説明

スパッタリングターゲット

【課題】薄い膜厚(200nm以下)で抵抗率が低いZnO系薄膜を、安定したDCスパッタで得られるZnO系ターゲットを提供すること、およびそれを用いて形成される抵抗の低いZnO系透明導電膜を提供すること。
【解決手段】Znを含む酸化物相と、AlおよびTiを含む金属間化合物相と、を備え、前記酸化物相中に前記金属間化合物相が分散していることを特徴とするZnO系スパッタリングターゲットにより、前記課題を解決したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど)や、太陽電池などに透明導電膜として用いられるZnO系薄膜を形成するためのスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ用の透明導電膜としては、通常、抵抗率が低いITO(In+SnO)が用いられる。しかし、最近は大型液晶テレビ等の急速な普及によりIn資源の枯渇、価格の高騰の問題が生じ、ITOに代わり、より安価で資源が豊富なZnO系透明導電膜の検討が活発になされている。また、銅、インジウム、ガリウム、セレンからなるCIGS薄膜などを用いた薄膜系の太陽電池でも、電極層や窓層にZnO系の透明導電膜が用いられており、今後の普及に伴い、さらに多く利用されることが予想される。
薄膜形成法のうち、スパッタリング法は均一に安定して大面積の基板に成膜が可能である。特に抵抗が低く、直流(DC)スパッタが可能なZnO系ターゲットは、量産に適している。そのスパッタリング用の代表的なZnO系ターゲットとして、これまでに、以下の文献に示すようなターゲットが開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1、2は、ZnOにそれぞれAl、Gaをドープした高密度のAZO(ZnO+Al)、GZO(ZnO+Ga)ターゲットに関するものである。これらは、ターゲット自体のバルク抵抗が低く導電性を持つので、DCスパッタも可能で、比較的低抵抗な透明導電膜を安定して形成することができる。
しかしながら、これらのターゲットを用いて形成した従来のZnO系透明導電膜は、ITOと比較すると抵抗率が高く、特に膜厚が薄い場合に抵抗率が高いという問題がある。
ZnO系薄膜で前記のような抵抗率が高くなるという問題が発生するのは、ZnO系薄膜の成膜プロセスにおいて、薄膜中のAlやGaの酸化が進行しやすくキャリア電子が減少すること、および膜の成長初期の結晶性が悪く移動度が低くなることが原因と考えられている。前記薄膜中のAlやGaの酸化の進行をできるだけ抑えるために、例えば、特許文献3に示すように、還元したZnO系ターゲットを用いる方法がある。
【0004】
しかしながら、前記還元したZnO系ターゲットを用いる方法によっても酸化進行の抑制は十分ではなく、その方法で作製されたZnO系薄膜は、膜厚が300nm程度であれば4×10−4Ω・cm程度まで抵抗率は下がるものの、それでもまだITOよりは抵抗率が大きく、また膜厚がより薄い場合には、殆ど還元による効果は見られず抵抗率の高い膜となる。
そこで、さらにZnO系薄膜中のAlやGaの酸化を抑制するために、例えば、特許文献4、5に示すように、Zn等の金属粉をZnO焼結体の中に分散させたターゲットも作られている。
しかしながら、特許文献4に記載のものは、そのターゲットを用いて形成した膜の抵抗率が1×10−3Ω・cm以上の高い値であり抵抗率が十分低いものではない。
【0005】
また、特許文献5に示すように、AlTiの合金粉をZnO焼結体の中に分散させたターゲットも作られている。
このターゲットは、AlTi合金(Ti:約10質量%以下)がZnO母体の中に完全には酸化されずに合金相が残った状態で焼結されたターゲットであり、これを用いてスパッタを行うと、比較的低抵抗なZnO系薄膜が得られる。しかしながら、焼結温度は1000℃程度であるため、Al−Ti合金状態図より、Tiが10質量%以下の場合、1000℃に温度を上げるとAl−Ti合金の液相とAlTiの固相とが共存するので、焼結中にAl−Ti合金が焼結体表面に融出し、焼結体表面の凹凸化や内部の空隙化が起こる。また、焼結中に溶融したAl−Ti合金の酸化が進み、ターゲットの抵抗が十分下がらなくなることもある。そのため、そのターゲットを用いてスパッタを行うと、異常放電が起きやすくなったり、また、大きなパワーをかけると割れが発生したりすることもある。
【0006】
以上のように、従来のZnO系ターゲットを用いたスパッタリング法では、抵抗率が低い膜、特に膜厚が薄い場合(200nm以下)に抵抗率が低い膜をDCスパッタで安定して得るのが難しく、膜厚が200nm以下の薄い膜厚であっても低い抵抗率のZnO系透明導電膜を安定したDCスパッタで得ることができるZnO系ターゲットが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−258836号公報
【特許文献2】特開平6−25838号公報
【特許文献3】特開平10−297963号公報
【特許文献4】特開2007−31786号公報
【特許文献5】特開2009−263709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち、本発明の目的は、薄い膜厚(200nm以下)で抵抗率が低いZnO系薄膜を、安定したDCスパッタで得られるZnO系ターゲット、その製造方法およびそれを用いて形成される抵抗率の低いZnO系透明導電膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本請求項1に係る発明は、Znを含む酸化物相と、AlおよびTiを含む金属間化合物相と、を備え、前記酸化物相中に前記金属間化合物相が分散していることを特徴とするスパッタリングターゲットにより、前記課題を解決したものである。
【0010】
そして、本請求項2に係る発明は、請求項1に係るスパッタリングターゲットにおいて、前記金属間化合物相は、平均粒径50μm以下の微結晶粒として、前記酸化物相中に分散していることを特徴とすることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0011】
本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係るスパッタリングターゲットにおいて、前記金属間化合物相は、前記酸化物相中に一様に分散していることを特徴とすることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0012】
本請求項4に係る発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに係るスパッタリングターゲットにおいて、該スパッタリングターゲット中の金属間化合物相の含有量が、0.1質量%以上6質量%以下であることを特徴とすることにより、前記課題をさらに解決したものである。
【0013】
本請求項5に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法において、ZnOを含む酸化物粉末と、AlTiを含む金属間化合物粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、前記混合工程で得られた混合粉末を焼結してスパッタリングターゲットを得る焼結工程と、を備えることを特徴とすることにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
また、本請求項6に係る発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに係るスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成されたZnO系透明導電膜であって、膜厚が200nm以下で抵抗率が6×10−4Ω・cm以下であることを特徴とすることにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法によれば、ZnOを含む酸化物粉末と、融点の高い(1300℃以上)AlTiを含む金属間化合物粉末とを原料としている。これにより、従来はAl−Ti合金の融出を避けるために実施ができなかった、高温(1300℃程度)で長時間の焼成が可能となり、表面が滑らかで、空隙がなく高密度なスパッタリングターゲットが得られる。このようなスパッタターゲットは、異常放電や割れが発生しにくい。
【0016】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、Alを金属間化合物の状態で含有しているので、成膜中にAlが酸化しにくい。これにより、本発明のスパッタリングターゲットを用いて形成されたZnO系薄膜では、Alからより多くのキャリア電子が発生し、十分に低い抵抗率が得られる。
【0017】
以上の結果から、本発明のスパッタリングターゲットによれば、スパッタ中の異常放電が減少し、また、大きなパワーをかけても割れにくくなる。さらに、本発明のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法で形成したZnO系薄膜は抵抗率が低い。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のターゲットの一部を粉末に粉砕し、XRD測定を行った結果を示すグラフである。
【図2】本発明のスパッタリングターゲットの断面組織を、EPMA電子線マイクロプローブアナライザにて測定した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のスパッタリングターゲット、スパッタリングターゲットの製造方法およびこれを用いて製造したZnO系透明導電膜について、例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態のスパッタリングターゲットは、Znを含む酸化物相と、AlおよびTiを含む金属間化合物相と、を備え、酸化物相中に前記金属間化合物相が分散していることを特徴とする。
このようなスパッタリングターゲットは、Alを金属間化合物の状態で含有しているので、成膜中にAlが酸化しにくい。これにより、本実施形態のスパッタリングターゲットを用いて形成されたZnO系薄膜では、Alからより多くのキャリア電子が発生し、十分に低い抵抗率が得られる。
【0021】
本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、金属間化合物相は、平均粒径50μm以下の微結晶粒として、酸化物相中に分散していることが好ましい。
ここで、金属間化合物相の平均粒径が50μmを超えていると、異常放電が起きやすくなるため好ましくない。なお、金属間化合物相の平均粒径は、より好ましくは1μm以下である。
【0022】
本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、金属間化合物相は、酸化物相中に一様に分散していることが好ましい。
金属間化合物相は、酸化物相中に一様に分散することにより、スパッタ膜の場所による組成むらがなくなり、かつ、ターゲットが次第に掘れてスパッタされる部位が内部に移行しても膜の組成がずれないというすぐれた効果が得られる。酸化物相中に金属間化合物相が一様に分散した組織の例として、EPMA電子線マイクロプローブアナライザにて測定した本実施形態のスパッタリングターゲットの断面組織を、図2に示す。
このターゲットの組織観察は、観察面(被スパッタ面に対し平行な面)を研磨して鏡面とした後、高分解能のFE−EPMA(フィールドエミッション型電子線プローブマイクロアナライザ、日本電子製JXA−8500F、以下EPMA)にて、二次電子像および反射電子像(COMPO像)、および各元素の組成分布を示す元素分布像を用いて実施した。上記二次電子像およびCOMPO像と、元素分布像を図2に示す。
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、白黒像に変換して記載しているため、濃淡の淡い部分(比較的白い部分)が所定元素の濃度が高い部分となっている。
これら画像から、酸化物相中に金属間化合物相が一様に分散していることがわかる。
【0023】
本実施形態のスパッタリングターゲットにおいて、金属間化合物相の含有量は、0.1質量%以上6質量%以下であることが好ましい。
ここで、AlTi金属間化合物の下限の値が0.1質量%となっているのは、それ未満であると不純物ドーピングの効果がなくなりキャリア濃度が減少して、スパッタリングターゲット、および、そのスパッタリングターゲットを用いて形成した膜のいずれの抵抗値も高くなるためである。また、上限の値が6質量%となっているのは、これを超えると不純物のドーピング量が多くなり、そのスパッタリングターゲットを用いて形成した膜の結晶性が悪くなって移動度が減少し、抵抗値が高くなるためである。
【0024】
なお、本発明のスパッタリングターゲットは、亜鉛、アルミニウム、チタン、酸素からなる焼結体をターゲット材とするものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、原材料に含まれる不可避不純物や、ターゲット製造過程で混入する不可避不純物を含むものであっても良い。
【0025】
本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法は、ZnOを含む酸化物粉末と、AlTiを含む金属間化合物粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、混合工程で得られた混合粉末を焼結してスパッタリングターゲットを得る焼結工程と、を備える。
酸化物粉末としては、例えば、平均粒径が5μm以下で純度が99%以上の酸化亜鉛粉末が好ましい。また、金属間化合物粉末としては、例えば、平均粒径が50μm以下で純度が95%以上のAlTi粉末が好ましい。平均粒径は、いずれの粉末もより好ましくは1μm以下である。
【0026】
混合工程においては、金属間化合物粉末の含有量が、0.1質量%以上6質量%以下となるよう、各原料粉末を混合して混合粉末を作製することが好ましい。
ここで、AlTi金属間化合物の下限の値が0.1質量%となっているのは、それ未満であると不純物ドーピングの効果がなくなりキャリア濃度が減少して、スパッタリングターゲット、および、そのスパッタリングターゲットを用いて形成した膜のいずれの抵抗値も高くなるためである。また、上限の値が6質量%となっているのは、これを超えると不純物のドーピング量が多くなり、そのスパッタリングターゲットを用いて形成した膜の結晶性が悪くなって移動度が減少し、抵抗値が高くなるためである。
【0027】
焼結工程では、例えば、常圧焼結法、ホットプレス法、通電プラズマ焼結法などを用いて混合粉末を焼結し、スパッタリングターゲットを作製する。
常圧焼結法で作製するのであれば、混合粉末を冷間静水圧プレスまたは一軸プレスにより所定の形状に成形する。次いで、得られた成形体を大気、窒素ガスなどの雰囲気中、800〜1300℃の温度で焼成し焼結体を得る。この焼結体を必要に応じて、整形・研磨した後、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットとする。
【0028】
また、ホットプレス法で作製するのであれば、前記成形体に対し、1〜60MPa、より好ましくは5〜50MPaの加圧下で、800〜1300℃の温度で1時間以上保持することにより焼結体を作製する。得られた焼結体を必要に応じて、整形・研磨した後、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットとする。
一方、通電プラズマ焼結法により作製するのであれば、前記成形体に対し、例えば、10〜60MPaの加圧下で、2,000〜10,000A程度の直流パルス電流を印加し、昇温開始から焼結完了まで100分程度或いはそれ以内の短時間で高密度ZnO系酸化物焼結体を作製することができる。焼結時の温度は、原料の組成、原料粉の粒径および粒径分布、焼結体の大きさ、加圧力、印加電流量などを考慮して選択すればよいが、500〜1500℃程度であり、好ましくは800〜1300℃程度である。得られた焼結体を必要に応じて、研削等の機械加工を施した後、バッキングプレートにボンディングしてスパッタリングターゲットとする。
【0029】
本実施形態のZnO系透明導電膜は、上述のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成され、膜厚が200nm以下で抵抗率が6×10−4Ω・cm以下であることを特徴とする。
ここで、ZnO系透明導電膜の膜厚が200nmを超えると、透過率が減少するのと膜の形成に要する時間が長くなるため好ましくない。また、ZnO系透明導電膜の抵抗率が6×10−4Ω・cmを超えると、低抵抗の膜を得るためにより膜厚を厚くすることが必要となるため好ましくない。
【0030】
ZnO系透明導電膜の作製は、例えば、以下のようにして行う。前記ZnO系スパッタリングターゲットをスパッタリング装置内に設置し、真空排気する。良好な結晶からなる透明導電膜を得るため、基板温度は100℃以上とすることが好ましい。スパッタリングガスとしては、不活性ガスの例えば、Arを使用する。必要に応じて、酸化性ガスや還元性ガスを導入しても良い。
スパッタリング方式は、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、パルスDCスパッタリング法またはこれらを組み合わせた方法が使用可能であるが、DCスパッタリング法が最も好ましい。
【実施例】
【0031】
(実施例1〜8)
原料粉末として、いずれも平均粒径が0.5μm以下で純度が99.9%以上の酸化亜鉛粉末、および平均粒径(マイクロトラック法で導出)が1μm以下で純度が99%以上のAlTi金属間化合物粉末を用意した。AlTi金属化合物粉末は、非汚染プラズマスカル溶解によりAlTi合金塊を溶製し皮削りした後、超急冷遠心噴霧法により作製した。
これらの原料粉末を表1に示す配合組成になるよう配合し、ホットプレス法および通電プラズマ焼結法により焼結体を作製した。
【0032】
ホットプレス法では、以下のようにして作製した。所定量の原料粉末をポットに入れ、乾式ボールミルにより24時間混合し、混合粉末を作製した。この混合粉末をホットプレス機用のグラファイト製で円筒形のモールドに入れ、プレス圧30MPa、1000℃で3時間加熱し、焼結体とした。得られた焼結体を研削して、直径101.4mm、厚さ6mmの寸法を有するタ−ゲットを作製した。そのタ−ゲットの焼結密度を体積と重量の測定から求めた。また、その抵抗率については、抵抗率測定機を用いて四探針法により5か所以上の体積抵抗率の測定を行い、平均値を算出した。その結果を表1に示す(請求項5)。
また、ターゲットの一部を粉末に粉砕し、XRD測定を行った結果、図1に示すように、ZnOおよびAlTiに由来する回折ピークがそれぞれ確認でき、Al、TiがZnO中に固溶していないことを確認した。
【0033】
XRD測定の条件は下記の通りである。
試料の準備:試料はSiC−Paper(grit 180)にて湿式研磨、乾燥の後、測定試料とした。
装置:理学電気社製(RINT−Ultima/PC)
管球:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
走査範囲(2θ):10°〜90°
スリットサイズ:発散(DS)0.5度、散乱(SS)0.5度、受光(RS)0.15mm
測定ステップ幅:2θで002度
スキャンスピード:毎分2度
【0034】
次に、これら2相の分子重量組成比を回折線強度比についての検量線から算出した。すなわち、重量組成比が異なる幾つかのZnO粉とAlTi粉の混合粉末についてXRD測定を行ない、AlTi112ピークとZnO(101)ピークとの強度比をAlTiの重量組成比に対してプロットして検量線を作り、ターゲット粉末のXRD測定で得られた回折線強度比からAlTiとZnOとの重量組成比を求め、全体を1としてZnO、AlTiの重量組成比を算出した。その分子重量組成比を表1に合わせて示す。その結果、本発明のターゲット中の金属間化合物相の含有量は、0.1質量%以上6.0質量%以下であることが確認された(請求項4)。
【0035】
また、それぞれのターゲットの一部を切り出してEPMAによる原子組成面分析、SEMによる組織観察、および平均粒径の算出を行なった。平均粒径は、切り出した試料面を鏡面に研磨し、過酸化水素水とアンモニア水からなるエッチング液にてエッチングしたのち、結晶粒界を判別することができる倍率:50〜1000倍の範囲内の光学顕微鏡にて顕微鏡写真を撮り、画像解析ソフト(Winroof)を用いて2値化処理して円相当径にてカウントすることにより求めた。その平均粒径を表1に示す。それらの結果より、AlTi金属間化合物が平均粒径50μm以下の微結晶粒として母体のZnO多結晶マトリックス中に一様に分散していることが確認された。すなわち、本発明のスパッタターゲットは、Znを含む酸化物相と、AlおよびTiを含む金属間化合物相とを備え、前記金属間化合物相が平均粒径50μm以下の微結晶粒として前記酸化物相中に一様に分散している(請求項1〜3)。
【0036】
通電プラズマ焼結法では以下のようにして作製を行なった。装置は、通電プラズマ焼結装置を用いた。モールドは、グラファイト製で内径101.4mmの円筒形のものを用いた。このモールド内に、上記で得られた出発原料粉末を均一に入れ、上下にAl粉を敷き詰め、35MPaの圧力を印加し、焼結チャンバー内を10Paまで脱気した。次いで、モールドに約1000〜6000Aの直流パルス電流を印加することにより、原料周辺を昇温速度約40℃/分で1000℃の所定の温度に加熱した。この状態を15分間保持した後、電流印加および加圧印加を止め、生成した焼結体を室温まで冷却し、焼結チャンバー内を大気圧に戻し、焼結生成物を取り出した。得られた焼結生成物は、いずれも直径約101.4mm、厚さ6.5mmの円盤状であった。次いで、各焼結生成物の上下両面に存在するAl層を研磨により除去して、目的とする円盤状焼結体を得た。その焼結体の焼結密度を体積と重量の測定から求めた。また、その体積抵抗率について抵抗率測定機を用いて四探針法により5か所以上の体積抵抗率の測定を行い、平均値を算出した。その結果を表1に示す(請求項5)。
【0037】
また、ターゲットの一部を粉末に粉砕し、上記のホットプレス法で作製したターゲットと同様に、XRDの検量線法でZnO、AlTiの分子重量組成比を求めた。その結果を表1に示す。表1に示すように、本発明のターゲット中の金属間化合物相の含有量は、0.1質量%以上6.0質量%以下であることがわかる(請求項4)。
また、上記のホットプレス法で作製したターゲットと同様に、それぞれのターゲットの一部を切り出してEPMAによる原子組成面分析、SEMによる組織観察、および平均粒径の算出(表1に記載)を行なった。その結果、AlTi金属間化合物が平均粒径50μm以下の微結晶粒として母体のZnO多結晶マトリックス中に一様に分散していることが確認された(請求項1〜3)。
【0038】
次に、上記の2つの燒結方法で得られた焼結体をインジウム半田を用いて無酸素銅製のバッキングプレートにボンディングし、そのターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により以下に示す条件で、薄膜を形成した。
【0039】
(スパッタリング成膜条件)
装置:DCマグネトロンスパッタ装置
磁界強度:1000Gauss(ターゲット直上、垂直成分)
基板温度:200℃
到達真空度:5×10−5Pa
スパッタリングガス:Ar
スパッタリングガス圧:0.5Pa
DCパワー:200W
膜厚:200nm
使用基板:無アルカリガラス(コーニング社製#1737ガラス)
【0040】
スパッタリング中に発生した異常放電の回数は、DC電源に備わっているアーキングカウンターにより計測した。また、スパッタ終了後にターゲット表面を観察し、ひび割れがないかどうかを確認した。得られた薄膜の抵抗率は4探針法で測定した。それらの結果を表2に示す。
【0041】
(比較例1〜4)
比較例として、いずれも平均粒径が0.5μm以下で純度が99.9%以上の酸化亜鉛粉末、酸化アルミニウム粉末、アルミニウム金属粉末、アルミチタン合金粉末(96質量%Al−4質量%Ti)を用意して、表1に示す割合になるよう配合し、ホットプレス法により実施例1〜4と同様にしてZnO系ターゲットを作製した。比較例4では酸化亜鉛粉末のみでZnOターゲットを作製した。それらの成分組成、密度、抵抗率、平均粒径を実施例と同様にして求めた。その結果を表1に示す。添加物がアルミニウム金属およびアルミチタン合金の燒結体では、Alの全部または一部が酸化されて酸化アルミニウム(Al)のXRDピークが検出されたので、重量組成比を求める際、各添加物とZnOについての検量線、およびAlとZnOについての検量線の2つを用いて、重量組成比を求めた。表でその他となっているのはAlを示す。また、実施例と同様にしてスパッタリング法により薄膜を形成し、異常放電の回数、ターゲットのひび割れ、抵抗率を求めた。それらの結果を表2に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
表1、2に示される結果から、本発明のターゲットはいずれも抵抗率が1.0×10−3Ω・cm以下でDCスパッタリングが可能である。また、本発明のターゲットを用いてスパッタリングを行うと、比較例のターゲットを用いた場合よりも異常放電が減少し、ひび割れも発生せず、安定してスパッタリングを行うことができる。さらに、本発明のAlTiの重量組成比が0.1質量%以上6質量%以下であるターゲット(実施例1〜8)(請求項4)を用いて形成された透明導電膜は、比較例のターゲットを用いて形成された透明導電膜と比べて抵抗率が低いことがわかる。その抵抗率は、膜厚が200nmと薄くても6.0×10−4Ω・cm以下と低くなることがわかる(請求項6)。
以上のとおり、本発明のZnO系スパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法によりAZO薄膜を形成すると、異常放電が減少し、ターゲットの割れもなく、低抵抗の透明導電膜を形成できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のスパッタリングターゲットを使用して形成した透明導電膜は、薄い膜厚(200nm以下)で抵抗率が低く、フラットパネルディスプレイ、太陽電池などに好適に使用できるため、産業上の利用可能性がきわめて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Znを含む酸化物相と、AlおよびTiを含む金属間化合物相と、を備え、
前記酸化物相中に前記金属間化合物相が分散していることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記金属間化合物相は、平均粒径50μm以下の微結晶粒として、前記酸化物相中に分散していることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記金属間化合物相は、前記酸化物相中に一様に分散していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
該スパッタリングターゲット中の金属間化合物相の含有量が、0.1質量%以上6質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
ZnOを含む酸化物粉末と、AlTiを含む金属間化合物粉末とを混合して混合粉末を得る混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉末を焼結してスパッタリングターゲットを得る焼結工程と、
を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング法により形成され、膜厚が200nm以下で抵抗率が6×10−4Ω・cm以下であることを特徴とするZnO系透明導電膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−72459(P2012−72459A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218691(P2010−218691)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】