説明

スパッタリング装置

【課題】均一性及び再現性に優れた薄膜を形成することができるスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】スパッタリング装置は、真空槽からなるスパッタ室1と、スパッタ室1内で基板7を保持した状態で移動するトレー搬送機構と、基板7に薄膜を形成するためのターゲット8、9を固定するとともにプラズマを生成し、ターゲット8、9からスパッタ粒子を発生させるスパッタカソードと、基板7とターゲット8、9との間に配置された膜厚補正板19と、を備えている。膜厚補正板19は、その本体部19aがアノード電位であり、本体部19aを保持する枠部19bを備えている。枠部19bは、スパッタ粒子が発生した領域のトレー進行方向の略中央であって、スパッタ粒子が発生した領域を通過する基板7の近傍に本体部19aが配置されるように、本体部19aを保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置は、カソード電極に設置したターゲットとアノード電極に設置した基板との間で不活性ガスのプラズマを発生させ、ターゲットから飛び出したスパッタ粒子を基板上に堆積させて薄膜を形成する装置として知られている。しかし、スパッタリング装置では、ターゲットから飛び出したスパッタ粒子を基板上に均一に形成させることは困難であり、基板に形成される薄膜の厚さ及びバラツキを小さくするため、種々の方法が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、厚みが0.3mm〜1mmの膜厚補正板を基板の表面からターゲット側に7mm〜13mmの距離を置いた位置に配置し、形成される薄膜を高精度に均一化させるスパッタリング装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−49431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通過成膜型のスパッタリング装置では、基板の通過成膜の際に、基板を搭載したトレーがアノードとして働いてしまい、このトレーの移動によってカソード電位が変動しやすい。カソード電位の変動が大きくなると、形成された薄膜のトレー進行方向の膜厚分布が悪くなったり、膜厚分布の再現性が悪くなったりしてしまうという問題がある。このため、均一性及び再現性に優れた薄膜を形成することができるスパッタリング装置を提供することが望まれている。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、均一性及び再現性に優れた薄膜を形成することができるスパッタリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかるスパッタリング装置は、
真空槽からなるスパッタ室と、
前記スパッタ室内で基板を保持した状態で移動する移動部材と、
前記基板に薄膜を形成するためのターゲットを固定するとともにプラズマを生成し、前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタカソードと、
前記基板と前記ターゲットとの間に設置された膜厚補正板とを備え、
前記膜厚補正板は、その本体部がアノード電位であり、
前記スパッタ粒子が発生した領域の前記移動部材進行方向の略中央にあって、前記スパッタ粒子が発生した領域を通過する基板の近傍に配置される、ことを特徴とする。
【0008】
前記膜厚補正板は、例えば、前記本体部と、前記本体部を保持する枠部と、から構成され、前記枠部は、前記移動部材進行方向の略中央であって幅方向の略中央に前記本体部を保持する。
前記膜厚補正板の本体部は、例えば、接地する。
【0009】
前記本体部は、例えば、前記膜厚補正板の幅方向に延びる楕円状に形成されている。
前記基板の移動経路は、例えば、直線状である。この場合、前記移動部材は、前記スパッタ室を往復動作する。
【0010】
前記スパッタカソードは複数設けられ、当該スパッタカソードの少なくとも1つは、他のスパッタカソードに固定されているターゲットと異なる材料からなるターゲットが固定されていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、均一性及び再現性に優れた薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のスパッタリング装置の概要を示す図である。
【図2】防着板及び膜厚補正板の形状を示す図である。
【図3】防着板及び膜厚補正板が配置された状態を示す図である。
【図4】従来の防着板及び膜厚補正板の形状を示す図である。
【図5】トレー位置とカソード電位との関係を示す図である。
【図6】本実施の形態の膜厚補正板を用いた、(a)はトレー幅位置と膜厚との関係を示す図であり、(b)はトレー幅位置と膜厚分布との関係を示す図であり、(c)はマスクと平均膜厚との関係を示す図である。
【図7】従来の膜厚補正板を用いた、(a)はトレー幅位置と膜厚との関係を示す図であり、(b)はトレー幅位置と膜厚分布との関係を示す図であり、(c)はマスクと平均膜厚との関係を示す図である。
【図8】図6及び図7の測定に用いたトレーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のスパッタリング装置について図面を参照して説明する。図1は、本発明のスパッタリング装置の概要を示す図である。
【0014】
図1に示すように、スパッタリング装置は、ロードロック式のスパッタリング装置であり、スパッタ成膜処理をするスパッタ室1を備えている。スパッタ室1は、真空槽から構成されており、仕込取出室2がゲートバルブ3を介して接続されている。そして、仕込取出室2からゲートバルブ3を介して、スパッタ成膜処理の対象となる基板7がトレー5に搭載されて搬入(または搬出)される。
【0015】
スパッタ室1には排気路1aが設けられている。排気路1aには、主バルブ4、図示しない真空ポンプ等の排気手段が設けられ、排気手段によりスパッタ室1内が所定の圧力(真空度)に制御される。
【0016】
スパッタ室1は、基板7が搭載されたトレー5を搬送するトレー搬送機構6と、一対のターゲット8を保持するスパッタカソード81と、一対のターゲット9を保持するスパッタカソード91と、スパッタカソード81、91にスパッタ電力を印加する電源11と、を備えている。
【0017】
トレー搬送機構6は、スパッタカソード81及びスパッタカソード91により薄膜を形成する成膜位置に基板7を供給するものであり、一対のターゲット8の間、及び、一対のターゲット9の間を基板7が搭載されたトレー5を所定の速度で通過させる。これにより、スパッタリングされたターゲット8の材料の粒子、及び、スパッタリングされたターゲット9の材料の粒子が基板7に堆積し、基板7に薄膜が形成される。本実施の形態では、図1に示すように、基板7の移動経路は直線状であり、トレー搬送機構6は、スパッタ室1内を往復移動する。
【0018】
スパッタカソード81は、例えば、対面する一対の収納領域が設けられており、この収納領域に、成膜材料であるターゲット8と磁石10とがそれぞれ収納(固定)されている。また、スパッタカソード91は、例えば、一対の収納領域が設けられており、この収納領域に、ターゲット9と磁石10とがそれぞれ収納されている。本実施の形態では、スパッタリング装置は水晶振動片に電極を形成するためのスパッタリング装置であり、ターゲット8として、第一の電極層の材料、例えば、クロム(Cr)またはニッケル(Ni)が配置され、ターゲット9として、第二の電極層の材料、例えば、銀(Ag)または金(Au)が配置されている。
【0019】
電源11は、切替器12を介して、スパッタカソード81、91に接続されている。電源11は、切替器12を切り替えることにより、スパッタカソード81またはスパッタカソード91に電圧を印加する。電源11によりスパッタカソード81(または、スパッタカソード91)に電圧が印加されると、スパッタカソード81(または、スパッタカソード91)にプラズマが生成される。このプラズマによってターゲット8(または、ターゲット9)からスパッタ粒子が飛び出し、基板7の両面に堆積する。これにより、基板7の両面にターゲット材料の薄膜が形成される。
【0020】
また、スパッタカソード81、91には、防着板18及び膜厚補正板19が配置されている。図2に防着板18及び膜厚補正板19の形状を示し、図3に防着板18及び膜厚補正板19が配置された状態を示す。
【0021】
図2及び図3に示すように、防着板18は、スパッタカソード81の一対のターゲット8の端部を覆うように、ターゲット8の近傍にそれぞれ配置されている。また、防着板18は、スパッタカソード91の一対のターゲット9の端部を覆うように、ターゲット9の近傍にそれぞれ配置されている。
【0022】
膜厚補正板19は、導電性材料から形成され、アノード電位に維持される。なお、本例では膜厚補正板19を接地電位としているが、電圧印加しても、アノード用電源を別途設けてもよい。図1に示すスパッタリング装置はスパッタ室1、図示しないアースシールド、防着板18、膜厚補正板19を接地してアノード電位としている。膜厚補正板19は、図2に示すように、本体部19aと枠部19bとから構成されている。本体部19aは、膜厚補正板19の幅方向(トレー5進行方向と垂直な方向)の中央に形成されている。図中、トレー進行方向を矢印x,トレー進行方向に垂直なトレー幅方向(幅方向)を矢印zにて示す。本実施の形態では、本体部19aは、膜厚補正板19の幅方向に延びる楕円状に形成されている。枠部19bは、本体部19aを保持するように形成されている。枠部19bは、本体部19aがスパッタカソード81(スパッタ粒子が発生する領域)のトレー5進行方向の略中央となるとともに、スパッタカソード81の前面を通過する基板7の近傍に本体部19aが配置されるように形成されている。このような膜厚補正板19がスパッタカソード81の一対のターゲット8にそれぞれ形成されている。このため、膜厚補正板19がスパッタカソード81の一対のターゲット8にそれぞれ配置された状態で、本体部19aは、スパッタカソード81を通過する基板7の近傍であって、スパッタカソード81(ターゲット8)の中央部分に配置される。また、スパッタカソード91にも、同様の膜厚補正板19が配置されている。枠部19bはターゲット8,9の外形よりも大きく形成し、枠部による影を減少して、成膜レートを向上させることが望ましい。本例では、枠部19bのトレー進行方向幅を、ターゲット8,9のトレー進行方向幅より大きく形成し、これにより基板に到達するスパッタ粒子が枠部により遮断されることを抑止する。
【0023】
また、スパッタ室1には、スパッタガス、例えば、アルゴン(Ar)をスパッタ室1内に導入するガス導入路20aが設けられている。ガス導入路20aにはガス供給バルブ20bが設けられており、ガス供給バルブ20bを開放することにより、ガス導入路20aを介して、スパッタ室1内にスパッタガスが導入される。
【0024】
制御装置17は、マイクロプロセッサまたはシーケンサー等から構成され、スパッタリング装置の各部の動作を制御する。
【0025】
なお、ゲートバルブ3を介してスパッタ室1に接続された仕込取出室2には、排気路2aが設けられている。排気路2aには、主バルブ4、図示しない真空ポンプ等の排気手段が取り付けられており、排気手段により仕込取出室2内が所定の圧力(真空度)に制御される。具体的には、トレー5(基板7)の搬出入時に、大気開放または真空引きが行われる。例えば、排気手段により仕込取出室2内が真空状態とした後、ゲートバルブ3が開放され、仕込取出室2内からトレー5(基板7)がスパッタ室1に搬送される。また、仕込取出室2には、ヒータ21が配置されている。ヒータ21は、基板7を所望の温度を加熱する。
【0026】
次に、以上のように構成されたスパッタリング装置の動作(スパッタリング装置を用いた薄膜の形成方法)について説明する。なお、スパッタリング装置の各部の動作は制御装置17に制御されている。
【0027】
まず、主バルブ4を開放するとともに、図示しない真空ポンプを稼働させ、スパッタ室1内を所定の真空度に達するまで真空引きを行う。次に、ガス供給バルブ20bを開放して、ガス導入路20aからスパッタ室1内にArガスを導入する。そして、ガス供給バルブ20bを調節してスパッタ室1内を所定のガス圧に制御する。
【0028】
次に、切替器12を制御して電源11とスパッタカソード81とを接続する。そして、電源11を「オン」として、スパッタカソード81に電圧を印加してプラズマを生じさせる。この後、ゲートバルブ3を開放して、仕込取出室2内から基板7が搭載されたトレー5をスパッタ室1内に搬送する。なお、必要に応じてヒータ21により基板7を加熱した後、仕込取出室2内からスパッタ室1内にトレー5(基板7)を搬送してもよい。
【0029】
続いて、トレー搬送機構6を制御して、基板7が搭載されたトレー5をスパッタカソード81により薄膜を形成する成膜位置において一定速度で搬送させる。成膜位置では、プラズマ中で発生したArイオンがターゲット8に衝突しており、ターゲット8(例えば、Cr)からスパッタ粒子が飛び出しており、このスパッタ粒子が基板7に堆積する。これにより、基板7の両面に薄膜(Cr膜)が形成される。
【0030】
一般に、ターゲット8から飛び出すスパッタ粒子は、対面する基板の幅方向中央部分に多く堆積することから、図4に示すような膜厚補正板52を基板幅方向中央部に配置することによりスパッタ粒子を遮蔽し、トレー幅方向の膜厚を均一にしている。
しかし、従来のスパッタリング装置では、基板7を搭載したトレー5がアノードとしても働いてしまうため、トレー5が移動することでプラズマ(カソード電位)が不安定になり、トレー進行方向の膜厚分布が悪くなりやすかった。
本発明のスパッタリング装置では、トレー幅方向の膜厚を調整する膜厚補正板19を、スパッタカソード81(ターゲット8)正面の中央部に配置している。膜厚補正板19(本体部19a)は主のアノードとして働き、トレー5の移動によって起こるプラズマ (カソード電位) の変動が小さくなり、形成される薄膜のトレー5進行方向の膜厚分布、及び、再現性を良好にする。
プラズマの変動を小さくする目的でカソード正面中央部に対面配置したアノードとは別体に、トレー幅方向の膜厚を調整する補正板を別途設けてもよいが、一枚の補正板でトレー進行方向の膜厚変動を抑止しながら、その形状によりトレー幅方向の膜厚を調整することにより、ターゲット前面の遮蔽物の面積を小さくすることができるので、成膜レートの低下を抑止する効果がある。
【0031】
次に、切替器12を制御して電源11とスパッタカソード91とを接続する。そして、電源11を「オン」として、スパッタカソード91に電圧を印加してプラズマを生じさせる。この後、トレー搬送機構6を制御して、基板7が搭載されたトレー5をスパッタカソード91により薄膜を形成する成膜位置において一定速度で搬送させる。スパッタカソード91の成膜位置では、プラズマによって発生したArイオンがターゲット9に衝突しており、ターゲット9(例えば、Ag)からスパッタ粒子が飛び出しており、このスパッタ粒子が基板7に堆積する。これにより、基板7の両面に薄膜(Ag膜)が形成される。この結果、基板7の両面に、Cr膜とAg膜との2層の薄膜が形成される。
【0032】
前述のように、スパッタカソード91の成膜位置では、膜厚補正板19の本体部19aが、スパッタカソード91を通過する基板7の近傍であって、スパッタカソード91(ターゲット9)の中央部分に配置されている。このため、本発明のスパッタリング装置では、形成された薄膜のトレー5進行方向の膜厚分布、及び、再現性が良好となる。この結果、均一性及び再現性に優れた薄膜を形成することができる。
【0033】
続いて、電源11を「オフ」とし、ガス供給バルブ20bを閉鎖して、ガス導入路20aからスパッタ室1内へのArガスの導入を終了する。また、図示しない真空ポンプを稼働させ、スパッタ室1内のArガスを排気するとともに、所定の真空度に達するまで真空引きを行う。次に、トレー搬送機構6を制御して、基板7が搭載されたトレー5をゲートバルブ3方向に搬送した後、ゲートバルブ3を開放して、スパッタ室1内から基板7が搭載されたトレー5を仕込取出室2内に搬送する。これにより、スパッタリング装置を用いた薄膜の形成が終了する。
【0034】
次に、本発明の効果を確認するため、膜厚補正板19を用いた場合の成膜中のカソード電位の変動を確認した。なお、比較のため、従来の膜厚補正板を用いた場合についても同様の測定を行った。図4に従来の防着板51及び膜厚補正板52の形状を示す。また、図5に、この測定結果を示す。
【0035】
図5に示すように、従来の膜厚補正板を用いるよりも、膜厚補正板19を用いることにより、カソード電位の変動が小さくなっていることが確認できた。従来の膜厚補正板を用いた場合、トレーがカソード前面に侵入またはカソード前面から退出することに起因してプラズマが変動している(図5ではトレー進入時にカソード電位が上昇し、トレー退出時にカソード電位が降下している)が、本発明の膜厚補正板を用いることによりトレー通過によるプラズマ変動が抑止されたことがわかる。
【0036】
また、膜厚補正板19を用いて基板に通過成膜した場合について、トレー上の膜厚分布を測定した結果を図6に示す。図8に示す3枚のマスク61〜63を用い、トレー5上の7行3列各位置における膜厚を測定した。3枚のマスクにはトレー幅方向に15mm間隔で7点の測定ポイントが形成され、各マスクはトレー進行方向に130mm間隔で3列に配置される。トレー進行方向の端部にマスク61、63が、中央部にマスク62が配置される。図6(a)はターゲット中心高さをトレー幅位置0mmとしてトレー幅方向±45mmの範囲に形成した7点の測定ポイントの膜厚をマスク毎にプロットしたものである。図6(b)は7点の測定ポイントにおけるマスク間の膜厚分布、即ちトレー進行方向の膜厚分布を示す。また、図6(c)はマスク内の平均膜厚を示す。なお、比較のため、従来の膜厚補正板を用いて基板に通過成膜した場合についても同様の測定を行った。この結果を図7に示す。
例えば、ターゲットからのスパッタ粒子の放出量と輸送工程が不動である場合、トレーはターゲットの前面を一定速度で通過しながら成膜されるため、トレー進行方向直線上の膜厚は常に一定となるはずである。しかし、トレー幅各位置においてマスク毎の膜厚が異なることがわかる。この変動は図7に示す従来の膜厚補正板を用いた場合に顕著であり、前述のようにターゲット前面をトレーが移動することでプラズマが変動していることが原因である。
【0037】
これに対し、図6では、膜厚補正板19を用いることにより、トレー5進行方向の膜厚分布が改善されたことが確認できる。これは、膜厚補正板19がスパッタカソード81、91の前面中央部に対面して主アノードとして機能するため、トレー5のアノードとしての機能が弱められ、トレー5の移動によるプラズマ変動が抑制されたためである。また、複数回測定を行ったところ、再現性が良好であることが確認できた。このため、膜厚補正板19を用いることにより、形成された薄膜のトレー5進行方向の膜厚分布、及び、再現性が良好となることが確認できた。
【0038】
以上、説明したように、本発明の実施の形態によれば、膜厚補正板19の本体部19aが、スパッタカソード81、91を通過する基板7の近傍であって、スパッタカソード81、91の中央部分に配置されているので、形成された薄膜のトレー5進行方向の膜厚分布、及び、再現性が良好となる。この結果、均一性及び再現性に優れた薄膜を形成することができる。
【0039】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限られず、種々の変形、応用が可能である。以下、本発明に適用可能な他の実施の形態について説明する。
【0040】
上記実施の形態では、膜厚補正板19の本体部19aの形状がその幅方向に延びる楕円状に形成されている場合を例に本発明を説明したが、本体部19aは、スパッタカソード81、91を通過する基板7の近傍であって、スパッタカソード81、91の中央部分に配置されるものであればよく、例えば、円状、四角状であってもよい。本体部19aをトレー幅方向の膜厚分布調整板として機能させる場合は、トレー幅方向の膜厚分布を予め実測または計算し、所望の膜厚分布となるように(均一化の場合は膜厚が厚くなる部分を遮断するように)、膜厚補正板のトレー進行方向幅を調整すればよい。
さらに、必要に応じて、膜厚補正板19に、加熱機構や冷却機構を設けてもよい。通常、膜厚補正板、および支持部の材料にはステンレスを用いるが、アルマイト(登録商標)処理されたアルミニウム、銅など熱伝導率の高い材料で形成することや、支持部材の断面積を増大させ熱伝導を大きくすること、また膜厚補正板本体部19a及び支持部に水冷機構等の冷却機構を直接搭載すること等により、膜厚補正板本体部19aの温度上昇を抑制してもよい。
【0041】
上記実施の形態では、2つのスパッタカソード81、91が設けられ、基板7の両面に、2層の電極膜を成膜するスパッタリング装置の場合を例に本発明を説明したが、例えば、スパッタカソードが1つのスパッタリング装置や3つ以上のスパッタカソードを有するスパッタリング装置であってもよい。また、基板7の片面に薄膜を形成するスパッタリング装置であってもよい。また、水晶振動片への電極膜の形成に限らず、種々のターゲット及び基板に適用可能である。
【0042】
上記実施の形態では、切替器12を用いて、各スパッタカソードへの電力の印加を切り替えたが、各スパッタカソードに対して別電源を用いて個々に制御してもよい。また、上記実施の形態ではスパッタ室1に対する基板7の搬出入を仕込取出室2が一室で兼用する構成とするが、搬入と搬出を独立に別室で構成してもよい。また、基板7に成膜する材料、及び、スパッタリングガスの種類等の成膜条件も任意に選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、スパッタリング装置に有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 スパッタ室
2 仕込取出室
3 ゲートバルブ
4 主バルブ
5 トレー
6 トレー搬送機構
7 基板
8、9 ターゲット
10 磁石
11 電源
12 切替器
17 制御装置
18 防着板
19 膜厚補正板
19a 本体部
19b 枠部
20a ガス導入路
20b ガス供給バルブ
21 ヒータ
81、91 スパッタカソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽からなるスパッタ室と、
前記スパッタ室内で基板を保持した状態で移動する移動部材と、
前記基板に薄膜を形成するためのターゲットを固定するとともにプラズマを生成し、前記ターゲットからスパッタ粒子を発生させるスパッタカソードと、
前記基板と前記ターゲットとの間に設置された膜厚補正板とを備え、
前記膜厚補正板は、その本体部がアノード電位であり、
前記スパッタ粒子が発生した領域の前記移動部材進行方向の略中央にあって、前記スパッタ粒子が発生した領域を通過する基板の近傍に配置する、ことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記膜厚補正板は、前記本体部と、前記本体部を保持する枠部と、から構成され、
前記枠部は、前記移動部材進行方向の略中央であって幅方向の略中央に前記本体部を保持する、ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記膜厚補正板の本体部を接地する、ことを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記本体部は、前記膜厚補正板の幅方向に延びる楕円状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記基板の移動経路は直線状であり、前記移動部材は、前記スパッタ室を往復動作する、ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記スパッタカソードは複数設けられ、当該スパッタカソードの少なくとも1つは、他のスパッタカソードに固定されているターゲットと異なる材料からなるターゲットが固定されている、ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−174148(P2011−174148A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40051(P2010−40051)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】