説明

スパッタリング装置、成膜方法

【課題】膜厚分布と膜質分布にムラを発生させないスパッタリング装置と、それを用いた成膜方法を提供する。
【解決手段】
真空槽11と、基板20を保持する基板保持部15と、真空槽11内に配置されたターゲットとを有し、真空槽11内にスパッタガスを導入し、ターゲット表面にプラズマを生成し、ターゲットをスパッタして、基板20表面に薄膜を形成するスパッタリング装置10cであって、基板20の外周より外側の着火位置51と基板20表面と対向する成膜位置52とを通る搬送路43’に沿って、ターゲットを移動させる移動装置40cを有している。着火位置51でプラズマを着火させると、基板20には着火直後の膜や放電不安定な膜が成膜されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、大型の基板に薄膜を成膜するには、図5を参照し、真空槽111内の基板120表面と対向する位置に、複数の細長のターゲット1301〜1304を一の平面内で互いに平行に配置した構成のマルチカソード型のスパッタリング装置100がよく用いられている。
【0003】
しかし、この従来の装置100では、基板120表面のうち隣り合う二つのターゲット1301〜1304の間の部分と、各ターゲット1301〜1304と対向する部分とでは、到達するスパッタ粒子の量と反応性が異なり、膜厚分布や膜質分布にムラができてしまうという問題があった。
【0004】
特許文献1には、基板をターゲット表面と平行な方向に移動させ、各ターゲットと対向する位置を通過させて成膜する技術が開示されている。
この技術では、基板表面に形成される膜厚分布の移動方向のムラを解消できるものの、基板を移動させるためには大型の真空槽が必要になるという不都合があった。また基板保持部(基板トレー)にも着膜してしまい、ダストが発生するという問題があった。
【0005】
特許文献2には、各ターゲットを基板表面と対向する位置で、基板表面と平行な方向に移動させて成膜する技術が開示されている。
この技術では、基板表面に形成される膜厚分布の移動方向のムラを解消できるものの、基板と対向する位置でプラズマを着火させるために、着火時の不良な膜が基板に着膜してしまうという問題があった。特に、IGZO等の反応性膜の場合には、膜質のムラになってしまっていた。
また、プラズマが着火してから安定するまでの膜も基板に着膜するため、特にAlOxの成膜では酸素含有量が不安定な膜が着膜して、屈折率にムラができてしまい、所望の特性の膜を得ることができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−138230号公報
【特許文献2】特開2005−273018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、膜厚分布と膜質分布にムラを発生させないスパッタリング装置と、スパッタリング装置を用いた成膜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、真空槽と、前記真空槽内に配置され、基板を保持する基板保持部と、前記真空槽内に配置されたターゲットと、を有し、前記真空槽内にスパッタガスを導入し、前記ターゲット表面にプラズマを生成し、前記ターゲットをスパッタして、前記基板表面に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、前記基板の外周より外側の着火位置と前記基板表面と対向する成膜位置とを通る搬送路に沿って、前記ターゲットを移動させる移動装置を有するスパッタリング装置である。
本発明はスパッタリング装置であって、前記着火位置には前記搬送路と対向して防着部材が設けられたスパッタリング装置である。
本発明はスパッタリング装置であって、前記ターゲットは前記搬送路に沿って複数個配置され、前記移動装置は、複数の前記ターゲットを前記搬送路に沿って一緒に移動させるスパッタリング装置である。
本発明はスパッタリング装置であって、前記搬送路は環状であるスパッタリング装置である。
本発明はスパッタリング装置であって、一個又は二個以上の前記ターゲットからなるターゲット組が前記搬送路に沿って複数組配置され、一の前記ターゲット組の後尾と、前記後尾の後方に位置する他の一の前記ターゲット組の先頭との間の前記搬送路に沿った間隔は、前記基板の前記搬送路に沿った長さより長いスパッタリング装置である。
本発明は、前記スパッタリング装置を用いた成膜方法であって、前記ターゲットを前記着火位置に配置して、前記ターゲット表面に前記プラズマを生成する着火工程と、前記ターゲットを前記搬送路に沿って一の移動方向に移動させ、前記成膜位置を通過させて前記基板表面に薄膜を形成する第一の成膜工程と、前記ターゲットを前記基板の外周より外側の位置に配置して、前記プラズマを消滅させる消火工程と、を有する成膜方法である。
本発明は成膜方法であって、前記第一の成膜工程の後、前記消火工程の前に、前記ターゲットを前記搬送路に沿って前記移動方向とは逆向きに移動させ、前記成膜位置を通過させて前記基板上に薄膜を形成する第二の成膜工程が設けられた成膜方法である。
本発明は、前記スパッタリング装置を用いた成膜方法であって、前記ターゲットを前記着火位置に配置して、前記ターゲットの表面に前記プラズマを生成する着火工程と、前記ターゲットを前記搬送路に沿って一の移動方向に移動させ、前記成膜位置を通過させて前記基板表面に薄膜を形成する成膜工程と、前記ターゲットを前記基板の外周より外側の位置に配置して、前記プラズマを消滅させる消火工程とを有し、複数の前記ターゲットを前記搬送路に沿って一緒に前記移動方向に移動させながら、各前記ターゲットについて前記着火工程と前記成膜工程と前記消火工程とを順に繰り返す成膜方法である。
本発明は成膜方法であって、一の前記ターゲット組の後尾の前記ターゲットについての前記成膜工程の後、前記後尾の後方に位置する他の一の前記ターゲット組の先頭の前記ターゲットについての前記成膜工程の前に、前記基板を別の基板に交換する基板交換工程が設けられた成膜方法である。
【発明の効果】
【0009】
ターゲットを移動させながら成膜するため、成膜された膜の膜質分布と膜厚分布には移動方向にムラが生じない。
着火位置でプラズマを着火させるため、基板には着火直後の膜や、放電が不安定なときの膜は成膜されない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一例のスパッタリング装置の内部構成図
【図2】単位ターゲット装置の内部構成図
【図3】本発明の第二例のスパッタリング装置の内部構成図
【図4】本発明の第三例のスパッタリング装置の内部構成図
【図5】従来のスパッタリング装置の内部構成図
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第一例のスパッタリング装置の構造>
本発明の第一例のスパッタリング装置の構造を説明する。
図1は第一例のスパッタリング装置10aの内部構成図である。
【0012】
第一例のスパッタリング装置10aは、真空槽11と、真空槽11内に配置され、基板を保持する基板保持部15と、真空槽11内に配置されたターゲット部19aとを有している。符号20は基板保持部15に保持された基板を示している。
本実施例では、ターゲット部19aは一台の単位ターゲット装置30を有している。
【0013】
図2は単位ターゲット装置30の内部構成図である。
単位ターゲット装置30は、平板形状のターゲット31と、ターゲット31が表面に固定されたバッキングプレート32と、バッキングプレート32のターゲット31とは逆の裏面側に配置された磁石装置33とを有している。
【0014】
ターゲット31はここでは細長形状であり、ターゲット31の長手方向の長さは基板20の幅(後述する搬送路43の延びる方向とは直角な方向の長さ)より長くされている。
磁石装置33は、第一の磁石部材33aと、第一の磁石部材33aの周囲を取り囲んで環状に設けられた第二の磁石部材33bとを有している。
【0015】
バッキングプレート32の裏面には容器状のケース35が取り付けられ、第一、第二の磁石部材33a、33bはケース35の内側にバッキングプレート32の裏面と対向して配置されている。
第一、第二の磁石部材33a、33bのうちバッキングプレート32の裏面と対向する部分には互いに異なる極性の磁極が配置され、一方の磁極から出て他方の磁極に入る磁力線により、ターゲット31の表面には磁力線が形成されるようになっている。
【0016】
磁石装置33には、磁石装置33をターゲット31の表面と平行な方向に揺動させる磁石揺動装置34が取り付けられている。磁石揺動装置34はここでは真空用モーターであり、磁石揺動装置34を動作させて、磁石装置33を揺動させると、ターゲット31の表面に形成された磁力線もターゲット31の表面内で揺動するようになっている。
【0017】
バッキングプレート32には真空槽11の外側に配置された電源装置36が電気的に接続されている。電源装置36はバッキングプレート32に電圧を印加できるようになっている。
真空槽11には、真空槽11内にガスを導入するガス導入装置13と、真空槽11内を真空排気する真空排気装置12とがそれぞれ接続されている。
【0018】
真空排気装置12を動作させて真空槽11内に真空雰囲気を形成し、ガス導入装置13から真空槽11内にガスを導入し、電源装置36からバッキングプレート32に電圧を印加すると、ターゲット31表面にはプラズマが生成され、ターゲット31表面がスパッタされる。
なお、電圧は実施形態によって直流/交流を適宜選べばよい。
【0019】
基板20表面と対向する位置である成膜位置52には、基板20表面と平行に直線状の搬送路43が設けられており、搬送路43の一端は基板20の外周より外側の位置である着火位置51に延ばされ、他端は基板20の外周より外側の位置である消火位置53に延ばされている。
【0020】
ターゲット部19aは、単位ターゲット装置30を搬送路43に沿って移動させ、ターゲット31表面を基板20表面と平行に向けた状態で、成膜位置52を通過させる移動装置40aを有している。
移動装置40aは、ここではリニアモーターであり、搬送路43に沿って延設されたレール41と、レール41上に配置された可動部42とを有している。
【0021】
レール41には複数の固定電磁石(不図示)がレール41の長手方向に沿って等間隔に並んで設けられており、可動部42には可動磁石(不図示)が設けられている。固定電磁石の磁極をレール41の長手方向に沿って順に変化させると、可動部42の可動磁石にはレール41の長手方向と平行な移動力が印加される。
【0022】
単位ターゲット装置30は、ターゲット31表面を基板20表面と平行に向けた状態で、可動部42に取り付けられている。ここではターゲット31の長手方向は、搬送路43の延びる方向に対して直角な方向に向けられている。
レール41から可動部42に移動力が印加されると、単位ターゲット装置30は、可動部42と一緒にレール41の長手方向に沿って移動できるようになっている。
【0023】
本実施例では、着火位置51には搬送路43と対向して防着部材16が設けられている。単位ターゲット装置30が着火位置51に配置されたときに、ターゲット31表面は防着部材16と対向し、ターゲット31表面からスパッタされた粒子は防着部材16に付着して、真空槽11の内壁面には付着しないようになっている。
【0024】
プラズマを生成(着火)してから安定させるまでに必要とする時間(安定化時間T)は予め試験やシミュレーションで求めることができる。以下では、単位ターゲット装置30の移動速度Vと安定化時間Tとの積(V×T)を助走距離と呼ぶ。
【0025】
本実施例では、防着部材16の搬送路43に沿った方向の長さは、助走距離よりも長い長さに形成されている。そのため、単位ターゲット装置30を着火位置51のうち成膜位置52から助走距離以上離れた位置に配置して、プラズマを生成し、次いで成膜位置52に向かって移動を開始させると、成膜位置52に入る前にプラズマが安定化するようになっている。
【0026】
また、消火位置53には搬送路43と対向して補助防着部材17が設けられている。単位ターゲット装置30が消火位置53に配置されたときに、ターゲット31表面は補助防着部材17と対向し、ターゲット31表面からスパッタされた粒子は補助防着部材17に付着し、真空槽11の内壁面には付着しないようになっている。
【0027】
<第一例のスパッタリング装置を用いた成膜方法>
上述の第一例のスパッタリング装置10aを用いた成膜方法を説明する。
ここではターゲット31にはアルミニウム(Al)を用いるが、本発明のターゲット31の材質はAlに限定されない。
【0028】
(準備工程)
真空排気装置12を動作させて、真空槽11内を真空排気して、真空雰囲気を形成する。以後、真空排気を継続して、真空槽11内の真空雰囲気を維持する。
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、基板20を基板保持部15に保持させた状態で真空槽11内に搬入し、基板20の表面が防着部材16と補助防着部材17との間の空間に露出する位置に配置して静止させる。このとき、基板保持部15の搬送路43と対向する部分は、防着部材16と補助防着部材17で覆われて、基板保持部15には膜が着膜しないようになっている。
【0029】
ガス導入装置13から真空槽11内に、ターゲット31表面と反応する反応ガスと、スパッタガスとの混合ガスを導入する。ここでは反応ガスにO2ガスを使用し、スパッタガスにArガスを使用するが、本発明はO2ガスとArガスに限定されるものではない。たとえば反応ガスはN2ガスでもよい。以後、真空槽11内への混合ガスの導入を継続する。
磁石揺動装置34を動作させて、磁石装置33を揺動させる。以後、磁石装置33の揺動を継続する。
【0030】
(着火工程)
単位ターゲット装置30を着火位置51のうち成膜位置52から助走距離以上離れた位置に配置する。
電源装置36からバッキングプレート32に電圧を印加すると、ターゲット31表面に放電が生じて、導入された混合ガスのプラズマが生成され、プラズマ中のArイオンはターゲット31表面に入射して、ターゲット31表面をスパッタする。磁石装置33はターゲット31表面と平行な方向に揺動しており、ターゲット31表面は均一にスパッタされる。
【0031】
スパッタされたターゲットの粒子(スパッタ粒子)は、O2ガスと反応し、ターゲット31表面と対向する防着部材16に到達して付着する。スパッタ粒子は防着部材16に遮られて真空槽11の壁面には到達せず、真空槽11の壁面の汚染や真空槽11の壁面からのダストの発生が抑制される。
また、ターゲット31は着火位置51に位置し、基板20表面と対向しておらず、プラズマ着火時のスパッタ粒子が基板20表面に到達して、基板20表面の着火位置51側の端部に不良な膜質の膜が着膜することはない。
【0032】
単位ターゲット装置30を搬送路43に沿って成膜位置52に向けて移動させながら、電源装置36から供給する電力量を制御して、プラズマの状態を遷移モードに安定させる。
単位ターゲット装置30は成膜位置52から助走距離以上離れた位置から移動を開始し、プラズマが遷移モードに安定するまでは、ターゲット31は着火位置51の範囲内に位置しており、プラズマが遷移モードに安定する前のスパッタ粒子が基板20表面に到達して、基板20表面の着火位置51側の端部に酸素含有量が不安定な膜が着膜することはない。
【0033】
なお、ここでは単位ターゲット装置30を搬送路43に沿って移動させながら、プラズマを安定させたが、単位ターゲット装置30を着火位置51で静止させた状態でプラズマを安定させ、次いで単位ターゲット装置30を搬送路43に沿って移動させてもよい。
また、ここでは電源装置36から供給する電力量を制御してプラズマを遷移モードに安定させたが、ガス導入装置13から真空槽11内に導入する反応ガスの流量を制御してプラズマを遷移モードに安定させてもよい。
【0034】
(第一の成膜工程)
プラズマの状態を遷移モードに維持しながら、単位ターゲット装置30の移動を継続し、着火位置51から成膜位置52を通って消火位置53に到達させる。
成膜位置52を通過中にターゲット31から放出されたスパッタ粒子は基板20表面に到達して、基板20表面には所定の酸素含有量のAlOx膜が形成される。AlOx膜の膜厚は搬送路43に沿った方向に均一になる。すなわち、AlOx膜の膜質分布や膜厚分布には搬送路43と平行な方向にムラが発生しない。
【0035】
(第二の成膜工程)
次いで、単位ターゲット装置30を搬送路43に沿って第一の成膜工程での移動方向とは逆向きに移動させ、消火位置53から成膜位置52を通って着火位置51に到達させる。
成膜位置52を通過中にターゲット31から放出されたスパッタ粒子は基板20表面に到達して、第一の成膜工程で成膜されたAlOx膜の表面に所定の酸素含有量のAlOx膜が積層される。
【0036】
第一、第二の成膜工程を交互に繰り返し、基板20表面に所定の膜厚のAlOx膜を形成する。なお、繰り返しの最後は第一の成膜工程でもよいし、第二の成膜工程でもよい。繰り返しの最後が第一の成膜工程の場合には、単位ターゲット装置30は消火位置53に配置され、繰り返しの最後が第二の成膜工程の場合には、単位ターゲット装置30は着火位置51に配置される。
【0037】
(消火工程)
次いで、電源装置36からの電力供給を停止し、プラズマを消滅させる。ガス導入装置13からのガスの導入を停止する。プラズマが消滅するときのスパッタ粒子は、ターゲット31表面と対向する防着部材16又は補助防着部材17に付着し、真空槽11の壁面には到達しない。よって、真空槽11の壁面の汚染や真空槽11の壁面からのダストの発生が抑制される。
【0038】
また、プラズマが消滅するときにターゲット31は基板20表面とは対向しておらず、プラズマ消滅時のスパッタ粒子が基板20表面に到達して、基板20表面の着火位置51側又は消火位置53側の端部に不良な膜質の膜が着膜することはない。
【0039】
(基板交換工程)
次いで、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの基板20を基板保持部15と一緒に真空槽11の外側に搬出する。次いで、未成膜の基板20を基板保持部15と一緒に真空槽11内に搬入して、上述の各工程を順に繰り返し、複数枚の基板20に薄膜を成膜する。
【0040】
<第二例のスパッタリング装置の構造>
本発明の第二例のスパッタリング装置の構造を説明する。
図3は第二例のスパッタリング装置10bの内部構成図である。第二例のスパッタリング装置10bのうち、第一例のスパッタリング装置10aの構成と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、対応する部分には、同じ符号に添え字bを付して示す。
【0041】
第二例のスパッタリング装置10bのターゲット部19bは複数台(ここでは二台)の単位ターゲット装置301、302を有している。
各単位ターゲット装置301、302の構造は、図2を参照し、第一例のスパッタリング装置10aの単位ターゲット装置30の構造と同じであり、説明を省略する。
【0042】
移動装置40bは、レール41上に配置された複数の可動部421、422を有している。各可動部421、422の構造は第一例のスパッタリング装置10aの可動部42の構造と同じであり、説明を省略する。各可動部421、422は、レール41上に、レール41の長手方向に沿って並んで配置されている。各単位ターゲット装置301、302は、ターゲット31表面を搬送路43と平行に向けた状態で、それぞれ異なる可動部421、422に取り付けられている。
【0043】
各単位ターゲット装置301、302のターゲット31の長手方向は、搬送路43の延びる方向に対して直角な方向に向けられている。
レール41に設けられた固定電磁石の磁極をレール41の長手方向に沿って順に変化させると、各可動部421、422の可動磁石にはレール41の長手方向と平行で同一方向の移動力が印加され、各単位ターゲット装置301、302は搬送路43に沿って同一方向に同一速度で移動できるようになっている。
【0044】
なお、ここでは各単位ターゲット装置301、302はそれぞれ異なる可動部421、422に取り付けられていたが、搬送路43に沿って同一方向に同一速度で移動できるならば、各単位ターゲット装置301、302が同一の可動部に取り付けられた構成も本発明に含まれる。
【0045】
第二例のスパッタリング装置10bを用いた成膜方法は、第一例のスパッタリング装置10aを用いた成膜方法と同じであり、説明を省略する。
第二例のスパッタリング装置10bでは、第一例のスパッタリング装置10aに比べて、ターゲット31の数が多いため、一回の成膜工程(すなわち一回の第一の成膜工程又は一回の第二の成膜工程)あたり、より多くのスパッタ粒子を基板20表面に到達させることができ、成膜時間を短縮できる。
【0046】
また、ターゲット31一個あたりのプラズマのパワー密度を下げれば、成膜時間は延びるものの、プラズマによる基板20表面のダメージを低減させることができ、基板20表面にあらかじめ素子構造が設けられている場合には、素子構造の損傷を防止できる。
【0047】
<第三のスパッタリング装置の構造>
本発明の第三例のスパッタリング装置の構造を説明する。
図4は第三例のスパッタリング装置10cの内部構成図である。第三例のスパッタリング装置10cのうち、第一例のスパッタリング装置10aの構成と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、対応する部分には、同じ符号に添え字cを付して示す。
【0048】
第三例のスパッタリング装置10cのターゲット部19cは、一台又は複数台(ここでは6台)の単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023を有している。
各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023の構造は、図2を参照し、第一例のスパッタリング装置10aの単位ターゲット装置30の構造と同じであり、説明を省略する。
【0049】
成膜位置52には、基板20表面と平行な直線部分を有する環状の搬送路43’が設けられており、直線部分の一端は着火位置51に延ばされ、他端は消火位置53に延ばされている。
移動装置40cは、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023を搬送路43’に沿って同一方向に同一速度で移動させ、ターゲット31表面を基板20表面と平行に向けた状態で、成膜位置52を順に通過させるように構成されている。
【0050】
移動装置40cは、ここではリニアモーターであり、搬送路43’に沿って延設された環状のレール41’と、レール41’上にレール41’の周方向に沿って並んで配置された複数の可動部4211〜4213、4221〜4223とを有している。
【0051】
レール41’には複数の固定電磁石(不図示)がレール41’の周方向に沿って等間隔に並んで設けられており、各可動部4211〜4213、4221〜4223には可動磁石(不図示)がそれぞれ設けられている。固定電磁石の磁極をレール41’の周方向に沿って順に変化させると、可動部4211〜4213、4221〜4223の可動磁石にはレール41’の周方向と平行な同一方向の移動力が印加される。
【0052】
各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023は、ターゲット31表面を搬送路43’と平行に向けた状態で、それぞれ異なる可動部4211〜4213、4221〜4223に取り付けられている。ターゲット31はここでは細長形状であり、ターゲット31の長手方向は、搬送路43’に対して直角な方向に向けられている。
【0053】
レール41’から各可動部4211〜4213、4221〜4223に搬送路43’に沿った同一方向の移動力が印加されると、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023はレール41’の周方向に沿って同一方向に同一速度で移動できるようになっている。
本実施例では、符号3011〜3013の単位ターゲット装置は一組のターゲット組391を成し、符号3021〜3023の単位ターゲット装置は別の一組のターゲット組392を成している。
【0054】
一のターゲット組391の後尾と、その後尾の後方に位置する他の一のターゲット組392の先頭との間の搬送路43’に沿った間隔は、基板20表面の搬送路43’に沿った長さより長くされている。そのため、一のターゲット組391の後尾の単位ターゲット装置3013が成膜位置52の外側に出た後で、その後尾の後方に位置する他の一のターゲット組392の先頭の単位ターゲット装置3021が成膜位置52の内側に入るようになっており、その間の期間は、成膜位置52にはどの単位ターゲット装置も位置しないようになっている。
なお、一組のターゲット組391、392を構成する単位ターゲット装置の数は三個に限定されず、一個でもよいし、二個以上でもよい。
【0055】
<第三例のスパッタリング装置を用いた成膜方法>
上述の第三例のスパッタリング装置10cを用いた成膜方法を説明する。
ここでは各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023のターゲット31にはアルミニウム(Al)を用いるが、本発明のターゲット31の材質はAlに限定されない。
【0056】
(準備工程)
準備工程は第一例のスパッタリング装置10aを用いた成膜方法の準備工程と同じであり、説明を省略する。
【0057】
(移動工程)
移動装置40cを動作させて、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023を搬送路43’に沿って同一方向に同一速度で移動させる。以後、搬送路43’に沿った各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023の移動を継続する。
各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023について行う工程は同様であり、符号3011の単位ターゲット装置3011で代表して説明する。
【0058】
(着火工程)
単位ターゲット装置3011が着火位置51のうち成膜位置52から助走距離以上離れた位置に配置されたとき、電源装置36からバッキングプレート32に電圧を印加すると、ターゲット31表面に放電が生じて、混合ガスのプラズマが生成され、プラズマ中のArイオンはターゲット31表面に入射して、ターゲット31表面をスパッタする。
【0059】
スパッタ粒子は、反応ガスと反応し、ターゲット31表面と対向する防着部材16に到達して付着する。スパッタ粒子は防着部材16に遮られて真空槽11の壁面には到達せず、真空槽11の壁面の汚染や真空槽11の壁面からのダストの発生が抑制される。
また、ターゲット31は着火位置51に位置しており、基板20表面と対向しておらず、プラズマ着火時のスパッタ粒子が基板20表面に到達して、基板20表面の着火位置51側の端部に不良な膜質の膜が形成されることはない。
【0060】
電源装置36から供給する電力量を制御して、プラズマの状態を遷移モードに安定させる。単位ターゲット装置3011が成膜位置52から助走距離以上離れた位置でプラズマが生成され、プラズマを遷移モードに安定させるまでは、ターゲット31は着火位置51の範囲内に位置しており、プラズマが遷移モードになる前のスパッタ粒子が基板20表面に到達して、基板20表面の着火位置51側の端部に酸素含有量が不安定な膜が着膜することはない。
【0061】
(成膜工程)
プラズマの状態を遷移モードに維持しながら、単位ターゲット装置3011を、着火位置51から成膜位置52を通って消火位置53に到達させる。
成膜位置52を通過中にターゲット31から放出されたスパッタ粒子は基板20表面に到達して、基板20表面には所定の酸素含有量のAlOx膜が、移動方向に均一な膜厚で形成される。すなわち、AlOx膜の膜質分布や膜厚分布には搬送路43’と平行な方向にムラが発生しない。
【0062】
(消火工程)
単位ターゲット装置3011が消火位置53に配置されたとき、電源装置36からの電力供給を停止し、プラズマを消滅させる。プラズマが消滅するときのスパッタ粒子は、ターゲット31表面と対向する補助防着部材17に到達して付着し、真空槽11の壁面には到達せず、真空槽11の壁面の汚染や真空槽11の壁面からのダストの発生が抑制される。
【0063】
また、プラズマが消滅するときにターゲット31は基板20表面と対向しておらず、プラズマ消滅時のスパッタ粒子が基板20表面に到達して、基板20表面の消火位置53側の端部に不良な膜質の膜が形成されることはない。
【0064】
次いで、単位ターゲット装置3011は搬送路43’に沿って同一方向に移動して、消火位置53から成膜位置52を通らずに着火位置51に到達し、すなわち搬送路43’に沿って周回する。
各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023を搬送路43’に沿って同一方向に同一速度で移動させ続けながら、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023では上述の着火工程と成膜工程と消火工程とを順に繰り返させると、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023が成膜位置52を通過するたびに基板20表面にはAlOx膜が積層される。
【0065】
(基板交換工程)
一のターゲット組391の後尾と、その後尾の後方に位置する他の一のターゲット組392の先頭との間の搬送路43’に沿った間隔は、基板20表面の搬送路43’に沿った長さより長くされており、一のターゲット組391の後尾の単位ターゲット装置3013で成膜工程が終わった後に、その後方に位置する他の一のターゲット組392の先頭の単位ターゲット装置3021で成膜工程が始まる。
【0066】
一のターゲット組391の後尾の単位ターゲット装置3013について成膜工程が終わった後、その後方に位置する他の一のターゲット組392の移動方向の先頭の単位ターゲット装置3021で成膜工程が始まる前に、真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの基板20を基板保持部15と一緒に真空槽11の外側に搬出し、次いで、未成膜の基板20を基板保持部15と一緒に真空槽11内に搬入する。
【0067】
一のターゲット組391の後尾の単位ターゲット装置3013について成膜工程が終わった後、その後方に位置する他の一のターゲット組392の移動方向の先頭の単位ターゲット装置3021で成膜工程が始まる前の期間に、成膜位置52にはどの単位ターゲット装置も位置しないようになっており、基板20を交換している間にターゲット30が成膜位置を通過して真空槽11の壁面に膜が着膜することはない。よって、移動装置40cの動作を停止させずに、基板20を交換して、複数枚の基板20の成膜を順に行うことができ、効率的である。
【0068】
なお、移動装置40cの動作を継続しながら、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023でプラズマを着火させずに成膜位置52を順に通過させ、その間に基板20を交換してもよい。この場合には、隣り合う二つのターゲット組391、392の間の搬送路43’に沿った方向の間隔を、基板20表面の搬送路43’に沿った方向の長さより長くしなくてもよい。
【0069】
上述の説明では、移動装置40cはリニアモーターであり、搬送路43’に沿って延設されたレール41’と可動部材4211〜4213、4221〜4223とを有していたが、移動装置40cの構成はこれに限定されず、たとえばベルトコンベアであり、搬送路43’に沿って延設された環状のベルトと、ベルトを周方向に回転させる回転装置とを有し、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023はそれぞれベルトに固定され、回転装置によりベルトを周方向に回転させると、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023が搬送路43’に沿って同一方向に同一速度で移動するように構成されていてもよい。
【0070】
また、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023にそれぞれ真空モーターを設け、それぞれ独立に搬送路43’に沿って移動できるように構成してもよいが、各単位ターゲット装置3011〜3013、3021〜3023を一緒に移動させるように構成した方が装置構成が単純であり好ましい。
【符号の説明】
【0071】
10a、10b、10c……スパッタリング装置
11……真空槽
15……基板保持部
16……防着部材
20……基板
31……ターゲット
391、392……ターゲット組
40a、40b、40c……移動装置
43、43’……搬送路
51……着火位置
52……成膜位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内に配置され、基板を保持する基板保持部と、
前記真空槽内に配置されたターゲットと、
を有し、
前記真空槽内にスパッタガスを導入し、前記ターゲット表面にプラズマを生成し、前記ターゲットをスパッタして、前記基板表面に薄膜を形成するスパッタリング装置であって、
前記基板の外周より外側の着火位置と前記基板表面と対向する成膜位置とを通る搬送路に沿って、前記ターゲットを移動させる移動装置を有するスパッタリング装置。
【請求項2】
前記着火位置には前記搬送路と対向して防着部材が設けられた請求項1記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記ターゲットは前記搬送路に沿って複数個配置され、
前記移動装置は、複数の前記ターゲットを前記搬送路に沿って一緒に移動させる請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記搬送路は環状である請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
一個又は二個以上の前記ターゲットからなるターゲット組が前記搬送路に沿って複数組配置され、
一の前記ターゲット組の後尾と、前記後尾の後方に位置する他の一の前記ターゲット組の先頭との間の前記搬送路に沿った間隔は、前記基板の前記搬送路に沿った長さより長い請求項4記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のスパッタリング装置を用いた成膜方法であって、
前記ターゲットを前記着火位置に配置して、前記ターゲット表面に前記プラズマを生成する着火工程と、
前記ターゲットを前記搬送路に沿って一の移動方向に移動させ、前記成膜位置を通過させて前記基板表面に薄膜を形成する第一の成膜工程と、
前記ターゲットを前記基板の外周より外側の位置に配置して、前記プラズマを消滅させる消火工程と、
を有する成膜方法。
【請求項7】
前記第一の成膜工程の後、前記消火工程の前に、前記ターゲットを前記搬送路に沿って前記移動方向とは逆向きに移動させ、前記成膜位置を通過させて前記基板上に薄膜を形成する第二の成膜工程が設けられた請求項6記載の成膜方法。
【請求項8】
請求項5記載のスパッタリング装置を用いた成膜方法であって、
前記ターゲットを前記着火位置に配置して、前記ターゲットの表面に前記プラズマを生成する着火工程と、
前記ターゲットを前記搬送路に沿って一の移動方向に移動させ、前記成膜位置を通過させて前記基板表面に薄膜を形成する成膜工程と、
前記ターゲットを前記基板の外周より外側の位置に配置して、前記プラズマを消滅させる消火工程とを有し、
複数の前記ターゲットを前記搬送路に沿って一緒に前記移動方向に移動させながら、各前記ターゲットについて前記着火工程と前記成膜工程と前記消火工程とを順に繰り返す成膜方法。
【請求項9】
一の前記ターゲット組の後尾の前記ターゲットについての前記成膜工程の後、前記後尾の後方に位置する他の一の前記ターゲット組の先頭の前記ターゲットについての前記成膜工程の前に、前記基板を別の基板に交換する基板交換工程が設けられた請求項8記載の成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−64171(P2013−64171A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202401(P2011−202401)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】