説明

スパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】 スパッタ法により良好にNa添加されたCu−In−Ga−Seからなる膜を成膜可能なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 Cu,In,GaおよびSeを含有し、さらに、NaF化合物、NaS化合物、又はNaSe化合物の少なくとも1種の状態でNaが、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)×100:0.05〜5原子%の割合で含有され、酸素濃度が、200〜2000重量ppmであり、残部が不可避不純物からなる成分組成を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光電変換効率を有する太陽電池の光吸収層を形成するためのNa含有Cu−In−Ga−Se合金膜を形成するときに使用するスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物半導体による薄膜太陽電池が実用に供せられるようになり、この化合物半導体による薄膜太陽電池は、ソーダライムガラス基板の上にプラス電極となるMo電極層を形成し、このMo電極層の上にCu−In−Ga−Se合金膜(以下、CIGS膜とも称す)からなる光吸収層が形成され、この光吸収層の上にZnS、CdSなどからなるバッファ層が形成され、このバッファ層の上にマイナス電極となる透明電極層が形成された基本構造を有している。
【0003】
上記光吸収層の形成方法として、蒸着法により成膜する方法が知られており、この方法により得られた光吸収層は高いエネルギー変換効率が得られるものの、基板の大型化に伴い蒸着法による成膜においては、膜厚の面内分布の均一性が未だ十分とはいえない。そのために、スパッタ法によって光吸収層を形成する方法が提案されている。
【0004】
このCIGS膜をスパッタ法により成膜する方法として、まず、Inターゲットを使用してスパッタによりIn膜を成膜し、このIn膜の上にCu−Ga二元系合金ターゲットを使用してスパッタすることによりCu−Ga二元系合金膜を成膜し、得られたIn膜およびCu−Ga二元系合金膜からなる積層膜をSe雰囲気中で熱処理してCIGS膜を形成する方法(いわゆる、セレン化法)が提案されている(特許文献1参照)。
また、上記従来のCIGS膜の成膜方法は、InターゲットおよびCu−Ga二元合金ターゲットの2枚のターゲットを使用し、さらに、Se雰囲気中で熱処理するための熱処理炉および積層膜を熱処理炉に搬送する工程を必要とするなど多くの装置および工程を必要とすることから、コストの削減は難しかった。そこで、Cu−In−Ga−Se合金ターゲットを作製し、このターゲットを用いて1回のスパッタリングによりCIGS膜の成膜しようとする試みがなされている。(特許文献2参照)。
【0005】
一方、CIGS膜からなる光吸収層の発電効率を向上させるため、この光吸収層へのNaの添加が要求されている。例えば、特許文献3や非特許文献1では、太陽電池の成膜用基板となる青板ガラスよりNaがCIGS膜中へ拡散させている。非特許文献1では、膜中のNa含有量が0.1%程度が一般的と提案しており、CIGS製造プロセスにおいて、プリカーサー膜を形成した後、Naを基板ガラスから光吸収層へ拡散させるための高温熱処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3249408号公報
【特許文献2】特開2008−163367号公報
【特許文献3】特開2011−009287号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】A.Romeo、「Development of Thin-film Cu(In,Ga)Se2 and CdTe Solar Cells」、Prog.Photovolt:Res.Appl.2004; 12:93−111 (DOI:10.1002/pip.527
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
Cu−In−Ga−Se合金ターゲットを用いてCIGS膜を形成するもうひとつのメリットは、Se雰囲気での高温熱処理を省略することによって、基板を青板ガラスより融点がはるかに低いフレキシブルな有機材料等に切り替えられることである。しかし、フレキシブルな有機材料基板に切り替える場合、CIGS太陽電池の光電変換効率維持に非常に重要であるNaの供給源がなくなり、ターゲットへのNaの直接添加が要求されるようになった。
しかし、スパッタ法ではスパッタリングターゲットへのNa添加は非常に困難であるという問題があった。すなわち、Cu−In−Ga−Se合金ターゲットを用いる場合、NaがCu−In−Ga−Se合金に固溶しないこと、また金属Naの融点(98℃)及び沸点(883℃)が非常に低いこと、さらに金属Naが非常に酸化しやすいことから、金属Naを用いた添加法は施行困難であるという不都合があった。
【0009】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、高い光電変換効率を有する太陽電池の光吸収層を形成するためのNa含有CIGS膜を形成するときに使用するNa含有Cu−In−Ga−Se合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、Na含有Cu−In−Ga−Se合金スパッタリングターゲットを製造するべく研究を行った。その結果、金属Naの状態ではなく、NaF、NaS又はNaSeといった化合物の状態であれば、良好にNaを添加可能であることを突き止めた。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0011】
本発明のスパッタリングターゲットは、Cu,In,GaおよびSeを含有し、さらに、NaF化合物、NaS化合物又はNaSe化合物の状態でNaが、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)×100:0.05〜5原子%(以下at%という)の割合で含有され、さらに、酸素濃度が200〜2000重量ppm、残部が不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする。
ここで、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)は、Cu,In,Ga,SeおよびNaの合計含有量を100at%としたときのNaの含有量である。
【0012】
このスパッタリングターゲットでは、Na化合物の状態でNaが、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)×100:0.05〜5at%の割合で含有されているので、スパッタ法により、発電効率の向上に有効なNaを良好に含有したCIGS膜を成膜することができる。なお、このNaを含有したCIGS膜におけるフッ素(F)は、プロセスでの高温加熱(ソーダライムガラスが軟化される温度以下、すなわち550℃程度以下)によって、膜から完全に除去することができる。また、硫黄も太陽電池セルの発電効率に悪影響を及ぼさない。
【0013】
さらに、Na化合物の状態で含有されるNaの含有量を上記範囲内に設定した理由は、Na含有量がNa/(Cu+In+Ga+Se+Na):5at%を超えると、膜中のNaが大量に含有され、スパッタによって形成されるCIGS膜のMo電極への密着力が顕著に低下し、膜剥がれが発生するおそれがあるためである。一方、Na含有量がNa/(Cu+In+Ga+Se+Na):0.05at%より少ないと、膜中のNa量が不足し、発電効率の向上効果が得られないためである。なお、Naの好ましい量は、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na):0.1at%〜0.5at%である。
【0014】
さらに、酸素濃度を2000重量ppm以下と規定した理由は、酸素がCIGS結晶中に混入されると、Seサイトへ侵入し、光電変換効果のないCIO又はCIGO結晶になり、その結果太陽電池の変換効率を低下させることである。特に、NaF、NaS、NaSe等Na化合物をターゲットに添加する場合、これらの化合物の吸湿性により、酸素を大量に含むNa化合物が生成しやすく、最終的にターゲット中の酸素濃度を大幅に増加させる可能性がある。発明者の鋭意の研究により、Na化合物により導入された酸素成分は、非常に活性が高く、従来のCIGS純金属ターゲット中の酸素不純物よりCIGS結晶格子に取り込みやすいことが判明した。一方、Na化合物を添加するため、ターゲット中の酸素濃度が事実上200ppm以下にすることが非常に困難であり、そのため、Na化合物を添加したCuInGaSeターゲットの場合、ターゲット中の酸素濃度を200〜2000重量ppmに制御することが非常に重要である。
【0015】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、Cu,Ga,InおよびSeからなるターゲット素地中にNa化合物相が分散している組織を有すると共に、前記Na化合物相の平均粒径が5μm以下であることを特徴とする。
導電性のCu−Ga−In−Se合金が主要成分であるターゲットに、Na化合物相を添加したことで、直流スパッタ又は高周波スパッタをしようとすると、Na化合物相による異常放電が多発する。太陽電池の光吸収層としてのCIGS膜は非常に厚いので(例えば、1000nm〜2000nm)、異常放電のために高速なスパッタができないと、太陽電池の量産が現実的に困難になる。これを解決すべく、本発明のスパッタリングターゲットでは、Na化合物の粒子サイズを最適化することで、高速スパッタを可能にした。
【0016】
すなわち、本発明のスパッタリングターゲットでは、Cu,Ga,InおよびSeからなるターゲット素地中にNa化合物相が分散している組織を有すると共に、Na化合物相の平均粒径を5μm以下にすることで、直流スパッタ又は高周波スパッタにおいてNa化合物相による異常放電を抑制して安定したスパッタが可能になる。なお、含有するNa化合物相は絶縁物であるため、平均粒径が5μmを越えると、異常放電が多発し、スパッタが不安定になる。したがって、本発明では、Na化合物相の平均粒径を5μm以下に設定することで、安定したスパッタができ、低コストでの高速生産が可能になる。
なお、ターゲット断面をSEMを用いて観察する際、0.1mm視野中に10μm〜40μmの大きなNa化合物相粒子個数が3個以下であることが好ましい。
【0017】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、さらにスパッタリングターゲット素地中のGaが合金の形態で含有されていることを特徴とする。
本発明者らは、Na化合物を添加した場合、スパッタリングターゲット素地中のGa単体の存在は、スパッタリングターゲットのスパッタ安定性に影響を与えることを発見した。すなわち、Gaが単体でスパッタリングターゲットに含まれると、Na化合物を含有したCu−In−Ga―Seスパッタリングターゲットはスパッタ中に異常放電が多発し、安定に成膜できない場合がある。
これを解決すべく、本発明のスパッタリングターゲットでは、スパッタリングターゲット素地中のGaが合金の形態で含有されていることを特徴とする。すなわち、Gaを固溶体又は金属間化合物とすることにより、スパッタ中の異常放電を低減することができた。
【0018】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、ターゲット素地中のCu,Ga,InおよびSeが、四元合金の形態で含有されていることを特徴とする。
すなわち、このスパッタリングターゲットでは、ターゲット素地中のCu,Ga,InおよびSeが、四元合金の形態で含有されているので、ターゲット素地中の各元素が合金状態でなく単に混合されている形態に比べて、スパッタ時の膜質の均一性や安定性が高くなる。
【0019】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットは、前記四元合金が、粉末X線回折法による定性分析において、カルコパイライト型CuInSe相とCuGaSe相との固溶体合金相であることを特徴とする。
すなわち、このスパッタリングターゲットでは、四元合金が、粉末X線回折法による定性分析において、カルコパイライト型CuInSe相とCuGaSe相との固溶体合金相であるので、スパッタリングにより均一な組成分布を有したCu−In−Ga−Se四元系カルコパイライト型合金膜を成膜することができる。
【0020】
なお、本発明のスパッタリングターゲットは、電子線マイクロアナライザを用いた組成分析において、主相である前記カルコパイライト型Cu−In−Ga−Se合金相(カルコパイライト型Cu−In−Ga−Se合金の固溶体合金相)中に、Cu−Ga二元系合金およびCu−In−Ga三元系合金の少なくとも一方の第二相を含有していてもよい。
【0021】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、Cu,In,GaおよびSeの組成範囲が原子比で、Cu:In:Ga:Se=X:Y:1−Y:Z(0.8<X<1.05、0.5<Y<0.95、1.90<Z<2.5)とされていることが好ましい。
ターゲット中のCu、Ga、In、Se含有量を原子比でCu:In:Ga:Se=X:Y:1−Y:Z、0.8<X<1.05、0.5<Y<0.95、1.90<Z<2.5に規定した理由は、この組成範囲で作成したターゲットにより形成したCuInGaSeスパッタ膜は、光電変換効率が最も高いと知られている膜組成:CuIn0.5〜0.9Ga0.1〜0.5Seに最も近いものになるのである。特に、ターゲット中のCu含有量を0.9〜1.0(1.0含まず)、In含有量を0.6〜0.85、Ga含有量を0.15〜0.4、Se含有量を2.0〜2.4(2.0を含まず)とすることが最も好ましい。
【0022】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、原料粉末として、NaF粉末、NaS粉末又はNaSe粉末の少なくとも1種と、Se粉末又はCuとSeとからなるCu−Se合金粉末の少なくとも1種と、In粉末又はCuとInとからなるCu−In合金粉末と、CuとGaとからなるCu−Ga合金粉末又はCuとInとGaとからなるCu−In−Ga三元系合金粉末の少なくとも1種とを含む混合粉末を作製し、この混合粉末を真空又は不活性ガス雰囲気中で熱間加圧により焼結することを特徴とする。
すなわち、このスパッタリングターゲットの製造方法では、上記混合粉末を、真空又は不活性ガス雰囲気中でホットプレス等で熱間加圧することで、Naを溶解法よりも均一に分散させたターゲットを得ることができる。
【0023】
さらに、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、NaF粉末、NaS粉末、NaSe粉末の少なくとも1種とCu,Ga,InおよびSeからなるカルコパイライト型四元合金粉末(Cu−In−Ga−Se合金粉末)との混合粉末を、真空又は不活性ガス雰囲気中で熱間加圧により焼結することを特徴とする。
すなわち、このスパッタリングターゲットの製造方法では、カルコパイライト型四元合金粉末と上記のNa化合物粉末とを混合、焼結することで、Naを均一に安定に含有するカルコパイライト型Cu−In−Ga−Se合金相からなるスパッタリングターゲットを作製できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るスパッタリングターゲットおよびその製造方法によれば、NaF化合物、NaS化合物又はNaSe化合物の状態でNaが、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)×100:0.05〜5at%の割合で含有されるので、スパッタ法により、発電効率の向上に有効なNaを良好に含有したCIGS膜を成膜することができる。したがって、本発明のスパッタリングターゲットを用いてスパッタ法により光吸収層を成膜することで、Naを良好に添加でき、発電効率の高い太陽電池を作製可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るスパッタリングターゲットおよびその製造方法の一実施形態において、実施例6,9、および比較例1の溶解工程における時間・温度条件を示すグラフである。
【図2】本発明に係るスパッタリングターゲットおよびその製造方法の実施例6において、HIP焼結体による粉砕粉の粉末X線回折(XRD)の測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明に係る実施例6において、電子線マイクロアナライザ(EPMA)による組成像(COMP像)、Cu,In,Ga,Se,NaおよびFの元素マッピング像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係るスパッタリングターゲットおよびその製造方法の一実施形態を説明する。
【0027】
本実施形態のスパッタリングターゲットは、Cu,In,GaおよびSeを含有し、 さらに、NaF化合物、NaS化合物、又はNaSe化合物の少なくとも1種の状態でNaが、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)×100:0.05〜5原子%の割合で含有され、酸素濃度が、200〜2000重量ppmであり、残部が不可避不純物からなる成分組成を有している。
また、ターゲット素地の粉末X線回折法(XRD)による定性分析において、素地中のGaが事実上合金形態で含有されているものである。
【0028】
また、本実施形態のスパッタリングターゲットは、Cu,Ga,InおよびSeからなるターゲット素地中にNa化合物相が分散している組織を有すると共に、Na化合物相の平均粒径が5μm以下である。
なお、ターゲット断面をSEMを用いて観察する際、0.1mm視野中に10μm〜40μmの大きなNa化合物粒子個数が3個以下であることが好ましい。
【0029】
ターゲット素地中のCu,Ga,InおよびSeは、四元合金の形態で含有されている。また、この四元合金は、粉末X線回折法による定性分析において、カルコパイライト型CuInSe相とCuGaSe相との固溶体合金相である。
さらに、Cu,In,GaおよびSeの組成範囲が原子比で、Cu:In:Ga:Se=X:Y:1−Y:Z(0.8<X<1.05、0.5<Y<0.95、1.90<Z<2.5)とされている。
【0030】
本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法は、Na化合物粉末とCu,Ga,InおよびSeからなる粉末との混合粉末を、真空又は不活性ガス雰囲気中で熱間加圧する工程を有している。
すなわち、原料粉末として、NaF粉末、NaS粉末又はNaSe粉末の少なくとも1種と、Se粉末又はCuとSeとからなるCu−Se合金粉末の少なくとも1種と、In粉末又はCuとInとからなるCu−In合金粉末と、CuとGaとからなるCu−Ga合金粉末又はCuとInとGaとからなるCu−In−Ga三元系合金粉末の少なくとも1種とを含む混合粉末を作製し、この混合粉末を真空又は不活性ガス雰囲気中で熱間加圧により焼結する。
【0031】
上記NaF粉末、NaS粉末又はNaSe粉末は、純度2N以上で、酸素含有量の上昇を抑えると共にCu−Ga合金粉とCu粉との混合性を考慮して、一次粒子径が0.01〜1.0μmのものが好ましい。また、ターゲット中の酸素含有量を2000ppm以下にするために、Na化合物中の吸着水分を混合する前に予め取り除く必要がある。例えば、真空乾燥機中で真空環境にて120℃、10時間の乾燥が有効である。
【0032】
スパッタリングターゲットに用いる焼結体を作成するには、上記混合粉末作製後に、熱間加圧法として例えばホットプレス法又は熱間静水圧焼結法(HIP法)が使用される。本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、前記熱間加圧する工程が、ホットプレス又はHIP温度:100℃〜350℃での焼結が好ましい。
すなわち、このスパッタリングターゲットの製造方法では、焼結温度を100℃〜350℃に設定することにより、異常放電が少なく、より良好な耐スパッタ割れ性を有するターゲットが得られる。
【0033】
本発明に用いるCu,In,Ga,Seからなる粉末(Cu−Se合金粉末、Cu−In合金粉末、Cu−Ga合金粉末、Cu−In−Ga三元系合金粉末、CuとInとGaとSeとからなるCu−In−Ga―Se四元系粉末、Cu−In−Ga―Se四元系カルコパイライト型合金粉末、Se粉末、In粉末及びCu粉末のうち所定の1種類又は複数種類)は、市販のものを使用するか、又は下記のように製造可能である。Na化合物粉末との混合均一性を考慮し、上記粉末の平均粒径は250〜5μmが好ましく、100〜30μmがより好ましい。
【0034】
上記粉末の製造方法としては、例えば、溶湯から粉末を作るアトマイズ法や合金鋳塊を粉砕して粉を作る粉砕法が良く使われる。特に、CuとInとGaとSeとからなるCu−In−Ga―Se四元系粉末は、特許文献2の製法に従い作製できる。
特許文献2のCuとInとGaとSeとからなるCu−In−Ga−Se四元系粉末の製法としては、石英るつぼを用い、Ar雰囲気中でまずSeを670℃に加熱して固液共存状態に溶かし、その中にCuを投入してCu−Se二元合金溶湯を作製し、その後、この溶湯を650℃に保持しながら、Inを10gずつ投入して溶解し、InとSeとが反応して生じる爆発を起こさずにCu−Se−In三元系合金溶湯を作製する。このようにして得られたCu−Se−In三元合金溶湯にさらにGaを投入し、1000℃まで温度を上げ溶解することによりCu−In−Ga−Se合金溶湯を作製した。そして、得られたCu−In−Ga−Se合金溶湯を鋳型に鋳造してインゴットを作製した。得られたインゴットをボールミル、ディスククラッシャー等の乾式粉砕機を用いて粉砕し、粉砕粉を目開き250μmの篩いに通し、サイズの大きい粒子を除去した。
【0035】
また、Cu−In−Ga―Seカルコパイライト型合金粉末は、図1の条件で溶解鋳造し、インゴットを粉砕することによって作製できる。このCu−In−Ga―Seカルコパイライト型合金粉末の製造方法は、Cu,In,GaおよびSeをIn、Gaが全て溶解する温度であってSeの融点未満の温度に加熱して固相のCu、Seと液相のInとGaとからなる溶湯を作製する第1の溶解工程S1と、該第1の溶解工程S1後に溶湯を上記Cu−In−Ga−Se合金の融点以上の温度に加熱して上記Cu−In−Ga−Se四元系溶湯を作製する第2の溶解工程S2とを有している。
【0036】
すなわち、Cu−In−Ga−Se四元系溶湯を作製する前に、まずIn,GaおよびSeをIn、Gaが全て溶解する温度であってSeが融解する前の温度(例えば150〜220℃以下)に加熱して、少なくとも固相のSeと、液相のInとGaとからなる溶湯とを共存させる。なお、その後の加熱過程にいて、InとGaとからなる溶湯にSeが溶解し、InとSeとが直接反応することがないので、InとSeとの急激な反応に伴う爆発を防ぐことができる。この後に、必要に応じてCuを添加し、溶湯をCu−In−Ga−Se合金の融点以上の温度に加熱してCu−In−Ga−Se四元系溶湯を作製するので、各原料が完全に溶解したCu−In−Ga−Se四元系溶湯が得られ、実質的にCu−In−Ga−Se合金の単相からなる組成偏析の極めて少ないCu−In−Ga−Se合金を作製することができる。
【0037】
また、この溶解工程では、上記第1の溶解工程S1と第2の溶解工程S2との間に、溶湯をSeの融点(221℃)以上の温度であってSeの沸点(684.9℃)以下の温度に加熱して液相のSe,InおよびGaからなる溶湯を作製する中間溶解工程Smを有している。
すなわち、この溶解工程では、第1の溶解工程S1と第2の溶解工程S2との間で、Seの融点以上の温度であってSeの沸点以下の温度に加熱して保持し液相のSe,In,Gaからなる溶湯を作製するので、第二の溶解工程S2への加熱時にSeの蒸発や突沸を防ぐことができ、4元素を溶解させることができる。よって、カルコパイライト型のCuInSe相とCuGaSe相との固溶体合金相を主相とするCu−In−Ga−Se合金粉末を作ることが可能になる。
【0038】
例えば、まず150〜200℃の温度まで1時間をかけて加熱し、第1の溶解工程S1では、150〜200℃の温度に2時間保持する。次に、500〜650℃の温度まで1時間をかけて加熱し、中間溶解工程Smでは、500〜650℃の温度に1時間保持する。さらに、1000〜1100℃の温度まで2時間をかけてゆっくり加熱し、第2の溶解工程S2では、1000〜1100℃の温度に1時間保持する。なお、Cu−In−Ga−Se合金の融点は980℃前後であるので、1000℃以上であれば十分に全量溶解させることができる。また、第2の溶解工程S2の温度上限は、石英ルツボの軟化点よりも低く、1100℃に設定している。
【0039】
次に、上記粉末を用いて熱間加圧焼結を行うには、まずNa化合物粉末と上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末(Cu−Se合金粉末、Cu−In合金粉末、Cu−Ga合金粉末、Cu−In−Ga三元系合金粉末、CuとInとGaとSeとからなるCu−In−Ga―Se四元系粉末、Cu−In−Ga―Se四元系カルコパイライト型合金粉末、Se粉末、In粉末及びCu粉末のうち所定の1種類又は複数種類)との混合を、例えば以下の(1)〜(3)のいずれかの方法で行う。
(1)の方法
予め除湿したNa化合物粉末を粉砕装置(例えば、ボールミル、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、アトライター等)を用いて、平均二次粒子径5μm以下に解砕する。さらに、この解砕分を混合装置を用いてターゲット組成の上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末と混合、分散し、熱間加圧焼結の原料粉を用意する。なお、Na化合物は水に溶解されるので、水を使う湿式粉砕混合装置よりも水を使わない粉砕混合装置の使用が好ましい。また、混合後の混合粉中の吸着水分を取り除く必要がある場合、例えば、真空乾燥機中で真空環境にて80℃、3時間以上の乾燥が有効である。
【0040】
(2)の方法
予め乾燥したNa化合物粉末を、予め用意したターゲット組成の上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末と同時に粉砕装置に充填し、混合及びNa化合物の解砕を同時に行い、Na化合物の平均二次粒子径が5μm以下になる時点で解砕を終了し、熱間加圧焼結の原料粉とする。なお、混合後の混合粉中の吸着水分を取り除く必要がある場合、例えば、真空乾燥機中で真空環境にて80℃、3時間以上の乾燥が有効である。
【0041】
(3)の方法
予め用意したターゲットを構成する一部の上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末をNa化合物粉末と混合してから、さらに、不足分の上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末(又は純Cu粉)を追加し、三者が均一になるように混合して熱間加圧焼結の原料粉とする。あらかじめNa化合物と混合する上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末と、後に足す上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末とは、ターゲットの目標組成中のCu/In/Ga/Se割合と同様でも良いし、それぞれターゲットの目標組成中のCu/In/Ga/Se割合と異なっても良い。なお、それぞれターゲットの目標組成中のCu/In/Ga/Se割合と異なる場合、予めNa化合物と混合する上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末と、後に足す上記Cu,In,Ga,Seからなる粉末とを足しあわせで作ったターゲット中のCu/In/Ga/Se割合は、目標組成と一致しなければいけない。この場合も、混合後の混合粉中の吸着水分を取り除く必要がある場合、例えば、真空乾燥機中で真空環境にて80℃、3時間以上の乾燥が有効である。
【0042】
次に、このように上記(1)〜(3)のいずれかの方法で混合した乾燥した熱間加圧焼結の原料粉を、乾燥環境で保管する。これは、Na化合物の吸湿や吸湿による凝集を防止するためである。
また、ターゲット中の酸素含有量をコントロールするため、熱間加圧焼結は、真空又は不活性ガス雰囲気中で行う。
熱間加圧焼結を行う際の圧力も焼結体の密度に大きな影響を及ぼすので、ホットプレスの場合は、好ましい圧力は100〜500kg/cm、HIPの場合は、好ましい圧力は500〜1500kgf/cmとする。
また、加圧のタイミングは、焼結昇温開始前からでもよいし、一定の温度に到達してから加圧してもよい。
【0043】
次に、上記熱間加圧焼結法で焼結したスパッタリングターゲット用焼結体は、通常放電加工、切削又は研削工法を用いて、ターゲットの指定形状に加工する。このとき、Na化合物は水に溶解するため、加工の際、冷却液を使わない乾式法又は水を含まない冷却液を使用する湿式法が好ましい。また、湿式法で表面粗加工後、さらに乾式法で表面を精密加工する方法もある。
【0044】
次に、加工後のターゲットをInを半田として、Cu又はSUS(ステンレス)又はその他金属(例えば、Mo)からなるバッキングプレートにボンディングし、スパッタに供する。なお、このボンディングの効果(ボンディング率)を測定するために、ターゲット全体を水に浸漬し、超音波を利用してターゲット又は半田層中の気泡や欠陥を特定する方法もあるが、NaFが水に溶けるため、このような水中測定を行う際、ターゲットと水とが直接に接触しないような工夫が必要である。例えば、ターゲット全面に水溶しない油脂類を塗り、測定後この油脂を除去する方法や、ターゲットを防水シートで覆う方法などがある。
なお、加工済みのターゲットの酸化、吸湿の防止するため、ターゲット全体を真空パック又は不活性ガス置換したパックを施すことが好ましい。
【0045】
このように作製した本実施形態のNa化合物含有Cu−In−Ga−Seからなるスパッタリングターゲットを用いたスパッタは、マグネトロンDCスパッタ又は高周波スパッタを用い、Arガス中で行う。このときの直流(DC)スパッタは、DC電源を用いることでもよいし、RF電源でも可能である。また、スパッタ時の投入電力は1〜10W/cmが好ましい。また、本実施形態のスパッタリングターゲットで作成する膜の成膜の厚みは、500〜2000nmとする。
【0046】
次は、得られた本実施形態のスパッタリングターゲットおよび膜の分析について説明する。
まず、焼結したターゲットのXRD分析は以下のように行う。
熱間加圧焼結にて得られた焼結体を、ハンマーで1mm程度まで粗粉砕した後、さらにメノウ製乳鉢で粉砕し、目の開き120μmの篩に通過する粉末を回収し、XRD分析の分析試料とした。使用したX線回折装置は、理学(株)製 RINT UltimaIIIである。測定条件は、X線CuKa;管電圧40kV、管電流40mA、測定範囲10〜90°、サンプリング幅0.02°、Scan Speed 2.である。また、ターゲット素地中におけるGa単体の存在は、XRD曲線を用い、Ga単体を示す特徴ピークの有無で判断した。すなわち、Ga単相に属するθ=15.24°(方位111)付近、22.77°(113)付近、23.27°(202)付近のピークを特徴ピークとし、Ga単相の存在の有無を特定した。
【0047】
また、ターゲット中のNa化合物の凝集状況やNa,Cu,In,GaおよびSeの各元素のEPMA分析条件は、以下のように設定している。
EPMA用サンプルは焼結体から1mm程度の破片を採取し、精密断面試料作製装置(CP)によって断面を加工したものを用いた。EPMAによる観察では該加工面を用いた。EPMA観察時の加速電圧は15kVであった。0.05mm面積の写真(500倍)を10枚撮影し、その中の観察可能なNaF化合物又はNaS化合物、NaSe化合物粒子(0.5μm以上)のサイズを測定し、粒子の平均サイズを計算した。同時に、0.1mm当たりの40〜10μmのNaF化合物又はNaS化合物、NaSe化合物凝集体平均個数を計算した。
【0048】
なお、NaF化合物又はNaS化合物、NaSe化合物粒子の平均サイズは、例えば、以下(A)〜(C)の手順により測定することができる。
(A)フィールドエミッションEPMAにより500倍のCOMPO像(60μm×80μm)10枚を撮影する。
(B)市販の画像解析ソフトにより、撮影した画像をモノクロ画像に変換するとともに、単一しきい値を使用して二値化する。
これにより、NaF化合物又はNaS化合物、NaSe化合物含有量が多い領域ほど、黒く表示されることとなる。
なお、画像解析ソフトとしては、例えば、WinRoof Ver5.6.2(三谷商事社製)などが利用できる。また、二値化とは、画像の各画素の輝度(明るさ)に対してある“しきい値”を設け、しきい値以下ならば“0”、しきい値より大きければ“1”として、領域を区別化することである。
(C)この画像すべてを選択しない最大のしきい値を100%とすると、30〜35%のしきい値を使用し黒い側の領域を選択する。
そして、この選択した領域を4回収縮し、3回膨張させたときの領域をNaF化合物又はNaS化合物、NaSe化合物粒子とし、個々の粒子のサイズを測定する。
収縮および膨張の倍率としては、例えば、2.3%である。
さらに、ターゲット中のNa,Cu,In,GaおよびSeの各元素の定量分析は、得られた焼結体をメノウ製乳鉢で250μm以下に粉砕し、ICP法を用いて行った。
【0049】
スパッタで得られた膜中のNa,Cu,In,GaおよびSeの各元素の定量分析は、膜をSiウエハーに1000nm成膜後に電子プローブマイクロアナライザ(JXA−8500F)(日本電子株式会社製)にて、膜中5箇所のNa,F,S,Cu,In,GaおよびSeの各元素を測定した。
【0050】
このNa化合物含有Cu−In−Ga−SeからなるスパッタリングターゲットにおけるCu,In,GaおよびSeの各元素の含有量は、例えば以下の組成範囲に設定される。なお、以下の数値は、元素原子数比(atomic比)である。
Cu:0.8〜1.05
In:0.5〜0.95
Ga:0.05〜0.5
Se:1.90〜2.5
【0051】
このように作製された本実施形態のスパッタリングターゲットでは、Na化合物の状態でNaが、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)×100:0.05〜5at%の割合で含有されているので、スパッタ法により、発電効率の向上に有効なNaを良好に含有したCIGS膜を成膜することができる。また、酸素濃度を2000重量ppm以下としているので、酸素のCIGS結晶中への混入により、CIO又はCIGO結晶になって太陽電池の変換効率が低下してしまうことを抑制可能である。
また、Cu,Ga,InおよびSeからなるターゲット素地中にNa化合物相が分散している組織を有すると共に、Na化合物相の平均粒径を5μm以下にすることで、直流スパッタ又は高周波スパッタにおいてNa化合物による異常放電を抑制して安定したスパッタが可能になる。
【0052】
また、ターゲット素地中のGaが、合金の形態で含有されていることで、ターゲットの機械的強度が増し、スパッタ時の膜質の均一性や安定性が高くなる。
さらに、ターゲット素地中のCu,Ga,InおよびSeが、四元合金の形態で含有されていることで、ターゲット素地中の各元素が合金状態でなく単に混合されている形態に比べて、スパッタ時の膜質の均一性や安定性が高くなる。特に、四元合金が、粉末X線回折法による定性分析において、カルコパイライト型CuInSe相とCuGaSe相との固溶体合金相からなるので、スパッタリングにより均一な組成分布を有したCu−In−Ga−Se四元系カルコパイライト型合金膜を成膜することができる。
【0053】
また、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法では、上記混合粉末を、真空又は不活性ガス雰囲気中でホットプレス、HIP等で熱間加圧することで、従来の製法では得ることのできなかった実質的にNaを均一に分散分布させたターゲットを得ることができる。このスパッタリングターゲットを用いれば、スパッタリングにより均一な組成分布を有したNa含有Cu−In−Ga−Se合金膜を成膜することができる。
【実施例】
【0054】
まず、表1に示される成分組成を有する原料粉末を用意した。Na化合物粉末については、純度3N、一次平均粒子径0.2μmのものを用意した。実施例に用いたNa化合物粉末は真空乾燥機中で真空環境にて80℃、3時間以上の乾燥している。一方、比較例は乾燥を行っていない。これらの原料粉末を容積10Lのポリエチレン製ポットに入れ、さらに直径:5mmのZrOボールを入れて、ボールミルで指定された時間で混合した。
【0055】
【表1】

【0056】
なお、CuInGaSe合金粉末の製造は、以下の条件で行った。
(製法A)
石英るつぼを用い、Ar雰囲気中でまずSeを670℃に加熱して固液共存状態に溶かし、その中にCuを投入してCu−Se二元合金溶湯を作製し、その後この溶湯を650℃に保持しながら、Inを10gずつ投入して溶解しCu−Se−In三元系合金溶湯を作製する。このようにして得られたCu−Se−In三元合金溶湯にさらにGaを投入し、1000℃まで温度を上げ溶解することによりCu−In−Ga−Se四元系合金溶湯を作製した。このCu−In−Ga−Se四元系合金溶湯を鋳型に鋳造してインゴットを作製し、インゴットを乾式粉砕機にて100メッシュアンダーまで粉砕してCu−In−Ga−Se合金粉末を得た。
【0057】
(製法B)
Cu,In,Ga,Seそれぞれ純度99.99%以上のバルク状原料を用意する。以上の各原料を全量石英製坩堝に入れ、Ar雰囲気中で、下記Step1〜7の工程にて溶解した。
Step1:室温から195℃まで昇温(昇温スピード3℃/min)
Step2:195℃保持(4時間キープ)
Step3:195℃から650℃まで昇温(昇温スピード3℃/min)
Step4:650℃保持(1時間キープ)
Step5:650℃から1050℃まで昇温(昇温スピード10℃/min)
Step6:1050℃保持(1時間キープ)
Step7:黒鉛製鋳型に鋳込む。
作製されたインゴットは、乾式粉砕機にて粉砕して、Cu−In−Ga−Se合金粉末を作製した。
【0058】
得られた混合粉末を吸着水分を取り除くため、真空乾燥機中で真空環境にて80℃、3時間以上の乾燥を行い、表2に示した圧力、温度、保持時間の条件で焼結した。ホットプレス(HP)の場合、鉄製のモールドに充填し、Ar雰囲気中で行った。熱間静水圧焼結法(HIP)の場合、まず混合粉末を金属製金型に充填し、室温において1500kg/cmで加圧成形する。得られた成形体を0.5mm厚みのステンレス容器に装入した後、真空脱気を経て、HIP処理に用いる。
焼結後、乾式切削加工で、直径125(mm)×厚さ5(mm)のターゲット(実施例1〜10、比較例1,2)を作製した。
【0059】
【表2】

【0060】
上記本実施形態に基づいて実際に作製したスパッタリングターゲットについて、ターゲットの一部を粉砕し、120μm以下に分級し得られた合金粉を用いて、X線回折を行った。また、一部の焼結体を用いてEPMAによる組成分布観察を行った。その結果の一例として、実施例のXRDによる評価を行った結果を図2に示すと共に、EPMAによる評価を行った結果を図3に示す。
また、XRDによるGa結晶相の判定結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
焼結体は、いずれもX線回折パターンにGa単相の結晶ピークが見られない。
また、EPMAの結果から、素地であるCu−In−Ga−Seからなる相に、NaF相、NaS相又はNaSe相が均一に分散されていることがわかる。また、NaはF、S、結合しているSeの存在場所以外に確認されていないことから、上記化合物状態であることが判明できる。
【0063】
次に、本実施例のNa化合物含有Cu−In−Ga−Seからなるスパッタリングターゲットを用いて実際にスパッタリングを行って、Na化合物含有Cu−In−Ga−Seからなる膜を成膜した。この際のスパッタリングは、以下の条件で行った。
本実施例のスパッタリングターゲットは、Inを用いて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングした。スパッタは高周波電源(RF電源)を使用し、到達真空度が5×10−4Pa以下、スパッタ時の投入電力は400W、スパッタガスはArのみで、Ar全圧は0.67Paとした。基板はMo膜付き青板ガラスであり、Mo膜はスパッタによって成膜され、膜厚は800nmである。成膜時の基板温度は室温であり、成膜時間は30minとされ、得られた膜の厚みは1000nmであった。
同実施例のサンプルを用い、金属元素定量の分析(ICP法)および非分散赤外線吸収法による酸素分析を行った。膜中のNa,Cu,In,GaおよびSe、酸素の含有量を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
この結果から判るように、本実施例のNa含有Cu−In−Ga−Seからなるスパッタリングターゲットによりスパッタすることで、良好にNaを含有し酸素含有量が少ないCu−In−Ga−Se膜が得られた。
【0066】
なお、本発明を、スパッタリングターゲットとして利用するためには、相対密度80%以上、面粗さ10μm以下、粒径100μm以下、電気抵抗10Ω・cm以下、金属系不純物濃度0.1原子%以下、抗折強度10MPa以上であることが好ましい。上記各実施例は、いずれもこれらの条件を満たしたものである。
また、本発明の技術範囲は上記実施形態および上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu,In,GaおよびSeを含有し、
さらに、NaF化合物、NaS化合物、又はNaSe化合物の少なくとも1種の状態でNaが、Na/(Cu+In+Ga+Se+Na)×100:0.05〜5原子%の割合で含有され、
酸素濃度が、200〜2000重量ppmであり、
残部が不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
Cu,Ga,InおよびSeからなるターゲット素地中にNa化合物相が分散している組織を有すると共に、前記Na化合物相の平均粒径が5μm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
ターゲット素地中のGaが、合金の形態で含有されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
ターゲット素地中のCu,Ga,InおよびSeが、四元合金の形態で含有されていることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項4に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記四元合金が、粉末X線回折法による定性分析において、カルコパイライト型CuInSe相とCuGaSe相との固溶体合金相であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
Cu,In,GaおよびSeの組成範囲が原子比で、
Cu:In:Ga:Se=X:Y:1−Y:Z(0.8<X<1.05、0.5<Y<0.95、1.90<Z<2.5)とされていることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲットを製造する方法であって、
原料粉末として、NaF粉末、NaS粉末又はNaSe粉末の少なくとも1種と、
Se粉末又はCuとSeとからなるCu−Se合金粉末の少なくとも1種と、
In粉末又はCuとInとからなるCu−In合金粉末と、
CuとGaとからなるCu−Ga合金粉末又はCuとInとGaとからなるCu−In−Ga三元系合金粉末の少なくとも1種とを含む混合粉末を作製し、
この混合粉末を真空又は不活性ガス雰囲気中で熱間加圧により焼結することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
請求項4又は5に記載のスパッタリングターゲットを製造する方法であって、
NaF粉末、NaS粉末、NaSe粉末の少なくとも1種とCu,Ga,InおよびSeからなるカルコパイライト型四元合金粉末との混合粉末を、真空又は不活性ガス雰囲気中で熱間加圧により焼結することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−100589(P2013−100589A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246029(P2011−246029)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】