説明

スパッタリング法による高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC−MEA)の電解質層の製造方法。

【課題】完全緻密/気密性電解質層を有する固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(電池セル)の提供。
【解決手段】テープキャスティング法によって形成したグリーンテープをラミネートして所定厚さとした陽極支持基板上にマグネトロンスパッタリング法によって薄膜電解質層を形成し、焼結してハーフセルとし、次いで該薄膜電解質層上にシルクスクリーン印刷法などにより、陰極層を形成して焼結し、電池セルとする。電解質層の気体透過率は1×10-6 L/cm2/sec以下、全電池の開回路電圧1.0V以上、発電試験の電力密度は500 mW/cm2以上であった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池電解質層の製造方法であり、特に、薄膜の製作方法に係り、シングルターゲットスパッタ(single-gun sputter)とマルチターゲットスパッタ(multi-gun co-sputter)を含み、直流(Direct Current)と高周波(Radio Frequency)の二つの電源供給タイプで分類される反応性マグネトロンスパッタリング法(Magnetron Sputtering)を以って、テープキャスティング法(Tape casting)・ラミネート法(Lamination)・シルクスクリーン印刷法(Screen printing)・スピンコーティング法(Spin coating)・プラスマスプレーコーティング法(Plasma spray coating)などの燃料電池膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)の製造工程と合わせて、最適化された焼結技術によって完全緻密な電解質層を製作し、固体酸化物形燃料電池の気密電解質層を製造することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
原油価格の高騰と環境保護意識の抬頭につれて、再生可能エネルギー技術も本世紀で最も重要な発展技術の一つとなっている。固体酸化物形燃料電池は高效率、低汚染及びエネルギー多元化の特長を備えるエネルギー発電システムであり、かつ材料組成は簡単であって、構造のモジュール化により持続的に安定な発電を提供できたりする特色を備えていることから、最も発展潜在力のある発電システムとなる。
【0003】
第一世代のSOFC-MEAに属する電解質支持基板電池セル(Electrolyte Supported Cell: 略称ESC)の作動温度は800 ~ 1000℃であり、その電解質基板の厚さは150〜300μmである。
第二世代のSOFC-MEAに属する陽極支持基板電池セル(Anode Supported Cell: 略称ASC)の作動温度は650~ 800℃であり、その電解質基板の厚さは10μmである。
これらASC/ESCにおいて、陽極材料は(NiO+8YSZ(yttrium stabilized zirconia))であり、陰極の主要材料はLSM及びLSCFであって、その厚さは30〜60μmである。新たな電解質材料及び陰極材料は、現在世界中の研究機関・研究室で開発が進められており、新たな材料の登場することによって、さらにSOFC-MEAの作動温度を500〜700 ℃に下げることが望まれる。
その時SOFCの電池スタック(Stack)の組立て部品、例えばインターコネクター(Inter-connector)などの構成材料として金属材料をセラミック材料の代わりとして使用でき、製造が容易になる上、その機械的強度/安定性/耐久性も向上し、SOFC全体のコストダウン(Cost down)も見込める。これらの技術的発展は大学および国家の研究室・研究機関において材料の研究開発に重点を置かれており、材料の開発により抵抗を減少させて、イオン伝導/電気伝導性を向上することによるSOFCの発電能力の向上が期待されている。
【特許文献1】特開2005−149797号公報
【特許文献2】特開平5−174850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、完全緻密なSOFC-MEA電解質層を有する固体酸化物形燃料電池を製造する方法を提供する。こうして作られるSOFC-MEAは、高操作性・耐久性・安定性を備え、電池セルの電気性能試験(Performance test of SOFC-MEA)によって検証できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目標を達成するためには、マグネトロンスパッタリング法を中心とし、燃料電池膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)の製造に係わる膜形成方法のテープキャスティング法(Tape casting)・シルクスクリーン印刷法(Screen printing)・スピンコーティング法(Spin coating)・プラスマスプレーコーティング法(Plasma spray coating)など及び膜を積層するラミネート法(Lamination)を併用して、焼結技術の設計やコントロールに合わせて、完全緻密/気密電解質層(材料は8YSZ・GDC (Gd doped ceria)・LSGM (strontium and magnesium doped lanthana gallat)などから選択する。) を製作する製造方法を提供する。
【0006】
本発明に示したマグネトロンスパッタリング法は(1)酸化物標的(oxide target)をスパッタリングするRFマグネトロンスパッタリング法(Radio frequency magnetron Sputtering)及び(2)直流(Direct Current)と高周波(Radio Frequency)の2タイプの反応性マグネトロンスパッタリング法で金属合金標的をスパッタリングする、という二種類がある。なお、酸化物標的の材料は、YSZ+NiO、GDC+NiO、LSGM+NiO、SDC+NiO、YDC+NiO、YSZ、GDC、LSGM、SDC、YDCであり、金属合金標的の材料は、Zrx-Y1-x、Zrx-Sc1-x、Cex-Gd1-x、Cex-Sm1-x、Cex-Y1-x (80<x<100 wt.%)、LSGMである。
例えば、陽極支持基板電池セル(Anode Supported Cell略称ASC)の場合は、本発明は、マグネトロンスパッタリング法により電解質の薄膜を陽極基板上に形成し、高温焼結過程を経て半電池の構造が得られる。更に、シルクスクリーン印刷法により陰極層を半電池構造に形成し、完全緻密な電解質層を有する陽極支持型固体酸化物形燃料電池を完成する。
【0007】
本発明は、完全緻密(Full dense)並びに気体透過率ゼロ(Zero gas leakage rate)・或いは気密(Air tight)の電解質層を有する平板形固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)、即ち電池セル(Unit cell))を製作する方法である。電解質の材料は8YSZ・GDC・YDC・LSGMなどから選択する。本発明の完全緻密な電解質層を有する平板形固体酸化物形燃料電池膜電極接合体の作製方法を以下に説明する。
【0008】
ステップ1:平板形SOFC-MEAの電極基板(Electrode Substrate)上に、マグネトロンスパッタリング(Magnetron Sputtering)法により電解質薄膜を形成する。電極基板上に5〜15μmの電解質薄膜を形成してSOFCの半電池(Half cell)を形成し、1200℃〜1600℃において数時間(3時間以上)の焼結を行い、第一段階の半電池が得られる。この段階の電解質の材料はYSZ・GDC・YDC・SmDC・LSGMなどから選択する。走査型電子顕微鏡(SEM)で半電池のマイクロ構造(Micro-structure)を解析して、無孔質(Open-pore free)のマイクロ構造及び完全緻密な状態を達成したことを確認する。
【0009】
ステップ2:半電池の電解質層の上にシルクスクリーン印刷法で多孔質(Porous)の陰極層を構築する。陰極層の材料は一般的にLSMかLSCFを適用する。1200℃において3時間の仮焼を行い、SOFC-MEAを完成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明について代表的な例を挙げてさらに具体的に説明する。上記製作方法のステップ1およびステップ2の過程は図一に示す。これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0011】
〔実施例〕
ステップ1:完全緻密(Full dense)で気密性(Air tight)の電解質(材料は8YSZ/GDC/LSGMなどを採用。) 層を有する平板形固体酸化物形燃料電池膜電極接合体 (SOFC-MEA) 、即ち電池セル (Unit cell) を製作するためには、まず50 wt% のNiO+50 wt% の8YSZ及び特定量の造孔剤 (Pore former) と石墨(Graphite)で基本材料を構成し、テープキャスティング法によって5×5cm2〜 12×12 cm2のサイズに成形し、ラミネートにより1000μmの厚さに積層する。
【0012】
ステップ2:RFマグネトロンスパッタリング法(標的物の材料は8YSZの酸化物)又はDCマグネトロンスパッタリング法(標的物の材料はZrxY1-x合金)によって電解質材料を電極基板上に堆積(deposit )させて、厚さ5〜10μmのSOFCの半電池(Half cell)を形成し、1200℃〜1600℃(1400℃が最適)において数時間(3時間以上)の焼結を行い、第一段階の半電池を得る。この半電池をSEM(走査型電子顕微鏡)でマイクロ構造を解析し、電解質層が無孔質(Open-pore free)のマイクロ構造になっていることを確認する。図二に示したように、電解質層の厚さは約5〜10μmで完全緻密な構造となり、気密性を備えていてSOFC-MEAの電解質層に対する要求を満たしている。残存する極くわずかな閉塞性の細孔は、気体透過率に影響を与えない。
【0013】
ステップ3:電解質の気密性能が完全であることを確認するため、ステップ2で得られた半電池の気体透過率を測定する。気体透過率が1×10-6 l/cm2/sec以下であれば、電解質は完全緻密性と認める。
【0014】
ステップ4:ステップ3で確認した完全緻密な半電池構造に対してシルクスクリーン印刷法によってLSM材料で多孔質の陰極層を形成して、1100℃において3時間の焼結を行い、高動作性能のSOFC-MEA(Unit cell)を得る。この電池セルのマイクロ構造の横断面をSEMで解析した結果を図3に示す。完成したSOFC-MEAの電気性能試験を行った。
発電試験の温度は700/750/800℃で、試験気体は100%のH2/O2、流量は200/300/400 cc/minであった。試験中に電力は、減衰することなく120時間以上持続した。試験過程を、図4に示す。電池セルの開回路電圧(Open circuit voltage, OCV)は理論値に近く、最大数値は1.06 Vに達する。800℃における出力密度は最大限515 mW/cm2に達する(図5に示す)。これらの実験結果により、スパッタリング法によって製作した電解質層は緻密性を備え、作動が安定していて、電池セルの発電性能も優れていることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製作方法の簡易過程図。
【図2】薄膜技術を焼結条件に合わせた固体酸化物形燃料電池の横断面構造のSEM像のマイクロ構造分析図:(a)酸化物標的を以って電解質を製作した半電池構造図、(b) 酸化物標的を以って電解質を製作した電解質層の表面模様、(c)合金標的を反応性スパッタリング法によって電解質層を作製した半電池構造図、(d) 合金標的の反応性スパッタリング法によって電解質層を作製した電解質層の表面状態。
【図3】酸化物標的によって電解質層を作製した固体酸化物形燃料電池の全電池構造図。
【図4】酸化物標的(target)を以って電解質層を作製した固体酸化物形燃料電池の全電池の電気性能測定図。
【図5】固体酸化物形燃料電池の電気性能測定結果のJVP図(電流密度/電圧/出力密度の関係を示す図)(a)は電池セルを異なる温度において測定した結果(700/750/800℃)(b)は電池セルを異なるH2/O2の流量において測定した結果(100% H2/O2の流速は200/300/400cc/min)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法であって、
(a) テープキャスティング法などにより、SOFCの陽極電極基板を形成する、
(b) 該電極基板上に酸化物標的をスパッタリングする高周波(RF)マグネトロンスパッタリング法又は金属合金標的をスパッタリングする反応性マグネトロンスパッタリング法により電解質薄膜層を形成する、
(c) 上記工程により作成した陽極/電解質の半電池構造体を1400℃において6時間の高温焼結を行って、電解質層の気体透過率が1×10-6 L/cm2 /sec以下の半電池基板を得る、
(d) 上記工程により得られた電解質層を有する半電池(略称HC-fd)の電解質層上にシルクスクリーン印刷法(Screen printing)、スピンコーティング法(Spin coating)、或いはプラスマスプレーコーティング法(Plasma spray coating)によって陰極材料層を形成し、1000℃において3時間の焼結を行って全電池を得る、
工程からなることを特徴とする平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項2】
上記電解質の材料は、YSZ、GDC、LSGM、SDC (Sm doped ceria)、又はYDC (Y doped ceria)であることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項3】
前記平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)の電解質層の製造方法において、
上記ステップaの陽極基板材料はYSZ+NiO、GDC+NiO、LSGM+NiO、SDC+NiO、又はYDC+NiOであり、
電解質基板の材料は、YSZ(yttrium stabilized zirconia)、GDC(Gd doped ceria)、LSGM(strontium and magnesium doped lanthana gallat)、SDC(Sm doped ceria)、又はYDC(Y doped ceria)であって、電解質(例えばYSZ)と電極触媒材料NiOとの重量比の百分率は30〜65%であることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項4】
上記ステップbのマグネトロンスパッタリング法は、
陽極電極基板上に電解質層または機能界面層(functional interlayer)を積層したマルチターゲットスパッタリング法(multi-gun co-sputter)、又は電解質基板に電解質層或いは機能界面層を積層したマルチターゲットスパッタリング法(multi-gun co-sputter)によって行い、SOFC電解質層上に電極層を形成する方法は、スパッタリング法、シルクスクリーン印刷法、スピンコーティング法、又はプラスマスプレーコーティング法によることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項5】
上記ステップbにおける、酸化物標的法のRFマグネトロンスパッタリング法(Radio frequency magnetron Sputtering)に使う酸化物標的の材料は、YSZ+NiO、GDC+NiO、LSGM+NiO、SDC+NiO、YDC+NiO、YSZ、GDC、LSGM、SDC、YDCであり、
金属合金標的をスパッタリングする反応性マグネトロンスパッタリング法に使う金属合金標的の材料は、Zrx-Y1-x、Zrx-Sc1-x、Cex-Gd1-x、Cex-Sm1-x、Cex-Y1-x (80<x<100 wt.%)、LSGMであることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項6】
前記高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)の電解質層の製造方法において、
ステップbの電解質層を製作する方法は、標的物の材料を8YSZの酸化物としたRFマグネトロンスパッタリング法、又は標的物の材料をZrxY1-x合金としたDCマグネトロンスパッタリング法によって電解質材料を電極基板上に堆積(deposit )させることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項7】
上記ステップcの半電池焼結工程は、1400℃において6時間行い、焼結温度昇降の速度率は1〜5℃/min、大気雰囲気中で行うことを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項8】
上記ステップdのHC-fdの電解質層に陰極層を積層する方法は、シルクスクリーン印刷法、スパッタリング法、スピンコーティング法、又はプラスマスプレーコーティング法であって、その陰極材料としてLSM、又はLSCFを用いて厚さは30〜50μmとし、その焼結条件は1100℃において3時間の焼結を行い、焼結温度昇降の速度変化率は1〜3℃/minであることを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。
【請求項9】
上記ステップcにおいて、SEMによって半電池のマイクロ構造を解析して電解質層の緻密性を確認し、気体透過率測定装置によって気体透過率を判定することを特徴とする請求項1記載の平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA) の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−266765(P2009−266765A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118218(P2008−118218)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(599171866)行政院原子能委員會核能研究所 (37)
【Fターム(参考)】