説明

スパッタ装置及びスパッタ方法

【課題】ターゲットの使用効率の高いマグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法を実現する。
【解決手段】カソード電極が設けられた真空チャンバー内において、カソード電極の表面にターゲットを、カソード電極に対向する位置に基板を配置する。そして、カソード電極の裏面に中央部を囲むように環状に第1環状磁石305を配置し、第1環状磁石305を囲むように環状に第2環状磁石307を配置し、第2環状磁石307を囲むように環状に第3環状磁石309を配置する。第1環状磁石305は、ターゲットに対して垂直に磁界を発生させる。第2環状磁石307はターゲットに対して第1環状磁石305と同一方向に、第3環状磁石309は第2環状磁石307と逆方向に磁界を発生させる。そして、ターゲットと基板との間に高電圧を印加すると、ターゲットの外縁部が最も深いエロージョンが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタ装置及びスパッタ方法に関する。特に、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜の形成技術は、CVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)技術と、PVD(Physical Vapor Deposition;物理的成長)技術とに大きく分けられる。この中で、粒子の付着力が大きく、強い膜を形成できることや、高融点金属を材料とできることなどの特徴を活かして、PVDの一種であるマグネトロンスパッタ法が多用途に用いられている。
【0003】
このマグネトロンスパッタ法で用いるマグネトロンスパッタ装置は、特許文献1に記載されるように、一般的に真空チャンバーと、真空チャンバー内のカソード電極と、カソード電極と対向する基板と、基板に対向し、カソード電極の表面に配置される成膜材料(ターゲット)と、カソード電極の裏面に配置された磁石装置とから構成される。
【0004】
そして、このマグネトロンスパッタ装置を使用するスパッタ方法は、一般的に真空チャンバー内にAr等の不活性ガスを封入するステップと、ターゲットに高電圧を印加することで、不活性ガスから高密度プラズマを生成するステップと、磁石装置の発生する漏洩磁界に高密度プラズマを閉じこめるステップと、高密度プラズマ中のArイオンをターゲットに衝突させてターゲットの粒子を叩き出す(スパッタリング)ステップと、スパッタされた粒子を基板に堆積させることで成膜させるステップと、を備えて構成される。磁石装置の発生する漏洩磁界は、ターゲットと磁力線とによって形成される閉空間内に電子を捕捉し、イオン化を促進して高効率のスパッタリングを達成させる。また、高密度プラズマが基板に達して損傷しないという効果も奏する。
【0005】
マグネトロンスパッタ法では、ターゲット上の強磁界が通過する部分が局所的にV字型に食刻され、このV字がターゲットを貫通する直前の時点がターゲットの寿命となる。そして、V字状の食刻領域(エロージョン)がターゲットの寿命が尽きるまでにスパッタされる材料のターゲット全体に占める体積の割合をターゲットの使用効率という。このターゲットの使用効率を高くすれば、ターゲットの寿命が延びる。そこで、ターゲットの使用効率を高めるため、特許文献1に開示されたスパッタ装置は、環状のエロージョンが複数形成されるように磁石のレイアウトを工夫している。具体的には、中央部に第1の永久磁石を配置し、その中央部の磁石の周りを2重に取り囲むように第2、第3の複数の永久磁石を配置している。そして、第1の永久磁石と第2の永久磁石との極性、及び第2の永久磁石と第3の永久磁石との極性を異なるものとしている。
【特許文献1】特開2004−115841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されたスパッタ装置では、環状のエロージョンが複数形成されるものの、各エロージョンのV字は依然として急角度である。このため、全体として見れば、ターゲットの使用効率は、あまり改善されていない。かといって、エロージョンの形状を変化させるために中央の磁石を2重に囲む磁石の数を変化させると、中央の磁石とそれ以外の磁石との形成する磁界のバランスが崩れ、膜厚が不均衡となってしまう。このため、ターゲットの使用効率の向上が困難であるという問題があった。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、ターゲットの使用効率の高いスパッタ装置及びスパッタ方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかるスパッタ装置は、
成膜室内に不活性ガスを供給する供給手段と、
前記成膜室内に配置され、成膜材料からなるターゲットが表面に載置されるカソード電極と、
前記カソード電極の表面と対向するように前記成膜室内に基板を保持する保持手段と、
前記カソード電極の裏面の中央部に環状に配置し、前記ターゲットに対していずれか一方の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第1の磁界発生手段と、
前記第1の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第1の磁界発生手段と同一の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第2の磁界発生手段と、
前記第2の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第2の磁界発生手段と異なる磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第3の磁界発生手段と、
前記カソード電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
環状に配置するとは、磁界発生手段が完全な環形状を有するものに限らず、例えばターゲット中央を中心とする円周上に磁界発生手段を点在して配置させるものや、ターゲットの外縁から等距離となる位置に磁界発生手段を配置するものを含むものとする。
【0010】
前記第1の磁界発生手段と前記第2の磁界発生手段と前記第3の磁界発生手段とにより発生した、前記ターゲットに対して水平方向の磁界の磁束密度の絶対値が、前記ターゲットの中央部と外縁部との間で最も大きくなり、
前記第1の磁界発生手段と前記第2の磁界発生手段と前記第3の磁界発生手段とにより発生した、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界の磁束密度が、前記ターゲットの外縁部で最も大きくなることとしてもよい。
【0011】
本発明の第2の観点にかかるスパッタ方法は、
カソード電極の表面と対向するように成膜室内に基板を保持する保持手段と、
前記カソード電極の裏面の中央部に環状に配置し、ターゲットに対していずれか一方の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第1の磁界発生手段と、
前記第1の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第1の磁界発生手段と同一の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第2の磁界発生手段と、
前記第2の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第2の磁界発生手段と異なる磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第3の磁界発生手段と、
を備えるスパッタ装置におけるスパッタ方法であって、
前記カソード電極の表面と対向するように前記成膜室内に基板を保持する保持ステップと、
前記成膜室内に不活性ガスを供給する供給ステップと、
前記カソード電極に電圧を印加し、前記供給ステップで供給された前記不活性ガスからプラズマを生成させるプラズマ発生ステップと、
前記プラズマ発生ステップで発生したプラズマを前記第1の磁界発生手段と前記第2の磁界発生手段と前記第3の磁界発生手段とにより発生した磁界により前記ターゲット表面に収束し、収束された高密度プラズマにより前記ターゲットから叩き出された粒子を前記基板に堆積させることで成膜する成膜ステップと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ターゲットの使用効率の高いスパッタ装置及びスパッタ方法が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施形態1)
以下、本発明の実施形態1に係るマグネトロンスパッタ装置について詳細に説明する。本実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置1は、RF(Radio Frequency:高周波)電源を使用するプレーナ型のスパッタ装置であり、図1に示すように、真空チャンバー10と、カソード電極30と、基板固定台50と、RF電源20と、制御部100とを備えて構成される。
【0014】
真空チャンバー10は、内部が空洞な部材であり、内部で薄膜を形成するために使用される。その内部にカソード電極30と、基板固定台50とが配置され、RF電源20と、内部の気体を排気する排気機構13と、内部に気体を供給する給気機構11とを備える。排気機構13により気体を排気して内部を真空にし、給気機構11により内部にArなどの不活性ガスや反応性ガス等を供給する。
【0015】
カソード電極30は、高密度プラズマを収束させる側の極であり、RF電源20に接続されている。カソード電極30は、円筒形状に構成され、真空チャンバー10の底部に配置される。図3はカソード電極30の断面図である。図3に示すように、カソード電極30は先端にバッキングプレート301を備え、円筒内部に空洞部を有する。カソード電極30は、この空洞部内にヨーク303、第1環状磁石305と、第2環状磁石307と、第3環状磁石309とを備える。
【0016】
ヨーク303はカソード電極30にネジ等によって固定される。ヨーク303の形状は、例えば円盤状であり、カソード電極30に固定した面を裏面として、表面には第1、第2、第3環状磁石(305、307、309)を取り付けるための溝が形成されている。
【0017】
第1〜第3環状磁石(305、307、309)は、ターゲット表面に漏洩磁界を発生させるための磁石装置であり、直方体のネオジム等の永久磁石をヨーク303表面に複数個並べることで構成される。
【0018】
第1〜第3環状磁石(305、307、309)の配置図を図4に示す。第1環状磁石305は、図4に示すようにヨーク303の中心部を囲むように、ヨーク303表面に環状に配置される。そして、第2環状磁石307は、第1環状磁石305を囲むように、ヨーク303表面に環状に配置される。第3環状磁石309は、第2環状磁石307を囲むように、ヨーク303表面に環状に配置される。そして、これらの磁石は、ターゲットにN極又はS極を向けるようにヨーク303の表面にエポキシ樹脂等で固定される。ここで、第1及び第2環状磁石(305、307)の極性の向きは同一方向に揃え、これらと第3環状磁石309の極性の向きは逆方向になるように揃えられる。例えば、第1及び第2環状磁石(305、307)はターゲットにS極を向けるように配置され、第3環状磁石309はターゲットにN極を向けるように配置される。
【0019】
第1〜第3環状磁石(305、307、309)が固定されたヨーク303には、バッキングプレート301が被せられる。バッキングプレート301は、図5に示すように円盤形状の部材であり、ターゲット40を載置するために使用される。また、第1〜第3環状磁石(305、307、309)が減磁するのを防ぐため、スパッタ時に生じる熱を有る程度遮断する。
【0020】
ターゲット40は、成膜材料から構成される部材であり、それぞれカソード電極30に載置される。ターゲット40は、例えば円盤状のチタン製のターゲットである。
【0021】
図6は、第1〜第3環状磁石(305、307、309)がターゲット40表面に発生させる漏洩磁界を示した図である。例えば、第1、第2環状磁石(305、307)がターゲット40に向ける極をS極とすると、第3環状磁石309はターゲット40にN極を向け、第1、第2環状磁石(305、307)と逆方向の磁界を発生させる。図6に示すように、バッキングプレート301上にターゲット40を載置した場合、バッキングプレート301表面では、ターゲット40を通過する第1〜第3環状磁石(305、307、309)の漏洩磁界が形成される。この漏洩磁界のうち、ターゲット40に対して垂直方向に発生する磁界の磁束密度は、図7に示すようにターゲット40の外縁部で最も大きくなる。また、ターゲット40に対して水平方向に発生する磁界の磁束密度の絶対値は、外縁部と中央部との境界で最も大きくなる。マグネトロンスパッタリングでは、磁束密度の高い箇所に高密度プラズマが収束するので、これらの垂直方向、水平方向の磁界の影響で、ターゲット40の外縁部が最も深く食刻される。
【0022】
図1に示す基板固定台50は、下部に基板60を保持し、真空チャンバー10の上部に固定される。基板60は、カソード電極30と平行、且つ対向する位置に設置される。
【0023】
基板60は、基板固定台50の下部に固定される。基板60には、マグネトロンスパッタにより、それぞれターゲット40から叩き出された粒子が堆積し、薄膜601が形成される。
【0024】
RF電源20は、真空チャンバー10自体を陽極、カソード電極30を陰極として、電圧を印加する高周波電源である。例えば、電波法で決められた工業バンドの周波数13.56MHzで最大出力300W の高周波電源を使用する。また、RF電源20と負荷とのインピーダンス整合をとるため、図示しないマッチング・ボックス(整合回路)を設けている。
【0025】
図1の制御部100は、マグネトロンスパッタ装置を制御する制御装置であり、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)103と、RAM(Random Access Memory)105とを備えて構成される。この制御部100は、給気機構11と、排気機構13と、RF電源20と、装置内の各種の機器とを制御する。
【0026】
CPU101は、ROM103に格納されたプログラムを読み出して繰り返し実行する。
【0027】
ROM103は、マグネトロンスパッタ装置の制御プログラム及び膜厚設定値Ts(nm)を格納する。膜厚設定値Ts(nm)は、基板60に成膜される膜厚の設定値である。
【0028】
RAM(Random Access Memory)105は、CPU101のワークエリアとして機能する。
【0029】
上記の構成により、マグネトロンスパッタ装置は、カソード電極30表面にターゲット40を載置し、ターゲット40に対向する基板固定台50に基板60を固定し、そして真空チャンバー10内部を所定の真空度まで排気する。続いてマグネトロンスパッタ装置は、Ar等の不活性ガスを真空チャンバー10内部に供給する。不活性ガスのガス圧は、例えば10−1Pa程度である。そして、マグネトロンスパッタ装置は、RF電源20を制御して、カソード電極30と真空チャンバー10との間に電圧を印加する。この電圧印加により、不活性ガスから高密度プラズマが形成され、この高密度プラズマは、カソード電極30の第1〜第3環状磁石(305、307、309)の形成する磁界によりターゲット40表面に収束する。収束した高密度プラズマにより、ターゲット40がスパッタされ、叩き出された粒子が基板60に堆積することにより薄膜601が形成される。
【0030】
次に、マグネトロンスパッタ装置の動作について詳細に説明する。マグネトロンスパッタ装置の電源がONされると、制御部100は、マグネトロンスパッタ装置の制御プログラムをROM103から読み出して実行する。この制御プログラムの中で、ターゲット40と基板60との準備ができたことに応答して、スパッタ処理を行うためのプログラムが読み出され、スパッタ処理が実行される。
【0031】
図8を参照して、スパッタ処理について説明する。図8は、本実施形態にかかるスパッタ処理のフローチャートを示した図である。まず、カソード電極30の表面にターゲット40を載置し、基板固定台50下部において、基板60をカソード電極30と対向する位置に取り付ける(ステップS1)。
【0032】
CPU101は、排気機構13の制御により、真空チャンバー10内部を排気する。そして、給気機構11を制御して、Ar等の不活性ガスを真空チャンバー10内に供給する(ステップS3)。
【0033】
CPU101は、RF電源20を制御することにより、陽極(真空チャンバー10)及び陰極(カソード電極30)に電圧を印加する(ステップS5)。この電圧の印加により、グロー放電が生じ、高密度プラズマが発生する。このとき、第1〜第3環状磁石(305、307、309)の形成する磁界に高密度プラズマが閉じこめられ、ターゲット40の表面に収束するので、高密度プラズマ中のArイオンの衝突により、ターゲット40の原子が叩き出される。叩き出されて飛散した原子は、基板60に堆積し、薄膜が形成される。
【0034】
ここで、カソード電極30表面の漏洩磁界は、図6に示したように、ターゲット40の外縁部付近に集中する。このため、エロージョンは、ターゲット40の外縁部に形成される。図9(a)は、カソード電極30でのスパッタ後のターゲット40の上面図であり、図9(b)は、ターゲット40の断面図である。図9(b)に示すように、ターゲット40の表面全体が食刻されるが、特に外縁部が最も深く食刻される。
【0035】
図8に戻り、続いて、CPU101は、ROM103から膜厚設定値Ts(nm)を読み出し、図示しない膜厚計により、基板60の膜厚を測定する。CPU101は、基板60の膜厚が膜厚設定値Ts(nm)以上であるか否かを判別する(ステップS7)。基板60の膜厚が膜厚設定値Ts(nm)以上でないと判別された場合(ステップS7:NO)、CPU101は、ステップS7に戻る。基板60の膜厚が膜厚設定値Ts(nm)以上であると判別された場合(ステップS7:YES)、CPU101は、基板60を図示しないロボット等の制御により、真空チャンバー10から取り出す(ステップS9)。ステップS9の後は、制御部100は、メインフローに戻る。
【0036】
上記の動作により、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置は、基板60に薄膜を形成させることができる。
【0037】
図7に示したように、ターゲット40に対して垂直方向の磁界と水平方向の磁界との作用により、図9(b)で示したように、ターゲット40は外縁部が最も深く食刻される。このため、図9(a)、(b)で示したように、従来の磁石装置よりエロージョンされる領域は大きくなり、ターゲット40の使用効率が高くなる。
【0038】
また、図6に示したように、本実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置では、ターゲット40の外縁部に磁束が集中するようにカソード電極30にそれぞれ3重に第1〜第3環状磁石(305、307、309)を配置している。磁石を強くして、成膜速度を速くしたい場合であっても、第1〜第3環状磁石(305、307、309)のそれぞれに磁石を追加すれば、図7で示した磁束密度のバランスを崩さずに磁界強度を増すことができる。このため、スパッタレートを容易に向上させることができる。
【0039】
例えば、本発明に係るスパッタ装置を使用する場合、ターゲット使用効率は40%となり、従来に比べ2倍となる。また、従来の半分の電源投入量で、ほぼ同程度のスパッタレートを得ることができる。
【0040】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るマグネトロンスパッタ装置について詳細に説明する。本実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置は、第1〜第3環状磁石305、307、309の代わりに第1〜第3環状磁石305a、307a、309aを備える他は、第1実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置1と同様の構成である。
【0041】
図10に本実施形態に係る第1〜第3環状磁石305a、307a、309aの配置図を示す。第1実施形態に係る第1〜第3環状磁石(305、307、309)がそれぞれ複数の永久磁石から構成されていたのに対し、本実施形態に係る第1〜第3環状磁石305a、307a、309aは、それぞれリング状の1つの永久磁石である。
【0042】
第2実施形態では、第1実施形態と比較して、磁界強度の調整は困難であるが、第1磁石装置より構造が単純で作成しやすい。
【0043】
(実施形態3)
次に、本発明の実施形態3に係るマグネトロンスパッタ装置について詳細に説明する。本実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置はバッキングプレート301に配設する成膜材料(ターゲット)を図2に示す構成とする他は、第1実施形態に係るマグネトロンスパッタ装置1と同様の構成である。
【0044】
図2に本実施形態に係るターゲット400a、400bの配置図を示す。図2(a)は、ターゲット400a、400bの上面図であり、図2(b)は、ターゲット400a、400bの断面図である。ターゲット400aとターゲット400bとは異種材料であり、それぞれ円盤状に形成され、同心状に積層される。ターゲット400bの径はターゲット400aの径よりも大きく、図2(b)に示す如く、基板60に対し、ターゲット400aの全面とターゲット400bの外縁部が露出する。これによりターゲット400aとターゲット400bを所望の組成比で基板60に堆積させようとするものである。
【0045】
従来の磁石装置では、ターゲットの中心寄りにプラズマが生成されるため、ターゲット400aが赤熱してターゲット400bがスパッタリングされず所望の薄膜組成が得られないという課題があったが、本実施形態によりプラズマを外縁部に集中させることで異種のターゲット400aとターゲット400bを同時に高速にスパッタリングすることができ、所望の薄膜組成を得ることが可能となった。
【0046】
上記実施形態ではカソード電極と基板を対向配置させたものを一対設けたが、カソード電極を複数備える構成としてもよい。カソード電極の全てに、本発明に係る磁石の配置を行う必要はなく、いくつかは他の構成であっても良い。
【0047】
また、基板公転機構を設けて成膜時にターゲット直上で基板が回転する構成としてもよい。或いは、基板自公転機構、基板搬送機構等を設け、基板がターゲット直上を通過したときにのみ成膜する構成としてもよい。
【0048】
磁石は永久磁石に限らず、電磁石であっても良い。また、磁石の配置は環状に限らず、長方形など別の形状でも良い。
また、電源にはRF電源を用いたが、DC電源を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】実施形態1に係るマグネトロンスパッタ装置の構成図である。
【図2】(a)実施形態3に係るターゲットの上面図である。(b)実施形態3に係るターゲットの断面図である。
【図3】実施形態1に係るカソード電極の断面図である。
【図4】実施形態1に係る第1、第2、第3環状磁石の配置図である。
【図5】実施形態1に係るカソード電極の上面図である。
【図6】実施形態1に係るターゲット表面に発生する漏洩磁界を示した図である。
【図7】実施形態1に係るターゲット表面に発生する漏洩磁界の磁束密度を示したグラフである。
【図8】実施形態1に係るスパッタ処理のフローチャートである。
【図9】(a)実施形態1に係るスパッタ後のターゲットの上面図である。(b)実施形態1に係るスパッタ後のターゲットの断面図である。
【図10】実施形態2に係る第1、第2、第3環状磁石の配置図である。
【符号の説明】
【0050】
10 真空チャンバー
11 給気機構
13 排気機構
20 RF電源
30 カソード電極
301 バッキングプレート
303 ヨーク
305 第1環状磁石
307 第2環状磁石
309 第3環状磁石
40、400a、400b ターゲット
50 基板固定台
60 基板
601 薄膜
100 制御部
103 ROM
105 RAM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜室内に不活性ガスを供給する供給手段と、
前記成膜室内に配置され、成膜材料からなるターゲットが表面に載置されるカソード電極と、
前記カソード電極の表面と対向するように前記成膜室内に基板を保持する保持手段と、
前記カソード電極の裏面の中央部に環状に配置し、前記ターゲットに対してN極又はS極のいずれか一方の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第1の磁界発生手段と、
前記第1の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第1の磁界発生手段と同一の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第2の磁界発生手段と、
前記第2の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第2の磁界発生手段と異なる磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第3の磁界発生手段と、
前記カソード電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
を備えることを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記第1の磁界発生手段と前記第2の磁界発生手段と前記第3の磁界発生手段とにより発生した、前記ターゲットに対して水平方向の磁界の磁束密度の絶対値が、前記ターゲットの中央部と外縁部との間で最も大きくなり、
前記第1の磁界発生手段と前記第2の磁界発生手段と前記第3の磁界発生手段とにより発生した、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界の磁束密度が、前記ターゲットの外縁部で最も大きくなる、
ことを特徴とする請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
カソード電極の表面と対向するように成膜室内に基板を保持する保持手段と、
前記カソード電極の裏面の中央部に環状に配置し、ターゲットに対していずれか一方の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第1の磁界発生手段と、
前記第1の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第1の磁界発生手段と同一の磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第2の磁界発生手段と、
前記第2の磁界発生手段の外周に環状に配置し、前記ターゲットに対して前記第2の磁界発生手段と異なる磁極を向けて、前記ターゲットに対して垂直方向の磁界を発生させる第3の磁界発生手段と、
を備えるスパッタリング装置におけるスパッタ方法であって、
前記カソード電極の表面と対向するように前記成膜室内に基板を保持する保持ステップと、
前記成膜室内に不活性ガスを供給する供給ステップと、
前記カソード電極に電圧を印加し、前記供給ステップで供給された前記不活性ガスからプラズマを生成させるプラズマ発生ステップと、
前記プラズマ発生ステップで発生したプラズマを前記第1の磁界発生手段と前記第2の磁界発生手段と前記第3の磁界発生手段とにより発生した磁界により前記ターゲット表面に収束し、収束された高密度プラズマにより前記ターゲットから叩き出された粒子を前記基板に堆積させることで成膜する成膜ステップと、
を備えることを特徴とするスパッタ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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