説明

スナウト内ドロスの除去装置及び除去方法

【課題】噴射ノズルからの噴流が金属板によって反射された後に該噴射ノズル方向に反転する液流を制御して、噴射ノズルから金属板へ向かう噴流に干渉することを抑え、浮遊ドロスが金属板方向に戻って付着することを防止すると共に、該浮遊ドロスを効率よく除去することができる手段を得る。
【解決手段】溶融金属めっき装置のスナウト2内における溶融金属中に設けられて、金属板3に溶融金属を吹付けてスナウト内の溶融金属浴面に浮遊するドロスを金属板から離す方向の液流を発生させる各噴射ノズル4,5に、その噴射目標位置11を上記スナウト2内における金属板3の溶融金属への侵入位置をとして溶融金属を噴射させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板の溶融金属めっきの際に生じる、スナウト内の溶融金属浴面に浮遊するドロスを除去する除去装置及び除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板等の金属板に亜鉛等の溶融金属めっきを施すに際しては、未焼鈍の、あるいは焼鈍済の金属板を、溶融金属浴に挿し込んだスナウトを通じて該溶融金属浴内に連続的に浸漬させる溶融金属めっき装置を使用するのが一般的である。
上記溶融金属めっき装置は、通常、上記スナウトは溶融金属浴面に対して一定の角度で斜めに挿入されており、また、溶融金属浴内には、スナウト内に位置する金属板の板面に溶融金属を吹付ける複数の噴射ノズルが配置された構成となっている。
【0003】
ところで、上記スナウト内は大気と遮断され、且つ窒素ガス等の非酸化性雰囲気に保持されており、めっきを施す金属板の表面の酸化汚染を防止しているが、非酸化性雰囲気あるいは焼鈍後の金属板表面には微量の酸素や水分が含有されているため、これらの酸素や水分が溶融金属浴面の溶融金属と反応して浮遊ドロスを生成する。また、金属板から溶融金属浴に溶出した金属(例えば鋼板の場合はFe)と、めっき密着性向上のために浴中に添加されているAlとが反応してドロスを生成することも知られている。
上述のように生成されたドロスは、溶融金属浴面に浮遊し、溶融金属浴内に浸漬される金属板の表面に付着して品質不良を生じさせる原因となっていた。
【0004】
そのため、上記ドロスを除去するべく、例えば特許文献1に示すように、スナウト内に、溶融金属を吐出して浮遊するドロスを一定の方向に押し流す吐出ノズルと、押し流されたドロスを溶融金属と共に吸い込む吸引口とを設け、溶融金属浴面に吐出ノズルから吸引口へ向かう方向の溶融金属の流れを強制的に形成して吸引口でドロスを回収することが広く行われている。
このような構成を備えた溶融金属浴の場合、上述のように、スナウト内には該スナウト内に位置する金属板の板面に溶融金属を吹付ける複数の噴射ノズルが配設されている。
通常、これらの噴射ノズルは、図8(なお、図8中の矢印は液流の方向を示す。)に示すように、溶融金属浴面とスナウト先端との中間位置の高さにある金属板の板面を噴射目標位置として、溶融金属をスナウト外の下方からそれぞれ噴射する。これらの噴射ノズルから噴射された溶融金属の噴流は、金属板の板面に衝突し、反射されることとなるが、このとき、この金属板に反射された溶融金属の流れによって、溶融金属浴面には、金属板から離れる方向に向かう液流が形成されるため、この液流によって浮遊ドロスは金属板から離れる方向に押し流される。そして、その金属板から離れる方向に押し流された浮遊ドロスが、上記吐出ノズルから吸引口へ向かう溶融金属の流れによって該吸引口側にさらに押し流され、この吸引口からスナウト内のドロスが回収、除去される。
【0005】
しかしながら、噴射ノズル22から噴射されて金属板23によって反射された溶融金属の一部は、図8に示すように、さらに溶融金属浴面方向に向かって流されて該溶融金属浴面24に衝突、反射されるため、スナウト25内の溶融金属中には上記噴射ノズル22からの噴流方向に反転する液流も形成される。一方で、金属板の溶融金属浴内への引込みに伴って、金属板の表面近傍の溶融金属浴中には、金属板の引込み方向(長手方向)に向かう液流である、いわゆる随伴流が発生しているため、その随伴流が噴射ノズル22からの噴流に干渉して該噴流の勢いを弱め、逆に噴流方向に反転する液流の勢いを増大させていた。
そうすると、上記噴流方向に反転した液流が、上記随伴流によって勢いを増す一方で、該随伴流自体も噴射ノズル22からの噴流に干渉するため、該噴流の勢いが著しく低下し、これにより、上述した溶融金属浴面において金属板23から離れる方向に向かう液流の発生が阻害されたり、またその液流が発生しても勢いが弱い状態となったりしていた。
【0006】
この結果、浮遊ドロスが金属板から離れる方向に押し流されにくくなり、場合によっては浮遊ドロスが金属板方向に再度接近して金属板に付着してしまうことがあった。さらには、上記噴射ノズル方向に反転する液流と、噴射ノズルから金属板へ向かう噴流とが相互干渉した際には、スナウト内の溶融金属浴面に波が立って起伏を生じさせるため、浮遊ドロスの金属板から離れる方向への移動が一層阻害され、浮遊ドロスが金属板方向に戻りやすい状況を形成していた。
そのため、スナウト内の浮遊ドロスの除去を効率よく行うことができず、該浮遊ドロスの金属板表面への付着を十分に防止できない現象が生じていた。このような現象は、スナウト内における金属板と溶融金属浴面(浴内側)とが鋭角をなす側(図8における金属板22の左側)において顕著にあらわれる傾向にあり、ドロス付着による品質不良が生じる原因となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−59942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の技術的課題は、噴射ノズルからの噴流が金属板によって反射された後に該噴射ノズル方向に反転する液流を制御して、噴射ノズルから金属板へ向かう噴流に干渉することを抑え、浮遊ドロスが金属板方向に戻って付着することを防止すると共に、該浮遊ドロスを効率よく除去することができる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のスナウト内ドロスの除去装置は、溶融金属浴面に対して斜めに挿入させたスナウトを通じて金属板を溶融金属浴内に浸漬させる溶融金属めっき装置において、金属板に溶融金属を吹付けてスナウト内の溶融金属浴面に浮遊するドロスを金属板から離す方向の液流を発生させる、溶融金属浴中のスナウト外の下方に配置された複数の噴射ノズルと、上記スナウト内における金属板の板幅方向の一端側に配設されて、溶融金属を金属板の他端側方向へ吐出する吐出ノズルと、上記スナウト内における金属板の板幅方向の他端側に配設されて、該スナウト内の上記ドロスを吸引する吸引口とを備えたドロスの除去装置であって、上記各噴射ノズルは、上記スナウト内における金属板の溶融金属への侵入位置を噴射目標位置として溶融金属を噴射する構成となっていることを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、上記スナウト内における溶融金属中に、金属板方向に突出し且つ金属板の板幅方向に沿うように配設され、噴射ノズルからの噴流の流れを整える板体状の整流板が設けられているものとすることができる。
この場合において、上記整流板は、金属板と対向する端部側が噴射ノズルの噴射目標位置と同じ高さ方向に向き、且つ金属板側の端部側に行くに従って溶融金属浴面に近づくように傾斜した状態でスナウト内に配設されているものとすることが好ましい。
さらに、本発明においては、上記整流板は、金属板と対向する端部側とは反対側の端部とスナウト内壁との間に隙間を空けて該スナウトに固定されているものとすることができる。
【0011】
一方、上記課題を解決するため、本発明のスナウト内ドロスの除去方法は、溶融金属浴面に対して斜めに挿入させたスナウトを通じて金属板を溶融金属浴内に浸漬させる溶融金属めっき装置において、溶融金属浴中のスナウト外の下方に配置した複数の噴射ノズルにより金属板に溶融金属を吹付け、スナウト内の溶融金属浴面に浮遊するドロスを金属板から離す方向の液流を発生させることにより該ドロスを金属板から離れる方向に押し流すと共に、上記スナウト内における金属板の板幅方向の一端側に配設された吐出ノズルから溶融金属を金属板の他端側方向へ吐出して上記ドロスを該金属板の他端側方向に押し流し、スナウト内における金属板の板幅方向の他端側に配設された吸引口によって該ドロスを溶融金属と共に吸引するスナウト内ドロスの除去方法であって、上記各噴射ノズルから噴射する溶融金属の噴射目標位置を、金属板の溶融金属への侵入位置とすることを特徴とする。
【0012】
このとき、本発明においては、上記スナウト内における溶融金属中に、金属板方向に突出し且つ金属板の板幅方向に沿うように整流板を配設し、噴射ノズルからの噴流の流れを整えることができる。
また、この場合においては、上記整流板を、金属板と対向する端部側が上記噴射ノズルの噴射目標位置と同じ高さ方向に向き、且つ金属板側の端部側に行くに従って溶融金属浴面に近づくように傾斜した状態でスナウト内に配設することが好ましい。
さらに、本発明においては、上記整流板を、金属板対向する端部側とは反対側の端部とスナウト内壁との間に隙間を形成した状態で該スナウトに固定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上記各噴射ノズルが、上記スナウト内における金属板の溶融金属への侵入位置の高さを噴射目標位置として溶融金属を噴射する構成となっているため、噴射ノズルからの噴流に対して、金属板の溶融金属への引込みに伴って金属板近傍に発生する随伴流が直接的に干渉する機会が大幅に抑えられ、各噴射ノズルからの噴流の勢いの低下が抑えられる。
さらに、噴射ノズルから噴射された溶融金属は、金属板の溶融金属への侵入位置の高さ、即ち溶融金属浴面で金属板の板面に衝突して反転するため、反転した溶融金属の流れが金属板による随伴流により勢いが増大する機会が大幅に抑えられる。
これにより、溶融金属浴面には、浮遊ドロスが金属板から離れる方向の液流が確実且つ安定的に発生するため、該浮遊ドロスを効率よく除去することができると共に、浮遊ドロスの金属板への付着を抑止することができるため、ドロス付着に起因するめっきをした金属板の品質不良を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るスナウト内ドロスの除去装置を模式的にあらわした平断面図である。
【図2】同要部拡大断面図である。
【図3】整流板の金属板と対向する端部側の向き(側面視における整流板の角度)について説明する図である。ただし、(a)向きが噴射目標位置よりも低すぎる場合、(b)向きが噴射目標位置に向いている場合、(c)向きが噴射目標位置よりも高すぎる場合をそれぞれ示す。
【図4】スナウト内における金属板の表面側の溶融金属の流れを模式的に示す平面図である。ただし、金属板の裏面側の噴射ノズル等については省略している。
【図5】整流板を鋼板の両面側に設けた実施の形態を示す要部拡大断面図である。
【図6】実施例における比較実験において、鋼板の表面側及び裏面側に発生した疵の発生個数の結果を示すグラフである。
【図7】同実験において、鋼板の表面側及び裏面側の疵の発生位置(吸引側の端部からの位置)を示すグラフである。
【図8】従来のスナウト内ドロスの除去装置の要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1〜図4は、本発明に係るスナウト内ドロスの除去装置の一実施の形態を示すものである。この実施の形態の除去装置は、溶融金属浴面1aに挿入させたスナウト2を通じて金属板3を溶融金属浴1内に浸漬させる構成の溶融金属めっき装置に使用される。
なお、図中の太線の矢印は液流の方向を示している。
【0016】
さらに具体的に、この除去装置は、溶融金属浴1中におけるスナウト2外に配置され、スナウト2内に位置し且つ溶融金属浴1中に浸漬された金属板3の板面に対して溶融金属を吹付ける複数の噴射ノズル4,5と、スナウト2内に位置し且つ溶融金属浴1中に浸漬された金属板3の板面に溶融金属を吹付ける溶融金属を金属板3の板幅方向の一端側から他端側方向へ向けて吐出する吐出ノズル6、及び溶融金属浴面1aに浮遊するドロスを吸引する吸引口7とを有している。
さらに、上記噴射ノズル4から噴射された溶融金属が金属板3の板面に衝突した後に生じる溶融金属の流れを制御する整流板8を備えている。
【0017】
上記溶融金属めっき装置のスナウト2は、先端側が、鋼板等の金属板に亜鉛等の溶融金属を施す溶融金属浴1に対して斜めに挿入されたもので、断面が金属板3の板幅方向に長い略矩形枠状に形成された角筒状の構成となっている。そして、未焼鈍の、あるいは焼鈍済の金属板を内部空間内の中央部を移動させて、溶融金属浴1内に下方に向けて順次導出させ、該金属板3を連続して溶融金属に浸漬することができるようになっている。
【0018】
一方、上記除去装置の噴射ノズル4,5は、金属板3の板面の両面側、且つ溶融金属浴中におけるスナウトの先端側の開口の下方側にそれぞれ配設されている。
この噴射ノズル4,5は、溶融金属浴1中の金属板3の板面に対して溶融金属を噴射して、その噴流を金属板3に衝突させて反転させることにより、図4に示すように、スナウト2内の溶融金属浴面1aに、金属板3から離れる方向(金属板3の板面と対向するスナウト2の長手の内壁に向かう方向)の液流(以下「剥離流」という。)を発生させる機能を備えているものである。
この実施の形態においては、上記各噴射ノズルは、金属板3の板面の両面に6本ずつ設けられており、各噴射ノズルは、金属板3の板面の両面側に延びた噴射ノズル用の供給管9,10にそれぞれ取付けられている。また、各噴射ノズル4,5は、各供給管9,10を通じて、溶融金属浴1外に設けられたポンプ9a,10aによる溶融金属の圧送がそれぞれ行われる構成となっている。
【0019】
また、上記噴射ノズルのうち、スナウト2内における金属板3と溶融金属浴面1a(浴内側)とが鋭角をなす側(図2における金属板の左側。以下、この実施の形態においては「金属板の表面側」という。)に位置する各噴射ノズル4は、その噴射口が、溶融金属浴1に浸漬されたスナウト2内の金属板3の板面に対し、側面視において斜め上方向き、且つ平面視においては吸引口7の方向側に斜めに傾いた方向に向いた状態で配設されている。
したがって、これらの噴射ノズル4は、溶融金属浴1内においてはスナウト2内の金属板3の板面に向いた斜め上方向き、且つ吸引口側の斜め方向に噴流を形成するように溶融金属を噴射するようになっている。
一方、スナウト2内における金属板3と溶融金属浴面1a(浴内側)とが鈍角をなす側(図2における金属板の右側。以下、この実施の形態においては「金属板の裏面側」という。)に位置する各噴射ノズル5は、その噴射口が、溶融金属浴1に浸漬されたスナウト2内の金属板3の板面に対して、側面視において斜め上方向き、且つ平面視においては吸引口の方向側に斜めに傾いた方向に向いた状態で配設されている。
したがって、これらの噴射ノズル5は、溶融金属浴1内においてはスナウト2内の金属板3の板面に向いた斜め上方向き、且つ吸引口側の斜め方向に噴流を形成するように溶融金属を噴射するようになっている。
なお、この実施に形態においては、金属板3の裏面側に位置する各噴射ノズル5は、金属板3の表面側に位置する各噴射ノズル4よりも溶融金属浴内の深い位置から溶融金属を噴射する配置となっている。
【0020】
ところで、各噴射ノズル4,5は、スナウト2内における金属板3の溶融金属への侵入位置を噴射目標位置11として溶融金属を噴射するように噴射口の向きがそれぞれ設定されており、これにより、各噴射ノズル4,5からの噴流は、金属板3の溶融金属への侵入位置に向けて噴射されることとなる。
ここで、各噴射ノズル4,5の噴射目標位置を、金属板3の溶融金属への侵入位置としたのは、噴射ノズルからの噴流が金属板3の板面に衝突、反射した後に形成される上述した剥離流を安定的に発生させるためである。
【0021】
具体的に説明すると、既に述べたように、上記噴射ノズル4,5からの溶融金属の噴流が金属板3の板面に衝突、反射した後、溶融金属浴面1aには上記剥離流が形成され、該剥離流によって浮遊ドロスは金属板3から離れる方向に押し流される。
しかしながら、噴射ノズル4,5から噴射されて金属板3によって反射された溶融金属の一部は、さらに溶融金属浴面方向に向かって該溶融金属浴面1aに衝突、反射されて、スナウト2内の溶融金属中には上記噴射ノズル4,5の噴流の方向に反転する液流(以下「反転流」という。)を形成する。
また、溶融金属浴中における金属板3の板面やその近傍には、金属板3の溶融金属浴内への引込みに伴って、該金属板3の引込み方向、つまりは反転流とほぼ同じ方向に向かう随伴流も発生している。
【0022】
このとき、上記反転流や随伴流は、噴射ノズル4,5からの噴流とはほぼ相反する方向に向かう流れであるため、噴流に干渉して該噴流の勢いを低下させる。その上、この剥離流は、随伴流の影響により、勢いが増大されることとなる。
したがって、従来のように噴射ノズルからの溶融金属を、スナウト外の下方側から溶融金属浴面とスナウト先端との中間位置の高さにある板面に吹き付けた場合には、噴射ノズルからの噴流は、上記随伴流自体や該随伴流によって勢いが増した反転流の影響を直接的に受けることとなる。さらには、噴流が金属板に衝突した後の液流が金属板に沿って溶融金属浴面に至り、該溶融金属浴面で反射されて剥離流となる過程においても、反転流や随伴流の影響を受け続ける。
この結果、噴流自体の勢い、及び噴流が金属板に衝突した後に剥離流を発生させる液流の勢いが低下し、溶融金属浴面における剥離流の勢いが著しく低下したり、あるいは剥離流自体の発生が阻害されたりすることとなる。
【0023】
そのため、本発明においては、上述した反転流や随伴流の影響を可及的に抑止するため、各噴射ノズル4,5の噴射目標位置を、金属板3の板面やその近傍において随伴流の勢いが比較的弱い位置である、金属板3の溶融金属への侵入位置、つまりは金属板3が溶融金属に侵入する溶融金属浴面としている。
このようにすることで、随伴流自体が噴流に与える影響を抑え、且つこの随伴流による反転流の勢いの増大を抑止する一方、噴流が金属板3に衝突した直後に溶融金属浴面1aで剥離流が形成されるようにして、噴流や該噴流の金属板衝突後に生じる剥離流を発生させる液流が、反転流や随伴流の影響を受ける機会を極力減らしている。
これにより、浮遊ドロスを金属板3から剥離させることができる程度の勢いを有する剥離流を安定的に発生させることができるため、結果として、浮遊ドロスの金属板3への接近、付着を抑止することが可能となる。
【0024】
吐出ノズル6は、上記スナウト2内における金属板3の板幅方向の一端側、即ち、スナウト2内の長手方向の一端側に配設されていて、溶融金属を吐出することにより溶融金属浴面1aに金属板3の幅方向の一端側から他端側方向へ向く溶融金属の流れを形成するようになっている。
この吐出ノズル6は、金属板3の板面の両面側にそれぞれ溶融金属を吐出することができるように、ボックス状のヘッド部材12に所定の間隔で配設された2つの吐出口12a,12aが設けられた構成となっている。なお、この吐出ノズル6には、ヘッド部材12に連結された吐出ノズル用の供給管13を通じて、溶融金属浴1の外部に設けられたポンプ13aによる溶融金属の圧送が行われる。
【0025】
また、上記吸引口7は、上記スナウト2内における金属板3の他端側、即ち、スナウト2内における上記吐出ノズル6とは反対側の端側に配設されたボックス状のヘッド部材14に開設されたものある。これにより、この吸引口7は、スナウト2内においては、上記吐出ノズル6による溶融金属の吐出によって形成された溶融金属の流れの最も下流側に配置された態様となり、吐出ノズル6によって形成された溶融金属の流れに乗って移動してきた浮遊ドロスを吸引し、スナウト2内から除去することができるようになっている。
なお、この吸引口7は、上記ヘッド部材14に連結された連結管15を介して、スナウト2外に設けられた排出口15aに連通していて、該吸引口7から吸い込まれた浮遊ドロスは連結管15及び排出口15aを通じてスナウト2外に排出される構成となっている。
【0026】
上記整流板8は、上記スナウト2内における溶融金属中に配設されていて、金属板方向に突出し且つ金属板3の板幅方向に沿うように、つまりスナウト2内の空間の長手方向に沿う方向に直線的に延びる平坦な板体状ものである。
この実施の形態においては、上記整流板8は、スナウト2内における金属板3と溶融金属浴面1a(浴内側)とが鋭角なす側、つまり金属板の表面側にのみ設けられている。
【0027】
このような整流板8を設けるのは、噴流自体が剥離流に与える影響を抑えると共に、反転流が噴流に与える影響をより効果的に抑止するためである。
即ち、噴流ノズルからの噴流は、次第に拡散しながら噴射目標位置に向かって進むが、特に上方に拡散しやすい傾向にあるため、場合によっては、噴流自体が溶融金属浴面1aの剥離流に干渉したり、金属板3近傍の溶融金属浴面1aを必要以上に波立たせたりする可能性があることから、浮遊ドロスを効率的に金属板から離すことを阻害することが考えられる。そのため、上記整流板8を設けて、その下面側で噴射ノズル4からの噴流が上方に拡散しすぎるのを押さえこんで、噴流の方向を整え、これにより噴流自体が剥離流に影響を与えることを可及的に抑えている。
また、上述のように、本発明においては、各噴射ノズル4,5の噴射目標位置を金属板3の溶融金属への侵入位置として、噴流が反転流から受ける影響をできるだけ抑えるようにしているが、反転流の発生自体を防止することはきわめて困難である。そのため、上記整流板8は、その上面側で反転流をできるだけ遮断し、これにより、該反転流が噴流の方向に向かうのを抑えて、反転流が噴流に干渉することをより効果的に抑止できるようにする機能をも有している。
【0028】
上記整流板8についてさらに具体的に説明すると、この整流板8は、図3(b)に示すように、金属板3と対向する端部側(この実施の形態においては、金属板側に位置する長手の端部側)の向きが、噴射ノズルの噴射目標位置11と同じ高さ方向、即ち、スナウト2内における金属板3の溶融金属への侵入位置と同じ高さ方向に向いていて、しかも金属板側の端部側に行くに従って溶融金属浴面1aに近づくように傾斜した状態でスナウト2内に配設されており、側面視の角度が適切となるように設定されている。
整流板8をこのように配設するのは、図3(b)に示すように、噴射ノズル4からの噴流の上下方向、特に上方の拡散を効率的に抑えて、安定的な剥離流を形成することが可能となり、浮遊ドロスを金属板3から常時安定的に離すことができるからである。
仮に、図3(a)に示すように、整流板8の金属板3と対向する端部側の向きが噴射ノズル4の噴射目標位置11よりも低すぎると、噴射ノズル4からの噴流の流れ全体が整流板8に押さえられるため、該噴流が金属板3に衝突、反射した際に、溶融金属の流れが上下方向に分散され易くなり、図3(b)の場合に比べて剥離流の勢いが弱まる可能性がある。そうすると、浮遊ドロスを金属板3から離れる方向に効率よく押し流すことが阻害されることが考えられる。
一方、図3(c)に示すように、噴射ノズル4の噴射目標位置11よりも高すぎると、噴射ノズル4からの噴流が上方に拡散しすぎるのを防止するという整流板8の整流の効果が薄れるため、図3(b)の場合に比べ、拡散した噴流による剥離流の干渉の抑止効果が低下する可能性が考えられる。
なお、図3(a)〜(c)中において、符号16は浮遊ドロスである。
【0029】
また、上記整流板8の長手方向の長さは、上記噴射ノズル4からの噴流が金属板3に衝突して反射する範囲を考慮して設定される。なお、基本的にはこの整流板8の長手方向長さは可能な限り長いことが望ましいが、整流板8の長手方向の両端が上記供給ノズル6及び吸引口7に近すぎると、噴射ノズルから吸引口の方向に向かう溶融金属の流れが阻害される可能性があるため、この流れを妨げない程度の長手方向長さとすることが肝要である。
【0030】
一方、整流板8の短手方向の長さは、上記反転流が噴射ノズル4からの噴流方向に向かうことを防止することができ、且つ噴射目標に向かう該噴射ノズル4からの噴流の妨げにならない程度に金属板側に突出する長さに設定されている。
このとき、スナウト2内を移動して溶融金属に浸漬される金属板3は、その板厚に関わらずスナウト2内を移動する際にロール等の影響によって若干ばたつく傾向がある上、前工程の焼鈍・圧延等において形状不良が生じ、板面に若干の凹凸が発生している場合がある。そのため、整流板8の短手方向の長さは、金属板3のばたつきや形状不良による金属板の板面の凹凸があっても、該金属板3に接触しない程度の距離となる突出状態に設定することも肝要がある。
より具体的には、最もばたつきが大きい薄板の場合に、整流板8の先端、即ち金属板側に位置する長手の端部から約50mm程度の距離があれば、金属板のばたつきや形状不良による凹凸があっても金属板と整流板との接触が避けられ、また反転流が噴射ノズル4からの噴流方向に向かうことを防止することができ且つ噴射目標に向かう該噴射ノズル4からの噴流の妨げにならない程度の空間を形成可能であることが実験的にわかっている。
したがって、整流板8の短手方向の長さは、金属板側に位置する長手の端部と金属板3との間の距離が最低でも50mm程度離される長さとすることが望ましい。
【0031】
また、上記整流板8のスナウト2内への配設は、図2に示すように、基端側がスナウト2の先端側の開口縁に固定された複数の棒状の支持部材18により行われており、整流板8はこれらの支持部材18上に固定されることにより該スナウト内に支持されている。なお、この実施の形態においては7本の支持部材を使用して整流板8を支持させている。
上記各支持部材18は、上記スナウト2に溶接等の手段により固定された基端側の固定部18aと、該固定部18aの先端側には節された中間部18bと、該中間部18bの先端に設けられて上面側に整流板8が取付けられた支持部18cとを一体に有したもので、平面視において、金属板3の表面側に位置する噴射ノズル4の噴射方向とほぼ平行となる方向に延びている。
これらの支持部材18は、各支持部材18の中間部18bによって、上記スナウト2の内壁と上記整流板8におけるスナウト内壁側の長手の端部との間に隙間19が空けられた状態で整流板8を支持しており、これにより、スナウト2を溶融金属浴1から引き揚げた際に整流板8上の溶融金属をこの隙間19から流出させ、整流板8上に溶融金属が溜まらないようにしている。
【0032】
上記構成を有するスナウト内ドロスの除去装置を用いてスナウト2内の浮遊ドロスを除去するに際しては、溶融金属めっき装置を稼働させて、溶融金属浴面1に対して斜めに挿入させたスナウト2を通じて金属板3を溶融金属浴1内に順次浸漬して、金属板3に溶融金属めっきを施す工程を実施する。
また、溶融金属めっきを施す工程と同時に、上記除去装置を稼働させる。即ち、溶融金属浴1中に配置した複数の噴射ノズル4,5から溶融金属を、上記スナウト内における金属板の溶融金属への侵入位置を噴射目標位置11として噴射して溶融金属浴1に浸漬されたスナウト2内の金属板3の板面に溶融金属を吹付ける。そして、上記スナウト2内に配設させた吐出ノズル6から溶融金属を吐出させ、金属板3の一端側(吐出ノズル側)から他端側(吸引口側)方向へ向かう液流を発生させることにより、溶融金属浴面1aに浮遊するドロスを吸引口7に向けて押し流す。
【0033】
具体的には、図4に示すように、上記噴射ノズル4からの噴流が金属板3の板面に衝突、反射した後、溶融金属浴面1aには金属板3から離れる方向に向かう剥離流が形成されるため、この剥離流によって浮遊ドロスを金属板3から離す方向に押し流す。さらに、金属板から離す方向に押し流した浮遊ドロスを、溶融金属浴面1aの上記吐出ノズル6から吸引口7の方向に向かう液流によって吸引口7に向けて押し流し、該吸引口7においてその浮遊ドロスを吸い込むことにより、浮遊ドロスはスナウト2内から除去する。
【0034】
このとき、上記各噴射ノズル4,5が、上記スナウト内における金属板3の溶融金属への侵入位置の高さを噴射目標位置11として溶融金属を噴射する構成となっているため、噴射ノズル4,5からの噴流に対して、金属板3による随伴流が直接的に干渉する機会が大幅に抑えられ、噴流の勢いの低下が抑止される。
さらに、噴射ノズル4,5から噴射された溶融金属は、金属板3の溶融金属への侵入位置の高さ、即ち溶融金属浴面で金属板3の板面に衝突して反転するため、反転した溶融金属の流れが金属板3による随伴流により勢いが増大する機会が大幅に抑えられる。
【0035】
これにより、溶融金属浴面に、浮遊ドロスが金属板から離れる方向の液流が確実且つ安定的に発生させることができるため、浮遊ドロスは、除去装置を稼働中においては、上記剥離流に乗って金属板3から離れる方向に常時押し流され、さらには溶融金属浴面1aの吐出ノズル6から吸引口7に向かう液流によって押し流されて吸引口7から安定的に吸引、除去されることなる。
この結果、浮遊ドロスがスナウト内から効率よく除去されて、浮遊ドロスの金属板3への付着を抑止することができるため、ドロス付着に起因するめっきをした金属板の品質不良を抑えることが可能となる。
【0036】
上記実施の形態においては、整流板8を複数の棒状の支持部材18によりスナウト2内に支持させているが、整流板8をスナウト2内に安定的に支持できる構成であれば、この支持部材は板状等の任意の形状のものを採用することができる。この場合にはおいて、支持部材は、整流板を、金属板対向する端部側とは反対側の端部とスナウト内壁との間に隙間が空くようにスナウト内に支持することが好ましいことは上記実施の形態と同様である。
【0037】
また、上記実施の形態においては、上記整流板8を、該整流板8の金属板3と対向する端部側が噴射ノズル4の噴射目標位置11と同じ高さ方向、即ち、スナウト2内における金属板3の溶融金属への侵入位置と同じ高さ方向に向くように配設している。しかしながら、上記整流板の金属板と対向する端部側の方向、つまり整流板の側面視の角度については、噴射ノズルからの噴流の上下方向、特に上方の拡散を効率的に抑えて、安定的な剥離流を形成することができる方向、角度であれば、必ずしも噴射ノズルの噴射目標位置と同じ高さ方向とする必要はない。
【0038】
さらに、上記実施の形態においては、上記整流板8を、従来浮遊ドロスの金属板表面への付着が顕著であった、スナウト2内における金属板3の表面側にのみ設けているが、図5に示すように、裏面側にも設けてよい。
これより、金属板の両面に対する浮遊ドロスの付着が押さえられ、一層の品質向上を図ることができる。
図5中、符号20は金属板の裏面側の整流板、21は該整流板20の支持部材である。その他の部分については、上記実施の形態と実質的に同じ構成、同じの作用効果であるため、同様の符号を付して詳しい説明は省略する。
なお、金属板の裏面側に配置する整流板の構成や支持の構成は、基本的には、金属板の表面側に設けた整流板と同じである。
【0039】
また、上記実施の形態においては、金属板3の裏面側に位置する噴射ノズル5を、金属板3の表面側に位置する噴射ノズル4よりも溶融金属浴1内の深い位置から溶融金属を噴射させる配置とし、金属板の表面側と裏面側とで溶融金属を噴射させる深さを異なるものとしている。しかしながら、図5に示すように、金属板の表面側及び裏面側の噴射ノズルは、溶融金属浴内の同じ深さから溶融金属を噴射させる配置としてもよい。
さらに、上記実施の形態においては、金属板の裏面側に位置する噴射ノズル5を、側面視において斜め上向きに溶融金属を噴射させるような配置となっているが、図5に示すように、側面視においてほぼ鉛直方向に溶融金属を噴射させるような配置としてもよい。なお、この場合における噴射ノズル5の平面視の噴射方向は、上記実施の形態の場合と同じく、吸引口の方向側に斜めに傾いた方向である。
【実施例】
【0040】
本発明の効果を確認するため、本発明に係るスナウト内ドロスの除去装置及び除去方法と、本発明に依らない従来の除去装置とで、浮遊ドロスの除去状況を比較する実験を行った。
具体的に、この実施例においては、本発明の除去装置ついて、整流板を配設していないもの(以下、「本発明例1」という。)と、整流板を配設したもの(以下「本発明例2」という)を用いる一方、従来の除去装置については、噴射ノズルの噴射目標位置がスナウト内における金属板の溶融金属への侵入位置ではなく、且つ整流板を配設していないもの(以下「比較例」という。)を用いた。
そして、本発明例1,2及び比較例に係る各装置について、板幅1250mm、板厚1.6mmの鋼板に亜鉛めっきを施す場合を対象とし、浮遊ドロスの除去状況を比較は、めっきを施した後の鋼板においてドロスに起因する疵の個数や位置を比較することにより行った。
なお、本発明例1,2及び比較例が適用される溶融金属めっき装置は、上記実施の形態と同じ構成であり、いずれも、スナウト内の短手の長さを314mmとし、溶融金属浴面に対して約57〜60°の角度で、先端側を溶融金属浴面から約150mm程度の深さにまで挿入した。
【0041】
本発明例1,2に係る除去装置は、本発明例1に係る除去装置が整流板を備えていない点、及び本発明例2に係る除去装置における噴射ノズルは、すべて同じ溶融金属浴内の深さから溶融金属を噴射する配置とした点以外は、基本的には上述した実施の形態とほぼ同様の構成とした。
この場合において、本発明例1,2に係る除去装置のいずれも、鋼板と溶融金属浴面(浴内側)とが鋭角をなす側(以下、この実施例において「鋼板の表面側」という。)に位置する噴射ノズルは、平面視においては鋼板に対して約60°の方向、側面視においては鋼板に対して約20°の方向から、スナウト内における金属板の溶融金属への侵入位置を噴射目標位置として溶融金属を噴射するようにした。また、鈍角をなす側(以下、この実施例においては「鋼板の裏面側」という。)に位置するノズルは、平面視において鋼板に対して約45°の方向、側面視においては鋼板に対して約33°(つまり、側面視においてはほぼ鉛直)の方向から、スナウト内における金属板の溶融金属への侵入位置を噴射目標位置として溶融金属を噴射するようにした。
さらに、本発明例1に係る除去装置は、鋼板の表面側の噴射ノズルを、該噴射ノズルの先端が溶融金属浴面から189mmの深さ、鋼板の裏面側の噴射ノズルを、該噴射ノズルの先端が溶融金属浴面から267mmの深さとなるようにそれぞれ配設した。
また、本発明例2については、鋼板の表面側及び裏面側の噴射ノズルを、噴射ノズル先端がいずれも溶融金属浴面から189mmの深さとなるように配設した。
【0042】
一方、比較例に係る除去装置は、図8に示すものとほぼ同じ構成とした。この場合において、鋼板の表面側に位置する噴射ノズルは、平面視においては鋼板に対して約60°の方向、側面視においては鋼板に対して約25°の方向から、スナウト内の溶融金属中の金属板における溶融金属浴面から80mmの深さの位置を噴射目標位置として溶融金属を噴射するようにした。また、鋼板の裏面側に位置するノズルは、平面視において鋼板に対して約45°の方向、側面視においては鋼板に対して約45°の方向から、スナウト内の溶融金属中の金属板における溶融金属浴面から100mmの深さの位置を噴射目標位置として溶融金属を噴射した。
【0043】
なお、この実施例においては、本発明例1,2及び比較例に係る除去装置いずれも、鋼板の表面側に位置する噴射ノズルは、流速0.5〜1.5m/sで、鋼板の裏面側に位置する噴射ノズルは、流速0.4〜1.5m/sでそれぞれ溶融金属を噴射した。また、各噴射ノズルは、いずれも200mm間隔で配設した。
【0044】
さらに、本発明例2に係る除去装置については、上記実施の形態で説明した整流板、即ち図1及び図2に示すような整流板をスナウト内における鋼板の表面側に配設した。
鋼板の表面側及び裏面側の各整流板は、長手方向長さが1320mm、短手方向長さが150mm、厚さが6mmのものを採用している。また、これらの整流板は、鋼板側に位置する長手の端部側の向きを噴射ノズルの噴射目標位置と同じ高さ方向を向けていて、表面側の整流板ついては、その長手の端部と鋼板との間に50mmの距離が形成される配置に、裏面側の整流板については、その長手の端部と鋼板との間に50mm以上の距離が形成される配置とした。このとき、鋼板の表面側の整流板における鋼板側に位置する長手の端部側は、溶融金属浴の浴面から約40mm程度の深さ、鋼板の裏面側の整流板における鋼板側に位置する長手の端部側は、溶融金属浴の浴面から約100mm程度の深さにそれぞれ位置していた。
また、支持部材については、直径13mmの断面略円形の棒状のものを用いた。
【0045】
この結果、浮遊ドロスに起因して発生する鋼板の表面側の疵の個数に関しては、図6に示すように、比較例においては0.035個/mあったが、本発明例1の場合は、0.024個/m、さらに本発明例2の場合は、さらに0.023個/mにまでそれぞれ減少した。即ち、鋼板の表面側に発生した浮遊ドロスに起因する疵は、比較例に比べ、本発明例1の場合は約31%、本発明例2の場合は約34%削減することができた。
また、浮遊ドロスに起因して発生する鋼板の裏面側の疵に関しては、比較例においては0.016個/mあったが、本発明例1,2の場合は、0.005個/mにまで減少した。即ち、鋼板の裏面側に発生した浮遊ドロスに起因する疵は、比較例に比べ、本発明例1,2の場合は約69%も削減することができた。
この結果から、本発明例1,2の場合は、比較例に比べ、噴射ノズルからの噴流に対する反転流及び随伴流の影響が効果的に抑止され、浮遊ドロスに起因する鋼板の疵の発生が大幅に抑えられることがわかった。
なお、本発明例1と本発明例2との比較において、鋼板の表面側に発生した浮遊ドロスに起因する疵が本発明例1よりも本発明例2の方が少ないのは、整流板による噴流の整流効果及び反転流の可及的な遮断の効果があらわれていると考えられる。
【0046】
また、各除去装置における浮遊ドロスに起因する疵の発生位置をそれぞれ調べたところ、図7に示すように、浮遊ドロスに起因する疵は、比較例の場合、鋼板の表面側は吸引口側の端部から225mm、鋼板の裏面側は吸引口側の端部から300mmの間で発生した。
これに対し、本発明例1の場合は、浮遊ドロスに起因する疵の発生は、鋼板の表面側は吸引口側の端部から150mm、鋼板の裏面側は吸引口側の端部から88mmの間で発生した。また、本発明例2の場合は、浮遊ドロスに起因する疵の発生は、鋼板の表面側は吸引口側の端部から100mm、鋼板の裏面側は吸引口側の端部から50mmの間で発生した。
このように、本発明例1,2の場合は、比較例に比べ、鋼板の板幅方向の端部側(エッジ部側)、さらに具体的には、スナウト内における吸引口側により近い位置でドロスに起因する疵が発生していた。即ち、本発明例1,2に係る除去装置を使用した場合には、鋼板においてドロスに起因する疵が発生する範囲が比較例よりも狭く、疵が存在しない範囲、つまり品質不良が生じない範囲が比較例に比べて大きかった。
この結果から、本発明例1,2の場合は、比較例に比べて、浮遊ドロスを効率的に吸引口側に押し流していることがわかった。
なお、今回めっき対象となった1250mm程度の板幅の鋼板の場合、この後の製品に至るまでの過程で鋼板の板幅方向の端部(エッジ部)は、板厚・目付によるが、一部10mm程度トリムをするものがある。したがって、最終製品として比較した場合であっても、本発明によって浮遊ドロスを除去した場合は、従来に比べて浮遊ドロスに起因する疵が大幅に削減されることとなる。
【0047】
ところで、本発明例1と本発明例2との比較において、浮遊ドロスに起因する疵は、本発明例1よりも本発明例2の方がよりエッジ部に発生していることがわかる。
これについては、鋼板の表面側では、整流板による噴流の整流効果により、噴流の剥離流への干渉が抑えられて、図4に示すような剥離流の流れに乗って浮遊ドロスが吐出ノズル側から吸引口側に一層効率的且つ安定的に押し流されたものと考えられる。
一方、鋼板の裏面側では、該裏面側の噴射ノズルを、本発明例1よりも浅く配置した結果、鋼板の裏面側の剥離流の勢いが本発明例1の場合よりも強くなり、これによって浮遊ドロスが吐出ノズル側から吸引口側により効率的に押し流されたものと推測される
【0048】
以上のように、本発明に係るスナウト内ドロスの除去装置及び除去方法によれば、浮遊ドロスを効率よく除去されて、浮遊ドロスの金属板への付着が抑止され、あるいは減少したため、ドロス付着に起因するめっきをした金属板の品質不良を防止することができることが実証された。
【符号の説明】
【0049】
1 溶融金属浴
1a 溶融金属浴面
2 スナウト
3 金属板
4,5 噴射ノズル
6 吐出ノズル
7 吸引口
8 整流板
11 噴射目標位置
18 支持部材
19 隙間



【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属浴面に対して斜めに挿入させたスナウトを通じて金属板を溶融金属浴内に浸漬させる溶融金属めっき装置において、金属板に溶融金属を吹付けてスナウト内の溶融金属浴面に浮遊するドロスを金属板から離す方向の液流を発生させる、溶融金属浴中のスナウト外の下方に配置された複数の噴射ノズルと、上記スナウト内における金属板の板幅方向の一端側に配設されて、溶融金属を金属板の他端側方向へ吐出する吐出ノズルと、上記スナウト内における金属板の板幅方向の他端側に配設されて、該スナウト内の上記ドロスを吸引する吸引口とを備えたドロスの除去装置であって、
上記各噴射ノズルは、上記スナウト内における金属板の溶融金属への侵入位置を噴射目標位置として溶融金属を噴射する構成となっていることを特徴とするスナウト内ドロスの除去装置。
【請求項2】
上記スナウト内における溶融金属中に、金属板方向に突出し且つ金属板の板幅方向に沿うように配設され、噴射ノズルからの噴流の流れを整える板体状の整流板が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のスナウト内ドロスの除去装置。
【請求項3】
上記整流板は、金属板と対向する端部側が噴射ノズルの噴射目標位置と同じ高さ方向に向き、且つ金属板側の端部側に行くに従って溶融金属浴面に近づくように傾斜した状態でスナウト内に配設されていることを特徴とする請求項2に記載のスナウト内ドロスの除去装置。
【請求項4】
上記整流板は、金属板と対向する端部側とは反対側の端部とスナウト内壁との間に隙間を空けて該スナウトに固定されていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のスナウト内ドロスの除去装置。
【請求項5】
溶融金属浴面に対して斜めに挿入させたスナウトを通じて金属板を溶融金属浴内に浸漬させる溶融金属めっき装置において、溶融金属浴中のスナウト外の下方に配置した複数の噴射ノズルにより溶融金属を金属板に吹付け、スナウト内の溶融金属浴面に浮遊するドロスを金属板から離す方向の液流を発生させることにより該ドロスを金属板から離れる方向に押し流すと共に、上記スナウト内における金属板の板幅方向の一端側に配設された吐出ノズルから溶融金属を金属板の他端側方向へ吐出して上記ドロスを該金属板の他端側方向に押し流し、スナウト内における金属板の板幅方向の他端側に配設された吸引口によって該ドロスを溶融金属と共に吸引するスナウト内ドロスの除去方法であって、
上記各噴射ノズルから噴射する溶融金属の噴射目標位置を、金属板の溶融金属への侵入位置とすることを特徴とするスナウト内ドロスの除去方法。
【請求項6】
上記スナウト内における溶融金属中に、金属板方向に突出し且つ金属板の板幅方向に沿うように整流板を配設し、噴射ノズルからの噴流の流れを整えることを特徴とする請求項5に記載のスナウト内ドロスの除去方法。
【請求項7】
上記整流板を、金属板と対向する端部側が上記噴射ノズルの噴射目標位置と同じ高さ方向に向き、且つ金属板側の端部側に行くに従って溶融金属浴面に近づくように傾斜した状態でスナウト内に配設することを特徴とする請求項6に記載のスナウト内ドロスの除去方法。
【請求項8】
上記整流板を、金属板対向する端部側とは反対側の端部とスナウト内壁との間に隙間を形成した状態で該スナウトに固定することを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のスナウト内ドロスの除去方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−111971(P2012−111971A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259072(P2010−259072)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】