説明

スパッタ装置

【課題】酸化マグネシウム膜の面内均一性を高めることの可能なスパッタ装置を提供することにある。
【解決手段】ターゲット表面12aに対して基板表面Saを平行に配置する基板ステージ11と、ターゲット表面12aに漏洩磁場を形成する磁気回路と、を有し、ターゲット表面12aにて法線方向の漏洩磁場が無い部位をエロージョン部位12eとし、基板表面Saの中心とエロージョン部位12eとを結ぶ線を第1の直線L1とし、基板表面Saの中心から該基板の径方向に延びる直線を第2の直線L2とすると、ターゲット表面12aの中心とエロージョン部位12eとの距離が基板半径R1より大きく、第1の直線L1と第2の直線L2とのなす角度が43.5°以上、54.5°以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、スパッタ装置、特にターゲットからスパッタされる酸化マグネシウムの粒子を基板上に堆積するスパッタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、特許文献1に記載のように、トンネル磁気抵抗素子の高出力化を図る技術として、トンネル絶縁膜に酸化マグネシウムを用いることが広く検討されている。また、こうした酸化マグネシウム膜を含め、極めて小さい膜厚が求められるトンネル絶縁膜の形成方法には、下記二つの方法が鋭意研究されている。
(方法1)トンネル絶縁膜の材料である酸化物を基板上に直接堆積する方法。
(方法2)トンネル絶縁膜の構成元素である金属を基板上に堆積した後、該金属膜を酸化する方法。
【0003】
例えば、特許文献2に記載の技術には、マイクロ波で励起されたアルゴンガスによって酸化マグネシウムからなるターゲットをスパッタするECRスパッタ法が、上記方法1の一例として開示されている。これに対し、特許文献3に記載の技術には、スパッタ法により形成されたマグネシウム膜をラジカル酸化により酸化する方法が、上記方法2の一例として開示されている。
【0004】
また、特許文献4に記載の技術には、上記方法1の一例であるRFスパッタ法や反応性スパッタ法と、方法2の一例である自然酸化プロセスとが開示されている。そして、方法1による素子抵抗値RAの面内均一性が10%(1σ)を越えてしまう一方、方法2による素子抵抗値RAの面内均一性が3%未満(1σ)であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表特許WO2005/088745号公報
【特許文献2】特開2001−134930号公報
【特許文献3】特開2007−173843号公報
【特許文献4】特開2007−142424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、トンネル磁気抵抗素子の素子抵抗値RAとトンネル絶縁膜の膜厚Tとの関係は、一般に、RA=αeβT(α,βは定数)によって示される。こうした素子抵抗値RAと膜厚Tとの関係から認められるように、素子抵抗値RAの面内均一性を確保するうえでは、トンネル絶縁膜の膜厚Tに対して非常に高い面内均一性が求められることとなる。
【0007】
この点、上述した方法2によれば、酸化マグネシウム膜の形成される工程が、マグネシウム膜の形成と該マグネシウム膜の酸化とに分割されるため、膜厚Tと酸素濃度とを同時に調整する必要がある方法1と比べて、膜厚Tの面内均一性を確保することが容易なこととなる。そのため、上記特許文献4に開示されるように、方法2による素子抵抗値RAの面内均一性は、確かに、方法1による面内均一性よりも優れているのが現状であって、方法1による素子抵抗値RAの面内均一性は、トンネル磁気抵抗素子が量産されることに足る程度に至らないものとなっている。
【0008】
一方、マグネシウム膜の形成工程と該マグネシウム膜の酸化工程とが必要とされる方法2とは、これらが同時に進行する方法1に比べて、トンネル磁気抵抗素子の製造上、生産能力が低くなったり生産管理が煩雑になったりするという回避し難い問題を有している。それゆえに、トンネル磁気抵抗素子の量産化を図る技術の分野では、上述した方法1において素子抵抗値RAの面内均一性を高めること、すなわち酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性を高める技術が切望されている。
上述した実情を鑑みてなされた本開示の技術は、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性を高めることの可能なスパッタ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のスパッタ装置の一態様は、酸化マグネシウムのターゲットをスパッタするスパッタ装置であって、ターゲット表面に対して基板表面を平行に配置するステージと、前記ターゲット表面に漏洩磁場を形成する磁気回路と、を有し、前記ターゲット表面にて前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部位をエロージョン部位とし、前記基板表面の中心と前記エロージョン部位とを結ぶ線を第1の直線とし、前記基板表面の中心から該基板の径方向に延びる直線を第2の直線とすると、前記ターゲット表面の中心と前記エロージョン部位との距離が基板半径より大きく、前記第1の直線と前記第2の直線とのなす角度が43.5°以上、54.5°以下である。
【0010】
ターゲット表面から放出される粒子の進行方向と該ターゲット表面の法線方向とのなす角度を粒子の放出角度とすると、本発明者らの実測によれば、酸化マグネシウムのターゲットから粒子が放出される頻度である放出頻度とは、放出角度が25°であるときに最大となる。そして、放出角度が25°よりも小さい範囲では、放出角度が小さくなるに従って、放出頻度の減少の度合いが大きくなる。また、放出角度が25°よりも大きい範囲では、放出角度が大きくなるに従って、放出頻度の減少の度合いが大きくなる。
【0011】
これに対し、従前のターゲットから放出される粒子の放出角度分布とは、一般に、放出角度が例えば90°であるときに粒子の放出頻度が最大になる、いわゆるコサイン則に従うものと考えられている。そのため、本発明者らは、酸化マグネシウムのターゲットに固有のこうした放出角度分布を、従前のスパッタ装置にて膜厚の面内均一性が得られ難い一因として特定した。そして、酸化マグネシウムに固有の放出角度分布に基づき、ターゲット表面の中心とエロージョン部位との距離が基板半径より大きく、且つ第1の直線と前記第2の直線とのなす角度が43.5°以上、54.5°以下であれば、膜厚の面内均一性が2%(1σ)以下であることが見出された。
【0012】
この点、本開示のスパッタ装置の一態様では、ターゲット表面の中心と前記エロージョン部位との距離が基板半径より大きく、且つ第1の直線と第2の直線とのなす角度が43.5°以上、54.5°以下である。それゆえに、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性を高めることが可能であって、特に2%(1σ)以下という量産性に適した面内均一性で酸化マグネシウム膜を形成することが可能となる。
【0013】
本開示のスパッタ装置の別の態様は、上記態様において、前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が幅を有し、前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分のうち前記ターゲット表面の中心に最も近い部位を前記エロージョン部位とする。
【0014】
漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が幅を有する場合、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性が、こうした幅の大きさに応じて変わることも少なくない。例えば、漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が幅を有し、且つこうした部分のうちターゲット表面の中心から最も遠い部位がエロージョン部位となる場合、エロージョン部位の他、該エロージョン部位よりもターゲット表面の中心に近い部位においても酸化マグネシウムの粒子が同等に放出されることとなる。そして、ターゲット表面のうちでエロージョン部位以外の部位から酸化マグネシウムが放出されて、こうした酸化マグネシウムが基板表面に到達する結果、上述した効果が低減されてしまう場合もある。
【0015】
この点、本開示のスパッタ装置の別の態様によれば、漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が幅を有する場合には、ターゲット表面の中心に最も近い部位がエロージョン部位として定められる。それゆえに、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性が、こうした幅の大きさに応じて変わることを抑えることが可能にもなる。
【0016】
本開示のスパッタ装置の別の態様は、上記態様において、前記エロージョン部位から放出された粒子が前記基板表面に到達するまでに該粒子が他の粒子と衝突しない圧力まで前記ターゲット表面と前記基板表面との間を排気する排気部を有する。
【0017】
エロージョン部位から放出された粒子がターゲット表面と基板表面との間で他の粒子と衝突する場合、該放出された粒子が基板表面に到達する前に、該放出された粒子の進行方向が変わってしまうことも少なくない。そのため、こうした粒子同士の衝突する機会が増えることになれば、上述した効果が低減されてしまうことにもなる。
【0018】
この点、本開示のスパッタ装置の別の態様によれば、エロージョン部位から放出された粒子が基板表面に到達するまでに、該粒子と他の粒子とが衝突しない圧力にまで、ターゲット表面と基板表面との間が減圧される。それゆえに、エロージョン部位から放出された粒子がターゲット表面と基板表面との間で他の粒子と衝突する場合と比べて、上述した効果を高めることが可能でもある。
【0019】
本開示のスパッタ装置の一態様は、前記ターゲット表面にて前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が、前記ターゲット表面の中心を囲う環状である。
本開示のスパッタ装置の別の態様によれば、漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が環状でない場合と比べて、基板表面の中心を囲う環状の部位では、該部位とエロージョン部位との相対的な関係が互いに保たれやすくなる。そのため、基板表面に形成される酸化マグネシウム膜の膜厚均一性が高められるという上述した効果が、基板表面の中心を囲う環状の部位において、さらに顕著なものとなる。
【0020】
本開示のスパッタ装置の一態様は、上記態様において、前記ターゲット表面にて前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分の形状が、前記基板の外周部と相似形である。
本開示のスパッタ装置の別の態様によれば、漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分の形状が基板の外周部と相似形であるため、基板の周方向における各部位にて、該部位とエロージョン部位との相対的な関係が互いに保たれやすくなる。そのため、基板表面に形成される酸化マグネシウム膜の膜厚均一性が高められるという上述した効果が、基板の周方向において、さらに顕著なものとなる。
【0021】
本開示のスパッタ装置の一態様は、上記態様において、前記磁気回路が、前記ターゲット表面の中心で前記漏洩磁場を回転する。
本開示のスパッタ装置の別の態様によれば、ターゲット表面の中心を回転中心としてエロージョン部位が回転することになるため、基板の周方向における各部位にて、該部位とエロージョン部位との相対的な関係が互いに保たれやすくなる。そのため、基板表面に形成される酸化マグネシウム膜の膜厚均一性が高められるという上述した効果が、さらに顕著なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本開示におけるスパッタ装置の一実施形態の構成を示す全体構成図。
【図2】ターゲット表面におけるエロージョン部位を示すターゲット表面の平面図。
【図3】ターゲット表面におけるエロージョン部位を示すターゲットの断面図であって、図2のA−A線断面図。
【図4】基板表面とターゲット表面との位置関係を基板ステージの配置とターゲットの配置に基づいて示す配置構成図。
【図5】酸化マグネシウムの放出頻度を放出角度ごとに示す放出角度分布図。
【図6】アルミニウムの放出頻度を放出角度ごとに示す放出角度分布図。
【図7】酸化マグネシウム膜の膜厚を数値計算で求める際の方式を示す概念図。
【図8】酸化マグネシウム膜における膜厚の面内均一性の数値計算結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示におけるスパッタ装置を具体化した一実施形態について図1〜図6を参照して説明する。まず、スパッタ装置の全体構成について図1及び図2を参照して説明する。
【0024】
図1に示されるように、円板状の基板Sが載置される基板ステージ11の上方には、基板ステージ11の載置面11aとターゲット表面12aとが互いに平行となるように、円板状をなす酸化マグネシウムのターゲット12が配設されている。基板ステージ11とターゲット12とは、載置面11aの中心である基板中心Scとターゲット表面12aの中心であるターゲット中心12cとが同一の直線上に並ぶように配置されている。なお、ターゲット12の半径であるターゲット径R2は、基板Sの半径である基板半径R1よりも大きい。
【0025】
ターゲット12におけるターゲット表面12aとは反対側の面には、高周波電源13に接続されたバッキングプレート14が連結され、該バッキングプレート14の上方には、ターゲット表面12a及びその下方に漏洩磁場を形成する磁気回路15が搭載されている。磁気回路15の形成する漏洩磁場は、ターゲット表面12aの法線方向に沿う磁場成分である垂直磁場成分Bを含まない領域、すなわち漏洩磁場の法線方向の成分が「0」の部分を有する。また、こうした垂直磁場成分Bの無い部位を結ぶ線は、ターゲット表面12aにおいてターゲット中心12cを囲む楕円形状を呈している。また、磁気回路15には、基板中心Scとターゲット中心12cとを通る回転軸を中心に、磁気回路15を回転する回転機構16が連結されている。なお、基板ステージ11とターゲット12との間には、基板Sの表面である基板表面Saとターゲット表面12aとの間を所定の圧力まで排気する排気部17が接続されている。
【0026】
そして、ターゲット12がスパッタされる際には、まず、基板ステージ11とターゲット12との間にアルゴンガスなどのスパッタガスが供給されつつ、基板ステージ11とターゲット12との間が排気部17によって所定の圧力まで減圧される。次いで、バッキングプレート14に高周波電源13からの高周波電力が供給されることにより、スパッタガスからプラズマが生成され、該プラズマ中の正イオンがターゲット表面12aに向けて引き込まれる。これによって、ターゲット表面12aから酸化マグネシウムの粒子が放出され、該粒子が基板表面Saに堆積することとなる。
【0027】
この際、ターゲット表面12aの下方におけるプラズマの密度は、図2に示されるように、垂直磁場成分Bの無い部分を結んだ楕円形状の零磁場ラインLB0で最も高くなる。そして、零磁場ラインLB0がターゲット中心12cで回転することから、ターゲット表面12aにおいては、垂直磁場成分Bの無い部分と互いに対向する部分である円環状のエロージョン領域12Sでスパッタが進行し、該エロージョン領域12Sに窪みが形成される。
【0028】
なお、垂直磁場成分Bの無い領域がターゲット表面12aの径方向に幅を有する場合、エロージョン領域12Sも同じく径方向に幅を有することになる。例えば、上述したように、回転機構16の駆動によって磁気回路15が回転するため、垂直磁場成分Bの無い領域もターゲット中心12cを回転中心として回転する。そして、ターゲット表面12aにおいて垂直磁場成分Bの無い部分が楕円形状を呈し、こうした楕円形状の部分が回転することになるため、エロージョン領域12Sは、同楕円形状の長径と短径との差分に相当する幅であるエロージョン幅Wを有することになる。以下、図3に示されるように、垂直磁場成分Bの無い部分でターゲット中心12cに最も近い部位、すなわちエロージョン領域12Sのうちでターゲット中心12cに最も近い部位を、エロージョン部位12eとする。
【0029】
次に、基板表面Saとターゲット表面12aとの位置関係に関して、ステージ中心11c、ターゲット中心12c、及びエロージョン部位12eを用い、図3〜図7を参照して以下に説明する。なお、以下では、基板中心Scとエロージョン部位12eとを結ぶ線を第1の直線L1とし、基板中心Scから該基板Sの径方向に延びる直線を第2の直線L2とする。また、ターゲット中心12cとエロージョン部位12eとの距離をエロージョン径R3とし、第1の直線L1と第2の直線L2とのなす角度を成膜角度θdとする。
【0030】
図3に示されるように、基板ステージ11とターゲット12とは、所定の距離であるTS間距離Hだけ互いに離れ、且つステージ中心11c、基板中心Sc、及びターゲット中心12cが同一の直線上に並ぶように配置されている。また、基板ステージ11とターゲット12とは、TS間距離H、エロージョン径R3、及び成膜角度θdが下記条件1及び条件2を満たすように配置されている。
(条件1)エロージョン径R3>基板半径R1
(条件2)54.5°≧θd≧43.5°
【0031】
次に、上述した条件1及び条件2の詳細について図5〜図8を参照して以下に説明する。まず、条件1及び条件2の前提となる酸化マグネシウムの放出角度分布について図5及び図6を参照して説明する。
【0032】
図5は、先に説明されたエロージョン部位12eを原点とする極座標系で酸化マグネシウムの放出角度分布を示す放出頻度分布図である。なお、図5では、極座標上の点とエロージョン部位12eとの距離である動径が放出頻度を示し、極座標上の点とエロージョン部位12eとを結ぶ直線とターゲット表面12aとのなす角度である偏角が放出角度θを示す。また、図6は、アルミニウムのターゲットにおけるエロージョン部位12Kから放出されるアルミニウムの放出角度分布を極座標系で示す放出頻度分布図である。なお、図6においても、極座標上の点とエロージョン部位12Kとの距離である動径が放出頻度Fを示し、極座標上の点とエロージョン部位12Kとを結ぶ直線とターゲット表面とのなす角度である偏角が放出角度θを示す。ちなみに、図5及び図6に示される放出角度分布は、基板S上における膜厚分布の実測値から得られるものであって、例えば、互いに異なるTS間距離Hに配置された基板Sの各々における膜厚の分布から得られる。
【0033】
図5に示されるように、酸化マグネシウムの放出頻度の分布を示す分布曲線20では、放出頻度Fの最も高い放出角度θが25°である。そして、放出角度θが25°よりも小さい範囲では、放出角度θが小さくなるに従って、放出頻度Fの減少の度合いが大きくなる。また、放出角度θが25°よりも大きい範囲では、放出角度が大きくなるに従って、放出頻度Fの減少の度合いが大きくなる。これに対し、図6に示されるように、アルミニウムの放出頻度の分布を示す分布曲線21では、放出頻度Fの最も高い放出角度θが90°であって、放出頻度Fと放出角度θとの関係が、一般的なコサイン則、すなわちF=cos(90−θ)(nは1以上の整数)で与えられる。
【0034】
本発明者らは、酸化マグネシウムのターゲット12に固有のこうした放出角度分布を、従前のスパッタ装置にて膜厚の面内均一性が得られ難い一因として特定した。そして、酸化マグネシウムに固有の放出角度分布を用いた面内膜厚均一性の数値計算と実測とに基づき、エロージョン径R3が基板半径R1よりも大きく、且つ成膜角度θdが43.5°以上、54.5°以下であれば、2%(1σ)以下の膜厚面内均一性を得られることが見出された。
【0035】
次に、上記面内膜厚均一性の数値計算の方式とその数値計算結果について図7及び図8を参照して以下に説明する。なお、図7では、基板S上の任意の点である着弾点Spにおける膜厚の数値計算の方式を示す。
【0036】
図7に示されるように、エロージョン部位12eにおける任意の点であるエロージョン点12と基板S上の任意の点である着弾点Spとを結ぶ直線を飛行経路Lとし、該飛行経路Lとターゲット表面12aとのなす角度を飛行角度θとする。ここで、エロージョン点12から放出された酸化マグネシウムの粒子12Dは、エロージョン点12と着弾点Spとの間で粒子12Dが散乱されない限り、上記放出角度θを飛行角度θとした放出頻度Fで到達する。この際、一つの着弾点Spに対しては、他のエロージョン点12n+1からも、該エロージョン点12n+1の位置に応じた放出頻度Fn+1で酸化マグネシウムの粒子12Dが到達する。そのため、一つの着弾点Spにおける膜厚は、全てのエロージョン点12nの各々における上記放出頻度Fnの積算値に相当する。そして、基板Sの面内膜厚均一性は、基板S上の全ての着弾点Spの各々における膜厚の数値計算結果から得られることになる。このような数値計算から得られた面内膜厚均一性と上記エロージョン径R3及びTS間距離Hとの関係について図8に示す。なお、図8における縦軸及び横軸は、それぞれ基板半径R1によって規格化されたTS間距離H及びエロージョン径R3である。
【0037】
図8に示されるように、基板半径R1に対するエロージョン径R3が1.0より大きく、且つ縦軸とのなす角度が第1の境界角度θd1(=43.5°)である境界線L3と、縦軸とのなす角度が第2の境界角度θd2(=54.5°)である境界線L4との間でのみ、2%(1σ)以下の良好な面内均一性が認められる。
【0038】
ここで、基板半径R1に対するエロージョン径R3が1.0となる範囲とは、エロージョン径R3が基板半径R1よりも大きい範囲である。すなわち、上述した条件1である「エロージョン径R3>基板半径R1」が満たされる範囲である。
【0039】
また、図8における横軸とは、基板中心Scから該基板Sの径方向に延びる上述した第2の直線L2に相当する。また、図8における原点とは、エロージョン径R3が0、及びTS間距離Hが0となる点、すなわち基板中心Scに相当し、図8における各座標点とは、基板中心Scからエロージョン径R3だけ離れた点、すなわちエロージョン部位12eの直下に相当する。そのため、図8における各座標点と原点とを通る直線は、上述した第1の直線L1であり、上記境界線L3と横軸とがなす第1の境界角度θd1、及び上記境界線L4と横軸とがなす第2の境界角度θd2は、上述した成膜角度θdに相当する。それゆえに、境界線L3と境界線L4とに挟まれる範囲とは、上述した条件2である「54.5°≧θd≧43.5°」が満たされる範囲である。
次に、上述したスパッタ装置の作用について以下に説明する。
【0040】
まず、基板ステージ11とターゲット12との間にアルゴンガスなどのスパッタガスが供給され、ターゲット12から放出される粒子が基板Sに到達するまで他の粒子と衝突しない程度の圧力まで、基板ステージ11とターゲット12との間が排気部17によって減圧される。次いで、バッキングプレート14に高周波電源13からの高周波電力が供給されることにより、スパッタガスからプラズマが生成され、該プラズマ中の正イオンがターゲット表面12aに向けて引き込まれる。これによって、ターゲット表面12aから酸化マグネシウムの粒子が放出され、該粒子が基板表面Saに堆積することとなる。この際、上述したスパッタ装置では、上記条件1及び条件2の双方が満たされるように、基板ステージ11とターゲット12とが配置されている。それゆえに、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性を高めることが可能であって、特に2%(1σ)以下という量産性に適した面内均一性で酸化マグネシウム膜を形成することが可能となる。
[実施例]
【0041】
上述したスパッタ装置を用い下記複数の条件下で酸化マグネシウム膜を形成した。そして、複数の条件の各々から得られた酸化マグネシウム膜の面内膜厚均一性を計測した結果、図8に示される膜厚均一性と同等の結果が得られた。
・基板S:シリコン基板
・基板半径R1: 4インチ〜6インチ
・ターゲット12: 酸化マグネシウムターゲット
・ターゲット径R2: 6.5インチ〜9.5インチ
・TS間距離H: 18cm〜24cm
・エロージョン径R3:5.5インチ〜8.5インチ
・成膜圧力: 0.3Pa〜1.5Pa
以上説明したように、本実施形態によれば以下の効果が得られるようになる。
【0042】
(1)上記実施形態によれば、ターゲット中心12cとエロージョン部位との距離であるエロージョン径R3が基板半径R1より大きく、且つ第1の直線L1と第2の直線L2とのなす角度である成膜角度θdが43.5°以上、54.5°以下である。
【0043】
それゆえに、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性を高めることが可能であって、特に2%(1σ)以下という量産性に適した面内均一性で酸化マグネシウム膜を形成することが可能となる。
【0044】
(2)上述したように、磁気回路15の回転により、垂直磁場成分Bの無い部分がエロージョン幅Wを有する場合、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性が、こうしたエロージョン幅Wの大きさに応じて変わることも少なくない。例えば、垂直磁場成分Bの無い部分がエロージョン幅Wを有し、且つこうした部分のうちターゲット中心12cから最も遠い部位がエロージョン部位となる場合、エロージョン部位の他、該エロージョン部位よりもターゲット中心12cに近い部位においても酸化マグネシウムの粒子が同等に放出されることとなる。そして、ターゲット表面12aのうちでエロージョン部位以外の部位から酸化マグネシウムが放出されて、こうした酸化マグネシウムが基板表面Saに到達する結果、上述した(1)の効果が低減されてしまう場合もある。
【0045】
この点、上記実施形態によれば、図3に示されるように、垂直磁場成分Bの無い部分がエロージョン幅Wを有し、ターゲット中心12cに最も近い部位がエロージョン部位12eとして定められる。それゆえに、酸化マグネシウム膜の膜厚の面内均一性が、こうしたエロージョン幅Wの大きさに応じて変わることを抑えることが可能にもなる。
【0046】
(3)エロージョン部位12eから放出された粒子がターゲット表面12aと基板表面Saとの間で他の粒子と衝突する場合、該放出された粒子が基板表面Saに到達する前に、該放出された粒子の進行方向が変わってしまうことも少なくない。そのため、こうした粒子同士の衝突する機会が増えることになれば、上述した(1)(2)の効果が低減されてしまうことにもなる。
【0047】
この点、上記実施形態によれば、エロージョン部位12eから放出された粒子が基板表面Saに到達するまでに、該粒子と他の粒子とが衝突しない圧力にまで、ターゲット表面12aと基板表面Saとの間が減圧される。それゆえに、エロージョン部位12eから放出された粒子がターゲット表面12aと基板表面Saとの間で他の粒子と衝突する場合と比べて、上述した効果を高めることが可能でもある。
【0048】
(4)エロージョン領域12Sがターゲット中心12cを囲う環状であるから、こうしたエロージョン領域12Sが環状でない場合と比べて、基板中心Scを囲う環状の部位では、該部位とエロージョン部位12eとの相対的な関係が互いに保たれやすくなる。そのため、基板表面Saに形成される酸化マグネシウム膜の膜厚均一性が高められるという上述した効果が、基板中心Scを囲う環状の部位において、さらに顕著なものとなる。
【0049】
(5)エロージョン領域12Sの形状が、基板Sの外周部と相似形であるから、基板Sの周方向における各部位にて、該部位とエロージョン部位12eとの相対的な関係が互いに保たれやすくなる。そのため、基板表面Saに形成される酸化マグネシウム膜の膜厚均一性が高められるという上述した効果が、基板Sの周方向において、さらに顕著なものとなる。
【0050】
(6)磁気回路15がターゲット中心12cで回転する、すなわちターゲット中心12cを回転中心としてエロージョン部位12eが回転することになるため、基板Sの周方向における各部位にて、該部位とエロージョン部位12eとの相対的な関係が互いに保たれやすくなる。そのため、基板表面Saに形成される酸化マグネシウム膜の膜厚均一性が高められるという上述した効果が、さらに顕著なものとなる。
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することも可能である。
【0051】
・回転機構16が割愛されるとともに、ターゲット12と磁気回路15との相対的な位置が変わらない構成であってもよい。このような構成であっても、上述した条件1、及び条件2が満たされる構成であれば、上記(1)〜(5)に準じた効果を得ることは可能である。
【0052】
・エロージョン領域12Sは、楕円形状や多角形状をなす環状であってもよく、また開環された形状であってもよい。このような構成であっても、上述した条件1、及び条件2が満たされる構成であれば、上記(1)〜(3)、(6)に準じた効果を得ることは可能である。
【0053】
・ターゲット表面12aと基板表面Saとの間の圧力は、エロージョン部位12eから放出された粒子がターゲット表面12aと基板表面Saとの間で他の粒子と衝突する圧力であってもよい。このような構成であっても、基板Sに到達する粒子の頻度が上述した放出頻度に依存する以上、少なからず上記(1)、(2)に準じた効果を得ることは可能である。
【0054】
・エロージョン領域12Sがエロージョン幅Wを有する場合、例えば、ターゲット中心12cから最も遠い部位がエロージョン部位12eとして定められてもよい。このような構成であっても、基板Sに到達する粒子がエロージョン領域12Sから放出される以上、上述した条件1、及び条件2が満たされる構成であれば、少なからず上記(1)に準じた効果を得ることは可能である。
【0055】
・基板ステージ11は、該基板ステージ11に載置された基板Sの成膜中に、静止してもよく、あるいはステージ中心11cを通り基板Sの法線方向に沿う中心軸で回転してもよい。すなわち、上述したスパッタ装置における成膜の態様は、基板Sを静止させてもよく、あるいは基板中心Scを中心に基板Sを回転させてもよい。
【符号の説明】
【0056】
θ…放出角度、F,F…放出頻度、H…TS間距離、S…基板、T…膜厚、W…エロージョン幅、θd…成膜角度、θ…飛行角度、L1…第1の直線、L2…第2の直線、L3,L4…境界線、L…飛行経路、R1…基板半径、R2…ターゲット径、R3…エロージョン径、RA…素子抵抗値、Sa…基板表面、Sc…基板中心、Sp…着弾点、θd1…第1の境界角度、θd2…第2の境界角度、LB0…零磁場ライン、Fn+1…放出頻度、11…基板ステージ、11a…載置面、11c…ステージ中心、12…ターゲット、12a…ターゲット表面、12c…ターゲット中心、12D…粒子、12e,12K…エロージョン部位、12,12n+1…エロージョン点、12S…エロージョン領域、13…高周波電源、14…バッキングプレート、15…磁気回路、16…回転機構、17…排気部、20,21…分布曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウムのターゲットをスパッタするスパッタ装置であって、
ターゲット表面に対して基板表面を平行に配置するステージと、
前記ターゲット表面に漏洩磁場を形成する磁気回路と、を有し、
前記ターゲット表面にて前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部位をエロージョン部位とし、
前記基板表面の中心と前記エロージョン部位とを結ぶ線を第1の直線とし、
前記基板表面の中心から該基板の径方向に延びる直線を第2の直線とすると、
前記ターゲット表面の中心と前記エロージョン部位との距離が基板半径より大きく、
前記第1の直線と前記第2の直線とのなす角度が43.5°以上、54.5°以下である
ことを特徴とするスパッタ装置。
【請求項2】
前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が幅を有し、
前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分のうち前記ターゲット表面の中心に最も近い部位が前記エロージョン部位である
請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記エロージョン部位から放出された粒子が前記基板表面に到達するまでに該粒子が他の粒子と衝突しない圧力まで前記ターゲット表面と前記基板表面との間を排気する排気部を有する
請求項1又は2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
前記ターゲット表面にて前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分が、前記ターゲット表面の中心を囲う環状である
請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタ装置。
【請求項5】
前記ターゲット表面にて前記漏洩磁場の法線方向の成分が0の部分の形状が、前記基板の外周部と相似形である
請求項1〜4のいずれか一項に記載のスパッタ装置。
【請求項6】
前記磁気回路が、前記ターゲット表面の中心で前記漏洩磁場を回転する
請求項1〜5のいずれか一項に記載のスパッタ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate