説明

スパークプラグ及びスパークプラグ用主体金具

【課題】主体金具に対するニッケルメッキ層の密着性を向上させ、ニッケルメッキ層を設けることによる耐食性の向上効果を十分に発揮させる。
【解決手段】スパークプラグ1は、軸線CL1方向に延びる筒状の主体金具3と、ニッケルを主成分とする金属からなり、主体金具3の外表面を覆うニッケルメッキ層31とを備える。ニッケルメッキ層31の外表面に直交する断面を、200kVの加速電圧による透過型電子顕微鏡で観察したときの、黒を0とし、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上230以下とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等に使用されるスパークプラグ、及び、スパークプラグ用の主体金具に関する。
【背景技術】
【0002】
スパークプラグは、例えば、内燃機関(エンジン)等に取付けられ、燃焼室内の混合気への着火のために用いられる。一般的にスパークプラグは、軸孔を有する絶縁体と、前記軸孔の先端側に挿通される中心電極と、絶縁体の外周に設けられる主体金具と、主体金具に接合され、中心電極との間で火花放電間隙を形成する接地電極とを備えている。また、主体金具と絶縁体とは、主体金具の内周に形成された段部に絶縁体の外周に形成された段部を係止した上で、主体金具の後端部を径方向内側に屈曲させることにより固定される。
【0003】
さらに、耐食性の向上を図るべく、接地電極の溶接された主体金具の表面にニッケルメッキ層を設けることがある(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−184552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、主体金具に対するメッキ処理は、主体金具と絶縁体とを固定する前に行われる。すなわち、主体金具と絶縁体の固定時において、主体金具の後端部は、その表面にニッケルメッキ層が設けられた状態で屈曲されることとなる。そのため、屈曲に伴う応力により、主体金具の表面からニッケルメッキ層が浮き上がってしまったり、剥離してしまったりするおそれがあり、耐食性が低下してしまうことが懸念される。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、主体金具に対するニッケルメッキ層の密着性を向上させることで、ニッケルメッキ層を設けることによる耐食性の向上効果を十分に発揮させることができるスパークプラグ、及び、スパークプラグ用主体金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を解決するのに適した各構成につき、項分けして説明する。なお、必要に応じて対応する構成に特有の作用効果を付記する。
【0008】
構成1.本構成のスパークプラグは、軸線方向に延びる筒状の主体金具と、
ニッケルを主成分とする金属からなり、前記主体金具の外表面を覆うニッケルメッキ層とを備えたスパークプラグであって、
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面を、200kVの加速電圧による透過型電子顕微鏡で観察したときの、黒を0とし、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、
前記白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上230以下とされることを特徴とする。
【0009】
上記構成1によれば、ニッケルメッキ層のうち、その外表面に直交する断面を200kVの加速電圧により透過型電子顕微鏡で観察したときに得られた、黒を0、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、その濃淡の平均値が170以上230以下とされている。ここで、ニッケルメッキ層は、結晶粒が層状に積み重なることで形成されているが、結晶粒の多くが(100)面で配向し、層状の結晶粒(結晶層)同士の粒界において凹凸が小さいほど、白黒濃淡画像の平均値は大きなもの(すなわち、白に近づくこと)となる。一方で、(100)面で配向している結晶粒が少なく、結晶層同士の粒界において凹凸が大きいほど、白黒濃淡画像の平均値は小さなもの(すなわち、黒に近づくこと)となる。また、粒界における凹凸が大きいと、結晶層の一部に厚みの薄い部分が形成されやすくなる。
【0010】
上記構成1では、白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上と比較的大きなものとされており、粒界における凹凸が十分に小さなものとなるように構成されている。従って、結晶層の一部が薄くなってしまうことをより確実に防止することができ、主体金具の後端部を屈曲させる際などニッケルメッキ層に応力が加えられたときに、各結晶層において応力を十分に吸収することができる。
【0011】
また、白黒濃淡画像の256階調での平均値が230以下とされており、粒界の凹凸が過度に小さくなってしまうことが抑制されている。従って、結晶層同士の接触面積を十分に確保することができ、粒界結合力を十分に大きなものとすることができる。その結果、応力が加えられたときの結晶層の浮きや剥離を抑制することができる。
【0012】
以上のように、上記構成1によれば、各結晶層において応力をより確実に吸収することができるとともに、結晶層の剥離等を効果的に抑制することができる。その結果、主体金具に対するニッケルメッキ層の密着性を向上させることができ、ひいてはニッケルメッキ層を設けることによる耐食性の向上効果を十分に発揮させることができる。
【0013】
尚、ニッケルメッキ層の密着性をより向上させ、耐食性の更なる向上を図るという点から、白黒濃淡画像の256階調での平均値を180以上220以下とすることがより好ましい。
【0014】
構成2.本構成のスパークプラグは、上記構成1において、前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の断面積の平均値が0.002μm2以上0.035μm2以下とされ、各結晶粒の断面積の標準偏差が0.002μm2以上0.045μm2以下とされることを特徴とする。
【0015】
上記構成2によれば、ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の断面積の平均値が0.035μm2以下とされ、各結晶粒の断面積の標準偏差が0.002μm2以上0.045μm2以下とされている。すなわち、ニッケルメッキ層を構成する結晶粒が全体的に微細となるように構成されている。従って、粒界の凹凸をより小さなものとすることができ、結晶層の一部の薄化を一層確実に防止することができる。その結果、ニッケルメッキ層に応力が加えられたときに、各結晶層において応力を一層確実に吸収することができる。
【0016】
また、各結晶粒の断面積の平均値が0.002μm2以上とされており、結晶粒が過度に微細となってしまうことが抑制されている。これにより、粒界結合力をより大きくすることができ、上述の通り、応力を一層確実に吸収できることと相俟って、ニッケルメッキ層の密着性をより一層向上させることができる。
【0017】
尚、ニッケルメッキ層の密着性をより一層向上させるべく、各結晶粒の断面積の平均値を0.005μm2以上0.025μm2以下とし、各結晶粒の断面積の標準偏差を0.003μm2以上0.035μm2以下とすることがより好ましい。
【0018】
構成3.本構成のスパークプラグは、上記構成1又は2において、前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の外形線の長さの平均値が0.2μm以上0.9μm以下とされ、各結晶粒の外形線の長さの標準偏差が0.1μm以上0.8μm以下とされることを特徴とする。
【0019】
上記構成3によれば、上記構成2と同様の作用効果が奏されることとなる。すなわち、結晶粒が全体的にある程度微細なものとなるように構成されているため、応力をより確実に吸収することができるとともに、粒界結合力を一層高めることができる。その結果、ニッケルメッキ層の密着性をより一層向上させることができる。
【0020】
尚、密着性をより一層向上させるべく、各結晶粒の外形線の長さの平均値を0.3μm以上0.7μm以下とし、各結晶粒の外形線の長さの標準偏差を0.2μm以上0.6μm以下とすることがより好ましい。
【0021】
構成4.本構成のスパークプラグは、上記構成1乃至3のいずれかにおいて、前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒における断面の長径を短径で除算したアスペクト比の平均値が1.00以上2.50以下とされることを特徴とする。
【0022】
上記構成4によれば、上記構成2,3とほぼ同様の作用効果が奏されることとなる。すなわち、結晶粒が全体的に円形に近い形状とされており、粒界における凹凸が十分に小さくなるように構成されている。従って、結晶層の一部が薄くなってしまうことをより一層確実に防止することができ、ひいてはニッケルメッキ層の密着性の更なる向上を図ることができる。
【0023】
尚、密着性をより一層向上させるべく、各結晶粒におけるアスペクト比の平均値を1.25以上2.10以下とすることがより好ましい。
【0024】
構成5.本構成のスパークプラグ用主体金具は、軸線方向に延びる筒状をなすとともに、ニッケルを主成分とする金属からなり、自身の外表面を覆うニッケルメッキ層を備えたスパークプラグ用主体金具であって、
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面を、200kVの加速電圧による透過型電子顕微鏡で観察したときの、黒を0とし、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、
前記白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上230以下とされることを特徴とする。
【0025】
上記構成5によれば、スパークプラグ用主体金具において、上記構成1と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0026】
構成6.本構成のスパークプラグ用主体金具は、上記構成5において、前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の断面積の平均値が0.002μm2以上0.035μm2以下とされ、各結晶粒の断面積の標準偏差が0.002μm2以上0.045μm2以下とされることを特徴とする。
【0027】
上記構成6によれば、上記構成2と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0028】
構成7.本構成のスパークプラグ用主体金具は、上記構成5又は6において、前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の外形線の長さの平均値が0.2μm以上0.9μm以下とされ、各結晶粒の外形線の長さの標準偏差が0.1μm以上0.8μm以下とされることを特徴とする。
【0029】
上記構成7によれば、上記構成3と同様の作用効果が奏されることとなる。
【0030】
構成8.本構成のスパークプラグ用主体金具は、上記構成5乃至7のいずれかにおいて、前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒における断面の長径を短径で除算したアスペクト比の平均値が1.00以上2.50以下とされることを特徴とする。
【0031】
上記構成8によれば、上記構成4と同様の作用効果が奏されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態におけるスパークプラグの構成を示す一部破断正面図である。
【図2】ニッケルメッキ層等の構成を示す部分拡大断面図である。
【図3】(a),(b)は、本実施形態におけるスパークプラグの製造過程の一過程を示す主体金具等の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、スパークプラグ1を示す一部破断正面図である。尚、図1では、スパークプラグ1の軸線CL1方向を図面における上下方向とし、下側をスパークプラグ1の先端側、上側を後端側として説明する。
【0034】
スパークプラグ1は、筒状をなす絶縁碍子2、これを保持する筒状のスパークプラグ用主体金具(以下、「主体金具」と称す)3などから構成されるものである。
【0035】
絶縁碍子2は、周知のようにアルミナ等を焼成して形成されており、その外形部において、後端側に形成された後端側胴部10と、当該後端側胴部10よりも先端側において径方向外向きに突出形成された大径部11と、当該大径部11よりも先端側においてこれよりも細径に形成された中胴部12と、当該中胴部12よりも先端側においてこれよりも細径に形成された脚長部13とを備えている。加えて、絶縁碍子2のうち、大径部11、中胴部12、及び、大部分の脚長部13は、主体金具3の内部に収容されている。そして、中胴部12と脚長部13との連接部にはテーパ状の段部14が形成されており、当該段部14にて絶縁碍子2が主体金具3に係止されている。
【0036】
さらに、絶縁碍子2には、軸線CL1に沿って軸孔4が貫通形成されており、当該軸孔4の先端側には中心電極5が挿入、固定されている。当該中心電極5は、熱伝導性に優れる銅又は銅合金からなる内層5A、及び、ニッケル(Ni)を主成分とするNi合金からなる外層5Bにより構成されている。さらに、中心電極5は、全体として棒状(円柱状)をなし、その先端面が平坦に形成されるとともに、絶縁碍子2の先端から突出している。
【0037】
また、軸孔4の後端側には、絶縁碍子2の後端から突出した状態で端子電極6が挿入、固定されている。
【0038】
さらに、軸孔4の中心電極5と端子電極6との間には、円柱状の抵抗体7が配設されている。当該抵抗体7の両端部は、導電性のガラスシール層8,9を介して、中心電極5と端子電極6とにそれぞれ電気的に接続されている。
【0039】
加えて、前記主体金具3は、低炭素鋼等の金属により筒状に形成されており、その外周面にはスパークプラグ1を燃焼装置(例えば、内燃機関や燃料電池改質器等)の取付孔に取付けるためのねじ部(雄ねじ部)15が形成されている。また、ねじ部15の後端側の外周面には座部16が形成され、ねじ部15後端のねじ首17にはリング状のガスケット18が嵌め込まれている。さらに、主体金具3の後端側には、主体金具3を前記燃焼装置に取付ける際にレンチ等の工具を係合させるための断面六角形状の工具係合部19が設けられるとともに、後端部において絶縁碍子2を保持するための加締め部20が設けられている。
【0040】
また、主体金具3の内周面には、絶縁碍子2を係止するためのテーパ状の段部21が設けられている。そして、絶縁碍子2は、主体金具3の後端側から先端側に向かって挿入され、自身の段部14が主体金具3の段部21に係止された状態で、主体金具3の後端側の開口部を径方向内側に加締めること、つまり上記加締め部20を形成することによって固定されている。尚、絶縁碍子2及び主体金具3双方の段部14,21間には、円環状の板パッキン22が介在されている。これにより、燃焼室内の気密性を保持し、燃焼室内に晒される絶縁碍子2の脚長部13と主体金具3の内周面との隙間に入り込む燃料ガスが外部に漏れないようになっている。
【0041】
さらに、加締めによる密閉をより完全なものとするため、主体金具3の後端側においては、主体金具3と絶縁碍子2との間に環状のリング部材23,24が介在され、リング部材23,24間にはタルク(滑石)25の粉末が充填されている。すなわち、主体金具3は、板パッキン22、リング部材23,24及びタルク25を介して絶縁碍子2を保持している。
【0042】
また、主体金具3の先端部には、自身の中間部が曲げ返されて、先端部側面が中心電極5の先端部と対向する接地電極27が接合されている。接地電極27は、Ni合金〔例えば、インコネル600やインコネル601(いずれも登録商標)〕によって形成された外層27Aと、前記Ni合金よりも良熱導電性金属である銅合金や純銅等によって形成された内層27Bとから構成されている。
【0043】
加えて、中心電極5の先端部と接地電極27の先端部との間には、火花放電間隙28が形成されており、当該火花放電間隙28にて軸線CL1にほぼ沿った方向で火花放電が行われるようになっている。
【0044】
また、図2に示すように、主体金具3の表面には、Niを主成分とする金属からなるニッケルメッキ層31が設けられている(尚、図2では、図示の便宜上、ニッケルメッキ層31を通常よりも厚く示している)。ニッケルメッキ層31は、所定の厚さ(例えば、5μm〜15μm)を有しており、主体金具3の表面全域に形成されている。
【0045】
加えて、本実施形態におけるニッケルメッキ層31は、次の条件を満たすように構成されている。すなわち、ニッケルメッキ層31の外表面に直交する断面(少なくとも、ニッケルメッキ層31の表面から2μmまでの範囲の断面)を、200kVの加速電圧による透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する。そして、観察した断面画像を、黒を0とし、白を255とした256階調の白黒濃淡画像としたときに、白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上230以下(より好ましくは、180以上220以下)となるように構成されている。尚、ニッケルメッキ層31は、結晶粒が層状に積み重なることで形成されているが、当該層状の結晶粒(結晶層)同士の粒界において凹凸が小さいと、白黒濃淡画像の平均値は大きなものとなり、結晶層同士の粒界において凹凸が大きいほど、白黒濃淡画像の平均値は小さなものとなる。本実施形態では、白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上230以下と比較的大きなものとされており、ニッケルメッキ層31を構成する結晶層の粒界は、若干の凹凸を有するものの、ほぼ平坦となるように構成されている。
【0046】
尚、ニッケルメッキ層31の断面における白黒濃淡画像の256階調での平均値を計測するにあたっては、次の手法を用いることができる。すなわち、集束イオンビーム加工装置(FIB)により、ニッケルメッキ層31の外表面と直交する方向に沿って当該ニッケルメッキ層31を切断し、ニッケルメッキ層31を含む薄片を得る。そして、加速電圧200kVとしたTEMにより、ニッケルメッキ層31の厚さ方向に沿って10μm、厚さ方向と直交する方向に沿って20μmの範囲において得られた薄片を観察し、前記範囲内においてニッケルメッキ層31を含む7μm×7μmの範囲を撮像する。次いで、所定の画像ソフト(例えば、ペイント)を用いて、得られた撮像画像のうち、ニッケルメッキ層31の外表面から内側に2μmまでの範囲(幅7μm)を抽出する。そして、抽出された画像(抽出画像)を、所定の解析ソフト(例えば、imageJ:アメリカ国立衛星研究所製)により8ビット変換することで、256階調における白黒濃淡画像に変換する。得られた白黒濃淡画像を前記解析ソフトにより解析することで、256階調における平均値を測定する。これにより、ニッケルメッキ層31の断面における白黒濃淡画像の256階調における平均値を計測することができる。尚、FIBとしては、例えば、HITACHI社製の集束イオンビーム加工装置(型番FB−2000)などを挙げることができ、TEMとしては、例えば、HITACHI社製の透過型電子顕微鏡(型番HD−2000)などを挙げることができる。
【0047】
さらに、前記ニッケルメッキ層31の外表面に直交する断面において、ニッケルメッキ層31を構成する各結晶粒の断面積の平均値が0.002μm2以上0.035μm2以下(より好ましくは、0.005μm2以上0.0025μm2以下)とされており、かつ、各結晶粒の断面積の標準偏差が0.002μm2以上0.045μm2以下(より好ましくは、0.003μm2以上0.0035μm2以下)とされている。すなわち、結晶粒はその断面積の平均値が比較的小さく、比較的微細とされる一方で、過度に粗大とならないように構成されている。
【0048】
尚、ニッケルメッキ層31を構成する各結晶粒の断面積の平均値を上述した数値範囲とすることに代えて、又は、各結晶粒の断面積の平均値を上述した数値範囲とすることと併せて、ニッケルメッキ層31の外表面に直交する断面において、ニッケルメッキ層31を構成する各結晶粒の外形線の長さ(周囲長)の平均値を0.2μm以上0.9μm以下(より好ましくは、0.3μm以上0.7μm以下)としつつ、各結晶粒の外形線の長さの標準偏差を0.1μm以上0.8μm以下(より好ましくは、0.2μm以上0.6μm以下)とすることとしてもよい。また、断面積や周囲長の平均値を上述した数値範囲とすることに代えて、又は、断面積や周囲長の平均値を上述した数値範囲とすることと併せて、ニッケルメッキ層31を構成する各結晶粒における断面の長径を短径で除算したアスペクト比の平均値を1.00以上2.50以下(より好ましくは、1.25以上2.10以下)としてもよい。
【0049】
尚、結晶粒の断面積や結晶粒の外形線の長さ、結晶粒のアスペクト比のそれぞれの平均値や結晶粒の断面積などの標準偏差は、次のようにして測定することができる。すなわち、ニッケルメッキ層31の外表面から内側に2μmまでの範囲で抽出された上述の抽出画像から、結晶粒の輪郭(100〜110個)を薄紙に写し取る。そして、前記薄紙をスキャニングして画像データを得るとともに、所定の画像ソフト(例えば、ペイント)により前記画像データを二値化する。二値化された画像データを、所定の解析ソフト(例えば、imageJ)により解析することで、各結晶粒の断面積や外形線の長さ、アスペクト比を計測する。そして、計測されたデータの平均値や標準偏差を算出することで、結晶粒の断面積等の平均値や標準偏差を測定することができる。
【0050】
次に、上記のように構成されてなるスパークプラグ1の製造方法について説明する。まず、主体金具3を予め加工しておく。すなわち、円柱状の金属素材(例えば、S17CやS25Cといった鉄系素材やステンレス素材)に冷間鍛造加工等を施すことにより貫通孔を形成し、概形を製造する。その後、切削加工を施すことで外形を整え、主体金具中間体を得る。
【0051】
続いて、主体金具中間体の先端面に、Ni合金等からなる直棒状の接地電極27が抵抗溶接される。当該溶接に際してはいわゆる「ダレ」が生じるので、その「ダレ」を除去した後、主体金具中間体の所定部位にねじ部15が転造によって形成される。これにより、接地電極27の溶接された主体金具3が得られる。
【0052】
さらに、接地電極27の溶接された主体金具3に対して、バレルメッキ法によるメッキ処理が施され、主体金具3の外表面にニッケルメッキ層31が形成される。メッキ処理に際しては、硫酸ニッケル(NiSO4)や塩化ニッケル(NiCl2)、ホウ酸(H3BO3)を含む酸性(pHが3〜4程度)のメッキ用水溶液が貯留されたメッキ槽と、壁面が網や穴開き板などにより形成され、前記メッキ用水溶液の液中に浸漬される保持容器とを備えたバレルメッキ装置(図示せず)が用いられる。具体的には、前記保持容器に主体金具3を収容し、主体金具3をメッキ用水溶液中に浸漬する。そして、所定のモータにより前記保持容器を回転させながら、主体金具3に対して所定時間に亘って直流電流を流すことにより、主体金具3の表面全域にニッケルメッキ層31を形成する。
【0053】
尚、上述した所定厚さのニッケルメッキ層31を形成するにあたっては、通電時間を長くする一方で、直流電流の電流密度を低めに設定したり、また、通電時間を短くする一方で、直流電流の電流密度を高めに設定したりすることが考えられる。
【0054】
ここで、通電時間を長くする一方で、直流電流の電流密度を低めに設定すると、ニッケルメッキ層31を構成する結晶粒が、主体金具3に対して均一に付着していき、ニッケルメッキ層31の結晶層の粒界において凹凸が小さい状態で(つまり、100面で配向する結晶粒が比較的多い状態で)形成されることとなる。これに対して、通電時間を短くする一方で、直流電流の電流密度を高めに設定すると、ニッケルメッキ層31を構成する結晶粒が、主体金具3に対して不均一に付着していき、ニッケルメッキ層31の粒界における凹凸が比較的大きな状態で(つまり、110面や111面で配向する結晶粒が比較的多い状態で)形成されることとなる。さらに、通電時間を長くし、電流密度を低めに設定すると、ニッケルメッキ層31を構成する各結晶粒が均一に成長するとともに、結晶粒が微細化されるため、各結晶粒の断面積や周囲長、アスペクト比が比較的小さくなり、また、各結晶粒がほぼ均等な大きさで形成されることとなる。一方で、通電時間を短くし、電流密度を高めに設定すると、各結晶粒の成長が不均一なものとなるとともに、結晶粒の粗大化が発生するため、各結晶粒の断面積や周囲長、アスペクト比が比較的大きくなり、また、各結晶粒の大きさにバラツキが生じることとなる。
【0055】
これらの点を考慮して、本実施形態では、メッキ処理に際して、通電時間が比較的長く(例えば、55分以上85分以下と)される一方で、電流密度が比較的低く(例えば、0.24A/dm2以上0.36A/dm2以下と)されている。これにより、ニッケルメッキ層31の粒界の凹凸を十分に小さくすることができるとともに、ニッケルメッキ層31を構成する各結晶粒の断面積や周囲長、アスペクト比を比較的小さくすることができ、かつ、各結晶粒がほぼ均等な大きさで形成できるようになっている。
【0056】
また、前記主体金具3とは別に、絶縁碍子2を成形加工しておく。例えば、アルミナを主体としバインダ等を含む原料粉末を用い、成型用素地造粒物を調製し、これを用いてラバープレス成形を行うことで、筒状の成形体が得られる。得られた成形体に対し、研削加工を施すことにより整形するとともに、整形されたものを焼成炉にて焼成することで、絶縁碍子2が得られる。
【0057】
また、前記主体金具3、絶縁碍子2とは別に、中心電極5を製造しておく。すなわち、中央部に放熱性向上を図るための銅合金を配置したNi合金を鍛造加工して中心電極5を作製する。
【0058】
そして、上記のようにして得られた絶縁碍子2に対して、中心電極5、端子電極6、及び、抵抗体7が、ガラスシール層8,9によって封着固定される。ガラスシール層8,9としては、一般的にホウ珪酸ガラスと金属粉末とが混合されて調製されており、当該調製されたものが抵抗体7を挟むようにして絶縁碍子2の軸孔4内に注入された後、後方から端子電極6で押圧しつつ、焼成炉内にて加熱されることで、中心電極5等が封着固定される。尚、このとき、絶縁碍子2の後端側胴部10表面に釉薬層を同時に焼成することとしてもよいし、事前に釉薬層を形成することとしてもよい。
【0059】
その後、加締め加工を施すことにより、中心電極5及び端子電極6を備える絶縁碍子2と、接地電極27を備える主体金具3とが固定される。すなわち、図3(a)に示すように、第1の金型51に主体金具3の先端側を挿入することで、第1の金型51により主体金具3を保持する。次いで、第2の金型52を主体金具3の上方から装着する。第2の金型52は筒状をなすとともに、前記加締め部20の形状に対応した湾曲面状をなす湾曲面部52fを備えている。
【0060】
第2の金型52を装着した上で、第1、第2の金型51,52によって前記主体金具3を挟み込み、主体金具3に対して軸線CL1方向に沿った押圧力を加える。これにより、図3(b)に示すように、主体金具3の後端側開口部が径方向内側へと加締められ、加締め部20が形成されるとともに、絶縁碍子2と主体金具3とが固定される。
【0061】
次いで、ガスケット18を設けるとともに、接地電極27を中心電極5側に屈曲させる。そして最後に、中心電極5と接地電極27との間に形成された火花放電間隙28の大きさを調整することで、上述したスパークプラグ1が得られる。
【0062】
以上詳述したように、本実施形態によれば、ニッケルメッキ層31のうち、その外表面に直交する断面を200kVの加速電圧により透過型電子顕微鏡で観察したときに得られた、黒を0、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、その濃淡の平均値が170以上とされている。従って、ニッケルメッキ層31を構成する結晶粒の粒界における凹凸を十分に小さなものすることができ、結晶層の一部が薄くなってしまうことをより確実に防止することができる。これにより、主体金具3の後端部を屈曲させる際などニッケルメッキ層31に応力が加えられたときに、各結晶層において応力を十分に吸収することができる。
【0063】
また、白黒濃淡画像の平均値が230以下とされており、粒界の凹凸が過度に小さくなってしまうことが抑制されている。従って、結晶層同士の接触面積を十分に確保することができ、粒界結合力を十分に大きなものとすることができる。その結果、応力が加えられたときの結晶層の浮きや剥離を抑制することができる。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、各結晶層において応力をより確実に吸収することができるとともに、結晶層の剥離等を効果的に抑制することができる。その結果、主体金具3に対するニッケルメッキ層31の密着性を向上させることができ、ひいてはニッケルメッキ層31を設けることによる耐食性の向上効果を十分に発揮させることができる。
【0065】
さらに、各結晶粒の断面積の平均値、周囲長の平均値、及び、アスペクト比の平均値のいずれかが上述した数値範囲とされることで、粒界の凹凸をより小さなものとすることができ、また、結晶層同士の接触面積を一層大きく確保することができる。その結果、各結晶層において応力を一層確実に吸収することができるとともに、粒界結合力をより大きくすることができ、ニッケルメッキ層31の密着性をより一層向上させることができる。
【0066】
次に、上記実施形態によって奏される作用効果を確認すべく、メッキ処理を施す際の通電時間や電流密度を変更することで、ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面を、200kVの加速電圧による透過型電子顕微鏡で観察したときの、黒を0とし、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、当該白黒濃淡画像の濃淡の平均値を種々変更した主体金具のサンプルを複数作製し、各サンプルに対してメッキ密着性試験を行った。メッキ密着性試験の概要は次の通りである。すなわち、常温において上述した加締め加工を施すことで、主体金具のサンプルに加締め部を形成し、サンプルと絶縁碍子とを固定した。そして、形成された加締め部におけるニッケルメッキ層の状態を観察し、主体金具に対してメッキの浮きや剥離が生じていないものは、主体金具に対するメッキの密着性に極めて優れるとして「◎」の評価を下すこととした。また、メッキの浮き等が発生していたものの、メッキの浮き等が生じた部位の面積(浮き発生面積)が加締め部の表面積の5%以下と十分に小さかったものは、密着性に優れるとして「○」の評価を下すこととした。一方で、浮き発生面積が加締め部の表面積の5%超10%以下となったものは、密着性にやや劣るとして「△」の評価を下し、浮き発生面積が10%を超えたものは、密着性に劣るとして「×」の評価を下すこととした。
【0067】
また、加締め部を形成した後の主体金具のサンプルに対して、JIS H8502に規定される中性塩水噴霧試験方法に基づいて耐食性評価試験を行った。すなわち、各サンプルを塩水を噴霧した雰囲気に48時間に亘って放置し、加締め部の表面に赤錆が発生するか否かを確認した。ここで、赤錆の発生が確認されなかったサンプルは、耐食性に極めて優れるとして「◎」の評価を下し、赤錆が発生していたものの、赤錆が発生した部位の面積(赤錆発生面積)が加締め部の表面積の5%以下と十分に小さかったものは、耐食性に優れるとして「○」の評価を下すこととした。一方で、赤錆発生面積が加締め部の表面積の5%超10%以下となったものは、耐食性にやや劣るとして「△」の評価を下すこととした。
【0068】
表1に、メッキ密着性試験、及び、耐食性評価試験の試験結果をそれぞれ示す。また、表1には、メッキ処理を施した際の通電時間、及び、電流密度を併せて示す。尚、各サンプルともに、メッキ処理を施す際の通電時間及び電流密度を同一のものとして、試験用のサンプルと前記濃淡の平均値を測定するためのサンプルとをそれぞれ用意した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すように、白黒濃淡画像の平均値を160以下としたサンプルは、密着性や耐食性にやや劣ることが明らかとなった。これは、白黒濃淡画像の平均値が比較的小さかった(つまり、粒界の凹凸が比較的大きかった)ため、結晶層に厚みの薄い部分が形成されてしまい、加締め加工による応力がニッケルメッキ層に加わった際に、当該厚みの薄い部分にて応力を十分に吸収することができず、当該部分にてメッキの浮き等が発生してしまったためであると考えられる。
【0071】
また、白黒濃淡画像の平均値を240としたサンプルは、密着性に劣ることが分かった。これは、白黒濃淡画像の平均値が非常に大きかった(つまり、結晶層の粒界が極めて平坦に近い状態で形成された)ため、結晶層同士の接触面積が過度に小さくなってしまい、その結果、粒界結合力が低下してしまったことに起因すると考えられる。
【0072】
これに対して、白黒濃淡画像の平均値を170以上230以下としたサンプルは、密着性及び耐食性の双方に優れることが明らかとなった。これは、結晶層がほぼ均等な厚みで形成されたことで、加締めによる応力が各結晶層においてより確実に吸収されたとともに、結晶層同士の接触面積が十分に確保されたことで、粒界結合力の低下防止が図られたこと、また、これらの作用効果により密着性が向上したことでニッケルメッキ層の本来有する耐食性が十分に発揮されたことによると考えられる。
【0073】
また特に、白黒濃淡画像の平均値を180以上220以下としたサンプルは、密着性及び耐食性の双方において極めて優れることが確認された。
【0074】
以上の試験結果より、密着性及び耐食性の双方を向上させるべく、ニッケルメッキ層の断面における白黒濃淡画像の平均値を170以上230以下とすることが好ましく、180以上220以下とすることがより好ましいといえる。
【0075】
次いで、ニッケルメッキ層の外表面と直交する断面における、当該ニッケルメッキ層を構成する結晶粒の断面積の平均値(平均断面積)、結晶粒の周囲長の平均値(平均周囲長)、又は、結晶粒のアスペクト比の平均値(平均アスペクト比)を種々変更した主体金具のサンプルを作製し、サンプルを900℃で15分間加熱した上で(つまり、ニッケルメッキ層の剥離がより生じやすい状態で)、上述のメッキ密着性試験を行った。ここで、密着性を維持する上で厳しい条件にも関わらず、浮き発生面積が加締め部の表面積の5%以下と極めて小さかったものは、密着性に非常に優れるとして「◎」の評価を下し、浮き発生面積が加締め部の表面積の5%超10%以下となったものは、密着性に優れるとして「○」の評価を下すこととした。一方で、浮き発生面積が10%を超えたものは、十分な密着性を有するものの、他のサンプルと比較して密着性にやや劣るとして「△」の評価を下すこととした。
【0076】
また、平均断面積、平均周囲長、又は、平均アスペクト比を種々変更したスパークプラグのサンプルについて、放置時間を96時間として(つまり、赤錆がより発生しやすい条件として)、上述の耐食性評価試験を行った。ここで、腐食が非常に生じやすい条件にも関わらず、赤錆発生面積が加締め部の表面積の5%以下と極めて小さかったものは、耐食性に非常に優れるとして「◎」の評価を下し、赤錆発生面積が加締め部の表面積の5%超10%以下となったものは、耐食性に優れるとして「○」の評価を下すこととした。一方で、赤錆発生面積が10%を超えたものは、十分な耐食性を有するものの、他のサンプルと比較して耐食性にやや劣るとして「△」の評価を下すこととした。尚、各サンプルともに、ニッケルメッキ層の断面における白黒濃淡画像の平均値を170以上230以下とした。
【0077】
表2に、平均断面積を変更したサンプルにおける両試験の試験結果を示し、表3に、平均周囲長を変更したサンプルにおける両試験の試験結果を示し、表4に、平均アスペクト比を変更したサンプルにおける両試験の試験結果を示す。尚、表2には、各結晶粒の断面積の標準偏差を示し、表3には、各結晶粒の周囲長の標準偏差を併せて示す。加えて、表2〜4に、メッキ処理を施した際の通電時間、及び、電流密度を示す。
【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
表2〜表4に示すように、断面積の標準偏差を0.002μm2以上0.045μm2以下としつつ、平均断面積を0.002μm2以上0.035μm2以下としたサンプル、周囲長の標準偏差を0.1μm以上0.8μm以下としつつ、平均周囲長を0.2μm以上0.9μm以下としたサンプル、又は、平均アスペクト比を1.00以上2.50以下としたサンプルは、密着性及び耐食性の双方においてより優れた性能を実現できることが明らかとなった。これは、
(1)断面積の標準偏差を0.002μm2以上0.045μm2以下としつつ、平均断面積を0.035μm2以下としたこと、周囲長の標準偏差を0.1μm以上0.8μm以下としつつ、平均周囲長を0.9μm以下としたこと、又は、平均アスペクト比を2.50以下としたことで、結晶粒の粒径が全体的に比較的小さなものとなり、結晶層がより均等な厚みで形成され、加締め時の応力をより一層確実に吸収することができたこと、及び、
(2)平均断面積を0.002μm2以上、平均周囲長を0.2μm以上、又は、平均アスペクト比を1.00以上としたことで、結晶粒の過度の微細化を抑制することができ、粒界結合力をより高めることができたこと
によると考えられる。
【0082】
また特に、断面積の標準偏差を0.003μm2以上0.035μm2以下としつつ、平均断面積を0.005μm2以上0.025μm2以下としたサンプル、周囲長の標準偏差を0.2μm以上0.6μm以下としつつ、平均周囲長を0.3μm以上0.7μm以下としたサンプル、又は、平均アスペクト比を1.25以上2.10以下としたサンプルは、極めて優れた密着性及び耐食性を有することが確認された。
【0083】
以上の試験結果より、密着性及び耐食性の双方をより一層向上させるという観点からは、断面積の標準偏差を0.002μm2以上0.045μm2以下としつつ、平均断面積を0.002μm2以上0.035μm2以下としたり、周囲長の標準偏差を0.1μm以上0.8μm以下としつつ、平均周囲長を0.2μm以上0.9μm以下としたり、平均アスペクト比を1.00以上2.50以下としたりすることが好ましいといえる。
【0084】
また、密着性及び耐食性の更なる向上を図るためには、断面積の標準偏差を0.003μm2以上0.035μm2以下としつつ、平均断面積を0.005μm2以上0.025μm2以下としたり、周囲長の標準偏差を0.2μm以上0.6μm以下としつつ、平均周囲長を0.3μm以上0.7μm以下としたり、又は、平均アスペクト比を1.25以上2.10以下としたりすることが一層好ましいといえる。
【0085】
尚、上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。勿論、以下において例示しない他の応用例、変更例も当然可能である。
【0086】
(a)主体金具3にねじ部15を形成する際の転造加工などにより、ニッケルメッキ層31を設ける前段階において主体金具3の表面には、油などの不純物が付着し得る。この点を考慮して、上述したニッケルメッキ層31を設けるメッキ処理の前段階に、主体金具3に対してニッケルストライク処理を施し、主体金具3の表面に薄膜のニッケルストライクメッキを設けることとしてもよい。ニッケルストライク処理は、例えば、NiSO4やNiCl2、H3BO3、HClを含む強酸性(pHが1以下)のメッキ用水溶液を用いてバレルメッキ処理を施すものであり、ニッケルストライク処理を施すことで、主体金具3の表面に付着した不純物を除去することができる。その結果、主体金具3に対するニッケルメッキ層31の密着性をより向上させることができ、耐腐食性を一層向上させることができる。
【0087】
(b)上記実施形態では特に記載していないが、C(鉱物油)、Ba、Ca、Na、及び、Sのうち、少なくとも一種を含有する油をニッケルメッキ層31の表面に塗布し、耐腐食性の更なる向上を図ることとしてもよい。
【0088】
(c)上記実施形態では、主体金具3の表面にニッケルメッキ層31のみが設けられる例を示しているが、ニッケルメッキ層31の表面にクロメート層を設けることとしてもよい。この場合には、耐腐食性の更なる向上を図ることができる。尚、クロメート層の表面に、C(鉱物油)、Ba、Ca、Na、及び、Sのうち少なくとも一種を含有する油を塗布することとしてもよい。
【0089】
加えて、上述したニッケルメッキ層31やクロメート層、前記油に対して、C(鉱物油、グラファイト)を含有し、Al、Ni、Zn、Cuから選ばれる成分を1種類以上含有する焼付き防止剤を塗布することとしてもよい。すなわち、ニッケルメッキ層31の表面(ニッケルストライクメッキを設けてもよいし、設けなくてもよい)に焼付き防止剤を塗布することとしてもよい。また、ニッケルメッキ層31の表面に設けられたクロメート層(ニッケルメッキ層31の内側にニッケルストライクメッキを設けてもよいし、設けなくてもよい)に焼付き防止剤を塗布することとしてもよい。さらに、ニッケルメッキ層31、又は、ニッケルメッキ層31の表面に設けられたクロメート層(ニッケルメッキ層31の内側にニッケルストライクメッキを設けてもよいし、設けなくてもよい)に塗布された前記油に対して、さらに焼付け防止剤を塗布することとしてもよい。
【0090】
(d)上記実施形態では、主体金具3の先端部に接地電極27が接合される場合について具体化しているが、主体金具の一部(又は、主体金具に予め溶接してある先端金具の一部)を削り出すようにして接地電極を形成する場合についても適用可能である(例えば、特開2006−236906号公報等)。
【0091】
(e)上記実施形態では、工具係合部19は断面六角形状とされているが、工具係合部19の形状に関しては、このような形状に限定されるものではない。例えば、Bi−HEX(変形12角)形状〔ISO22977:2005(E)〕等とされていてもよい。
【符号の説明】
【0092】
1…スパークプラグ
3…主体金具(スパークプラグ用主体金具)
31…ニッケルメッキ層
CL1…軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる筒状の主体金具と、
ニッケルを主成分とする金属からなり、前記主体金具の外表面を覆うニッケルメッキ層とを備えたスパークプラグであって、
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面を、200kVの加速電圧による透過型電子顕微鏡で観察したときの、黒を0とし、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、
前記白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上230以下とされることを特徴とするスパークプラグ。
【請求項2】
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の断面積の平均値が0.002μm2以上0.035μm2以下とされ、各結晶粒の断面積の標準偏差が0.002μm2以上0.045μm2以下とされることを特徴とする請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の外形線の長さの平均値が0.2μm以上0.9μm以下とされ、各結晶粒の外形線の長さの標準偏差が0.1μm以上0.8μm以下とされることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒における断面の長径を短径で除算したアスペクト比の平均値が1.00以上2.50以下とされることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
軸線方向に延びる筒状をなすとともに、ニッケルを主成分とする金属からなり、自身の外表面を覆うニッケルメッキ層を備えたスパークプラグ用主体金具であって、
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面を、200kVの加速電圧による透過型電子顕微鏡で観察したときの、黒を0とし、白を255とした256階調の白黒濃淡画像において、
前記白黒濃淡画像の256階調での平均値が170以上230以下とされることを特徴とするスパークプラグ用主体金具。
【請求項6】
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の断面積の平均値が0.002μm2以上0.035μm2以下とされ、各結晶粒の断面積の標準偏差が0.002μm2以上0.045μm2以下とされることを特徴とする請求項5に記載のスパークプラグ用主体金具。
【請求項7】
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒の外形線の長さの平均値が0.2μm以上0.9μm以下とされ、各結晶粒の外形線の長さの標準偏差が0.1μm以上0.8μm以下とされることを特徴とする請求項5又は6に記載のスパークプラグ用主体金具。
【請求項8】
前記ニッケルメッキ層の外表面に直交する断面において、前記ニッケルメッキ層を構成する各結晶粒における断面の長径を短径で除算したアスペクト比の平均値が1.00以上2.50以下とされることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載のスパークプラグ用主体金具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−64373(P2012−64373A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206329(P2010−206329)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【特許番号】特許第4871407号(P4871407)
【特許公報発行日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】