説明

スパッタリング装置

【課題】冷却性能に優れたスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】ターゲット電極と、基板Wを載置することが可能な載置部と当該載置部に載置される基板との間に空間を形成する凹部を有する基板保持台107と、前記凹部内に冷却ガスを供給する供給源と、前記基板保持台との間に押し付け力を発生させて、前記基板を前記基板保持台に固定する保持部材と、前記基板保持台に接続される冷凍機108と、前記基板保持台を冷凍機と共に回転させる回転駆動手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を冷却するための冷凍機を搭載したスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録再生装置においては、益々の記録密度向上が要求されており、記録媒体に記録された磁気信号を電気信号に変換する磁気記録再生ヘッドにおいても高性能化が要求されている。磁気再生ヘッドに関する技術課題のうち高感度化技術向上を例にとれば、MR比が非常に高いトンネル磁気抵抗効果(TMR)をもちいたセンサが有力であり、開発が進められている。
【0003】
例えば、非特許文献1によれば、磁気トンネル結合(MTJ)を形成させるにあたり、FeCoBを室温で成膜することでアモルファス膜を形成させ、この上にMgO膜を形成させる。このMgO膜上にFeCoBアモルファス膜を形成させ、このFeCoB/MgO/FeCoB積層体を360℃で2時間熱処理することで230%の磁気抵抗変化を示すTMR膜ができると述べている。これは、FeCoBの室温成膜によりアモルファス膜が形成され、このアモルファスFeCoB上にMgOを成膜することでMgO(001)が得られる。FeCoBでMgOをサンドイッチ状にした積層体を熱処理したことで、MgOをテンプレートとしてFeCoBのうちFeCoが結晶化したからである。
【0004】
一方、同文献では比較例としてCoFeBの代わりにFeCo/MgO/FeCoなるMTJを形成させ結晶構造を解析している。この結果では、室温CoFe成膜によりCoFeがアモルファス構造にならず、上部に成膜されたMgOは(001)結晶面をもたないことを述べている。
【0005】
一方、基板を低温(例えばマイナス領域)で成膜することでアモルファス膜形成の可能性を期待できる。これは、スパッタ粒子が基板へ付着したと同時に低温基板によりエネルギーを失い、粒子の表面移動が抑えられるからである。すなわち、基板を低温に保ったままFeCoをスパッタリング成膜(もしくは蒸着)することでアモルファス膜を形成しMTJを形成すれば、FeCoB/MgO/FeCoB積層体と同様の特性を得ることが可能になる。
【0006】
上記のようなことから、基板を低温に保持したスパッタ装置が求められている。低温領域におけるスパッタプロセスを実現するには、カソード放電を行っていても基板保持台を低温のまま保持できる必要がある。その基板保持台への基板保持方法は、静電吸着による固定方法や機械的に基板を挟み込んで固定する方法が考えられる。
【0007】
静電吸着による固定では、基板全面にわたり基板を反らすことなく吸着固定することが可能であるが、使用する温度帯によっては割れやひずみが生じてしまう欠点がある。一方、機械的に基板を挟み込んで固定する方法では、比較的安価で作成ができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】アプライドフィジークスレター86巻,デビッド他(APPLIED PHYSICS LETTERS 86, 092502(2005) David他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、極低温域で基板を固定するには機械的固定方法を用いるのが適切である。
しかしながら、基板ステージを100K以下のような極低温にするために、基板ステージにGM(Gifford−McMahon)サイクルを利用した冷凍機などの冷凍能力の高い冷凍機を直結した場合、基板ステージを回転することは困難を極める。例えばGMサイクル冷凍機にはコンプレッサとヘリウムホースが必要であり、これらも含めて回転させることは困難である。
この場合、冷凍機と、基板を固定する基板ステージを機械的に切り離し、基板ステージのみを回転させる方法が考えられる。具体的には、特開2003−201565号公報には、真空容器に固定されたヒータを含む基板加熱機構と、この基板加熱機構上に隙間を介して回転可能に設けられた基板ホルダと、を備えた堆積膜形成装置が開示されている。このヒータを冷却機構に置き換えた場合、以下の二つの問題がある。一つ目は、冷却機構と基板の間に基板ホルダがあることから基板ホルダの温度が下がらないと基板冷却を行うことができない点である。二つ目は、基板ホルダの温度が十分に下がったとしても、基板ホルダと基板との間の熱抵抗により基板ホルダの温度まで基板温度を下げることができない点である。これら二つの問題のため基板の冷却効率が非常に悪くなる。
【0010】
本発明は、基板保持台を低温に保ったまま回転させる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1にかかるスパッタリング装置によれば、ターゲット電極と、基板を載置することが可能な載置部と当該載置部に載置される基板との間に空間を形成する凹部を有する基板保持台と、前記凹部内に冷却ガスを供給する供給源と、前記基板保持台との間に押し付け力を発生させて、前記基板を前記基板保持台に固定する保持部材と、前記基板保持台に接続される冷凍機と、前記基板保持台を冷凍機と共に回転させる回転駆動手段と、を備える。
このように、冷凍機を基板保持台と共に回転させる構成をとることで、小型の冷凍機を用いた場合にも基板裏側の圧力を確保でき、これにより必要な冷凍能力を確保できることが確認された。
【0012】
本発明の請求項2によるスパッタリング装置は、前記ターゲット電極と、前記基板保持台と間の距離は、150mm以上に設定されている。
基板を冷凍させた場合、プラズマ空間との温度差が大きいことから、基板面内の温度分布に影響することが確認された。特に、基板を回転させた場合、例えばプラズマの高密度化のために用いられる回転マグネットの回転速度や成膜中の回転数により、この分布が大きくなることがある。従って、本請求項のようにすることで、温度変動を抑制でき、冷凍能力や容量を過剰に大きくしなくても目的の冷却温度を達成できる。
【0013】
さらに、本発明の請求項3によるスパッタリング装置は、前記基板保持台は、前記冷却ガスの供給源と前記凹部の空間とを連通させる冷却ガス導入孔と、これと独立して設けられかつ前記凹部の空間と当該空間よりも減圧された空間とを連通させる冷却ガス排出孔を有する。
このように構成することで、固定力を高めなくても再現性を確保し、かつ、基板温度の面内分布を抑制し、目的の温度まで冷却することが可能になった。これは基板保持台の凹部に沿った冷却ガスの流れを作ることで、凹部内で必要な冷却ガス圧力を維持しつつ、言い換えれば、冷却ガス圧力が必要以上に大きくならず、結果、基板端部からの真空容器内へのガスの漏れを抑制される為ではないか、と推測される。
【発明の効果】
【0014】
この発明に係る冷却方法を用いることで、基板保持台が回転している間、スパッタリング成膜を行っている間でも十分な冷却効果が望める。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係るスパッタ装置の一例を示す図である。
【図2】基板保持台の断面図である。
【図3】基板保持台の平面図である。
【図4】基板保持台の変形例を示す断面図である。
【図5】基板保持台の変形例を示す断面図である。
【図6】実施例の温度測定方法を説明するための図である。
【図7】本発明を適用できるスパッタリング装置の構成例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本実施形態に係るスパッタ装置の一例を示す図である。スパッタ装置100は真空容器101内にカソード103、ターゲット104、カソードマグネット102そして基板保持台107を備えている。
【0017】
真空容器101には、流量制御器(マスフローコントローラー:MFC)122を介してプロセスガス導入113が導入可能で、プロセスガス123や、不純物ガスを排気するためのターボ分子ポンプなどの排気機構116を備えている。
【0018】
カソード103は整合器121を介して高周波電源120ならびに直流電源119に接続されている。これにより、カソードには高周波のみの電力供給、高周波+直流重畳による電力供給、そして直流電力のみの電力供給のいずれかが可能になっている。もちろん、整合器121と高周波電源120を省いて直流電力のみの電力供給にしても問題ない。
【0019】
基板保持台107には基板保持リング105が設けられ、基板Wを押し付け固定することが可能になっている。基板保持台107の下部には冷凍機108が接続されている。冷凍機はstirlingサイクルを利用したタイプが好適である。
【0020】
対象物を極低温まで冷却するにはGM(Gifford−McMahon)サイクルを利用した冷凍機や、Stirlingサイクルを利用した冷凍機が用いられる。GMサイクル冷凍機は内蔵されたヘリウムガスを断熱膨張させることにより極低温を発生させる構造であるから、GMサイクル冷凍機では外部のヘリウム圧縮機から高圧ヘリウムガス並びに、低圧ヘリウムガス用の配管が必要になる。すなわち、GM冷凍機を基板保持台に固定し、基板保持台を回転させるためには、高圧並びに低圧ヘリウムガス用の回転継手(ロータリージョイント)が必要になり構造が複雑になる。
【0021】
一方Stirlingサイクルを利用した冷凍機では、内蔵されたヘリウムガスとピストン運動により断熱膨張させることで極低温を発生させる。このため、冷凍機には配管類は接続されておらず、冷凍機の駆動電源(ピストン運動のリニアモーター用など)と温度調整用の電気配線のみを接続させればよい。なお、温度調整用の電気配線は、例えば基板保持台の裏面に接続される抵抗発熱体である。これらの配線は、集電環123(スリップリング)を用いて簡単に供給できるため、構造が非常に簡単になる。このようなことから、回転可能な基板保持台にStirlingサイクルを利用した冷凍機を設置することで、回転動作を行いながら基板保持台並びに基板保持台に固定された基板を冷却することが可能になる。
【0022】
また、基板保持台107内部には流量制御器(マスフローコントローラー:MFC)113を介して配管114から冷却ガスが導入可能で、基板保持台107内部に設けられた通路118を通って基板Wの設置面に冷却ガスが吹きつけられる。冷却ガスは、少なくとも目的の基板冷却温度においてガス化しているものであればよく、例えば水素やヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを用いることができる。冷却ガスの熱伝達により、基板の熱が基板保持台107に伝えられ、冷却される。なお、流量制御器の代わりに自動ガス圧制御器(オートプレジャーコントローラー:APC)を用いてガス圧管理を行ってもよい。一方、冷却ガスは、基板Wを冷却した後に冷却ガス排出通路117を通り真空容器101の排気機構116に接続する排気管115によって排気機構116に導かれ、排気される。このように、排気機構116を真空容器101用のものと共用化することで、簡便かつ低コストに構成可能である。
【0023】
一方、基板保持台107並びに冷凍機108は、回転ベースアセンブリ110に固定されている。この回転ベースアセンブリ110は磁性流体シール111に挿入され、磁性流体シール111は上下駆動ベース122に固定されている。すなわち、基板保持台107と冷凍機108、回転ベースアセンブリ111は互いに固定されており、磁性流体シール111を軸に回転することが可能になっている。回転させるために、駆動手段112が回転ベースアセンブリ110に固定されている。なお、冷却ガス配管114と118の接続、そして115と117の接続については、磁性流体シール111を介して行われるため、ステージ107が回転していても冷却ガスの授受が可能となっている。
【0024】
そして、上下駆動ベース122はベローズ109を介して真空容器101に固定されていることから、ベローズ109の伸縮機能を用いて基板保持台107の回転と同時に上下運動が可能になる。基板保持台107を上下制御させることで、スパッタ成膜における基板W上の膜厚分布の調整を容易にすることができる。
【0025】
スパッタ成膜による基板W上の膜厚分布を良好にするには、基板保持台107の単位時間あたりの回転数と、非図示のカソードマグネットの単位時間当たり回転数を、互いに素の関係にすることも重要である。
【0026】
このことを、図7を用いて説明する。図7は本発明を適用できる構成を簡単に示したものである。ターゲット上に発生する701はプラズマの形状を模式的に示した図であり、702は基板Wを把持して、かつ、回転するものである。プラズマと基板Wとの間から見て、プラズマ710と基板Wは互いに逆方向に回転していることを示している。プラズマ701はターゲット後方に設置されたマグネットによって発生する。すなわち、プラズマ701の回転はマグネットの回転によって発生する。また、プラズマ701ではスパッタが頻繁に起こることから、プラズマ701の領域からスパッタ粒子が多く飛来すると言い換えることもできる。図7は、回転している基板Wとプラズマ701(スパッタ促進領域)の位置関係の瞬間を表したもので、基板W上の位置決め用切り欠き(今後はノッチと呼ぶ)方向と、プラズマ701(スパッタ促進領域)の方向が一致した瞬間を一例として示すものである。
【0027】
例えば、基板保持台702の回転数を60回転/分、カソードマグネットの回転数を120回転/分と、互いに素の関係ではない場合を考える。このとき基板保持台702が1回転する間に、2回、図7のような位置関係になる。すなわち、図7のような位置関係の膜厚分布形状が強調されることとなり、膜厚分布は悪化する。
【0028】
しかし、本発明を適用できる一例として、基板保持台702の回転数を59回転/分、カソードマグネットの回転数を120回転/分と、互いに素の関係とした場合、基板保持台702が1回転する間に、カソードマグネットは2.03回(具体的には732.2度回転)することになり、図7のような位置関係からずれる位置になる。回転を重ねるたびにこのずれ量が加算されていくことから、膜厚分布形状が強調されることは無く、膜厚分布が悪化することはない。
【0029】
次に図2と図3を用いて基板保持台107の詳細を説明する。基板保持台(107)は厚み方向に基板保持台ベース(209)と基板保持台封止板(210)のように2分割して構成している。基板保持台ベース(209)は、内周に凹部が座繰り加工により形成され、外周端部で基板Wを保持可能に構成されている。また、この凹部の底面(205)には、冷却ガス導入溝(201)、そして冷却ガス導入溝(201)と冷却ガスの供給元(118)とを連通させるベース側冷却ガス導入孔(208)が設置されている。冷却ガス排出溝(202)は冷却ガス導入溝(201)より内周側に形成されている。冷却ガス排出溝(202)と冷却ガスの排出機構(117)とを連通させるベース側冷却ガス排出孔(207)を形成している。図3では、凹部の底面(205)と異なる高さの部分はハッチングで表記している。
【0030】
そして、この基板保持台ベース(209)の底面(205)の上部に基板保持台封止板(210)をロウ付けやネジ止めすることでガスの通路を形成することが可能になる。基板保持台封止板(210)には、冷却ガス導入溝(202)に連通する封止板側冷却ガス導入孔(204)と、冷却ガス排出溝(202)に連通する封止板側冷却ガス排出孔(203)が貫通加工されている。
【0031】
このように、基板保持台107を別体に形成し、溝の形成により分岐路を設けることで、設計の自由度を高めることができ、より冷却効果の高い装置を構成可能である。例えば、図3の例では、ベース側冷却ガス導入孔208から各封止板側冷却ガス導入孔204に至る通路の長さは略同等(相対差(中央値からの差/中央値)±5%の範囲)に設定され、ガス導入の分岐路の長さが等しく設定されている。排出溝202についても同様に分岐路の長さが略等しく(相対差(中央値からの差/中央値)±5%の範囲)設定されている。これにより、冷却ガスの分散ムラを防ぐことができる。
なお、等しく設定する場合に限られない。例えば、真空容器101内へ基板を搬送するための基板搬送口付近では部材の温度が低下しやすいことから、基板搬送口から近い方に開口する分岐路を遠い方よりも長く又は狭くし、コンダクタンスを小さくしてもよい。このような定常的に冷却効率の差等が発生する部分については、ガス導入路を分けて独立に制御するよりも、分岐路の調整を行うことで、低コスト、簡易に冷却効果の均一を図ることができる。同様に、外周側、内周側にガス導入通路を設ける場合に、内周側の分岐路を長く又は狭くし、コンダクタンスを小さくしても、同様の効果が得られる。
【0032】
なお、いずれの適用例においても冷却ガスの流量は3sccm以上に設定すればよい。3sccmより少ない場合、基板冷却効率が低くなってしまうからである。また、ガス流量が大きくなっても、本発明の適用例ではガス排出孔が設けられているため、基板Wの反りはほとんど発生せず、基板冷却温度分布も低く抑えられる。しかし、図4に示される例のように、ガス排出孔の数、サイズが調整できるような場合には、基板Wを反らせるような基板W裏面圧力が発生し得る。この場合には基板W裏面ガス圧が133Pa以下になるようにすれば基板Wの反りによる冷却温度分布は殆ど無視できる。
【0033】
以上、実施形態について説明したが、本発明の適用は上記実施形態に限定されない。外周側から冷却ガスを導入し、内周側から排気する構成に限定されず、内周側から導入し、外周側に排気する構成、同一円周上に交互に冷却ガス導入孔204及び冷却ガス排出孔203を設ける構成、各孔を同心円状でなく、格子状に点在させる構成等、種々の構成を採用しうる。このうち、上記実施形態のように、外周側から冷却ガスを導入し、内周側から排気する構成をとると、容積の大きな外周よりも内周の流量又は流圧が大きくなり、外周側で既に熱を奪った冷却ガスによる内周側での熱伝達が促進され、内外周で熱伝達効率を均一化できるので好ましい。
また、上記実施形態では、凹部の底面は平坦面としているが、これに限定されず、流れを誘導するような突出を設けてもよい。しかし、この突出は凹部の深さの1/2とすることが、ガスの拡散の観点から好ましい。
【0034】
基板保持台107に点在する冷却ガス導入孔203、冷却ガス排出孔204には図4のように面210側からタップ加工を行ってもよい。つまり必要な数のネジ401を用いて封止することで基板W裏面のガス圧を調節することが可能になる。例えば、ネジ401、を用いて、ガス排出孔204の数をガス導入孔203の数より減らすなどすれば、基板W裏面の圧力をより高めることが可能になる。これによって、冷却ガスが基板W裏面全域に行き渡り、基板冷却温度分布を抑えることが可能になる。以上は、基板保持台107に追加工を行うことなくガス排出孔204の数とガス導入孔203の数を簡単に増減させることを可能にして、基板が反らない範囲まで圧力を高めるような調整が可能になる例を示したものである。
【0035】
なお、ネジ401の代わりに貫通孔付きネジ402のようなネジ回転軸に平行な貫通孔を設けたネジを用いることも可能である。貫通孔径を変えた貫通孔付きネジ402をガス導入孔203とガス排出孔204に取り付ければ、基板W裏面ガス圧を調節することができる。例えば、ガス排出孔204に取り付けた貫通孔付きネジの貫通孔径をガス導入孔203に取り付けた貫通孔付きネジの貫通孔径よりも小さくすることで、基板保持台107への追加工を行うこと無しに、ガス導入孔203とガス排出孔204のサイズを変更できて、基板W裏面ガス圧を調整することが可能になる。なお、ここで用いるネジのサイズは太さが4mm以上で、貫通孔径は1mm以上が好適である。ネジの太さが4mm未満では貫通孔を開けた場合、ネジ強度が低くなってしまうからである。
【実施例】
【0036】
(比較例1)
本発明の効果を明確にするために、比較例を以下に示す。図5は基板保持台と基板間にガスを溜め込み、密封することで基板冷却を行う従来方法による基板冷却方法である。基板保持台500の中心には直径5mmの冷却ガス導入孔503が設けられており、基板保持台500の裏面側で冷却ガスライン502と接続されている。ガスを積極的に排出するための排気通路は設けられていない。基板保持台500と基板Wはシリコンゴム製Oリング(506)によって密閉される。冷却ガスは自動ガス圧制御器(APC)501によってガス圧力調整が行われる構造となっている。基板押えリング504による押え力は147Nとした。また、密封させるガスはヘリウムガスで10Torr(1330Pa)導入した。面507とWとの隙間は0.5mmで、基板保持台500における面507領域の厚みは10mmとした。
【0037】
基板保持台500の温度は、GM(Gifford−McMahon)サイクルを利用した冷凍機により−100±1℃制御とし、基板は直径200mm×厚み0.725mmの酸化膜付きSi基板を用いた。基板の温度測定には、熱電対(Kタイプ)を基板中心部と中心から90mmはなれた箇所(エッジ部と呼ぶ)に貼り付けて行った。なお、この比較実験では基板は回転させない。
【0038】
その結果、平衡状態の基板温度は、基板中心部の温度が−65.2℃、基板エッジの温度が−80.5℃となった(表1)。このような結果になった理由は、冷却ガスを密封するための押え力による基板の反り(基板中心が基板保持台から遠ざかる形状)やゆがみと、冷却ガスの圧力による基板の反りによるものであると考えられる。
【表1】

【0039】
(比較例2)
そこで、比較例1の実験条件のうち密封する冷却ガス圧力を1Torrとして、基板押え力を9.8Nと弱めたところ、基板の反りは減少したが、ガスの漏洩量が大きくなり、冷却中の基板エッジ温度に時間変動が発生し、更には基板間差も発生し、再現性が得られなくなってしまった(表1)。
【0040】
すなわち、冷却ガスを密封するために基板押え力を強めれば基板が反り、冷却ガス圧を高めても基板が反ることで基板面内冷却温度分布が発生し、基板押え力を弱めて基板の反りを減少させると、冷却ガスの漏洩により冷却温度の再現性が得られなくなってしまう。
【0041】
(実施例1)
本発明を適用できる図1と図4、図6のような構造で基板冷却実験を行った。図1は全体を説明したもの、図4は基板保持台の詳細、そして図6は温度測定に関する詳細図である。基板押えリング105はSUS製、基板保持台107は銅製で面210を含む底部の厚みが10mmである。面210の表面処理は特に行っておらず、切削面のままとした。冷却ガス導入孔203には直径4mmのネジ穴が施され、外周に直径4mmのネジ加工が施されている部品402をねじ込んだ。部品402の中央には直径1mmの貫通孔が設けられている。冷却ガス導入孔203(部品402を含む)は基板保持台107の中心から70mmのところに90度づつ4箇所均等配置させた。冷却ガス排出孔204にも直径4mmのネジ穴が施され、部品402をねじ込んだ。同じく中央には直径1mmの貫通孔が設けられている。冷却ガス排出孔204は基板保持台107の中心から20mmのところに90度づつ4箇所均等配置させた。
【0042】
基板Wと基板保持台107の温度測定については、図6を用いて説明する。Kタイプ熱電対605を基板W中心部、Kタイプ熱電対604を基板W中心から90mmはなれた箇所にセラミック系接着剤を用いて貼り付けた。熱電対604、605は接続部品602によって中継され、集電環123(スリップリング)に接続されている。集電環123からは温度表示手段に接続されている。一方、基板保持台107には白金抵抗体素子603が固定され、これも集電環123をとおり温度表示手段に接続されている。これにより、基板Wが固定されていても回転していても温度を測定することが可能である。
【0043】
面210の直径は190mm、基板保持台ベース209の最外径は210mmとし、面210と基板Wとの距離は0.5mmである。基板保持台107にはStirlingサイクルタイプの冷凍機が接続され、基板保持台107の温度が−100±1℃になるように制御されている。基板Wは基板保持台107から遠ざかった位置で待機され、実験開始とともに非図示の基板上下駆動機構により基板保持台107に設置され、基板押えリング105によって把持される。基板押え力は19.6Nとし、基板Wと面210の間には、ヘリウムガスをガス流量制御器(MFC)によって5sccm流し続けた。
【0044】
基板把持から15分後の熱電対605の表示値は−96.1℃、熱電対604の表示値は−95.5℃となり基板保持台107の温度と同等の温度が得られた。基板面内の温度差も抑えられ、比較例1、2と比較しても本発明の効果が示された(表1)。そして、12枚連続処理された基板の基板間差についても±2℃以内に抑えることができた。
【0045】
(実施例2)
次に、実施例1での実験条件のうち基板保持台107を回転させた実施例2について実験を行った。実施例2の基板冷却実験では、基板回転有無以外の条件は全て同一である。基板Wは基板保持台107から遠ざかった位置で待機され、実験開始とともに非図示の基板上下駆動機構により基板保持台107に設置、基板押えリング105によって把持される。基板押え力は19.6Nとし、基板Wと面210の間には、ヘリウムガスをガス流量制御器(MFC)によって5sccm流し続けた。この状態から7秒間で基板保持台の回転数を59rpmまで増やし、59rpmで回転させながら冷却動作を行った。
【0046】
基板把持から15分後の熱電対605の表示値は−95.1℃、熱電対604の表示値は−96.4℃となり実施例1とほぼ同等の結果が得られた。12枚連続処理された基板の基板間差についても±2℃以内に抑えることができ、基板を回転させながら冷却させるための本発明の効果を実証することができた。
【0047】
(実施例3)
更に、実施例2での実験条件のうち基板保持台107の温度を−200±2℃で制御させた実施例3について実験を行った。実施例3の基板冷却実験では、基板保持台の温度以外の条件は全て同一である。基板Wは基板保持台107から遠ざかった位置で待機され、実験開始とともに非図示の基板上下駆動機構により基板保持台107に設置、基板押えリング105によって把持される。基板押え力は19.6Nとし、基板Wと面210の間には、ヘリウムガスをガス流量制御器(MFC)によって5sccm流し続けた。この状態から7秒間で基板保持台の回転数を59rpmまで増やし、59rpmで回転させながら冷却動作を行った。
【0048】
基板把持から40分後の熱電対605の表示値は−184.2℃、熱電対604の表示値は−186.3℃となった。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、これは本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態とは異なる種々の態様で実施することができる。基板サイズや基板の種類が異なるものであっても、本発明が有効であることは明白である。
【符号の説明】
【0050】
100 スパッタ装置
102 カソードマグネット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲット電極と、
基板を載置することが可能な載置部と当該載置部に載置される基板との間に空間を形成する凹部を有する基板保持台と、
前記凹部内に冷却ガスを供給する供給源と、
前記基板保持台との間に押し付け力を発生させて、前記基板を前記基板保持台に固定する保持部材と、
前記基板保持台に接続される冷凍機と、
前記基板保持台を冷凍機と共に回転させる回転駆動手段と、
を備えることを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記ターゲット電極と、前記基板保持台と間の距離は、150mm以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記基板保持台は、前記冷却ガスの供給源と前記凹部の空間とを連通させる冷却ガス導入孔と、これと独立して設けられかつ前記凹部の空間と当該空間よりも減圧された空間とを連通させる冷却ガス排出孔を有することを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記冷凍機として、Stirlingサイクルによる冷凍機を用いることを特徴とした請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記冷凍機により前記基板保持台を−100℃以下の温度に保持することを特徴とした請求項1に記載のスパッタリング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−140672(P2012−140672A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293523(P2010−293523)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】