は、胃腸管中で耐用性良好であるので担体として選択された。腸中で、ストロンチウムイオンは、ラネレート基から放出され、腸粘膜によるストロンチウムの吸収につながる。ストロンチウムは、吸収されると、骨組織に対して強力な親和性を示し、ヒドロキシアパタイトの最外水和層中に組み込まれるようになる。少量が骨結晶に溶け込み、ここで、カルシウム原子を上回るストロンチウムの割合は、1:10を超えず、その結果、結晶の形成も物理化学的特性もストロンチウムの存在によって変更されない。ラネル酸ストロンチウムは、骨形成を骨吸収から切り離すための第1の医薬であると示唆されている。In vitroでは、ラネル酸ストロンチウムは、コラーゲンおよび非コラーゲンタンパク質合成を増大させ、前骨芽細胞分化を増強し、破骨細胞分化を阻害し、破骨細胞機能を低下させ、破骨細胞アポトーシスを増大させる。動物モデルでは、骨密度の増大は、生体力学的骨強度の増大と密接に相関している。ラットモデルでは、ラネル酸ストロンチウムは、骨量を増大させ、微小構造および骨の形状を改善し、骨の抵抗力の増大をもたらす。卵巣切除したラット(骨粗しょう症のモデル)では、ラネル酸ストロンチウムは、骨吸収を低下させるが、高い骨形成は維持する。骨強度の決定要因はすべて、ラネル酸ストロンチウム処理によって正に影響を受ける(骨量、寸法、微小構造および内因的な骨組織品質)。骨の機械的特性の増大は、最大負荷の増大のみならず、本質的に塑性エネルギーの増大による、不具合へのエネルギーの劇的な改善をも特徴とする。非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7。ストロンチウムの作用様式は、十分には理解されていないが、骨形成の増大は、1,25(OH)2ビタミンDの循環レベルの変化または副甲状腺ホルモン効果の変化と関連していないと考えられている。ストロンチウムは、多数の閉経後の女性において、すべての部位で抗骨折効力を示した。非特許文献8。
【0008】
ストロンチウム含有骨セメントの形のストロンチウムの局所的な適用も、その他の研究者によって調べられている。非特許文献9;非特許文献10。非再吸収性Sr−HA骨セメントは、主に、ストロンチウム含有ヒドロキシアパタイト(Sr−HA)充填剤およびビスフェノールAジグリシジルエーテルジメタクリレート(BIS−GMA)樹脂からなっていた。この材料は、注射によって送達でき、PMMAよりも良好な物理的/機械的特性を有するので椎体形成術のために使用できると提案された。ストロンチウム含有ヒドロキシアパタイト(Sr−HA)骨セメントは、in vitroおよびin vivoの両方で生物活性であると実証された。In−vitroでは、細胞接着(SaOS−2)および骨ミネラル化にとって、非ドープヒドロキシアパタイト(hydroxypatite)(HA)骨セメントよりも有効であると思われた。In−vivoでは、Sr−HA骨セメントは、自然骨と結合した。
【0009】
両方とも参照により組み込まれる、米国特許第5,736,132号および同5,549,904号では、トランスグルタミナーゼ補充接着性組織接着剤は、約7.0〜約8.5のpHで、約0.5mM〜約100mMの範囲の量のカルシウムおよびストロンチウムなどの二価の金属イオンを含むことが好ましいと言われている。トランスグルタミナーゼ補充接着剤は、関節骨折、軟骨欠損、表面の軟骨欠損、全層欠損、離断性骨軟骨炎、半月板断裂、靱帯裂傷、腱の断裂、筋障害、筋腱間接合部障害、軟骨組織移植、骨移植、靭帯移植、腱移植、軟骨移植、軟骨骨移植、植皮固定および血管、代用血管の補修および微小血管血管吻合における組織の治療において使用してよいと主張されている。これらの特許の第一の焦点は、接着剤へのトランスグルタミナーゼの組み込みである。
【0010】
対照的に、本発明は、トランスグルタミナーゼを組み込まず、ストロンチウムの局所送達のための、また新規骨の形成を補助するための骨の欠損または空隙中への注射を企図する。文献データによって、元素ストロンチウムは、骨吸収を阻害しながら同時に骨形成を刺激できることが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Parikh SN.2002年;J.Postgrad.Med.48:142−148頁
【非特許文献2】Dahlら、Bone;28(4)446〜453頁
【非特許文献3】Ferraroら、1983;Calcif Tissue Int.35:258−60
【非特許文献4】Meunier PJら、2004;N Engl J Med.350(5):459−68
【非特許文献5】Kendler、2006;Curr.Osteopor.Rep.4(1):34−9
【非特許文献6】Marie、2006;Curr.Opin.Rheum.18Suppll:S11−5
【非特許文献7】Ammann、2006、Bone.38(2付録1):15−8
【非特許文献8】Closeら、2006;Expert Opin Pharmacother7(12):1603−15
【非特許文献9】Wong,Chi−Tak、2004、「Osteoconduction and osseointegration of a strontium−containing hydroxyapatite bioactive bone cement:in vitro and in vivo investigations. Publisher: University of Hong Kong」(Pokfulam Road、Hong Kong)
【非特許文献10】Zhaoら、2004;J Biomed Mater Res B Appl Biomater.69(1):79−86
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、新規骨の形成を補助するために、骨の欠損もしくは空隙中、または骨梁組織の髄腔中(ここで、一時的に骨髄と置き換わる)に注射できる組成物を提供する。データによって、元素ストロンチウムは、同時に、骨吸収を阻害しながら、骨形成を刺激することができることが示されている。
一態様では、本発明は、骨治癒および骨成長において使用するための組成物を提供し、ここで、組成物は、フィブリン、トロンビンおよびストロンチウム含有化合物を含む。本組成物は、カルシウム含有化合物をさらに含んでなり得る。組成物は、注射用ゲル、注射用パテ、注射用ペーストまたは注射用液体形態の形態である注射用組成物であることが好ましい。
【0013】
その他の実施形態では、組成物は、1種以上の可塑剤を含んでなり得る。特定の実施形態では、可塑剤は、ヨード含有化合物である。本明細書において可塑剤として使用するための例示的ヨード含有化合物として、ジアトリゾ酸、イオデコール、イオジキサノール、イオフラトール、イオグラミド、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドおよびそれらの混合物および多価アルコールからなる群から選択される化合物が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。その他の実施形態では、可塑剤は、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセロールまたは単糖、二糖、三糖、多糖からなる群から選択される糖およびそれらの組み合わせである。その他の実施形態では、可塑化効果は、とりわけ、塩化ナトリウムおよびカオトロピック剤などの低分子量化合物の組成物の調整によって達成される。
【0014】
本組成物は、ゲルまたは液体形態であり得る。特定の態様では、本組成物は、ゲル化相に先立って、またはその間に、液体またはゲルとして送達されてもよく、または予め形成されたゲルとして組織欠損中に送達されてもよい。
【0015】
本発明のその他の態様では、組成物は、フィブロネクチンなどのマトリックスタンパク質、細胞結合性タンパク質または血液凝固因子XIIIおよびプロテアーゼなどの血漿由来タンパク質からなる群から選択される1種以上の細胞外タンパク質を含む。
【0016】
さらにその他の実施形態では、組成物は、プロタミン、ヘビ毒、トランスグルタミナーゼ、FXIIaまたは生理学的に許容されるアルカリバッファー系などの凝固誘導物質をさらに含んでなり得る。
【0017】
特定の実施形態では、本組成物は、治癒過程の間に、再吸収され、組織と置換されるようなものである。
【0018】
本発明の組成物に用いられるストロンチウム含有化合物は、塩化ストロンチウム、ラネル酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ストロンチウムアパタイト、ピルビン酸ストロンチウム、ストロンチウムα−ケトグルタル酸およびコハク酸ストロンチウムからなる群から選択されるものであり得る。これらは、単に例示的ストロンチウム含有化合物であり、ストロンチウムを含むその他の化合物を、本発明の組成物に容易に用いることができる。
【0019】
組成物は、群カルシウム擬態薬、オステオカルシン、L−アルギニンなどのアミノ酸およびアルギノミメティクス(arginomimetics)およびアルギニン類似体からなる群から選択されるストロンチウムコリガンドをさらに含むものであり得る。
【0020】
本明細書に記載される組成物では、ストロンチウム含有化合物および/またはカルシウム含有化合物は、(微)粒子または固体形態であり得る。例示的実施形態では、ストロンチウム含有またはカルシウム含有(微)粒子形態は、100ナノメートル〜500μmの範囲の粒径の大きさを有する。その他の実施形態では、ストロンチウム含有またはカルシウム含有成分は、例えば、0.5〜50ミリメートルの範囲の寸法を有する多孔性または非多孔性固体の形態をとり得る。粒径は、0.5〜5ミリメートルの範囲にあることが好ましい。
【0021】
特定の実施形態では、カルシウム含有化合物は、リン酸カルシウムである。リン酸カルシウムは、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0022】
特定の実施形態では、カルシウムの一部がストロンチウムで置換され、カルシウムおよびストロンチウム塩の混合物を提供することが企図される。
【0023】
特定の実施形態では、カルシウム塩に対するストロンチウム塩の割合すなわちパーセンテージは、.25%〜100%の範囲である。特定の実施形態では、本発明の組成物は、骨形態形成タンパク質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ビスホスホネート、上皮成長因子、インスリン様増殖因子およびTGF成長因子からなる群から選択されるタンパク質またはタンパク質の組み合わせをさらに含んでなり得る。骨成長促進または骨増強効果を有する任意のタンパク質を使用してよい。さらにその他の実施形態では、ストロンチウム含有化合物は、ストロンチウムを生物活性ガラスに加え、ストロンチウム含有生物活性ガラス物質を製造することによって作製する。
【0024】
特定のその他の実施形態では、本組成物は、組成物のゲル化が、種々の成分の混合時に起こるものである。
【0025】
好ましい実施形態では、本発明の方法は、生存被験体において、前記被験体の海綿骨に、本発明のストロンチウム含有組成物を含む組成物を注入することによって、罹患骨、傷害を受けた骨または欠損した骨を治療することを含む。被験体の海綿骨への、このような組成物の注入は、ストロンチウムを含まない同様の組成物の適用で観察されたものより速い速度の治癒をもたらす点で有利である。
【0026】
また、本明細書において、
(a)骨またはその一部を機械的に固定するステップ、および(b)欠損を、前記欠損の修復と因果関係のある量の本発明の組成物で埋めるステップを含む、欠損を有する骨を修復する方法も考慮される。例示的実施形態では、欠損は、骨折であり、前記修復は、前記骨折の骨治癒である。本発明の特定の態様では、前記組成物の適用は、前記組成物の適用の不在下で観察されるものよりも速い治癒速度を引き起こす。前記組成物の適用は、ストロンチウムを含有しない同様の組成物の適用で観察されるものよりも速い治癒速度を引き起こすことが好ましい。
【0027】
また、前記欠損部位を本発明の組成物と接触させるステップを含む、骨欠損の部位で新規骨成長を促進する方法も考慮される。前記組成物中のストロンチウムの存在下では、ストロンチウムを含有しない同様の組成物の存在下で見られる骨成長と比較して、前記骨成長速度がより速いことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ストロンチウムを含有する血餅上で増殖させたヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2)の細胞増殖を示す図である。用いられる記号は、Ca/Srである。引用符で囲まれた値は、最終血餅中の濃度である。最終血餅中のこれらの濃度を達成するために、バッファー中の濃度は倍になっている。
【図2】ストロンチウムを含有する血餅上で増殖させた、ヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2)のDNAアッセイを示す図である。用いられる記号は、Ca/Srである。引用符で囲まれた値は、バッファー中の濃度である。この値は最終血餅中では半分になる。
【図3】ストロンチウムを含有する血餅上で増殖させたヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2)の30分にわたるアルカリホスファターゼ生成を示す図である。引用符で囲まれた値は、最終血餅中の濃度である。これを達成するために、バッファー中の濃度は倍になっている。
【図4】トロンビンバッファーが、カルシウム、カルシウム/ストロンチウム混合物またはストロンチウム単独のいずれかからなる場合の血餅の比濁法分析を示す図である。用いられる記号は、Ca/Srである。引用符で囲まれた値は、バッファー中の濃度である。この値は最終血餅中では半分になる。
【図5】12.5mM SrまたはCaを含有する培地で増殖させた血餅の生存パーセンテージ(MTS増殖アッセイによって測定されるような)を示す図である。
【図6】フィブリン血餅およびストロンチウム粒子を含有するフィブリン血餅上で培養されたNHOst細胞の染色を示す図である。フィブリン血餅上(上部パネル)またはストロンチウム粒子を含有するフィブリン血餅上(下部パネル)で14日間培養されたNHOst細胞の生存(左パネル)死滅(右パネル)染色。
【図7】NHOst細胞とともに培養されたフィブリン血餅の横断図を示す図である。細胞染色緑色(生存)および赤色(死滅)。上部フィブリン血餅。下部粒子を含有するフィブリン血餅。
【図8】完全に閉じられたドリルホール(両側が閉じられている)のグラフ表示を示す図である。
【図9】物質中フィブリンの存在下での、ウサギ大腿骨顆部のμCTを示す図である。
【図10】骨形成のグラフ表示を示す図である(評価:1:低;2:中程度;3:高骨形成)。
【図11】80%Sr物質を含むウサギ大腿骨顆部のμCTを示す図である。
【図12】フィブリンで治療されたウサギ大腿骨顆部欠損の組織学的染色薄片を示す図である。
【図13】フィブリン血餅中Sr80%で治療されたウサギ大腿骨顆部欠損の組織学的染色薄片を示す図である。
【図14】PTHの生物活性に対するSrCl2の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、骨治癒および骨再生において使用するための、トロンビン、フィブリン組成物および/または不溶性または可溶性型のストロンチウムおよび/またはストロンチウムおよび/またはフィブリン可塑剤を含む場合も、含まない場合もある無機粒子に関する。トロンビンまたは無機粒子含量のいずれかの量を変更することによって、適用または標的組織が決定するようにゲル化期間を制御することが可能となる。フィブリン可塑剤または修飾剤を用いて、製剤の機械的特性を増強すること、または凝固時間をさらに遅延することができる。可塑剤の例として、ヨウ素含有造影剤、例えば、ジアトリゾ酸、イオデコール(iodecol)、イオジキサノール、イオフラトール(iofratol)、イオグラミド(iogulamide)、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール(iotrol)、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドおよびそれらの混合物および多価アルコールが挙げられる。
【0030】
本組成物は、最小に侵襲的な技術を用いて、ゲル化相に先立って、またはその間に、液体として送達されてもよく、または予め形成されたゲルとして組織欠損中に送達されてもよい。本製剤は、治癒過程の間に、再吸収され、組織と置換されることが企図される。
【0031】
フィブリノゲン溶液は、5〜200mg/mlの範囲の、好ましくは、範囲50〜100mg/mlにあるフィブリノゲンを含む水溶液である。フィブリノゲン溶液はまた、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、フィブロネクチン、細胞結合性タンパク質、その他の血漿由来タンパク質[例えば、血液凝固因子XIIIおよびプロテアーゼ]を含み得る。 フィブリノゲン溶液はまた、フィブリン単量体、誘導体およびフィブリンIを含み得る。
トロンビン成分は、当技術分野で公知のさらなる化合物ならびにストロンチウム化合物をさらに含んでなり得る。用いられるトロンビンの量に関して具体的な制限はない。本発明の一実施例では、前記トロンビン成分(b)中のトロンビンの量は、最終の凝固組成物中で、少なくとも約1IU/ml、最大30IU/mlの量であるようなものである。
【0032】
トロンビンの代わりに、またはトロンビンに加えて、本発明は、成分(a)のためのその他のゲル化誘導または凝固誘導剤、例えば、プロタミン、ヘビ毒、トランスグルタミナーゼ、FXIIa、生理学的に許容されるアルカリバッファー系。
【0033】
トロンビンバッファーは、その他の物質の中でも、二価のカチオンを含有する水溶液である。バッファー中の二価のカチオンの濃度は、5〜50mMの範囲であり得る。二価のカチオンは、群カルシウムおよびストロンチウムから選択されることが好ましく、比は、0:1〜0.975:0.025であり得る。二価のストロンチウムイオンは、塩化ストロンチウムまたは任意のその他の水溶性ストロンチウム塩、例えば、ラネル酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、ピルビン酸ストロンチウム、ストロンチウムα−ケトグルタル酸またはコハク酸ストロンチウムの形で加えることができる。トロンビンバッファーはまた、ストロンチウムの新規に同定された分子標的(G−タンパク質共役受容体またはカルシウム感知受容体、Piら、J.Biol.Chem.2005)のためのコリガンドも含み得る。コリガンドは、群カルシウム擬態薬、オステオカルシンおよびアミノ酸から選択される。L−アルギニン、アルギノミメティクス(arginomimetics)またはアルギニン類似体が好ましい。ストロンチウム含有トロンビンバッファーはまた、ストロンチウム含有無機粒子と併用してもよい
粒子成分は、ナノ〜3000μm未満の範囲の粒径直径を有し、適用時には不溶性でなくてはならない。粒径は、100ナノメートル〜50ミリメートルの間が好ましく、0.5mm〜50mmの間がより好ましい。粒子は、適用時に不溶性である任意のストロンチウムのキレートまたは同様に適用時に不溶性であるストロンチウム置換カルシウム塩であり得る。置換のためのカルシウム塩は、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。粒子のカルシウムのストロンチウム置換は、0.25〜100%の範囲であり得る。最終ゲルを得るために混合することは、温度18〜37℃の範囲にわたって、好ましくは、37℃で達成できる。
【0034】
フィブリノゲン溶液は、5〜200mg/mlの範囲の、好ましくは、50〜100mg/mlの範囲のフィブリノゲンを含む水溶液である。フィブリノゲン溶液はまた、フィブリン単量体、誘導体およびフィブリンIを含み得る。フィブリノゲン溶液はまた、細胞外マトリックスタンパク質、例えば、フィブロネクチン、細胞結合性タンパク質およびその他の血漿由来タンパク質、例えば、血液凝固因子XIII(FXIII)およびプロテアーゼも含み得る。
【0035】
トロンビン溶液は、最終凝固(ゲル化)組成物において0.1IU/mlの最小最終濃度を有する水溶液である。この溶液はまた、緩衝され、アミノ酸、タンパク質または添加剤(例えば、L−アルギニン、マンニトールおよびアルブミン)を含み得る。
【0036】
トロンビンバッファーは、その他の物質の中でも、二価のカチオンを含有する水溶液である。バッファー中の二価のカチオンの濃度は、5〜50mMの範囲であり得る。二価のカチオンは、群カルシウムおよびストロンチウムならびに分子比(1:0〜0.975:0.025のカルシウム対ストロンチウムであり得る)から選択されることが好ましい。
【0037】
粒子は、投与時に不溶性である任意のストロンチウムのキレートまたは同様に適用時に不溶性であるストロンチウム置換カルシウム塩であり得る。置換のためのカルシウム塩は、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせであり得る。粒子のストロンチウム置換は、置換された粒子の割合として0.25〜100%の範囲であり得る。
【0038】
組成物中の粒子含量は、凝固可能タンパク質の2〜100%、好ましくは、30〜50%(重量/容積)の範囲である。粒子成分は、適用が求めるように、サブミクロン〜3000μm未満の範囲の粒径直径を有する。最終ゲルを得るための均質化は、温度18〜37℃の範囲にわたって、好ましくは、37℃で達成できる。
【0039】
骨修復を補助するための本発明の組成物の効力は、生物活性分子を組み込むことによってさらに改良できる。これらは、マトリックスと化学的に結合させてもよいし、粒子成分上に吸着されてもよく、または遊離分子として、もしくは薬物粉末のいずれかとして、フィブリンマトリックス中に捕捉されてもよい。これらの分子を用いて、骨代謝を刺激できる(同化作用およびまたは異化作用)。同定されている適切な分子として、骨形態形成タンパク質(BMP)、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ビスホスホネート、上皮成長因子、インスリン様増殖因子およびTGFスーパーファミリー増殖因子が挙げられる。適した分子はまた、骨同化作用/異化作用周期と関連していないが、骨修復/リモデリングと並行して起こる生理学的過程と関連しているその他の因子を含んでもよく、例えば、血管新生刺激因子(血管内皮増殖因子(VEGF)および血小板由来増殖因子[PDGF]も組み込んでもよい。これは、ストロンチウムの作用様式として特に注目され、タンパク同化剤1,25(OH)2ビタミンDおよび副甲状腺と区別されると考えられる。
【0040】
可塑剤はまた、フィブリンまたはトロンビンと混合して、製剤の機械的特性を増強することができ、または凝固時間をさらに遅延することができる。可塑剤の例は、水溶性ヨウ素含有造影剤、ポリエチレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール、単糖、二糖、三糖および多糖ならびに任意のそれらの組み合わせからなる群から選択される。適したヨウ素含有造影剤は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願番号US20050119746(LidgrenおよびNilson、2004)に詳述されており、その例として、ジアトリゾ酸(メグルミン)、イオデコール(iodecol)、イオジキサノール、イオフラトール(iofratol)、イオグラミド(iogulamide)、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール(iotrol)、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドがある。造影剤は、非イオン性で、低浸透圧を有し、フィブリン集合が生じるのを可能にし、例えば、イオジキサノールが好ましい。
【0041】
本発明の組成物は、有用な骨治癒法において、このような方法で使用するためのキットにおいて使用してよい。組成物は、骨成長を促進するために、または特に、長骨における治癒のために使用してよいということが企図される。具体的には、本発明は、トロンビン、フィブリンおよびストロンチウムを含む骨修復組成物に関する。組成物中のストロンチウムの存在は、ストロンチウムを含まないような組成物と比較して、骨治癒およびまたは骨生成の増強につながる。
【0042】
本発明の組成物を、長骨、例えば、大腿骨、脛骨、上腕骨、橈尺骨などの修復および再生に使用してよい。
【0043】
本発明の組成物を用いることで、欠損を有する骨に、機械的、構築的および構造的能力を回復させるかまたは部分的に回復させ、一方で、骨治癒および再生を支配する生物学的過程の適当な基質として役立ち得る構造的表面積を提供することが可能となる。
【0044】
実施例において示されるように、本発明の組成物は、骨修復に関与する、細胞性および生物学的過程を加速する。
【0045】
本明細書において以下に用いられる場合、語句「長骨」とは、直径よりも少なくとも2倍長い長さを有する骨を指す。通常、語句「長骨」とは、四肢の骨、すなわち、脛骨、腓骨、大腿骨、上腕骨、橈尺骨、手根骨、中手骨、指節骨、足根骨および中足骨を指す。より具体的には、語句「長骨」とは、本明細書において用いる場合、四肢の4種の主要な骨、すなわち、脛骨、大腿骨、上腕骨および橈骨を指す。
【0046】
本発明の組成物の使用によって治療され得る「骨欠損」は、骨中の任意の異常、例えば、空隙、空洞、立体構造的不連続、骨折または傷害、骨切断、手術、骨折、奇形の治癒、癒着不能骨折、骨格奇形、加齢もしくは疾患によって生じた任意の構造の変化であり得るが、これらに限定されるわけではない。本発明の組成物は、大きな治療可能性を提供する。海綿骨が、例えば、骨粗しょう症、無腐性壊死または癌のために病気になると、周囲の皮質骨は、より圧迫骨折または圧潰しやすくなる。これは、海綿骨がもはや、周囲の皮質骨に内部の支持体を提供しないためである。本発明の組成物は、骨粗しょう症、骨壊死または無腐性壊死ならびに罹患骨、不十分にしか治癒していない骨または重篤な外傷によって骨折した骨を含むその他の骨疾患などの状態における骨の強化において使用できる。
【0047】
本発明の別の態様は、欠損を有する骨を修復するためのキットを提供する。本キットは、骨またはその一部を固定するための機械的に固定する装置および本発明の組成物を含む。固定装置の例として、これらに限定されるわけではないが、フランジ、ロッド、バー、ワイヤ、ステープル、スクリュー、縫合ならびに種々のギプス、スリーブなどが挙げられ、これらは通常、外部の固定装置である。したがって、本発明のキットは、外部の機械的に固定する装置を含むことが好ましい。
【0048】
本発明の別の態様では、骨欠損、例えば、骨折、空洞空隙などを治療する方法が提供され、それらを本発明の組成物と接触させることを含む。いくつかの実施形態では、本方法は、欠損を本発明の組成物と接触させるステップの前または後に、骨またはその一部を機械的に固定することを含み得る。
【0049】
本発明の組成物は、骨性(骨)欠損もしくは空隙中に、または骨梁組織の髄腔中(ここで、組成物が一時的に骨髄と置き換わる)に送達される注射用組成物として、および/または新規骨の形成における補助として使用され得ることが有利である。本組成物は、当業者に周知の技術を用いて、骨梁組織または任意のその他の骨組織中に注入してもよい。例示的なこのような技術およびこのような技術を実施するための装置はとりわけ、例えば、米国特許公開番号第20080065091号、同20080058828号、同20070073307号、米国特許第4,969,888号および同5,108,404号において論じられている(これらの特許文書の各々は、参照により本明細書に組み込まれる)。通常、組成物を骨に注入するために、家庭用コーキングゴムと類似の注入装置が用いられる。通常の骨セメント注入装置は、ピストル型の本体を有し、これが、骨セメントを含有するカートリッジを支持する。引き金が、ばねで留められたラムを作動させ、これが、一回分の容積の粘性状態の骨セメントを、適切なノズルを通して、治療の標的とされる骨の内部中に押し込む。米国特許第4,969,888号および同5,108,404号の教示によれば、空洞はまず、骨の内側の海綿骨をぎっしり詰めることによって形成され得、この中に骨セメントが注入される。
【0050】
本発明の注射用組成物にSrを組み込むことの追加利点は、放射性乳白剤としてのストロンチウムの既知特性による蛍光透視などの技術を用いて、送達および治癒過程がモニターされることを可能にすることである。そのようなものとして、本発明の組成物におけるSrの使用は、単に、画像化機能だけではなく、治療機能と診断機能の両方を提供する。
【0051】
本発明の組成物は、注射用ゲル、注射用ペースト、ペースト、パテの形、または再水和可能な凍結乾燥形で使用してよい。本明細書において用いる場合、用語「ゲル」とは、ゼリー状の、粘度の高い、柔らかい、部分的に液体の物質を指す。本発明のゲルは、13ゲージのシリンジニードルを通して押し出すことができる。本出願において使用する場合「ペースト」とは、液体と固体の間の稠度を有する、柔らかい、湿性の物質を指す。本発明のペーストは、パテほど固体ではなく、ゲルよりは固体であり、いくつかの実施形態では、注射可能であり得る。
【0052】
用語「パテ」とは、本発明の練り粉様/粘土様組織修復組成物を指す。この物質は、適用時に、撹拌し、または練って、前記稠度の練り粉とし、埋め込み部位のものに密接に近似する形に成型してもよい。
【0053】
「注射用」とは、本発明の、圧力(シリンジを用いる導入によるような)下で埋め込み部位に導入される能力を指す。本発明の注射用組成物は、例えば、in vivoで要素の間に、または限定空間(すなわち、とりわけ骨片の間または人工補装具と骨の間の界面中)に導入してもよい。
【0054】
「シリンジ」とは、本発明の流動性組織修復組成物、例えば、中でも特定のゲルおよびペーストを注入または引き抜くために使用してよい任意の装置を指す。
【0055】
本組成物は、被験体の皮質骨または海綿骨中に注入される(被験体は、ヒト、サル、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ被験体であることが好ましい)。本出願において使用する場合「皮質骨」とは、髄腔を囲む骨の骨幹部の緻密骨を指す。皮質骨は、膠原線維の三重らせんからなる高密度構造であり、ヒドロキシアパタイトで強化されている。皮質骨は、化合物構造であり、ヒト身体の長骨の主耐荷重成分である。ヒドロキシアパタイト成分は、骨の高圧縮強度に関与し、一方で、膠原線維成分は、ねじれ力および張力の一部に貢献している。本発明の組成物は、このような骨の一部に導入し、有益な骨治癒または骨増強効果を付与してもよい。
【0056】
骨梁は、皮質骨と同様の組成物のものであり、「海綿骨」の主な構造成分であり、成体長骨の骨幹部の層板骨とは異なって組織された、ミネラル化された規則どおりに並んだ平行な膠原線維からなる成体骨を指す。海綿骨は、通常、皮質骨によって囲まれた長骨の末端に見られる。海綿骨は、格子を形成する骨片を有し、間隙は骨髄で埋まっている。骨梁または海綿骨(spongy bone)と呼ばれることもある。好ましい実施形態では、本発明の組成物は、骨梁中に送達される。
【0057】
本発明の骨を固定する方法はまた、骨固定または本発明の組成物との接触に先立って、欠損を再形成するステップを含み得る。このような再形成または骨再調整は、例えば、ドリルまたはグラインダーまたは欠損を再形成するのに利用可能な任意のその他の装置を用いて実施してもよい。
【0058】
骨を固定化するために用いられる装置は、修復されるべき欠損の種類ならびに骨の種類および配置に応じて変わる。通常、固定装置は、外部固定装置である。例えば、ギプスなどの外部固定装置が好ましく、本発明の組成物の注入に伴って本発明の方法において利用される唯一の固定装置である。しかし、いくつかの状況では、より侵襲的外科処置を使用することが必要となる可能性があり、内部固定装置を用いることを同様に利用してよい。
【0059】
修復はモニターすることができ、やがて、骨を固定するために用いられる装置は除去できる。欠損の部位での骨再生は、手術直後および手術後所与の時間間隔でとられた軟組織X線(7.5mA;0.5秒)によって評価できる。試験動物における骨再生はまた、全般的な形態を評価すること、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン(65〜80kV;20秒)および三次元(3−D)CTスキャン(Marconi、M.times.8,000)によって、試験の終了時に調べることができる。組織学的研究を実施して、組織の骨染色を調べることができる。
【0060】
本発明の方法では、組成物はまた、骨修復において使用できる細胞、例えば、骨細胞前駆細胞などと組み合わせることができる。当技術分野では周知である骨細胞前駆細胞として、骨形成細胞を特徴とする、骨髄間質細胞の造骨性亜集団が挙げられる。本発明の方法によって利用される骨細胞前駆細胞として、造骨性骨形成細胞自体および/または骨細胞前駆細胞を形成する胚性幹細胞を挙げることができる。骨細胞前駆細胞は、公知の手順を用いて単離できる。このような細胞は、自己記述的供給源のものであることが好ましく、例えば、ヒト胚性幹細胞、マウスまたはヒト骨細胞前駆細胞、マウスまたはヒト骨細胞前駆骨髄由来細胞、マウスまたはヒト骨細胞前駆胚由来細胞およびマウスまたはヒト胚細胞が挙げられる。これらの細胞はさらに、本明細書において上記で定義される、RobinsonおよびNevo(2001)によって記載されるように、増殖因子を分泌する細胞として働き得る。
【0061】
本発明の組成物はまた、種々の活性治療薬をさらに含んでもよく、その例として、骨成長促進剤、骨細胞前駆細胞またはそれらの組み合わせが挙げられる。組成物はまた、少なくとも1種の薬剤、例えば、ビタミン、抗生物質、抗炎症薬などを含み得る。
【0062】
特定の好ましい実施形態では、ストロンチウム置換カルシウム化合物を調製するために、ストロンチウムが、当業者に公知の技術を用いてカルシウム含有塩に組み込まれる。さらに、ストロンチウムは、従来組織修復において使用される生物活性ガラス組み込んでもよい。「生物活性ガラス」とは、生物活性の特徴を示す任意のガラスであり、内因的に接着性ではなく、通常は、適切なin vivoまたは擬似体液やtris−ヒドロキシメチルアミノメタンバッファーなどのin vitro環境で曝露されると、硬組織および軟組織の両方と接着性結合を形成できる非晶質固体である。接着性結合は、バルクバイオガラス材料からのイオン種の放出によって生物活性ガラス上にヒドロキシ炭酸アパタイトの表層を作成することによって達成される。手術および整形外科的処置、ならびに口腔外科の分野では、生物活性ガラスの多数の応用があり、例えば、欧州特許第1405647号および欧州特許出願第1655042号に、ならびに国際出願WO96/21628、WO91/17777、WO91/12032および米国特許公開番号第20080066495号(各々、参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【実施例】
【0063】
本発明の一実施形態では、ストロンチウム含有化合物は、トロンビン希釈バッファー中の二価のイオンとして用いられる。トロンビン溶液は、希釈バッファーを用いて調製する。フィブリノゲン溶液およびストロンチウム含有トロンビン溶液を混合して、ゲルを形成する。
【0064】
本発明のもう1つの実施形態では、製剤にストロンチウム含有化合物を塩粒子として加える。トロンビン溶液および粒子を混合して改変トロンビン溶液を調製する。フィブリノゲン溶液および改変トロンビン溶液を混合してゲルを形成する。
実施例I:バッファー溶液に溶解したストロンチウム含有化合物。
【0065】
一連のバッファーは、再蒸留水で調製した。これらのバッファーについては、トロンビンバッファー中の二価のカチオンは、Caまたはカチオン濃度が40mMで一定に維持されるようなCa+Sr混合物(塩化ストロンチウムについての以下の表参照のこと)。トロンビンを、トロンビンバッファー中、4IUの濃度に希釈した。
【0066】
【化1】
次いで、フィブリノゲンを、トロンビンと1:1の割合で混合した(従って、ゲル化血餅中のストロンチウム濃度は半分となる)。このために、2mlのトロンビン溶液を、5mlのシリンジに移してもよい。2mlのフィブリノゲン(Tisseel、Baxter、凝固可能タンパク質、[フィブリノゲンおよびフィブロネクチン]72〜110mg/ml)を、別個の5mlのシリンジに移した。フィブリノゲンおよびトロンビンを含有するこのシリンジを、組み合わせることを目的として、任意の最新式ミキサーと接続してもよい。
【0067】
in−vitro実験のためには、150μlのフィブリノゲン溶液を、24ウェルプレートのウェルにピペットで加えることによって血餅を調製した。このプレートをプレートシェーカー上に置き、ウェル底中へ確実に均一に分配させた。次いで、ウェルに150μlのトロンビン溶液を加え、プレートをプレートシェーカー上に置き、確実に均質な血餅とした。ヒト骨芽細胞様細胞株(SaoS−2)を、血餅上で最大7日間培養して、細胞増殖/細胞分化において何らかの相違が観察され得るかどうかを確かめた。図1は、トロンビン希釈バッファーに塩化ストロンチウム(SrC12)が加えられた場合の増殖の結果(アラマーブルー)を示す。同様の結果は、酢酸ストロンチウム(SrAc)についても利用可能である。
【0068】
アラマーブルーアッセイは、代謝性アッセイであり、増殖を測定するために用いられることが多い。ストロンチウムの添加は、20mM CaCl2を含む正常血餅と比較した場合に、これらの血餅上での増殖の大幅な増大をもたらした。同様の結果はまた、DNA染色を用いて増殖を定量した場合にも観察された(図2)。7日後、カルシウムストロンチウム混合物またはカルシウムのみを含有する血餅上で増殖させた細胞間に明確な相違を観察することができた。したがって、本発明者らは、ストロンチウムは、骨芽細胞様SaOS−2細胞の増殖に対して正の効果を有すると結論付けた。
【0069】
これらの最初の実験は、細胞増殖における相違を調べるよう設計され、骨芽細胞分化を調査するための十分な時間を提供しなかった。酵素アルカリホスファターゼは、分化の初期指標であるが、レベルは、実際には約10〜14日までピークに達しない。予備結果は、ストロンチウムを含有する血餅におけるアルカリホスファターゼ発現の増加を示している(図3)。酢酸ストロンチウムの場合には、これらの値は、重要ではないと思われる。これらの実験は、14日の調査期間で反復されている。
【0070】
細胞研究観察に加え、比濁法(turbidmetric)分析を実施し、血餅構造がストロンチウムの結果として変更されたかどうかを調べた(図4)。血餅濁度は、線維の平均断面積に直接比例しており、従って、血餅が濁るほど、線維直径は増大した。
【0071】
図4中の比濁法データは、カルシウム含有血餅との比較において、ストロンチウム含有血餅の動力学および吸光度が極めて小さな相違しか示さないことを示す。これは、カルシウムとストロンチウムは、同様の結合部位、特に、FXIII結合部位を占めることができるという観察結果によって説明することができる。
【0072】
最初の実験については、細胞を、血餅の表面に播種した。この播種法を選択した理由の1つは、いくつかの細胞種は血餅内に播種されると、細胞死が大量に生じ、細胞は血餅の表面に移動を行うということである。この効果についての可能性のある説明は、骨芽細胞様細胞がCaCl2を補給された培地中で培養される場合に説明され得る。図5は、12.5mMのCaCl2の存在下、組織培養プラスチック上でのSaOS−2細胞培養の結果を示す。細胞死(MTSアッセイによって測定されるような)は、塩化カルシウムの存在下で培養された細胞について生じる。これは、細胞培養の最初の24時間内に起こる。それに反して、ストロンチウム含有化合物の存在下で培養された細胞の増殖においてはわずかな減少しかない。いくつかの細胞、すなわち、線維芽細胞およびケラチノサイトが高カルシウムを必要とすること、従って、血餅のカルシウム濃度によって影響を受けないことを指摘することは重要である。
実施例2:フィブリン/ストロンチウムドープ−リン酸カルシウムナノ粒子
トロンビンを、トロンビンバッファーで4IUの濃度に希釈した。フィブリノゲンを、トロンビンと1:1の割合で混合した。このために、2mlのトロンビン溶液を、5mlのシリンジに移してもよい。2mlのフィブリノゲン(Tisseel、Baxter、凝固可能タンパク質、[フィブリノゲンおよびフィブロネクチン]72−110mg/ml)を、別個の5mlのシリンジに移した。粒子(1μm未満のナノ粒子)を、最終血餅容積のパーセンテージ重量(w/v)として組み込む。これらは、秤量し、別の5mlのシリンジに入れる。
【0073】
粒子およびトロンビンを含有するシリンジを、ルアーアダプターを介して接続し、シリンジからシリンジへ内容物を移すことによってトロンビンおよび粒子を均質化する。トロンビン/粒子およびフィブリノゲンを含有するシリンジを、ルアーアダプターを介して接続し、内容物を均質化する。材料は、約30秒間液体のままであり、この時間の間に、欠損に注入できる。
【0074】
in−vitro実験のためには、24ウェルプレートのウェルに150μlのフィブリノゲン溶液をピペットで加えることによって血餅を調製する。粒子(1μm未満のナノ粒子)を、最終血餅容積のパーセンテージ重量(w/v)として加える。プレートをプレートシェーカー上に置き、ウェル底中へ確実に均一に分配させた。次いで、ウェルに150μlのトロンビン溶液を加え、プレートをプレートシェーカー上に置き、確実に均質な血餅とした。予備研究では、ヒト骨芽細胞様細胞(SaOS−2またはNHOst)を血餅上で最大14日間培養して、細胞増殖、細胞分化において何らかの相違が観察され得るかどうかを確かめた。
【0075】
粒子を含有する血餅上に播種された細胞の定性分析は、正常なフィブリン血餅と比較した場合に良好な生体適合性を示す(図6)。定量されていないが、粒子を含まないフィブリン血餅上の細胞は、形態がより丸みを帯びており、一方で、粒子を含有する血餅上のものはより広がっていると思われる。これのさらなる証拠は、血餅の横断図において見ることができる(図7)。これについては、細胞を、血餅中に播種した。数日後、フィブリン血餅中の細胞を、血餅の表面に移した。比較によって、血餅を含有する粒子中の細胞は血餅中のままであり、広がっており、好都合な形態を示した。
実施例3:ウサギ大腿骨顆部欠損モデルにおけるストロンチウムドープヒドロキシアパタイトの使用
上記の研究は、ストロンチウムは骨形成を刺激し、同時に、骨吸収を抑圧することを示唆する。先の研究は、骨芽細胞様細胞および一次骨芽細胞に対するSrC12の効果を調査した。脊椎増強において使用できる製剤を同定する試みの過程で、ストロンチウムでドープされた修飾されたヒドロキシルアパタイトをウサギ大腿骨顆部欠損モデルにおいて試験し、ストロンチウムの骨形成を刺激する可能性を評価した。カルシウムヒドロキシルアパタイトは、硝酸カルシウムおよびリン酸アンモニウムを高pH値(水酸化アンモニウムで調整した)で一緒に撹拌することによって実験台で製造できる。得られた沈殿を遠心分離、洗浄、乾燥およびか焼すると、ヒドロキシルアパタイト様物質が得られる。硝酸カルシウムを、硝酸ストロンチウムと、それぞれの置換パーセンテージで組み合わせることによって、骨欠損にフィブリンとともに一緒に注入できる、ストロンチウム−カルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子を製造することが可能である。
【0076】
この例は、ストロンチウム置換カルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子が、フィブリン単独または純粋なカルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子よりも良好に新規骨形成を刺激することを示すデータを示す。これらの結果は、予備細胞培養の際に得られたデータのin vivo確証を提供する。
【0077】
材料および方法:
本実施例において記載される研究では、以下の化学試薬を用いた。硝酸カルシウム四水和物;99% A.C.S.試薬[Sigma−Aldrich;237124−500G;FW:236,15];硝酸ストロンチウムp.A.>99%[Fluka;85899 500g;Lot&Filling Code:1086321、53706181;FW:211,63];リン酸アンモニウム二相性p.A.[Riedel−de Haen;30402 500g;FW:132,06];水酸化アンモニウム[Sigma−Aldrich、318612−2L;バッチ番号:11103PD;FW:35,05;H2O中、5N];EtOh96%;Fibrinkleber[Baxter AG;Fibrinkleber TIM 3;08P6004H;5ml;1500434];トロンビン[Baxter AG; B205553 thromb.SD TIM 5;500IE;US 5ml]; 塩化カルシウム二水和物(ミニム99%)[Sigma; C7902−1KG;バッチ番号:044K0160];および塩化ナトリウム[Merck、1.06404.1000 1kg;Charge/Lot:K38062004 745;FW:58,44.
実験は、以下のとおり種々の溶液を使用した:40mM CaCl2+200mM NaCl:250ml再蒸留水中、1.47g CaCl2+2.92g NaCl;凍結乾燥トロンビン−5ml 40mM CaCl2+200mM NaClで再構成および凍結乾燥フィブリノゲン−5mlの3000KIE/アプロチニン1mlに再構成。
【0078】
実験は、以下のとおりに各々6つのウサギの膝を含む4つの試験群で実施した:
群1.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)
群2.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)+100%Ca(0% Sr置換)
群3.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)+75% Ca(25% Sr置換)
群4.フィブリン+トロンビン(8IU/ml 最終濃度)+20% Ca(80% Sr置換)。
【0079】
試験物質の調製:
フィブリノゲンは、再構成し、1mlシリンジ[Braun;omifix−1ml;Luer]にシリンジあたり0.5mlフィブリノゲンで分注した。トロンビンは、再構成し、40mM CaCl2+200mM NaClで16IU/mlに希釈した。これも、1mlシリンジに、シリンジあたり0.5mlを分注した。
【0080】
ヒドロキシルアパタイト粉末は、等容積の2M 硝酸カルシウム溶液(またはストロンチウム置換のパーセンテージに従って、硝酸ストロンチウム、得られた溶液は合わせて2Mを有さなくてはならない)および1.2Mリン酸アンモニウム溶液とともに撹拌することによって製造した。硝酸カルシウムにリン酸アンモニウム を添加すると、ペースト状物質が沈殿する。等容積の水酸化アンモニウムをその後添加すると、沈殿物のpHが11に上昇し、ペースト状沈殿物を液体にした。完全に撹拌した後、混合物を遠心分離し、上清を廃棄し、沈殿物をアルコール(エタノール96%)で2回、再蒸留水で1回洗浄した。洗浄ステップの間、沈殿物を常に浄化し、遠心分離し、上清は廃棄した。その後、沈殿物を真空下、60℃で1日間乾燥させ、製粉し、1100℃で1時間か焼した。
【0081】
冷却した後、ヒドロキシルアパタイト様粒子を熱で滅菌し、1mlシリンジに、シリンジあたり0.3gを分注した。
【0082】
ウサギの処理
12匹のウサギを用いて主な実験を実施した。それらを鎮静させ、大腿骨顆部にボアホール(直径4.5mm)をドリルで開けた。粒子を含むトロンビン成分を噴出させた後フィブリノゲンを、または対照としてフィブリノゲンを含むトロンビンのみを噴出させることによって、試験材料のうち1種を用いてこれらのドリルホールを各々埋めた。1mlシリンジの円錐体が、ドリルホールに完璧に適合し、そのために直接適用が可能であった。
【0083】
それぞれの材料を注入した後(24の膝について無作為化した)、皮膚を縫い、その後8週間、ウサギをモニターし続けた。
【0084】
術後分析
8週間後、ウサギを安楽死させることになり、膝をμCTによって分析し、薄片を組織学的に染色した。
【0085】
結果
μCT分析:ストロンチウムサンプルの高い乳白度のために、定量結果を得ることは困難であり、そのため分析は、μCT像を肉眼で評価し、それらを定量化することによって半定量的に実施した。骨形成の評価は、3つのレベル(1:低;2:中程度;3:高)で実施した。閉じられたドリルホールの評価は、閉じられたドリルホールには「+」を、閉じられていないドリルホールには「−」を与えることによって行った。データは、図8〜14中にグラフで示されている。μCT像はスナップショットであるのに対し、すべてのグラフは、評価可能な処理された動物の平均である。
【0086】
図8は、完全に閉じられた(両側が閉じられている)ドリルホールのグラフを示す。評価された、フィブリンで埋められたウサギ顆状突起欠損のうち、両側が閉じられたものはなく、したがって、ゼロパーセントの完全に閉じられたドリルホール境界が図8において見られる。粒子中25%Srの置換は、80%の閉じられたドリルホール境界という最高の値をもたらした。
【0087】
図9では、フィブリンの存在下におけるウサギ大腿骨顆部のμCTがある。欠損はまだ明確であるが、残存する物質(フィブリン)は見えず、ドリルホールの片側はまだ開いている。
【0088】
ストロンチウムの添加は著しい効果を引き起こす。図11は、80%Sr材料におけるウサギ大腿骨顆部のμCTを示す。欠損はまだ明確であるが、欠損のほとんどは埋まっており、材料(Sr80%)ははっきりと目に見える。新規骨形成は明らかに同定可能であり、ドリルホールの両側は閉じられている。
【0089】
上記の結果はまた、組織学的研究を用いて確認された。図12は、フィブリンで処理されたウサギ大腿骨顆部欠損の組織学的に染色された薄片を示す。試験物質は存在していない。したがって、炎症の兆候は見られない。いくつかの短い海綿骨骨梁がドリルホールの内側に見られる。掘削器具管(bur canal)の開放時に、新規に形成された骨物質は、海綿骨の形のものである。血管は、ドリル腔の内側にほとんど規則的に分布しており、あまり血管新生されていないわずかなスポットのみを示す。いくつかのより大きな血管は、ドリル腔の片側の骨物質に接近して存在する。
【0090】
フィブリン血餅中80%ストロンチウムで処理したサンプル(図13)では、ドリル腔の40〜70%は試験物質で埋められている。試験物質は、ドリル腔の内側の細長い形のサンプル中すべてにある。1サンプルでは、より顆粒に近く、一方で他の2種はより粗い試験物質を示す。3種のサンプルのうち2種では、フィブリンは、試験物質に近い、より大きなパッチとして存在する。炎症は1サンプル中に数個であり、その他の試料では、3〜10の大きな炎症で変動する。1サンプルでは、試験物質は、新規に構築された骨組織に直接接触しているのに対し、その他の2種では、より離れて存在する。2種のサンプルは、ドリル腔の内側に規則的に分布する血管を有しているのに対し、第3のものは、群生した血管新生を有する。
【0091】
考察
μCTデータは、Sr25%置換ヒドロキシルアパタイト様粒子を含有する製剤は、その他の試験された物質よりも良好にドリルホールの閉鎖を引き起こし、密度は低いものの80%置換粒子に匹敵する骨形成を誘導することを示す。
【0092】
フィブリン単独は、より少ない骨形成しか引き起こさず、ドリルホールは片側のみ閉じられる。純粋なカルシウムヒドロキシルアパタイトを含有する製剤は、あまり密度が高くないが、骨形成またはドリルホールの閉鎖を誘導しないと思われる。
【0093】
高ストロンチウム濃度製剤は極めて密度が高く、新規骨形成を誘導するが、Sr25%よりも大幅ではない。さらに、ドリルホール閉鎖は、低濃度のストロンチウムと比較して悪く、したがって、低濃度のストロンチウムであっても、骨形成を誘導するのに十分である。
【0094】
組織学的結果は、カルシウムヒドロキシルアパタイト様粒子中のストロンチウムの置換は、新規骨の形成を誘導することを示唆する。血管新生、骨芽細胞の移動、従って、新規骨形成の必要条件は、すべてのサンプルにおいて検出された。
実施例4:ストロンチウムは、骨芽細胞に対するPTHと相乗効果を有する。
【0095】
本実施例は、骨形成因子の活性化に対する、副甲状腺ホルモン(PTH)およびストロンチウム(SrC12として用いられる)の組み合わせが、骨芽細胞におけるcAMP産生の増大を好むかどうかを調べるための、ラット骨肉腫細胞でのin vitro研究を記載する。本明細書に記載される研究は、SrC12は、骨芽細胞におけるcAMPの生成において、PTHと正の相乗効果を有することを示す。このような効果は、CaCl2で処理された細胞については観察されなかった。cAMPは、タンパク同化骨形成を誘導することが知られているので、本明細書に示されるデータは、SrおよびPTHの併用療法は、in vivoでの骨形成の増大につながるという結論を支持する。
【0096】
材料および方法
骨肉腫細胞株UMR−106(NewLab Bioquality AG、Erkrath、Germany)を用いて、バイオアッセイを実施した。
【0097】
以下に記載されるアッセイは以下の培地を用いた:
細胞培養培地:DMEM(Sigma、D6546;4500mg/l グルコース、ピルビン酸Na、Na2CO3を含み、0.584g/l L−グルタミンを補給した);10% FCS;2mM L−Glu。
【0098】
飢餓培地:DMEM(Sigma、D6546;4500mg/l グルコース、ピルビン酸Na、Na2CO3を含み、0.584g/l L−グルタミンを補給した);2mM L−Glu;
SI培地:10ml 飢餓培地;2mM IBMX
飢餓培地中、20mM SrCl2:19,6ml培地 0,4ml 1M SrCl2
飢餓培地中、20mM CaCl2 19,6ml培地 0,4ml 1M CaCl2
細胞培養
UMR−106細胞を、30000個細胞/cm2の密度で増殖培地に播種し、37℃/8.0% CO2でインキュベートした。24時間後、培地を、新鮮培地、20mM SrCl2含有する培地または20mM CaCl2を含有する培地のいずれかで交換した。細胞を、37℃/8.0% CO2で24時間、さらにインキュベートした。細胞を、以下の手順に従って回収した。
【0099】
細胞を、HBSSで2回洗浄し、6mlのトリプシン/EDTAを用いて、室温で3分間表面から剥離させた。トリプシン消化は、12mlの増殖培地を用いて停止した。遠心分離(3分、1000rpm、RT)後、細胞を、12mlの飢餓培地に再懸濁し、CASY細胞カウンターを用いてカウントした。死細胞の割合は、どの実験でも10%を下回っていた。細胞を、飢餓培地で1.6×106個細胞/mlの最終濃度に再懸濁した。50μlの細胞懸濁液を、96ウェルプレートの各ウェルに移し、37℃、8.0%CO2で30分間インキュベートした。
【0100】
フィブリノゲン溶液中、264μg/ml TGplPTHサンプルでの細胞の処理
サンプルを、2mM IBMX(SI培地)を含有する新たに調製した飢餓培地で希釈した。SI培地の調製には、DMSO中、30μlの0.67M IBMXストックを、10mlの飢餓培地に加えた。
【0101】
すべてのサンプル希釈物を、この培地で調製し、UMR−106細胞におけるホスホジエステラーゼ活性を阻害した(Janik、P.、1980;Chasin M.およびHarris、D.N.、1976)。37℃で30分インキュベートした後、50μlの希釈サンプル(結果に示されるように)を細胞に加えた。cAMP産生細胞を、37℃、8.0%CO2で1時間インキュベートした。各サンプル濃縮物を、2連のcAMP分析に従って、少なくとも2連で細胞に加えた。
【0102】
cAMP Biotrak酵素免疫アッセイ
cAMP EIAの試薬調製。アッセイバッファー、溶解試薬1A/1B、溶解試薬 2A/2B、cAMP標準、抗血清、cAMPペルオキシダーゼコンジュゲートおよび洗浄バッファーは、製造業者(cAMP Biotrak EIAキット、GE Healthcare)のマニュアルに従って調製した。1M 硫酸停止溶液は、53mlのH2SO4(濃度=18.76M)を947mlの再蒸留水で希釈することによって調製した。
【0103】
細胞溶解およびcAMPの希釈。cAMPの抽出のために、100μlのPTHを含有する細胞懸濁液を、25μlの(最終希釈1:5)、cAMP Biotrak EIAキット(GE Healthcare)の一部である、溶解試薬溶媒1Aとともにインキュベートした。完全な溶解のために、細胞を、500rpm、室温で15分間振盪した。抽出されたcAMPは、溶解試薬1B(cAMP Biotrak EIA kit)を用い、最終的に1:20に希釈した(アッセイプレートでの1:1希釈(125μl溶解試薬1Bを加えた)と、それに続く、ELISAプレートでの1:10希釈(90μlの溶解試薬1B+10μlの希釈細胞懸濁液)。
【0104】
cAMP作業標準の調製。非アセチル化アッセイ(cAMP Biotrak EIAキット)の凍結乾燥cAMP標準を、アッセイバッファーに溶解して、32pmol/mlの濃度を得た。2倍希釈シリーズは、32pmol/ml〜0.5pmol/mlの範囲で調製した。
【0105】
内部対照。100μlの各標準およびサンプル希釈物を、適当なウェルに移し、2連で分析した。さらに、2種の異なる内部対照、非特異的結合(NSB)対照およびゼロ対照(0)が、cAMP ELISAの特異性を示すために必要であり、製造業者(GE Healthcare)によって推奨されるように実施した。
【0106】
酵素イムノアッセイ手順。100μlの抗血清を、NSB対照を除くすべてのウェルに加えた。抗体反応は、振盪しながら4℃で2時間実施した。50μlのcAMPペルオキシダーゼコンジュゲートとともに、振盪しながら4℃で1時間インキュベートした後、すべてのウェルを、300μlの洗浄バッファーを用いて4回洗浄した。最後に、各ウェルに、150μlのTMB(3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン)を加え、基質反応を、室温で10分間可能にした。反応は、100μlの1M H2SO4を加えることによって停止し、およびプレートリーダーを用いて450nmで光学密度を直ちに調べた。
【0107】
データ分析。光学密度は、ソフトウェアKC4を用いて、450nmでサンプルの吸光度を測定することによって、プレートリーダー(Synergy HT)で調べた。バックグラウンド補正、平均値、標準偏差、変動の係数の算出および標準曲線の作製は、Microsoft Excel 2000で実施した。Sigmaplot9.0を、4パラメータフィットおよびEC50算出のために用いた。PLA1.2(Stegmann Systemberatung)を並列直線分析および相対力の検出のために用いた。
【0108】
結合しているcAMPペルオキシダーゼコンジュゲートのパーセンテージ。各標準およびサンプルの結合しているcAMPペルオキシダーゼコンジュゲートのパーセントを、以下の関係を用いて算出した:
【0109】
【化2】
標準曲線。cAMP標準曲線は、パーセントB/BO(y軸)を、logc(cAMP)(x軸)の関数としてプロットすることによって作成した。
【0110】
サンプル中のcAMP濃度。希釈係数(20×)を考慮して、産生されたcAMP量は、標準曲線のパラメーター(傾きおよび切片)を用いて算出した。
【0111】
直線性:cAMP ELISAの標準曲線の相関係数(R2>0.95)を評価した。
【0112】
バイオアッセイ分析のためのサンプルの調製。分析のために、サンプルを、2mMのホスホジエステラーゼ阻害剤IBMXを含有する飢餓培地(SI培地)で、2400nMTGplPTH(13,2μg/ml TGplPTH)の最終濃度に希釈した。すべてのサンプルについて、150μlの以下の8シリーズ希釈物を調製し、50μlを細胞(細胞での総容積:100μl)に直接加えた。すべてのサンプルおよびすべての希釈物について、OD450の平均値、標準偏差、cAMP濃度および変動係数を算出した。
【0113】
【化3】
段階希釈の表。用量反応曲線を作製するために、各サンプルについて7回の1:1段階希釈ステップを実施し、すべての希釈物は、3連で分析した。
【0114】
結果
PTH生物活性に対するSrCl2およびCaCl2の影響を、5つの異なる実験にわたって独立してモニターした(図14)。これらの研究によって、TGplPTH処理に先立つUMR−106細胞の、20mM SrC12をともなう24hプレインキュベーションは、生物活性の2倍の増大につながるのに対し、CaCl2は、PTH生物活性の変化を示さない(図14)ということが示された。これらの結果は、ストロンチウムおよびPTHが、cAMP産生に対して相乗作用を有することを示し、PTHおよびストロンチウムの組み合わせは、in vivoでのタンパク同化骨形成につながり得るという結論を支持する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨治癒または骨成長に使用するための、フィブリン、トロンビンおよびストロンチウム含有化合物を含む組成物。
【請求項2】
ゲル、パテ、ペーストまたは液体形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
可塑剤をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記可塑剤がヨード含有化合物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ヨード含有化合物が、ジアトリゾ酸、イオデコール、イオジキサノール、イオフラトール、イオグラミド、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドならびにそれらの混合物および多価アルコールからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ゲル化相に先立って、またはその間に、液体、ペーストもしくはゲルとして、または予め形成されたゲル、ペーストもしくはパテとして組織欠損に送達され得る、請求項1、2、3、4または5に記載の組成物。
【請求項7】
フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質、細胞結合性タンパク質、血液凝固因子XIIIなどの血漿由来タンパク質、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤からなる群から選択される、1種以上の細胞外タンパク質を含む、請求項1、2、3、4または6に記載の組成物。
【請求項8】
治癒過程の間に、再吸収され、組織と置換される、請求項1、2、3、4、6または7に記載の組成物。
【請求項9】
凝固誘導剤、例えば、プロタミン、ヘビ毒、トランスグルタミナーゼ、FXIIa、または生理学的に許容されるアルカリバッファー系をさらに含む、請求項1、2、3、4、5、6、7または8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ストロンチウム含有化合物が、可溶性微粒子、顆粒状の形態または固体形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
前記ストロンチウム含有化合物が、ストロンチウムをカルシウム含有化合物に加えて、カルシウムおよびストロンチウム含有塩を含む物質を製造するステップによって作製される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記カルシウム含有化合物が、リン酸カルシウムである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記リン酸カルシウムが、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
ストロンチウム含有またはカルシウム含有化合物が、100ナノメートル〜50ミリメートルの範囲の粒子寸法を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
ストロンチウム含有またはカルシウム含有化合物が、0.5〜5ミリメートルの粒子寸法を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物中のカルシウム塩に対するストロンチウム塩のパーセンテージが、0.25%〜100%ストロンチウム含有塩の範囲である、請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
ストロンチウム含有化合物が、ストロンチウムを生物活性ガラス中に加え、ストロンチウム含有生物活性ガラス物質を製造するステップによって作製される、請求項10に記載の組成物。
【請求項18】
ストロンチウム含有化合物が、塩化ストロンチウム、ラネル酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ストロンチウムアパタイト、ピルビン酸ストロンチウム、α−ケトグルタル酸ストロンチウムおよびコハク酸ストロンチウムからなる群から選択される、請求項1、2、3、6、8、10、11または17に記載の組成物。
【請求項19】
カルシウム擬態薬、オステオカルシン、L−アルギニンなどのアミノ酸およびアルギノミメティクスおよびアルギニン類似体からなる群から選択されるストロンチウムコリガンドをさらに含む、請求項1、2、3、6、8、10、11、17または18に記載の組成物。
【請求項20】
前記可塑剤が、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセロールまたは単糖、二糖、三糖、多糖からなる群から選択される糖およびそれらの組み合わせである、請求項3に記載の組成物。
【請求項21】
骨形態形成タンパク質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ビスホスホネート、上皮成長因子、インスリン様増殖因子およびTGF増殖因子からなる群から選択されるタンパク質をさらに含む、請求項1、2、3、4、5、6、9、10、11、12、13、15、16、17、18、19または20に記載の組成物。
【請求項22】
組成物のゲル化が、種々の成分の混合時に起こる、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
注射可能な組成物である、前記の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
生存被験体において、罹患骨または、損傷を受けた骨または欠損した骨を治療する方法であって、請求項23に記載の組成物を含む組成物を前記被験体の海綿骨中に注入するステップを含む方法。
【請求項25】
前記組成物を前記被験体の海綿骨に注入することが、ストロンチウムを含まない同様の組成物の適用で観察されるものよりもより速い治癒の速度を生じる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
欠損を有する骨を修復する方法であって、(a)骨またはその一部を機械的に固定するステップ、および(b)欠損を、前記欠損の修復に効果をもたらす量の、請求項1から23のいずれかに記載の組成物で埋めるステップを含む方法。
【請求項27】
前記欠損が、骨折であり、前記修復が、前記骨折の骨治癒である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物の適用が、前記組成物の適用の不在下で観察されるものよりもより速い治癒の速度を生じる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物の適用が、ストロンチウムを含まない同様の組成物の適用で観察されるものよりもより速い治癒の速度を生じる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記骨が、大腿骨、脛骨、上腕骨および橈骨からなる群から選択される長骨である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
骨欠損の部位で新規骨成長を促進する方法であって、前記欠損の部位を、請求項1から23のいずれかに記載の組成物と接触させるステップを含む方法。
【請求項32】
前記骨成長の速度が、ストロンチウムを含まない同様の組成物の存在下で見られる骨成長と比較して、前記組成物中のストロンチウムの存在下でより速い、請求項31に記載の方法。
【請求項1】
骨治癒または骨成長に使用するための、フィブリン、トロンビンおよびストロンチウム含有化合物を含む組成物。
【請求項2】
ゲル、パテ、ペーストまたは液体形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
可塑剤をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記可塑剤がヨード含有化合物である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
ヨード含有化合物が、ジアトリゾ酸、イオデコール、イオジキサノール、イオフラトール、イオグラミド、イオヘキソール、イオメプロール、イオパミドール、イオプロミド、イオトロール、イオベルソール、イオキサグル酸およびメトリザミドならびにそれらの混合物および多価アルコールからなる群から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
ゲル化相に先立って、またはその間に、液体、ペーストもしくはゲルとして、または予め形成されたゲル、ペーストもしくはパテとして組織欠損に送達され得る、請求項1、2、3、4または5に記載の組成物。
【請求項7】
フィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質、細胞結合性タンパク質、血液凝固因子XIIIなどの血漿由来タンパク質、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤からなる群から選択される、1種以上の細胞外タンパク質を含む、請求項1、2、3、4または6に記載の組成物。
【請求項8】
治癒過程の間に、再吸収され、組織と置換される、請求項1、2、3、4、6または7に記載の組成物。
【請求項9】
凝固誘導剤、例えば、プロタミン、ヘビ毒、トランスグルタミナーゼ、FXIIa、または生理学的に許容されるアルカリバッファー系をさらに含む、請求項1、2、3、4、5、6、7または8に記載の組成物。
【請求項10】
前記ストロンチウム含有化合物が、可溶性微粒子、顆粒状の形態または固体形態である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項11】
前記ストロンチウム含有化合物が、ストロンチウムをカルシウム含有化合物に加えて、カルシウムおよびストロンチウム含有塩を含む物質を製造するステップによって作製される、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記カルシウム含有化合物が、リン酸カルシウムである、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記リン酸カルシウムが、リン酸三カルシウム、α−リン酸三カルシウム、β−リン酸三カルシウム、リン酸カルシウムの多形、ヒドロキシアパタイト、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
ストロンチウム含有またはカルシウム含有化合物が、100ナノメートル〜50ミリメートルの範囲の粒子寸法を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項15】
ストロンチウム含有またはカルシウム含有化合物が、0.5〜5ミリメートルの粒子寸法を有する、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物中のカルシウム塩に対するストロンチウム塩のパーセンテージが、0.25%〜100%ストロンチウム含有塩の範囲である、請求項11に記載の組成物。
【請求項17】
ストロンチウム含有化合物が、ストロンチウムを生物活性ガラス中に加え、ストロンチウム含有生物活性ガラス物質を製造するステップによって作製される、請求項10に記載の組成物。
【請求項18】
ストロンチウム含有化合物が、塩化ストロンチウム、ラネル酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、グルタミン酸ストロンチウム、アスパラギン酸ストロンチウム、マロン酸ストロンチウム、マレイン酸ストロンチウム、アスコルビン酸ストロンチウム、トレオン酸ストロンチウム、乳酸ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、ストロンチウムアパタイト、ピルビン酸ストロンチウム、α−ケトグルタル酸ストロンチウムおよびコハク酸ストロンチウムからなる群から選択される、請求項1、2、3、6、8、10、11または17に記載の組成物。
【請求項19】
カルシウム擬態薬、オステオカルシン、L−アルギニンなどのアミノ酸およびアルギノミメティクスおよびアルギニン類似体からなる群から選択されるストロンチウムコリガンドをさらに含む、請求項1、2、3、6、8、10、11、17または18に記載の組成物。
【請求項20】
前記可塑剤が、ポリエチレングリコール、多価アルコール、グリセロールまたは単糖、二糖、三糖、多糖からなる群から選択される糖およびそれらの組み合わせである、請求項3に記載の組成物。
【請求項21】
骨形態形成タンパク質、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニン、ビスホスホネート、上皮成長因子、インスリン様増殖因子およびTGF増殖因子からなる群から選択されるタンパク質をさらに含む、請求項1、2、3、4、5、6、9、10、11、12、13、15、16、17、18、19または20に記載の組成物。
【請求項22】
組成物のゲル化が、種々の成分の混合時に起こる、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
注射可能な組成物である、前記の請求項のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
生存被験体において、罹患骨または、損傷を受けた骨または欠損した骨を治療する方法であって、請求項23に記載の組成物を含む組成物を前記被験体の海綿骨中に注入するステップを含む方法。
【請求項25】
前記組成物を前記被験体の海綿骨に注入することが、ストロンチウムを含まない同様の組成物の適用で観察されるものよりもより速い治癒の速度を生じる、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
欠損を有する骨を修復する方法であって、(a)骨またはその一部を機械的に固定するステップ、および(b)欠損を、前記欠損の修復に効果をもたらす量の、請求項1から23のいずれかに記載の組成物で埋めるステップを含む方法。
【請求項27】
前記欠損が、骨折であり、前記修復が、前記骨折の骨治癒である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物の適用が、前記組成物の適用の不在下で観察されるものよりもより速い治癒の速度を生じる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記組成物の適用が、ストロンチウムを含まない同様の組成物の適用で観察されるものよりもより速い治癒の速度を生じる、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記骨が、大腿骨、脛骨、上腕骨および橈骨からなる群から選択される長骨である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
骨欠損の部位で新規骨成長を促進する方法であって、前記欠損の部位を、請求項1から23のいずれかに記載の組成物と接触させるステップを含む方法。
【請求項32】
前記骨成長の速度が、ストロンチウムを含まない同様の組成物の存在下で見られる骨成長と比較して、前記組成物中のストロンチウムの存在下でより速い、請求項31に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図8】
【図10】
【図14】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図8】
【図10】
【図14】
【公表番号】特表2010−525070(P2010−525070A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506402(P2010−506402)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/060720
【国際公開番号】WO2008/131154
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/060720
【国際公開番号】WO2008/131154
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]