説明

スピーカの排水構造及び排水方法

【課題】電子機器に実装されたスピーカにおいて、音質の劣化を伴うことなく、スピーカの内部に侵入した水を容易に排出する。
【解決手段】スマートフォン10の筐体12内に実装されたスピーカ20の内部を振動板24で仕切り、圧電素子30がある側の第1の空間40を密閉し、他方の第2の空間42と筐体12に設けられた放音孔14を導音路26で接続する。該導音路26の内壁と、第2の空間42を形成するスピーカ20のケース22の内壁には撥水機能を付与する。前記スピーカ20の内部に水が入ったら、前記圧電素子30に、200〜400Hzの正弦波信号又は三角波信号を第1の信号として入力することで振動板24を振動させる。すると、第2の空間内42に侵入し振動板24上に滞留した水が、導音路26から排出可能な細かい液滴に分割され、液滴全体の表面積が増加するため蒸発(又は乾燥)が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やスマートフォン,あるいは、ゲーム機などの電子機器に実装されるスピーカの排水構造及び排水方法に関するものであり、特に、圧電スピーカを利用した排水技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の使用環境が広がっていく中で、機器に雨水等がかかったり、あるいは、短時間水中に没したりするような状況も想定される。そのような環境下でも、携帯機器が故障しないようにするためには、水が機器内部に入り込むことを防ぐような筐体構造にする必要がある。ただし、スピーカ(レシーバも含む。)の機能を発揮させるためには、外部に通じる穴を機器の筐体に開けることが必須である。そこで、従来は、スピーカの放音部を防水する際には、十分な大きさの防水布(例えば、Gore-Tex(登録商標)など)をスピーカと外部との間に貼り、防水布を振動させることで音を発生させていた。また、スピーカの振動板を防水のための膜と考え、そこに至る通路(導音路)の形状や水に対する親和性を制御することで、水が外部へ排出しやすくした構造もある。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、スピーカを覆うカバー部材の裏面のうち、スピーカの音を通す多数の放音孔が存在する領域にブラスト加工を施すことにより、水との間の界面張力を減じる所定の粗さを確保し、各々の放音孔の周囲における水との親和性を向上させることにより、放音孔に付着した水が表面張力によってそこに留まることを抑止し、放音孔が水で塞がれる事態を防止することが開示されている。また、縦に並んだ複数の放音孔を誘導溝によって連結し、放音孔に付着した水を、誘導溝を介して効果的に下方に通流させることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−193291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、最近の携帯機器においては、小型化かつ高機能化が進んでおり、スピーカの実装においても、それに必要な導音路や、筐体に設ける開口を可能な限り小さくすることが求められている。そのため、防水布による防水を行うと、十分に防水布の面積がとれずに、音圧が低くなり音質が劣化してしまうという課題がある。また、前記特許文献1に記載の界面張力を減じる加工や、外部へ水を排出しやすくする構造についても、導音路が細くなれば、一度内部へ入った水は、表面張力によって簡単には外部へ排出されないという課題もある。
【0006】
本発明は、以上のような点に着目したもので、電子機器の筐体内に実装されたスピーカにおいて、音質の劣化を伴うことなく、スピーカの内部に侵入した水を排出しやすくする排水構造及び排水方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電子機器の筐体の内部に実装されるスピーカの排水構造であって、前記スピーカは、圧電素子が一方の主面に貼り付けられた振動板の周囲を支えるように、全体がケースで覆われており、前記スピーカの内部は、前記振動板により、前記圧電素子が設けられた側の第1の空間が密閉され、前記圧電素子が設けられていない側の第2の空間と前記筐体の表面に設けられた放音孔の間が、導音路により接続されており、前記第2の空間を形成するスピーカのケースの内壁と、前記導音路の内壁が撥水性を有するとともに、前記スピーカの圧電素子は、200〜400Hzの駆動信号の入力により、前記第2の空間に侵入した水を細かい液滴に分割することを特徴とする。
【0008】
主要な形態の一つは、前記第2の空間を形成するスピーカのケースの内壁と、前記導音路の内壁に、撥水剤によるコーティングを施したことを特徴とする。他の形態は、前記第2の空間を形成するスピーカのケースの内壁と、前記導音路の内壁を、撥水性を有する材料で形成したことを特徴とする。
【0009】
他の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排水構造を備えたスピーカの圧電素子に、200〜400Hzの正弦波信号若しくは三角波信号を第1の信号として入力することで、前記第2の空間に侵入した水を、前記導音路を通じて外部へ排出できる細かい液滴に分割することを特徴とする。主要な形態の一つは、前記第1の信号の周波数の3〜5倍の周波数を有する正弦波信号を第2の信号として、前記第1の信号とともに入力することを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電子機器の筐体内に実装されたスピーカの内部を振動板で仕切り、該振動板に貼り付けられた圧電素子がある側の第1の空間を密閉し、圧電素子がない側の第2の空間と前記筐体に設けられた放音孔を導音路で接続するとともに、該導音路の内壁と、前記第2の空間を形成するスピーカの内壁に撥水機能を付与する。そして、前記圧電素子に、200〜400Hzの信号を入力して振動させ、前記第2の空間内に侵入した水を、前記導音路から排出可能な細かい液滴に分割することとしたので、スピーカの音質の劣化を招くことなく、内部に侵入した水を容易に排出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1のスマートフォンを示す図であり、(A)は全体の外観斜視図,(B)は前記(A)を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た端面図,(C)は前記(B)の一部拡大図,(D)はスピーカの外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
最初に、図1を参照しながら本発明の実施例1を説明する。本発明は、例えば、携帯電話やスマートフォン,あるいは、ゲーム機などの電子機器に搭載されたスピーカの内部に侵入した水の排出に関する技術である。なお、本実施例では、前記電子機器としてスマートフォンを例示して説明する。図1は、本実施例のスマートフォンを示す図であり、(A)は全体の外観斜視図,(B)は前記(A)を#A−#A線に沿って切断し矢印方向に見た端面図,(C)は前記(B)の一部拡大図,(D)はスピーカの外観斜視図である。
【0014】
図1(A)に示すように、本実施例のスマートフォン10は、筐体12の表面12A側の一部に表示パネル18を備えており、前記表面12Aには、内蔵したスピーカの放音孔14や、操作用スイッチのための開口部16が設けられている。なお、ここでは、表示パネル18を視覚的に見る方向を表面側(ないし上側),反対方向を背面側(ないし下側)と定義して表現している。前記筐体12の内部には、図1(B)に示すようにスピーカ20が実装されている。なお、図1(B)では、説明を容易にするために、筐体12内の表示パネル18に関する部分の図示を省略し、スピーカ20のみを示した。
【0015】
前記スピーカ20は、図1(C)に示すように、振動板24の一方の主面に圧電素子30を貼り付けた構成となっており、前記振動板24の周囲を支えるように、全体がケース22で覆われている。前記ケース22の内部は、前記振動板24によって、前記圧電素子30が設けられた側(背面22B側)の第1の空間40に水が侵入しないように密閉されている。また、前記圧電素子30を設けていない側(表面22B側)の第2の空間42は、導音路26を介して、前記筐体表面12Aに設けられた放音孔14に接続されている。ケース22と導音路26の接続部分の気密性は保たれている。本実施例では、前記導音路26の内壁と、前記第2の空間42を形成するスピーカケース22の内壁は、撥水機能を有している。撥水機能は、図1(C)に示すように、例えば、テフロン(登録商標)等の撥水剤によるコーティング28を設けるようにしてもよいし、前記導音路26やケース22を撥水性を有する材料で構成することで実現してもよい。
【0016】
前記圧電素子30としては、屈曲振動をするのであれば、どのような形状・構成であってもよいが、携帯機器では高電圧を得にくいため、通常では、圧電体層と電極層を積層した積層素子を用いる。なお、該圧電素子30は、実装する電子機器の構造によっては、全く積層していない単板構造としてもよい。前記圧電体層の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛に添加物を加えた圧電材料が用いられるが、一般的に知られている圧電セラミックスであれば、他の材料を用いてもよい。電極層の材料としては、例えば、銀や白金など、公知の各種の電極材料が利用可能である。また、前記振動板24についても、十分な音響特性を得るために必要な材質・構造とすればよいが、スピーカ20の内部に水が侵入することを踏まえ、絶縁材料もしくは金属等により絶縁処理を施した材料を用いる必要がある。該振動板24には、前記圧電素子30が、粘着剤などにより貼り付けられる。
【0017】
以上のような構成のスマートフォン10において、前記筐体12に水がかかったり、前記筐体12が水中に没したりすると、前記放音孔14から前記導音路26を通って、スピーカ20の内部空間まで水が侵入してしまう。仮に、前記放音孔14に、主として防塵の目的でメッシュを張ったとしても、そのメッシュの目開きは、空気の流通を妨げない50μm以上である必要があり、この程度の目開きでは水の侵入を防止することはできない。また、前記導音路26の幅W(図1(D)参照)は、1mm以下、機器によって0.5mm以下となっていることが多く、単純に筐体12の上下を逆にしても、スピーカ20の第2の空間42に侵入した水は容易に外部へ排出されることはない。内部に水が滞留したままの状態でスピーカ20に音声信号を入力しても、水によって前記振動板24の振動が阻害されて十分な音を得ることができない。
【0018】
しかしながら、本実施例では、スピーカ20の構造を上述した構成とし、更に、以下のような手順を踏むことで、内部の水を容易に排出することができる。そのためには、まず、スピーカ20の圧電素子30に、200〜400Hzの正弦波信号又は三角波信号を第1の信号として入力する。該第1の信号の振幅は、スピーカ20の最大定格とする。第1の信号は3秒以上入力するが、その際には、前記放音孔14を下向きにするのが望ましい。前記第1の信号を入力することで振動板24が振動し、前記第2の空間42の内壁や振動板24に滞留した水が、前記導音路26を通過できるような細かい液滴に分割され、撥水処理を施した導音路26を通って容易に外部へ排出される。すなわち、導音路26の幅Wが1mm以下というように非常に狭い構造であっても、スピーカ20の内部まで侵入した水を小液滴化して表面積を増やし、蒸発(ないし乾燥)しやすくして、容易に外部に排出できるようにする。
【0019】
なお、上述した第1の信号に加え、該第1の信号の周波数の3〜5倍の周波数を持つ正弦波信号を第2の信号として加えるようにしてもよい。該第2の信号と該第1の信号を同時に加えると、水を液滴に分割する力が更に効率的に加わることとなる。また、該第2の信号は、前記振動板24に大きな変位を与えるため、分割された液滴を効率的に移動させることができる。これらの相乗効果により、水の排出を更に容易にすることができる。
【0020】
次に、本実施例の実験例について説明する。18×14mmであって厚みが0.1mmの振動板24に、16×12mmであって厚みが18μmの圧電体層を6層積層した圧電素子30を貼り付けたスピーカ20を、幅Wが0.5mmの導音路26で放音孔14に接続した筐体12を作製した。作製した筐体12を水深1.5mの深さに沈め、1時間放置した。その後取り出し、外部に着いた水を布で拭き取った後、前記圧電素子30に、下記表1に実験例1〜5として示す周波数と時間で信号を入力し、水没前と、取り出し後信号入力した後での音圧の劣化を確認した。また、周波数や時間が上述した範囲外の場合についても、比較例1〜4として音圧劣化を確認した。なお、実験例4及び5については、入力周波数の上段側が第1の信号、下段側が第2の信号を示している。表1に示すように、実験例1〜5では、音圧劣化はないか、あっても極わずかであるが、比較例1〜4では、音圧の劣化が大きくなることが確認された。
【表1】

【0021】
このように、実施例1によれば、スマートフォン10の筐体12内に実装されたスピーカ20の内部を振動板24で仕切り、該振動板24に貼り付けられた圧電素子30がある側の第1の空間40を密閉し、圧電素子30がない側の第2の空間42と前記筐体12に設けられた放音孔14を導音路26で接続するとともに、該導音路26の内壁と、前記第2の空間42を形成するスピーカ内壁に撥水機能を付与することとした。そして、前記圧電素子30に、200〜400Hzの正弦波又は三角波の第1の信号を入力することで振動板24を振動させ、前記第2の空間内42に侵入し、振動板24上に滞留した水を、細かい液滴に分割して、液滴全体としての表面を増加させて蒸発(あるいは乾燥)させやすくしたので、スピーカ20の音質の劣化を招くことなく、内部に侵入した水を容易に外部へ排出することが可能となる。また、必要に応じて、前記第1の信号に加え、該第1の信号の周波数の3〜5倍の周波数の正弦波の第2の信号を加えることで、振動板24に大きな変位を与え、水の液滴化の効率を上げ、更に排水機能を向上させることができる。
【0022】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例で示した形状,寸法などは一例であり、必要に応じて適宜変更してよい。例えば、前記実施例1では、スピーカ20を方形状としたが、円形としてもよい。導音路26の幅Wについても、スピーカ20が実装される電子機器の用途に応じて適宜変更可能である。
(2)上述した実験例では、圧電体層を6層積層した圧電素子30を利用したが、その積層数も一例であり、必要に応じて適宜増減してよいし、単板構造の素子であってもよい。また、積層素子においては、バイモルフ構造としてもよいしユニモルフ構造としてもよい。
(3)前記実施例では、スピーカ20を例に挙げて説明したが、本発明でいうスピーカは広義のスピーカを示しており、レシーバについても当然に本発明の技術が適用可能である。
(4)前記圧電素子30を形成する材料についても、公知の各種の材料が利用可能である。
(5)前記実施例では、本発明を適用した電子機器としてスマートフォン10を例に挙げて説明したが、これも一例であり、本発明は、携帯電話やゲーム機など、スピーカ機能を搭載した電子機器全般に適用可能である。通話用のレシーバにも、同様に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、電子機器の筐体内に実装されたスピーカの内部を振動板で仕切り、該振動板に貼り付けられた圧電素子がある側の第1の空間を密閉し、圧電素子がない側の第2の空間と前記筐体に設けられた放音孔を導音路で接続するとともに、該導音路の内壁と、前記第2の空間を形成するスピーカの内壁に撥水機能を付与する。そして、前記圧電素子に、200〜400Hzの信号を入力して、前記第2の空間内に侵入した水を、前記導音路から排出可能な細かい液滴に分割することで、スピーカの音質の劣化を招くことなく、内部に侵入した水を容易に排出するため、電子機器に搭載されるスピーカの防水技術として適用できる。特に、水がかかったり、水中に没したりするおそれがある携帯型電子機器に好適である。
【符号の説明】
【0024】
10:スマートフォン
12:筐体
12A:表面
12B:背面
12C:側面
14:放音孔
16:開口部
18:表示パネル
20:スピーカ
22:ケース
22A:上面
22B:背面
24:振動板
26:導音路
28:コーティング
30:圧電素子
40:第1の空間
42:第2の空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の筐体の内部に実装されるスピーカの排水構造であって、
前記スピーカは、圧電素子が一方の主面に貼り付けられた振動板の周囲を支えるように、全体がケースで覆われており、
前記スピーカの内部は、前記振動板により、前記圧電素子が設けられた側の第1の空間が密閉され、前記圧電素子が設けられていない側の第2の空間と前記筐体の表面に設けられた放音孔の間が、導音路により接続されており、
前記第2の空間を形成するスピーカのケースの内壁と、前記導音路の内壁が撥水性を有するとともに、
前記スピーカの圧電素子は、200〜400Hzの駆動信号の入力により、前記第2の空間に侵入した水を細かい液滴に分割することを特徴とするスピーカの排水構造。
【請求項2】
前記第2の空間を形成するスピーカのケースの内壁と、前記導音路の内壁に、撥水剤によるコーティングを施したことを特徴とする請求項1記載のスピーカの排水構造。
【請求項3】
前記第2の空間を形成するスピーカのケースの内壁と、前記導音路の内壁を、撥水性を有する材料で形成したことを特徴とする請求項1記載のスピーカの排水構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の排水構造を備えたスピーカの圧電素子に、200〜400Hzの正弦波信号若しくは三角波信号を第1の信号として入力することで、前記第2の空間に侵入した水を、前記導音路を通じて外部へ排出できる細かい液滴に分割することを特徴とするスピーカの排水方法。
【請求項5】
前記第1の信号の周波数の3〜5倍の周波数を有する正弦波信号を第2の信号として、前記第1の信号とともに入力することを特徴とする請求項4記載のスピーカの排水方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−115549(P2013−115549A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258839(P2011−258839)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】