説明

スピーカー

【課題】 振動系を構成する第1振動板と、第2振動板と、ボイスコイルのボビンとの連結強度が高く、音圧周波数特性上のピーク・ディップが少ない再生音質に優れたスピーカーを提供する。
【解決手段】 スピーカーは、音波を放射する前面側に配置される略コーン形状の第1振動板と、第1振動板の背面側に配置されてその外周側で第1振動板の外周側と連結する略コーン形状の第2振動板と、第1振動板および第2振動板の内周側がそれぞれ離隔して連結する略円筒形状のボビンを含むボイスコイルと、を備え、第1振動板が、その外周端部から折り返されるように延設されて前面側に凸状の稜線部を規定して該稜線部の背面側に係合凹部を規定する係合鍔部を有し、第2振動板が、その外周端部に第1振動板の係合凹部に係合する係合部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で剛性が高く、ピストン振動帯域が広い振動板を用いたスピーカーに関し、特に、音波を放射する前面側に配置される第1振動板と、第1振動板の背面側に配置される第2振動板と、第1振動板および第2振動板が連結するボイスコイルのボビンと、を含む二重振動板構造のスピーカー振動系を有するスピーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
スピーカーでは、円筒状のボイスコイルボビンの円筒側面に、スピーカー振動板(特に、コーン型振動板)の内周端を接着剤で接着する組立構造が多用されている。従来のスピーカーにおいては、この組立構造に工夫をして組立工数の削減を図ろうとするものがある。また、コーン型振動板、あるいはドーム型振動板を備えるスピーカーにおいて、前面側に露出する振動板とは別にその背後にコーン形状の振動板を設けて、スピーカー振動系の強度を向上させる二重振動板構造を採用する場合がある。
【0003】
従来には、例えば、磁気回路の磁気ギャップにはめこまれるボイスコイルに振動板の中央部を結合してなるスピーカーにおいて、上記振動板は、半頂角および曲率のいずれか一方が異なる2枚以上のコーンを用いて構成されていることを特徴とするスピーカーがある(特許文献1)。また、本願発明の出願人による二重振動板構造のスピーカーとして、半頂角が異なる2枚のコーン形の振動板基材の夫々の外周部位が相互に接着されて共通のエッジ部材の内周に結合されるとともに、前記振動板基材の夫々の内周部位は相互に隙間を隔てて共通のボイスコイルのボビンに結合されており、前記2枚の振動板基材の隙間にコアー材を充填させた構造の振動板を、前記エッジを介してフレームに保持せしめたことを特徴とするスピーカーがある(特許文献2)。
【0004】
また、振動板形状が正面縦断面でその曲面が下方にドーム状に突出した逆ドーム型スピーカーにおいて、振動板1が熱可塑性樹脂を主材としたインジェクション成型からなり、振動板1の背面に同心円状の複数のリング状のリブ15a,15b,15c,15d〜からなるリブ群15を設け、前記リブ群15の一つをガイドとしてボイスコイルボビン2を振動板1に固着し、かつ、ボイスコイルボビン2と前記リブ群15の他の一つのリブとの間にリング状のスロート22を配設するスピーカーがある(特許文献3)。
【0005】
また、本願発明の出願人による二重振動板構造ではないスピーカー振動板は、第1振動板部分5と、第1振動板部分5と一体成形された第2振動板部分6と、第1振動板部分5と第2振動板部分6との結合部の背面側に突出して設けられボイスコイルボビンの一端が取り付けられる取付部7とを備え、第1振動板部分5および第2振動板部分6が、基材に熱硬化性樹脂が含浸されてなり、取付部7が、熱硬化性樹脂が硬化されて成形されている(特許文献4)。また、基体と、基体の片側に配置され、ポリエチレンナフタレート繊維の織布を含む表面材とを有するスピーカー振動板がある(特許文献5)。これらのスピーカー振動板は、ボイスコイルボビンからの駆動力の伝達ロスを低減させ、特に後者の場合にはヤング率と内部損失とのバランスに優れたスピーカー振動板を実現するので、これを用いたスピーカーは、S/N比を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−155900号公報 (第1図)
【特許文献2】実開昭62−68394号公報 (第1図〜第3図)
【特許文献3】特開平9−247791号公報 (第3図)
【特許文献4】特許第3846497号公報 (第1図〜第4図)
【特許文献5】特開2007−259261号公報
【0007】
ただし、従来の二重振動板構造のスピーカー振動系では、十分ではない。前面側の第1振動板と背面側の第2振動板とを備えることで、その重量が重くなりがちな二重振動板構造のスピーカー振動系は、スピーカーの再生能率を高めるには全体的に軽量化を図る必要がある。二重振動板構造のスピーカー振動系は、前面側の第1振動板と背面側の第2振動板とをそれぞれ最適に設計しなければ、軽量化することで剛性が不足すると、それぞれの振動板での分割振動モードの影響が低い周波数で現れてしまうという問題がある。つまり、ボイスコイルのボビンを含めて第1振動板と第2振動板を組み合わせた二重振動板構造のスピーカー振動系は、連結した構造体としての剛性が低くなると、音圧周波数特性上のピーク・ディップが大きくなり、ピストン振動領域が狭くなって再生音質の低下を招く場合があるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、振動系を構成する第1振動板と、第2振動板と、ボイスコイルのボビンとを連結した二重振動板構造のスピーカー振動系の剛性が高く、音圧周波数特性上のピーク・ディップが少ない再生音質に優れたスピーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスピーカーは、音波を放射する前面側に配置される略コーン形状の第1振動板と、第1振動板の背面側に配置されてその外周側で第1振動板の外周側と連結する略コーン形状の第2振動板と、第1振動板および第2振動板の内周側がそれぞれ離隔して連結する略円筒形状のボビンを含むボイスコイルと、を備え、第1振動板が、その外周端部から折り返されるように延設されて前面側に凸状の稜線部を規定して稜線部の背面側に係合凹部を規定する係合鍔部を有し、第2振動板が、その外周端部に第1振動板の係合凹部に係合する係合部を有する。
【0010】
好ましくは、本発明のスピーカーは、フレームに連結する外周部と、第1振動板または第2振動板の外周側に連結する内周部と、外周部と内周部との間に規定される支持可動部と、第1振動板の係合鍔部が係合する環状凹部と、を有するエッジをさらに備える。
【0011】
好ましくは、本発明のスピーカーは、エッジの内周部が連結する部分として規定される第2振動板の外周縁部が、第1振動板との間に、第2振動板の係合部から内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間を形成する。
【0012】
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、第1振動板の係合凹部と、係合凹部に係合する第2振動板の係合部とが、係合凹部または係合部に塗布される第1接着剤で連結される。
【0013】
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、第1振動板と第2振動板との間に規定される離隔空間に、第1接着剤とは異なる第2接着剤が塗布されて充填されている。
【0014】
さらに好ましくは、本発明のスピーカーは、第1振動板が、略コーン形状の基体の内周側に、ボビンの端部に連結する連結部と、連結部の内周側を覆う中央部と、を、基体と一体に成形して備えている。
【0015】
また、好ましくは、本発明のスピーカーは、ボイスコイルのボビンにその内周端部が連結するダンパーと、エッジの外周部ならびにダンパーの外周端部が連結するフレームと、フレームが連結されて、ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、をさらに備える。
【0016】
以下、本発明の作用について説明する。
【0017】
本発明のスピーカーは、音波を放射する前面側に配置される略コーン形状の第1振動板と、第1振動板の背面側に配置されてその外周側で第1振動板の外周側と連結する略コーン形状の第2振動板と、第1振動板および第2振動板の内周側がそれぞれ離隔して連結する略円筒形状のボビンを含むボイスコイルと、を備える。また、好ましくは、本発明のスピーカーは、フレームに連結する外周部と、第1振動板または第2振動板の外周側に連結する内周部と、外周部と内周部との間に規定される支持可動部と、を有するエッジと、ボイスコイルのボビンにその内周端部が連結するダンパーと、エッジの外周部ならびにダンパーの外周端部が連結するフレームと、フレームが連結されて、ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、をさらに備える。したがって、本発明のスピーカーは、二重振動板構造のスピーカー振動系を有する動電型のスピーカーである。
【0018】
第1振動板は、その外周端部から折り返されるように延設されて前面側に凸状の稜線部を規定して稜線部の背面側に係合凹部を規定する係合鍔部を有する。第1振動板の係合鍔部は、第1振動板の外周側の強度を高めるとともに、エッジが有する環状凹部に係合する。また、第2振動板は、その外周端部に第1振動板の係合凹部に係合する係合部を有し、ここに塗布される第1接着剤で第1振動板と第2振動板とが連結される。したがって、第1振動板および第2振動板は、その内周側がそれぞれ離隔して略円筒形状のボイスコイルのボビンと連結するので、断面が略三角形の強固な構造体となるスピーカー振動系を構成する。なお、第1振動板は、略コーン形状の基体の内周側に、ボビンの端部に連結する連結部と、連結部の内周側を覆う中央部と、を、基体と一体に成形して備えるドーム形状、あるいは、ダストキャップ一体のコーン形状であってもよい。
【0019】
ここで、第2振動板は、その外周側が分割振動する最低次のモードの周波数f2が、第1振動板の外周側が分割振動する最低次のモードの周波数f1に比較して高く設定されている第1振動板よりも剛性が高い振動板である。また、第2振動板のヤング率E2が、第1振動板のヤング率E1に比較して小さく、または、第2振動板の内部損失δ2が、第1振動板の内部損失δ1に比較して大きく、または、第2振動板の比重ρ2が、第1振動板の比重ρ1に比較して小さく設定されている。具体的には、第1振動板は、繊維からなる織布もしくは不織布を含む基材に不飽和ポリエステル樹脂を含む熱硬化性樹脂が含浸されて基体が成形されたスピーカー振動板であるか、紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体が成形されたスピーカー振動板であり、好ましくは、平織、綾(斜文)織、繻子(朱子)織のいずれかからなる絹繊維またはポリエチレンナフタレート繊維の織布を含む表面材を、前面側に更に備えている。また、第2振動板は、紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体が成形されたスピーカー振動板である。
【0020】
本発明の二重振動板構造のスピーカー振動系は、エッジの内周部が連結する部分として規定される第2振動板の外周縁部が、第1振動板との間に、第2振動板の係合部から内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間を形成する。この離隔空間を設けることで、前面側で音波を放射する第1振動板の外周側を、第1振動板より分割振動する周波数が高いさらに強固な第2振動板の外周側が補強するという構造が実現され、外周側が分割振動を始めるモードの周波数をより高い周波数に押し上げて、ピストン振動領域を拡げることができる。また、第1振動板と第2振動板との間に規定される離隔空間に、第1接着剤とは異なる第2接着剤が塗布されて充填される場合には、相対的に軟らかくて内部損失の大きな第2接着剤が第1振動板と第2振動板の分割振動を抑制するので、さらに音圧周波数特性上のピーク・ディップが少ない再生音質に優れたスピーカーを実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のスピーカーは、二重振動板構造のスピーカー振動系の剛性が高く、音圧周波数特性上のピーク・ディップが少ない再生音質に優れたスピーカーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるスピーカー1について説明する図である。(実施例1)
【図2】本発明のスピーカー1のスピーカー振動系について説明する要部拡大図である。(実施例1)
【図3】比較例のスピーカー100のスピーカー振動系について説明する要部拡大図である。(比較例)
【図4】本発明のスピーカー1および比較例のスピーカー100のスピーカー振動板外周強度を説明するグラフである。(実施例1、比較例1)
【図5】本発明のスピーカー1および比較例のスピーカー100の音響特性を説明するグラフである。(実施例1、比較例1)
【図6】本発明の他の実施例のスピーカー21のスピーカー振動系について説明する要部拡大図である。(実施例2)
【図7】本発明の他の実施例のスピーカー22のスピーカー振動系について説明する要部拡大図である。(実施例3)
【図8】本発明の他の実施例のスピーカー23のスピーカー振動系について説明する要部拡大図である。(実施例4)
【図9】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー31について説明する図である。(実施例5)
【図10】本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー41について説明する図である。(実施例6)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態によるスピーカーについて説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるスピーカー1の概略断面図である。また、図2は、スピーカー1のスピーカー振動系について説明する要部拡大図であり、図1に図示するX部分を拡大した断面図である。なお、後述するように、スピーカー1の一部の構造や、内部構造等は、省略している。また、スピーカー1では、第1振動板であるスピーカー振動板5が露出する図示する上方が前面側であり、磁気回路10が取り付けられている図示する下方が背面側である。
【0025】
スピーカー1は、砲弾状のイコライザー9を備える口径が約15cmの動電型のスピーカーであって、音波を放射する前面側に配置される略コーン形状の第1振動板5と、第1振動板5の背面側に配置されてその外周側で第1振動板5の外周側と連結する略コーン形状の第2振動板6と、第1振動板5および第2振動板6の内周側がそれぞれ離隔して連結する略円筒形状のボイスコイルボビン2と、ボイスコイルボビン2の下端部に巻回されたボイスコイル3とを有し、これらが、二重振動板構造のスピーカー振動系を構成する。ボイスコイルボビン2およびボイスコイル3は、フレーム8に固定された磁気回路10の磁気空隙に配され、入力信号に応じて磁気空隙内を変位することにより、このスピーカー1の二重振動板構造のスピーカー振動系を駆動する。また、このスピーカー1の二重振動板構造のスピーカー振動系は、フレーム8に外周側を固定されたダンパー4およびエッジ7により、図示する上下方向に振動可能に支持されている。
【0026】
ボイスコイルボビン2は、例えば、材厚が0.05mmのアルミニウムからなり、その下端部にボイスコイル3が巻回されて、ボイスコイル3が巻回されていない外側曲面には補強紙が巻かれて、全体として直径約39.0mmの円筒形状に成形されている。ボイスコイルボビン2は、他にも、ポリイミドフィルム、ジュラルミン、シルター、キャプトン等で形成されていても良い。ボイスコイル3には、錦糸線(図示しない)がハンダづけされて固定されており、錦糸線の他端側がフレーム8に固定される(図示しない)ターミナルに導通するように固定される。ボイスコイル3には、これらのターミナル及び錦糸線を介して音声信号電流が供給される。
【0027】
ボイスコイルボビン2の外側曲面には、ダンパー4の内径端が接着剤で連結される。ダンパー4の外径端は、フレーム8のダンパー固定部に接着固定される。ダンパー4は、柔軟性を有する繊維の織布を基材としてフェノール樹脂等の樹脂を含浸して成形する円環形状のコルゲーションダンパーであればよく、また、他の材料で形成するものであってもよい。例えば、内周側リングと外周側リングを連結するアームを有し、金属または樹脂で形成する蝶ダンパーであってもよい。また、フレーム8は、バスケット状に形成されるアルミダイカストのフレームであり、磁気回路10に複数のネジで連結される。なお、フレーム8は、二重振動板構造のスピーカー振動系に対応してバスケット状にプレス成型された鉄板フレームであってもよい。
【0028】
磁気回路10は、フレーム8に固定される円環形のトッププレート11と、円筒形状であってトッププレート11の中央に形成された円形孔に挿入されるセンターポールおよび平板状のアンダープレートを有するポール12と、円環状のマグネット13と、から構成される。トッププレート11およびポール12は、均等な幅を有する円形の磁気空隙を形成する。マグネット13は、トッププレート11およびポール12のアンダープレートの間に狭持されるように接着される。本実施例のマグネット13は、フェライト系磁石であり、残留磁化および保磁力がさらに大きく、小さい体積でも保磁力の強いNd−Fe−B系の希土類磁石であってもよい。本実施例の磁気回路10は、ポール12のアンダープレートの背面側にマグネット13とは逆方向の磁極性を有するように着磁されて連結されるキャンセルマグネット14と、キャンセルマグネット14の背面側から磁気回路10の全体を覆うように磁気シールドするカバー15と、をさらに備える。
【0029】
イコライザー9は、本実施例ではアルミニウムを含む合金で形成される砲弾形状の部材であり、尖った先端側が第1振動板5のネック部分から突出するように磁気回路10のポール12のセンターポールに連結されて固定される。イコライザー9は、ボイスコイルボビン2が形成する円筒状の内部空間と略コーン形状の第1振動板5が囲む空間の一部とを埋めてこれらの空間を占める空気を排除するとともに、指向特性を整えて音圧周波数特性を平坦にする。なお、磁気回路10に連結するイコライザー9は、真鍮、あるいは、樹脂といった非磁性の部材で形成するのが好ましい。
【0030】
第1振動板5は、二重振動板構造のスピーカー振動系を有するスピーカー1を前面視した場合に前面側に露出する振動板であって、断面形状が滑らかに連続する曲線で規定される略コーン形状の振動板であり、略コーン形状の振動板部分5aと、その外周端部から折り返されるように延設される係合鍔部5bを有する。略コーン形状の振動板部分5aは、内径寸法が直径約39.5mmであり、外径寸法が直径約113.5mmであり、高さが約26.8mmである。約1.5mmの長さの係合鍔部5bは、図2に図示するように、前面側に凸状の稜線部5cを規定するとともに、稜線部5cの背面側に係合凹部5dを規定する。第1振動板5の内径端は、ボイスコイルボビン2の外側曲面にアクリル系の接着剤で連結される。
【0031】
本実施例の第1振動板5は、無機繊維もしくは天然繊維からなる織布層又は不織布層を含む積層体である基材に熱硬化性樹脂が含浸されて形成された基体(振動板部分5a、係合鍔部5b、稜線部5c、係合凹部5dを含む。)と、この基体の前面側に接着される表面材5eを備える。具体的には、基体は、テクノーラ繊維の不織布を2層積層して、不飽和ポリエステル樹脂を含浸して熱プレス成形して得られる。不飽和ポリエステルは、硬化速度が速く、硬化温度が低いので、短時間の熱プレス成形で基体を製造することができる。また、表面材5eは、この基体に熱可塑性接着剤を塗布して乾燥させたものに、繻子織の絹繊維の織布を沿わせこれらを熱プレス成形して一体化する。表面材5eを形成する繻子織の絹繊維の織布は、絹生糸を経糸21/2d 129本/cm、および、緯糸21/2d 53本/cmとして、経糸と緯糸との構成比率を2.43としたもので、2飛び5枚繻子織りとした。
【0032】
その結果、本実施例の第1振動板5は、下記の物性を有し、単独の第1振動板5の外周側が分割振動する最低次のモードの周波数f1は、約3.5kHzに設定されている。
(実施例1) :第1振動板5
厚みt1 0.3mm
重量 3.8g
目付 428g/m
ヤング率E11(経方向) 6.4E+9Pa
ヤング率E12(緯方向) 5.5E+9Pa
内部損失tanδ1 0.1
密度(比重)ρ1 1.2g/cm
【0033】
また、第2振動板6は、二重振動板構造のスピーカー振動系を有するスピーカー1を前面視した場合に背面側に隠れる振動板であって、断面形状が滑らかに連続する第1振動板5とは異なるR曲線と直線とで規定される略コーン形状の振動板であり、図2に図示するように、略コーン形状の振動板部分6aと、その外周端部に第1振動板5の係合凹部5dに係合する係合部6bと、を有する。略コーン形状の振動板部分6aは、内径寸法が直径約39.5mmであり、外径寸法が直径約111.5mmであり、高さが約31.2mmである。第2振動板6の内径端は、ボイスコイルボビン2の外側曲面にアクリル系の接着剤により第1振動板5の内径端と離隔するように連結される。
【0034】
本実施例の第2振動板6は、抄紙されて形成された紙材の基体を有し、振動板部分6aの内周端部の近傍には、複数の貫通孔が同心円状に複数箇所、形成されている。第2振動板6のヤング率E2は、第1振動板5のヤング率E11、ないし、E12に比較して小さく、第2振動板6の内部損失δ2は、第1振動板5の内部損失δ1に比較して大きく、第2振動板6の比重ρ2は、第1振動板5の比重ρ1に比較して小さく設定されている。
【0035】
その結果、本実施例の第2振動板6は、下記の物性を有し、単独の第2振動板6の外周側が分割振動する最低次のモードの周波数f2は、約4.0kHzに設定されている。
(実施例1) :第2振動板6
厚みt2 0.5mm
重量 2.2g
目付 257g/m
ヤング率E2 2.37E+9Pa
内部損失tanδ2 0.02
密度(比重)ρ2 0.5g/cm
【0036】
エッジ7は、二重振動板構造のスピーカー振動系を振動可能に支持する円環形状、あるいは、リング状のコルゲーションエッジであって、フレーム8のエッジ固定部に接着固定される外周部7aと、第2振動板6の外周側に背面側から連結する内周部7bと、外周部7aと内周部7bとの間にコルゲーションを形成する支持可動部7cと、支持可動部7cのコルゲーションの最も内周側に前面側から第1振動板5の係合鍔部5bが係合する環状凹部7dと、を有する。本実施例のエッジ7は、柔軟性を有するポリエステルの超極細繊維からなるスエード調人工皮革を加圧加熱して形成したものであり、外周部7aの前面側に紙材のガスケット7eが接着されている。なお、本実施例のエッジ7の支持可動部7cは、外周側から内周側に向かうにつれて前方に凸状となる山部の高さが小さくなるコルゲーションを有している。
【0037】
図2に示すように、第1振動板5の振動板部分5aの外周端部には、基材ないし熱硬化性樹脂を含む係合鍔部5bが形成されている。係合鍔部5bは、振動板部分5aの外周側端部において振動板部分5aを補強して外周側の強度を高めるリブとして機能するとともに、振動板部分5aの略コーン形状とは反対側に折り返した鍔部として形成されているので、前面側に凸状の稜線部5cを規定し、そして、稜線部5cの背面側に係合凹部5dを規定する。本実施例のスピーカー1の場合には、第2振動板6が、その外周端部に、第1振動板5の係合凹部5dに係合する係合部6bを有し、また、エッジ7の内周部7bが接着固定されるので、第1振動板5の係合鍔部5bは、エッジ7のコルゲーションが形成する支持可動部7cの環状凹部7dに係合する。
【0038】
すなわち、本実施例のスピーカー1では、第2振動板6およびエッジ7が形成する振動系に第1振動板5の外周端部を接着する工程において、第1振動板5の係合鍔部5bがエッジ7のコルゲーションが形成する環状凹部5dに係合するようにすれば、第1振動板5を傾かせることなくボイスコイルボビン2、および、第2振動板6に接着することができる。第2振動板6は、その外周端部に第1振動板5の係合凹部5dに係合する係合部6bを有するので、ここに第1接着剤Ad1を塗布すると、第1振動板5と第2振動板6とが連結される。図1に示すように、第1振動板5および第2振動板6は、その内周側がそれぞれ離隔して略円筒形状のボイスコイルボビン2と連結するので、断面が略三角形の強固な構造体となる二重振動板構造のスピーカー振動系を構成する。
【0039】
また、本実施例のスピーカー1の二重振動板構造のスピーカー振動系は、エッジ7の内周部7bが連結する部分として規定される第2振動板6の外周縁部が、第1振動板5との間に、第2振動板6の係合部6bから内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間Yを形成する。離隔空間Yは、図2に図示するように、第1振動板5の背面と第2振動板6の前面との間に規定される断面が鋭角な三角形状の空間である。この離隔空間Yを設けることで、前面側で音波を放射する第1振動板5の外周側を、第1振動板5より分割振動する周波数が高いさらに強固な第2振動板6の外周側が補強するという構造が実現される。
【0040】
第1振動板5の係合凹部5dと、ここに係合する第2振動板6の係合部6bに塗布する第1接着剤Ad1は、本実施例の場合には、ゴム系接着剤であり、接着剤が硬化したのちのヤング率が相対的に大きく、硬度が大きくて硬く、内部損失が小さな接着剤である。また、本実施例の場合には、第1振動板5と第2振動板6との間に規定される離隔空間Yに、第1接着剤Ad1とは異なる第2接着剤Ad2が塗布されて充填される。第2接着剤Ad2は、アクリル樹脂エマルジョン接着剤であり、接着剤が硬化したのちのヤング率が相対的に小さく、硬度が小さくて軟らかく、内部損失が大きな接着剤である。例えば、本実施例の場合の第1接着剤Ad1は、接着剤が硬化したのちのヤング率が7.3E+8Paであり、また、接着剤が硬化したのちの内部損失が0.161であり、JIS K 6253準拠のタイプAのデュロメータで硬度が約27ポイントである。一方、第2接着剤Ad2は、接着剤が硬化したのちのヤング率が6.5E+7Paであり、また、接着剤が硬化したのちの内部損失が0.30であり、硬度が約8ポイントである。つまり、第1接着剤Ad1の方が、第2接着剤Ad2よりも相対的に硬い接着剤である。なお、第1接着剤Ad1と第2接着剤Ad2とは、混じり合わないように分離して塗布されるのが好ましい。
【0041】
図3は、比較例のスピーカー100のスピーカー振動系について説明する要部拡大図である。比較例のスピーカー100は、図3に拡大した断面図として図示する部分が、本実施例のスピーカー1とは異なる二重振動板構造のスピーカー振動系を有する動電型のスピーカーである。比較例のスピーカー100のスピーカー振動系は、第1振動板50と、第2振動板60と、エッジ70と、から構成される。したがって、共通するボイスコイルボビン2、ボイスコイル3、ダンパー4、フレーム8、イコライザー9、磁気回路10については、図示並びに説明を省略する。
【0042】
第1振動板50は、比較例のスピーカー100を前面視した場合に前面側に露出する振動板であって、断面形状が滑らかに連続する曲線で規定される略コーン形状の振動板であり、略コーン形状の振動板部分50aと、その外周端部から折り返されるように延設される係合鍔部50bと、有する。係合鍔部50bは、前面側に凸状の稜線部50cを規定するとともに、稜線部50cの背面側に係合凹部50dを規定する。第1振動板50の内径端は、ボイスコイルボビン2の外側曲面に接着剤で連結される。また、第1振動板50は、先の実施例の第1振動板5と同様に、無機繊維もしくは天然繊維からなる織布層又は不織布層を含む積層体である基材に熱硬化性樹脂が含浸されて形成された基体と、この基体の前面側に接着される表面材50eを備え、テクノーラ繊維の不織布を2層積層して、不飽和ポリエステル樹脂を含浸して熱プレス成形して得られる。
【0043】
第2振動板60は、比較例のスピーカー100を前面視した場合に背面側に隠れる振動板であって、断面形状が滑らかに連続する第1振動板50とは異なるR曲線と直線とで規定される略コーン形状の振動板であり、図3に図示するように、略コーン形状の振動板部分60aと、その外周端部に第1振動板50の係合凹部50dに係合する係合部60bと、を有する。第2振動板60の内径端は、ボイスコイルボビン2の外側曲面に接着剤により第1振動板50の内径端と離隔するように連結される。また、第2振動板60は、抄紙されて形成された紙材の基体を有する。
【0044】
エッジ70は、二重振動板構造のスピーカー振動系を振動可能に支持する円環形状のコルゲーションエッジであって、フレーム8のエッジ固定部に接着固定される外周部70aと、第2振動板60の外周側に背面側から連結する内周部70bと、外周部70aと内周部70bとの間にコルゲーションを形成する支持可動部70cと、支持可動部70cのコルゲーションの最も内周側に前面側から第1振動板50の係合鍔部50bが係合する環状凹部70dと、を有する。比較例のエッジ70は、柔軟性を有するポリエステルの超極細繊維からなるスエード調人工皮革を加圧加熱して形成したものであり、外周部70aの前面側に紙材のガスケット70eが接着されている。なお、比較例のエッジ70の支持可動部70cは、外周側から内周側に向かうにつれて前方に凸状となる山部の高さが変化しないコルゲーションを有している。
【0045】
ただし、比較例のスピーカー100の二重振動板構造のスピーカー振動系では、エッジ70の内周部70bが連結する部分として規定される第2振動板60の外周縁部が、第1振動板50と接着剤で密着しており、第1振動板50との間に、先の実施例のような離隔空間Yを形成しない。つまり、第1振動板50と第2振動板60とが幅広く密着して連結するので、第2振動板60の外周縁部よりも内周側において、エッジ70の内周部70bが連結していない部分で、第2振動板60の係合部60bから内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる図3に図示するような空間Y’を形成するに過ぎない。比較例のスピーカー100の二重振動板構造のスピーカー振動系では、先の実施例のスピーカー1の二重振動板構造と同様の構成の材料を使用しているものの、第1振動板50と第2振動板60の外周縁部が幅広く密着するように形状が異なるので、この部分の剛性が不足して部分的に折れ曲がり易くなる形状になる。つまり、外周縁部が平坦に近づき、重くなって分割振動し、その結果、ピストン振動領域が狭くなる構造になっている。
【0046】
図4は、本実施例のスピーカー1および比較例のスピーカー100のスピーカー振動板外周強度を説明するグラフである。ボイスコイルボビン2と第1振動板5および第2振動板6とが構成する二重振動板構造のスピーカー振動系について、図1の断面図に示す点a0を固定し、点a1に±5kgfの静加重を与える場合に、図3のグラフの横軸は静加重の絶対値を示し、縦軸は変位の絶対値を示す。本実施例1では、UPが上方向に変位する場合であり、DOWNが下方向に変位する場合であり、2つの軌跡が大きく乖離することが無く、上下方向の対称性が確保できている。これらの軌跡を平均してみると、本実施例1のスピーカー振動系の点a1を、点a0を固定したまま1mm変位させるのに必要な静加重は、約52.0kgfと算出される。一方で、比較例100の場合では、上方向または下方向に変位する場合で2つの軌跡の乖離が大きくなり、上下方向の対称性が低下している。また、これらの軌跡を平均してみると、比較例100のスピーカー振動系の点a1を、点a0を固定したまま1mm変位させるのに必要な静加重は、約47.1kgfと算出され、本実施例1の場合に比較して約10.4%低下している。このように、本実施例のスピーカー1のスピーカー振動系は、比較例100のような従来の二重振動板構造よりもスピーカー振動板外周強度を高めることができる。
【0047】
図5は、本実施例のスピーカー1および比較例のスピーカー100の音響特性を説明するグラフである。本実施例のスピーカー1の二重振動板構造では、外周側が分割振動を始める最初のモードである最低次のモードの周波数fhは、約4.2kHzであり、それ以下の周波数では、第1振動板5および第2振動板6はピストン振動している。本実施例のスピーカー1の離隔空間Yを形成する二重振動板構造のスピーカー振動系は、第1振動板5の外周側が分割振動を始めるモードの周波数f1を、外周側が分割振動を始めるさらに高いモード周波数f2を有する第2振動板6がより高い周波数(本実施例では、約4.2kHz)に押し上げて、ピストン振動領域を拡げることができる。一方で、比較例のスピーカー100の二重振動板構造では、外周側が分割振動を始める最初のモードの周波数fhは、約3.2kHzであり、第1振動板50および第2振動板60がピストン振動する領域が狭くなっている。
【0048】
一般の二重振動板構造ではないスピーカー振動系では、コーン形状を深くする、あるいは、高剛性材料を使うなどすれば、共振のピークが鋭く大きくなるという課題があり、また、スピーカー振動板に減衰率の高い材料を使ってこの共振のピークを抑制する場合は、十分なピストン再生帯域を実現する剛性との両立が難しいという課題がある。二重振動板構造のスピーカー振動系を有するスピーカー1では、基本となる特性が主に第1振動板5から放射される音波で決まるので、第1振動板5がピストン振動する領域を拡大するように第2振動板6が連結するのが好ましい。その際に第1振動板5の最低次の共振モードである外周側が分割振動を始めるモードの周波数でピストン領域の上限が定まるので、可能な限りこれを高い周波数に伸ばすことが望まれる。
【0049】
ただし、本実施例のスピーカー1の二重振動板構造では、この高い剛性と高い減衰率の両立が可能になる。第1振動板5に十分なピストン再生帯域を確保できる剛性をもった材料を用い、第2振動板6に第1振動板5の外周側が分割振動を始めるモードを十分に抑制できるロスを持った内部損失の値が高く、軽量な材料を使用した構成とするのが好ましい。第2振動板6のヤング率E2は、第1振動板5のヤング率E1に比較して小さく、または、第2振動板6の内部損失δ2は、第1振動板5の内部損失δ1に比較して大きく、または、第2振動板6の比重ρ2は、第1振動板5の比重ρ1に比較して小さいようにするのが好ましい。したがって、二重振動板構造のスピーカー振動系を有するスピーカー1では、第2振動板6に紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とするコーン形状の基体を有する振動板を採用する。
【0050】
なお、第1振動板5の基体を構成する基材は、用途および目的に応じて、任意の適切な織布または不織布と、任意の適切な熱硬化性樹脂とが採用され得る。基材は、織布または不織布単独であってもよく、複数の不織布を有する積層体、あるいは織布と不織布との積層体であってもよい。不織布としては、代表的には、パラ型アラミド繊維、メタ型アラミド繊維、レーヨン繊維、コットン繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリアリレート系繊維などが挙げられる。織布としては、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などが挙げられる。また、織布または不織布の繊維は、上記のように天然繊維でも、無機繊維でもよい。
【0051】
また、本実施例の第1振動板5のように、表面材5eを備えていても良く、備えていなくても良い。表面材5eは、これを形成する異方性を有する織布が、織布の経糸、緯糸の構成比率の大きさが、約1.2以上の平織、綾織、朱紋織、繻子織、朱子織のいずれかの織布であれば、ヤング率が経緯で大きく変わり、表面材5eを備える第1振動板5は、高域での共振周波数が分散して、音圧周波数特性が平坦になりやすく、聴感上も高域のきつさがなくなり、非常に聴きやすくなる。表面材5eを形成する異方性を有する織布は、織布の経糸、緯糸の構成比率の大きさが、約1.2以上の綾(斜文)織りや繻子(朱子)織りの織布であれば、絹繊維(絹生糸、絹紡糸を含む)、綿繊維、ウール繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、ポリ乳酸繊維、ガラス繊維、カーボン繊維の少なくとも1つの繊維を含むものであればよい。また、繻子(朱子)織りの場合には、平織りや綾織りに対して経糸が密で組織点がまばらに飛んでいるので、滑らかで光沢に富んだ外観が得られるので、前面側に配置される略コーン形状の第1振動板5の表面材5eに適している。
【0052】
また、本実施例のスピーカー1では、二重振動板構造を構成する第1振動板5と第2振動板6との間に規定される離隔空間Yに、第1接着剤Ad1とは異なる第2接着剤Ad2が塗布されて充填されるので、内部損失の大きな第2接着剤Ad2が第1振動板5と第2振動板6の分割振動を抑制し、さらに音圧周波数特性上のピーク・ディップが少なく、高調波歪も少ない再生音質に優れたスピーカーを実現することができる。第1接着剤Ad1と、第2接着剤Ad2とは、構成成分だけでなく硬化したのちのヤング率の値が相対的に異なり、また内部損失の値も異なる。本実施例の二重振動板構造のスピーカー振動系の剛性を高め、分割振動を抑制するには、第2接着剤Ad2が、第1接着剤Ad1よりも相対的に硬化したのちの硬度が低くて軟らかく、ヤング率の値が小さく、内部損失の値が大きいことが望ましい。
【0053】
なお、本実施例の場合には、エッジ7の内周部7bは、第2振動板6の外周側に背面側から貼り合わされて連結する。ただし、エッジ7の7bは、第1振動板5の外径端の前面側に重なるように貼り合わされていてもよく、その場合も、第1振動板5の係合鍔部5bが、支持可動部7cの環状凹部7dと係合するようになればよい。第1振動板5を傾かせることなくボイスコイルボビン2、および、第2振動板6に接着することができ、十分な剛性を有する二重振動板構造のスピーカー振動系を実現することができる。
【0054】
また、本実施例のスピーカー1は、砲弾状のイコライザー9を備え、円筒状のボイスコイルボビン2の上端側を覆うダストキャップを備えない動電型スピーカーであるが、このような実施形態に限定されるものではない。砲弾状のイコライザー9を備えない場合には、ボイスコイルボビン2、あるいは、第1振動板5に連結するダストキャップを備えていても良い。
【実施例2】
【0055】
図6は、他の好ましい実施形態による(図示しない)スピーカー21のスピーカー振動系について説明する要部拡大図であり、先の実施例の図2の場合と同様に、図1に図示するX部分に相当する部分を拡大した断面図である。スピーカー21は、先の実施例のスピーカー1に比較して、二重振動板構造を構成する第1振動板5の構成が先の実施例の場合と相違する他は共通するスピーカーである。したがって、共通するボイスコイルボビン2、第2振動板6、および、エッジ7の構成については、説明を省略する。
【0056】
本実施例の第1振動板5は、先の実施例の第1振動板5と同様に、無機繊維もしくは天然繊維からなる織布層又は不織布層を含む積層体である基材に熱硬化性樹脂が含浸されて形成された基体(振動板部分5a、係合鍔部5b、稜線部5c、係合凹部5dを含む。)を備える振動板であり、先の実施例の場合に基体の前面側に接着される表面材5eを備えない点で異なり、基体が前面側に露出する振動板である。具体的には、基体は、テクノーラ繊維の不織布と綿の不織布とを積層して、不飽和ポリエステル樹脂を含浸して熱プレス成形して得られる。第1振動板5の内径端は、ボイスコイルボビン2の外側曲面にアクリル系の接着剤で連結される。
【0057】
その結果、本実施例の第1振動板5は、下記の物性を有し、単独の第1振動板5の外周側が分割振動するモードの周波数f1は、約3.0kHzに設定されている。本実施例の第1振動板5は、表面材5eを備えないので、ヤング率が経緯で大きく変わるような顕著な異方性を示さない。ただし、本実施例の第1振動板5は、表面材5eを備えない分だけ軽量化を図ることができるので、スピーカー21の再生能率を高めることができる。
(実施例2) :第1振動板5
厚みt1 0.22mm
重量 3.1g
目付 349g/m
ヤング率E1 6.5E+9Pa
内部損失tanδ1 0.07
密度(比重)ρ1 1.3g/cm
【0058】
また、本実施例の第2振動板6は、先の実施例の場合と同一であり、その結果、第2振動板6のヤング率E2は、第1振動板5のヤング率E1に比較して小さく、第2振動板6の内部損失δ2は、第1振動板5の内部損失δ1に比較して大きく、第2振動板6の比重ρ2は、第1振動板5の比重ρ1に比較して小さく設定されている関係を満たす。
【0059】
また、本実施例のスピーカー21の二重振動板構造のスピーカー振動系は、先の実施例の場合と同様に、エッジ7の内周部7bが連結する部分として規定される第2振動板6の外周縁部が、第1振動板5との間に、第2振動板6の係合部6bから内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間Yを形成する。したがって、この離隔空間Yを設けることで、前面側で音波を放射する第1振動板5の外周側を、第1振動板5より分割振動する周波数が高いさらに強固な第2振動板6の外周側が補強するという構造が実現される。
【0060】
本実施例のスピーカー21の二重振動板構造では、外周側が分割振動を始める最初のモードの周波数fhは、約4.0kHzであり、それ以下の周波数では、第1振動板5および第2振動板6はピストン振動している。本実施例のスピーカー1の離隔空間Yを形成する二重振動板構造のスピーカー振動系は、第1振動板5の外周側が分割振動を始める最低次のモードの周波数f1を、外周側が分割振動を始めるさらに高いモード周波数f2を有する第2振動板6がより高い周波数に押し上げて、従来よりもピストン振動領域を拡げることができる。
【0061】
なお、図6に示すように、第1振動板5の係合凹部5dおよび第2振動板6の係合部6bに塗布するゴム系接着剤である第1接着剤Ad1とは別に、これと異なる第2接着剤Ad2を、さらに第1振動板5と第2振動板6との間に規定される離隔空間Yに必ずしも塗布しなくても良い。もちろん、第2接着剤Ad2として、先の実施例の場合と同じアクリル樹脂エマルジョン接着剤であり、接着剤が硬化したのちのヤング率が相対的に小さく、軟らかくて内部損失が大きな接着剤を、第1接着剤Ad1と混じり合わないように分離して塗布してもよい。
【実施例3】
【0062】
図7は、他の好ましい実施形態による(図示しない)スピーカー22のスピーカー振動系について説明する要部拡大図であり、先の実施例の図2の場合と同様に、図1に図示するX部分に相当する部分を拡大した断面図である。スピーカー22は、先の実施例のスピーカー1または21に比較して、二重振動板構造を構成する第1振動板25の構成が先の実施例の場合と相違する他は共通するスピーカーである。したがって、共通するボイスコイルボビン2、第2振動板6、および、エッジ7の構成については、説明を省略する。
【0063】
本実施例の第1振動板25は、先の実施例の第1振動板5とは異なり、紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体(振動板部分25a、係合鍔部25b、稜線部25c、係合凹部25dを含む。)と、この基体の前面側に接着されて前面側に露出する表面材25eを備える。第1振動板25の基体は、抄紙してプレス乾燥し、切断して成形した紙コーンであり、紙材である他は、先の実施例の場合とほぼ同一寸法の略コーン形状の振動板部分25aと、その外周端部から折り返されるように延設される係合鍔部25bと、前面側に凸状の稜線部25cと、稜線部25cの背面側に係合凹部25dとを備える点で一致する。紙材は、軽量で、かつ、安価で低コストであるので、第1振動板25を低コストで実現できる。
【0064】
また、本実施例の表面材25eは、先の実施例1の第1振動板5が備える表面材5eの場合とは異なるポリエチレンナフタレート繊維の織布が用いられる。表面材25eを形成するポリエチレンナフタレート繊維の綾織の織布は、経糸270d 40本/cm、および、緯糸270d 31本/cmの経糸と緯糸との構成比率を1.29としたもので、2/2の綾織りとしたものである。表面材25eは、この基体に熱可塑性接着剤を塗布して乾燥させたものに、綾織りのポリエチレン繊維の織布をホットメルトフィルムとともに沿わせ、これらを熱プレス成形して第1振動板25として一体化する。第1振動板25の内径端は、先の実施例の場合と同様に、ボイスコイルボビン2の外側曲面にアクリル系の接着剤で連結される。
【0065】
その結果、本実施例の第1振動板25は、下記の物性を有し、単独の第1振動板25の外周側が分割振動するモードの周波数f1は、約2.8Hzに設定されている。
(実施例3) :第1振動板25
厚みt1 0.28mm
重量 3.0g
目付 338g/m
ヤング率E11(経方向) 3.5E+9Pa
ヤング率E12(緯方向) 3.1E+9Pa
内部損失tanδ1 0.15
密度(比重)ρ1 1.0g/cm
【0066】
また、本実施例の第2振動板6は、先の実施例の場合と同一であり、その結果、第2振動板6のヤング率E2は、第1振動板25のヤング率E11ないしE12 に比較して小さく、第2振動板6の内部損失δ2は、第1振動板25の内部損失δ1に比較して大きく、第2振動板6の比重ρ2は、第1振動板25の比重ρ1に比較して小さく設定されている関係を満たす。
【0067】
また、本実施例のスピーカー22の二重振動板構造のスピーカー振動系は、先の実施例の場合と同様に、エッジ7の内周部7bが連結する部分として規定される第2振動板6の外周縁部が、第1振動板25との間に、第2振動板6の係合部6bから内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間Yを形成する。したがって、この離隔空間Yを設けることで、前面側で音波を放射する第1振動板25の外周側を、第1振動板25より分割振動する周波数が高いさらに強固な第2振動板6の外周側が補強するという構造が実現される。
【0068】
本実施例のスピーカー22の二重振動板構造では、外周側が分割振動を始める最初のモードの周波数fhは、約4.0kHzであり、それ以下の周波数では、第1振動板5および第2振動板6はピストン振動している。本実施例のスピーカー22の離隔空間Yを形成する二重振動板構造のスピーカー振動系は、第1振動板25の外周側が分割振動を始めるモードの周波数f1を、外周側が分割振動を始めるさらに高いモード周波数f2を有する第2振動板6がより高い周波数に押し上げて、従来よりもピストン振動領域を拡げることができる。
【0069】
また、本実施例の第1振動板25が備える表面材25eは、これを形成する異方性を有する織布が、ポリエチレンナフタレート繊維の綾織の織布であり、織布の経糸、緯糸の構成比率の大きさが、約1.2以上であるので、ヤング率の経緯方向による変化が大きくなる。表面材25eを備える第1振動板25は、高域での共振周波数が分散して、音圧周波数特性が平坦になりやすく、聴感上も高域のきつさがなくなり、非常に聴きやすくなる。
【0070】
なお、第1振動板25の係合凹部25dと、ここに係合する第2振動板6の係合部6bに塗布する第1接着剤Ad1は、先の実施例の場合と同じゴム系接着剤であり、接着剤が硬化したのちのヤング率が相対的に大きく、硬くて内部損失が小さな接着剤である。また、第1振動板25と第2振動板6との間に規定される離隔空間Yに塗布されて充填される、第1接着剤Ad1とは異なる第2接着剤Ad2は、先の実施例の場合と同じアクリル樹脂エマルジョン接着剤であり、接着剤が硬化したのちのヤング率が相対的に小さく、軟らかくて内部損失が大きな接着剤であればよい。例えば、第1接着剤Ad1にゴム系接着剤ではなく、相対的にゴム系接着剤よりも硬度が大きく硬いエポキシ系接着剤、ないし、アクリル系接着剤を用いる場合には、第2接着剤Ad2にゴム系接着剤を用いてもよい。なお、第1接着剤Ad1と第2接着剤Ad2とは、混じり合わないように分離して塗布されるのが好ましい。
【実施例4】
【0071】
図8は、他の好ましい実施形態による(図示しない)スピーカー23のスピーカー振動系について説明する要部拡大図であり、先の実施例の図2の場合と同様に、図1に図示するX部分に相当する部分を拡大した断面図である。スピーカー23は、先の実施例のスピーカー1に比較して、二重振動板構造を構成する第1振動板5の構成が先の実施例の場合と相違する他は共通するスピーカーである。したがって、共通するボイスコイルボビン2、第2振動板6、および、エッジ7の構成については、説明を省略する。
【0072】
本実施例の第1振動板25は、先の実施例3の第1振動板25と同様に、紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体(振動板部分25a、係合鍔部25b、稜線部25c、係合凹部25dを含む。)を有し、これが前面側に露出する振動板であり、先の実施例3の場合に基体の前面側に接着される表面材25eを備えない点で異なる振動板である。具体的には、第1振動板25の基体は、先に述べたとおり、抄紙してプレス乾燥し、切断して成形した紙コーンである。第1振動板25の内径端は、ボイスコイルボビン2の外側曲面にアクリル系の接着剤で連結される。
【0073】
本実施例の第1振動板25は、紙材を基材とする紙コーンであっても、下記の物性を有し、単独の第1振動板25の外周側が分割振動するモードの周波数f1は、約2.5kHzに設定されている。本実施例の第1振動板25は、表面材25eを備えないので、ヤング率が経緯で大きく変わるような顕著な異方性を示さない。ただし、本実施例の第1振動板25は、表面材25eを備えない分だけ軽量化を図ることができるので、スピーカー21の再生能率を高めることができる。
(実施例4) :第1振動板25
厚みt1 0.35mm
重量 2.5g
目付 281g/m
ヤング率E 2.6E+9Pa
内部損失tanδ1 0.13
密度(比重)ρ1 0.80g/cm
【0074】
本実施例の第2振動板6は、先の実施例の場合と同一であり、その結果、第2振動板6のヤング率E2は、第1振動板25のヤング率E1に比較して小さく、第2振動板6の内部損失δ2は、第1振動板25の内部損失δ1に比較して大きく、第2振動板6の比重ρ2は、第1振動板25の比重ρ1に比較して小さく設定されている関係を満たす。
【0075】
また、本実施例のスピーカー23の二重振動板構造のスピーカー振動系は、先の実施例の場合と同様に、エッジ7の内周部7bが連結する部分として規定される第2振動板6の外周縁部が、第1振動板25との間に、第2振動板6の係合部6bから内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間Yを形成する。したがって、この離隔空間Yを設けることで、前面側で音波を放射する第1振動板25の外周側を、第1振動板25より分割振動する周波数が高いさらに強固な第2振動板6の外周側が補強するという構造が実現される。
【0076】
本実施例のスピーカー23の二重振動板構造では、外周側が分割振動を始める最初のモードの周波数fhは、約3.5kHzであり、それ以下の周波数では、第1振動板25および第2振動板6はピストン振動している。本実施例のスピーカー1の離隔空間Yを形成する二重振動板構造のスピーカー振動系は、第1振動板25の外周側が分割振動を始めるモードの周波数f1を、外周側が分割振動を始めるさらに高い最低次のモード周波数f2を有する第2振動板6がより高い周波数に押し上げて、従来よりもピストン振動領域を拡げることができる。
【実施例5】
【0077】
図9は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー31の概略断面図である。スピーカー31は、先の実施例のスピーカー1に比較して、砲弾状のイコライザー9を備えず、二重振動板構造を構成する第1振動板の構成が先の実施例の場合と相違する他は、ほぼ共通するスピーカーである。具体的には、スピーカー31は、逆ドーム形状の中央部33を振動板部分35aと一体に成形した第1振動板35を備え、砲弾状のイコライザー9を備えない点で相違し、先の実施例と共通する第2振動板6を備える点等で共通する。したがって、共通する構成については、説明を省略する。
【0078】
スピーカー31を構成する第1振動板35は、先の実施例の第1振動板25と同様に、紙繊維を抄紙して成形した紙材を基材とする基体(振動板部分、係合鍔部、稜線部、係合凹部を含む。)が前面側に露出する振動板であり、基体の前面側に接着される表面材25eを備えない振動板である。具体的には、第1振動板35の基体は、抄紙してプレス乾燥し、中央部33を残して外周側を切断して成形した紙コーンである。また、第1振動板35は、略コーン形状の基体の内周側に、ボイスコイルボビン2の端部に連結する連結部32と、連結部32の内周側を覆う逆ドーム形状の中央部33と、を、基体と一体に成形して備えている。連結部32は、環状に成形される段差、あるいは、厚みが一部で変化するリブから規定される。第1振動板35の連結部32には、ボイスコイルボビン2の端部がアクリル系の接着剤で連結される。
【0079】
本実施例の第1振動板35は、紙材を基材とする紙コーンであっても、下記の物性を有し、単独の第1振動板35の外周側が分割振動する最低次のモードの周波数f1は、約2.8kHzに設定されている。本実施例の第1振動板35は、表面材を備えないので、ヤング率が経緯で大きく変わるような顕著な異方性を示さない。ただし、本実施例の第1振動板35は、表面材を備えない分だけ軽量化を図ることができるので、スピーカー31の再生能率を高めることができる。
(実施例5) :第1振動板35
厚みt1 0.35mm
重量 2.5g
目付 281g/m
ヤング率E1 2.6E+9Pa
内部損失tanδ1 0.13
密度(比重)ρ1 0.8g/cm
【0080】
また、本実施例のスピーカー31の二重振動板構造のスピーカー振動系は、先の実施例の場合と同様に、エッジ7の内周部7bが連結する部分として規定される第2振動板6の外周縁部が、第1振動板35との間に、第2振動板6の係合部6bから内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間Yを形成する。したがって、この離隔空間Yを設けることで、前面側で音波を放射する第1振動板35の外周側を、第1振動板35より分割振動する周波数が高いさらに強固な第2振動板6の外周側が補強するという構造が実現される。
【0081】
本実施例の第1振動板35は、中央部33を備えることでその剛性が高められるので、より強固な二重振動板構造が実現され、外周側が分割振動を始めるモードの周波数をより高い周波数に押し上げて、ピストン振動領域を拡げることができる。また、第1振動板35は、ボイスコイルボビン2の端部に連結する連結部32を備えるので、第1振動板35にボイスコイルボビン2が密着して連結し、剛性の高い二重振動板構造のスピーカーの振動系が構成される。したがって、さらに音圧周波数特性上のピーク・ディップが少ない再生音質に優れたスピーカー31を実現することができる。
【実施例6】
【0082】
図10は、本発明の他の好ましい実施形態によるスピーカー41の概略断面図である。スピーカー41は、先の実施例のスピーカー31に比較して、二重振動板構造を構成する第1振動板45の構成が先の実施例の場合と相違する他は、ほぼ共通するスピーカーである。具体的には、スピーカー41は、ドーム形状の中央部43を振動板部分と一体に成形した第1振動板45を備える点で相違し、先の実施例と共通する第2振動板6を備える点等で共通する。したがって、共通する構成については、説明を省略する。
【0083】
スピーカー41を構成する第1振動板45は、先の実施例の第1振動板5と同様に、無機繊維もしくは天然繊維からなる織布層又は不織布層を含む積層体である基材に熱硬化性樹脂が含浸されて形成された基体と、基体の前面側に接着される表面材44と、を備え、表面材44が前面側に露出する振動板である。具体的には、基体は、テクノーラ繊維の不織布と綿の不織布とを積層して、不飽和ポリエステル樹脂を含浸して熱プレス成形して得られ、表面材44は、この基体に熱可塑性接着剤を塗布して乾燥させたものに、繻子織の絹繊維の織布をホットメルトフィルムともに沿わせ、これらを熱プレス成形して一体化するものである。表面材44を形成する繻子織の絹繊維の織布は、絹生糸を経糸21/2d 130本/cm、および、緯糸21/3d 49本/cmの経糸と緯糸との構成比率を1.77としたもので、3飛び5枚繻子織りとした。
【0084】
本実施例の第1振動板45は、下記の物性を有し、単独の第1振動板45の外周側が分割振動するモードの周波数f1は、約3.5Hzに設定されている。本実施例の第1振動板45は、繻子織りの絹繊維からなる表面材44を備えるので、ヤング率が経緯で大きく変わる異方性を示す。表面材44を備える第1振動板45は、高域での共振周波数が分散して、音圧周波数特性が平坦になりやすく、聴感上も高域のきつさがなくなり、非常に聴きやすくなる。
(実施例6) :第1振動板45
厚みt1 0.3mm
重量 3.9g
目付 439g/m
ヤング率E11(経方向) 3.5E+9Pa
ヤング率E12(緯方向) 3.1E+9Pa
内部損失tanδ1 0.1
密度(比重)ρ1 1.2g/cm
【0085】
したがって、本実施例のスピーカー41の二重振動板構造のスピーカー振動系は、先の実施例の場合と同様に、エッジ7の内周部7bが連結する部分として規定される第2振動板6の外周縁部が、第1振動板45との間に、第2振動板6の係合部6bから内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間Yを形成する。したがって、この離隔空間Yを設けることで、前面側で音波を放射する第1振動板45の外周側を、第1振動板45より分割振動する周波数が高いさらに強固な第2振動板6の外周側が補強するという構造が実現される。
【0086】
加えて、第1振動板45は、略コーン形状の基体の内周側に、ボイスコイルボビン2の端部に連結する連結部42と、連結部42の内周側を覆うドーム形状の中央部43と、を、基体と一体に成形して備えている。連結部42は、環状に離隔して配置される複数の円錐形突起から規定される。円錐形突起は、第1振動板45の振動板部分45aの背面側から突出するように、熱硬化性樹脂が硬化して成形された略円錐形状の突起である。すなわち、円錐形突起は、基材を含まずに、好ましくは不飽和ポリエステルによって成形されている。硬化速度が速く、硬化温度が低いので製造が容易であり、かつ、優れた内部損失を有する連結部42が得られる。連結部42は、振動板部分45aの基材に熱硬化性樹脂が含浸されると同時に、金型の連結部42の形状部分に熱硬化性樹脂が滴下され、硬化されるので、製造がきわめて簡素化される。
【0087】
本実施例の第1振動板45は、中央部43を備えることで第1振動板の剛性が高められるので、より強固な二重振動板構造が実現され、外周側が分割振動を始めるモードの周波数をより高い周波数に押し上げて、ピストン振動領域を拡げることができる。また、第1振動板45は、ボイスコイルボビン2の端部に連結する連結部42を備えるので、第1振動板45にボイスコイルボビン2が密着して連結するように、剛性の高い二重振動板構造のスピーカーの振動系が構成される。したがって、さらに音圧周波数特性上のピーク・ディップが少ない再生音質に優れたスピーカー41を実現することができる。
【0088】
なお、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。基材に熱硬化性樹脂が含浸されて成形される第1振動板を備える本発明のスピーカーでは、例えば、上記の第1振動板45の連結部42が、熱硬化性樹脂が硬化して成形されてその背面側に突出し、かつ、環状に離隔して配置される複数の円錐形突起を有し、複数の円錐形突起が、ボイスコイルボビン2の一端が連結する連結部42を規定するものであれば、円錐形突起の寸法並びに配列を問わない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のスピーカーの振動系は、様々な用途(家庭用、車載用)に用いられるスピーカーに好適に適用され得る。さらに、特に低周波数領域を再生するウーファー、または高周波数領域も再生するフルレンジスピーカー等、任意のスピーカーに適用され得る。また、本発明の振動系は、スピーカーのみならず、マイクロホンにも適用が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1、21、22、23、31、41、100 スピーカー
2 ボイスコイルボビン
3 ボイスコイル
4 ダンパー
5、25、35、45、50 第1振動板
5a、25a 振動板部分
5b、25b 係合鍔部
5c、25c 稜線部
5d、25d 係合凹部
5e、25e、44 表面材
6、60 第2振動板
6a、60a 振動板部分
6b、60b 係合部
7、70 エッジ
7a、70a 外周部
7b、70b 内周部
7c、70c 支持可動部
7d、70d 環状凹部
8 フレーム
9 イコライザー
10 磁気回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を放射する前面側に配置される略コーン形状の第1振動板と、
該第1振動板の背面側に配置されてその外周側で該第1振動板の外周側と連結する略コーン形状の第2振動板と、
該第1振動板および該第2振動板の内周側がそれぞれ離隔して連結する略円筒形状のボビンを含むボイスコイルと、を備え、
該第1振動板が、その外周端部から折り返されるように延設されて前面側に凸状の稜線部を規定して該稜線部の背面側に係合凹部を規定する係合鍔部を有し、
該第2振動板が、その外周端部に該第1振動板の該係合凹部に係合する係合部を有する、
スピーカー。
【請求項2】
フレームに連結する外周部と、前記第1振動板または前記第2振動板の外周側に連結する内周部と、該外周部と該内周部との間に規定される支持可動部と、前記第1振動板の前記係合鍔部が係合する環状凹部と、を有するエッジをさらに備える、
請求項1に記載のスピーカー。
【請求項3】
前記エッジの前記内周部が連結する部分として規定される前記第2振動板の外周縁部が、前記第1振動板との間に、該第2振動板の前記係合部から内周側に向かうにつれて離隔する距離が大きくなる離隔空間を形成する、
請求項1または2に記載のスピーカー。
【請求項4】
前記第1振動板の前記係合凹部と、該係合凹部に係合する前記第2振動板の前記係合部とが、該係合凹部または該係合部に塗布される第1接着剤で連結される、
請求項1から3のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項5】
前記第1振動板と前記第2振動板との間に規定される前記離隔空間に、前記第1接着剤とは異なる第2接着剤が塗布されて充填されている、
請求項4に記載のスピーカー。
【請求項6】
前記第1振動板が、略コーン形状の基体の内周側に、前記ボビンの端部に連結する連結部と、該連結部の内周側を覆う中央部と、を、該基体と一体に成形して備えている、
請求項1から5のいずれかに記載のスピーカー。
【請求項7】
前記ボイスコイルの前記ボビンにその内周端部が連結するダンパーと、
前記エッジの前記外周部ならびに該ダンパーの外周端部が連結するフレームと、
該フレームが連結されて、該ボイスコイルのコイルが配置される磁気空隙を有する磁気回路と、をさらに備える、
請求項1から6のいずれかに記載のスピーカー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−258537(P2010−258537A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103263(P2009−103263)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000000273)オンキヨー株式会社 (502)
【Fターム(参考)】