説明

スピネル型リチウム・マンガン系複合酸化物粒子の製造方法ならびに用途

【課題】正極材として用いたときに集電体基板を損傷することがなく、また、この時、圧着しても粒子の破壊がなく、体積当たりの放電容量が高く、高温で使用したときのサイクル特性に優れたリ球状のリチウム・マンガン複合酸化物微粒子を提供する。
【解決手段】下記の工程(a)〜(c)からなることを特徴とするスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法;
(a)リチウム化合物(水酸化リチウム)、平均一次粒子径(D1)が0.1〜1μmの範囲にある二酸化マンガン粒子(A)、アルミナゾルおよびホウ素化合物を、Li:Mn:Al:Bの原子比が(x+y):(2−y−z):z1:z2(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、z1(Al)=0.01〜0.2、z2(B)=0.0005〜0.05、z=z1+z2)の比率となり、固形分濃度が5〜50重量%の範囲にあり、
該分散液の降伏応力値が5〜500Paの範囲にあり、
pHが9〜14の範囲にある噴霧乾燥用混合物分散液を調製する工程。
(b)噴霧乾燥する工程。
(c)焼成する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比表面積が小さく、粒子密度および粒子の充填密度が高く、格子定数が均一で、圧縮弾性率が高く、しかも粒子毎の圧縮弾性率の変動幅が小さく均一なスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子およびその製造方法、ならびに前記粒子特性を有するために電極膜形成時に集電体基板を損傷することがなく、また、この時、圧着しても粒子の破壊がなく、正極材として用いた場合にMnの溶出が少なく、充放電容量が高く、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池とに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池用正極材として、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム及びマンガン酸リチウムなどが一部実用化され、高性能化を目指して研究・開発が進められている。
【0003】
これらのうち、コバルト酸リチウムは原料のコバルトが高価であり、また実効蓄電量が理論量の約50%しかないと言う問題がある。またニッケル酸リチウムは安価で実効蓄電量がコバルト酸リチウムの約1.4倍もあり注目されているが、合成が困難であり、安全性にも問題がある。一方、マンガン酸リチウムは実効蓄電量はコバルト酸リチウムより若干劣るが、原料のマンガンが安価なことと、保存性や安全性がコバルト酸リチウムと同等であるので、リチウムイオン電池用正極材として期待されている。
【0004】
これらの正極材は、微粒子状のものをグラファイトなどの炭素系導電剤及びバインダーと共に有機溶剤に混合してペースト状合剤とし、これを15〜20μmのアルミ箔に均一な厚さに塗布する。次いで、乾燥後合剤の密度を高くすると共に電極の厚さを均一にするためにプレス機で圧縮して電池用正極が製造される。この正極が負極、セパレーターなどと共に電池用容器に装填され電池が構成されるが、一定容積の電池中にできるだけ多くの正極材が充填されることが充電容量又は放電容量などの電池性能を向上させる意味で好ましい。このためには、合剤中の正極材の量を多くすれば良いが、合剤中に配合し得る正極材の量にも制限がある。そこで、できるだけ緻密な微粒子の正極材を用いれば、充填密度が大きいことから、単位体積当たりに充填される正極材の重量が多くなり、放電容量の高い電池が得られる。すなわち、正極材としては重量当たりの放電容量と同時に、体積当たりの放電容量(重量当たりの放電容量×正極材微粒子の充填密度)の高いことも正極材の重要な因子である。
【0005】
しかしながら、従来正極材として用いられているマンガン酸リチウムの微粒子は、同じ粒径のコバルト酸リチウムの微粒子と比較した時の充填密度が小さい。そのため、同一容積の正極材を比較した場合、重量当たりの放電容量はコバルト酸リチウムの80%程度が期待できるが、体積当たりの放電容量は50〜60%程度と低くなると言う問題点がある。さらに、従来のマンガン酸リチウムを正極材として用いた電池では、充放電を繰り返すうちに次第に放電容量が低下するという、サイクル特性の低下の問題点がある。
【0006】
これらの問題点を解決するために、マンガン酸リチウムに、例えばBなどの第三成分を添加したリチウム・マンガン複合酸化物が提案されている(特開平4−237970号公報:特許文献1)、特開平5−290846号公報:特許文献2、特開平8−195200号公報:特許文献3)。
【0007】
また、特開平11−71115号公報(特許文献4)には、LiおよびMn以外の少なくとも1種の他元素を含有し、有機溶媒中でMn溶出が少ないスピネル構造リチウム・マンガン系酸化物からなる正極活物質(以下、正極材ということがある)が開示されている。
【0008】
この時の正極材の製造方法として、マンガン化合物として平均凝集粒子径が0.5〜50μmの二酸化マンガン粒子を用い、これに他種元素化合物を混合し、造粒した後、500〜1000℃で焼成する方法が開示されている。この時、原料を均一に混合するとともに造粒、焼成を行う方法としてロータリーキルンを使用することが推奨されている。
【0009】
しかしながら、平均凝集粒子径が0.5〜50μmの二酸化マンガン粒子と他種元素化合物とをロータリーキルンで混合、焼成する方法では、混合がミクロに均一にならず、得られる粒子の組成、格子定数、粒子密度等の変動が大きく不均一となり、加えて、連続式、バッチ式に拘わらず焼成温度を均一にすることが困難で、得られるスピネル構造リチウムマンガン系酸化物粒子の密度、比表面積、結晶子系 一次粒子径等が変動し、正極材として用いた場合、高性能を維持することが困難であったり、また、性能が変動することがあり、さらに改良することが求められていた。
【0010】
さらにまた、本願出願人は特開平11−171551号公報(特許文献5)に、B(ホウ素)またはV(バナジウム)を含む融点が800℃以下の酸化物を含み、結晶粒子の大きさが約0.1〜5.0μmの範囲にあり、焼結して平均粒子径が2〜30μmのリチウム・マンガン複合酸化物粒子およびその製造方法を開示している。
【0011】
製造方法として、具体的には、リチウム化合物、二酸化マンガン粒子、融点が800℃以下の酸化物を所定組成範囲となるように混合した水懸濁液を噴霧乾燥等により乾燥した後、ロータリーキルン等により650〜900℃で焼成している。この時、原料二酸化マンガン粒子は、好ましくは平均粒子径を0.1〜5μmの範囲に予め湿式粉砕等により調整することが記載されている。また、水懸濁液(混合スラリー)の固形分濃度は10〜30重量%が好ましいと特許文献5には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−237970号公報
【特許文献2】特開平5−290846号公報
【特許文献3】特開平8−195200号公報
【特許文献4】特開平11−71115号公報
【特許文献5】特開平11−171551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献1〜3に記載のものでは、しかし、これらのリチウム・マンガン複合酸化物を正極材として用いた電池では、常温より高い温度で使用したときのサイクル特性が低いという問題が依然残されている。
【0014】
また特許文献4に記載の方法では、平均凝集粒子径が0.5〜50μmの二酸化マンガン粒子と他種元素化合物とをロータリーキルンで混合、焼成する方法では、混合がミクロに均一にならず、得られる粒子の組成、格子定数、粒子密度等の変動が大きく不均一となり、加えて、連続式、バッチ式に拘わらず焼成温度を均一にすることが困難で、得られるスピネル構造リチウムマンガン系酸化物粒子の密度、比表面積、結晶子系 一次粒子径等が変動し、正極材として用いた場合、高性能を維持することが困難であったり、また、性能が変動することがあり、さらに改良することが求められていた。
【0015】
さらに引用文献5の方法では、上記水懸濁液は粗大粒子が存在したり、微細粒子が凝集して粗大粒子化するためか、経時変化により沈降する粒子が存在し、噴霧乾燥し、焼成して得られる粒子の組成、密度、比表面積、格子定数等が経時的に変化して不均一になり、正極材として用いた際に放電容量、サイクル特性等が不充分となる問題があった。
【0016】
また、水懸濁液の経時変化により、噴霧乾燥して得られる粒子の中に凹部を有していたり、お碗状の粒子が存在し、これを高温で焼成して得られる粒子の粒子緻密が変動しやすく、低下する傾向があり、正極材として用いた際に放電容量、サイクル特性等が不充分となる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような状況の下、本発明者等は、上記問題点について鋭意検討した結果、リチウム化合物、二酸化マンガン粒子、アルミナゾルおよびホウ酸を所定組成範囲となるように混合し、pHを所定範囲に調整すると、水懸濁液の降伏応力値が所定の範囲となり、即ち、水懸濁液中で二酸化マンガン粒子が他の成分とともに緩く凝集して全体的に三次元ゲル構造を取ることを見出し、これにより、前記した経時変化による凝集、粒子の粗大化、さらには粒子の沈降を抑制することができ、経時変化がなくなるとともに粒子密度が高く、格子定数の変動幅が小さく、しかも圧縮弾性率の変動係数の小さいリチウム・マンガン複合酸化物粒子が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]下記の工程(a)〜(c)からなることを特徴とするスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法;
(a)リチウム化合物(水酸化リチウム)、平均一次粒子径(D1)が0.1〜1μmの範囲にある二酸化マンガン粒子(A)、アルミナゾルおよびホウ素化合物を、Li:Mn:Al:Bの原子比が(x+y):(2−y−z):z1:z2(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、z1(Al)=0.01〜0.2、z2(B)=0.0005〜0.05、z=z1+z2)の比率となり、固形分濃度が5〜50重量%の範囲にあり、該分散液の降伏応力値が5〜500Paの範囲にあり、pHが9〜14の範囲にある噴霧乾燥用混合物分散液を調製する工程。
(b)噴霧乾燥する工程。
(c)焼成する工程。
【0019】
[2]前記工程(c)についで、さらに下記工程(d)を行う[1]のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法;
(d)平均粒子径(D3)が10〜20μmの範囲にあり、粒子径分布が2〜40μmとなるように解砕する工程。
[3]前記工程(a)における二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位が−60〜−5mVの範囲にある[1]または[2]のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法。
[4]充填かさ密度(ABD)が1.0〜1.6g/mlの範囲にあり、圧縮充填密度(CBD)が1.5〜2.1g/mlの範囲に、CBDとABDとの比CBD/ABDが1.1〜1.8の範囲にある[1]〜[3]のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法。
【0020】
[5]10%圧縮弾性率が20〜200kgf/mm2の範囲にあり、10%圧縮弾性率の変動係数(CV値)が5〜30%の範囲にある[1]〜[4]のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法。
[6]下記の一般式で示されるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子であって、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあり、平均粒子径(D3)が10〜20μmの範囲にあり、粒子径分布が2〜40μmの範囲にあり、充填かさ密度(ABD)が1.0〜1.6g/mlの範囲にあり、圧縮充填密度(CBD)が1.5〜2.1g/mlの範囲に、CBDとABDとの比CBD/ABDが1.1〜1.8の範囲にあり、格子常数が8.15000〜8.25000オングストロームの範囲にあり、該格子定数の標準偏差が0.00092オングストローム以下であり、10%圧縮弾性率が20〜200kgf/mm2の範囲にあり、10%圧縮弾性率の変動係数(CV値)が5〜30%の範囲にあることを特徴とするリチウム・マンガン複合酸化物粒子。
Li(x+y)Mn(2-y-z)z4
(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、MはAlおよびBで、z1(Al)=0.01〜0.2、z2(B)=0.0005〜0.05)
[7]前記[1]〜[5]のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法によって製造された[6]のリチウム・マンガン複合酸化物粒子。
[8]前記[1]〜[5]の製造方法によって製造されたスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を正極材として用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、球状のリチウム・マンガン複合酸化物微粒子が得られる。このような粒子を、正極材として用いるとなどに塗布する際にアルミ箔を傷つけるようなことがなく、正極材として用いたときにアルミ箔などの金属箔を含む集電体基板を損傷することがなく、また、この時、圧着しても粒子の破壊がない。その結果、体積当たりの放電容量が高く、高温で使用したときのサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
まず、本発明に係るスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法について説明する。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法
本発明に係るスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法は、下記の工程(a)〜(c)からなることを特徴とする。
【0023】
[(a)分散液調製工程]
まず、(a)リチウム化合物(水酸化リチウム)、平均一次粒子径(D1)が0.1〜1μmの範囲にある二酸化マンガン粒子、アルミナゾルおよびホウ素化合物を、Li:Mn:Al:Bの原子比が(x+y):(2−y−z):z1:z2(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、z1(Al)=0.01〜0.2、z2(B)=0.0005〜0.05、z=z1+z2)の比率となり、固形分濃度が5〜50重量%の範囲にあり、該分散液の降伏応力値が5〜500Paの範囲にあり、pHが9〜14の範囲にある噴霧乾燥用混合物分散液を調製する。
【0024】
二酸化マンガン粒子
本発明に用いる二酸化マンガン粒子は、通常、電解二酸化マンガン粉末、化学合成二酸化マンガン粉末が用いられる。また水酸化マンガン、炭酸マンガン、硝酸マンガンなどの熱分解して二酸化マンガンとなるマンガン化合物あるいはこれらの混合物を用いることができる。
【0025】
本発明では、電解二酸化マンガン粉末が好適に用いられるが、そのままもちいた場合は粒子径が大きく、高温で加熱処理しても効率的にスピネル結晶化せず、二酸化マンガンとして残存する場合があり、放充電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0026】
通常、電解二酸化マンガン粉末を粉砕して用いるが、粉砕した二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)は0.1〜1μm、さらには0.2〜0.8μmの範囲にあることが好ましい。
【0027】
ここで、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径とは、粒子径の測定において、超音波を照射した直後の凝集のない状態で測定した粒子径を意味している。
なお、上記の平均一次粒子径は超音波照射装置(堀場製作所性: LA−950v2)を用いて測定した値である。
【0028】
二酸化マンガン粒子の平均一次粒子径(D1)が小さいと、リチウム化合物(水酸化リチウム)、アルミナゾル、ホウ素化合物および二酸化マンガン粒子(A)からなる噴霧乾燥用混合物分散液において、二酸化マンガン粒子(A)の後述するゼータ電位が−60mVより低くなる(つまりマイナス電荷が大きくなる)場合があり、また降伏応力値が500Paを越えて高くなる場合があり、この場合噴霧乾燥用混合物分散液が固いプリン状態になり、噴霧乾燥が困難となり、噴霧乾燥できたとしても均一に乾燥することが困難で、緻密で球状のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を得ることが困難である。
【0029】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の粒子密度が変動しやすく低下する傾向があり、また、格子定数の変動幅が大きくなる場合があり、このような粒子を正極材として用いた際に電極の強度、密度等が低下する場合があり、放電容量、サイクル特性等が不充分となる場合がある。
【0030】
二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)が大きすぎると、水酸化リチウム、アルミナゾル、ホウ酸および二酸化マンガン粒子(A)からなる噴霧乾燥用混合物分散液において、二酸化マンガン一次粒子のゼータ電位(表面電荷量)が−5mVを越えることになる。これにより、コロイド的な性質が不充分となり粒子間の反発力が小さくなるため二酸化マンガン一次粒子が容易に凝集し、時間とともに粗大凝集粒子化し、このような噴霧乾燥用混合物分散液を噴霧乾燥すると、より高温での焼成を必要とし、高温で焼成した場合は格子欠陥が増加するためかMnの溶出が増加する場合がある。また、得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子は粒子密度が低く、格子定数の変動幅が大きく、しかも圧縮弾性率が低く圧縮弾性率の変動係数が大きくなり、このような粒子を用いた二次電池は充放電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0031】
リチウム化合物
本発明に用いるリチウム化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、酸化リチウム等が挙げられる。中でも、水酸化リチウム、炭酸リチウムは好適に用いることができる。
【0032】
アルミナゾル
本発明ではLi、Mn以外の第1の元素としてAlが使用される。本発明の調製工程では、Alの化合物としてアルミナゾル(Al23・nH2O)を用いる。
【0033】
アルミナゾル中のアルミナ(水和物)粒子は概ね繊維状の一次粒子であるかこれらが束になった二次粒子である。
アルミナ粒子の平均一次粒子径は、5〜50nm、さらには10〜30nmの範囲にあることが好ましい。
【0034】
平均一次粒子径が前記範囲にあれば多量のアルミナ(水和物)粒子が二酸化マンガン一次粒子(A)に付着あるいは吸着し、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位が低下し、水懸濁液中で二酸化マンガン粒子が他の成分とともに緩く凝集して全体的に三次元ゲル構造を取るようになって、降伏応力値が所定の範囲となり、経時変化による凝集、粒子の粗大化、さらには粒子の沈降を抑制することができる。
【0035】
アルミナ(水和物)粒子の平均一次粒子径が小さいと、アルミナ(水和物)粒子同士が凝集し、最終的に得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の組成分布が不均一になる場合がある。
【0036】
アルミナ(水和物)粒子の平均一次粒子径が大きすぎると、二酸化マンガン粒子(A)への付着量が低下するためかゼータ電位が高くなる(つまりマイナス電荷が小さく、場合によってプラス電荷になる)とともにコロイド的な性質が不充分となり粒子間の反発力が小さくなり、分散液の降伏応力値が小さくなる。このため二酸化マンガン一次粒子が容易に凝集し、時間とともに粗大凝集粒子化するとともに、このような噴霧乾燥用混合物分散液を噴霧乾燥し、高温で焼成した場合は格子欠陥が増加するためかMnの溶出が増加する場合があり、また、得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子は粒子密度が低く、格子定数の変動幅が大きく、しかも圧縮弾性率が低く圧縮弾性率の変動係数が大きくなり、このような粒子を用いた二次電池は充放電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0037】
平均一次粒子径は、アルミナ水和物微粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM)を撮影し、100個の粒子について幅および長さを測定し、幅と長さの和の1/2を一次粒子の粒子径とし、その平均値とした。
【0038】
また、アルミナ(水和物)二次粒子の平均二次粒子径は1,000nm以下、さらには800nm以下の範囲にあることが好ましい。
アルミナ(水和物)二次粒子の平均二次粒子径が大きすぎると、アルミナ粒子の分散性が不十分となり、加えて二酸化マンガン一次粒子(A)との混合状態が不均一となり、最終的に得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の組成分布が不均一になり、この場合はAlのドーピングが不充分になる場合があり、Alを用いる効果、すなわち結晶構造の転移抑制、格子欠陥の生成抑制が不充分となり、このためMnの溶出が増大し、放充電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0039】
アルミナ(水和物)二次粒子の平均二次粒子径は、アルミナゾル(アルミナ水和物微粒子分散体)にイオン交換水加えて稀釈し、固形分濃度0.5質量%の分散体を調製し、動的散乱方による粒子径分布測定装置(大塚電子株式会社製:PAR-III)を用いて測定した。
【0040】
ホウ素化合物
本発明ではLi、Mn以外の第2の元素としてBを用いる。Bの化合物としてホウ酸、ホウ酸塩、酸化ホウ素等を用いることができる。
【0041】
このようなホウ素化合物を用いると、後述する工程(c)で焼成する際に比較的低温で酸化物(B23)となり、融点が低いためにスピネル結晶の生成過程でB23が融剤として作用し、スピネル結晶の生成および成長が促進され、さらにスピネル結晶粒子同士の焼結が促進され、比表面積の低いスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を得ることができ、正極活物質として用いた際に生じる粒子表面での電解質の分解等の副反応を抑制することができる。また、同時に粒子密度の高いスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を得ることができ、正極活物質として用いた際に単位体積当たりの充放電容量が高く、サイクル特性に優れている。
【0042】
Al、B以外の元素の化合物
本発明では、上記したAl、B以外の元素としてNa、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Cu、Ag、Zn、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、P、As、Sb、Bi、La等の元素を含んでいてもよく、(a)工程では、かかる元素化合物を併用することができる。化合物としては、無機酸塩や有機酸塩、キレート類などが使用される。
【0043】
工程(a)では、前記した二酸化マンガン粒子(A)、リチウム化合物、アルミナゾルおよびホウ素化合物を、Li:Mn:Al:Bの原子比が(x+y):(2−y−z):z1:z2(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、z1=0.01〜0.2、z2=0.0005〜0.05、z=z1+z2)の比率となるように混合して固形分濃度が5〜50重量%の範囲にある噴霧乾燥用混合物分散液を調製する。
【0044】
上記元素の混合量は一般式Li(x+y)Mn(2-y-z)(z1+z2)4で表したとき、z1は0.01〜0.2、好ましくは0.02〜0.18の範囲から選ばれ、z2は0.0005〜0.05、好ましくは0.001〜0.04の範囲から選ばれる。
【0045】
Alの原子比z1が前記範囲にあれば、格子欠陥の生成を抑制することができ、Mnの溶出を抑制でき、このため放充電容量、サイクル特性に優れたスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を得ることができる。
【0046】
Alの原子比z1が前記下限よりも小さい場合は、結晶構造の転移抑制、格子欠陥の生成抑制、Mnの溶出抑制が不充分となり、このようなスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を用いた場合は、充放電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0047】
Alの原子比z1が前記上限を越えると、Mnの含有量が低下するために正極材として用いたときに単位重量当たりの充放電容量が低下する傾向がある。
また、Bの原子比z2が前記範囲にあれば、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の生成および成長が促進され、さらにスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子同士の焼結が促進され、比表面積の低いスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を得ることができ、正極活物質として用いた際に生じる粒子表面での電解質の分解等の副反応を抑制することができる。また、同時に粒子密度の高いスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を得ることができ、正極活物質として用いた際に単位体積当たりの充放電容量が高く、サイクル特性に優れている。
【0048】
本発明にかかわるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子におけるLiの量(x+y)は、上記の一般式において、1.0〜1.2の範囲から選ばれる。リチウムイオン電池の正極材として用いられるスピネル型のリチウム・マンガン複合酸化物におけるLiの理論量は1、すなわち(x+y)=1(y=0)である。このとき、Mnは元素(M)のみと置換していると考えられる。Liが理論量の1を越える場合[(x+y)>1]、その過剰量の一部または全部(y)に見合う分だけMn量を少なくすれば、過剰Liの一部または全部が元素(M)等と同様にMnと置換した構造をとると考えられる。このときの置換量は0<y≦0.2である。
【0049】
分散液に使用される溶媒として、揮発性のものであれば特に制限されないが、通常、水、低級アルコールなどが使用され、好ましくは水である。
このような組成を有する噴霧乾燥用混合物分散液の濃度は固形分として5〜50重量%、さらには10〜40重量%の範囲にあることが好ましい。
【0050】
噴霧乾燥用混合物分散液の濃度が薄すぎると生産効率が低く、噴霧乾燥用混合物分散液の濃度が濃すぎても、噴霧乾燥して得られる粒子の中に凹部を有していたり、お碗状の粒子が存在し、これを高温で焼成して得られる粒子の粒子緻密が変動しやすく、正極材として用いた際に電極の強度、密度等が低下する場合があり、また、放電容量、サイクル特性等が不充分となる場合があった。
【0051】
本発明では、噴霧乾燥用混合物分散液の降伏応力値を5〜500Pa、好ましくは10〜400Paの範囲に調整する。
本発明においては、所定範囲の粒子径を有する二酸化マンガン粒子が、アルミナゾルの存在により表面に所定量の表面電荷を有するようになり、その結果、二酸化マンガン粒子(A)がゆるく凝集して、分散液が三次元ゲル構造を形成しているものと考えられる。
【0052】
このような三次元ゲル構造を形成した分散液に対し、周波数一定で剪断応力を加えると、最初は弾性率(貯蔵弾性率および損失弾性率)がほぼ一定値に保ち、弾性体としての性質を示すが、応力を増加させていくと、ある応力で急激に弾性率が低下する。すなわち降伏応力値が存在する。
【0053】
本発明では、三次元ゲル構造を形成した分散液に有する降伏応力値に注目し、この値を所定範囲に調整すれば分散液の調製から噴霧乾燥までの時間経過による分散液の経時変化、すなわち粒子の凝集、粗大化、さらには粒子の沈降を抑制することができ、調製時と同じ条件で噴霧乾燥することを可能にした。その結果、粒子密度が高く、結晶の格子定数の変動幅が小さく、しかも圧縮弾性率の変動係数の小さいリチウム・マンガン複合酸化物を得ることができる。
【0054】
通常、粒子が相互作用していれば、沈降しにくいと考えられ、この一つの尺度として、降伏値を採用したのが本発明である。通常、分散液は沈降などの影響により経時変化が大きい。この経時変化を少なくするために、調製後直ちに、噴霧乾燥することも考えられるが、これには噴霧乾燥能力を大きくしたり、分散液調製を小規模で繰り返すという解消方法しかなく、前者では、粒子径のコントロールが難しく、後者では生産効率が悪く、しかも、調製ごとの種々の性状のバラつきが大きい。このような製法では、得られるスピネル型リチウム・マンガン系複合酸化物粒子の格子定数に影響を及ぼしやすく、格子定数の変動は、電池性能にも影響が大きく、このため、規格外品が増えることもある。しかしながら、このような経時変化に伴う問題点を見出したのが本発明者であり、本発明によれば、このような経時変化に対する対応することなく、かかる課題を解消できる。
【0055】
降伏応力値が低いと、噴霧乾燥用混合物分散液中の粒子成分が容易に沈降し、噴霧乾燥により得られる粒子の成分、成分の分布、格子定数や粒子径などの物理性状が変動する場合がある。降伏応力値が高すぎると噴霧乾燥が困難になる場合がある。
【0056】
なお、降伏応力値の測定は粘度・粘弾性測定装置(英弘精機(株)製:レオストレス RS600)を用い、f(周波数)=1.0Hzの条件で測定することができる。
また、噴霧乾燥用混合物分散液のpHは9〜14、さらには11〜13の範囲にあることが好ましい。
【0057】
噴霧乾燥用混合物分散液のpHが9未満の場合は、アルミナゾル、ホウ素化合物が難溶性化合物として存在するようになり、噴霧乾燥により得られる粒子の成分分布が不均一になる場合がある。必要に応じてpHを調整する場合、アンモニア、アミン類などの最終的に粒子に残存しない塩基性化合物を用いることが好ましい。
【0058】
噴霧乾燥用混合物分散液のpHが前記範囲にあれば、噴霧乾燥用混合物分散液の降伏応力値が概ね前記範囲となり、噴霧乾燥用混合物分散液中に存在する成分の分散性が十分であり、凝集、沈降等が抑制され、経時的な組成変化が抑制され、噴霧乾燥により得られる粒子の成分分布が均一になるとともに、最終的に得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の比表面積、粒子密度等の品質変動が抑制され、マンガン溶出量、充放電容量、サイクル特性等の性能に優れ、かつ変動の小さいリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0059】
噴霧乾燥用混合物分散液における二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位は−60〜−5mV、さらには−40〜−10mVの範囲にあることが好ましい。
二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位が−60mVよりも低くなる(マイナス荷電が強くなる)と、アルミナ水和物粒子との表面電位差が大きくなり、二酸化マンガン粒子(A)表面にアルミナ水和物粒子が付着、吸着することなく、完全に分離状態となり、噴霧乾燥して得られる粒子の成分分布が不均一になる。
本発明で、ゼータ電位は超音波式粒度分布測定装置(Dispersion Technology社製:DT-1200)を用いて測定した。
【0060】
噴霧乾燥用混合物分散液は、あらかじめ粒子径分布を調整した二酸化マンガン粒子分散液に、リチウム化合物、アルミナゾルおよびホウ素化合物を混合してもよいが、好ましくは、二酸化マンガン粒子、リチウム化合物、アルミナゾルおよびホウ素化合物を混合したのち、粉砕して調製することが望ましい。
【0061】
粉砕はビーズなどの媒体を使用した粉砕機が特に制限されることなく使用でき、ビーズ径は、通常0.05〜5mmφ、さらには、0.1〜45mmφの範囲にあることが望ましい。この範囲のビーズ径であれば、上記範囲平均粒子径(一次、二次)および粒子径分布を調整できる。
【0062】
処理時間は、5分〜5時間、さらには、10分〜3時間の範囲にあることが好ましい。処理時間が上記範囲にあれば、本発明所定の平均粒子径、粒子径分布を有する二酸化マンガン粒子(A)を得ることができる。
【0063】
また、例えば、先ず、大きな径のビーズで粉砕した後、順次小さな径のビーズで粉砕するとより均一な粒子径分布とすることができる。
このような噴霧乾燥用混合物分散液は、噴霧乾燥される。なお、調製後、10時間以内であれば、前記分散液物性は大きく変化しない。より好ましくは、8時間以内に噴霧乾燥することが望ましい。なお、従来の分散液では、短時間で物性が変化してしまうために、調製後短時間で噴霧乾燥する必要があったが、本発明では、前記したように、特定の降伏応力値を有しているために、見かけゲル状となっており、このような経時変化が少ない。
【0064】
このような組成を有する噴霧乾燥用混合物分散液の濃度は固形分として5〜50重量%、さらには10〜40重量%の範囲にあることが好ましい。
噴霧乾燥用混合物分散液の固形分濃度が少ないと生産効率が低く、噴霧乾燥用混合物分散液の固形分濃度が高すぎると、噴霧乾燥して得られる粒子の中に凹部を有していたり、お碗状の粒子が存在し、これを高温で焼成して得られる粒子の粒子密度が変動しやすく、正極材として用いた際に電極の強度、密度等が低下する場合があり、また、放電容量、サイクル特性等が不充分となる場合がある。
【0065】
[(b)噴霧工程]
ついで、噴霧乾燥用混合物分散液を熱風気流中に噴霧して乾燥する。
噴霧乾燥方法としては、前記噴霧乾燥用混合物の微小球状粒子が得られれば特に制限は無いが、噴霧乾燥法を採用することがこのましく、回転ディスク法、加圧ノズル法、2流体ノズル法、4流体ノズル法等従来公知の方法を採用することができる。ここで、噴霧乾燥とは微小液滴を形成し、乾燥して所望の粒子を形成できればよく、噴射法等も含んで意味している。 熱風気流の入口温度は180〜350℃、さらには190〜320℃の範囲にあることが好ましい。噴霧乾燥用混合物分散液を噴霧乾燥装置に供給する場合、必要に応じて過熱するが、一定圧力にすることが望ましい。
【0066】
熱風気流の入口温度が低すぎると、乾燥が不充分になることがあり、粒子内に水分が多く残存すると、高温焼成時に粒子内に微細な空隙の原因となり、得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の粒子密度が低下し、充放電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0067】
熱風気流の入口温度が高すぎても、内部に空洞を有する粒子、あるいは粒子形状を維持してない非球状粒子が存在するようになり、これを焼成して得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の密度が低下し、充放電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0068】
また、熱風気流の出口温度は80〜150℃、さらには90〜130℃の範囲にあることが好ましい。噴霧乾燥して得られる粒子の平均粒子径は概ね1〜30μmの範囲にある。
【0069】
[(c)焼成工程]
ついで、噴霧乾燥して得られた粒子を焼成する。
焼成する方法としては、所定範囲の組成を有し、結晶性に優れたスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子が得られれば特に制限はなく、トンネル炉、マッフル炉、ロータリーキルン等従来公知の方法を採用することができる。本発明では、密度が高く、格子定数、比表面積が所定の範囲にあり、且つ変動幅が小さいスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子が得られ、さらには、融着粒子が生成しないことから流動焼成法が好ましく、加えて粒子密度、格子定数、比表面積の変動幅が小さく、このようなスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を正極材として用いたリチウム電池は充放電容量、サイクル特性に優れている。
【0070】
焼成温度は650〜900℃、さらには700〜850℃の範囲にあることが好ましい。
焼成温度が低いとスピネル結晶化の固相反応が遅く、二酸化マンガンが残存する場合があり、充放電容量、サイクル特性が不充分となる場合がある。
【0071】
焼成温度が高すぎると、格子欠陥(特に酸素欠陥)が増加する傾向があり、正極材として使用した場合、Mnの溶出が増加し、放充電容量、サイクル特性が不充分になる場合がある。焼成して得られたスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物は、充分に成長した結晶粒子からなり、その結晶粒子の大きさは、約0.1〜5.0μmの範囲にあり、このような結晶粒子が集合し、焼結して平均粒径が1〜30μmの球状微粒子を形成している。
【0072】
[(d)解砕工程]
前記工程(c)について、解砕工程(d)を行うことが好ましい。
工程(c)で得られる粒子には軽度に融着した粒子が存在する場合があり、そのまま電極の製造に使用した場合、正極集電体を損傷して不具合を生じたり、正極の密度が低下する場合がある。
【0073】
解砕方法としては、結晶性を損なうことなく平均粒子径(D3)が所定の範囲にあるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子が得られれば特に制限はなく従来公知の方法を採用することができる。
【0074】
解砕後、必要に応じて、篩などの分級処理をおこなってもよい。
解砕して得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の平均粒子径(D3)は、10〜20μm、好ましくは13〜18μmである。
【0075】
解砕して得られる粒子の平均粒子径(D3)が小さすぎると、正極膜を作成するための電極用合剤の粘度が高くなり、電極膜形成性が低下する場合があり、さらにスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の体積当たりの放電容量が不充分となる場合がある。また、電極膜の強度(圧縮強度)が不充分となる場合がある。また、平均粒子径(D3)が大きすぎると、導電剤および電解液との接触が不充分となり、充放電容量が不充分となる場合がある。
【0076】
また、得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の粒子径分布は2〜40μm、さらには3〜25μmの範囲にあることが好ましい。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子に粒子径が2μm未満の粒子が存在すると、正極膜を作成するための電極用合剤の粘度が顕著に高くなる場合があり、電極膜形成性が低下し、さらにスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の体積当たりの放電容量が不充分となる場合がある。
【0077】
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の粒子径が40μmを越える粒子が存在すると正極集電体を損傷する場合があり、また、導電剤および電解液との接触が不充分となり、充放電容量が不充分となる場合がある。
【0078】
粒子径および粒子径分布の調整法は、分散液の供給速度、供給圧力、ディスクを使用する場合は回転数、乾燥温度などの噴霧乾燥条件、分散液の濃度、降伏応力値などを調整することによって可能である。
【0079】
以上の本発明の方法で得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子は概略球状で、このような球状の微粒子を正極材として用いれば、正極材を含む電極用合剤をアルミ箔などに塗布する際にアルミ箔を傷つけるようなことがない。
【0080】
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の平均粒径および粒子径分布は、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所製:LA−950v2)を用いて測定した。
【0081】
得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の格子定数(Lc)は8.15000〜8.25000オングストローム、好ましくは8.16000〜8.24000オングストロームの範囲にあることが好ましい。
【0082】
格子定数(Lc)が小さいものは充放電容量が不充分となる場合がある。これは、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子中のLiの比率が高く、Mnの比率が低いことと符合しているものと考えられる。格子定数(Lc)が高いものは、Mnの溶出量が増加し、サイクル特性が低下する傾向にあり、これは、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子中のLiの比率が低く、Mnの比率が高いことと符合しているものと考えられる。本発明では、上記のように特定の降伏値を有する分散液を使用しているので、格子定数の変動幅が安定し、これによって、電池性能の変動を小さくすることができる。
【0083】
このような格子定数(Lc)の標準偏差は0.00001〜0.00100オングストローム、さらには0.00001〜0.00095オングストロームの範囲にあることが好ましい。
【0084】
格子定数(Lc)の標準偏差が0.00001オングストローム未満のものは得ることが困難であり、0.00100オングストロームを越えると、前記放電容量、サイクル特性が変動したり、これら性能が不充分となる場合がある。
【0085】
格子定数は、粉末X線回折装置(リガク社製:MultiFlex)によって2θ=15〜90°の範囲で回折パターンを測定し、最小二乗法により格子定数を求めた。
また、格子定数の標準偏差は、上記格子定数を用い、以下の式により算出した。
【0086】
【数1】

得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の比表面積が0.1〜2.0m2/g、さらには0.1〜1.5m2/gの範囲にあることが好ましい。
【0087】
比表面積が0.1m2/g未満では、正極材として用いたとき、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物微粒子と導電剤及び電解液との接触が不十分となり、比表面積が2.0m2/gより大きくなると微粒子の体積当たりの充放電容量の向上が見られなくなる。
【0088】
比表面積の測定は、自動表面積測定装置(マウンテック社製:Macsorb HM model-1220)により測定した。
本発明で得られるリチウム・マンガン複合酸化物粒子の充填かさ密度(ABD:見かけ比重と言うことがある)は1.0〜1.6g/ml、より好ましくは、1.1〜1.6g/ml、さらには1.3〜1.5g/mlの範囲にある。
【0089】
ここで、充填かさ密度(ABD)は、50mlのメスシリンダー上部開口部からリチウム・マンガン複合酸化物粒子25gを自重で落下させて充填し、粉体上部を水平面にしたときの容積(V1)を測り、次式により求めた。
【0090】
充填かさ密度(ABD)(g/ml)=25/V1
ABDが小さすぎると、得られる正極膜の強度が不充分となる場合があり、さらに、単位体積あたりの活物質密度が不十分となる場合がある。
【0091】
ABDが大きすぎるとは、正極形成に混合して用いる導電材との接触が不充分となる場合があり、また、電解質ないし電解液との接触が不充分となり、充放電容量が不充分となる場合がある。
【0092】
リチウム・マンガン複合酸化物粒子の圧縮充填密度(CBD:真比重と言うことがある)は、1.5〜2.1g/ml、より好ましくは1.8〜2.1g/ml、さらには1.9〜2.1g/mlの範囲にある。
【0093】
ここで、圧縮充填密度(CBD)は、50mlのメスシリンダーにリチウム・マンガン複合酸化物粒子25gを充填し、木製のテーブル上で3分間タッピングした後の容積(V2)を測り、次式により求めた。
圧縮充填密度(CBD)(g/ml)=25/V2
【0094】
CBDが小さいと、得られる正極膜の強度が不充分となる場合があり、さらに、単位体積あたりの活物質密度が不十分となる場合がある。CBDが大きすぎても、正極膜の形成に混合して用いる導電材との接触が不充分となる場合があり、また、電解質ないし電解液との接触が不充分となり、充放電容量が不充分となる場合がある。
【0095】
また、前記CBDとABDの比CBD/ABDは、1.1〜1.8、さらには1.1〜1.7の範囲にあることが好ましい。CBD/ABDが前記比率未満の場合は有機溶媒への分散性が不充分となる場合がある。CBD/ABDが前記比率を越えると、正極用合剤のペーストを調製する場合、有機溶媒を多く必要としたり、粘性が安定せず、正極膜形成性が低下する場合がある。
【0096】
リチウム・マンガン複合酸化物粒子の10%圧縮弾性率は20〜200kgf/mm2、さらには40〜180kgf/mm2の範囲にあることが好ましい。
10%圧縮弾性率が20kgf/mm2未満の場合は、正極膜を作成する際、リチウム・マンガン複合酸化物粒子が圧壊される場合があり、正極膜の膜厚が不均一になる場合がある。また、10%圧縮弾性率が200kgf/mm2を越えると、正極膜を作成する際に極板を損傷する場合がある。
【0097】
上記10%圧縮弾性率のばらつき、即ち変動係数(CV値)は5〜30%、さらには5〜20%の範囲にあることが好ましい。10%圧縮弾性率の変動係数(CV値)がこの範囲の下限を超えて小さいものは得ることが困難であり、上限を超えて大きすぎると、破壊される粒子が生じたり、極板を損傷する箇所が生じたりする場合がある。 このような10%圧縮弾性率、10%圧縮弾性率の変動係数(CV値)の測定は以下の方法で測定することができる。
【0098】
10%圧縮弾性率
10%圧縮弾性率は、測定器として微小圧縮試験機(島津製作所製:MCTM−200)を用い、試料として粒子径がDである1個の粒子を用い、試料に一定の負荷速度で荷重を負荷し、圧縮変位が粒子径の10%となるまで粒子を変形させ、10%変位時の荷重と圧縮変位(mm)を求め、粒径および求めた圧縮荷重、圧縮変位を次式に代入して計算によって求める。
K=(3/√2)×FxS-3/2×D-1/2
ここで、
K:10%圧縮弾性率(kgf/mm2
F:圧縮荷重(kg)
S:圧縮変位(mm)
D:粒子径(mm) である。
本明細書では、10個の粒子について、それぞれ、10%圧縮弾性率を測定し、これらの平均値で粒子の10%圧縮弾性率を評価した。
【0099】
10%圧縮弾性率変動係数(CV値)
CV(%)=〔10%圧縮弾性率標準偏差(σ)/平均10%圧縮弾性率(Kn)〕x100
【0100】
【数2】

つぎに、本発明に係るリチウム・マンガン複合酸化物粒子について説明する。
【0101】
[リチウム・マンガン複合酸化物粒子]
本発明に係るリチウム・マンガン複合酸化物粒子は、下記の一般式で示されるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子であって、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあり、平均粒子径(D3)が10〜20μmの範囲にあり、粒子径分布が2〜40μmの範囲にあり、充填かさ密度(ABD)が1.0〜1.6g/mlの範囲にあり、圧縮充填密度(CBD)が1.5〜2.1g/mlの範囲に、CBDとABDとの比CBD/ABDが1.1〜1.8の範囲にあり、格子常数が8.15000〜8.25000オングストロームの範囲にあり、該格子定数の標準偏差が0.00092オングストローム以下、の範囲にあり、10%圧縮弾性率が20〜200kgf/mm2の範囲にあり、10%圧縮弾性率の変動係数(CV値)が5〜30%の範囲にあることを特徴としている。
Li(x+y)Mn(2-y-z)z4
(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、MはAlおよびBで、z1(Al組成)=0.01〜0.2、z2(B組成)=0.0005〜0.05、z1+z2=Z)
【0102】
本発明に係るリチウム・マンガン複合酸化物粒子には、Li、Mn以外の元素MとしてAlおよびBを含んでいる。Alの原子比z1は0.01〜0.2、さらには0.02〜0.18の範囲にあることが好ましい。ホウ素の原子比z2は0.0005〜0.05、好ましくは0.001〜0.04の範囲にあることが好ましい。
【0103】
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子におけるLiの量(x+y)は、上記の一般式において、1.0〜1.2の範囲から選ばれる。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の平均粒子径(D3)は10〜20μm、さらには13〜18μmの範囲にあることが好ましい。
【0104】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の粒子径分布は2〜40μm、さらには3〜30μmの範囲にあることが好ましい。
本発明の方法で得られるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子は球状で、このような球状の微粒子を正極材として用いれば、正極材を含む電極用合剤をアルミ箔などに塗布する際にアルミ箔を傷つけるようなことがない。
【0105】
つぎに、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の格子定数(Lc)は8.15000〜8.25000オングストローム、好ましくは8.16000〜8.24000オングストロームの範囲にあることが好ましい。
【0106】
このような格子定数(Lc)の標準偏差は0.00001〜0.00100オングストローム、さらには0.00001〜0.00095オングストロームの範囲にあることが好ましい。
【0107】
格子定数(Lc)の標準偏差が0.00001オングストローム未満のものは得ることが困難であり、0.00100オングストロームを越えると、前記放電容量、サイクル特性が変動したり、これら性能が不充分となる場合がある。
【0108】
つぎに、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の比表面積が0.1〜2.0m2/g、さらには0.1〜1.5m2/gの範囲にあることが好ましい。
また、リチウム・マンガン複合酸化物粒子の充填かさ密度(ABD)は1.1〜1.6g/ml、さらには1.3〜1.5g/mlの範囲にあることが好ましい。
【0109】
リチウム・マンガン複合酸化物粒子の圧縮充填密度(CBD)は1.8〜2.1g/ml、さらには1.9〜2.1g/mlの範囲にあることが好ましい。
また、前記CBDとABDの比CBD/ABDは1.1〜1.8、さらには1.1〜1.5の範囲にあることが好ましい。
【0110】
リチウム・マンガン複合酸化物粒子の10%圧縮弾性率は20〜200kgf/mm2、さらには40〜180kgf/mm2の範囲にあることが好ましい。
上記10%圧縮弾性率のばらつき、即ち変動係数(CV値)は5〜30%、さらには5〜20%の範囲にあることが好ましい。
【0111】
本発明に係るスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子は、前記した本発明に係るスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法によって得られたスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子であることが好ましい。
つぎに、本発明に係るリチウムイオン二次電池について説明する。
【0112】
[リチウムイオン二次電池]
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、電解質層と、正極集電体(1)上に形成された正極活物質層からなる正極と、電解質層中の積層する負極集電体(2)上に形成された負極活物質層からなる負極と、該正極と該負極とを隔絶するセパレーターとからなるリチウムイオン二次電池であって、該正極に本発明に係るスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を正極材(正極活物質)として用いたことを特徴としている。
【0113】
本発明のリチウム二次電池で用いる負極活物質には、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。たとえば、金属リチウム並びにリチウムまたはリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質を用いることができる。例えば、金属リチウム、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金および電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離する炭素系材料が例示され、電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離する炭素系材料が安全性および電池の特性の面から特に好適である。また、本発明のリチウム二次電池で用いる電解質としては、特に制限はないが、例えば、カーボネート類、スルホラン類、ラクトン類、エーテル類等の有機溶媒中にリチウム塩を溶解したものや、リチウムイオン導電性の固体電解質を用いることができる。
【0114】
本発明では、以上の正極材(正極活物質)、負極活物質およびリチウム塩含有非水電解質を用いて、安定な高性能なリチウム二次電池を得ることができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0115】
[実施例]
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0116】
[実施例1]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(1)の調製
電解二酸化マンガン粉末(γ−MnO2、純度60.64%)、アルミナゾル(日揮触媒化成(株)製:AS−3、平均一次粒子径8nm、平均二次粒子径250nm、Al23濃度7.1重量%)、水酸化リチウム(日本化学工業(株)製:LiOH、純度58.6重量%)、ホウ酸(和光純薬(株)製:H3BO3、純度99.0重量%)を、Li:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の割合で湿式粉砕器に充填し、純水を加えてスラリー固形分濃度が33重量%となるよう仕込み、1.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(1)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(1)のpHは12.7であった。また、降伏応力値は22Paであった。
【0117】
粒子径分布測定装置(HORIBA(株)製:LA−950v2)により二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)を測定し、結果を表に示す。また、噴霧乾燥用混合物分散液(1)中の二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
【0118】
ついで、噴霧乾燥用混合物分散液(1)をスプレードライヤーで噴霧乾燥した。スプレードライヤーの条件は、熱風入口温度200℃、出口温度100℃とした。
得られた乾燥粉末を空気流通下830℃で6時間焼成することにより、Li:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を得た。
【0119】
ついで、調理用ミキサーに仕込み、30秒間解砕し、ついで、電磁式篩振とう機を用いて篩目開き45μm、振幅3.0mmの条件で1分間分級を行い、篩下を回収し正極材スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(1)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(1)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0120】
性能評価
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(1)を正極活物質として含む正極を用いてリチウムイオン電池(1)を作成し、電池性能を評価した。
【0121】
まず、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(1)と導電材としてのアセチレンブラックおよびバインダーとしてのポリ四フッ化エチレンパウダーを、75:20:5の重量比で混合し、乳鉢で混練して正極用合剤を調製した。この合剤を展伸ローラーで厚さ0.1mmのシートとし、16mmφに型抜きした後、グローブボックス内で乾燥して試験用正極(1)を作成した。
【0122】
正極(1)と金属リチウム箔(厚さ0.2mm)を、セパレーター(商品名:セルガード)を介してコイン型電池ケースに積層し、体積比1:1のエチレンカーボネートとジメチルカーボネート混合溶媒に1mol/lのLiPF6を溶解した電解液を注入して試験用電池(1)を作成した。
試験用電池(1)について、放電容量、高温サイクル特性および高温劣化試験を行った。
【0123】
(1)放電容量
定電流で0.5mA/cm2の電流密度、充電電位4.3Vまで、放電電位3.0Vまでの電位規制の条件で、まず重量当たりの放電容量を測定したのち、次式により体積当たりの放電容量を算出した。
体積当たりの放電容量=重量当たりの放電容量×充填密度
(2)高温サイクル特性
試験用電池を60℃の恒温槽に設置し、上記と同一の条件で30回の充放電試験を行い、高温サイクル特性を次式の容量維持率で評価した。
容量維持率(%)=(1回目の重量当たり放電容量/30回目の重量当たり放電容量)×100
【0124】
[実施例2]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(2)の調製
実施例1と同様にして固形分濃度が33重量%のスラリーを調製し、0.5mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(2)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(2)のpHは12.6」であった。また、降伏応力値は320Paであった。
【0125】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(2)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(2)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(2)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0126】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(2)を用いた試験用電池(2)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0127】
[実施例3]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(3)の調製
実施例1と同様にして固形分濃度が33重量%のスラリーを調製し、3.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(3)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(3)のpHは12.8であった。また、降伏応力値は13Paであった。
【0128】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(3)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(3)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(3)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0129】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(3)を用いた試験用電池(3)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0130】
[実施例4]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(4)の調製
電解二酸化マンガン粉末(γ−MnO2 、純度60.64%)、アルミナゾル(日揮触媒化成(株)製:AS−3、平均一次粒子径8nm、平均二次粒子径250nm、Al23濃度7.1重量%)、水酸化リチウム(日本化学工業(株)製:LiOH、純度58.6重量%)、ホウ酸(和光純薬(株)製:H3BO3、純度99.0重量%)を、Li:Mn:Al:B=1.07:1.77:0.15:0.01(原子比)の割合で湿式粉砕器に充填し、純水を加えてスラリー固形分濃度が33重量%となるよう仕込み、1.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(4)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(4)のpHは12.5であった。また、降伏応力値は52Paであった。
【0131】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(4)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.77:0.15:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(4)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(4)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0132】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(4)を用いた試験用電池(4)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0133】
[実施例5]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(5)の調製
電解二酸化マンガン粉末(γ−MnO2 、純度60.64%)、アルミナゾル(日揮触媒化成(株)製:AS−3、平均一次粒子径8nm、平均二次粒子径250nm、Al23濃度7.1重量%)、水酸化リチウム(日本化学工業(株)製:LiOH、純度58.6重量%)、ホウ酸(和光純薬(株)製:H3BO3、純度99.0重量%)を、Li:Mn:Al:B=1.07:1.74:0.18:0.01(原子比)の割合で湿式粉砕器に充填し、純水を加えてスラリー固形分濃度が33重量%となるよう仕込み、1.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(5)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(5)のpHは12.3であった。また、降伏応力値は104Paであった。
【0134】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(5)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.74:0.18:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(5)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(5)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0135】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(5)を用いた試験用電池(4)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0136】
[比較例1]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R1)の調製
実施例1と同様にして固形分濃度が33重量%のスラリーを調製し、0.1mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(R1)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(R1)のpHは12.5であった。また、降伏応力値は570Paであった。
【0137】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(R1)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R1)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R1)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0138】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R1)を用いた試験用電池(R1)を作成し、性能評価を行い結果を表に示す。
【0139】
[比較例2]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R2)の調製
実施例1と同様にして固形分濃度が33重量%のスラリーを調製し、5.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(R2)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(R2)のpHは12.8であった。また、降伏応力値は4 Paであった。
【0140】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(R2)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R2)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R2)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0141】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R2)を用いた試験用電池(R2)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0142】
[比較例3]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R3)の調製
電解二酸化マンガン粉末(γ−MnO2 、純度60.64%)、アルミナゾル(日揮触媒化成(株)製:AS−3、平均一次粒子径8nm、平均二次粒子径250nm、Al23濃度7.1重量%)、水酸化リチウム(日本化学工業(株)製:LiOH、純度58.6重量%)、ホウ酸(和光純薬(株)製:H3BO3、純度99.0重量%)を、Li:Mn:Al:B=1.07:1.912:0.008:0.01(原子比)の割合で湿式粉砕器に充填し、純水を加えてスラリー固形分濃度が33重量%となるよう仕込み、1.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(R3)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(R3)のpHは12.9であった。また、降伏応力値は3Paであった。
【0143】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(R3)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.912:0.008:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R3)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R3)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0144】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R3)を用いた試験用電池(R3)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0145】
[比較例4]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R4)の調製
電解二酸化マンガン粉末(γ−MnO2 、純度60.64%)、アルミナゾル(日揮触媒化成(株)製:AS−3、平均一次粒子径8nm、平均二次粒子径250nm、Al23濃度7.1重量%)、水酸化リチウム(日本化学工業(株)製:LiOH、純度58.6重量%)、ホウ酸(和光純薬(株)製:H3BO3、純度99.0重量%)を、Li:Mn:Al:B=1.07:1.42:0.5:0.01(原子比)の割合で湿式粉砕器に充填し、純水を加えてスラリー固形分濃度が33重量%となるよう仕込み、1.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(R4)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(R4)のpHは12.5であった。また、降伏応力値は620Paであった。
【0146】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(R4)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.42:0.5:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R4)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R4)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0147】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R4)を用いた試験用電池(R4)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0148】
[比較例5]
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R5)の調製
電解二酸化マンガン粉末(γ−MnO2 、純度60.64%)、実施例1で用いたアルミナゾルを噴霧乾燥して得たアルミナ粉末(日揮触媒化成(株)製:AP−3、平均一次粒子径8nm、平均二次粒子径5500nm、Al23濃度99.0重量%)、水酸化リチウム(日本化学工業(株)製:LiOH、純度58.6重量%)、ホウ酸(和光純薬(株)製:H3BO3、純度99.0重量%)を、Li:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の割合で湿式粉砕器に充填し、純水を加えてスラリー固形分濃度が33重量%となるよう仕込み、1.0mmΦのビーズを用い、回転数2500rpmの条件で1時間処理し、これに純水を加えて固形分濃度20重量%の噴霧乾燥用混合物分散液(R5)を調製した。噴霧乾燥用混合物分散液(R5)のpHは12、8であった。また、降伏応力値は4Paであった。
【0149】
また、二酸化マンガン粒子(A)の平均一次粒子径(D1)、二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位を測定し、結果を表に示す。
ついで、実施例1と同様にして噴霧乾燥用混合物分散液(R5)をスプレードライヤーで噴霧乾燥し、焼成し、解砕し、分級してLi:Mn:Al:B=1.07:1.82:0.1:0.01(原子比)の組成を有するスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R5)を調製した。
スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R5)の平均粒径(D3)、粒子径分布、比表面積、ABD、CBD、格子定数および10%圧縮弾性率を測定し、結果を表に示す。
【0150】
また、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子(R5)を用いた試験用電池(R5)を作成し、性能評価を行い、結果を表に示す。
【0151】
【表1−1】

【0152】
【表1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)〜(c)からなることを特徴とするスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法;
(a)リチウム化合物(水酸化リチウム)、平均一次粒子径(D1)が0.1〜1μmの範囲にある二酸化マンガン粒子(A)、アルミナゾルおよびホウ素化合物を、Li:Mn:Al:Bの原子比が(x+y):(2−y−z):z1:z2(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、z1(Al)=0.01〜0.2、z2(B)=0.0005〜0.05、z=z1+z2)の比率となり、固形分濃度が5〜50重量%の範囲にあり、
該分散液の降伏応力値が5〜500Paの範囲にあり、
pHが9〜14の範囲にある噴霧乾燥用混合物分散液を調製する工程。
(b)噴霧乾燥する工程。
(c)焼成する工程。
【請求項2】
前記工程(c)についで、さらに下記工程(d)を行うことを特徴とする請求項1に記載のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法;
(d)平均粒子径(D3)が10〜20μmの範囲にあり、粒子径分布が2〜40μmとなるように解砕する工程。
【請求項3】
前記工程(a)における二酸化マンガン粒子(A)のゼータ電位が−60〜−5mVの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
充填かさ密度(ABD)が1.0〜1.6g/mlの範囲にあり、圧縮充填密度(CBD)が1.5〜2.1g/mlの範囲に、CBDとABDとの比CBD/ABDが1.1〜1.8の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
10%圧縮弾性率が20〜200kgf/mm2の範囲にあり、10%圧縮弾性率の変動係数(CV値)が5〜30%の範囲にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
下記の一般式で示されるスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子であって、比表面積が0.1〜2.0m2/gの範囲にあり、平均粒子径(D3)が10〜20μmの範囲にあり、粒子径分布が2〜40μmの範囲にあり、充填かさ密度(ABD)が1.0〜1.6g/mlの範囲にあり、圧縮充填密度(CBD)が1.5〜2.1g/mlの範囲に、CBDとABDとの比CBD/ABDが1.1〜1.8の範囲にあり、格子常数が8.15000〜8.25000オングストロームの範囲にあり、該格子定数の標準偏差が0.00092オングストローム以下であり、10%圧縮弾性率が20〜200kgf/mm2の範囲にあり、10%圧縮弾性率の変動係数(CV値)が5〜30%の範囲にあることを特徴とするリチウム・マンガン複合酸化物粒子。
Li(x+y)Mn(2-y-z)z4
(但し、x=1.0〜1.2、0<y≦0.2、1<x+y≦1.2、MはAlおよびBで、z1(Al)=0.01〜0.2、z2(B)=0.0005〜0.05)
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子の製造方法によって製造されたことを特徴とする請求項6に記載のリチウム・マンガン複合酸化物粒子。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって製造されたスピネル型リチウム・マンガン複合酸化物粒子を正極材として用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【公開番号】特開2012−96949(P2012−96949A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244499(P2010−244499)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】