説明

スピーカー用振動板

【課題】小型化、薄肉化、省電力化、音質改良の要求に答えられる、軽量で剛性が高く、かつ、高温下であっても剛性の変化が少ない、携帯電話などに使用するスピーカー用振動板を提供する。
【解決手段】特定のサイズの発泡粒子からなる熱可塑性樹脂粒子発泡成形体をカツラムキにより切削する工程を含んでなる熱可塑性樹脂粒子発泡フィルム。表面均一性が高く、軽量かつ剛性に優れ、さらに85℃の高温下においても剛性の変化が小さい。該フィルム単独でも、さらには、該フィルムの両側にアルミニウム箔を積層してなる積層複合材でも、スピーカーの振動板として好適に使用しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のサイズの発泡粒子からなる熱可塑性樹脂粒子発泡成形体から得られる熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを用いたスピーカー用振動板に関する。更に詳しくは、携帯電話などに使用するダイナミック型小型スピーカーやダイナミック型平面スピーカーの振動膜の部材として好適に使用しうる 熱可塑性樹脂粒子発泡成形体をカツラムキにより切削する工程を含んでなる熱可塑性樹脂粒子発泡フィルム及びそれを用いた積層複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やスマートフォンなどの移動通信端末の小型化、高機能化、さらには、平面型テレビの薄肉化に伴い、搭載されるスピーカーに対しても、小型化、薄肉化、省電力化、音質改良に対する要求が高まっている。
【0003】
スピーカーを小型化する技術として、従来同様、磁石とコイルを用いて振動膜を振動させるダイナミック型以外に、セラミックなどの圧電材料を用いた圧電型スピーカーが挙げられ、小型化、特に薄肉化に関しては、圧電型の方が有利とされているが、音質の観点、特に低音域の音の再現性に関してはダイナミック型の方が優れており、音質を重視する場合にはダイナミック型が採用される傾向にある。
【0004】
また、圧電型に比べ音質に優れるダイナミック型においても、小型のものは振動膜が平面である場合が多く、振動膜がコーン形状の場合に比べ中音域の音質が劣る傾向にあり、まだまだ改良の余地が残されていた。
【0005】
ダイナミック型平面スピーカーの音質を改良する試みとしては、特許文献1では、振動膜における、低次の振動モードに基づく振動の振幅を抑えて中音領域の音質を改良する目的で、振動膜にPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)などの発泡体を貼付する試みが提案されている。また特許文献2では、独立気泡の低発泡ポリエチレンの両面にアルミニウムの面材を積相した複合板を振動板とすることが提案されている。しかしながら、ポリエチレンは耐熱性が低く、80℃程度の温度下では剛性が大きく低下し、音質が変化することから携帯電話などへの適用は好ましくない。また、ポリエチレンテレフタレートもガラス転移温度が高くないため耐熱性は充分ではない。一方、ポリエチレンナフタレートは耐熱性が高く、80℃程度では剛性低下が小さいため好ましいが、樹脂が高価であるため、汎用性に欠ける。更には、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートは、高圧容器中で炭酸ガスなどの不活性ガスを浸透させ、圧力開放した後加熱発泡するなどの煩雑なバッチプロセスを適用せざるを得ず、製造コストが高いなどの欠点があった。
【0006】
更には、市場において、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂からなる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂の予備発泡粒子を型内成型し、薄くスライスした発泡フィルムの両面にアルミニウム箔を積層した複合積層材を振動板に貼付したスピーカーが使用されている。しかしながら、予備発泡粒子の直径が2000μm以上と大きく、セル径のばらつきも大きいことから、特に振動板自体が小さい小型スピーカーの場合、高密度である粒子の融着面が不規則に存在するため、得られる複合積層材が均一性に欠けるなどの欠点があった。
【0007】
一方、特許文献3では、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂からなる、特定方向への加熱収縮率が大きな積層発泡シートが提案されており、ここで厚み0.25〜0.5mmの発泡フィルムが開示されている。しかしながら、この発泡フィルムは加熱収縮率を大きくする目的で押出方向に強く延伸して得るため、セルが厚み方向に大きく扁平しており、剛性に欠けるものであった。
【0008】
更に、特許文献4では、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリスチレン系樹脂からなる変性ポリフェニレンエーテル系樹脂からなる、密度60〜300kg/m、厚み0.1〜0.5mm、厚み方向の平均セル径Aと押出方向の平均セル径B、幅方向平均セル径Cの比A/BおよびA/Cがいずれも0.2〜1であることを特徴とする変性ポリフェニレンエーテル系樹脂押出発泡フィルムが開示されているが、押出発泡で製造することから、気泡を充分に真球としえずに若干ながら扁平するため、剛性向上にまだ改良の余地があった。
【0009】
また、特許文献5では、表面性の良好な発泡フィルムを収率よく得る事を目的として、粒子状の未発泡部位が存在しないことを特徴とする切削加工用スチレン系樹脂粒子発泡成形体を得る方法が開示され、その望ましい切削方法として、発泡体を固定した上で、刃の上を発泡体が往復することで切削する方法が開示されているが、この方法では、得られる発泡フィルムが丸まったものとなり、別途 この発泡フィルムをフィルム毎に平坦化する工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2003/073787号公報
【特許文献2】特開2004−64726号公報
【特許文献3】特開平2−151429号公報
【特許文献4】特開2009−35709号公報
【特許文献5】特開2010−189535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、携帯電話やスマートフォンなどの移動通信端末の小型化、高機能化、さらには平面型テレビの薄肉化に伴い、搭載されるスピーカーに対して高まっている、小型化、薄肉化、省電力化、音質改良の要求に答えられる、軽量で剛性が高く、かつ、高温下であっても剛性の変化が少ない、携帯電話などに使用するダイナミック型小型スピーカーやダイナミック型平面スピーカーの振動膜の部材に好適に使用しうるスピーカー用振動板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のサイズの予備発泡粒子からなる熱可塑性樹脂粒子発泡成形体をカツラムキにより切削する工程を含んでなる熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムが、表面均一性が高く、軽量かつ剛性に優れ、さらに85℃の高温下においても剛性の変化が小さいことを見出し、該フィルム単独でも、さらには、該フィルムの両側にアルミニウム箔を積層してなる積層複合材でも、携帯電話、スマートフォン、平面型テレビなどに搭載されるダイナミック型小型スピーカーやダイナミック型平面スピーカーに対する小型化、薄肉化、省電力化、音質改良に対する要求に答えることができ、スピーカー用振動板として好適に使用可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0013】
すなわち本発明は以下の通りである。
1)予備発泡粒子を用いて製造された熱可塑性樹脂粒子発泡成形体をカツラムキにより切削する工程を含んでなる熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムからなる、厚みが0.1mm以上1.5mm以下のスピーカー用振動板であって、上記予備発泡粒子が実質的に直径1500μm以下のもののみからなることを特徴とするスピーカー用振動板。
2)上記予備発泡粒子が実質的に直径300μm以上のもののみからなることを特徴とする上記1)記載のスピーカー用振動板。
3)上記1)または2)記載の熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの両側にアルミニウム箔を積層してなることを特徴とするスピーカー用振動板。
4)熱可塑性樹脂粒子発泡成形体が、アクリロニトリルを5重量%以上50重量%以下含有し、密度が100kg/m以上500kg/m以下、ガラス転移温度が105℃以上であるスチレン系樹脂粒子発泡成形体であって、発泡成形体内部に、実質的に粒子状の未発泡部位が存在しないことを特徴とする、上記1)〜3)のいずれか記載のスピーカー用振動板。
5)熱可塑性樹脂粒子発泡成形体をカツラムキにより切削する工程を含んで得られた熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上の温度、かつガラス転移温度以下の温度にて加熱しつつ連続的に平板化することにより得られたものであることを特徴とする、上記1)〜4)のいずれか記載のスピーカー用振動板。
6)熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの、密度100kg/m以上500kg/m以下、10%圧縮時の圧縮強度が0.8MPa以上であることを特徴とする、上記1)〜5)のいずれか記載のスピーカー用振動板。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明記載の熱可塑性樹脂のガラス転移温度を求めるための、示差走査熱量計測定結果の一例である。横軸は温度、縦軸は吸熱を表しており、昇温開始初期及び後期の傾きの緩やかな箇所と、中期の傾きが大きくなった箇所で近似直線を引き、2ヶ所ある交点の中間温度がガラス転移温度である。
【図2】実施例で使用したカツラムキ機の模式図である。
【図3】実施例で使用したスピーカー振動板の分解写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、実質的に直径1500μm以下の予備発泡粒子のみ、あるいは、直径1500μm以下、300μm以上の予備発泡粒子のみで構成され、厚みが0.1mm以上、1.5mm以下の熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを単独に用いた、または、該フィルムの両側にアルミニウム箔を積層してなる積層複合材を用いたスピーカー用振動板に関する。なお、本発明における粒子の直径とはJIS Z8801に基づく呼び寸法の網ふるいの通過を意味しており、例えば、直径1500μm以下、とは、呼び寸法1500μmを通過したことを意味する。
本発明のスピーカー振動板としての性能である広い音域や、高い音圧をより効率良く発揮する上で、本発明における予備発泡粒子の直径は1400μm以下であり、1000μm以下が更に好ましい。一方、後述する予備発泡工程において加熱ムラなどにより十分に膨張しなかった粒子を除くという観点から、本発明における予備発泡粒子の直径は300μm以上であり、500μm以上が更に好ましい。なお、予備発泡工程において十分に発泡しなかった粒子が混入すると、熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムに突起状の厚みムラが形成されたり、切削により熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを製造する際に刃が欠ける要因となるため、取り除く必要がある。
【0016】
本発明における熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの厚みは、0.1mm以上1.5mm以下であり、好ましくは、0.15mm以上0.7mm以下であり、特に好ましくは0.2mm以上0.4mm以下である。厚みが0.1mmを下回ると、特に厚みムラで肉薄になった部位で剛性低下が大きく、1.5mmを超えると狭い部位での使用が制限され、薄肉化の要求に答えられなくなる。
【0017】
また本発明における熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの10%圧縮時の圧縮強度は、0.8MPa以上であり、好ましくは1.0MPaである。10%圧縮時の圧縮強度が0.8MPaを下回ると、積層発泡フィルムとした際に十分な剛性が得られない。
また本発明における熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの密度については、100kg/m以上500kg/m以下であり、好ましくは、120kg/m以上300kg/m以下である。密度が100kg/mを下回ると、カツラムキにより得られる発泡フィルムの剛性が不足し、500kg/mを超えると上記発泡フィルムの軽量性が損なわれる。
【0018】
この様な熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを得るには、基材である熱可塑性樹脂の剛性が高いことが好ましく、例えば、スチレン単独重合体、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/α−メチルスチレン共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、スチレン/α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体、α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂、スチレン単独重合体とポリフェニレンエーテル系樹脂の混合物、スチレン/ブタジエン共重合体とポリフェニレンエーテル系樹脂の混合物などの変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、メタクリル酸メチル単独重合体、メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル共重合体などのポリメタクリル酸メチル系樹脂、エチレン/ノルボルネン類共重合体、エチレン/ジシクロペンタジエン共重合体などの環状オレフィン系樹脂、プロピレン単独重合体、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/ブテン共重合体、エチレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体などのポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0019】
更には、基材である熱可塑性樹脂のガラス転移温度(以下、Tgと表記する場合がある)は105℃以上であることが、携帯電話などに求められる85℃環境下においても、寸法変化や剛性低下が小さく、また耐熱性の高いホットメルト接着剤を用いてアルミニウム箔などを積層する際にも寸法変化が小さいことから好ましい。
【0020】
なお、本発明において熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)において、試料1〜10mgを40℃から210℃まで10℃/分の速度で昇温、該温度で5分間保持後、ついで210℃から40℃まで10℃/分の速度で降温、当該温度で5分間保持後、再度40℃から210℃まで10℃/分の速度で昇温したときのチャートにおいて観察される2箇所の屈曲点の中間温度を言う。
この様な熱可塑性樹脂としては、例えば上記の内、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/α−メチルスチレン共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、スチレン/α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体、α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン単独重合体とポリフェニレンエーテル系樹脂の混合物、スチレン/ブタジエン共重合体とポリフェニレンエーテル系樹脂の混合物、エチレン/ノルボルネン類共重合体、エチレン/ジシクロペンタジエン共重合体、などが挙げられる。
これらの内、比較的Tgの高い熱可塑性樹脂で、かつ、既存の生産性の高い方法で発泡性粒子を得ることが可能であることから、スチレン/アクリロニトリル共重合体、スチレン/α−メチルスチレン共重合体、スチレン/メタクリル酸共重合体、スチレン/α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体、α−メチルスチレン/アクリロニトリル共重合体などのスチレン系樹脂が最も好ましく、さらには、アクリロニトリルを5重量%以上50重量%以下含有するスチレン系樹脂が好ましい。上記スチレン系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレンなどの1種または2種以上が挙げられる。さらに、これらの内、安価でかつ樹脂とした際の耐熱性がさらに高いことから、α−メチルスチレン、またはスチレンとα−メチルスチレンの併用が好ましい。アクリロニトリルの含有量が5%未満では、重合後のスチレン系モノマーの残存が多くなり、50重量%を越えると発泡剤の含浸量が低下すると共に、発泡成形体中に硬芯が増加する。
【0021】
一方で、スチレン系モノマーとアクリロニトリルを共重合する工程において、本発明の効果を損なわない範囲で、他のモノマーを配合してもよい。前記他のモノマーとしては、ブタジエン、イソプレン、無水マレイン酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、などが例示される。
【0022】
本発明におけるスチレン系樹脂の重合に使用する重合開始剤としては、有機過酸化物を用いるが、10時間半減期温度が60℃以上120℃以下であることが、重合転化率を高くしやすいことから好ましい。この様な重合開始剤としては、例えば、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサハイドロテレフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノニルパーオキシ)ヘキサン、ジ(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、等が挙げられる。これらは1種でも2種以上で用いてもよく、また他の重合開始剤を併用しても良い。
【0023】
本発明において用いる基材である熱可塑性樹脂の一つの候補であるスチレン系樹脂の重合方法としては、塊状重合、懸濁重合、乳化重合など公知の方法が挙げられる。これらの内、重合後に再度粒子化することなくスチレン系樹脂粒子が得られ、発泡剤を含浸して発泡性スチレン系樹脂粒子とし得ることから、懸濁重合が好ましい。上記懸濁重合の方法としては、例えば、前記スチレン系モノマー及びアクリロニトリルを、燐酸カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウムなどの難水溶性無機塩や、α−オレフィンスルフォン酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダなどのアニオン性界面活性剤を併用して水中に分散させ、重合開始剤などを加えて加熱することによりスチレン系樹脂粒子を得ることができる。
【0024】
本発明において用いる発泡性スチレン系樹脂粒子は、スチレン系樹脂粒子に発泡剤を含浸させたものであり、発泡剤を含浸させる方法としては、スチレン系樹脂粒子を水中に分散させた状態で発泡剤を加える、スチレン系樹脂粒子を発泡剤中に浸漬する、押出機内にて溶融したスチレン系樹脂と発泡剤を溶融混練し細孔状のダイから押出しつつ急冷・カッティングを行う、などの方法が挙げられるが、スチレン系樹脂粒子を水中に分散させた状態で発泡剤を加える方法が好ましく、より好ましくは、スチレン系樹脂粒子を懸濁重合により重合する際に、重合の途中、あるいは重合後に発泡剤を含浸させて発泡性スチレン系樹脂粒子を得る方法が、生産性の観点から好ましい。
【0025】
本発明において使用することの出来る発泡剤としては、プロパン、イソブタン、ノルマルブタン、イソペンタン、ノルマルペンタン、ネオペンタンなど炭素数3以上5以下の炭化水素等の脂肪族炭化水素類、およびジフルオロエタン、テトラフルオロエタンなどのオゾン破壊係数がゼロであるフッ化炭化水素類などの揮発性発泡剤が挙げられる。また、これらの発泡剤を併用することもできる。
【0026】
発泡剤の使用量としては、スチレン系樹脂粒子100重量部に対して、好ましくは0.5重量部以上12重量部以下、更に好ましくは2重量部以上9重量部以下である。
【0027】
本発明において用いる基材である熱可塑性樹脂の一つの候補である発泡性スチレン系樹脂粒子の製造方法は、例えば以下のとおりである。所定量の水性懸濁媒体中に所定量のスチレン系モノマー及びアクリロニトリル、重合開始剤、必要に応じてその他添加剤を添加し、所定の温度、好ましくは90℃以上100℃未満で一定時間重合し、スチレン系単量体の転化率が80%から90%に達した時点で重合工程を完了させる。該重合工程の後、重合温度を所定の温度、好ましくは100℃以上120℃以下に上げ、所定時間熱処理工程を実施することが好ましい。その後、所定の温度まで降温し、発泡剤等を仕込んだ後、再び昇温する。所定の温度、好ましくは105℃以上120℃以下で一定時間発泡剤含浸工程を実施する。実施後冷却をすると発泡性スチレン系樹脂粒子が得られる。
なお、ビーズ発泡法により方形状の熱可塑性樹脂発泡体を得る方法は、既知の方法を採用することができ、例えば、炭化水素等の発泡剤を含有した発泡性熱可塑性樹脂粒子を回転攪拌式予備発泡装置で、水蒸気、あるいは水蒸気と空気の混合気体を用いて加熱することにより予備発泡粒子を得、得られた予備発泡粒子を方形状の金型内に充填し、水蒸気等を用いて加熱することにより、方形状の発泡体を得ることができる。なお、熱可塑性樹脂発泡体の密度は、予備発泡粒子を得る際の加熱条件で容易に調整することができる。
なお、予備発泡後の発泡粒子の篩い分けのみならず、予備発泡前においても、呼び寸法600μmの網ふるいを通過した発泡性樹脂粒子のみを予備発泡に使用すると、硬芯と呼ばれる、粒子中心付近の未発泡部位がなく、切削性に優れた発泡成形体が得られることから好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂粒子発泡成形体は、内部に硬芯が存在しないようにすることで、切削加工用として好適に使用することが出来、カツラムキによる切削加工により、厚さ0.1mm以上1.5mm以下の発泡フィルムを、収率よく得ることができる。
【0029】
本発明における「カツラムキ」とは、食品加工分野における、いわゆる大根の「桂剥き」からヒントを得た発泡フィルムの製造法であり、通常の感覚で「桂剥き」を想起させる実施態様は、本発明でいう「カツラムキ」に含まれる。
【0030】
さらに、本発明は、熱可塑性樹脂発泡体をカツラムキによる切削加工する工程を含んでなるスピーカー用振動板に関するものであり、前記熱可塑性樹脂発泡体を切削する工程は、熱可塑性樹脂発泡体を円筒状のものとし、回転軸に固定した上で、刃を接線方向に圧着する形で、熱可塑性樹脂発泡体を回転させながら、所定厚みでカツラムキする切削工程を含むことを特徴とする。このように、カツラムキによる切削加工することにより、表面が滑らかであり、切削幅方向にも、切削長さ報告にも厚み精度が高い熱可塑性樹脂発泡フィルムが連続的に得られる。また、このカツラムキによる切削加工する際の切削速度は、その表面性、生産性の面から、2〜40m/分程度が好ましく、これ以上遅いと、切削時の切れが悪くなり、一方で、これ以上速いと、発泡シートが途中で切断しやすくなり好ましくない。表面性や、生産安定性を加味すると10〜25m/分であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明に用いる刃は、得られる発泡フィルムの表面平滑性が高いことから、鋸刃ではなくナイフ刃が好ましい。更には、刃のたわみによる厚み精度低下を回避し得ることから、刃の厚みが3mm以上であることが好ましい。
【0032】
また、前記熱可塑性樹脂発泡体は、その密度が100〜500kg/mであることが好ましい。密度が100kg/mを下回ると発泡体強度が脆くなり、また、500kg/mを超えると発泡体強度が高くなりすぎ、いずれの場合にも、カツラムキの切削工程において、熱可塑性樹脂発泡フィルムに割れを生じる場合がある。
【0033】
熱可塑性樹脂発泡体を切削することで連続的な熱可塑性樹脂発泡フィルムが得られる。このフィルムをそのまま本発明の熱可塑性樹脂発泡フィルムとしてもよいが、このフィルムはその切削時に緩やかな巻癖が残る場合があり、その結果、その後のラミネート工程などの加工工程が困難なものとなる場合がある。その場合、フィルムを熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上、かつガラス転移温度以下の温度にて加熱しつつ平板化を行うことが好ましい。ここで、加熱しつつ平板化を行うとは、具体的には、アイロンをかける、あるいは、一定にギャップに固定された加熱ロールの間を一定の応力をかけて通過させ、平板化することを言う。
【0034】
前記加熱温度がガラス転移温度−30℃未満だと巻癖を充分にとることができない場合があり、ガラス転移温度を超えると、熱可塑性樹脂発泡フィルムが更に膨らんだり潰れるなどにより厚み精度が低下する場合がある。なお、加える応力としては、熱可塑性樹脂発泡フィルムが潰れないことから0.1MPa以下が好ましい。
【0035】
また本発明は、熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの少なくとも片面にアルミニウム箔を積層した積層発泡フィルムにも関する。
【0036】
本発明において熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムに積層されるアルミニウム箔は、厚さが0.005〜0.05mmであることが好ましく、厚さが0.007〜0.02mmであることがより好ましい。厚みが0.005mmを下回ると積層の際にアルミニウム箔に皺が入る場合があり、厚さが0.05mmを超えると軽量性が損なわれる場合がある。
【0037】
本発明において熱可塑性樹脂発泡フィルムにアルミニウム箔を積層する方法に特に制限は無く、接着剤や粘着剤、熱融着などの方法が採用可能だが、生産性や積層複合材の厚み精度の観点から、接着剤による積層が好ましい。
【0038】
前記積層に使用する接着剤としては、無溶剤系で収縮が小さいことが好ましく、エポキシ系接着剤、アクリル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、ウレタン系接着剤、ホットメルト接着剤などが例示される。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
〈フィルムの厚み測定〉
カツラムキによる切削加工により得られる連続する熱可塑性樹脂発泡フィルムから切り出した、約500mm×200mmのサンプルについて、厚みゲージを用いて、ランダムに30箇所で厚みを測定し、算術平均により平均厚みを算出すると共に、最大値と最小値の差を算出した。
【0041】
〈フィルムの密度測定〉
上記熱可塑性樹脂発泡フィルムの厚み測定を行ったサンプルについて、縦横の長さ及び重量を測定し、縦横の長さと平均厚みから体積を算出し、重量を体積で除して算出した。
【0042】
〈フィルムの圧縮強度評価〉
熱可塑性樹脂発泡フィルムを3cm×3cmに10枚切り出して重ねて測定試料とし、23℃雰囲気下、オートグラフを用いて1m/minの速度で圧縮し、変形量が10%となった際の応力(N)を試料面積(0.03m×0.03m=0.0009m)で除すことにより、10%圧縮時の圧縮強度を算出した。
【0043】
〈フィルムの耐熱性評価〉
発泡フィルムの中央部から100mm×100mmのサンプルを切り出し、各辺の長さを測定した後、85℃に設定した熱風オーブン中にて2時間加熱後に再度測定し、加熱後の長さを加熱前の長さで除して寸法変化の割合を算出した。
【0044】
(実施例1)
株式会社カネカ製の低発泡成形用耐熱発泡性ポリスチレン系樹脂、ヒートマックス(商標)HM5の内、JIS Z8801に基づく呼び寸法600μmの網ふるいを通過した樹脂だけを取り出し、予備発泡し、再度 呼び寸法500μmの網ふるいを通過しない樹脂だけを取り出し成形することにより、外径450mm×内径400mm×厚み200mm、密度210kg/mの中空円筒状成形体を得た。この中空円筒状成型体を、以下のカツラムキ機を用いて目標厚み0.3mmに設定して切削を行った。
【0045】
使用したカツラムキ機は、丸太を左右から固定し、丸太の中心軸と回転軸を合致させ、丸太の接線方向に刃が固定され、丸太を一定の速度で回転させながら切削する木材用の一般的な切削設備である。実際には、この丸太に代わり、上記方法で製造した中空円筒状成型体を、中空部分に固定用の芯材を入れて、このカツラムキ機に固定した上で、丸太と同様に成型体を一定速度で回転させながら、カツラムキを実施した。
切削速度は、18m/分として、約1分間 連続的にカツラムキを実施したところ、得られた発泡フィルムは切削長さ方向に緩やかな巻癖があり、直径80mm程度の紙芯に巻きとるようにサンプリングを行った。得られた発泡フィルムは、密度210kg/m、平均厚み0.30mm、最大値と最小値の差は0.01mm、表面の平滑な熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを得た。この発泡フィルムの10%圧縮時の圧縮強度は4.5MPaであり、樹脂のガラス転移温度は122℃であり、耐熱性評価での寸法変化は1.00で変わらなかった。
【0046】
(実施例2)
実施例1で得られた熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの両面に、大日本ホイル製VCコートアルミ箔(塩ビ系粘着剤付きの厚さ0.012mmのアルミニウム箔)を貼付したところ、剛性の高い積層発泡フィルムが得られた。
【0047】
(実施例3)
実施例1の中空円筒状成形体について、実施例1と同じカツラムキ機を用いて目標厚み0.7mmに設定してカツラムキを行い、実施例1と同様にして評価を行った。
【0048】
(実施例4)
実施例3で得られた熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムに実施例2と同様にして厚さ0.012mmのアルミニウム箔を貼付したところ、剛性の高い積層発泡フィルムが得られた。
【0049】
(実施例5)
実施例1と同様に、株式会社カネカ製の低発泡成形用耐熱発泡性ポリスチレン系樹脂、ヒートマックス(商標)HM5の内、JIS Z8801に基づく呼び寸法600μmの網ふるいを通過した樹脂だけを取り出し、予備発泡し、再度 呼び寸法500μmの網ふるいを通過しない樹脂だけを取り出し成形することにより、実施例1と同様の中空円筒状成形体を得、さらに、実施例1と同様にして目標厚み0.3mmに設定してカツラムキを行い、実施例1と同様に評価を行った。
【0050】
(実施例6)
実施例5で得られた熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムに実施例2と同様にして厚さ0.012mmのアルミニウム箔を貼付したところ、剛性の高い積層発泡フィルムが得られた。
【0051】
(比較例1)
予備発泡の前後で、網ふるいを使用しない以外は、実施例1と同様にして中空円筒状成形体を得、実施例1と同じカツラムキ機を用いて目標厚み0.3mmに設定して切削を行なった結果、カツラムキによる切削工程の段階で、発泡フィルムの表面荒れが見られ、途中で発泡フィルムが切れるということが発生。比較的 表面荒れが発生していない発泡フィルムの部分を取り出し、実施例1と同様にして評価を行った。評価結果を表1に示す。得られた熱可塑性樹脂発泡フィルムは、密度212kg/m、平均厚み0.3mm、最大値と最小値の差は0.04mm、表面荒れが目立ち、引張方向に脆い熱可塑性樹脂発泡フィルムを得た。この発泡フィルムの10%圧縮時の圧縮強度は4.3MPaであり、耐熱性評価での寸法変化は1.00で変わらなかった。
【0052】
(比較例2)
比較例1で得られた熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムに実施例2と同様にして厚さ0.012mmのアルミニウム箔を貼付したところ、ラミネート段階で、発泡フィルムが切断するということが発生した。
【0053】
(比較例3)
使用する樹脂を、株式会社カネカ製の発泡成形用耐熱発泡性ポリスチレン系樹脂、ヒートマックス(商標)HMに代えた以外は、実施例1と全く同様に中空円筒状成形体を得、実施例1と同様に行った。得られた熱可塑性樹脂発泡フィルムは、密度36kg/m、平均厚み0.31mm、最大値と最小値の差は0.06mmと若干大きいが、端部最小厚み0.28mmの表面の荒れた熱可塑性樹脂発泡フィルムを得た。この発泡フィルムの樹脂のガラス転移温度116℃で、耐熱性評価での寸法変化は1.00で変わらなかったが、10%圧縮時の圧縮強度は0.3MPaであり、かつ、引張方向に脆い熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを得た。
【0054】
(比較例4)
比較例3で得られた熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムに実施例2と同様にして厚さ0.012mmのアルミニウム箔を貼付したところ、比較礼2同様に、ラミネート段階で、発泡フィルムが切断するということが発生した。
【0055】
(比較例5)
実施例1の内、予備発泡後のみ、網ふるいを使用しない以外は、実施例1と全く同様にして、450mm×300mm×25mm、密度210kg/mの方形状成形体を得た。さらに、実施例1と同じカツラムキ機を用いて目標厚み0.3mmに設定して切削を行い、実施例1と同様に評価した。得られた熱可塑性樹脂発泡フィルムは、密度210kg/m、平均厚み0.30mm、最大値と最小値の差は0.02mm、表面荒れの多い熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムしか得られなかった。具体的には、カツラムキ工程において、頻繁に硬芯が影響していると思われる表面荒れが発生し、結果として、傷の無い表面の均一なフィルムは、わずかな部分しか得られず、最終的には、全体の30%程度しか表面性の良好なフィルムが得られなかった。途中で、発泡フィルムが切断することも多く、連続的な発泡フィルムは得られなかった。実施例1においては、表面性の良好なフィルムが連続的に安定的に得られており、収率的に見ても95%を超えている。ただし、こうして得られた発泡フィルムの内、傷の少ない表面の均一な発泡フィルムの部分は、10%圧縮時の圧縮強度は4.5MPaであり、樹脂のガラス転移温度は122℃であり、耐熱性評価での寸法変化は1.00となり、実施例1と同等の結果であった。
【0056】
(比較例6)
比較例5で得られた傷の少ない表面の均一な熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムに実施例2と同様にして厚さ0.012mmのアルミニウム箔を貼付したところ、アルミニウム箔の表面に皺が目立つ外観の悪い積層発泡フィルムが得られた。
【0057】
実施例1〜6で得られた発泡フィルムおよび積層発泡フィルムを図3に示すような11mm×7mmの型で打ち抜き、市販の携帯電話用スピーカーを解体し、スピーカー用振動板の部分を取り替えて評価したところ、良好な音響性能を発現し、十分にスピーカー用振動板として使用可能であることを確認した。
一方で、比較例1〜6で得られたもので、同様にスピーカー用振動板として評価したが、音域の狭い、音圧の低いものしか得られず、特に高音域の性能が劣っていた。
実施例1〜6、比較例1〜6の対比により、本発明の効果は明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備発泡粒子を用いて製造された熱可塑性樹脂粒子発泡成形体をカツラムキにより切削する工程を含んでなる熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムからなる、厚みが0.1mm以上1.5mm以下のスピーカー用振動板であって、上記予備発泡粒子が実質的に直径1500μm以下のもののみからなることを特徴とするスピーカー用振動板。
【請求項2】
上記予備発泡粒子が実質的に直径300μm以上のもののみからなることを特徴とする上記1)記載のスピーカー用振動板。
【請求項3】
上記1)または2)記載の熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの両側にアルミニウム箔を積層してなることを特徴とするスピーカー用振動板。
【請求項4】
熱可塑性樹脂粒子発泡成形体が、アクリロニトリルを5重量%以上50重量%以下含有し、密度が100kg/m以上500kg/m以下、ガラス転移温度が105℃以上であるスチレン系樹脂粒子発泡成形体であって、発泡成形体内部に、実質的に粒子状の未発泡部位が存在しないことを特徴とする、上記1)〜3)のいずれか記載のスピーカー用振動板。
【請求項5】
熱可塑性樹脂粒子発泡成形体をカツラムキにより切削する工程を含んで得られた熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムを、該熱可塑性樹脂のガラス転移温度−30℃以上の温度、かつガラス転移温度以下の温度にて加熱しつつ連続的に平板化することにより得られたものであることを特徴とする、上記1)〜4)のいずれか記載のスピーカー用振動板。
【請求項6】
熱可塑性樹脂粒子発泡フィルムの、密度100kg/m以上500kg/m以下、10%圧縮時の圧縮強度が0.8MPa以上であることを特徴とする、上記1)〜5)のいずれか記載のスピーカー用振動板。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−90110(P2013−90110A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228275(P2011−228275)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】