説明

スパッタリングターゲット組立体

【課題】 構成相や空孔率を制御して成形した割れのないターゲット材を、インサート材を介してバッキングプレートと接合したスパッタリングターゲット組立体を提供する。
【解決手段】 ターゲット材を構成する金属元素を機械的合金化法によって均質に混ざるように混合し、この混合粉末を用いて、温度、圧力を制御して適当な空孔率を導入しつつ成形することによって割れのない成形体を作製し、得られた成形体とバッキングプレートを、インサート材を介して加圧下通電加熱法を用いて接合し、スパッタリングターゲット組立体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は合金を構成する元素を混合した粉末を、加圧下通電加熱法によって成形し、さらに、インサート材を使用してバッキングプレートに接合したスパッタリングターゲット組立体に関する。さらに詳しくは、本発明は、合金の元素粉末を様々な方法で混合し、得られた混合粉末を通電加熱を用いて温度、圧力を制御しながら焼結することにより空孔率を制御してターゲット材の割れを防ぐとともに、ターゲット材の内部構造を、10μm以下の結晶粒径に制御し、インサート材を介してバッキングプレートに接合したスパッタリングターゲット組立体に関するものである。
【0002】本発明は機械的合金化法により混合した粉末を焼結することによってターゲットにするため、強固で均一組成の合金ターゲット材を作製し、提供することを可能とするものである。さらに、インサート材を介したターゲット材とバッキングプレートの接合に真空雰囲気下での加圧下通電加熱法を用いることにより、短時間で容易に均一な接合界面層を有するスパッタリングターゲット組立体を提供することを可能とするものである。
【0003】
【従来の技術】スパッタリング技術はターゲット材料をイオン化して基板に蒸着し、薄膜を得る技術である。複数の元素からなる合金薄膜を作製する場合、純金属の複数のターゲット材料を用いてスパッタリングを行うか、合金のターゲット材料を使用する必要がある。中でも、目的の合金組成を得るために合金ターゲットを使用する場合が少なくない。そこで、従来、合金のインゴットから切り出したり、合金を構成する金属元素の薄膜を重ねたり、合金元素の小さな塊をモザイク状に配置して合金組成を得ていた。
【0004】しかし、インゴットには成分の偏析があり、得られた薄膜は均一な組成にならない場合があった。同様に、薄膜の積層材やモザイク状ターゲットも成分の偏析があり均一組成の薄膜が得られない場合があった。また、多くの場合ターゲットは固溶合金の構造を有しており、非晶質、あるいは金属間化合物構造を有するターゲットはほとんど得られていない。
【0005】一方、粉末冶金的手法により偏析の少ないターゲットを作製する試みがなされてきた。しかし、ターゲットは薄くて大きいため、割れることが多く、安定的なターゲットの供給はなされていない。また、ターゲット材とバッキングプレートの接合はインサート材を溶解して張り合わせるため時間と手間がかかり、均一な接合界面層を得にくいという問題がある。このように、従来、合金ターゲットは鋳造法、あるいは薄膜の積層や小さなブロックのモザイク化などにより作製されてきた。しかし、いずれの方法も組成が不均一であるため、得られた薄膜の組成も不均一となった。一方、均一な合金を得られる粉末冶金法ではターゲットの割れが多いという問題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記の問題点を解決するために鋭意研究した結果、まず、合金成分の金属元素を混合し、加圧下通電加熱法により焼結することと、その場合、圧力を調節し、空孔率を5−20%に制御することによって割れのない成形体が作製できること、また、通電加熱における温度を制御することによって結晶粒径が10μm以下であるような成形体が作製できること、これらのターゲット材を熱処理することによって焼結性が向上し、熱処理温度によって結晶相を制御できること、さらに、バッキングプレートとの接合においても、インサート材を介し、加圧下通電加熱法により加圧しながら加熱することによって均一に接合できること、を見いだし、本発明を完成するに至った。本発明は、合金粉末の混合粉末を加圧下通電加熱法により成形することで、均一かつ微細な組成で割れがない合金ターゲットを提供し、さらに均一かつ容易にバッキングプレートと接合したスパッタリングターゲット組立体を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)空孔率を制御してターゲット材に耐割れ性を付与した非晶質相ないし金属間化合物相を有するスパッタリングターゲット組立体であって、ターゲット材を構成する金属元素を合金化した混合粉末を加圧焼結により固化成形して空孔率および結晶粒径を制御した成形ターゲット材とし、必要により熱処理し、このターゲット材とバッキングプレートをインサート材を介して加圧下通電加熱法により接合したスパッタリングターゲット組立体。
(2)ターゲット材に体積率で5−20%の空孔を残存させた前期(1)記載のスパッタリングターゲット組立体。
(3)ターゲット内部の結晶粒径を10μm以下に制御した前期(1)または(2)記載のスパッタリングターゲット組立体。
(4)ターゲット材を熱処理することを特徴とする前期(1)、(2)または(3)記載のスパッタリングターゲット組立体。
【0008】
【発明の実施の形態】次に、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明に用いる材料には、一般的な合金、金属間化合物を構成する元素の市販されている粉末が利用できる。粉末の大きさについては特に指定しないが、一般的には数十ミクロンから数ミリの粉末が利用できる。
【0009】元素粉末の混合方法は特に指定しないが、各元素を均質微細に混合できる方法が好ましく、例えば機械的合金化処理や乳鉢を用いた乾式混合法が使用できるが、好適には機械的合金化処理が使用される。機械的合金化処理には乾式の粉砕機が利用でき、振動型ボールミル、遊星型ボールミル、転動型ボールミル、アトライターなどが利用できる。機械的合金化処理時の雰囲気は粉末の酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気や減圧雰囲気が好ましい。例えば、アルゴンガスや窒素ガス500mmHgの雰囲気が好適なものとして例示される。また、機械的合金化処理時に金属粉末が容器やボールに付着しないようにするためにミリング助剤を総重量の5重量%以下程度添加してもよい。ミリング助剤を5重量%以上添加すると、助剤の成分が不純物として混入する可能性があり、5重量%以下の添加では効率的な効果が得られない。
【0010】機械的合金化に供する時間は特に指定しないが、50時間から300時間が好ましい。50時間より短いと各元素の混合状態が不十分であり、微細混合には至っていない可能性がある。また300時間を超えると機械的合金化処理時に粉末の酸化あるいは窒化が多くなり、熱電材料の性能劣化をもたらす酸化物や窒化物が生成される。さらに、機械的合金化時の圧力伝達媒体としては、鋼球、セラミックス球、超硬球などの一般的な粉砕球が利用できる。
【0011】所定の組成に配合された元素の粉末を機械的合金化処理により合金化した粉末は、数マイクロメートル以下の微細な粉末であり、その内部は微細な結晶や非晶質で構成されている。
【0012】得られた粉末を固化成形するための雰囲気は、粉末の酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気や減圧あるいは真空雰囲気が好ましい。型は、例えば、黒鉛製、あるいは超硬合金製、雰囲気は、例えば、アルゴンガス100mmHg、または、0.1mmHg真空の雰囲気が好適なものとして例示される。加熱方法は特に指定しないが、短時間で目的温度に到達する方法が好ましく、例えば、通電加熱や赤外線イメージ炉、高周波加熱炉などが利用できる。また、加熱時には成形性を向上するため、加圧しなければならない。加圧方法は特に指定しないが、一般的には油圧や空圧を利用した一軸の加圧や、ガス圧を利用した等方的な加圧が利用される。この場合、焼結の条件は粉末の種類や使用する型の材質に依存するが、例えば、鉄−テルビウム金属間化合物の場合、黒鉛製の型を用い0.1mmHgの雰囲気で42MPaの圧力を加え、900℃で5分間保持する。
【0013】焼結時に導入する空孔率の割合は特に指定しないが、体積率で5から20%が好ましい。5%以下だと空孔が亀裂に対する緩衝にならず、ターゲット材が割れる可能性がある。また20%以上だと密度が低く、ターゲット材内部で均一な導通がとれず、正常なスパッタリングができない。例えば、焼結時の温度を550℃以下に制御することによって結晶粒径が10μm以下であるマンガン−シリコン化合物ターゲット材を作製することができる。次に、必要により、得られた成形体を熱処理する。この場合、例えば、熱処理条件は大気圧のアルゴンガスが還流している状態で500℃で1時間保持する。これにより未反応の粉末が完全に金属間化合物となる。
【0014】次に、ターゲット材をインサート材を介してバッキングプレートと接合する。バッキングプレートに使用する材料は特に指定しないが、電気伝導性、熱伝導性に優れた金属材料で、非磁性材料であることが好ましい。電気伝導性が悪いとスパッタ時にターゲット材に電流が流れず、効率よくスパッタできない。熱伝導性が悪いと、スパッタ時にターゲット材が冷却されない。また、バッキングプレートが磁性を持つと、スパッタリング技術の一つであるマグネトロンスパッタリングが使用できず、スパッタ効率が悪い。例えば、銅や銅合金、アルミニウムが例示される。
【0015】インサート材に使用する材料は特に指定しないが、融点が低く、沸点の高い材料が好ましい。融点が高いと接合時の溶解温度が高温になり、ターゲット材が溶ける。また、沸点が低いと接合時、あるいはスパッタ時に蒸発する。例えば、インジウムが例示される。
【0016】
【実施例】以下実施例で本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例は本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、該実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1マグネシウム粉末(和光純薬試薬特級)9.5gにシリコン粉末(ナカライテスク試薬特級)5.5gを添加し、ミリング助剤としてステアリン酸を0.7gを加えて遊星型ボールミルにて100時間の機械的合金化処理を行った。機械的合金化処理時の雰囲気は500mmHgの減圧アルゴンガス雰囲気とし、粉末とボールの重量比が約1:27になるようにした。容器と10mm径の粉砕球にはクロム鋼を用いた。得られた材料は数マイクロメートル程度の粉末であり、X線回折により明瞭なるマグネシウム−シリコン化合物の合成が認められた。
【0017】マグネシウム粉末とシリコン粉末を機械的に合金化した混合粉末15gを直径50mmの黒鉛製の型に入れ、約1mmHgの真空中で通電加熱による固化成形を行った。焼結は、150kgf/cm2 の加圧下にて800℃で5分間保持した。得られた成形体は直径50mm、高さ3mm、空孔率15%の円盤状になった。
【0018】得られた成形体を直径60mm、厚さ2mmの純銅製バッキングプレートに接合した。接合のインサート材には純インジウムを使用し、15kgf/cm2 の加圧下にて160℃まで加熱した。
【0019】得られたスパッタリングターゲット組立体は、ターゲット材が割れのないマグネシウム−シリコン化合物であり、純インジウムの均一な接合界面層によって純銅製バッキングプレートに接合された組立体となった。
【0020】実施例2鉄粉末(和光純薬試薬特級)13.5gにテルビウム粉末(レアメタリック試薬特級)10.6g、ディスプロシウム粉末(レアメタリック試薬特級)10.9gを添加し、遊星型ボールミルにて100時間の機械的合金化処理を行った。機械的合金化処理時の雰囲気は500mmHgの減圧アルゴンガス雰囲気とし、粉末とボールの重量比が約1:10になるようにした。容器と10mm径の粉砕球にはクロム鋼を用いた。得られた材料は数マイクロメートル程度の粉末であり、X線回折により明瞭なる金属間化合物相は認められず、非晶質相を多く含む粉末であった。
【0021】得られた粉末35gを直径50mmの黒鉛製の型に入れ、約1mmHgの真空中で通電加熱による固化成形を行った。焼結は、3500kgf/cm2 の加圧下にて450℃で5分間保持した。得られた成形体は直径50mm、厚さ3mm、空孔率5%の円盤状になった。X線回折の結果から成形体には明瞭なる金属間化合物相は認められず、非晶質を多く含む成形体となった。
【0022】得られた成形体を800℃で5分間熱処理を行った。その結果、結晶粒径が約8μmの鉄−テルビウム金属間化合物、および鉄−ディスプロシウム金属間化合物から成る成形体となった。
【0023】得られた成形体を直径60mm、厚さ2mmの純銅製バッキングプレートに接合した。接合のインサート材には純インジウムを使用し、15kgf/cm2 の加圧下にて160℃まで加熱した。
【0024】得られたスパッタリングターゲット組立体は、ターゲット材が結晶粒径が約8μmの鉄−テルビウム金属間化合物ならびに鉄−ディスプロシウム金属間化合物から成る焼結体であり、純インジウムの均一な接合界面層によって純銅製バッキングプレートに接合された組立体となった。
【0025】実施例3マンガン粉末(ナカライテスク試薬特級)21.2gにシリコン粉末(ナカライテスク試薬特級)18.8gを添加し、遊星型ボールミルにて150時間の機械的合金化処理を行った。機械的合金化処理時の雰囲気は500mmHgの減圧アルゴンガス雰囲気とし、粉末とボールの重量比が約1:20になるようにした。容器と10mm径の粉砕球にはクロム鋼を用いた。得られた材料は数マイクロメートル程度の粉末であり、X線回折により明瞭なるマンガン−シリコン化合物の合成が認められた。
【0026】マンガン粉末とシリコン粉末を機械的に合金化した混合粉末39.3gを直径50mmの黒鉛製の型に入れ、約1mmHgの真空中で通電加熱による固化成形を行った。焼結は、340kgf/cm2 の加圧下にて950℃で5分間保持した。得られた成形体は直径50mm、厚さ4mm、空孔率20%の円盤状になった。X線回折の結果から成形体には明瞭なる金属間化合物相が認められた。
【0027】得られた成形体を直径60mm、厚さ2mmの純銅製バッキングプレートに接合した。接合のインサート材には純インジウムを使用し、15kgf/cm2 の加圧下にて160℃まで加熱した。
【0028】得られたスパッタリングターゲット組立体は、ターゲット材が金属間化合物相から成り、割れのないマンガン−シリコン合金であり、純インジウムの均一な接合界面層によって純銅製バッキングプレートに接合された組立体となった。
【0029】
【発明の効果】本発明により、1)均一な組成の合金ターゲット組立体や、非晶質相あるいは金属間化合物相から成るターゲット組立体を割れなく容易に提供することができる、2)本発明では、粉末冶金法を用いるが、加圧下通電加熱法において温度圧力を制御することにより成形体の空孔率を制御して割れのないターゲット材を容易に提供できる、3)さらに、従来時間と手間のかかったバッキングプレートの接合も加圧下通電加熱法を用いることにより均一な接合界面層を容易に作成することが可能となる、4)スパッタリングターゲットの工業的な用途の拡大に貢献できる、等の効果が奏される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 空孔率を制御してターゲット材に耐割れ性を付与した非晶質相ないし金属間化合物相を有するスパッタリングターゲット組立体であって、ターゲット材を構成する金属元素を合金化した混合粉末を加圧焼結により固化成形して空孔率および結晶粒径を制御した成形ターゲット材とし、必要により熱処理し、このターゲット材とバッキングプレートをインサート材を介して加圧下通電加熱法により接合したスパッタリングターゲット組立体。
【請求項2】 ターゲット材に体積率で5−20%の空孔を残存させた請求項1記載のスパッタリングターゲット組立体。
【請求項3】 ターゲット内部の結晶粒径を10μm以下に制御した請求項1または2記載のスパッタリングターゲット組立体。
【請求項4】 ターゲット材を熱処理することを特徴とする請求項1、2または3記載のスパッタリングターゲット組立体。