説明

スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】円筒形状のCu−Ga合金からなる高品質で量産が可能なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】溶解容器5内のCuとGaを加熱手段で溶解して溶湯Mを形成し、前記溶解容器の底部に形成された円環状の開口7を開閉自在に覆うことができる引下部材6を所定の速度で引き下げることにより、前記開口を開放すると共に前記溶解容器内の前記溶湯を凝固させながら連続的に円筒形状のスパッタリングターゲットとなる凝固材を抜き出すに際して、前記溶解容器内の前記開口付近の前記溶湯を流動可能な半凝固状態とし、且つ前記溶解容器の前記開口から外部に出た直後に流動性のない凝固状態となるように、前記加熱手段によって温度制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Ga合金からなる円筒形状のスパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物半導体によるCIGS薄膜太陽電池の量産が開始されたが、変換効率、コストなどの面で課題が多く、これらの課題に対して使用材料の見直しや構造の改良などが検討されている。
【0003】
CIGS系薄膜太陽電池は、基板上に、裏面電極、光吸収層、バッファ層、透明電極等が形成されて構成される。基板としては耐熱性が高く、Na効果による性能向上が見込めるソーダライムガラスが一般的に用いられるが、量産時にRoll to Roll法を適用しにくいため、金属やプラスチックの箔も検討されている。裏面電極としては、Moが使われているが、材料コスト面で薄膜化や代替金属が検討されている。また金属箔を用いることで、基板と裏面電極との統合も検討されている。光吸収層としては、Cu−In−Ga−Se及びCu−In−Ga−Sが使用されている。これらCIGS薄膜を用いたCIGS薄膜太陽電池は、結晶シリコン系太陽電池などに比べて光吸収特性が高く、薄膜化でき、量産性を向上できる。バッファ層としては、CdS等が使われているが、Cdの有毒性から代替化合物が検討されている。透明電極としては、ZnOが用いられており、導電率及び透明性の向上について検討されている。
【0004】
CIGS太陽電池の上記光吸収層の形成方法として、多元蒸着法、セレン化法、スパッタ法などが検討され実用化されている。蒸着法では、高変換効率が得られるが大面積化が難しく量産が容易ではない。そのために、スパッタ法およびセレン化法によってCIGS層を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、Cu−In−Ga−Se四元系合金膜をスパッタ法により成膜する方法として、まず、Inターゲットを使用してスパッタすることによりIn膜を成膜し、このIn膜の上にCu−Ga二元系合金ターゲットを使用してスパッタによりCu−Ga二元系合金膜を成膜し、得られたIn膜およびCu−Ga二元系合金膜からなる積層膜をSe雰囲気中で熱処理してCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成する方法が記載されている。
【0005】
スパッタリングターゲットとしては、平板型や円筒型のターゲットを用いるものがある。円筒型ターゲットは、円筒面を回転させることにより、スパッタリングで使用できる量が平板型ターゲットに比べて多く、さらにプラズマ照射面を連続的に変えて冷却を効率的にできるため、出力を高く維持でき量産性が高い。しかし円筒型ターゲットは、平板型ターゲットに比べて製造する難易度が高く、コストアップとなる。
【0006】
また、Cu−Ga合金のスパッタリングターゲットの場合、Cu−Ga合金は非常に脆く脆性割れが発生し易いため溶解鋳造は難しく、製造方法として粉体焼結法が用いられる。粉体焼結によるCu−Ga合金ターゲットとして、Gaを1〜40wt%含有し、残部がCuからなる組成を有するCu−Ga合金ターゲットが知られているが、Ga含有量が多くなると、切削時に割れや欠損が発生し易い。特許文献2には、切削時の割れや欠損を防止し、Gaを30wt%以上含む高Ga含有Cu−Ga合金ターゲットを粉体焼結により作製する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−282908号公報
【特許文献2】特開2008−138232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Cu−Ga合金の円筒型スパッタリングターゲットを製造する上で、粉体焼結よりも、生産性の高い溶解鋳造を用いるのが望ましい。しかし、上述したように、溶解鋳造では、Cu−Ga合金は非常に脆く鋳造時に割れが発生し易く、さらに、円柱形のインゴット(鋳塊)から塑性加工の工程を経て円筒形にする場合は、割れの問題があり、円柱形のインゴットから切削加工の工程を経て円筒形にする場合は、多量の切削屑が出て歩留まりが悪い。
【0009】
本発明の目的は、円筒形状のCu−Ga合金からなる高品質で量産が可能なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、Ga濃度が27wt%以上30wt%以下のCu−Ga合金からなり、溶解鋳造により円筒形状に形成されたスパッタリングターゲットである。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載のスパッタリングターゲットにおいて、前記スパッタリングターゲットの組織が、前記スパッタリングターゲットの凝固面に対して平行に切断した切断面において等軸状である。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載のスパッタリングターゲットにおいて、前記スパッタリングターゲットは、50μm以上の空隙欠陥を含まない。
【0013】
本発明の第4の態様は、溶解容器内のCuとGaを加熱手段で溶解して溶湯を形成し、前記溶解容器の底部に形成された円環状の開口を開閉自在に覆うことができる引下部材を所定の速度で引き下げることにより、前記開口を開放すると共に前記溶解容器内の前記溶湯を凝固させながら連続的に円筒形状のスパッタリングターゲットとなる凝固材を抜き出すに際して、前記溶解容器内の前記開口付近の前記溶湯を流動可能な半凝固状態(固液共存状態)とし、且つ前記溶解容器の前記開口から外部に出た直後に流動性のない凝固状態となるように、前記加熱手段によって温度制御を行うスパッタリングターゲットの製造方法である。
【0014】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、前記溶湯にはGaが27wt%以上30wt%以下で含まれており、前記開口付近の前記溶湯の流動可能な半凝固状態の温度が、固相率0.6となる温度に設定されている

【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、円筒形状のCu−Ga合金からなる高品質で量産が可能なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法で用いたインゴット製造装置を示す縦断面図である。
【図2】図1のA部の拡大断面図である。
【図3】Cu−Ga二元系合金の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法の一実施形態を図面を用いて説明する。
【0018】
図1に、本実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法で用いたインゴット製造装置の縦断面図を示す。また、図2に、図1のA部の拡大断面図を示す。
【0019】
図1に示すように、Cu−Ga合金の材料であるCuとGaを溶解して溶湯Mを作製する溶解容器5は、カーボン製の鋳型(るつぼ)4とその外側を覆う断熱材3とから主に構成されている。鋳型4は、円筒形状の側壁部4aと、側壁部4aの下部開口に設置される概ね円盤状の底壁部4bとからなる。断熱材3は、鋳型4の側壁部4a及び底壁部4bの外側をそれぞれ覆うと共に、鋳型4の側壁部4aの上部開口を覆っている。鋳型4の底壁部4bの外周面と鋳型4の側壁部4aの内周面との間には、円環状断面の開口7が形成され、開口7にはこれを開閉自在に覆うことができる円筒形状でカーボン製の引下部材(引出部材)6が昇降可能に設けられている。図1では、引下部材6は開口7に挿入されて、開口7が閉じられた状態にある。
【0020】
溶解容器5の外周には、鋳型4内のCuとGaを加熱する加熱手段としての高周波誘導加熱コイル1,2が上下に配置されている。上部の高周波誘導加熱コイル1は、主に鋳型4の中・上部を加熱し、下部の高周波誘導加熱コイル2は、主に鋳型4の下部を加熱する。高周波誘導加熱コイル1,2への出力を制御する制御手段(図示せず)は、図2に示すような熱電対8,9等により測定された各部の温度から、鋳型4等の各部の温度が所定の設定値に保たれるように、PID制御により高周波誘導加熱コイル1,2への出力を制御する。
【0021】
次に、図1に示すインゴット製造装置を用いて、円筒形状のインゴットを溶解鋳造により連続的に直接製造する方法を説明する。
【0022】
合金溶湯Mが凝固するとき、凝固界面付近では固相と液相とが共存する固液共存領域ができる。ここで固液共存領域での固相の割合を固相率fsとすると、液相ではfs=0、固相ではfs=1、固液共存領域では0<fs<1となる。また、固相は樹枝状に成長するため、固相率が増えると液相の粘性が増加して液相が流動できなくなる。液相が流動できなくなる固相率を、流動限界固相率fs critと呼び、合金の組成によってfs critの値は異なり、おおよそ0.6〜0.8程度となる。そして、固相率fsが、fs crit≦fs≦1
のときには、液相の流動によって合金の凝固材の凝固収縮を緩和できないために、凝固材が凝固収縮の影響を受ける。凝固収縮時に鋳型4で凝固材が拘束されている場合に、強い応力が発生し、脆弱な材料では容易に破損する。例えば、CIGS太陽電池の光吸収層の形成に用いられる高Ga含有のCu−Ga合金では、非常に脆く容易に割れが発生してしまう。
【0023】
そこで、本実施形態では、凝固材の径方向に熱収縮及び凝固収縮がかからないように、凝固材の凝固位置を設定することで、割れを防ぐ方法を検討した。
【0024】
円筒形のインゴットを作製するにあたって、流動限界固相率fs critとなる温度以下で
は鋳型4から拘束を受けないように凝固させる必要がある。このため、例えば、流動限界固相率fs critとなる温度以上の流動性の高い状態(ないし流動性を有する状態)を鋳型
4の中(例えば、図2の平面bの上方)におき、流動限界固相率fs critとなる温度以下
の流動性が低い状態(ないし流動性がない状態)を鋳型4の外(例えば、図2の平面bの下方)に出すことで、円筒形のインゴット(凝固材)の形状を維持でき、さらに凝固材に対する径方向の応力を抑制できる。
【0025】
本実施形態のインゴット製造装置において、図2の平面bの位置は、引下部材6を引き下げてゆく際に、溶解容器5の鋳型4から引下部材6が抜けて、開口7が開かれ始める位置である。鋳型4から引下部材6が抜ける手前で、図2の平面bの上方付近で溶湯Mの温度が流動限界固相率fs critの温度以上となるように調整する。これにより、凝固材の固
相率fsがfs crit≦fs<1である状態を溶解容器5外におくことができ、溶解容器5
に拘束されずに凝固を完了させ、凝固材を破損させずに常温まで冷却することができる。
【0026】
図2に示すように、平面bに位置する鋳型4の底壁部4bには熱電対9が設置され、更に、底壁部4bの上面側の位置(平面aの位置)にも熱電対8が設置されている。また、平面bから鋳型4の側壁部4aの下端の位置である平面cまでの間の、鋳型4の底壁部4bの外周面10は、下方に向かうほど側壁部4aの内周面からの距離が大きくなるように、テーパ状に形成されている。開口7部の下端位置である平面cを通過した凝固材は、図2の鎖線dで示すように、鋳型4の中心側に若干、膨らむ。この膨らんだ凝固材が、鋳型4等に接触して拘束されないように、平面bの下方の底壁部4bの外周面10をテーパ状にしている。
【0027】
流動限界固相率は、CuGa合金状態図から計算する。流動限界固相率を、実際の流動限界固相率fs critよりも高く見積もると、溶解容器5外に出る前に固相率が流動限界固
相率fs critを超えるため、合金材料が割れやすい。そこで、流動限界固相率を、実際の
流動限界固相率fs critよりも低く、0.6と見積もる。そして、図3のCuGa合金状態図から「てこの法則」を用いて、固相率が0.6となる温度を計算する。例えば、30w
t%含むCuGa合金では、液相線温度は842℃、固相線温度は832℃であり、「て
この法則」より固相と液相の比が3:2である、固相率0.6となる温度を計算し、流動
限界固相率となる温度を決める。そして、例えば、引下部材6の引下げ中、図2の平面a〜平面bの領域の溶湯温度を固相率0.6となる温度に制御するのがよい。なお、図3の
状態図ではGa濃度の単位をat%で示しているが、at%はwt%に変換できる。例えば、図3中、一点鎖線で示すGa濃度26.7at%は、28.5wt%にあたり、Ga濃度単位をat%からwt%に変換すると、Ga濃度値が最大で2%程度ずれる。
Gaの組成が30wt%に近づくにつれて、固相線温度と液相線温度との温度差が減少して温度制御の難易度が増すため、Ga濃度を30wt%以下とするのが好ましい。また、Ga濃度が25wt%〜27wt%の範囲でも固相線温度と液相線温度との温度差は制御できるレベルではあるが、27wt%未満では結晶成長が問題となるため、Ga濃度を27wt%以上とするのが好ましい。
【0028】
引下部材6の引下速度については、100mm/hr程度か、100mm/hr以下とするのが好ましい。引下部材6の引下速度を大きく、例えば、引下速度を1000mm/hrにすると、開口7部付近の温度を所定の温度範囲で制御することができず、材料が破損しやすく、インゴット作製が困難となる(後述の実施例参照)。また、一方向凝固による凝固速度が低い方が、凝固材中に生成される空隙を抑制できるため、品質の良好な凝固材が得られる。
【0029】
次に、図1に示すインゴット製造装置を用いて、円筒形状のインゴットを製造する方法を更に具体的に説明する。以下では、溶解工程と、凝固工程と、凝固材加工工程との3つの製造工程について述べる。
【0030】
1.溶解工程
金属溶湯Mの酸化を防ぐ目的で、溶解容器5が設置されるチャンバー(図示せず)内の大気を油回転ポンプで10Paまで減圧した後、Arガスを流入させて大気圧に戻す。大気圧に戻した後、高周波誘導加熱コイル1により鋳型4を加熱してCuとGaのバルク材
を溶解させる。溶解を速やかにする目的で、鋳型4底部の溶湯Mの温度を目標組成の液相線温度より50〜100℃高い温度とするのが好ましい。例えば、Gaを30wt%有するCuGa合金溶湯の液相線温度は890℃となり、鋳型4内の溶湯Mの底部の温度を920〜970℃に保持するとよい。また、CuとGaの反応面積を増加させる目的で、Cuのバルク材を小さく加工するとさらに良い。
【0031】
2.凝固工程
引下部材6の上面を平面aの位置にする。まず、熱電対8で平面aの位置の温度を測定し、制御手段のPID制御により高周波誘導加熱コイル1の出力を調整し、平面aでの温度を液相線温度+5℃から液相線温度+10℃の範囲にする。平面aでの温度を液相線温度よりも高くするのは、引下部材6を引き下げる前に溶湯Mが凝固しないためである。次に、熱電対9で平面bの温度を測定し、PID制御で高周波誘導加熱コイル2の出力を調整し、平面bでの温度を流動限界固相率になる温度+5℃から流動限界固相率になる温度の範囲にする。前もって、平面b位置の温度を流動限界固相率となる温度より多少高く温度設定しておくことで、引下部材6を引き下げた瞬間に温度が非定常になってから、速やかに再度温度が定常になる。それから温度調節の後、定常状態になったら引下部材6を所定の速さで引き下げる。引き下げが開始した後、平面b位置での温度が流動限界固相率になる温度から流動限界固相率になる温度+5℃の範囲になるようにPID制御で高周波誘導加熱コイル2の出力を調整する。これにより、割れることなく円筒形のCuGa合金インゴットが連続に作られる。そして、チャンバー内でこのCuGa合金インゴットを常温まで自然冷却させる。
【0032】
3.凝固材加工工程
凝固工程で凝固させたCuGa合金インゴットの表面には、スパッタリング時に無視できない薄い酸化皮膜層が形成されているため、希硫酸により酸化皮膜層を除去する。次に、所定の寸法に切断する。CuGa合金は、靭性が低いため容易に破壊するので、研削材のついた金属バンド等で切断するときには、負荷のかからないよう加工することが好ましい。
【0033】
このようにして、非常に脆いCu−Ga合金からなる円筒形のスパッタリングターゲットを溶解鋳造で直接製造することができる。これにより、円筒形のCu−Ga合金スパッタリングターゲットを、歩留まりよく量産でき、生産コストを低減できる。本発明のスパッタリングターゲットは、CIGS太陽電池製造に用いられるCu−Ga合金スパッタリングターゲットとして好適であり、CIGS太陽電池製造技術の向上に大きく寄与することができる。
【実施例】
【0034】
以下に、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0035】
(実施例1)
実施例1では、図1に示す上記実施形態のインゴット製造装置を用いて、外径150mm、厚さ(肉厚)10mm、高さ(長さ)100mmの円筒形のCuGa合金スパッタリングターゲットを作製した。製造方法は以下のとおり。
【0036】
目標組成をCu−28wt%Gaとなるように、純Cu10.7kgと純Ga4.19kgを溶解容器に装填し、この溶解容器を真空チャンバーにいれて、真空チャンバー内を油回転ポンプで10Pa程度まで引き、Arガスで置換した。そして、高周波誘導加熱コイルを用いて、溶解容器を加熱してCuとGaを溶解した(溶解工程)。
溶解後、液相線温度を841℃、引き下げ中の平面b上の温度を流動限界固相率となる温度836℃として温度を調節・制御し、引下部材を引下速度100mm/hrで下方向
に引抜き、溶湯を徐々に凝固させて凝固材を作製した。溶湯は、冷却されている下方側から凝固していく(凝固工程)。
その後、この凝固材の表面の酸化皮膜を希硫酸を用いて除去した後、研削材のついた金属バンドで切断した。切断面は、凝固材の凝固方向に平行な面(円筒形の凝固材の軸方向に平行な面)、および凝固方向に垂直な面(円筒形の凝固材の軸方向に垂直な面)で切り出し、評価サンプルを作製した(凝固材加工工程)。
【0037】
この評価サンプルについて、ミクロ組織、空隙量を調査した。まず評価サンプルとして1cm角の立方体を10個切り出し、凝固面と平行な面、垂直な面を研磨等で調整して断面組織を光学顕微鏡にて写真を取り、この写真を画像解析ソフト(製品名:Image ProPlus J)を用いて、輝度を基準に合金相と空隙を分離し、その中から半径50μm以上の空
隙を検索した。
評価した結果、組織は、凝固面と平行な切断面では等軸状で、垂直な面では長方形状であった。さらに50μm以上の空隙欠陥を含まず、スパッタリングターゲットとしての品質は良好であるといえる。
この円筒形のCuGa合金スパッタリングターゲットをArフロー0.5Pa、面積あ
たり印加電圧33W/mmの条件でスパッタリングを1時間行った結果、異常放電は無く、品質の良いCuGa合金スパッタ膜が得られた。
【0038】
(実施例2,3及び比較例1,2)
実施例2,3及び比較例1,2では、上記実施例1において、Ga濃度、引き下げ中の平面b上の温度、引下速度を変更した以外は、上記実施例1と同様の製造条件で円筒形のCuGa合金スパッタリングターゲットを作製した。実施例2,3及び比較例1,2における製造条件及びスパッタリングターゲットの割れの有無を、実施例1の場合も含めて、表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1の実施例1〜3に示すように、組成(Ga濃度:27wt%以上30wt%以下
)、凝固速度(100mm/hr以下)について規定した範囲内で凝固させると、割れを発生させることなく、50μm以上の空隙がないCuGa合金スパッタリングターゲットが得られる。実施例2,3の円筒型CuGa合金スパッタリングターゲットをArフロー0.5Pa、面積あたり印加電圧66W/mmの条件でスパッタリングを10分間行っ
た場合、異常放電はなく良好なスパッタ膜が得られた。
一方、比較例1は、引き下げ中の平面b上の温度を832℃に設定し、流動限界固相率となる温度よりも低くして、鋳型から拘束がある状態で凝固させた。その結果、凝固収縮により、材料に応力が発生して割れた。また、比較例2は、引下速度(凝固速度)を1000mm/hrとして凝固させた。その結果、凝固収縮により、材料に応力が発生して割れた。
【符号の説明】
【0041】
1,2 高周波誘導加熱コイル
3 断熱材
4 鋳型
4a 側壁部
4b 底壁部
5 溶解容器
6 引下部材
7 開口
8,9 熱電対
10 外周面
M 溶湯
a、b、c 平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga濃度が27wt%以上30wt%以下のCu−Ga合金からなり、溶解鋳造により円筒形状に形成されたことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
請求項1に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記スパッタリングターゲットの組織が、前記スパッタリングターゲットの凝固面に対して平行に切断した切断面において等軸状であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のスパッタリングターゲットにおいて、
前記スパッタリングターゲットは、50μm以上の空隙欠陥を含まないことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項4】
溶解容器内のCuとGaを加熱手段で溶解して溶湯を形成し、
前記溶解容器の底部に形成された円環状の開口を開閉自在に覆うことができる引下部材を所定の速度で引き下げることにより、前記開口を開放すると共に前記溶解容器内の前記溶湯を凝固させながら連続的に円筒形状のスパッタリングターゲットとなる凝固材を抜き出すに際して、
前記溶解容器内の前記開口付近の前記溶湯を流動可能な半凝固状態とし、且つ前記溶解容器の前記開口から外部に出た直後に流動性のない凝固状態となるように、前記加熱手段によって温度制御を行うことを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、
前記溶湯にはGaが27wt%以上30wt%以下で含まれており、前記開口付近の前記溶湯の流動可能な半凝固状態の温度が、固相率0.6となる温度に設定されていること
を特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−76129(P2013−76129A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216633(P2011−216633)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】