説明

スパッツ

【課題】 本発明は、効率的に大腰筋を鍛えることができつつも、大腰筋に負荷をかけるのに不必要な範囲にまで高弾性部が設けられることに起因して着用感が損なわれることを防止することを課題とする。
【解決手段】 本発明に係るスパッツは、大腿部を持ち上げた際に臀部及び大腿後部における皮膚の伸張量が大きい部位に対応する背面の所定領域に、該所定領域以外の背面の領域及び少なくとも腹部及び大腿前部に対応する前面の領域よりも高さ方向の弾性率が高い高弾性部が設けられることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッツに関し、特に大腰筋を強化できるスパッツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、肌や下着等の人体の表面に密着させて使用される衣類であるスパッツがスポーツの場面や日常生活において使用されている。通常、これらは、着用時に筋肉運動を補助して運動能力を高めることや体型を矯正することを目的とするものである。
【0003】
これらのスパッツは、着用時におけるサポーターとして機能するものであって、非着用時を含めて恒久的な効果を意図したものではない。そこで、トレーニングの観点から、着用時に所定の筋肉に負荷をかけて筋肉運動を促進することにより、筋力の増強を図るスパッツなども提供されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
このスパッツによれば、図10に示すように、スパッツの前面及び背面の一部に高弾性部を設け、前面側の高弾性部40(図10(イ)参照)によって大臀筋を、背面側の高弾性部41(図10(ロ)参照)によって腸腰筋(一般に、大腰筋と腸骨筋とを併せて腸腰筋と呼ばれる)や大腿四頭筋を鍛えることができるとされている。
【特許文献1】特開2002−212814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の筋肉の中で、大腰筋は、背骨(腰椎)と大腿骨内側とをつなぐ筋であり、主として、大腿部を持ち上げることや上体を引き上げることに寄与するものである。そのため、近年スポーツ選手などの間でこの大腰筋をトレーニングにより鍛えることの重要性が認識されている。また、上記のような大腰筋の役割に付随して、背骨の自然なS字湾曲を形成すること(ひいては、姿勢を矯正すること)にも貢献することが一般人の間にも認識され始め、大腰筋を鍛えることは一般的な健康法としても注目されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のスパッツは、高弾性部がスパッツの前面及び背面に設けられているため、大腿部を持ち上げた際に、背面側の高弾性部41によって大腰筋に負荷をかけることができるものの、同時に前面側の高弾性部40によって大腰筋の筋肉運動が補助される状態となり、大腰筋にかけられる負荷が相殺されてしまうため、筋肉を鍛えるという観点からは、十分なトレーニング効果を期待できるものではない。
【0007】
また、前面側の高弾性部40及び背面側の高弾性部41は、それぞれスパッツの上端部(腰部)まで至るように配置されているため、腰の周囲には弾性率の低い部分と高い部分とが混在する状態となり、弾性率の違いによって腰の周囲でスパッツのごろ付きや波打ちが生じてしまい、着用感が良好でないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、効率的に大腰筋を鍛えることができつつも、大腰筋に負荷をかけるのに不必要な範囲にまで高弾性部が設けられることに起因して着用感が損なわれることを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ところで、筋肉を鍛えるには、筋肉を収縮させる際にこれを伸展させるように負荷をかけることが効果的である。スパッツにおいては、かかる負荷は、スパッツを構成する部材の弾性張力を利用して容易に発生させることができる。ここで、弾性張力は弾性率と伸張量との積により与えられる。従って、発生させる弾性張力を大きくするには、スパッツの弾性率を高くし伸張量を大きくすることが考えられる。また、大腰筋は大腿部を持ち上げる際に主に機能する筋肉であり、かかる動作を行う際に伸張する部位は臀部及び大腿後部である。
【0010】
そこで、発明者らは、スパッツに、臀部及び大腿後部の中でも特に皮膚の伸張量の大きな部位(以下、「高伸張領域」という)に対応させて高い弾性率を有する高弾性部を設ければ、大きな弾性張力を発生させることができ、大腰筋に効率よく負荷をかけることができるという考えに至った。
【0011】
即ち、本発明に係るスパッツは、大腿部を持ち上げた際に臀部及び大腿後部における皮膚の伸張量が大きい部位に対応する背面の所定領域に、該所定領域以外の背面の領域及び少なくとも腹部及び大腿前部に対応する前面の領域よりも高さ方向の弾性率が高い高弾性部が設けられることを特徴とする。
【0012】
あるいは、本発明に係るスパッツは、大腿部を持ち上げた際に臀部及び大腿後部における皮膚の伸張量が大きい部位に対応する背面の所定領域に、該所定領域以外の背面の領域及び前面よりも高さ方向の弾性率が高い高弾性部が設けられることを特徴とする。
【0013】
また、前記所定領域は、人体の臀溝に沿う線及び一対の臀部の頂点を結ぶ線の中間線と、各脚部の幅方向略中央位置を通って高さ方向に沿う一対の線とが交差してできる各交点を一端側として、高さ方向に沿って下方に延びる一対の脚部領域を含むことが好ましい。
【0014】
さらに、前記所定領域は、人体の臀溝に沿う線及び一対の臀部の頂点を結ぶ線の中間線と、各脚部の幅方向略中央位置を通って高さ方向に沿う一対の線とが交差してできる各交点を一端側として、人体の大転子に対応する位置に向かって斜め上方に延びる一対の側部領域を含むことがより好ましい。
【0015】
そして、前記所定領域は、人体の臀溝に沿う線及び一対の臀部の頂点を結ぶ線の中間線と、各脚部の幅方向略中央位置を通って高さ方向に沿う一対の線とが交差してできる各交点を一端側及び他端側として、幅方向に沿って延びる中央領域を含むことがさらに好ましい。
【0016】
上記構成からなるスパッツによれば、皮膚の伸張量が大きい領域に、高弾性部が設けられるため、発生する大きな弾性張力により大腰筋に負荷がかかって大腰筋が鍛えられるとともに、その他の部分は低弾性部となるため、必要以上にスパッツがずれることや皮膚が引っ張られることを防止することができる。
【0017】
なお、「高さ方向」とは、スパッツが前面又は背面において左右対称となる対称軸に沿う方向である。「大腿前部」とは、人体の大腿部の前面側を指し、「大腿後部」とは、人体の大腿部の背面側を指し、「臀溝」とは、人体の臀部と大腿後部との境界線を指し、「臀部の頂点」とは、人体の臀部を側面から見たときに最も後方に突出している点を指す。次に、「大転子」とは、大腿骨頚と大腿骨体との結合部の上外側にある隆起をいう。また、「幅方向」とは、前記高さ方向に直交する方向である。さらに、「上方」とは、スパッツの高さ方向における胴部側を指し、「下方」とは、スパッツの高さ方向における脚部側を指す。そして、「前面」とは、いわゆるスパッツの前身頃を指し、「背面」とは、いわゆるスパッツの後身頃を指す。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、効率的に大腰筋を鍛えることができつつも、大腰筋に負荷をかけるのに不必要な範囲には弾性率の高い高弾性部を設けることなく着用感を良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係るスパッツの実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施形態に係るスパッツは、図1に示すように、胴部1と一対の脚部2,2とを有し、胴部1は腰部の形状に合わせて上方ほど幅狭に形成され、一対の脚部2,2は大腿部の形状に合わせて下方ほど幅狭に形成される。
【0021】
そして、背面3において、人体の臀溝に沿う臀溝線X及び一対の臀部の頂点を結ぶ頂点線Yの中間に位置し幅方向に沿う中間線Zと、各脚部2,2の幅方向略中央位置を通って高さ方向に沿う一対の脚部中央線4,4とが交差してできる各交点6,6を一端側として、高さ方向に沿って下方に延びる一対の脚部領域7,7と、前記各交点6,6を一端側として、人体の大転子に対応する位置8に向かって斜め上方に延びる一対の側部領域9,9と、前記各交点6,6を一端側及び他端側として、幅方向に沿って延びる中央領域10とを備えて構成される領域11に、該領域以外の背面3における領域及び前面よりも高さ方向の弾性率が高い高弾性部が設けられている。以下、高弾性部が設けられるスパッツ上の領域を「高弾性領域」という。
【0022】
また、このスパッツは、縦方向と横方向の弾性率が異なる生地を用いて作られている。なお、以下、異方性を有する生地のうち、弾性率が高い方向を「高弾性方向」といい、弾性率が低い方向を「低弾性方向」という。
【0023】
前記高弾性領域11には、図2に示すように、低弾性方向Aが幅方向に沿い、高弾性方向Bが高さ方向に沿うように、即ち幅方向より高さ方向に弾性率が大きくなるように高弾性生地が配置される。具体的には、高さ方向の弾性率は幅方向の弾性率の約1.6倍(60%伸張時)である。これを実現するために、弾性生地が重ね合わせて使用され、例えばパワーネットと2WAYトリコットとが接合させて使用される。具体的には、パワーネットの高弾性方向と2WAYトリコットの高弾性方向とが直交するように配置され、パワーネットは2WAYトリコットの裏面に縫合される。なお、図2における矢印の太さは、弾性率の高低を表す。
【0024】
また、スパッツの背面3は、前記高弾性領域11によって、臀部上方領域12と、一対の脚側部領域13,13と、脚股部領域14の四つの領域に分割され、各領域に、高弾性生地よりも高さ方向の弾性率が小さい低弾性生地が配置される。
【0025】
臀部上方領域12には、低弾性方向Cが高さ方向に沿い、高弾性方向Dが幅方向に沿うように、即ち高さ方向より幅方向に弾性率が大きくなるように低弾性生地が配置される。具体的には、幅方向の弾性率は高さ方向の弾性率の約1.2倍(60%伸張時)である。これを実現するために、例えば2WAYトリコットが使用される。
【0026】
また、一対の脚側部領域13,13及び脚股部領域14には、前記臀部上方領域12と逆に、低弾性方向Cが幅方向に沿い、高弾性方向Dが高さ方向に沿うように、即ち高さ方向より幅方向に弾性率が低くなるように低弾性生地が配置される。具体的には、高さ方向の弾性率は幅方向の弾性率の約1.2倍(60%伸張時)である。これを実現するために、例えば臀部上方領域12と同様の生地である2WAYトリコットが使用されるが、その低弾性方向C及び高弾性方向Dは前記臀部上方領域12におけるそれらの方向とそれぞれ直交している。
【0027】
さらに、図3に示すように、スパッツの前面15には、背面3の高弾性領域11に配置される生地よりも高さ方向の弾性率が低くなるように低弾性生地が使用される。具体的には、低弾性方向Cが高さ方向に沿い、高弾性方向Dが幅方向に沿うように、即ち高さ方向より幅方向に弾性率が大きくなるように生地が配置される。より具体的には、幅方向の弾性率は高さ方向の弾性率の約1.2倍(60%伸張時)である。これを実現するために、例えば臀部上方領域12などと同様の生地である2WAYトリコットが使用される。
【0028】
なお、高弾性生地と低弾性生地の各方向の60%伸張時における弾性率の大きさを比率によって表すと、低弾性生地の低弾性方向Cを1とすれば、該低弾性生地の高弾性方向Dが約1.2、高弾性生地の低弾性方向Aが約2.5、該高弾性生地の高弾性方向Bが約4である。
【0029】
上記の構成からなるスパッツを着用すれば(図4参照)、背面3の高弾性領域11に使用される高弾性生地によって、大腿部を持ち上げる動作(以下、「股関節屈曲動作」という)を行った際に、大腰筋に負荷をかけるのに有効なスパッツの背面側において、大きな弾性張力が発生する。一方、前面15には低弾性生地が使用されるため、背面側で発生する弾性張力は前面側で発生するサポート力(筋肉運動を補助する力)を上回り、弾性張力が阻害されることなく大腰筋に作用して大腰筋を確実に強化することができる。
【0030】
また、臀部上方領域12に配置される低弾性生地は、股関節屈曲動作を行った際に、高弾性領域11に使用される高弾性生地よりも容易に伸張する。一方、臀部上方領域12より下方側の高弾性領域11に配置される高弾性生地は高い弾性率を有することから、股関節屈曲動作による皮膚の伸張に高弾性生地の一部が追従できず、高弾性生地がスパッツを下方に引っ張ってずり下げるように張力を発生させる。このとき、臀部上方領域12に配置される低弾性生地は皮膚の伸張と高弾性生地の伸張との差を補うように伸張する。これにより、スパッツが腰部から下方にずれ下がるのを有効に防止でき、着用感を良好に維持することができる。
【0031】
そして、一対の脚側部領域13,13及び脚股部領域14に配置される低弾性生地も、股関節屈曲動作を行った際に、高弾性領域11に使用される高弾性生地よりも容易に伸張する。ところで、股関節屈曲動作を行うと、大腿部内に存在する各種の筋肉が収縮することにより、大腿部の周囲長が大きく変化する。ここで、大腿部の周方向に沿って高弾性生地を使用しても、発生する弾性張力は大腿部内の各種の筋肉に作用するのであって大腰筋に直接作用するものではないため、大腰筋を増強させる観点からはかかる領域に高弾性生地を使用する必要性は低い。従って、一対の脚側部領域13,13及び脚股部領域14には、低弾性生地が配置される。これにより、スパッツの脚部は大腿部の周囲長の変化に追従しやすくなり、着用感を良好に維持することができる。
【0032】
さらに、スパッツの前面15に使用される低弾性生地も、股関節屈曲動作を行った際に、高弾性領域11に使用される高弾性生地よりも容易に伸張する。これにより、背面に使用される高弾性生地によって発生しがちな締め付けられる感覚が緩和され、着用感を良好にすることができる。
【0033】
そして、臀部上方領域12においては、低弾性方向Cが高さ方向に沿うことで、低弾性生地が下方に一層伸張しやすくなり、スパッツが腰部から下方にずれ下がるのを一層有効に防止でき、着用感を良好にすることができる。一方、高弾性方向Dが幅方向に沿うことで、スパッツが腰部を確実に締め付ける状態となり、一般に臀部は腰部より周が長いことと相まって、スパッツが腰部から下方にずれ下がるのを有効に防止でき、着用感を良好にすることができる。
【0034】
さらに、一対の脚側部領域13,13及び脚股部領域14においては、低弾性方向Cが幅方向に沿うことで、低弾性生地が幅方向に一層伸張しやすくなり、大腿部の周囲長の変化に追従して着用感を良好にすることができる。一方、高弾性方向Dが高さ方向に沿うことで、同様に脚部の高さ方向に沿って配置される高弾性生地との弾性率の差を吸収され、着用感を良好に維持することができる。
【0035】
また、前面15においては、臀部上方領域12における生地配置と同様に、低弾性方向Cが高さ方向に沿うことで、低弾性生地が下方に一層伸張しやすくなり、スパッツが腰部から下方にずれ下がるのを一層有効に防止でき、着用感を良好にすることができる。一方、高弾性方向Dが幅方向に沿うことで、スパッツが腰部を確実に締め付ける状態となり、一般に臀部は腰部より周が長いことと相まって、スパッツが腰部から下方にずれ下がるのを有効に防止でき、着用感を良好にすることができる。
【0036】
さらに、背面3の高弾性領域11に配置される高弾性生地と前面15に使用される低弾性生地との関係から見れば、高弾性領域11においては高弾性生地の高弾性方向Bが高さ方向に沿い、前面15においては低弾性方向Cが高さ方向に沿うことで、弾性率の差を大きくすることができ、股関節屈曲動作を行った際にスパッツの背面側においてより大きな弾性張力を発生させることができる一方、前面15に使用される低弾性生地によって発生するサポート力が背面側において発生した弾性張力を減少させることなく、大腰筋のトレーニング効果を十分に発揮させることができる。
【0037】
ところで、股関節屈曲動作時における皮膚の伸張量の程度は、図5に示される。なお、図5は、伸張の程度を色彩の濃淡で表したものであり、右の基準にも表されるとおり、色彩の濃い部位ほど伸張量が大きく、色彩の淡い部位ほど伸張量が小さいことを表している。例えば、8の領域は、股関節屈曲動作を行うことによって皮膚が約18〜約20%伸張する領域であることを示す。
【0038】
そこで、本実施形態においては、高弾性領域11は、高伸張領域に対応すべく、図6に示すように、スパッツの背面3において以下の要領で特定される所定領域16を少なくとも含むようにする。この所定領域16は、両側端縁17,17が重なるようにスパッツを臀裂線18(スパッツの幅方向中心線)に沿って前面側に折り畳んだ状態において、一対の脚部2,2が接続する付け根位置から幅方向に沿う線を股下線19とした場合に、該股下線19における脚部のほぼ中間点(中心点20)を中心とし、幅方向及び高さ方向に沿う四角形状を有する。
【0039】
具体的には、所定領域16は、前記股下線19における脚部の寸法を基準長(例えば220mm)として、好ましくは、少なくとも幅方向に基準長の約18%(例えば40mm)、高さ方向に約27%(例えば60mm)の寸法を有する領域16aである。より好ましくは、少なくとも幅方向に約27%(例えば60mm)、高さ方向に約45%(例えば100mm)の寸法を有する領域16bである。
【0040】
また、前記高弾性領域11は、図7にも示すように、前記所定領域16及び、該所定領域16から高さ方向に沿って下方に延びる脚部領域21を含んで構成される。このようにすれば、大きな弾性張力をより効率よく得ることができる一方、該脚部領域21に高弾性生地を配置しても、スパッツのずれ下がりには影響せず、着心地を悪化させることはない。また、スパッツの脚部2は人体の大腿部の形状に合わせて下方ほど幅狭に形成されるため、かかる脚部領域21に高弾性生地を配置してもスパッツがずれ上がることはない。
【0041】
具体的には、この脚部領域21は、股下線19の中間点20を通って高さ方向に沿い、好ましくは、少なくとも約18%(例えば40mm)の幅を有する。より好ましくは、少なくとも前記基準長に対して約27%(例えば60mm)の幅を有する。また、該脚部領域21は下方ほど幅狭に形成されていてもよい。なお、脚部領域21は、必ずしもスパッツの下端に至るように構成される必要はない。
【0042】
より好ましくは、前記高弾性領域11は、前記所定領域16と前記脚部領域21とを含み、さらに、前記高弾性領域11から斜め上方に延びる一対の側部領域22を含んで構成される。このようにすれば、大きな弾性張力をさらに効率よく得ることができる。具体的には、この側部領域22は、前記中心点20から大転子の対応位置8に至る線を中心として、好ましくは、少なくとも約18%(例えば40mm)の幅を有する。より好ましくは、少なくとも前記基準長に対して約32%(例えば70mm)の幅を有する。また、該側部領域22は、必ずしも側端縁17(即ち、大転子の対応位置8)に至るように構成される必要はない。
【0043】
さらに好ましくは、前記高弾性領域11は、前記所定領域16と前記脚部領域21と前記側部領域22とを含み、さらに、一対の所定領域16,16を結ぶ中央領域23を含んで構成される。このようにすれば、大きな弾性張力をさらに効率よく得ることができる。具体的には、この中央領域23は、前記所定領域16における前記中心点20より上方の位置から幅方向に延び、前記中間線Zを中心として、好ましくは、少なくとも約9%(例えば20mm)の幅を有する。より好ましくは、少なくとも前記基準長に対して約14%(例えば30mm)の幅を有する。また、該中央領域23は臀裂線18と交わる位置(即ち、中央領域23の中間位置)において最も幅が細くなる形状を有していてもよい。
【0044】
上記構成からなるスパッツを用いて、大腰筋が増強されたことによるS字湾曲の矯正効果を検証する実験を行った。
【0045】
実験は、女性の被験者7名を4名と3名のグループに分け、それぞれのグループの被験者に異なるスパッツを着用させた上で、トレーニングとして股関節屈曲動作を一日50回、連続4週間行うことにより実施された。
【0046】
ここで、4名からなるグループの被験者が装着したスパッツは、本実施形態に係るものであり、3名からなるグループの被験者が装着したスパッツは、高弾性生地を用いず、低弾性生地として2WAYトリコットのみを用いて構成された通常のスパッツである。
【0047】
なお、背面に所定間隔ごとに格子点が形成されたスパッツを同一被験者に着用させて股関節屈曲動作をさせ、本実施形態に係るスパッツの高弾性領域11若しくは通常のスパッツのそれに該当する領域における各格子点間隔の伸張量を計測して得られたそれぞれの値に、材料実験により得られた生地のそれぞれの弾性率をかけ合わせ、スパッツの弾性張力の比を算出したところ、通常のスパッツの弾性張力を100とすれば、本実施形態に係るスパッツの弾性張力は155であることが分かった。
【0048】
そして、実験前と実験後のS字湾曲の度合いを、それぞれスパッツを着用しない状態において計測した。計測は、被験者を約4.5km/hで歩行訓練用具(トレッドミル)上を歩行させ、走行姿勢(S字湾曲の形状)を測定することにより行った。なお、S字湾曲の測定に際しては、図8(イ)に示すように、被験者の背中に第7頚椎を起点として骨盤位置まで10個のマーカー(S1〜S10)をほぼ等間隔に取り付け、各マーカーの位置をモーションキャプチャー装置(バイコン)によって計測することにより行った。また、測定結果は、右足若しくは左足着地それぞれ16歩分のデータを抽出し、分散分析を行って算出された。なお、有意水準は1%である。
【0049】
そして、図8(ロ)に示すように、S1とS5との前後方向における長さ(上部湾曲長さ)と、S5とS9との前後方向における長さ(下部湾曲長さ)とを計測し、各グループの被験者の実験前と実験後の長さの変化を平均値によって求めた。ここで、上部湾曲はいわゆる猫背に関係し、上部湾曲長さが大きいほど姿勢が前傾していることを示しており、下部湾曲が大きいほどS字の湾曲が急であることを示しており、上部湾曲長さが小さくなり、下部湾曲長さが大きくなれば、S字湾曲が改善されたと言える。
【0050】
この結果、通常のスパッツを着用させたグループの被験者は、3名の平均値として、上部湾曲長さが約52mmから約50mmに減少し、下部湾曲長さが約31mmから約29mmに減少したのに対し、本実施形態に係るスパッツを着用させたグループの被験者は、4名の平均値として、上部湾曲長さが約40mmから約35mmに減少し、下部湾曲長さが約31mmから約38mmに増加したことが判明した。
【0051】
即ち、通常のスパッツでは、上部湾曲長さが約3.8%改善するに留まり、下部湾曲長さは逆に約6.5%悪化したのに対し、本実施形態に係るスパッツでは、上部湾曲長さが約12.5%改善し、下部湾曲長さは約22.6%改善した。これは、ともにスパッツを着用しない状態において得られた結果であることから、本発明に係るスパッツを着用してトレーニングを行うことにより、大腰筋を効率的に増強することができることが分かる。
【0052】
なお、本発明に係るスパッツは、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
例えば、スパッツの前面15において、図9(イ)に示すように、一対の脚部2,2の両側に一対の前面脚側部領域24,24を設け、他の部分には高さ方向より幅方向に弾性率が大きくなるように生地を配置するとともに、一対の前面脚側部領域24,24には幅方向より高さ方向に弾性率が大きくなるように生地を配置してもよい。このようにすれば、股関節屈曲動作の際に大腿部の周囲長の変化にスパッツが追従するため、着用感をより向上させることができる。
【0054】
また、図9(ロ)に示すように、一端がスパッツの上方の両側端部に位置し他端が股部に至る境界線によって画され、主に腹部を覆う腹部領域25を設け、この腹部領域25に高さ方向より幅方向に弾性率が大きくなるようにパワーネットを配置してもよい。このようにすれば、人体の腹部が引き締められるため、シェイプアップ効果を奏する。
【0055】
さらに、図9(ハ)に示すように、前記腹部領域25の下方に、前記腹部領域25より下方且つ前記前面脚側部領域24より上方に位置する境界線によって画される大腿部付け根領域26を設け、この大腿部付け根領域26に他の領域を覆う生地より目の粗い生地を配置してもよい。このようにすれば、股関節屈曲動作の際に大腿部の付け根部分において多量に発生する生地の弛み若しくは皺が、生地の目が圧縮されることによって有効に吸収されるため、着用感を向上させることができる。
【0056】
そして、本発明に係るスパッツの高弾性領域11においては、高弾性生地としてのパワーネットを低弾性生地としての2WAYトリコットの裏面に縫合したが、パワーネットを2WAYトリコットの表面に縫合し、パワーネットがスパッツの表面に現れるように配置してもよい。このように構成すれば、着用時の生地のごろ付き感が軽減される。
【0057】
また、高弾性領域11には、他の領域より高さ方向の弾性率が大きくなるように高弾性生地を配置すればよいため、低弾性生地における高弾性方向Dの弾性率が高弾性生地における低弾性方向Aの弾性率より大きくてもよい。即ち、低弾性生地の低弾性方向Cを1とした場合に、例えば低弾性生地の高弾性方向Dが約2.5であり高弾性生地の低弾性方向Aが約1.2となる構成であってもよい。
【0058】
さらに、本実施形態においては、異方性を有する高弾性生地及び低弾性生地を用いたが、二つの生地の弾性率が異なるものであれば、それぞれの生地における縦方向と横方向の弾性率が同等のもの、即ち等方性を有する生地を用いてもよい。
【0059】
そして、本実施形態においては、高弾性方向と低弾性方向との弾性率及び/又は高弾性生地と低弾性生地との弾性率が異なる生地として2WAYトリコットやパワーネットを使用したが、これらに限られるものではなく、編み糸の種類や編み密度、編み組織、編み糸の本数を適宜変更することにより、任意の弾性率の生地を得て使用することもできる。
【0060】
また、高弾性部を設けるには、高弾性生地を使用するだけでなく、例えばポリウレタンなどの高弾性部材としての樹脂シートを使用してもよい。具体的には、高弾性領域は、高弾性部材が2WAYトリコットに縫合若しくは接合されて構成されるものであってもよく、他の部材を用いずにポリウレタンなどの高弾性部材のみによって構成されるものであってもよい。
【0061】
そして、スパッツの上端内側(即ち、腰周り)及び/又は脚部の下端内側に、ゴム等からなる滑り止めを取り付けてもよい。このようにすれば、スパッツのずれ下がり若しくはずれ上がりを有効に防止することができる。
【0062】
また、本実施形態に係るスパッツの脚部2は人体の大腿部に対応するものであるが、下端がより下方に延びてくるぶしまで対応するものであってもよい。この場合に、スパッツの大腿部より下方の領域は、大腰筋を強化するのに直接寄与する領域ではなく、且つ着心地に影響を与える領域でもないため、例えば下腿部の前面及び/又は背面に対応する領域に高弾性部材を配置してもよい。このようにしても大腰筋を強化するのが阻害されることはない一方、これによってその他の目的にも同時に対応可能なスパッツを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の実施形態に係るスパッツにおける背面の平面図を示す。
【図2】同実施形態に係るスパッツの背面における弾性方向の概念図を示す。
【図3】同実施形態に係るスパッツにおける前面の平面図を示す。
【図4】同実施形態に係るスパッツを着用した状態の概念図を示す。
【図5】股関節屈曲動作を行った際に生じる人間の皮膚の伸張の程度を表す概念図を示す。
【図6】同実施形態に係るスパッツを左右対称に折り畳んだ図を示す。
【図7】同実施形態に係るスパッツにおける背面の平面図を示す。
【図8】(イ)は、人体の背骨のS字湾曲を計測すべく、背中にマーカーを取り付けた状態を示し、(ロ)は、計測対象である上部湾曲長さと下部湾曲長さとを示す。
【図9】本発明の他の実施形態に係るスパッツにおける前面の平面図を示し、(イ)は、前面脚側部領域を設けたもの、(ロ)は、(イ)に腹部領域を設けたもの、(ハ)は、(ロ)にさらに大腿部付け根領域を設けたものを示す。
【図10】従来のスパッツの平面図を示し、(イ)は前面側、(ロ)は背面側を示す。
【符号の説明】
【0064】
1…胴部、2…脚部、3…背面、4…脚部中央線、6…交点、7…脚部領域、8…大転子の対応位置、9…側部領域、10…中央領域、11…高弾性領域、12…臀部上方領域、13…脚側部領域、14…脚股部領域、15…前面、16…所定領域、17…側端縁、18…臀裂線、19…股下線、20…中心点、21…脚部領域、22…側部領域、23…中央領域、24…前面脚側部領域、25…腹部領域、26…大腿部付け根領域、40…前面側の高弾性部、41…背面側の高弾性部、X…臀溝線、Y…頂点線、Z…中間線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腿部を持ち上げた際に臀部及び大腿後部における皮膚の伸張量が大きい部位に対応する背面の所定領域に、該所定領域以外の背面の領域及び少なくとも腹部及び大腿前部に対応する前面の領域よりも高さ方向の弾性率が高い高弾性部が設けられることを特徴とするスパッツ。
【請求項2】
大腿部を持ち上げた際に臀部及び大腿後部における皮膚の伸張量が大きい部位に対応する背面の所定領域に、該所定領域以外の背面の領域及び前面よりも高さ方向の弾性率が高い高弾性部が設けられることを特徴とするスパッツ。
【請求項3】
前記所定領域は、人体の臀溝に沿う線及び一対の臀部の頂点を結ぶ線の中間線と、各脚部の幅方向略中央位置を通って高さ方向に沿う一対の線とが交差してできる各交点を一端側として、高さ方向に沿って下方に延びる一対の脚部領域を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッツ。
【請求項4】
前記所定領域は、人体の臀溝に沿う線及び一対の臀部の頂点を結ぶ線の中間線と、各脚部の幅方向略中央位置を通って高さ方向に沿う一対の線とが交差してできる各交点を一端側として、人体の大転子に対応する位置に向かって斜め上方に延びる一対の側部領域を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のスパッツ。
【請求項5】
前記所定領域は、人体の臀溝に沿う線及び一対の臀部の頂点を結ぶ線の中間線と、各脚部の幅方向略中央位置を通って高さ方向に沿う一対の線とが交差してできる各交点を一端側及び他端側として、幅方向に沿って延びる中央領域を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のスパッツ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−89856(P2006−89856A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273766(P2004−273766)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】