説明

スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物及びそれを有する有機発光素子

【課題】高い三重項エネルギーを有し、かつ高いガラス転移温度を有するスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式[1]で示されるスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を提供する。


式[1]において、R乃至Rは水素原子またはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、フルオレニル基、ジベンゾチオフェン基、カルボニル基、アミノ基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン‐4、9’−フルオレン]基からそれぞれ独立に選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物及びそれを有する有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は陽極と陰極と、それら両電極間に配置される有機化合物層とを有する素子である。有機発光素子は、前記各電極から注入させる正孔(ホール)及び電子が有機化合物層内で再結合することで励起子が生成し、励起子が基底状態に戻る際に光が放出される。有機発光素子の最近の進歩は著しく、駆動電圧が低く、多様な発光波長、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能である。
【0003】
燐光発光素子は前記有機化合物層中に燐光発光材料を有し、その三重項励起子由来の発光が得られる有機発光素子である。燐光発光素子の発光効率には更なる改善の余地がある。
【0004】
有機発光素子の発光層に使用される材料として、例えば以下に示す化合物H01が特許文献1に、化合物H02が特許文献2に、化合物H03が特許文献3に記載されている。H01乃至H03は本願の中での呼び名である。
【0005】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5026894号明細書
【特許文献2】米国特許第5840217号明細書
【特許文献3】特開2000−150164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に開示されている化合物では、9,9’−スピロビ[フルオレン]を基本骨格としているので、三重項エネルギー(T1エネルギー)と一重項エネルギー(S1エネルギー)との差が大きい。そのため、燐光発光素子の材料として用いたときに電圧が高い。一方、特許文献3に開示されている化合物では、平面性の高いトリフェニレン基を有しているため、結晶性が高いので、膜性が低い。
【0008】
そこで、本発明は、T1エネルギーとS1エネルギーとの差が小さく、かつ高い膜性を有するスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を提供することを目的とする。さらにそれを有する発光効率が高くかつ駆動電圧の低い有機発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
よって本発明は、下記一般式[1]で示されることを特徴とするスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を提供する。
【0010】
【化2】

【0011】
一般式[1]において、R乃至Rは水素原子またはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、フルオレニル基、ジベンゾチオフェン基、カルボニル基、アミノ基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0012】
前記フェニル基および前記ビフェニル基および前記ターフェニル基および前記ナフチル基および前記フェナントリル基および前記トリフェニレン基および前記フルオレニル基および前記ジベンゾチオフェン基および前記カルボニル基および前記アミノ基および前記スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基は、アルキル基、フェニル基、フェニル基を有するカルボニル基、置換アミノ基、ジベンゾチオフェン基を置換基として有してよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、三重項エネルギーと一重項エネルギーとの差が小さく、かつ高いガラス転移温度を有する新規な化合物を提供できる。そして、それを有する発光効率が高く、かつ駆動電圧の低い有機発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る化合物の置換位置を示す模式図である。
【図2】有機発光素子とこの有機発光素子に接続するスイッチング素子とを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を説明する。以下では、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を本発明に係る化合物とも呼ぶ。
【0016】
本発明は下記一般式[1]で示されることを特徴とするスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物である。
【0017】
【化3】

【0018】
一般式[1]において、R乃至Rは水素原子またはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、フルオレニル基、ジベンゾチオフェン基、カルボニル基、アミノ基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基からそれぞれ独立に選ばれる。
【0019】
上記の置換基は、さらに置換基を有してもよい。例えばメチル基、エチル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、9,9−ジメチルフルオレニル基等の炭化水素芳香環基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基、ジベンゾチオフェン基等の複素芳香環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、フェニル基を有するカルボニル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基である。
【0020】
上記の置換基の中でも炭素数1以上4以下のアルキル基、置換アミノ基、ジベンゾチオフェン基、フェニル基を有するカルボニル基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基が好ましい。
【0021】
(本発明に係る化合物の性質について)
本発明に係る化合物の基本骨格は、一重項エネルギー(S1エネルギー)と三重項エネルギー(T1エネルギー)との差が小さく、かつ高いガラス転移温度を有する。ここで、基本骨格とは下記の表1で本発明の骨格として示すものである。
【0022】
本発明に係る化合物の基本骨格及びトリフェニレン及び9,9’−スピロビ[フルオレン]、フルオレンのS1エネルギー及びT1エネルギー及びS1エネルギーとT1エネルギーとの差及びガラス転移温度を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1より、本発明に係る化合物の基本骨格のS1エネルギーとT1エネルギーとの差は9,9’−スピロフルオレンやフルオレンよりも小さいことが分かる。
【0025】
そもそも、有機発光素子に用いられる材料はS1エネルギーの小さい化合物が好ましい。それは、材料のS1エネルギーが低い場合は、駆動電圧が低いからである。
【0026】
一方で、燐光発光素子は、T1エネルギーからのエネルギーで発光する素子である。燐光発光には、発光色に応じたT1エネルギーの高さが必要である。
【0027】
すなわち、燐光発光素子においては、必要な高さのT1エネルギーを確保しつつ、S1エネルギーは低い方が好ましい。つまり、S1エネルギーとT1エネルギーとの差が小さい方が好ましい。
【0028】
本発明に係る化合物の基本骨格とトリフェニレンとは、T1エネルギーが高くかつS1エネルギーとT1エネルギーとの差が小さいので、燐光発光素子の材料として好ましく用いられる。
【0029】
さらに、本発明に係る化合物の基本骨格はガラス転移温度が120℃であった。この値はトリフェニレンのガラス転移温度よりも高い値である。そのため、この基本骨格を有する化合物はトリフェニレン化合物よりも高い膜性を有することが期待できる。
【0030】
ここで、膜性が高いとは、高温になった場合でも結晶化せずアモルファス状態を保つことができることを示す。膜性に関連する測定値としてガラス転移温度が挙げられる。ガラス転移温度が高い化合物は膜性が高い。膜性が低いことを結晶性が高いということもある。
【0031】
一方、トリフェニレン、9,9’−スピロビ[フルオレン]、フルオレンのガラス転移温度は検出できなかった。いずれも、ガラス転移温度が低く、検出されにくいためである。なお、9,9’−スピロビ[フルオレン]のガラス転移温度が検出できなかったことが、Chemistry.A.Europian.Journal.2007,13,10055−10069に記載されている。
【0032】
また、トリフェニレンは高い平面性を有しているため、結晶性が高く、ガラス転移温度を検出することができないことが知られている。
【0033】
本発明に係る化合物の基本骨格は、トリフェニレンに対して立体障害の大きいスピロ構造を有するため、平面性を抑えられるので結晶性が低い。すなわち膜性が高い。
【0034】
また、スピロ中心の4級炭素部分でπ共役系が切断されているため、S1エネルギー及びT1エネルギーを保ったまま、分子量を大きくすることが可能である。分子量を大きくすれば、結晶性が低くなるので好ましい。
【0035】
本発明に係る化合物の基本骨格によって、トリフェニレンの課題である結晶性の高さを抑え、9,9’−スピロビ[フルオレン]の課題であるS1エネルギーとT1エネルギーとのエネルギー差が大きいことを同時に解決できる。
【0036】
また、本発明に係る化合物の基本骨格が示す特徴として、高い三重項エネルギーが挙げられる。本発明に係る化合物の基本骨格の希薄トルエン溶液を77Kにおける燐光スペクトルを測定した結果、431nmであり、青領域(440〜480nm)よりも高いエネルギーを持っている。
【0037】
次に、本発明に係る化合物の置換位置について図1を用いて説明する。図1において数字で示されない置換位置に置換基を設けた場合、立体障害のためスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]骨格の合成収率が著しく低下してしまうため、数字で示されない位置に置換基を設けることは好ましくない。
【0038】
また、図1の数字はIUPAC等に示される置換位置とは異なる。
【0039】
本発明に係る化合物のT1エネルギーを見積もるにあたり、一般式[1]におけるR乃至Rに結合する置換基のT1エネルギーに注目した。表2にアリール基及び縮合多環基のT1エネルギー(波長換算値)を示す。これらの置換基は、青色領域(440〜480nm)以上のT1エネルギーを有し、また組み合わせることによって、青から赤領域(440〜620nm)に適用できるからである。
【0040】
【表2−1】

【0041】
【表2−2】

【0042】
S1エネルギー及びT1エネルギーを大きく保ちたい場合には、π共役系が繋がりにくい部位に置換基を設けることが好ましく、それは一般式[2]における1または2の少なくともいずれか一方の位置である。
【0043】
置換位置1または2に置換基を設けることで、S1エネルギー及びT1エネルギーを低くすることなく、高い膜性が得られる。
【0044】
S1エネルギー及びT1エネルギーを小さくするためには、π共役系が繋がる部位にアリール基のようなπ共役を有する置換基を設けることが好ましい。このπ共役系が繋がる部位は、フルオレン部位では一般式[2]における3または4、トリフェニレン部位では一般式[2]における5または8である。
【0045】
また、有機発光素子が発光材料に燐光発光材料を用いた燐光発光素子である場合、T1エネルギーは高いことが好ましい。
【0046】
さらに、一般式[2]における1乃至8に置換基を適切に設けることによって、1つの分子で2つの機能を持った材料ができる。
【0047】
例えば、一般式[2]における1乃至4の少なくともいずれかひとつの置換位置に電子輸送性に優れるカルボニル基を設けることによって、フルオレン側で電子を輸送し、トリフェニレン側でホールを輸送するといった機能分離が可能である。
【0048】
これは、スピロ部分でπ共役系が切れているためである。共役系が切れている部分同士は互いに他へ影響を与えにくい。
【0049】
また、置換位置3または4にアリール基等を設けるとT1エネルギーが小さくなるので、T1エネルギーを高く保てる置換位置である1または2に置換することが好ましい。設ける置換基は1および2の両方でもよい。
【0050】
また、本発明に係る化合物の合成法を考慮すると、5または6の位置よりも7または8の位置の方が簡便に合成できるため好ましい。
【0051】
また、置換位置5乃至8に置換基を設けることは、スピロ構造による立体障害に加えて、設けられる置換基自体の立体障害がトリフェニレン部位に加わるので好ましい。
【0052】
本発明に係る化合物は、トリフェニレンと比較して結晶性を抑えることが可能であり、高い膜性を持った化合物である。
【0053】
本発明に係る化合物は、幅広い発光色の燐光発光素子の電子輸送層または正孔輸送層または発光層のホスト材料として用いることができる。特に好ましくは発光層のホスト材料である。
【0054】
ここで、ホスト材料とは発光層を構成する化合物の中で重量比が最も大きい化合物である。ゲスト材料とは発光層を構成する化合物の中で重量比がホスト材料よりも小さく、かつ主たる発光をする化合物である。アシスト材料とは、発光層を構成する化合物の中で重量比がホスト材料よりも小さく、ゲスト材料の発光を助ける化合物である。
【0055】
本発明に係る化合物を有機発光素子の電子輸送層、正孔輸送層、発光層のホスト材料として用いるときには、発光材料の発光色を考慮して適切なS1エネルギー及びT1エネルギーを有することが好ましい。
【0056】
さらに本発明に係る化合物は、置換基を選択することによって、HOMO−LUMO準位を変えることができる。例えば、カルボニル基を導入してHOMO−LUMOを深くできる。こうしたものは、電子注入材料、電子輸送材料または正孔阻止層または発光層のホスト材料として用いると、素子の駆動電圧を低くできる。
【0057】
なぜならば、LUMO準位が深いと、発光層の陰極側に隣接する電子輸送層または正孔阻止層からの電子注入障壁が小さくなるからである。
【0058】
以上より、本発明に係る化合物は、膜性が高く、かつT1が高い化合物である。
【0059】
以下に本発明に係る化合物の具体的な構造式を例示する。
【0060】
【化4】

【0061】
【化5】

【0062】
【化6】

【0063】
【化7】

【0064】
例示化合物のうちA群に示す化合物は、フルオレン側に置換基を設けた化合物である。
例えば、例示化合物A03は、立体障害の大きい置換基を持っているため、基本骨格に対して、さらに結晶性を抑えることができる。一方、スピロ結合でπ共役系が切断されているため、トリフェニレンの高いT1エネルギーと、S1エネルギーとT1エネルギーとの差が小さいという性質を維持することができる。つまり、トリフェニレン部位の性質を保持したまま、置換基によって新たな機能を追加できる。
【0065】
例示化合物のうちB群に示す化合物は、トリフェニレン側に置換基を設けた化合物であり、スピロ構造で立体障害を持たせているのに加えて、置換基自体の立体障害が加わる。
【0066】
これによって、無置換のトリフェニレンと比較して結晶性を抑えることができる。
【0067】
また、A群と同様に、スピロ結合でπ共役系が切断されているため、フルオレン側の性質を保持したまま、置換基によって新たな機能を追加できる。
【0068】
例示化合物のうちC群に示す化合物は、フルオレン部位と、トリフェニレン部位のいずれにも置換基を設けた化合物であり、A群とB群の性質を併せ持った特徴を持つ。つまり、置換基による機能の追加と、トリフェニレンの結晶性の低下を両立できる。
【0069】
例示化合物のうちD群に示す化合物は、本発明に係る化合物の基本骨格を2つ有する化合物である。本発明に係る化合物の基本骨格はガラス転移温度が120℃と高いため、これを2つ有する化合物は、高いガラス転移温度を持つ。つまり、高い膜性を持った材料を提供できる。
【0070】
本発明に係る化合物の中でも下記の一般式[2]で示される化合物が特に好ましい。
【0071】
【化8】


[2]
【0072】
一般式[2]において、R8はフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、フルオレニル基、ジベンゾチオフェン基、カルボニル基、アミノ基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基のいずかである。中でもビフェニル基が好ましい。
【0073】
上記の置換基は、炭素数1以上4以下のアルキル基、置換アミノ基、ジベンゾチオフェン基、フェニル基を有するカルボニル基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基のいずれかを置換基として有してよい。
【0074】
(本発明に係るスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物の合成方法)
次に、本発明に係る化合物の合成方法について説明する。
【0075】
【化9】


合成例
【0076】
本発明に係る化合物は、上記合成例のようにブロモビフェニル誘導体とブロモフルオレノン誘導体を用いスピロ結合させる。その後、ヨードブロモベンゼン誘導体を結合させ、溝呂木ヘック反応によりトリフェニレン構造を形成する。
〔合成例において、R乃至Rは水素原子またはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、フルオレニル基、ジベンゾチオフェン基、カルボニル基、アミノ基からそれぞれ独立に選ばれる〕
上記反応のうち、ブロモビフェニル誘導体とブロモフルオレノン誘導体と、ヨードブロモベンゼン誘導体を適宜選択することで、所望の本発明に係る化合物を合成することができる。
【0077】
本発明に係る化合物は、有機発光素子に用いられる場合には直前の精製として昇華精製が好ましい。なぜなら有機化合物の高純度化において昇華精製は精製効果が大きいからである。このような昇華精製においては、有機化合物の分子量が大きいほど高温が必要とされ、この際高温による熱分解などを起こしやすい。
【0078】
従って、有機発光素子に用いられる有機化合物は、過大な加熱なく昇華精製を行うことができるように、分子量が1000以下であることが好ましい。
【0079】
(本発明に係る有機発光素子について)
次に本実施形態に係る有機発光素子を説明する。
【0080】
本実施形態に係る有機発光素子は、互いに対向しあう一対の電極の一例である陽極と陰極とそれらの間に配置される有機化合物層とを少なくとも有する発光素子である。前記有機化合物層のうち発光材料を有する層が発光層である。そして本実施形態に係る有機発光素子は、前記有機化合物層が一般式[1]で示されるスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を有する。
【0081】
本実施形態に係る有機発光素子の有機化合物層は単層であっても複数層であってもよい。複数層とは、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホールブロック層、電子輸送層、電子注入層、エキシトンブロック層等から適宜選択される層である。もちろん、上記群の中から複数を選択し、かつそれらを組み合わせて用いることができる。
【0082】
本実施形態に係る有機発光素子の構成はこれらに限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0083】
素子形態は、基板側の電極から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも、基板と逆側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。
【0084】
本発明に係る化合物は、有機発光素子の有機化合物層として何れの層構成でも使用することができるが、発光層のホスト材料として用いられることが好ましい。
【0085】
発光層のホスト材料の濃度は、発光層の全体量に対して、50wt%以上99.9wt%以下であり、好ましくは80wt%以上99.9wt%以下である。濃度消光を防ぐためにゲスト材料の濃度は0.01wt%以上10wt%以下であることが望ましい。
【0086】
またゲスト材料はホスト材料からなる層全体に均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよいし、特定の領域に部分的に含ませてゲスト材料を含まないホスト材料層の領域を設けてもよい。
【0087】
本発明に係る化合物が燐光発光層のホスト材料として用いられる場合、ゲスト材料として用いられる燐光発光材料はイリジウム錯体、白金錯体、レニウム錯体、銅錯体、ユーロピウム錯体、ルテニウム錯体等の金属錯体である。なかでも燐光発光性の強いイリジウム錯体であるが好ましい。また、励起子やキャリアの伝達を補助することを目的として、発光層が複数の燐光発光材料を有していてもよい。
【0088】
以下に本発明の燐光発光材料として用いられるイリジウム錯体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
【化10】

【0090】
ここで、本発明に係る化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の化合物を使用することができる。より具体的にはホール注入性化合物あるいは輸送性化合物あるいはホスト材料あるいは発光性化合物あるいは電子注入性化合物あるいは電子輸送性化合物等を一緒に使用することができる。
【0091】
以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0092】
ホール注入輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
【0093】
主に発光機能に関わる発光材料としては、前述の燐光発光ゲスト材料、もしくはその誘導体以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0094】
電子注入輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0095】
陽極材料としては仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0096】
一方、陰極材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えばリチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えばマグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0097】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0098】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0099】
(有機発光素子の用途)
本発明に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0100】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部は複数の画素を有する。この画素は本実施形態に係る有機発光素子と発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例としてTFT素子とを有し、この有機発光素子の陽極または陰極とTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。
【0101】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する入力部をさらに有し、入力された画像を表示部に出力する画像入力装置でもよい。
また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0102】
次に本実施形態に係る有機発光素子を使用した表示装置について図2を用いて説明する。
【0103】
図2は、本実施形態に係る有機発光素子と、有機発光素子に接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子とを示した表示装置の断面模式図である。本図では有機発光素子とTFT素子との組が2組図示されている。構造の詳細を以下に説明する。
【0104】
この表示装置は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0105】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0106】
有機化合物層12は本図では多層の有機化合物層を1つの層の如く図示をしている。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0107】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型の素子等を用いてもよい。
【実施例】
【0108】
<実施例1>
例示化合物D01の合成
【0109】
【化11】

【0110】
化合物01の合成
マグネシウム:1.5g(61.8mmol)を反応容器に入れた。
この反応容器内をアルゴン雰囲気し、その後、脱水ジエチルエーテル55mlに溶解した2−ブロモビフェニル11.7g(50.2mmol)を撹拌しながら滴下し、グリニャール試薬を調整した。
【0111】
別の反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を入れた。
脱水ジエチルエーテル:50ml
2−ブロモフルオレノン:10g(38.6mmol)
この反応容器に、先に調整したグリニャール試薬を滴下し、30分撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。
【0112】
反応溶液を0℃に冷却し、飽和塩化アンモニウム水溶液と酢酸エチルで分液を行い、有機層を回収した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去し、化合物01の中間体を得た。
【0113】
次に別の反応容器に、化合物01の中間体と酢酸200mlを入れた。
【0114】
この反応溶液を120℃に加熱した。濃塩酸20mlを撹拌しながら10分かけて滴下し、120℃で1時間加熱撹拌を行った。薄層クロマトグラフィーにより、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。
【0115】
反応容器を0℃に冷却し、析出したものを回収した。回収したろ物を水、エタノールで洗浄し、化合物01を13.0g(33.1mmol)得た(収率85.8%)。
【0116】
GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)より、m/z=394のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0117】
化合物02の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
ジオキサン:140ml
化合物01:7.00g(17.7mmol)
ビスピナコラトジボロン:6.75g(26.6mmol)
酢酸カリウム:3.47g(35.4mmol)
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド:621mg(0.885mmol)
反応溶液を、窒素雰囲気下、100℃で12時間加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーより、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。
【0118】
反応溶液を室温に戻した後、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:1)。目的のフラクションを濃縮し、メタノールを加えて析出させて、化合物02を6.43g(14.5mmol)得た(収率82.1%)。
【0119】
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)より、m/z=442のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0120】
化合物03の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
ジオキサン:100ml
化合物02:5.00g(11.3mmol)
2−ブロモ−4−クロロ−1−ヨードベンゼン:5.38g(17.0mmol)
炭酸カリウム:2.22g(22.6mmol)
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド:397mg(0.565mmol)
この反応溶液を、窒素雰囲気下、100℃で24時間加熱撹拌した。GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)より、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。
【0121】
反応溶液を室温に戻した後、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:2)。目的のフラクションを濃縮し、ヘプタンを加えて析出させて、沈殿をろ過して化合物03を 4.93g(9.74mmol)得た(収率86.2%)。
【0122】
GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)よりm/z=504のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0123】
化合物04の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
ジアザビシクロウンデセン:10g(65.7mmol)
DMF:10ml
化合物03:4.80g(9.49mmol)
ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド:333mg(0.474mmol)
この反応溶液を、窒素雰囲気下、170℃で5時間加熱撹拌した。GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)より、原料が消失し、目的の化合物の生成を確認した。
【0124】
反応溶液を室温に戻した後、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:2)。目的のフラクションを濃縮し、メタノールで再結晶して化合物04を2.57g(6.05mmol)得た(収率63.8%)。
【0125】
GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)より、m/z=424のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0126】
例示化合物D01の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
トルエン:30ml
化合物04:400mg(0.941mmol)
1,3−フェニレンボロン酸:78.0mg(0.471mmol)
リン酸三カリウム:400mg(0.472mmol)
ビスジベンジリデンアセトンパラジウム:27.0mg(0.0471mmol)
X−Phos(ジシクロヘキシル(2‘,4’,6‘−トリイソプロピルー[1,1’−ビフェニル]−2−イル)ホスフィン):67.3mg(0.141mmol)
この反応溶液を、窒素雰囲気下、120℃で12時間加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。
【0127】
反応溶液を室温に戻した後、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:2)。目的のフラクションを濃縮し、トルエン/ヘプタンで再結晶を行った。ろ物を回収して、例示化合物D01を 170mg(0.199mmol)得た(収率42.3%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)よりm/z=854のピークが得られ、目的物であることを確認した。H−NMRにより、38個のプロトンを帰属した。H−NMR(CDCl):δ(ppm)=9.03(s,2H),8.84ppm(d,2H),8.47ppm(d,2H),8.40ppm(d,2H),8.32ppm(s,1H),7.97−7.89ppm(m,6H),7.78ppm(t,1H),7.56ppm(t,4H),7.41ppm(t,4H),7.10ppm(t,4H),7.04ppm(d,4H),6.70ppm(d,4H))
【0128】
<実施例2>
例示化合物B22の合成
【0129】
【化12】

【0130】
実施例1の1,3−フェニレンボロン酸を化合物05に変え、実施例1と同様な方法によって、例示化合物B22を 481mg(0.663mmol)得た(収率70.5%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)よりm/z=724のピークが得られ、目的物であることを確認した。H−NMRにより、32個のプロトンを帰属した。H−NMR(CDCl):δ(ppm)=8.98(s,1H),8.78ppm(d,1H),8.44ppm(d,1H),8.36ppm(d,1H),8.22―8.16ppm(m,4H),8.08ppm(d,1H),7.93−7.77ppm(m,7H),7.66ppm(t,2H),7.61ppm(d,2H),7.57−7.40ppm(m,6H),7.10ppm(t,2H),7.03ppm(d,2H),6.70ppm(d,2H))
【0131】
<実施例3>
例示化合物A09の合成
【0132】
【化13】

【0133】
化合物06の合成
実施例1で使用した2−ブロモビフェニルを、2−ブロモ−5−メトキシビフェニルに変更し、2−ブロモ−4−クロロ−1−ヨードベンゼンを2−ブロモ−1−ヨードベンゼンに変更し、実施例1と同様な合成法によって化合物06を得た。
【0134】
化合物07の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
化合物06:1.17g(2.78mmol)
ジクロロメタン:60ml
この反応溶液を0℃に冷却した。その後、三臭化ホウ素のジクロロメタン溶液(1mol/L)を3.40ml(3.40mmol)滴下した。
【0135】
反応溶液を室温に戻し、2時間撹拌した。GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)より、原料が消失し、目的の化合物の生成を確認した。反応溶液をトルエン、炭酸水素ナトリウム水溶液で分液を行い、有機層を回収した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を留去して化合物07を1.06g(2.60mmol)得た(収率93.4%)。
【0136】
GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)より、m/z=406のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0137】
化合物08の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
化合物07:1.01g(2.49mmol)
ピリジン:30ml
この反応溶液を0℃に冷却した。その後、無水トリフルオロメタンスルホン酸702μl(4.17mmol)を滴下し、室温で2時間撹拌した。薄層クロマトグラフィーによって、原料の消失と、新しい化合物の生成を確認した。溶媒を減圧濃縮し、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:2)。目的のフラクションを濃縮し、メタノールで再結晶して化合物08を1.26g(2.34mmol)得た(収率94.1%)。
【0138】
GS−MS(ガスクロマトグラフィー直結質量分析計)より、m/z=538のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0139】
化合物09の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
ジオキサン:50ml
化合物08:1.03g(1.91mmol)
ビスピナコラトジボロン:729mg(2.87mmol)
酢酸カリウム:375mg(3.82mmol)
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム:54.9mg(0.0955mmol)
トリシクロヘキシルホスフィン:80.3mg(0.287mmol)
この反応溶液を、窒素雰囲気下、100℃で12時間加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーより、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。反応溶液を室温に戻した後、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:1)。目的のフラクションを濃縮し、メタノールを加えて析出させて、沈殿をろ過して化合物09を704mg(1.36mmol)得た(収率71.4%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)より、m/z=516のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0140】
例示化合物A09の合成
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
トルエン:30ml
化合物09:500mg(0.968mmol)
ベンゾイルクロリド:272mg(1.94mmol)
リン酸三カリウム:411mg(1.94mmol)テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム:55.9mg(0.0484mmol)
この反応溶液を、窒素雰囲気下、90℃で12時間加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。反応溶液を室温に戻した後、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:2)。目的のフラクションを濃縮し、トルエン/ヘプタンで再結晶を行った。ろ物を回収して、例示化合物A09を 389mg(0.787mmol)得た(収率81.3%)。
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)よりm/z=494のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0141】
<実施例4>
例示化合物A10の合成
【0142】
【化14】

【0143】
反応容器に、以下に示す試薬を入れた。
トルエン:30ml
化合物08:520mg(0.968mmol)
ジフェニルアミン:328mg(1.94mmol)
炭酸セシウム:632mg(1.94mmol)
酢酸パラジウム:10.9mg(0.0484mmol)
トリターシャリーブチルホスフィン:19.6mg(0.0968mmol)
この反応溶液を、窒素雰囲気下、110℃で12時間加熱撹拌した。薄層クロマトグラフィーにより、原料が消失し、新たな化合物の生成を確認した。反応溶液を室温に戻した後、減圧濃縮しシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した(展開溶媒 トルエン:ヘプタン=1:1)。目的のフラクションを濃縮し、トルエン/ヘプタンで再結晶を行った。ろ物を回収して、例示化合物A10を 389mg(0.697mmol)得た(収率72.0%)。
MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)よりm/z=557のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0144】
<実施例5>
例示化合物B22について、以下の方法で三重項エネルギーの測定を行った。
分光蛍光光度計(日立製作所製 F−4500)を用いて、例示化合物B08のトルエン希薄溶液を、窒素雰囲気下、77K、励起波長300nmにおいて燐光スペクトルの測定を行った。得られた燐光スペクトルの最も短波長側のピーク波長から三重項エネルギーを求めると2.66eV(467nm)であった。
【0145】
次に例示化合物B22について、以下の方法で一重項エネルギーの測定を行った。
化合物のジクロロメタン希薄溶液を、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製 V−560)を用いて吸光スペクトルを測定した。得られた吸光スペクトルの吸収端から一重項エネルギーを求めると3.42eV(363nm)であった。一重項と三重項エネルギーの差は0.76eVであった。
【0146】
次に例示化合物B22について、示差走査熱量計(NETSZCH社製 DSC204F1)によってガラス転移温度を測定したところ、172℃であった。
【0147】
<実施例6>
例示化合物D01を実施例4と同様にして測定すると、一重項エネルギーは3.42eV(363nm)、三重項エネルギーは2.64eV(470nm)であった。一重項と三重項エネルギーの差は0.78eVであった。ガラス転移温度は256℃であった。
【0148】
<比較例1>
【0149】
【化15】

【0150】
比較化合物01を、実施例4と同様にして測定すると、ガラス転移温度は108℃であった。
【0151】
以上の測定結果を表3に示す。
【0152】
【表3】

【0153】
例示化合物D01は0.78eV、例示化合物B22は0.76eVであった。これらは本発明の基本骨格の値である0.64eVに近い値である。
【0154】
本発明に係る化合物の基本骨格を1つ用いた例示化合物B22は172℃であり、本発明に係る化合物の基本骨格を2つ用いた例示化合物D01は256℃であり、本発明に係る化合物の基本骨格が増えるにつれて高いガラス転移温度を持つことが分かった。
【0155】
例示化合物B22の基本骨格を、トリフェニレンに変えた比較化合物01のガラス転移温度は108℃であった。本発明に係る化合物の基本骨格を有しているとガラス転移温度が高くなることが分かった。
【0156】
<実施例7>
本実施例では、基板上に順次陽極/ホール輸送層/発光層/ホールブロッキング層/電子輸送層/陰極が設けられた構成の有機発光素子を以下に示す方法で作製した。
【0157】
ガラス基板上に、陽極としてITOをスパッタ法にて膜厚120nmで製膜したものを透明導電性支持基板(ITO基板)として使用した。このITO基板上に、以下に示す有機化合物層及び電極層を、10−5Paの真空チャンバー内で抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に製膜した。このとき対向する電極面積は3mmになるように作製した。
ホール輸送層(40nm) HTL−1
発光層(30nm) 例示化合物B22(70wt%)、HBL−1(20wt%)、Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング層(10nm) HBL−1
電子輸送層(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
【0158】
【化16】

【0159】
次に、有機発光素子が水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせアクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0160】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、5.4Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が63cd/Aで、輝度4000cd/mの緑色発光が観測された。
【0161】
<実施例8>
以下の材料を用いて、実施例7と同様な方法で発光素子を作成した。
ホール輸送層(40nm) HTL−1
発光層(30nm) 例示化合物D01(70wt%)、HBL−1(20wt%)、Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング層(10nm) HBL−1
電子輸送層(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
得られた素子に5.2Vの印加電圧をかけたところ発光効率が58cd/Aで、輝度4000cd/mの緑色発光が観測された。
【0162】
<実施例9>
以下の材料を用いて、実施例7と同様な方法で発光素子を作成した。
ホール輸送層(40nm) HTL−1
発光層(30nm) HOST−1(70wt%)、例示化合物A09(20wt%)、Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング層(10nm) 例示化合物A09
電子輸送層(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
得られた素子に5.8Vの印加電圧をかけたところ発光効率が70cd/Aで、輝度4000cd/mの緑色発光が観測された。
【0163】
<実施例10>
以下の材料を用いて、実施例7と同様な方法で発光素子を作成した。
ホール輸送層(40nm) 例示化合物A10
発光層(30nm) HOST−1(70wt%)、HBL−1(20wt%)、Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング層(10nm) HBL−1
電子輸送層(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al
得られた素子に5.7Vの印加電圧をかけたところ発光効率が68cd/Aで、輝度4000cd/mの緑色発光が観測された。
【0164】
<比較例2>
以下の材料を用いて、実施例7と同様な方法で発光素子を作成した。
ホール輸送層(40nm) HTL−1
発光層(30nm) HOST−1(70wt%)、HBL−1(20wt%)、Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング層(10nm) HBL−1
電子輸送層(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al得られた素子に6.0Vの印加電圧をかけたところ発光効率が57cd/Aで、輝度4000cd/mの緑色発光が観測された。
【0165】
<比較例3>
以下の材料を用いて、実施例7と同様な方法で発光素子を作成した。
ホール輸送層(40nm) HTL−1
発光層(30nm) HOST−2(70wt%)、HBL−1(20wt%)、Ir−1(10wt%)
ホールブロッキング層(10nm) HBL−1
電子輸送層(30nm) ETL−1
金属電極層1(0.5nm) LiF
金属電極層2(100nm) Al得られた素子に6.5Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が50cd/Aで、輝度4000cd/mの緑色発光が観測された。
【0166】
以上の結果を表4に示す。なお、発光層ホストとは、発光層で最も重量比の多い成分のことを示す。
【0167】
【表4】

【0168】
以上のように本発明に係る化合物は、一重項と三重項エネルギーの差が小さく、ガラス転移温度が高い材料を提供する。また、有機発光素子に用いた場合は、駆動電圧が低くて発光効率の高い発光素子を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物。
【化1】


一般式[1]において、R乃至Rは水素原子またはフェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、フルオレニル基、ジベンゾチオフェン基、カルボニル基、アミノ基、スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基からそれぞれ独立に選ばれる。
前記フェニル基および前記ビフェニル基および前記ターフェニル基および前記ナフチル基および前記フェナントリル基および前記トリフェニレン基および前記フルオレニル基および前記ジベンゾチオフェン基および前記カルボニル基および前記アミノ基および前記スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]基は、アルキル基、フェニル基、フェニル基を有するカルボニル基、置換アミノ基、ジベンゾチオフェン基を置換基として有してよい。
【請求項2】
乃至Rが全て水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載のスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物。
【請求項3】
一対の電極と前記一対の電極の間に配置された有機化合物層とを有する有機発光素子であって、前記有機化合物層は請求項1乃至2のいずれか一項に記載のスピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物を有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層は発光層または電子輸送層であることを特徴とする請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記有機化合物層が発光層であることを特徴とする請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記発光層はホスト材料とゲスト材料とを有し、前記ホスト材料が前記スピロ[シクロペンタ[def]トリフェニレン−4,9’−フルオレン]化合物であることを特徴とする請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記ゲスト材料が燐光発光材料であることを特徴とする請求項6に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記燐光発光材料がイリジウム錯体であることを特徴とする請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項9】
複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至8のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項10】
画像を表示するための表示部と画像情報を入力するための入力部とを有し、前記表示部は複数の画素を有し、前記画素は請求項3乃至8のいずれか一項に記載の有機発光素子と前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子とを有することを特徴とする画像入力装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106979(P2012−106979A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159077(P2011−159077)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】