説明

スパンボンド不織布およびそれを用いたエアフィルター

【課題】本発明は、低圧力損失であるとともに高い捕集性能を有する、高性能スパンボンド不織布、特にエアフィルターに好適に用いることができる高性能スパンボンド不織布を提供する。
【解決手段】主として非導電性繊維を含んでなるスパンボンド不織布であって、該非導電性繊維が帯電しており、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が70%以上、QF値が0.25Pa−1以上であるスパンボンド不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパンボンド不織布に関する。特にエアフィルターとして用いたときに、低圧力損失ながら高い捕集性能を発揮することができる、スパンボンド不織布と、該スパンボンド不織布を用いたエアフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、気体中の花粉・塵等を除去するためにエアフィルターが使用されており、濾材として繊維シートが多く用いられている。
【0003】
エアフィルターに要求される性能は、ミクロなダストを多く捕集できる高捕集性能、および、エアフィルター内部を気体が通過する際に抵抗が少ない低圧力損失特性である。
【0004】
エアフィルターの捕集機構は、主としてブラウン拡散、遮り、慣性衝突などの物理的作用によるものであるため、高い捕集性能を有する濾材を得るには、例えばメルトブロー不織布のように、構成する繊維シートが比較的細繊度であることが適しているが、その一方、シート内の繊維密度が増加することにより圧力損失が高くなる。
【0005】
また、圧力損失が低い濾材を得るためには、例えば、短繊維不織布やスパンボンド不織布のように、構成する繊維シートが比較的太繊度であることが適しているが、その一方、シート内の繊維間の空隙が広くなるため、捕集性能が低下する。
【0006】
このように、高捕集性能を有することと低圧力損失特性を有することは相反する関係にあるものであり、両立させることは難しい。
【0007】
そのため、一般に、高捕集性能を重視する用途には細繊度シート、低圧力損失特性を重視する用途には太繊度シートというように、繊維シートの種類によって用途の使い分けがなされている。
【0008】
ところで、繊維シートを帯電させ、物理的作用に加えて静電気的作用を利用することにより、捕集性能を向上させる技術が知られている。例えば、アース電極上に繊維状シートを接触させた状態で、該アース電極と繊維シートを共に移動させながら非接触型印加電極で、高圧印加を行なって連続的にエレクトレット化する、エレクトレット繊維状シートの製造法が提案されている(特許文献1)。これは、不織布内に、電子の注入、イオンの移動、双極子の配向などを生ぜしめることで分極させ、繊維に電荷を付与するというものである。
【0009】
この特許文献1の実施例に記載の繊維シートは、高圧印加によりエレクトレット化されたメルトブロー不織布であり、一般に、メルトブロー不織布のような細繊度シートは、太繊度シートに比べて単位体積当たりに含まれる繊維の総表面積が大きく、より大きな帯電効果が得られるため、捕集性能を更に向上させることができ、高捕集をより重視した用途に使用することができる。
【0010】
一方で、この帯電技術を太繊度シートに適用し、本来の低圧力損失特性に高捕集性能をプラスする試みがなされている。
【0011】
例えば、ポリエステル繊維とポリプロピレン繊維とのブレンドからなることを特徴とする帯電濾材が提案されている(特許文献2)。この帯電濾材は短繊維不織布であり、異なる2種類の繊維同士が摩擦した際に、帯電列に従い、片方の繊維が正、片方の繊維が負に帯電される摩擦帯電不織布に関するものである。ただし、該特許文献において捕集性能と圧力損失の関係は不明瞭であり、また摩擦帯電を実施する前に、繊維に付着する潤滑剤や帯電防止剤といった帯電を妨げる添加剤を洗浄除去する必要があり、他不織布工程と比較すると工程数が多く、生産コスト面で不利である。
【0012】
短繊維不織布よりも簡便に、比較的太繊度のシートを得る方法として、スパンボンド法があり、スパンボンド法により得られた不織布を帯電させる検討も行われている。
例えば、先に、本出願人は、芯成分がポリエステル樹脂で、鞘成分がポリオレフィン樹脂で構成された芯鞘型複合繊維からなる不織布であって、該不織布がエレクトレット加工されたものである不織布を提案した(特願2006−342268)。
しかし、ここで提案されている不織布はスパンボンド不織布であり、鞘部をポリオレフィン、芯部をポリエステルとすることで、エレクトレット特性や剛性、寸法安定性に優れたシートを提供でき、剛性についてその効果は明確であったものの、エレクトレット特性や捕集性能に関しては明確ではなかった。
【0013】
このように、低圧力損失特性を重視する太繊度シートにおいて、高捕集性能をプラスする試みは行われているものの、十分なレベルのものは得られていない。
【特許文献1】特開昭61−289177号公報
【特許文献2】特表2003−512147号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、上述したような従来技術に鑑み、圧力損失が低いうえに捕集性能に優れるスパンボンド不織布、特にエアフィルターに好適に用いることができるスパンボンド不織布を提供することにある。
【0015】
また、該スパンボンド不織布を用いた、圧力損失が低いうえに捕集性能に優れているエアフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かかる課題を解決する本発明のエレクトレット繊維シートは、以下の(1)の構成を有する。
【0017】
(1)主として非導電性繊維を含んでなるスパンボンド不織布であって、該非導電性繊維が帯電しており、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が70%以上、QF値が0.25Pa−1以上であることを特徴とするものである。
かかるスパンボンド不織布のより具体的に好ましい態様は、以下の(2)〜(8)のいずれかの構成を有するものである。
【0018】
(2)前記スパンボンド不織布がヒンダードアミン系化合物を0.1〜5重量%含有することを特徴とする前記(1)に記載のスパンボンド不織布。
【0019】
(3)風速6.5m/minにおける直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が80%以上、QF値が0.35Pa−1以上であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のスパンボンド不織布。
【0020】
(4)前記ヒンダード系化合物が下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする前記(3)に記載のスパンボンド不織布。
【化1】

(ここで、R〜Rは水素または炭素原子数1〜2のアルキル基、Rは水素または炭素数1〜6のアルキル基である)
【0021】
(5)前記一般式(1)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする前記(4)に記載のスパンボンド不織布。
【化2】

【0022】
(6)前記非導電性繊維が、ポリオレフィン繊維であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【0023】
(7)前記ポリオレフィン繊維が、ポリプロピレンを主体に構成されているものであることを特徴とする前記(6)に記載のスパンボンド不織布。
【0024】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載のスパンボンド不織布で構成されていることを特徴とするエアフィルター。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、低圧力損失であるとともに高い捕集性能を有する、優れたスパンボンド不織布を提供することができる。
【0026】
かかるスパンボンド不織布をエアフィルターの濾材に使用すれば、高捕集かつ低圧力損失を発揮できる高性能エアフィルターを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のスパンボンド不織布は、主として非導電性繊維を含んでなるスパンボンド不織布であって、該非導電性繊維が帯電しており、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が70%以上、QF値が0.25Pa−1以上であるところに特徴を有する。
【0028】
本発明におけるスパンボンド不織布は、溶融したポリマーをノズルより押し出し、これを高速吸引ガスにより吸引延伸した後、移動コンベア上に繊維を捕集してウェブとし、さらに連続的に熱接着、絡合等を施すことにより一体化してシートにする、いわゆるスパンボンド法により製造することができる。
【0029】
本発明のスパンボンド不織布は、接着方法として、バインダーを使用した熱接着、熱エンボス接着、超音波エンボス接着、熱カレンダー接着、ニードルパンチ交絡、ウォータージェット交絡などの既存の接着、交絡方法が使用できるが、シートを構成する繊維の表面積が有効に生かされる上、シート内部繊維間の空隙の多い、ニードルパンチ交絡もしくはウォータージェット交絡が特に好ましい。
【0030】
本発明でいう非導電性繊維は、非導電性ポリマーからなる繊維を主として含むものであればよく、特に限定されない。ここでいう非導電性は、体積抵抗率が1012・Ω・cm以上であることが好ましく、1014・Ω・cm以上であることがより好ましい。体積抵抗率はASTMD257に従い測定される。このような繊維を含んでなる不織布を帯電処理した場合、電荷量を多く保持することができ、結果として捕集性能を高めることができる。
【0031】
このような非導電性の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、およびこれらの共重合体または混合物などを挙げることができる。これらの材料の中でも、ポリオレフィンを主体とするものはエレクトレット性能を特に発揮する点から好ましい。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。ポリオレフィンの中では、ポリプロピレンが耐熱性の点で優れているため、より好ましい。また、本発明でいう非導電性繊維は、これら材料から構成される2種以上の混合繊維であっても構わない。
【0032】
また、本発明でいう非導電性繊維は、単成分繊維や、芯鞘型、海島型といった複合成分型繊維等、特に限定されるものではないが、複合成分型繊維の場合、樹脂の選択次第では、樹脂間の電気抵抗の相違より電荷が漏洩する可能性があるため、単成分繊維であることが望ましい。
【0033】
さらに、本発明のスパンボンド不織布は帯電していることが重要であり、帯電スパンボンド不織布とすることで、静電気吸着効果により、低圧力損失特性を維持したまま、高捕集性能を得ることができるのである。
【0034】
帯電スパンボンド不織布を製造するにあたり、帯電方法は特に限定されるものでないが、本発明者らの各種知見によれば、特に、コロナ荷電法、不織布シートに水を付与した後に乾燥させることにより帯電する方法(例えば、特表平9−501604号公報、特開2002−249978号公報等に記載されている方法)、熱エレクトレット法などが好適に用いられる。コロナ荷電法の場合は、好ましくは15kV/cm以上、より好ましくは20kV/cm以上の電界強度が適している。また帯電加工は、不織布の製造時に連続して行ってもよいし、いったん、製造した不織布を巻取り、別工程で加工を行ってもよい。
【0035】
また、本発明のスパンボンド不織布は、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が70%以上、QF値が0.25Pa−1以上である。
【0036】
ここで、本発明における圧力損失および捕集性能は以下の測定方法、あるいはこれと同等の結果が得られる測定方法で測定されるものである。すなわち、不織布の任意の部分から、15cm×15cmの測定用サンプルを5個採取し、それぞれのサンプルについて、図1に概略を示した捕集性能測定装置で捕集性能と圧力損失を測定する。
【0037】
この捕集性能測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、ブロワ5を連結した構成となっている。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を使用し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。さらにサンプルホルダー1は圧力計8を備え、サンプルM上流、下流の静圧差を読み取ることができる。捕集性能の測定にあたっては、直径0.3〜0.5μmのポリスチレン粒子を含む溶液(例えば、ナカライテック製0.309Uポリスチレン10重量%溶液)を蒸留水で希釈し(例えば、ナカライテック製0.309Uの場合は200倍まで希釈)、ダスト収納箱2に充填する。次にサンプルMをホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が6.5m/minになるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を2万〜4万個/2.83×10−4(0.01ft)の範囲で安定させ、サンプルMの上流のダスト個数Dおよび下流のダスト個数dをパーティクルカウンター6(例えば、リオン社製、KC−01D)でダスト粒径0.3〜0.5μmの範囲について1サンプル当たりそれぞれ5回測定し、下記計算式にて各サンプルの捕集性能(%)を求める。
各サンプルの捕集性能(%)=〔1−(D1/D2)〕×100
ここで、D1:下流のダスト個数(5回の合計)
D2:上流のダスト個数(5回の合計)
5サンプルの平均値の小数点以下第3位を四捨五入したものを、最終的な捕集性能(%)とするものである。
【0038】
なお、高捕集の不織布ほど、下流のダスト個数が少なくなるため、捕集性能の値は高くなる。
【0039】
また、圧力損失(Pa)は上記捕集性能測定時のサンプルMの上流と下流の静圧差を圧力計8で読み取り、5サンプルの平均値の小数点以下第一位を四捨五入して算出するものである。
【0040】
さらに、濾過性能の指標としてQF値というものがあり、前記捕集性能および圧力損失を用いて以下の式により計算、小数点以下第三位を四捨五入して得られる。
QF値(Pa−1)=−[ln(1−[捕集性能(%)]/100)]/[圧力損失(Pa)]
【0041】
上式より、QF値は、単位圧力損失当たりの捕集性能を示すものといってよく、QF値が高いほど濾過性能が良好であることを示すものである。ここで、QF値が高い値を示す場合、次の二つのケースが考えられる。すなわち、捕集性能が比較的高い値を示すケース、および、圧力損失が比較的低い値を示すケース、である。本発明では、この二つのケースを考慮し、優れた濾過性能を示すQF値の範囲(0.25Pa−1以上)に加え、捕集性能が比較的高い値を示す場合の圧力損失の最高ラインを9Pa、および圧力損失が比較的低い値を示す場合の捕集性能の最低ラインを70%と設定している。すなわち、圧力損失、捕集性能およびQF値が同時に前述の範囲を満たしていることが重要なのであり、これら3つの特性のうち一つでも範囲外のものがあると、低圧力損失と高捕集性能を同時に示す高性能スパンボンド不織布ではないことを意味する。
【0042】
また、本発明のスパンボンド不織布が、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が80%以上、QF値が0.35Pa−1以上である場合、さらに低圧力損失ながら高捕集性能であることを示しており、好ましい。
【0043】
また、本発明のスパンボンド不織布は、繊維の帯電性能を向上させ、また耐候性を良くする観点から、ヒンダードアミン系化合物0.1重量%以上含有することが好ましく、0.3重量%以上含有することがより好ましく、0.5重量%以上含有することが特に好ましい。また、含有量は5.0重量%以下が好ましく、4.0重量%以下がより好ましく、3.0重量%以下が特に好ましい。ここでいう化合物の含有量は、次のようにして求める。
【0044】
不織布2gをクロロホルムでソックスレー抽出後、該抽出物についてHPLC分取を繰り返し、各分取物についてH−NMR測定で構造を確認する。該化合物の含まれる分取物の重量を合計し、不織布全体に対する割合を求め、これを化合物含有量とする。
【0045】
ヒンダードアミン系化合物の含有量が0.1重量%以上であれば、繊維の帯電性能を向上させる効果を得ることができる。ただし、ヒンダードアミン系化合物の含有量が5.0重量%を超えると、不織布を製造する際に紡糸性が悪化し、生産性が劣る傾向にあるため好ましくない。
【0046】
かかるヒンダードアミン系化合物としては、ポリ[(6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル)((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)ヘキサメチレン((2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ)](チバ・ジャパン製、キマソーブ(登録商標)944LD)、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物(チバ・ジャパン製、チヌビン(登録商標)622LD)、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)(チバ・ジャパン製、チヌビン(登録商標)144)などが挙げられる。
【0047】
これらのなかでも、繊維の帯電性能を向上させる点で、下記一般式(1)で表される構造を有するヒンダードアミン系化合物が好ましい。
【化3】

【0048】
このように特定の構造を有するヒンダードアミン系化合物を含有させた繊維からなるスパンボンド不織布を、帯電させた状態にすることにより、驚くべきことにフィルター性能が向上する。すなわち、特定の構造を有するヒンダードアミン系化合物を含有させることにより、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μm粒子の捕集効率が70%以上、かつQF値が0.25Pa−1以上の、低圧力損失と高い捕集効率の両立したスパンボンド不織布を得ることができる。
【0049】
かかる化合物としては、上記構造を有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、一般式(1)のR〜Rのうち、R〜Rが水素、Rが炭素数4のアルキル基、特にn−ブチル基である構造を有する化合物が特に好ましい。すなわち、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物であり、後述する実施例3および実施例4で使用した化合物Bが好ましい。
【化4】

【0050】
なお、一般式(1)で表される構造を有する化合物は、1種の使用であっても複数種の混合物であってもよい。
【0051】
該化合物をスパンボンド不織布に存在させることにより、帯電により付与された電荷をより効果的に安定化できるため、該スパンボンド不織布をエアフィルターの濾材に使用した場合には、捕集性能が向上し、低い圧力損失で高捕集性能を有したエアフィルターを実現できるのである。
【0052】
本発明のスパンボンド不織布は、上述のような化合物を含有する非導電性ポリマーを含んでいるが、また、該ポリマーは上述した化合物に加えて、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤などの、樹脂材料に通常含まれる安定剤を含んでいてもよい。
【0053】
本発明のスパンボンド不織布を構成する繊維の平均繊維径は、得られるスパンボンド不織布がフィルター用途に適していれば特に限定されるものではないが、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、30μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。平均繊維径が5μmよりも小さい場合は、スパンボンド不織布の圧力損失が上昇する傾向にあり好ましくない。一方、平均繊維径が30μmよりも大きい場合は、スパンボンド不織布の単位量あたりの繊維表面積が小さくなりすぎるため、スパンボンド不織布の捕集性能が低下する傾向にあるため好ましくない。なお、ここでいう平均繊維径は、スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維直径を測定し、平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出することで求められるものをいう。
【0054】
さらに本発明のスパンボンド不織布を構成する繊維の断面形状は、得られるスパンボンド不織布がフィルター用途に適していれば特に限定されるものではないが、円形、中空円形、楕円形、扁平型、あるいはX型、Y型等の異形型、多角型、多葉型、等が好ましい形態である。円形でない繊維の繊維径は、繊維断面に対して外接円と、内接円を取り、それぞれの直径の平均値を繊維径として求めたものである。
【0055】
また、本発明のスパンボンド不織布の目付は、フィルター用途に適していれば特に限定されるものではないが、20g/m以上であることが好ましく、40g/m以上であることがより好ましく、60g/m以上であることが特に好ましい。また、300g/m以下であることが好ましく、250g/m以下であることがより好ましく、200g/m以下であることが特に好ましい。かかる目付が20g/m未満の場合は、不織布の強度や剛性が不十分となる場合があり好ましくない。一方、目付が300g/mを上回る場合は、圧力損失が低下する傾向にあり、さらにはコスト面でも好ましくない方向である。ここでいう目付は、JIS L 1906(2000年版)の5.2に準じて、縦方向50cm×横方向50cmの試料を3個採取して、各試料の重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入することで求められる。
【0056】
さらに、本発明のスパンボンド不織布は、他のシートと積層して積層繊維シートにしてもよい。たとえば、スパンボンド不織布とそれよりも剛性の高いシートを積層して製品強力を向上させて使用することや、脱臭・抗菌等機能性を有するシートと組み合わせて使用することは好ましい。
【0057】
本発明のスパンボンド不織布の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法により製造することができる。
【0058】
まず、樹脂材料を用意し、前述のスパンボンド法によりスパンボンド不織布を得る。スパンボンド不織布にヒンダードアミン系化合物等の化合物を含有させる場合、樹脂材料と化合物をあらかじめ混練しておく。樹脂材料と化合物とを混練する方法としては、紡糸機の押出機ホッパーにこれらを混合して供給し、押出機内で混練りし、直接口金へ供給する方法や、あらかじめ、化合物と樹脂材料を混練押出機や静止混練機等で混練りしてマスターチップを作製し、これを押出機内で溶融し口金部へ供給する方法等がある。
次いで、このスパンボンド不織布に対し、帯電処理を実施して、帯電スパンボンド不織布とする。帯電処理は、スパンボンド不織布単層でも、他のシートと積層した積層繊維シートに実施しても構わない。特に、非導電性繊維が帯電し、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が70%以上、QF値が0.25Pa−1以上であるスパンボンド不織布を得るには、ヒンダードアミン系化合物を0.1〜5重量%含有させ、該ヒンダード系化合物が下記一般式(1)で表される構造を有することが有効であり重要である。
【化5】

【0059】
さらに、風速6.5m/minにおける直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が80%以上、QF値が0.35Pa−1以上であるあるスパンボンド不織布を得るには、特に、前記一般式(1)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物であることが重要である。
【化6】

【0060】
本発明のスパンボンド不織布の用途は、粉塵の捕集性能に優れるため、フィルターの濾材として用いることができる。該濾材は、エアフィルター全般、なかでも空調用フィルター、空気清浄機用フィルター、自動車キャビンフィルター、掃除機用フィルター、マスク用フィルターといった高性能用途に好適であるが、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、前記したスパンボンド不織布の各特性値、および下記実施例における各特性値は、次の方法で測定したものである。
【0062】
(1)目付(g/m
JIS L 1906(2000年版)の5.2に準じて、縦方向50cm×横方向50cmの試料を3個採取して、各試料の重量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりに換算、小数点以下第一位を四捨五入した。
【0063】
(2)平均繊維径(μm)
スパンボンド不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で500〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維直径をμm単位で測定し、平均値の小数点以下第一位を四捨五入し算出した。
【0064】
(3)捕集性能(%)、圧力損失(Pa)、QF値(Pa−1
粉塵の捕集性能は、以下の方法で測定した。
【0065】
スパンボンド不織布の任意の部分から、15cm×15cmのサンプルを5個採取し、それぞれのサンプルについて、図1に示す捕集性能測定装置で捕集性能を測定した。この捕集性能測定装置は、測定サンプルMをセットするサンプルホルダー1の上流側にダスト収納箱2を連結し、下流側に流量計3、流量調整バルブ4、ブロワ5を連結した構成となっている。また、サンプルホルダー1にパーティクルカウンター6を接続し、切替コック7を介して、測定サンプルMの上流側のダスト個数と下流側のダスト個数をそれぞれ測定することができる。捕集効率の測定にあたっては、ポリスチレン0.309U 10重量%溶液(ナカライテック製)を蒸留水で200倍まで希釈し、ダスト収納箱2に充填する。次にサンプルMをホルダー1にセットし、風量をフィルター通過速度が6.5m/minになるように流量調整バルブ4で調整し、ダスト濃度を2万〜4万個/(2.83×10−4(0.01ft))の範囲で安定させ、サンプルMの上流のダスト個数D2および下流のダスト個数D1をパーティクルカウンター6(リオン社製、KC−01D)でダスト粒径0.3〜0.5μmの範囲について1サンプル当たりそれぞれ10回測定し、下記計算式にて各サンプルの捕集性能(%)を求めた。
各サンプルの捕集性能(%)=〔1−(D1/D2)〕×100
ここで、D1:下流のダスト個数(5回の合計)
D2:上流のダスト個数(5回の合計)
5サンプルの平均値の小数点以下第3位を四捨五入したものを、最終的な捕集性能(%)とした。
【0066】
また、圧力損失(Pa)は、上記捕集性能測定時のサンプルMの上流と下流の静圧差を圧力計8で読み取り、5サンプルの平均値の小数点以下第一位を四捨五入して算出した。
【0067】
さらに、QF値は上記の方法で求めた捕集性能と圧力損失の値を用いて以下の式、
QF値(Pa−1)=−[ln(1−[捕集性能(%)]/100)]/[圧力損失(Pa)]
により算出し、小数点以下第三位を四捨五入して求めた。
【0068】
実施例1
キマソーブ(登録商標)944(チバ・ジャパン製、下記の一般式(3)で表される構造を有するものであり、以下、化合物Aと略す。)を1.0重量%添加したMFR30、融点170℃のポリプロピレン樹脂を、スパンボンド法により、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4400m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブを、ニードルパンチ処理し、平均繊維径14μm、目付70g/mのスパンボンド不織布を得た。
【化7】

得られたスパンボンド不織布に、コロナ荷電法により25kV/cmの印加電圧で帯電処理を実施し、帯電スパンボンド不織布を得た。この帯電スパンボンド不織布の特性値を測定し、表1に示した。
【0069】
実施例2
実施例1で使用したポリプロピレン樹脂を、スパンボンド法により、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブを、ニードルパンチ処理し、平均繊維径20μm、目付100g/mのスパンボンド不織布を得た。
得られたスパンボンド不織布を逆浸透膜濾過水が供給される水槽の水面に沿って走行させながら、その表面にスリット状の吸引ノズルを当接させて水を吸引することにより浸透処理し、次いで水切り後に80℃で20分熱風乾燥することにより、帯電スパンボンド不織布を得た。この帯電スパンボンド不織布の特性値を測定し、表1に示した。
【0070】
実施例3
キマソーブ(登録商標)2020(チバ・ジャパン製、下記の一般式(4)で表される構造を有するものものであり、以下、化合物Bと略す。)を1.0重量%添加したMFR30、融点170℃のポリプロピレン樹脂を、スパンボンド法により、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブを、ニードルパンチ処理し、平均繊維径14μm、目付70g/mのスパンボンド不織布を得た。
【化8】

得られたスパンボンド不織布を実施例1と同様の方法で帯電処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0071】
実施例4
実施例3で使用したポリプロピレン樹脂を、スパンボンド法により、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブを、ニードルパンチ処理し、平均繊維径20μm、目付100g/mのスパンボンド不織布を得た。
得られたスパンボンド不織布を実施例2と同様の方法で帯電処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0072】
比較例1
化合物Aを含有しない他は実施例1で使用したものと同じポリプロピレン樹脂を、スパンボンド法により、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4400m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブを、ニードルパンチ処理し、平均繊維径14μm、目付70g/mのスパンボンド不織布を得た。
得られたスパンボンド不織布を実施例1と同様の方法で帯電処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0073】
比較例2
比較例1で使用したポリプロピレン樹脂を、スパンボンド法により、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブを、ニードルパンチ加工し、平均繊維径20μm、目付100g/mのスパンボンド不織布を得た。
得られたスパンボンド不織布を実施例2と同様の方法で帯電処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0074】
比較例3
比較例1で使用したポリプロピレン樹脂を、スパンボンド法により、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4000m/分で紡糸し、移動するネットコンベアー上に繊維ウェブとして捕集した。捕集した繊維ウェブを、ニードルパンチ加工し、平均繊維径20μm、目付120g/mのスパンボンド不織布を得た。
得られたスパンボンド不織布を実施例2と同様の方法で帯電処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0075】
比較例4
化合物Aを1.0重量%添加したMFR800、融点170℃のポリプロピレン樹脂を、メルトブロー法により、直径が0.4mmの口金を用いて、ポリマー吐出量40g/分、ノズル温度280℃、エア圧力0.04MPaの条件で噴射し、移動するネットコンベアー上に捕集して、平均繊維径5μm、目付20g/mのメルトブロー不織布を得た。
得られたメルトブロー不織布を実施例2と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0076】
比較例5
化合物Bを1.0重量%添加したMFR800、融点170℃のポリプロピレン樹脂を、メルトブロー法により、直径が0.4mmの口金を用いて、ポリマー吐出量40g/分、ノズル温度280℃、エア圧力0.06MPaの条件で噴射し、移動するネットコンベアー上に捕集して、平均繊維径3μm、目付30g/mのメルトブロー不織布を得た。
得られたメルトブロー不織布を実施例2と同様の方法でエレクトレット処理した後、特性値を測定し、表1に示した。
【0077】
【表1】

【0078】
ヒンダードアミン系化合物を含有したポリプロピレン樹脂を用い、スパンボンド法にて製造した実施例1〜4は、低い圧力損失を有していながら高い捕集性能を示し、かつ高いQF値を示した。特に、ヒンダードアミン系化合物のうち、一般式(1)で表される構造を有する化合物Bを含有している実施例1、2では、その効果は顕著であった。
【0079】
一方、ヒンダードアミン系化合物を含有しないポリプロピレン樹脂を用い、スパンボンド法にて製造した比較例1〜3について、比較例1では圧力損失は低い値を示していたが、捕集性能およびQF値が低く、比較例2では圧力損失は低く、かつ捕集性能は高い値をしめしていたものの、QF値が低く、比較例3では捕集性能は高い値を示していたが、圧力損失が高く、QF値も低いものとなっており、いずれも低圧力損失かつ高捕集性能を満たすスパンボンド不織布といえるものではなかった。
【0080】
また、ヒンダードアミン系化合物を含有したポリプロピレン樹脂を用い、メルトブロー法にて製造した比較例3、4について、比較例3では圧力損失は低い値を示していたが、捕集性能およびQF値が低く、比較例4では捕集性能は高い値を示していたが、圧損が高く、QF値も低いものとなっており、低圧力損失ながら高捕集性能を満足する不織布として、適するものではなかった。
【0081】
以上のように、本発明のスパンボンド不織布は、低圧力損失特性に優れる上に高い捕集性能を有するという、本来は相反する二つの特性を同時に満足する高性能スパンボンド不織布であった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明により、圧力損失が低く、高い捕集性能を示す高性能スパンボンドが得られ、このスパンボンド不織布は濾材としてエアフィルターに好ましく用いることができるが、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】図1は、捕集性能および圧力損失の測定装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0084】
1 ホルダー
2 ダスト収納箱
3 流量計
4 流量調整バルブ
5 ブロワ
6 パーティクルカウンター
7 切替コック
8 圧力計
M 測定サンプル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として非導電性繊維を含んでなるスパンボンド不織布であって、該非導電性繊維が帯電しており、風速6.5m/minにおける圧力損失が9Pa以下、直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が70%以上、QF値が0.25Pa−1以上であることを特徴とするスパンボンド不織布。
【請求項2】
前記スパンボンド不織布が、ヒンダードアミン系化合物を0.1〜5重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
風速6.5m/minにおける直径0.3〜0.5μmの粒子の捕集効率が80%以上、QF値が0.35Pa−1以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のスパンボンド不織布。
【請求項4】
前記ヒンダード系化合物が下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする請求項2または3に記載のスパンボンド不織布。
【化1】

(ここで、R〜Rは水素または炭素原子数1〜2のアルキル基、Rは水素または炭素数1〜6のアルキル基である)
【請求項5】
前記一般式(1)で表される構造を有する化合物が、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物であることを特徴とする請求項4に記載のスパンボンド不織布。
【化2】

【請求項6】
前記非導電性繊維が、ポリオレフィン繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【請求項7】
前記ポリオレフィン繊維が、ポリプロピレンを主体に構成されているものであることを特徴とする請求項6に記載のスパンボンド不織布。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のスパンボンド不織布で構成されていることを特徴とするエアフィルター。

【図1】
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【公開番号】特開2009−275327(P2009−275327A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130182(P2008−130182)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000187046)東レ・ファインケミカル株式会社 (153)
【Fターム(参考)】