説明

スピーカーおよび再生帯域調整方法

【課題】無指向性であって、各々異なる再生帯域の音声を再生可能な複数のスピーカー部を有するスピーカーを提供することを課題とする。また、スピーカーの有するスピーカー部の再生帯域を、簡単に調整することが可能な再生帯域調整方法を提供することを課題とする。
【解決手段】スピーカー1は、各々、音声の再生帯域が異なる複数のスピーカー部2、3を備える。スピーカー部2は、エラストマー製または樹脂製の誘電層200と、誘電層200の内周面および外周面に配置される複数の電極層201、202と、を有する筒状の振動部20を有する。スピーカー部3は、エラストマー製または樹脂製の誘電層300と、誘電層300の内周面および外周面に配置される複数の電極層301、302と、を有する筒状の振動部30を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスピーカー部を有するスピーカー、およびスピーカー部の再生帯域調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、無指向性のスピーカーが開示されている。同文献記載のスピーカーは、円筒状を呈している。また、同文献記載のスピーカーは、振動体と、一対の電極と、を備えている。振動体は、圧電セラミック製である。一対の電極は、振動体の内周面および外周面に配置されている。
【0003】
特許文献1と同様に、特許文献2には、無指向性のスピーカーが開示されている。同文献記載のスピーカーは、円筒状を呈している。また、同文献記載のスピーカーは、基層と、一対の電極と、を備えている。基層は、エラストマーフィルム製である。一対の電極は、基層の内周面および外周面に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−327092号公報
【特許文献2】特開2009−272978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載のスピーカーによると、水平面内における全方位に向かって、音声を再生することができる。しかしながら、これらのスピーカーは、複数の再生帯域(例えば、高周波数帯域と低周波数帯域)の音声を再生することができない。このため、複数の再生帯域の音声を再生する場合は、各再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する必要がある。したがって、スピーカーの設置スペースが大きくなってしまう。
【0006】
本発明のスピーカーは、上記課題に鑑みて完成されたものである。本発明は、無指向性であって、各々異なる再生帯域の音声を再生可能な複数のスピーカー部を有するスピーカーを提供することを目的とする。また、本発明は、スピーカーの有するスピーカー部の再生帯域を、簡単に調整することが可能な再生帯域調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本発明のスピーカーは、エラストマー製または樹脂製の誘電層と、該誘電層の内周面および外周面に配置される複数の電極層と、を有する筒状の振動部を有し、各々、音声の再生帯域が異なる複数のスピーカー部を備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、「エラストマー製または樹脂製」とは、誘電層の基材が、エラストマー製または樹脂であることをいう。すなわち、誘電層は、エラストマーまたは樹脂の他に、添加剤等の他の成分を含んでいてもよい。また、「エラストマー」には、ゴムおよび熱可塑性エラストマーが含まれる。また、「筒状」とは、無底筒状(軸方向両端に底を有しない筒状)または有底筒状(軸方向両端のうち少なくとも一方に底を有する筒状)をいう。また、「音声の再生帯域が異なる」とは、音圧レベルの周波数分布において、隣接する再生帯域が完全に分離している場合は勿論、隣接する再生帯域が部分的に重複している場合を含む。
【0009】
本発明のスピーカーは、複数のスピーカー部を備えている。スピーカー部は、誘電層から見て、径方向外側の電極層と、誘電層と、径方向内側の電極層と、を備えている。誘電層の外周面の電極層および内周面の電極層には、再生対象となる音声に基づく交流電圧が印加される。当該交流電圧に基づく電極層間の静電引力の変化に応じて、誘電層の径方向の厚さは変化する。すなわち、誘電層が振動する。このため、スピーカー部から音声が再生される。
【0010】
本発明のスピーカーによると、振動部は、エラストマー製または樹脂製の誘電層と、電極層と、を有している。このため、本発明のスピーカーは、永久磁石やボイスコイルを有する従来のダイナミック型スピーカーユニットと比較して、薄型化が可能である。また、軽量化が可能である。
【0011】
また、本発明のスピーカーの複数のスピーカー部は、各々、異なる再生帯域の音声を再生可能である。このため、高周波数帯域や低周波数帯域など、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、スピーカーを小型化することができる。また、スピーカーを軽量化することができる。
【0012】
また、本発明のスピーカーの複数のスピーカー部は、各々、筒状の振動部を有している。このため、水平面内における全方位に向かって、音声を再生することができる。つまり、本発明のスピーカーは、無指向性である。
【0013】
また、高周波数帯域専用のスピーカーの場合、低周波数帯域の音声を遮断するために、別途ハイパスフィルターを配置する必要がある。反対に、低周波数帯域専用のスピーカーの場合、高周波数帯域の音声を遮断するために、別途ローパスフィルターを配置する必要がある。これに対して、本発明のスピーカーによると、別途、フィルターを配置する必要がない。つまり、周波数遮断用の専用回路を、別途設ける必要がない。このため、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、部品点数が少なくなる。また、回路構成が簡単である。
【0014】
一例として、電極層の電気抵抗および誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、スピーカー部の再生帯域の上限値を調整することができる。すなわち、電極層と誘電層とは、疑似的に、電気抵抗と静電容量とが直列接続された、ローパスフィルターを構成している。
【0015】
ここで、電気抵抗をR、静電容量をCとすると、ローパスフィルターのカットオフ周波数fcは、以下の式(1)により導出される。
fc=1/(2πRC) ・・・式(1)
このため、電気抵抗R、静電容量Cを調整することにより、カットオフ周波数fc、つまり再生帯域の上限値を調整することができる。電気抵抗Rは、電極層の導通経路の長さ、導通経路の横断面積(経路方向に対して直交する方向の断面積)、電極層を構成する材料の調整などにより、調整することができる。
【0016】
導通経路を長くすると電気抵抗Rが大きくなる。反対に、導通経路を短くすると電気抵抗Rが小さくなる。導通経路の横断面積を大きくすると電気抵抗Rが小さくなる。反対に、導通経路の横断面積を小さくすると電気抵抗Rが大きくなる。
【0017】
電極層を構成する材料として、導電率が高い材料を選択すると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料として、導電率が低い材料を選択すると、電気抵抗Rが大きくなる。電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を大きくすると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を小さくすると、電気抵抗Rが大きくなる。
【0018】
静電容量は、誘電層の誘電率、電極面積(具体的には、径方向外側または径方向内側から見て、径方向外側の電極層と径方向内側の電極層とが重複する部分の面積)、電極間距離(具体的には、誘電層の径方向の厚さ)の調整などにより、調整することができる。すなわち、誘電率をε、電極面積をS、電極間距離をdとすると、静電容量Cは以下の式(2)により導出される。
C=εS/d ・・・式(2)
誘電層を構成する材料として、誘電率εが高い材料を選択すると、静電容量Cが大きくなる。反対に、誘電層を構成する材料として、誘電率εが低い材料を選択すると、静電容量Cが小さくなる。電極面積Sを大きくすると静電容量Cが大きくなる。反対に、電極面積Sを小さくすると静電容量Cが小さくなる。電極間距離dを大きくすると静電容量Cが小さくなる。反対に、電極間距離dを小さくすると静電容量Cが大きくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を増加させると静電容量Cが大きくなり、電気抵抗Rは小さくなる。
【0019】
また、振動部の面方向(周方向および軸方向)のばね定数をk、振動部の質量をmとすると、一次共振周波数f0は以下の式(3)により導出される。
f0=1/2π・√(k/m) ・・・式(3)
振動部の面方向のばね定数kを調整することにより、一次共振周波数f0、つまり再生帯域の下限値を調整することができる。また、振動部の質量mを調整することにより、一次共振周波数f0を調整することができる。
【0020】
誘電層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、誘電層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0021】
電極層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、電極層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0022】
誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、ばね定数kが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、ばね定数kが小さくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、振動部の質量mが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、振動部の質量mが小さくなる。このように、誘電層の積層数(電極層の積層数)により、式(3)のk/mを調整することができる。
【0023】
振動部の大きさを大きくすると、振動部の質量mが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。反対に、振動部の大きさを小さくすると、振動部の質量mが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。
【0024】
(1−1)好ましくは、上記(1)の構成において、前記電極層は、該電極層の原料である電極材料が前記誘電層に塗布されることにより形成される構成とする方がよい。本構成によると、電極層の形成と電極層の配置とを同時に行うことができる。
【0025】
(1−2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記電極層は、前記誘電層に接着される構成とする方がよい。本構成によると、電極層を、しっかりと誘電層に固定することができる。
【0026】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記振動部の内周面に当接する筒状の保持部を備える構成とする方がよい。本構成によると、振動部を径方向内側から保持することができる。このため、振動部に、しわが入りにくい。
【0027】
(2−1)好ましくは、上記(2)の構成において、前記保持部は、樹脂またはエラストマーの弾性発泡体製である構成とする方がよい。弾性発泡体は多数の空孔を備えている。また、弾性発泡体は柔軟である。このため、巨視的には、振動部にしわが入らないように、振動部をしっかりと保持することができる。また、微視的には、振動部の微細な振動を規制しにくい。
【0028】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記保持部の内周面に当接し、径方向に連通する連通孔を有する筒状の枠部を備える構成とする方がよい。本構成によると、枠部により、保持部を径方向内側から保持することができる。また、枠部には連通孔が配置されている。連通孔は、空気を通過させることができる。このため、振動部の内周面から出る逆位相波に対し、振動部の外周面への振動を阻害する空気ばねになることなく、空気を通過させることができる。また、枠部は、音声の回折を防ぐためのエンクロージャーとなっている。
【0029】
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、複数の前記スピーカー部は、大径スピーカー部と、該大径スピーカー部よりも外径が小さい小径スピーカー部と、を有する構成とする方がよい。
【0030】
大径スピーカー部は、前出の式(2)における電極面積Sが大きい。すなわち、大径スピーカー部は、静電容量Cが大きい。このため、前出の式(1)におけるカットオフ周波数fcを低く設定するのが容易である。したがって、大径スピーカー部は、低周波数帯域の音声の再生に適している。
【0031】
これに対して、小径スピーカー部は、前出の式(2)における電極面積Sが小さい。すなわち、小径スピーカー部は、静電容量Cが小さい。このため、前出の式(1)におけるカットオフ周波数fcを高く設定するのが容易である。したがって、小径スピーカー部は、高周波数帯域の音声の再生に適している。
【0032】
このように、本構成によると、大径スピーカー部と小径スピーカー部との径差に起因する電極面積Sの差を利用して、大径スピーカー部および小径スピーカー部に、各々所望の再生帯域を設定することができる。
【0033】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記誘電層は、ヤング率が1MPa以上20MPa以下のエラストマー製である構成とする方がよい。ヤング率を1MPa以上としたのは、1MPa未満の場合、誘電層の設置が困難だからである。また、ヤング率を20MPa以下としたのは、20MPa超過の場合、一次共振周波数f0が過度に高周波数側に移動してしまうからである。
【0034】
(6)また、上記課題を解決するため、本発明の再生帯域調整方法は、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成のスピーカーの、任意の前記スピーカー部の再生帯域調整方法であって、前記電極層の電気抵抗および前記誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、再生帯域の上限値であるカットオフ周波数を調整し、前記振動部の面方向のばね定数および該振動部の質量のうち、少なくとも一方を調整することにより、該再生帯域の下限値である一次共振周波数を調整することを特徴とする。
【0035】
本発明の再生帯域調整方法によると、スピーカー部ごとに、再生帯域の上限値、下限値を、簡単に調整することができる。すなわち、スピーカー部ごとに、再生帯域の広さ、位置を、簡単に調整することができる。
【0036】
電極層の電気抵抗および誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、スピーカー部の再生帯域の上限値を調整することができる。すなわち、電極層と誘電層とは、疑似的に、電気抵抗と静電容量とが直列接続された、ローパスフィルターを構成している(前出の式(1)参照)。
【0037】
このため、電気抵抗R、静電容量Cを調整することにより、カットオフ周波数fc、つまり再生帯域の上限値を調整することができる。電気抵抗Rは、電極層の導通経路の長さ、導通経路の横断面積(経路方向に対して直交する方向の断面積)、電極層を構成する材料の調整などにより、調整することができる。
【0038】
導通経路を長くすると電気抵抗Rが大きくなる。反対に、導通経路を短くすると電気抵抗Rが小さくなる。導通経路の横断面積を大きくすると電気抵抗Rが小さくなる。反対に、導通経路の横断面積を小さくすると電気抵抗Rが大きくなる。
【0039】
電極層を構成する材料として、導電率が高い材料を選択すると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料として、導電率が低い材料を選択すると、電気抵抗Rが大きくなる。電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を大きくすると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、電極層を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を小さくすると、電気抵抗Rが大きくなる。
【0040】
静電容量は、誘電層の誘電率、電極面積(具体的には、径方向外側または径方向内側から見て、径方向外側の電極層と径方向内側の電極層とが重複する部分の面積)、電極間距離(具体的には、誘電層の径方向の厚さ)の調整などにより、調整することができる(前出の式(2)参照)。
【0041】
誘電層を構成する材料として、誘電率εが高い材料を選択すると、静電容量Cが大きくなる。反対に、誘電層を構成する材料として、誘電率εが低い材料を選択すると、静電容量Cが小さくなる。電極面積Sを大きくすると静電容量Cが大きくなる。反対に、電極面積Sを小さくすると静電容量Cが小さくなる。電極間距離dを大きくすると静電容量Cが小さくなる。反対に、電極間距離dを小さくすると静電容量Cが大きくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を増加させると静電容量Cが大きくなり、電気抵抗Rは小さくなる。
【0042】
振動部の面方向のばね定数kを調整することにより、一次共振周波数f0、つまり再生帯域の下限値を調整することができる。また、振動部の質量mを調整することにより、一次共振周波数f0を調整することができる(前出の式(3)参照)。
【0043】
誘電層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、誘電層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0044】
電極層を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、電極層を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0045】
誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、ばね定数kが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、ばね定数kが小さくなる。誘電層の積層数(電極層の積層数)を多くすると、振動部の質量mが大きくなる。反対に、誘電層の積層数(電極層の積層数)を少なくすると、振動部の質量mが小さくなる。このように、誘電層の積層数(電極層の積層数)により、式(3)のk/mを調整することができる。
【0046】
振動部の大きさを大きくすると、振動部の質量mが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。反対に、振動部の大きさを小さくすると、振動部の質量mが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。
【発明の効果】
【0047】
本発明によると、無指向性であって、各々異なる再生帯域の音声を再生可能な複数のスピーカー部を有するスピーカーを提供することができる。また、本発明によると、スピーカーの有するスピーカー部の再生帯域を、簡単に調整することが可能な再生帯域調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第一実施形態のスピーカーの斜視図である。
【図2】図1のII−II方向断面図である。
【図3】同スピーカーの分解斜視図である。
【図4】同スピーカーの小径スピーカー部付近の分解斜視図である。
【図5】同スピーカーの大径スピーカー部付近の分解斜視図である。
【図6】任意のスピーカー部の音圧レベルの周波数分布の模式図である。
【図7】第一実施形態のスピーカーの音圧レベルの周波数分布の模式図である。
【図8】第二実施形態のスピーカーの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明のスピーカーおよび再生帯域調整方法の実施の形態について説明する。
【0050】
<第一実施形態>
[スピーカーの構成]
まず、本実施形態のスピーカーの構成について説明する。図1に、本実施形態のスピーカーの斜視図を示す。図2に、図1のII−II方向断面図を示す。図3に、同スピーカーの分解斜視図を示す。図4に、同スピーカーの小径スピーカー部付近の分解斜視図を示す。図5に、同スピーカーの大径スピーカー部付近の分解斜視図を示す。なお、図3においては、絶縁シールド層95を透過して示す。図1〜図5に示すように、本実施形態のスピーカー1は、大径スピーカー部2と、小径スピーカー部3と、保持部4と、枠部7と、回路部8と、一対の絶縁シールド層95と、を備えている。
【0051】
(枠部7)
枠部7は、大径側枠部70と、小径側枠部71と、支柱部72と、ベース73と、を備えている。ベース73は、樹脂製であって正方形板状を呈している。ベース73の内部には、アンプ等の電子部品(図略)が収容されている。支柱部72は、樹脂製であって、丸棒状を呈している。支柱部72は、ベース73から、上方に向かって突設されている。
【0052】
小径側枠部71は、筒部710と、上下一対の蓋部711と、多数の連通孔712と、を備えている。小径側枠部71は、エンクロージャーとしての機能を有している。小径側枠部71は、ベース73の上方に配置されている。上下一対の蓋部711は、各々、樹脂製であって円板状を呈している。上下一対の蓋部711は、上下方向(軸方向)に所定間隔だけ離間して、支柱部72に環装されている。筒部710は、上下一対の蓋部711間に配置されている。筒部710は、樹脂製であって円筒状を呈している。上下一対の蓋部711により、筒部710の上下開口は封止されている。多数の連通孔712は、筒部710に穿設されている。連通孔712は、筒部710を径方向に貫通している。
【0053】
大径側枠部70は、筒部700と、上下一対の蓋部701と、多数の連通孔702と、を備えている。大径側枠部70は、エンクロージャーとしての機能を有している。大径側枠部70は、小径側枠部71の上方に配置されている。大径側枠部70の構成、材質は、小径側枠部71の構成、材質と、同様である。また、大径側枠部70は、小径側枠部71よりも、大径である。また、大径側枠部70は、小径側枠部71よりも、長軸である。
【0054】
(保持部4)
保持部4は、大径側保持部40と、小径側保持部41と、を備えている。小径側保持部41は、小径側枠部71の外周面に配置されている。小径側保持部41は、ウレタン発泡体製であって円筒状を呈している。大径側保持部40は、大径側枠部70の外周面に配置されている。大径側保持部40は、ウレタン発泡体製であって円筒状を呈している。
【0055】
(小径スピーカー部3、絶縁シールド層95)
小径スピーカー部3は、円筒状の振動部30を備えている。振動部30は、誘電層300と、内側電極層301と、外側電極層302と、を備えている。内側電極層301、外側電極層302は、各々、本発明の「電極層」の概念に含まれる。振動部30は、小径側保持部41の外周面に配置されている。
【0056】
誘電層300は、H−NBR(水素化ニトリルゴム)製であって円筒状かつ膜状を呈している。内側電極層301は、シリコーンゴム中に銀粉末が充填された柔軟導電材料製であって円筒状かつ膜状を呈している。内側電極層301は、誘電層300の内周面に配置されている。具体的には、内側電極層301は、柔軟導電材料を含む塗料が誘電層300の内周面に塗布(例えばスクリーン印刷など)されることにより、形成されている。
【0057】
外側電極層302は、シリコーンゴム中に銀粉末が充填された柔軟導電材料製であって円筒状かつ膜状を呈している。外側電極層302は、誘電層300の外周面に配置されている。具体的には、外側電極層302は、柔軟導電材料を含む塗料が誘電層300の外周面に塗布(例えばスクリーン印刷など)されることにより、形成されている。絶縁シールド層95は、外側電極層302を、径方向外側から覆っている。絶縁シールド層95は、H−NBR製であって円筒状かつ膜状を呈している。
【0058】
図2に示すように、径方向外側または径方向内側から見て、内側電極層301と外側電極層302とが重複する領域P1の面積が、前出の式(2)の電極面積Sに対応する。小径スピーカー部3の再生帯域は、後述する再生帯域調整方法により、高周波数帯域(高音領域)に設定されている。
【0059】
(大径スピーカー部2、絶縁シールド層95)
大径スピーカー部2は、振動部20を備えている。振動部20は、誘電層200と、内側電極層201と、外側電極層202と、を備えている。内側電極層201、外側電極層202は、各々、本発明の「電極層」の概念に含まれる。振動部20は、大径側保持部40の外周面に配置されている。
【0060】
大径スピーカー部2の構成、材質は、小径スピーカー部3の構成、材質と、同様である。また、大径スピーカー部2は、小径スピーカー部3よりも、大径である。また、大径スピーカー部2は、小径スピーカー部3よりも、長軸である。また、絶縁シールド層95は、外側電極層202を、径方向外側から覆っている。絶縁シールド層95は、H−NBR製であって円筒状かつ膜状を呈している。
【0061】
図2に示すように、径方向外側または径方向内側から見て、内側電極層201と外側電極層202とが重複する領域P2の面積が、前出の式(2)の電極面積Sに対応する。なお、領域P2の面積は、領域P1の面積よりも、大きい。大径スピーカー部2の再生帯域は、後述する再生帯域調整方法により、中低周波数帯域(中低音領域)に設定されている。
【0062】
(回路部8)
図2に示すように、回路部8は、直流バイアス電源80と、交流電源81と、を備えている。直流バイアス電源80は、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2に、直流のバイアス電圧を印加している。交流電源81は、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2に、再生対象となる音声に基づく交流電圧を印加している。すなわち、直流バイアス電源80と交流電源81とは、直流バイアス電圧と交流電圧とを重畳して、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2に印加している。
【0063】
直流バイアス電源80の正極側は、交流電源81を介して、小径スピーカー部3の外側電極層302、大径スピーカー部2の外側電極層202に接続されている。直流バイアス電源80の負極側は、小径スピーカー部3の内側電極層301、大径スピーカー部2の内側電極層201に接続されている。
【0064】
[スピーカーの動き]
次に、本実施形態のスピーカーの動きについて説明する。スピーカー1に音声信号が入力されると、交流電源81の交流電圧が変化する。このため、小径スピーカー部3において、内側電極層301と外側電極層302との間の静電引力が変化する。したがって、誘電層300の径方向の厚さが変化する。すなわち、誘電層300が振動する。よって、小径スピーカー部3から音声の高音部分が再生される。
【0065】
同様に、スピーカー1に音声信号が入力されると、交流電源81の交流電圧が変化する。このため、大径スピーカー部2において、内側電極層201と外側電極層202との間の静電引力が変化する。したがって、誘電層200の径方向の厚さが変化する。すなわち、誘電層200が振動する。よって、大径スピーカー部2から音声の中低音部分が再生される。
【0066】
[再生帯域調整方法]
次に、本実施形態の再生帯域調整方法について説明する。小径スピーカー部3、大径スピーカー部2の再生帯域は、個別に調整される。図6に、任意のスピーカー部の音圧レベルの周波数分布の模式図を示す。
【0067】
図6に示すように、再生帯域Lの下限値は、一次共振周波数f0である。これに対して、再生帯域Lの上限値は、カットオフ周波数fcである。このため、一次共振周波数f0とカットオフ周波数fcとの間隔を広げることにより、再生帯域Lを広げることができる。また、一次共振周波数f0を下げることにより、再生帯域Lを低周波数側に広げることができる。また、カットオフ周波数fcを上げることにより、再生帯域Lを高周波数側に広げることができる。また、一次共振周波数f0およびカットオフ周波数fcを下げることにより、再生帯域Lを低周波数側に移動させることができる。また、一次共振周波数f0およびカットオフ周波数fcを上げることにより、再生帯域Lを高周波数側に移動させることができる。
【0068】
このように、一次共振周波数f0、カットオフ周波数fcのうち、少なくとも一方を調整することにより、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2に、所望の再生帯域を設定することができる。
【0069】
具体的には、前出の式(1)に示すように、内側電極層201、301、外側電極層202、302の電気抵抗Rおよび誘電層200、300の静電容量Cのうち、少なくとも一方を調整することにより、カットオフ周波数fcを調整することができる。すなわち、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2の再生帯域Lの上限値を調整することができる。
【0070】
内側電極層201、301、外側電極層202、302の電気抵抗Rは、内側電極層201、301、外側電極層202、302の導通経路の長さ、導通経路の横断面積(経路方向に対して直交する方向の断面積)、内側電極層201、301、外側電極層202、302を構成する材料の調整などにより、調整することができる。
【0071】
導通経路を長くすると電気抵抗Rが大きくなる。反対に、導通経路を短くすると電気抵抗Rが小さくなる。導通経路の横断面積を大きくすると電気抵抗Rが小さくなる。反対に、導通経路の横断面積を小さくすると電気抵抗Rが大きくなる。
【0072】
内側電極層201、301、外側電極層202、302を構成する材料として、導電率が高い材料を選択すると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、内側電極層201、301、外側電極層202、302を構成する材料として、導電率が低い材料を選択すると、電気抵抗Rが大きくなる。内側電極層201、301、外側電極層202、302を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を大きくすると、電気抵抗Rが小さくなる。反対に、内側電極層201、301、外側電極層202、302を構成する材料中、導電率が高い材料の配合割合を小さくすると、電気抵抗Rが大きくなる。
【0073】
前出の式(2)に示すように、誘電層200、300の静電容量Cは、誘電層200、300の誘電率ε、電極面積S(具体的には、図2の領域P1、P2の面積)、電極間距離d(具体的には、誘電層200、300の径方向の厚さ)の調整などにより、調整することができる。
【0074】
誘電層200、300を構成する材料として、誘電率εが高い材料を選択すると、静電容量Cが大きくなる。反対に、誘電層200、300を構成する材料として、誘電率εが低い材料を選択すると、静電容量Cが小さくなる。電極面積Sを大きくすると静電容量Cが大きくなる。反対に、電極面積Sを小さくすると静電容量Cが小さくなる。電極間距離dを大きくすると静電容量Cが小さくなる。反対に、電極間距離dを小さくすると静電容量Cが大きくなる。
【0075】
振動部20、30の面方向(誘電層200、300の外周面が延在する方向。つまり周方向および軸方向)のばね定数kを調整することにより、一次共振周波数f0、つまり再生帯域の下限値を調整することができる。また、振動部20、30の質量mを調整することにより、一次共振周波数f0を調整することができる(前出の式(3)参照)。すなわち、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2の再生帯域Lの下限値を調整することができる。
【0076】
誘電層200、300を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、誘電層200、300を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0077】
内側電極層201、301、外側電極層202、302を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、ばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、内側電極層201、301、外側電極層202、302を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、ばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0078】
誘電層200、300の積層数(内側電極層201、301、外側電極層202、302の積層数)を多くすると、ばね定数kが大きくなる。反対に、誘電層200、300の積層数(内側電極層201、301、外側電極層202、302の積層数)を少なくすると、ばね定数kが小さくなる。誘電層200、300の積層数(内側電極層201、301、外側電極層202、302の積層数)を多くすると、振動部20、30の質量mが大きくなる。反対に、誘電層200、300の積層数(内側電極層201、301、外側電極層202、302の積層数)を少なくすると、振動部20、30の質量mが小さくなる。このように、誘電層200、300の積層数(内側電極層201、301、外側電極層202、302の積層数)により、式(3)のk/mを調整することができる。
【0079】
振動部20、30の大きさを大きくすると、振動部20、30の質量mが大きくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。反対に、振動部20、30の大きさを小さくすると、振動部20、30の質量mが小さくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。
【0080】
保持部4を構成する材料として、ヤング率が高い材料を選択すると、振動部20、30のばね定数が大きくなる。このため、一次共振周波数f0が高周波数側に移動する。反対に、保持部4を構成する材料として、ヤング率が低い材料を選択すると、振動部20、30のばね定数が小さくなる。このため、一次共振周波数f0が低周波数側に移動する。
【0081】
図7に、本実施形態のスピーカーの音圧レベルの周波数分布の模式図を示す。図7に示すように、再生帯域調整方法を実施することにより、低周波数側から高周波数側に、大径スピーカー部2の再生帯域(中低周波数帯域)Lmlと、小径スピーカー部3の再生帯域(高周波数帯域)Lhと、を繋げることができる。このため、本実施形態のスピーカー1は、フルレンジの音声を再生することができる。
【0082】
[作用効果]
次に、本実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法の作用効果について説明する。本実施形態のスピーカー1によると、振動部20、30は、H−NBR(水素化ニトリルゴム)製の誘電層200、300と、柔軟導電材料製の内側電極層201、301、外側電極層202、302と、を有している。このため、本実施形態のスピーカー1は、永久磁石やボイスコイルを有する従来のダイナミック型スピーカーユニットと比較して、薄型化が可能である。また、軽量化が可能である。
【0083】
また、本実施形態のスピーカー1の小径スピーカー部3、大径スピーカー部2は、各々、異なる再生帯域の音声を再生可能である。このため、高周波数帯域や中低周波数帯域など、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、スピーカー1を小型化することができる。また、スピーカー1を軽量化することができる。また、単一のスピーカー1により、フルレンジの音声を再生することができる。
【0084】
また、本実施形態のスピーカー1の小径スピーカー部3、大径スピーカー部2は、各々、円筒状の振動部20、30を有している。このため、水平面内における全方位に向かって、音声を再生することができる。つまり、本実施形態のスピーカー1は、無指向性である。
【0085】
また、高周波数帯域専用のスピーカーの場合、低周波数帯域の音声を遮断するために、別途ハイパスフィルターを配置する必要がある。反対に、低周波数帯域専用のスピーカーの場合、高周波数帯域の音声を遮断するために、別途ローパスフィルターを配置する必要がある。これに対して、本実施形態のスピーカー1によると、別途、フィルターを配置する必要がない。つまり、周波数遮断用の専用回路を、別途設ける必要がない。このため、再生帯域ごとに専用のスピーカーを配置する場合と比較して、部品点数が少なくなる。また、回路構成が簡単である。
【0086】
また、本実施形態のスピーカー1は、保持部4を備えている。保持部4は、振動部20、30を径方向内側から保持している。このため、誘電層200、300、内側電極層201、301、外側電極層202、302が柔軟かつ薄膜状であるにもかかわらず、誘電層200、300、内側電極層201、301、外側電極層202、302に、しわが入りにくい。
【0087】
また、保持部4は、ウレタン発泡体製である。このため、保持部4は、多数の空孔を備えている。また、保持部4は柔軟である。したがって、巨視的には、誘電層200、300、内側電極層201、301、外側電極層202、302にしわが入らないように、誘電層200、300、内側電極層201、301、外側電極層202、302をしっかりと保持することができる。また、微視的には、誘電層200、300、内側電極層201、301、外側電極層202、302の微細な振動を規制しにくい。このため、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2の音声再生を、保持部4が阻害しにくい。
【0088】
また、本実施形態のスピーカー1によると、内側電極層201、301、外側電極層202、302は、電極材料が誘電層200、300に塗布されることにより、形成されている。このため、内側電極層201、301、外側電極層202、302の形成と内側電極層201、301、外側電極層202、302の配置とを同時に行うことができる。
【0089】
また、本実施形態のスピーカー1によると、枠部7により、保持部4を径方向内側から保持することができる。また、枠部7は、多数の連通孔702、712を備えている。このため、振動部20、30の内周面から出る逆位相波に対し、振動部20、30の外周面への振動を阻害する空気ばねになることなく、空気を通過させることができる。また、枠部7は、音声の回折を防ぐためのエンクロージャーとなっている。
【0090】
また、本実施形態のスピーカー1によると、大径スピーカー部2と小径スピーカー部3との径差に起因する電極面積Sの差(図2の領域P2>P1)を利用して、大径スピーカー部2および小径スピーカー部3に、各々所望の再生帯域を設定することができる。
【0091】
また、本実施形態の再生帯域調整方法によると、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2ごとに、再生帯域Lh、Lmlの上限値、下限値を、簡単に調整することができる。すなわち、小径スピーカー部3、大径スピーカー部2ごとに、再生帯域Lh、Lmlの広さ、位置を、簡単に調整することができる。
【0092】
<第二実施形態>
本実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法と、第一実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法との相違点は、スピーカーが三つのスピーカー部を備えている点である。ここでは、相違点についてのみ説明する。
【0093】
図8に、本実施形態のスピーカーの軸方向断面図を示す。なお、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。図8に示すように、本実施形態のスピーカー1は、第一スピーカー部90と、第二スピーカー部91と、第三スピーカー部92と、保持部4と、枠部7と、回路部8と、絶縁シールド層95と、を備えている。第一スピーカー部90、第二スピーカー部91、第三スピーカー部92は、各々、本発明の「スピーカー部」の概念に含まれる。
【0094】
枠部7は、支柱部72と、ベース73と、筒部74と、上下一対の蓋部75と、多数の連通孔76と、を備えている。筒部74および上下一対の蓋部75は、エンクロージャーとしての機能を有している。上下一対の蓋部75は、各々、樹脂製であって円板状を呈している。上下一対の蓋部75は、上下方向(軸方向)に所定間隔だけ離間して、支柱部72に環装されている。筒部74は、上下一対の蓋部75間に配置されている。筒部74は、樹脂製であって円筒状を呈している。上下一対の蓋部75により、筒部74の上下開口は封止されている。多数の連通孔76は、筒部74に穿設されている。連通孔76は、筒部74を径方向に貫通している。
【0095】
保持部4は、ウレタン発泡体製であって円筒状を呈している。保持部4は、筒部74の外周面に配置されている。内側電極層94は、保持部4の外周面に配置されている。内側電極層94は、本発明の「電極層」の概念に含まれる。内側電極層94は、シリコーンゴム中に銀粉末が充填された柔軟導電材料製であって円筒状かつ膜状を呈している。誘電層93は、内側電極層94の外周面に配置されている。誘電層93は、H−NBR(水素化ニトリルゴム)製であって円筒状かつ膜状を呈している。
【0096】
第一外側電極層901は、誘電層93の外周面の上部に配置されている。第一外側電極層901は、本発明の「電極層」の概念に含まれる。第一外側電極層901は、シリコーンゴム中に銀粉末が充填された柔軟導電材料製であって円筒状かつ膜状を呈している。
【0097】
第二外側電極層911は、誘電層93の外周面の中部に配置されている。第二外側電極層911は、本発明の「電極層」の概念に含まれる。第二外側電極層911は、シリコーンゴム中に銀粉末が充填された柔軟導電材料製であって円筒状かつ膜状を呈している。
【0098】
第三外側電極層921は、誘電層93の外周面の下部に配置されている。第三外側電極層921は、本発明の「電極層」の概念に含まれる。第三外側電極層921は、シリコーンゴム中に銀粉末が充填された柔軟導電材料製であって円筒状かつ膜状を呈している。
【0099】
絶縁シールド層95は、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921を径方向外側から覆っている。絶縁シールド層95は、H−NBR製であって円筒状かつ膜状を呈している。
【0100】
第一スピーカー部90の振動部900は、径方向外側または径方向内側から見て、第一外側電極層901と、誘電層93の一部と、内側電極層94の一部と、が重複する領域P5に配置されている。当該領域P5の面積が、前出の式(2)の電極面積Sに対応する。
【0101】
第二スピーカー部91の振動部910は、径方向外側または径方向内側から見て、第二外側電極層911と、誘電層93の一部と、内側電極層94の一部と、が重複する領域P4に配置されている。当該領域P4の面積が、前出の式(2)の電極面積Sに対応する。
【0102】
第三スピーカー部92の振動部920は、径方向外側または径方向内側から見て、第三外側電極層921と、誘電層93の一部と、内側電極層94の一部と、が重複する領域P3に配置されている。当該領域P3の面積が、前出の式(2)の電極面積Sに対応する。
【0103】
領域P3〜P5の面積を比較すると、P5>P4>P3となっている。一番面積の大きい第一スピーカー部90は、低周波数帯域の音声を再生する。二番目に面積の大きい第二スピーカー部91は、中周波数帯域の音声を再生する。一番面積の小さい第三スピーカー部92は、高周波数帯域の音声を再生する。
【0104】
本実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法と、第一実施形態のスピーカーおよび再生帯域調整方法とは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。また、本実施形態のスピーカーのように、各々再生帯域の異なる三つのスピーカー部(第一スピーカー部90、第二スピーカー部91、第三スピーカー部92)を配置してもよい。また、三つのスピーカー部に対して、筒部74、内側電極層94、誘電層93、保持部4を共用化してもよい。
【0105】
<その他>
以上、本発明のスピーカーおよび再生帯域調整方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0106】
枠部7の筒部700、710、74の構成は特に限定しない。例えば、金網などであってもよい。多数の連通孔702、712、76が確保できればよい。第一実施形態の大径側枠部70の下側の蓋部701と、小径側枠部71の上側の蓋部711と、は一体化してもよい。
【0107】
振動部20、30、900、910、920は、楕円筒状、長円筒状、多角筒状(三角筒状、四角筒状、五角筒状など)などであってもよい。また、振動部20、30、900、910、920の全長に亘って、径が一定でなくてもよい。すなわち、振動部20、30、900、910、920は、樽状、円錐状、角錐状、真球状、楕円球状などであってもよい。また、振動部20、30、900、910、920は、任意の断面が環状であればよい。
【0108】
振動部20、30、900、910、920は柔軟である。このため、形状の自由度が高い。例えば、枠部7や保持部4に所望の形状を付与し、その外面に振動部20、30、900、910、920を配置することにより、振動部20、30、900、910、920に、枠部7や保持部4の形状を転写することができる。すなわち、振動部20、30、900、910、920に、所望の形状を付与することができる。
【0109】
誘電層200、300、93に対する内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921の配置方法は特に限定しない。例えば、誘電層200、300、93とは別に作製した内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921(例えば原反シートを裁断して作製する)を、誘電層200、300、93に接着してもよい。こうすると、内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921を、しっかりと誘電層200、300、93に固定することができる。
【0110】
誘電層200、300、93、内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921の層数は特に限定しない。また、スピーカー部(大径スピーカー部2、小径スピーカー部3、第一スピーカー部90、第二スピーカー部91、第三スピーカー部92)の配置数も特に限定しない。
【0111】
誘電層200、300、93の材質は特に限定しない。エラストマー製または樹脂製であればよい。例えば、誘電率の高いエラストマーを用いることが好ましい。具体的には、常温における比誘電率(100Hz)が2以上、さらには5以上のエラストマーが好ましい。例えば、エステル基、カルボキシル基、水酸基、ハロゲン基、アミド基、スルホン基、ウレタン基、ニトリル基等の極性官能基を有するエラストマー、あるいは、これらの極性官能基を有する極性低分子量化合物を添加したエラストマーを採用するとよい。H−NBR以外の好適なエラストマーとしては、シリコーンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が挙げられる。また、好適な樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリスチレン(架橋発泡ポリスチレンを含む)、ポリ塩化ビニル、塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。絶縁シールド層95の材質は特に限定しない。上記誘電層200、300、93と同様の材質としてもよい。
【0112】
内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921の材質は、特に限定しない。例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、H−NBR中に銀粉末、カーボンが充填された柔軟導電材料製としてもよい。内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921を金属や炭素材料から形成してもよい。伸縮性を付与するという観点から、例えば、金属等をメッシュ状に編むことにより、内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921を形成することができる。また、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等の導電性高分子から、内側電極層201、301、94、外側電極層202、302、第一外側電極層901、第二外側電極層911、第三外側電極層921を形成してもよい。また、バインダーと導電材とを含む柔軟導電材料を採用する場合、バインダーには、エラストマーを用いることが好ましい。エラストマーとしては、例えば、シリコーンゴム、NBR、EPDM、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリルゴム、ウレタンゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン等が好適である。また、導電材としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等の炭素材料、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金等の金属材料、酸化インジウム錫(ITO)や、酸化チタン、酸化亜鉛にアルミニウム、アンチモン等の他金属をドーピングしたもの等の導電性酸化物の中から、適宜選択すればよい。導電材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。保持部4の材質は、特に限定しない。例えば、保持部4を発泡ウレタンスポンジから形成してもよい。
【符号の説明】
【0113】
1:スピーカー、2:大径スピーカー部、3:小径スピーカー部、4:保持部、7:枠部、8:回路部。
20:振動部、30:振動部、40:大径側保持部、41:小径側保持部、70:大径側枠部、71:小径側枠部、72:支柱部、73:ベース、74:筒部、75:蓋部、76:連通孔、80:直流バイアス電源、81:交流電源、90:第一スピーカー部(スピーカー部)、91:第二スピーカー部(スピーカー部)、92:第三スピーカー部(スピーカー部)、93:誘電層、94:内側電極層(電極層)、95:絶縁シールド層。
200:誘電層、201:内側電極層(電極層)、202:外側電極層(電極層)、300:誘電層、301:内側電極層(電極層)、302:外側電極層(電極層)、700:筒部、701:蓋部、702:連通孔、710:筒部、711:蓋部、712:連通孔、900:振動部、901:第一外側電極層(電極層)、910:振動部、911:第二外側電極層(電極層)、920:振動部、921:第三外側電極層(電極層)。
L:再生帯域、Lh:再生帯域、Lml:再生帯域、P1〜P5:領域、f0:一次共振周波数、fc:カットオフ周波数。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー製または樹脂製の誘電層と、該誘電層の内周面および外周面に配置される複数の電極層と、を有する筒状の振動部を有し、各々、音声の再生帯域が異なる複数のスピーカー部を備えるスピーカー。
【請求項2】
前記振動部の内周面に当接する筒状の保持部を備える請求項1に記載のスピーカー。
【請求項3】
前記保持部の内周面に当接し、径方向に連通する連通孔を有する筒状の枠部を備える請求項2に記載のスピーカー。
【請求項4】
複数の前記スピーカー部は、大径スピーカー部と、該大径スピーカー部よりも外径が小さい小径スピーカー部と、を有する請求項1ないし請求項3に記載のスピーカー。
【請求項5】
前記誘電層は、ヤング率が1MPa以上20MPa以下のエラストマー製である請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のスピーカーの、任意の前記スピーカー部の再生帯域調整方法であって、
前記電極層の電気抵抗および前記誘電層の静電容量のうち、少なくとも一方を調整することにより、再生帯域の上限値であるカットオフ周波数を調整し、
前記振動部の面方向のばね定数および該振動部の質量のうち、少なくとも一方を調整することにより、該再生帯域の下限値である一次共振周波数を調整する再生帯域調整方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate