説明

スパッタリングターゲットの製造方法

【課題】ターゲット材とバッキングプレートとを、気泡を発生させることなく確実に接合できる簡単な方法を提供する。
【解決手段】ターゲット材2及びバッキングプレート3の接合面にボンディング材の塗布層4A,4Bを形成した状態でこれらの一方の接合面を上方に向けて配置するとともに、その接合面に他方の接合面を上方から対向させ、これらの面方向の一端部を接触させた状態で、一端部から離れた位置で両接合面の間にボンディング材により形成されたブロック材11を配置し、ブロック材11及び塗布層4A,4Bを溶融することにより、両接合面どうしを密接させ、ターゲット材2とバッキングプレート3とを接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターゲット材とバッキングプレートとをボンディング材により接合してなるスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜形成技術の一つであるスパッタリングに用いられるスパッタリングターゲットは、一般に、薄膜を形成するための材料であるターゲット材と、導電性および熱伝導性に優れた材質のバッキングプレートとを接合することにより構成されている。これらターゲット材とバッキングプレートとを接合する場合、これらの熱伝達を確実にするため、接合部に空隙が生じないように隙間なく密接することが求められる。その接合方法として、特許文献1〜4に記載の方法がある。
【0003】
特許文献1には、ボンディング材の浴中に、接合面以外マスキング材にて被覆したターゲット材とバッキングプレートを接合面を相対向させて浸漬し、ターゲット材とバッキングプレートの一方又は両方の材料を上下又は揺動運動させて、両者の間にボンディング材の流れを発生せしめ、この流れにより両者の接合面から酸化物、気泡等を夫々除去してターゲット材とバッキングプレートをボンディング材にて接合することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ターゲットをバッキングプレートに接合してスパッタリング用ターゲットを製造するに際し、溶融In浴中にプレソルダーしたバッキングプレートを浸漬するとともに、該浴上にプレソルダーしたターゲットを浮べ、次いで該ターゲットを真空吸着移動装置により移動させると同時にスクレーパーによりプレソルダー面の酸化物を除去した後ターゲットをバッキングプレート上に移動させ、バッキングプレート上に移動したターゲットに荷重を置いて浮上を防止し、該ターゲットをバッキングプレートに密着させ、しかる後にターゲットをバッキングプレートともに大気中に引き上げて冷却することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、スパッタリングターゲット(ターゲット材)と受け板(バッキングプレート)の接合すべき面が溶解状態のハンダに浸漬されている状態で、接合すべき面の間に布地を入れて通らせることで、接合すべき面の間に存在する酸化物と気泡を外へ掃き出すことが開示されている。
特許文献4には、あらかじめターゲット材とターゲットホルダー(バッキングプレート)の接合面に軟ろう材に可溶の金属被膜を形成し、その後軟ろう材をはさんで加熱し、ターゲット材またはターゲットホルダーの自重により接合することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-28066号公報
【特許文献2】特許第2622716号公報
【特許文献3】特表2008−512571号公報
【特許文献4】特公平1−40711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3記載の技術では、ターゲット材とバッキングプレートとをボンディング浴中に浸漬する必要があり、装置が大掛かりになり易いとともに、それらの揺動運動や布地を通らせる作業等が必要で煩雑である。また、特許文献4記載の方法では、予めターゲット材及びバッキングプレートに金属被覆を施しておく必要があり、工程数が多い。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ターゲット材とバッキングプレートとを、気泡を発生させることなく確実に接合できる簡単な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、ターゲット材及びバッキングプレートの接合面にボンディング材の塗布層を形成した状態でこれらの一方の接合面を上方に向けて配置するとともに、その接合面に他方の接合面を上方から対向させ、これらの面方向の一端部を接触させた状態で、該一端部から離れた位置で両接合面の間に前記ボンディング材により形成されたブロック材を配置し、該ブロック材及び前記塗布層を溶融することにより、両接合面どうしを密接させ、前記ターゲット材とバッキングプレートとを接合することを特徴とする。
【0010】
ターゲット材及びバッキングプレートは、接合前の状態では、これらの接合面の一端部どうしが接触し、他端部は両接合面間に介在しているブロック材により他方の接合面が浮かせられた状態に配置される。この状態でブロック材及び塗布層を溶融すると、ブロック材の溶融に伴い他方の接合面が自重により徐々に下降して、両接合面が密接する。この場合、両接合面どうしの隙間は、最初に接触状態であった一端部から他端部にかけて面方向に徐々に閉じていくことになり、これに伴い両接合面間に存在する空気及び塗布層表面の酸化物も一端部から面方向に押し出され、他端部から排出されるため、両接合面が密接する際には、これら接合面間に残存することが防止される。
【0011】
ターゲット材とバッキングプレートとを重ね合わせる際にブロック材を介在させるという簡単な作業で接合することができ、従来から行われているターゲット材及びバッキングプレートへのボンディング材の塗布作業及びその一方を裏返して重ね合わせる作業を大きく変更することなく実施することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、ブロック材を介在させて溶融するという作業で、ターゲット材とバッキングプレートとを、気泡を発生させることなく確実に接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の一実施形態を(a)から(d)の順に工程順に示した断面図である。
【図2】本発明に係るスパッタリングターゲットの一実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の一実施形態について説明する。
スパッタリングターゲット1は、図1(d)及び図2に示すように、ターゲット材2とバッキングプレート3とがボンディング材4によって接合されることにより製造される。
ターゲット材2は、薄膜の材料となる金属、酸化物等により作製され、バッキングプレート3は熱伝導性に優れる純銅又は銅合金により作製されている。これらターゲット材2、バッキングプレート3の形状は限定されるものではないが、例えば、いずれも円板状に形成される。
【0015】
また、ボンディング材4としては、In系のはんだ材の他、Sn系、Sn−Sb系、Sn−Ag系の種々のはんだ材が用いられ、導電性を有するとともに、バッキングプレート3とターゲット材2との表面の平滑度の差を吸収できるクッション性を有するものが用いられる。このボンディング材4の厚さは、限定されるものではないが、ターゲット材2とバッキングプレート3との間に厚さ確保のために例えば0.4mm径の銅製ワイヤ5が介在され、このワイヤ5の介在により形成される隙間が埋まる程度の厚さでよい。
このように構成されるスパッタリングターゲット1は、バッキングプレート3が設けられていない側のターゲット材2の表面がスパッタ面6とされ、このスパッタ面6を図示略の処理基板に対向させた状態でスパッタリング装置のターゲットホルダーに取り付けられて使用される。
【0016】
次に、これらターゲット材2とバッキングプレート3とを接合してスパッタリングターゲット1を製造する方法について説明する。
まず、ターゲット材2およびバッキングプレート3をホットプレート10上に載置して十分に加熱しながら、これらターゲット材2およびバッキングプレート3の接合面に溶融状態のボンディング材を塗布し、図1(a)に示すようにボンディング材の塗布層4A,4Bをそれぞれ形成する。必要に応じて、ボンディング材に超音波振動等を加えながら塗布するとよい。
【0017】
次に、バッキングプレート3は接合面(ボンディング材の塗布層4Bを形成した面)を上方に向けた状態でホットプレート10上に載置したまま、その上にワイヤ5を配置し、ターゲット材2は、裏返して、接合面(ボンディング材の塗布層4Aを形成した面)を下向きにしてバッキングプレート3の接合面に上方から対向させ、その面方向の一端部どうしを接触させる。一方、この接触状態の一端部から離れた他端部付近では、ターゲット材2とバッキングプレート3との間に、塗布層4A,4Bを形成しているボンディング材と同じボンディング材からなる例えば直方体状のブロック材11を介在させ、図1(b)に示すように、そのブロック材11にターゲット材2を支持させる。
【0018】
これにより、ターゲット材2は、バッキングプレート3の上で、一端部がバッキングプレート3に接触し、他端部付近でブロック材11に支持され、バッキングプレート3との間隔を一端部から他端部に向けて(図1(b)では右側端部から左側端部に向けて)漸次広げた状態に斜めに配置される。また、ターゲット材2及びバッキングプレート3の接合面のボンディング材の塗布層4A,4Bは、これらターゲット材2及びバッキングプレート3が十分に加熱状態とされているため、溶融状態が維持されている。
【0019】
そして、このターゲット材2をバッキングプレート3の上にブロック材11により斜めに支持した状態でホットプレート10の熱によりブロック材11を溶融すると、ブロック材11は、溶融に伴い、図1(c)に示すように、溶けたボンディング材が流れ広がり、またターゲット材2の自重により実線矢印で示すように上方から押しつぶされるために、高さが減少する。そして、このブロック材11に支持されているターゲット材2は、ブロック材11の溶融による高さの減少に伴って自重により徐々に下降し、バッキングプレート3に重ねられる。
【0020】
この場合、バッキングプレート3とターゲット材2との接合面どうしの隙間は、最初に接触状態であった一端部から他端部にかけて面方向に徐々に閉じていくことになり、これに伴い両接合面間に存在する空気は図1(c)の破線矢印で示すように一端部から面方向に押し出され、他端部から排出されるため、両接合面が密接する際には、ターゲット材2とバッキングプレート3との間に気泡が残存することが防止される。また、塗布層4A,4Bの表面には、溶融により酸化物やガスが発生するが、これら酸化物やガスもターゲット材2の下降に伴い同様にして破線矢印で示すように押し出され、外部に排出されるので、ターゲット材2とバッキングプレート3との間に残存することが防止される。
【0021】
そして、ターゲット材2がバッキングプレート3に重ねられた図1(d)に示す態で冷却することにより、ターゲット材2とバッキングプレート3との間の接合部に気泡の発生が少なく、これらが確実に接合されたスパッタリングターゲット1が製造される。
この接合作業は、ターゲット材2とバッキングプレート3との間にブロック材11を介在させて溶融するという作業であって、簡単であり、従来から行われているホットプレート10を使用した作業により容易に行うことができ、特別の装置も必要としない。ターゲット材の直径が大きい場合でも、端部から順次接触させるので、気泡等を介在させることが少なく、確実に接合することができる。
【0022】
本発明の効果を確認するため、以下の実験を行った。
Agからなる直径300mmで厚さが15mmのターゲット材と、Cuからなる直径330mmで厚さが23mmからなるバッキングプレートとをホットプレート上に載置し、これらを210℃に昇温後、その上面にInからなるボンディング材を厚さ0.5mm程度に塗布した後、バッキングプレートの上に0.4mm径の銅製ワイヤとInからなるブロック材とを載置した。このブロック材は、縦20mm×横50mm×高さ20mmの大きさで、バッキングプレートの周縁部寄りの端部上に載置した。そして、ターゲット材を裏返し、その一端部をバッキングプレート上に接触させ、他端部をブロック材の上に支持した。
この状態で210℃に維持することによりブロック材を溶融させ、ターゲット材を自重によってバッキングプレートに重ね合わせることにより、これらを接合してスパッタリングターゲットを作製した。ブロック材にターゲット材を支持させた状態から、ブロック材が完全に溶融して、ターゲット材がバッキングプレートに重ね合わせられるまで、約2分かかった。
【0023】
このスパッタリングターゲットにおける接合部を超音波探傷により観察したところ、気泡を除く接合部の面積は、ターゲット全体面積の99.3%であった。通常、接合部としてはターゲット全体面積の90%以上あれば、スパッタリングターゲットとして支障なく使用できる。したがって、本発明の製造方法により、気泡等の介在が少なく、ターゲット材とバッキングプレートとを良好に接合することができることが確認された。
【0024】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
実施形態ではターゲット材及びバッキングプレートとも円板状としたが、矩形板状、楕円板状等、種々の形状のものに適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 スパッタリングターゲット
2 ターゲット材
3 バッキングプレート
4 ボンディング材
4A,4B 塗布層
5 ワイヤ
6 スパッタ面
10 ホットプレート
11 ブロック材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット材及びバッキングプレートの接合面にボンディング材の塗布層を形成した状態でこれらの一方の接合面を上方に向けて配置するとともに、その接合面に他方の接合面を上方から対向させ、これらの面方向の一端部を接触させた状態で、該一端部から離れた位置で両接合面の間に前記ボンディング材により形成されたブロック材を配置し、該ブロック材及び前記塗布層を溶融することにより、両接合面どうしを密接させ、前記ターゲット材とバッキングプレートとを接合することを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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