説明

スパッタ装置

【課題】ガラス基板とターゲットとを一定間隔おいて対向して配設され、ターゲット近傍にガス噴出口を有するガス導入部が設けられたスパッタ装置を用い、透明導電膜を形成しても、透明導電膜の抵抗値の分布のばらつきを低減するスパッタ装置を提供する。
【解決手段】ガラス基板2を保持する基板キャリア10は、その枠部14の内側面には多数のO2 ガス噴出口12を有し、枠部の内部にはO2 ガス噴出口にO2 ガスを供給するO2 ガス供給経路11を有し、枠部の外側面にはO2 ガス供給機構20を備え、該O2 ガス供給機構は、O2 ガスをO2 ガス噴出口から基板キャリアに保持されたガラス基板の周縁部に向けて噴出させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電膜を形成するスパッタ装置に関するものであり、特に、透明導電膜の抵抗値の分布のばらつきを低減することのできるスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、ガラス基板に薄膜を形成するスパッタ装置の一例における断面の概略図である。図1に示すように、真空容器(1)内にはガラス基板(2)とターゲット(3)とが一定間隔をおいて対向して配設されている。ターゲット(3)は、例えば、In−Sn合金でできており、陰極になっている。ガラス基板(2)とターゲット(3)との間のターゲット近傍には、多数のガス噴出口(図示せず)を有するガス導入部(4)が設けられている。
【0003】
ガス導入部(4)のガス噴出口からは反応性ガスであるO2 ガスと不活性であるArガスとが真空容器(1)内に噴出できるようになっている。ガス導入部(4)には真空容器(1)外のガス導入装置(図示せず)が結線され、真空容器(1)の電位がターゲット(3)の電位より正になっている。
【0004】
真空容器(1)内のガスを排出口(5)から排出しながら、所定の流量のO2 ガスとArガスとをガス導入部(4)のガス噴出口から真空容器(1)内に噴出させ、真空容器(1)内のガス圧力を一定にした状態で、ガラス基板(2)とターゲット(3)との間の空間にグロー放電によってプラズマを発生させると、プラズマ中のAr正イオンが陰極であるターゲット(3)に衝突し、ターゲット(3)がスパッタリングされ、ターゲット(3)の構成物質がはじきだされてガラス基板(2)に付着し、ガラス基板(2)に薄膜が形成されるようになる。ガラス基板(2)に付着するターゲット(3)の構成物質は、O2 ガスと反応した金属酸化物であるインジウム・スズ酸化物(ITO)になる。このITO膜は、透明導電膜として広く用いられている金属酸化物である。
【0005】
ところが、ガラス基板(2)に形成される透明導電膜の抵抗値の分布状態は、ガラス基板(2)表面におけるO2 ガスの分布に大きく影響される。真空容器(1)内のガスは排出口(5)から常に排出されているために、ガラス基板(2)とターゲット(3)との間のターゲット近傍にあるガス噴出口から噴出されたO2 ガスは、真空容器(1)内の壁面側に向かって引かれていくので、ガラス基板(2)とターゲット(3)との間のO2 ガスは均一に分布されない状態になっている。
【0006】
従って、真空容器(1)内のターゲット(3)中央付近から、真空容器(1)内の壁面側にO2 ガスが引かれていくことを考慮して、ガラス基板(2)表面にいきわたるのに必要な量以上のO2 ガスをガス噴出口から噴出している。しかし、真空容器(1)内の壁面側、すなわち、ガラス基板(2)の周縁部においては、中央部に比べてO2 ガスが少ない状態であり、結果として、抵抗値の分布にばらつきが発生することになる。
【特許文献1】特開昭64−4473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、真空容器内にガラス基板とターゲットとを一定間隔おいて対向して配設され、ガラス基板とターゲットとの間のターゲット近傍に多数のガス噴出口を有するガス導入部が設けられたスパッタ装置を用い、
ガラス基板表面に透明導電膜を形成しても、透明導電膜の抵抗値の分布のばらつきを低減することのできるスパッタ装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、真空容器内にガラス基板と陰極であるターゲットとを一定間隔おいて対向して配設し、ガラス基板とターゲットとの間のターゲット近傍にガス導入部を設け、ガス導入部のガス噴出口より真空容器内にガスを噴出させ、ガラス基板とターゲットとの間に発生するプラズマ中の正イオンによってターゲットをスパッタリングしてガラス基板に薄膜を形成するスパッタ装置において、
1)前記ガラス基板を保持する基板キャリアは、その枠部の内側面には多数のO2 ガス噴出口を有し、枠部の内部には該O2 ガス噴出口にO2 ガスを供給するO2 ガス供給経路を有し、枠部の外側面にはO2 ガス供給機構を備え、
2)該O2 ガス供給機構は、O2 ガスをO2 ガス供給経路を経て、O2 ガス噴出口より基板キャリアに保持されたガラス基板の周縁部から中央部に向けて噴出させることを特徴とするスパッタ装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ガラス基板を保持する基板キャリアは、その枠部の内側面には多数のO2 ガス噴出口を有し、枠部の内部にはO2 ガス噴出口にO2 ガスを供給するO2 ガス供給経路を有し、枠部の外側面にはO2 ガス供給機構を備え、このO2 ガス供給機構は、O2 ガスをO2 ガス供給経路を経て、O2 ガス噴出口より基板キャリアに保持されたガラス基板の周縁部から中央部に向けて噴出させることがきるので、真空容器内にガラス基板とターゲットとを一定間隔おいて対向して配設され、ガラス基板とターゲットとの間のターゲット近傍に多数のガス噴出口を有するガス導入部が設けられたスパッタ装置を用い、ガラス基板表面に透明導電膜を形成しても、透明導電膜の抵抗値の分布のばらつきを低減することのできるスパッタ装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図2は、本発明における基板キャリアの一例を示す平面図である。図3は、図2のX−X線での拡大した断面図である。図2及び図3に示すように、ガラス基板を保持する基板キャリア(10)は、平面形状が矩形の枠状のものである。
基板キャリア(10)の枠部(14)の内側の4面には多数のO2 ガス噴出口(12)を有し、枠部(14)の内部にはO2 ガス噴出口(12)にO2 ガスを供給するO2 ガス供給経路(11)を有し、また、枠部(14)の外側面にはO2 ガス供給機構(20)を備えている。
【0011】
2 ガス供給機構(20)は、O2 ガス供給経路(11)に接続されており、O2 ガス供給機構(20)は、O2 ガスをO2 ガス供給経路(11)を経て、O2 ガス噴出口(12)より基板キャリアに保持されたガラス基板(2)の周縁部から中央部に向けて噴出させるこのができるようになっている。このO2 ガス供給機構(20)には、透明導電膜が直接に付着しないようにカバーが設けられている。
【0012】
図4は、本発明によるスパッタ装置の一例における断面の概略図である。図4は、図1に示すスパッタ装置に、本発明における基板キャリア(10)を設けたものである。図4に示すように、真空容器(1)内にはガラス基板(2)とターゲット(3)とが一定間隔をおいて対向して配設されている。ガラス基板(2)は、基板キャリア(10)に保持されている。
【0013】
ターゲット(3)は、In−Sn合金でできており、陰極になっている。ガラス基板(2)とターゲット(3)との間のターゲット近傍には、多数のガス噴出口を有するガス導入部(4)が設けられている。ガス導入部(4)のガス噴出口からは反応性ガスであるO2 ガスと不活性であるArガスとが真空容器(1)内に噴出できるようになっている。
【0014】
さて、真空容器(1)内のガスを排出口(5)から排出しながら、所定の流量のO2 ガスとArガスとをガス導入部(4)のガス噴出口から真空容器(1)内に噴出させると、ガラス基板(2)とターゲット(3)との間のターゲット近傍にあるガス噴出口から噴出されたO2 ガスは、真空容器(1)内の壁面側に向かって引かれていくので、ガラス基板(2)とターゲット(3)との間のO2 ガスは均一に分布されない状態になる。
【0015】
しかし、本発明においては、ガラス基板(2)を保持する基板キャリア(10)の枠部(14)の内側4面に有する多数のO2 ガス噴出口(12)より、ガラス基板(2)の周縁部から中央部に向けて必要な量のO2 ガスを噴出させるので、ガラス基板(2)とターゲット(3)との間のO2 ガスの分布は均一なものへと近づく。
従って、ガラス基板(2)に形成される透明導電膜の抵抗値の分布のばらつきは低減されたものとなる。
【0016】
図5は、本発明によるスパッタ装置の他の例における断面の概略図である。図5に示すように、この真空容器(30)は、ローディング部(L)との間に仕切りバルブ(B1)が設けられ、アンローディング部(UL)との間に仕切りバルブ(B2)が設けられている。
【0017】
ローディング部(L)から搬送されたガラス基板を保持した基板キャリア(10)を、真空容器(30)内で基板キャリア(10)と、ターゲット(3)及び棒状電極(図示せず)とを一定間隔おいて対向させた状態で、ターゲット(3)の搬送速度(短い白矢印)を基板キャリア(10)の搬送速度(長い白矢印)より遅いものとし、ターゲット(3)と基板キャリア(10)をローディング部(L)方向のスパッタ開始位置(a)から、スパッタ中間位置(b)を経て、アンローディング部(UL)方向のスパッタ終了位置(c)に向かって同時に搬送させることにより、ガラス基板(2)とターゲット(3)の搬送方向の相対的な位置をスライドさせながら、ガラス基板(2)に透明導電膜を形成する。
【0018】
基板キャリア(10)に備えられたO2 ガス供給機構(20)は、基板キャリア(10)が真空容器(30)内に搬入されるとO2 ガスの供給を開始する。供給のタイミングは、例えば、真空容器(30)にセンサの発光部(図示せず)を設け、基板キャリア(10)にセンサの受光部(13)を設け、センサによってタイミングをとり必要量のO2 ガスの供給を開始する。同様に、真空容器(30)内から搬出される際にはO2 ガスの供給を終了する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ガラス基板に薄膜を形成するスパッタ装置の一例における断面の概略図である。
【図2】本発明における基板キャリアの一例を示す平面図である。
【図3】図2のX−X線での拡大した断面図である。
【図4】本発明によるスパッタ装置の一例における断面の概略図である。
【図5】本発明によるスパッタ装置の他の例における断面の概略図である。
【符号の説明】
【0020】
1・・・真空容器
2・・・ガラス基板
3・・・ターゲット
4・・・ガス導入部
5・・・排出口
10・・・基板キャリア
11・・・O2 ガス供給経路
12・・・O2 ガス噴出口
13・・・センサの受光部
14・・・基板キャリアの枠部
20・・・O2 ガス供給機構
30・・・本発明における真空容器
B1、B2・・・仕切りバルブ
L・・・ローディング部
UL・・・アンローディング部
a・・・スパッタ開始位置
b・・・スパッタ中間位置
c・・・スパッタ終了位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内にガラス基板と陰極であるターゲットとを一定間隔おいて対向して配設し、ガラス基板とターゲットとの間のターゲット近傍にガス導入部を設け、ガス導入部のガス噴出口より真空容器内にガスを噴出させ、ガラス基板とターゲットとの間に発生するプラズマ中の正イオンによってターゲットをスパッタリングしてガラス基板に薄膜を形成するスパッタ装置において、
1)前記ガラス基板を保持する基板キャリアは、その枠部の内側面には多数のO2 ガス噴出口を有し、枠部の内部には該O2 ガス噴出口にO2 ガスを供給するO2 ガス供給経路を有し、枠部の外側面にはO2 ガス供給機構を備え、
2)該O2 ガス供給機構は、O2 ガスをO2 ガス供給経路を経て、O2 ガス噴出口より基板キャリアに保持されたガラス基板の周縁部から中央部に向けて噴出させることを特徴とするスパッタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−127108(P2009−127108A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305504(P2007−305504)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】