説明

スフィンゴミエリナーゼ活性の定量法

【課題】 スフィンゴミエリナーゼ活性の定量法を提供する。
【解決手段】 スフィンゴミエリナーゼ含有検体に下記式(1)の化合物を作用させ、反応生成物下記式(3)の化合物を作用させ、生成する下記式(5)の吸光度を測定することによるスフィンゴミエリナーゼ活性の定量法。
【化1】


(式中、R1およびR2は同一または異なって、不飽和結合を有することもある炭素数が1〜20のアルキル基などを意味し、R3は水素原子などを意味する。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解酵素であるスフィンゴミエリナーゼ活性の定量法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ脂質が細胞内において様々な情報伝達に関与していることが明らかになっている。最近の研究では、特にセラミドやスフィンゴシン−1−リン酸に焦点が当てられ、それぞれの受容体の探索や、情報伝達経路に関する研究が盛んに行われている。例えば、セラミドは、加水分解酵素であるスフィンゴミエリナーゼが活性化された結果、細胞膜の主要な構成成分であるスフィンゴミエリンから代謝、生産され、細胞内に多く蓄積するとアポトーシスを誘導することが知られている。このときスフィンゴミエリナーゼは外部からのストレスにより活性化されるTNF−βやその他ある種の刺激により活性化される。また、最近の研究では、セラミドの脳における疾病への関与が明らかにされ、スフィンゴミエリナーゼの阻害剤がこの治療薬として効果があると期待されている。また、これに関連して、スフィンゴミエリナーゼ活性の定量の重要性が増加している。
【0003】
これまで一般的に、スフィンゴミエリナーゼの活性測定には、蛍光や放射性原子により標識化されたスフィンゴミエリン(非特許文献1および2参照)や、2−ヘキサデカノイルアミノ−4−ニトロフェニルホスホコリン(HPN)のように加水分解産物が強い吸光度を持つ合成基質が利用されている(非特許文献3参照)。これらの基質を用いたアッセイでは酵素活性を測定するため、一度、酵素反応を停止した後に生成物を定量する必要があり、加水分解の経時変化をリアルタイムに測定することはできなかった。
【0004】
【非特許文献1】J. Lipid. Res., 43, 815 (2002)
【非特許文献2】Methods Enzymol., 311, 164 (1999)
【非特許文献3】N. Engl. J. Med., 293, 632 (1975)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スフィンゴミエリナーゼによる加水分解反応をリアルタイムに測定し、スフィンゴミエリナーゼ活性の定量法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記一般式(1)で示されるスフィンゴミエリン硫黄置換体などを用いるスフィンゴミエリナーゼ活性の定量法に関する。
【化1】

(式中、R1およびR2は同一または異なって、不飽和結合を有することもある炭素数が1〜20のアルキル基を意味する。)
【0007】
更に詳しくは、スフィンゴミエリナーゼ含有検体に上記式(1)で表されるスフィンゴミエリン硫黄置換体を加え、該スフィンゴミエリナーゼにより加水分解され、遊離する下記一般式(2)
【化2】

(式中、R1およびR2は前掲と同じ。)で表されるチオールに、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R3は水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基またはハロゲン原子を意味し、R1およびR2は前掲と同じ。)で表される5,5−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸類)を加え、該チオール(2)と特異的に反応させ、下記一般式(4)
【化4】

(式中、R1、R2およびR3は前掲と同じ。)で表される化合物を生成せしめ、そしてそれに伴い遊離する下記一般式(5)
【化5】

(式中、R3は前掲と同じ。)で表される2−ニトロ−5−チオ安息香酸類の吸光度を測定することを特徴とする該スフィンゴミエリナーゼ活性の定量法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、スフィンゴミエリナーゼによる上記式(1)で示されるスフィンゴミエリン硫黄置換体の加水分解反応を経時的に、連続して測定することによりスフィンゴミエリナーゼ活性の定量を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明をスキームで示すと以下の通りである。
【0010】
スキーム
【化6】

(式中、R1、R2およびR3は前掲と同じ。)
【0011】
その原理は、スフィンゴミエリン硫黄置換体(1)がスフィンゴミエリナーゼにより加水分解され、遊離するチオール化合物(2)を5,5−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸類)(3)と特異的に反応させ、ジチオ体(4)と、それに伴う2−ニトロ−5−チオ安息香酸類(5)を生成させる。この2−ニトロ−5−チオ安息香酸類(5)の吸収極大を電子吸光計により吸光度の変化を観測することでスフィンゴミエリナーゼ活性の定量を可能にした。
【0012】
本発明に用いられるスフィンゴミエリン硫黄置換体は、例えば特願2002−344914に記載された以下に示す方法によって合成することができる。
【化7】

(式中、R1およびR2は前掲と同じ。)
【実施例】
【0013】
酵素スフィンゴミエリナーゼは、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)菌由来のものを用いた。
スフィンゴミエリナーゼ溶液は、市販品を2M尿素で溶解後、0.2M塩化ナトリウム水溶液に対して透析し,生じた沈殿物を遠心分離により取り除いて調製した。
【0014】
スフィンゴミエリン硫黄置換体溶液、塩化マグネシウム溶液、TES−水酸化ナトリウム緩衝液(pH7.5)、およびTritonX−100溶液は塩化ナトリウムを用いてイオン強度を0.2に調整した。
【0015】
以下、本発明につき実施例を挙げて説明する。
【0016】
比較例1
必要量の上記各種溶液、10μLの83mM5,5−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)のメタノール溶液、および0.2M塩化ナトリウム水溶液を加え、合わせて全量を0.995mlにし、5分間超音波処理を行うことで下記式(7)で示したスフィンゴミエリン硫黄置換体溶液とTritonX−100の混合比を1:10にした混合ミセル状態の基質溶液を調製した。この溶液を石英製のキュベットに移し、37℃に保温したセルホルダーに入れ、412nmにおける吸光度の経時変化を測定して、吸光度の変化が起こらないことを確認した。
【化8】

【0017】
実施例1
必要量の上記各種溶液、10μLの83mM5,5−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)のメタノール溶液,および,0.2M塩化ナトリウム水溶液を加え、合わせて全量を0.995mlにし、5分間超音波処理を行うことで上記式(7)で示したスフィンゴミエリン硫黄置換体溶液とTritonX−100の混合比を1:10にした混合ミセル状態の基質溶液を調製した。次に5μLのスフィンゴミエリナーゼ溶液を加えて酵素反応を開始し、反応生成物のチオール基と5,5−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)とが瞬時に反応することで生じる2−ニトロ−5−チオ安息香酸(TNB)の412nmにおける吸光度の経時変化を測定することで、スフィンゴミエリナーゼの加水分解反応を調べた。なお、反応溶液中の塩化マグネシウム、TES−水酸化ナトリウム緩衝液 (pH7.5)、および5,5−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)の最終濃度はそれぞれ 10mM、50mM、および0.83mMとした。図1は種々の基質濃度における吸光度の経時変化を示す。図中の1〜7のグラフには,それぞれスフィンゴミエリン硫黄置換体(7)の濃度を1.4、1.2、1.0、0.8、0.6、0.4、および0.2mMにした時の結果を示す。
【0018】
図1のように、上記式(7)で示したスフィンゴミエリン硫黄置換体の濃度に比例して、2−ニトロ−5−チオ安息香酸(TNB)の吸光度が高く観測され、定量が可能である結果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、スフィンゴミエリン硫黄置換体がスフィンゴシンと同様にスフィンゴミエリナーゼによって加水分解されることに基づいており、更に同様の用途は、スフィンゴシン1−リン酸の硫黄類縁体がスフィンゴシンと同様の基質として認識されるならば、スフィンゴシンキナーゼの定量試薬としても利用できることになる。いずれの場合も、アッセイ系の確立に有効なだけでなく、スフィンゴミエリナーゼやスフィンゴシン1−リン酸キナーゼの診断薬となることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各濃度の2−ニトロ−5−チオ安息香酸(TNB)の412nmにおける経時的吸光度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)スフィンゴミエリナーゼ含有検体に下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2は同一または異なって、不飽和結合を有することもある炭素数が1〜20のアルキル基を意味する。)で表されるスフィンゴミエリン硫黄置換体を加え、該スフィンゴミエリナーゼにより加水分解され、遊離する下記一般式(2)
【化2】

(式中、R1およびR2は前掲と同じ。)で表されるチオールに、下記一般式(3)
【化3】

(式中、R3は水素原子、低級アルキル基、低級アルケニル基またはハロゲン原子を意味し、R1およびR2は前掲と同じ。)で表される5,5−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸類)を加え、該チオール(2)と特異的に反応させ、下記一般式(4)
【化4】

(式中、R1、R2およびR3は前掲と同じ。)で表される化合物を生成せしめ、そしてそれに伴い遊離する下記一般式(5)
【化5】

(式中、R3は前掲と同じ。)で表される2−ニトロ−5−チオ安息香酸類の吸光度を測定することを特徴とする該スフィンゴミエリナーゼ活性の定量法。
【請求項2】
請求項1において、R3が水素原子である請求項1のスフィンゴミエリナーゼ活性の定量方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−14606(P2006−14606A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192809(P2004−192809)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】