説明

スフィンゴ糖脂質含有組成物およびその製造方法

【課題】 遊離脂肪酸含量を低減されたスフィンゴ糖脂質含有組成物およびその製造法を提供する。
【解決手段】 植物、動物および菌類から選ばれる少なくとも1種以上を原料とし、溶媒抽出により得られた抽出物を、水に分散せしめ、その後、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩を凝集剤として加えることにより、当該抽出物中の遊離脂肪酸のみを選択的に溶媒不溶化させ、その後に回収された凝集油相を再抽出することにより、遊離脂肪酸成分のみを選択的にろ別除去することを特徴とするスフィンゴ糖脂質含有組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊離脂肪酸含量が低減されたスフィンゴ糖脂質含有組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スフィンゴ糖脂質(主にはモノグルコシルセラミド)は、経口摂取ないし塗布により、肌の保湿性の改善効果、特に経皮水分蒸散量(TEWL値)の低下が確認されており、乾燥肌対策の美容食品、化粧品素材として、さらには、アトピー性皮膚炎の症状の緩和のための食品や塗布剤として、確固たる地位を築きつつある(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
従来、スフィンゴ糖脂質を、天然物より供給する手段として、植物原料では、米や小麦、トウモロコシといった穀類や、大豆などの豆類、こんにゃく芋や馬鈴薯といったイモ類、また動物原料では、哺乳動物の乳(主にはラクトシルセラミド)などを原料とし、これらの原料の組織の一部または全体、さらにはこれらの原料の一次品のみならず、二次加工品などから、有機溶剤や超臨界流体などによる抽出による方法が一般的であった(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
しかし、これらの原料は、一般的にスフィンゴ糖脂質の含有量が少なく、有機溶剤や超臨界流体などによる抽出を経て得られた抽出物中のスフィンゴ糖脂質含有率は、1重量%〜8重量%程度に過ぎず、中性脂質、遊離脂肪酸、ステロール系脂質などが大部分を占め、さらに、その他にも、たとえば、ヘキサナールや、ノネナールのような微量の悪臭成分や、短鎖脂肪酸やペプチド類のような雑味成分を含む場合が多く、食品や化粧品、塗布剤などへの配合にあたっては、何らかの精製を行うことが望まれていた。
【0005】
そのような目的をもって行われる、スフィンゴ糖脂質の含有率(純度)を向上させるため、あるいは当該抽出物の臭気除去のための精製方法としては、抽出物を水と接触させる方法あるいは水と接触させた後さらに加熱処理する方法(例えば、特許文献2、3参照)、抽出物を濃縮し、再度、抽出に用いた溶媒等を少量添加し、不溶物を分別除去する方法(例えば、特許文献4参照)、あるいはカラム精製を行う方法(例えば、特許文献5参照)などがある。
【非特許文献1】バイオインダストリー、第19巻、8号、p.16〜26、2002年
【特許文献1】特開2002−038183号公報
【特許文献2】特開2002−345427号公報
【特許文献3】特開2004−168738号公報
【特許文献4】特開平11−279586号公報
【特許文献5】特開2002−294274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらのうち、カラムを用いる方法では、条件を好適に設定することにより、スフィンゴ糖脂質の含有率を60重量%以上の高純度にまで精製することが可能ではあるが、製造コストや溶剤の使用量の大幅アップを招き、現実的ではない。また、カラムを用いない方法においては、特定の成分の選択的濃縮や除去を指向し難く、スフィンゴ糖脂質の高純度化や、特定の不要物の除去に対応できる方法ではない。
【0007】
上記に加え、特に遊離の脂肪酸の経時的な酸化、分解により、当該スフィンゴ糖脂質含有組成物において、長期間にわたり、脂質酸化臭と考えられる劣悪な臭気、すなわち“戻り臭”が発生するという問題もあった。
【0008】
本発明は、低コストで簡便な方法によってスフィンゴ糖脂質の含有率を高め、特に遊離脂肪酸を選択的に効率よく除去する方法を提供すること及びその結果として遊離脂肪酸含有量が極めて少なく、長期間の使用によっても“戻り臭”の問題が発生せず、かつスフィンゴ糖脂質の含有率が向上したスフィンゴ糖脂質含有組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、この考えの下、鋭意検討した結果、スフィンゴ糖脂質を含有した抽出物を、水に分散せしめ、その後、カルシウムなど2価あるいはそれ以上の価数の陽イオンとなる金属の塩を凝集剤として加えることにより、当該抽出物中の遊離脂肪酸成分を効果的に溶媒不溶化せしむことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第一は、動植物又は菌類から抽出されたスフィンゴ糖脂質含有組成物であって、遊離脂肪酸の含有量が10質量%以下であることを特徴とするスフィンゴ糖脂質含有組成物を要旨とするものであり、好ましくは、動植物又は菌類が、米、小麦、大豆、トウモロコシ、こんにゃく芋、馬鈴薯又は哺乳動物の乳であるものである。
【0011】
本発明の第二は、動植物又は菌類から抽出されたスフィンゴ糖脂質含有組成物であって、酸価が25以下であることを特徴とするスフィンゴ糖脂質含有組成物を要旨とするものであり、好ましくは、動植物又は菌類が、米、小麦、大豆、トウモロコシ、こんにゃく芋、馬鈴薯又は哺乳動物の乳であるものである。
【0012】
本発明の第三は、動植物又は菌類から有機溶剤又は亜臨界若しくは超臨界ガスを用いてスフィンゴ糖脂質を含む抽出物を得、この抽出物を水中に懸濁分散せしめた後、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩を添加して塩析し、凝集物から脂質成分を回収することを特徴とするスフィンゴ糖脂質含有組成物の製造方法を要旨とするものであり、好ましくは、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩を添加した後、pHを5.0〜8.5に調製して塩析を行う方法である。
【0013】
本発明の第四は、上記のスフィンゴ糖脂質含有組成物が配合されたことを特徴とする食品を要旨とするものである。
【0014】
本発明の第五は、上記のスフィンゴ糖脂質含有組成物が配合されたことを特徴とする皮膚化粧料を要旨とするものである。
【0015】
本発明の第六は、上記のスフィンゴ糖脂質含有組成物が配合されたことを特徴とする入浴剤を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、遊離脂肪酸含量が極めて少なくなっており、相対的にスフィンゴ糖脂質含有率が向上し、食品や、化粧品、塗布剤に対し、少量の配合で、効果が得られるようになっている。また、脂肪酸含量が極めて少ないがゆえに、戻り臭などの風味や臭気などの、食品や、化粧品、塗布剤に対する官能上の問題点も大幅に改善されている。さらに本発明の方法は、高度精製法として頻用されるカラム処理などと異なり、ほとんどコストもかからず、有機溶剤やその他の用役の使用も抑えられており、画期的な精製法となっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
まず、本発明の第三のスフィンゴ糖脂質含有組成物の製造方法について説明する。本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物の製造方法は、先ず、動物や植物、菌類の組織の全体や一部、あるいはその加工物から選ばれる少なくとも一種以上のものを原料とし、有機溶剤あるいは、超臨界や亜臨界などの状態にあるガスのうち少なくとも一種以上を含む溶剤により抽出で得られた抽出物とする。
【0018】
上記抽出の原料となるものとしては、植物では例えば、アーモンド、アオサ、アオノリ、アカザ、アカシア、アカネ、アカブドウ、アカマツ(松ヤニ、琥珀、コーパルを含む。以下マツ類については同じ)、アガリクス、アキノノゲシ、アケビ、アサガオ、アザレア、アジサイ、アシタバ、アズキ、アスパラガス、アセロラ、アセンヤク、アニス、アボガド、アマチャ、アマチャヅル、アマリリス、アルテア、アルニカ、アロエ、アンジェリカ、アンズ、アンソッコウ、イグサ、イザヨイバラ、イチイ、イチジク、イチョウ、イランイラン、ウイキョウ、ウーロン茶、ウコン、ウスベニアオイ、ウツボグサ、ウド、ウメ、ウラジロガシ、温州ミカン、エイジツ、エシャロット、エゾウコギ、エニシダ、エルダーフラワー、エンドウ、オーキッド、オオバコ、オオヒレアザミ、オオムギ、オケラ、オスマンサス、オトギリソウ、オドリコソウ、オニドコロ、オリーブ、オレガノ、オレンジ(オレンジピールも含む)、カーネーション、カカオ、カキ、カキドオシ、カッコン、カシワ、カタクリ、カボチャ、カミツレ、カムカム、カモミール、カラスウリ、カラマツ、カリン、ガルシニア、カルダモン、キイチゴ、キウイ、キキョウ、キャベツ(ケールを含む)、キャラウェイ、キュウリ、キンカン、ギンナン、グァバ、クコ、クズ、クチナシ、クミン、クランベリー、クルミ、グレープフルーツ、クローブ、クロマツ、クロマメ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、コケモモ、コショウ、コスモス、ゴボウ、コムギ(小麦胚芽も含む)、ゴマ、コマツナ、コメ(米糠も含む)、コリアンダー、コンニャク芋(コンニャクトビ粉も含む)、コンブ、サーモンベリー、サイプレス、ザクロ、サツマ芋、サト芋、サトウキビ、サトウダイコン、サフラン、ザボン、サンザシ、サンショウ、シクラメン、シソ、シメジ、ジャガ芋、シャクヤク、ジャスミン、ジュズダマ、シュンギク、ショウガ、ショウブ、シラカシ、ジンチョウゲ、シンナモン、スイカ、スイトピー、スギナ、スターアニス、スターアップル、スダチ、ステビア、スモモ、セージ(サルビア)、ゼニアオイ、セロリ、センキュウ、センブリ、ソバ、ソラマメ、ダイコン、ダイズ(おからを含む)、ダイダイ、タイム、タケノコ、タマネギ、タラゴン、タロイモ、タンジン、タンポポ、チコリ、ツキミソウ、ツクシ、ツバキ、ツボクサ、ツメクサ、ツルクサ、ツルナ、ツワブキ、ディル、テンジクアオイ(ゼラニウム)、トウガ、トウガラシ、トウキ、トウモロコシ、ドクダミ、トコン、トチュウ、トネリコ、ナガイモ、ナズナ、ナツメグ、ナンテン、ニガウリ、ニガヨモギ、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ、ノコギリソウ、ノコギリヤシ、ノビル、バーベナ、パーム、パイナップル、ハイビスカス、ハコベ、バジル、パセリ、ハダカムギ、ハッカ、ハトムギ、バナナ、バナバ、バニラ、パプリカ、ハマメリス、ビート、ピーマン、ヒガンバナ、ヒシ、ピスタチオ、ヒソップ(ヤナギハッカ)、ヒナギク、ヒナゲシ、ヒノキ、ヒバ、ヒマシ、ヒマワリ、ビワ、ファレノプシス、フェネグリーク、フキノトウ、ブラックベリー、プラム、ブルーベリー(ビルベリーを含む)、プルーン、ヘチマ、ベニバナ、ベラドンナ、ベルガモット、ホウセンカ、ホウレンソウ、ホオズキ、ボダイジュ、ボタン、ホップ、ホホバ、マオウ、マカ、マカデミアンナッツ、マタタビ、マリーゴールド、マンゴー、ミツバ、ミモザ、ミョウガ、ミルラ、ムラサキ、メース、メリッサ、メリロート、メロン、メン(綿実油粕も含む)、モヤシ、ヤグルマソウ、ヤマ芋、ヤマユリ、ヤマヨモギ、ユーカリ、ユキノシタ、ユズ、ユリ、ヨクイニン、ヨメナ(アスター)、ヨモギ、ライム、ライムギ、ライラック、ラズベリー、ラッカセイ、ラッキョウ、リンゴ、リンドウ、レタス、レモン、レンゲソウ、レンコン、ローズヒップ、ローズマリー、ローリエ、ワケギ、ワサビ(セイヨウワサビも含む)などが挙げられ、これらの中でもサツマ芋、ジャガ芋、サト芋、ヤマ芋、コンニャク芋、ナガ芋等の芋類が好ましく、コンニャク芋がさらに好ましい。コンニャク芋は安価に入手できることからコンニャクトビ粉を使用することが好ましい。
【0019】
また、本発明における菌類にはきのこ類も含むものであり、きのこ類の例としては、エノキダケ、エリンギ、カバアナタケ、キクラゲ、シイタケ、トウチュウカソウ、ナメコ、ハタケシメジ、ハナビラタケ、ヒメマツタケ(アガリクス)、ヒラタケ、フクロタケ、ブナシメジ、ブナハリタケ、ホンシメジ、マイタケ、マッシュルーム、マツタケ、マンネンタケ、メシマコブ、ヤマブシダケ、レイシ、スフィンゴモナス属菌類などが挙げられる。
【0020】
動物由来の原料としては、ウニやヒトデ、タコ、イカなどの棘皮動物、軟体動物の組織のすべてまたは一部、ウマ、ウシなど哺乳動物の脳組織および皮膚組織、さらにはヒト、ウシ、ヤギなど哺乳動物の乳およびその発酵物などの加工品などが挙げられる。これらの動植物等原料はそのまま用いても良いし、乾燥、すりつぶし、加熱などの操作によって加工されていてもよい。
【0021】
本発明で抽出溶媒として使用する有機溶剤としては、抽出中に抽出原料の成分などと反応するなどして、本発明の効果を損なうものでなければいかなるものでも使用できる。また、一種類の溶剤を単独で用いても複数の溶剤を混合して用いてもよい。
【0022】
かかる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノールなどのアルコール類、ヘキサン、ペンタン、ジエチルエーテル、クロロホルム、ジクロロメタン、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、その他亜臨界〜超臨界状態にある二酸化炭素、フルオロフォルム、エタンなどが挙げられる。これらの中で好ましい例としては、メタノール、エタノール、ヘキサン、アセトンが挙げられ、特に好ましい例としてはエタノールが挙げられる。
【0023】
まず、抽出原料に上記した溶剤を添加する。この際、抽出効率をあげるために、例えば水、界面活性剤などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で加えることができる。
【0024】
抽出に使用する溶剤の量としては、原料に対して好ましくは1〜30倍量程度、さらに好ましくは1〜10倍量程度がよい。溶剤の使用量がこの範囲以下であれば、原料全体に溶剤が行き渡らず、抽出が不十分になるおそれがあり、この範囲を超える量の溶剤を添加してももはや抽出量に影響はなく、後の濃縮工程での溶剤除去作業の負担が増えるのみである。
【0025】
抽出温度は使用する溶剤が有機溶剤の場合、その沸点にもよるし、使用する用材が亜臨界〜超臨界の状態にあるガスの場合、その臨界温度にもよるが、好ましくは、0℃から80℃、さらに好ましくは室温程度から60℃の範囲がよい。抽出温度がこの範囲以下であれば、抽出効率が低下し、この範囲以上の温度をかけても抽出効率に大きな影響はなく、いたずらにエネルギー使用量が増えるのみである。
【0026】
抽出時間は、30分〜48時間、好ましくは1〜20時間である。抽出時間がこの範囲より短いと、十分に抽出が行われず、この範囲を超えて長く時間をかけて抽出を行っても、もはや抽出量の増大は見込めない。
【0027】
なお、抽出操作は1回のみの回分操作に限定されるものではない。抽出後の残渣に再度新鮮な溶剤を添加し、抽出操作を施すこともできるし、抽出溶剤を複数回抽出原料に接触させることも可能である。すなわち、抽出操作としては、回分操作、半連続操作、向流多段接触操作のいずれの方式も使用可能である。また、ソックスレー抽出など公知の抽出方法を使用してもよい。
【0028】
このような抽出操作を行った後、抽出残渣を分離除去し抽出液を得る。残渣を分離除去するための方法は特に限定されず、例えば吸引ろ過、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、遠心分離器、ろ過遠心機などの公知の方法を用いることができる。
【0029】
亜臨界から超臨界状態にあるガスのみを溶剤として抽出を行った場合、溶媒除去工程は不要となるが、それ以外の場合、得られた抽出液は、次いで濃縮工程に送られる。濃縮方法は特に限定されず、例えばエバポレーターのような減圧濃縮装置やエバポール(大川原製作所)のような遠心式薄膜真空蒸発装置を用いたり、加熱による溶剤除去により、濃縮することができる。
【0030】
本発明の製造方法においては、上記までの工程で得られた抽出物を水に懸濁分散せしめて水溶性成分の除去を行った後、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩を添加して塩析を行い、水不溶性成分、すなわち脂質成分を凝集せしめ、凝集した脂質成分を、ろ過や遠心沈降といった固形分回収法により回収するか、または、凝集が完了した段階で、加熱を行い、凝集物を融解浮上させ、油相を形成せしめ分配により、水相と分離し回収するものである。なお、本発明の効果を損なわない範囲であれば、抽出物を水に懸濁分散せしめる前に別の精製方法を施してもよい。そのような精製方法は公知のものでよく、例えば、有機溶剤による溶媒分画や晶析、フラッシュカラムクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0031】
抽出物を懸濁分散させるための水の量としては、抽出物に対して1〜500倍量が好ましく、さらに好ましくは2〜100倍量である。なお、上記抽出物を分散させる際、分散をスムーズに行うために、エタノール、イソプロパノールなどの抽出物の良溶媒を水に対し、5体積%以上50体積%以下、さらに好適には10体積%以上40体積%以下で加えるなどの手法を任意に取ることが出来る。
【0032】
抽出物を水に分散させる際、効率よく分散させるため、何らかの方法で攪拌を行なうことが望ましい。攪拌の方法は特に制限されず、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ミキサー、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機など、公知の方法を使用することができる。
【0033】
次に、本発明においては、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩を添加して塩析を行うが、2価以上の価数を持つ陽イオンの塩は、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属の塩、アルミニウム、銅、亜鉛、鉄などの金属の塩が望ましく、この中では、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属の塩がさらに望ましい。具体的には、溶解度や安全性の面から、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、酒石酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、乳酸マグネシウムなどが好ましい塩として挙げられる。
【0034】
これらの塩は単独で、あるいは組み合わせて用いることが出来、さらにコストや溶解度、効果の現れ方により、このような2価以上の陽イオンの塩に加えて、ナトリウムやカリウムなど1価の陽イオン金属の塩を用いることもできる。
【0035】
好適な添加量は、陽イオンの価数、水への溶解度、溶解時のpH、さらには元の抽出物の組成それも特に遊離脂肪酸の含有量により個々に決定すべきであるが、一例として、スフィンゴ糖脂質の抽出原料をこんにゃく芋トビ粉とし、エタノール抽出を行った抽出物1質量部を8質量部の水で洗浄を行った場合に好適な添加量は、2価以上の陽イオン塩をカルシウム塩として、さらにそのカルシウム塩を乳酸カルシウム(5水和物)とした場合、0.01質量部以上、0.5質量部以下が望ましく、0.05質量部以上、0.2質量部以下が望ましい。
【0036】
さらに、凝集が促進されるには、塩添加後のpHは、望ましくは5.0以上8.5以下であり、さらに望ましくは5.5以上8.0以下であり、これを満たすため2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩の添加と同時に、あるいはその後にアルカリ性を示す化合物を、0.001質量部以上、0.1質量部以下、さらに望ましくは0.01質量部以上、0.1質量部以下で加えることが望ましい。このようなアルカリ性を示す化合物の好適な例としては、安全性の面から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機酸及び/又は無機酸の塩が好適な添加量の範囲を下回ると、脂肪酸の凝集が充分に進まず、上回っても、脂肪酸に対して添加量が多すぎ、それ以上の効果が見込めないばかりか、飽和溶解度に達し、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩自体が不溶性沈殿となってしまう恐れがある。アルカリ性を示す化合物の添加量が好適な範囲を下回ると、pHが好適な範囲を下回り酸性になって、脂肪酸の凝集力が弱まってしまうため効果が薄れ、上回ると、pHが好適な範囲を超えてアルカリ性になって、脂肪酸の凝集物の界面が不安定となり、沈殿回収や分配の際のロスが大きくなる恐れがある。
【0037】
本発明においては、次いで、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩で凝集された抽出物をろ過や遠心沈降といった固形分回収法により回収してもよいが、好ましくは、凝集が完了した段階で、加熱を行い、凝集物を融解浮上させ、油相を形成せしめ分配により、水相と分離し回収する。ろ過や遠心沈降は公知の方法が適用できる。加熱処理の後に分配により回収する方法は以下のようにして行えばよい。
【0038】
加熱処理は後述する油水分離操作後、回収された油相に対して行ってもよいし、油水分離操作前に水相ごと行ってもよい。なお、油水分離操作前に加熱処理を行うと、油相は浮上し水相との間に相境界を容易に形成し得るようになる。
【0039】
油水分離操作後に得た油相に対して加熱処理を行う場合は、局所的に高熱がかかることを防ぐため、ウオーターバス、オイルバスなどの流体媒体を介した加熱装置を用いて行うことが望ましいが、油水分離操作前に水相ごと加熱処理を行う場合は、直接熱源を用いて加熱を行うことが出来る。この場合、ホットプレートや、電熱線、バンドヒーターなどの抵抗線を用いた加熱装置や、ガスコンロや炭火などの直火型のものなどを用いることが出来る。
【0040】
ウオーターバス、オイルバスなどの媒体を介在させて加熱する装置の場合では、60〜150℃の範囲で加熱すればよく、望ましくは70℃〜100℃の範囲である。また、水相ごと直接熱源を用いて加熱する場合では、上部油相の温度が60〜150℃の範囲になるように加熱すればよく、望ましくは70〜100℃の範囲、さらに望ましくは上部油相が穏やかに沸騰する条件で加熱を続ければよい。温度がこの範囲を下回ると加熱による脱臭効果が十分に発揮できず、一方この範囲を上回ると有効成分の分解が顕著に起こるようになるため好ましくない。
【0041】
加熱を継続させる時間は、上記温度範囲に達してから、望ましくは10分以上、24時間以内、さらに望ましくは30分以上、3時間以内である。加熱時間がこの範囲に満たないと加熱による脱臭効果が期待できず、一方この範囲を超えると最早脱臭効果の向上は認められずいたずらにエネルギー消費量を増大させるのみである。
【0042】
油水の分液は、加熱処理の前、後いずれに行っても良いが、油相の流動性が常温では低い場合は、加熱処理後に冷めないうちに行うことが望ましい。なお、分液操作は、従来公知の何れの方法で行っても良い。そのような分液操作の例としては、分液漏斗を用いる方法、下部に廃液口をもうけたタンク等容器を用いたデカンテーション、上部油相または下部水相のいずれかをサイフォンやポンプを用いて吸い出す方法などが挙げられる。加熱処理の前に油水分離を行うときは、油滴、あるいは油成分の凝集状態にもよるが、油滴あるいは油成分の凝集物を、柄等ですくい出す、あるいは加圧濾過装置、減圧濾過装置などの濾過装置を用いる、さらには遠心分離などの方法で、油水分離をする方法が考えられる。
【0043】
このようにして洗浄された抽出物は、次にスフィンゴ糖脂質の良溶媒に溶解せしめ、不溶分をろ別除去する。このろ別除去の際に、脂肪酸成分は、2価以上の陽イオンの働きにより不溶性のスカムとなりスフィンゴ糖脂質含有脂質組成物から分離される。従って、このろ別除去の工程も本発明を構成する重要な工程である。
【0044】
上記ろ別除去を行う際、加えられるスフィンゴ糖脂質の良溶媒は、エタノール、メタノール、イソプロパノール、クロロフォルム、石油エーテルなどが考えられるが、この中では、洗浄後抽出物に残存する水との相互溶解性があることが望ましいゆえ、エタノール、メタノール、イソプロパノールが特に好ましい。これらの溶媒は、単独ないし2種類以上が混合された状態で、洗浄後抽出物1kgに対し、1L以上20L以下で加えられることが望ましく、2L以上10L以下で加えられることがさらに望ましい。洗浄後の抽出物は、スフィンゴ糖脂質の良溶媒を上記の量加えられた状態で、充分に攪拌溶解され、その後不溶スカムをろ過により除去される。攪拌溶解は、10分以上5時間以下で行われることが望ましく、30分以上3時間以下で行われることがさらに望ましい。攪拌温度は室温以上60℃以下で行われることが望ましく、室温以上50℃以下で行われることがさらに望ましい。
【0045】
上記の工程で得られたろ液は、溶媒留去工程を経て、目的となるスフィンゴ糖脂質含有組成物が得られる。溶媒留去のための装置や方法は、ロータリーエバポレーター、減圧濃縮釜など既存かつ公知のものから選べばよい。
【0046】
本発明においては、必要に応じて上記した公知の精製工程を付加しても良い。
【0047】
このようにして得られた、スフィンゴ糖脂質含有組成物は、遊離の脂肪酸含量が著しく低下しており、その結果、戻り臭などの従来から問題になっていた事象は、著しく低減されている。また、遊離の脂肪酸が、効果的に除去されているため、相対的に、脂質組成物に占めるスフィンゴ糖脂質の含有率が、向上する利点も有する。
【0048】
本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物に含まれる遊離脂肪酸は、10質量%以下であり、好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下である。また、本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物は、酸価が25以下となっていおり、好ましくは22以下であり、さらに好ましくは20以下である。
【0049】
また、本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物におけるスフィンゴ糖脂質の含有量は、1質量%〜50質量%が好ましく、さらに好ましくは3重量%〜45重量%、最も好ましくは4重量%〜40重量%である。
【0050】
本発明におけるスフィンゴ糖脂質、酸価及び脂肪酸の含量は、以下のようにして定量されたものである。
(1)スフィンゴ糖脂質
スフィンゴ糖脂質の定量には高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。Waters製 LC Module 1を用い、カラムはGLサイエンス社製Inertsil SIL 100Aを用いた。溶媒はクロロホルム:メタノール=9:1(容量比)を用い、流速1.0ml/分で25℃で測定した。検出には光散乱検出器(ALLTECH社製 500ELSD)を用いた。
(2)酸価および脂肪酸含量
(a)酸価の測定
スフィンゴ糖脂質含有脂質組成物1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数を以下の方法で測定した。すなわちスフィンゴ糖脂質含有脂質組成物1g/100mLのエタノール溶液を作製し、0.1Mのエタノール性水酸化カリウム溶液で滴定。フェノールフタレインを指示薬とし、赤色の発色の確認をもって終点判定とした。終点までに要した水酸化カリウムの量をもって酸価とした。
(b)ガスクロマトグラフ法による定量
スフィンゴ糖脂質含有脂質組成物0.1g/100mLのエタノール溶液を作製し、1μLをアプライ量とした。標品はパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α―リノレン酸とし、以下のガスクロマトグラフ条件で測定を行った。
【0051】
カラム:CP−Wax57CB 0.25mm×25M,DF=0.2
カラム温度:150℃(0.5分)〜+25℃/分〜215℃(50分)
キャリアガス:ヘリウム、100kPa、メイクアップガス:窒素
インジェクター:270℃、スプリットレス
検出:FID、270℃
本発明の食品は、上述した本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物を食品に配合して得られるものである。望ましい配合量は配合されるべき食品の形態により異なってくるが、たとえば、固形の食品に配合される場合であれば、概ね0.01質量%〜50質量%であり、好ましくは0.05質量%〜20質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%〜10質量%である。また、液状の食品に配合される場合であれば、概ね0.001質量%〜10質量%であり、好ましくは0.005質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%〜2質量%である。食品の具体例としては、清涼飲料、乳性飲料、アルコール飲料、ゼリー状飲料などの飲料、ヨーグルト、プリン、ゼリー、麺類、カプセル、ソフトカプセル、タブレット、ガム、クッキー、パン、ビスケットなどが挙げられる。
【0052】
本発明の皮膚化粧料は、上述した本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物を化粧品ないし塗布剤に配合して得られたものである。望ましい配合量は配合されるべき化粧品ないし塗布剤の形態により異なってくるが、たとえば、化粧水に配合される場合は、概ね0.001質量%〜10質量%であり、好ましくは0.005質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%〜2質量%である。乳液や口紅に配合される場合は、概ね0.005質量%〜50質量%であり、好ましくは0.01質量%〜20質量%であり、さらに好ましくは0.05質量%〜10質量%である。化粧品の具体例としては、化粧水、乳液、ファンデーション、口紅などが挙げられる。また、塗布剤として、特定の部位に塗りこんで使用する場合は、好ましくは0.01質量%〜50質量%であり、さらに好ましくは0.05質量%〜25質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%〜20質量%である。
【0053】
本発明の入浴剤は、上述した本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物を入浴剤に配合して得られるものである。望ましい配合量は、概ね0.001質量%〜10質量%であり、好ましくは0.005質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは0.01質量%〜2質量%である。
【0054】
本発明の食品、皮膚化粧料、入浴剤の製造方法としては、従来から行われている製造方法のいずれかの工程において、当該スフィンゴ糖脂質含有脂質組成物を添加すればよい。その際、本発明の効果を損なわない範囲で、乳化剤等を加えて乳化製剤としたものを食品、化粧品などのベースとなる水に添加して分散液とする前、あるいは分散液とした後に添加するという方法を用いることができる。
【0055】
さらに、本発明の食品、皮膚化粧料または入浴剤には、本発明のスフィンゴ糖脂質含有組成物やその他に配合された成分の劣化を防止する目的で、その形態に応じた、酸化防止剤、防腐剤、保存料等を1成分乃至複数成分添加することができる。そのような成分としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸エステル、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、α―トコフェロール、没食子酸プロピルなどの酸化防止剤、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸エステル、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウムなどの保存料、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸、パラオキシ安息香酸エステル、ヘキサクロロフェンなどの防腐殺菌剤などがあげられる。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。なお、本発明の実施の形態としては、以下の実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各成分含量の測定は、上記した方法に従った。
【0057】
製造例1
こんにゃくトビ粉(全国蒟蒻原料協同組合より入手)1000kgをエタノール2000Lを用いて2時間、常温抽出を行い、濃縮乾固して、10.7kgの抽出物を得た。この抽出物のスフィンゴ糖脂質含有率は、6.3%、酸価は、67.1であった。ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸含有量を表1に示す。
【0058】
実施例1
製造例1で得られた抽出物1kgをタンクに移入し、エタノール3.5Lに攪拌溶解させ、水8Lを加えて分散させ、さらに攪拌を1時間続けた後、乳酸カルシウム80g、水酸化カルシウム30g、食塩1.1kgを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、タンクを外面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、タンク下部より、水相を払いだした。タンクに残った凝集油相に、再度エタノール1.5Lを加え、水8Lを加えて分散させ、攪拌を1時間続けた後、乳酸カルシウム80g、食塩1.1kgを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、タンクを外面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、タンク下部より、水相を払いだした。タンクに残った凝集油相に、エタノールを4L投入し、40℃で30分攪拌を行った後、加圧濾過器を用い、ろ過を行い、エタノール不溶成分を除去した。ろ液を濃縮乾固し、スフィンゴ糖脂質含有脂質組成物を368g得た。この組成物のスフィンゴ糖脂質含有率は、16.7%であり、酸価は18.2であった。ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸含有量を表1に示す。
【0059】
比較例1
製造例1で得られた抽出物1kgをタンクに移入し、エタノール3.5Lに攪拌溶解させ、水8Lを加えて分散させ、さらに攪拌を1時間続けた後、食塩1.2kgを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、タンクを外面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、タンク下部より、水相を払いだした。タンクに残った凝集油相に、再度エタノール1.5Lを加え、水8Lを加えて分散させ、攪拌を1時間続けた後、食塩1.2kgを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、タンクを外面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、タンク下部より、水相を払いだした。タンクに残った凝集油相に、エタノールを4L投入し、40℃で30分攪拌を行った後、加圧濾過器を用い、ろ過を行い、エタノール不溶成分を除去した。ろ液を濃縮乾固し、スフィンゴ糖脂質含有脂質組成物を605g得た。この組成物のスフィンゴ糖脂質含有率は、9.8%であり、酸価は72.4であった。ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸含有量を表1に示す。
【0060】
製造例2
小麦胚芽(市販品)1kgをエタノール3Lを用いて2時間、常温抽出を行い、濃縮乾固して、173gの抽出物を得た。この抽出物のスフィンゴ糖脂質含有率は、3.7%、酸価は、43.9であった。ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸含有量を表1に示す。
【0061】
実施例2
製造例2で得られた抽出物50gをガラス瓶に移入し、エタノール200mLに攪拌溶解させ、水600mLを加えて分散させ、さらに攪拌を1時間続けた後、乳酸カルシウム7.5g、水酸化カルシウム2.5g、食塩80gを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、ガラス瓶を底面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、下部水相を吸い出した。ガラス瓶に残った凝集油相に、再度エタノール80mLを加え、水600mLを加えて分散させ、攪拌を1時間続けた後、乳酸カルシウム7.5g、食塩80gを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、ガラス瓶を底面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、下部水相を吸い出した。ガラス瓶に残った凝集油相に、エタノールを200mL投入し、40℃で30分攪拌を行った後、加圧濾過器を用い、ろ過を行い、エタノール不溶成分を除去した。ろ液を濃縮乾固し、スフィンゴ糖脂質含有脂質組成物を14.6g得た。この組成物のスフィンゴ糖脂質含有率は、10.0%であり、酸価は11.1であった。ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸含有量を表1に示す。
【0062】
比較例2
製造例2で得られた抽出物50gをガラス瓶に移入し、エタノール200mLに攪拌溶解させ、水600mLを加えて分散させ、さらに攪拌を1時間続けた後、食塩90gを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、ガラス瓶を底面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、下部水相を吸い出した。ガラス瓶に残った凝集油相に、再度エタノール80mLを加え、水600mLを加えて分散させ、攪拌を1時間続けた後、食塩90gを加え、塩析を行った。加えた塩類の溶解と、脂質分の凝集が充分に確認できるまで、塩類を加えてからさらに10分攪拌を続けた後、攪拌を止め、ガラス瓶を底面から加熱し、液が沸騰してから、30分、弱く沸騰が続くように加熱をコントロールし、その後加熱を止め、下部水相を吸い出した。ガラス瓶に残った凝集油相に、エタノールを200mL投入し、40℃で30分攪拌を行った後、減圧ろ過を行い、エタノール不溶成分を除去した。ろ液を濃縮乾固し、スフィンゴ糖脂質含有脂質組成物を36.7g得た。この組成物のスフィンゴ糖脂質含有率は、4.5%であり、酸価は51.2であった。ガスクロマトグラフィーによる脂肪酸含有量を表1に示す。
【0063】
【表1】

酸価の測定値より、全体の脂肪酸量は、本発明の方法により大幅に低減可能である。ガスクロマトグラフィーの測定結果からも、同様のことが言える。比較例に挙げた、従来の方法では、酸価はむしろ上昇しており、スフィンゴ糖脂質と一緒に脂肪酸も濃縮する精製方法となっている。本発明の方法では、比較例に挙げた従来法と同様、スフィンゴ糖脂質の回収率は高いレベルを保っており、比較例の方法と異なり、本発明の方法においては、脂肪酸が選択的に除去され、スフィンゴ糖脂質の濃縮が、比較例に比べ格段に効率よく行えていることが、双方の処理後のスフィンゴ糖脂質含有率の差から如実に理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物又は菌類から抽出されたスフィンゴ糖脂質含有組成物であって、遊離脂肪酸の含有量が10質量%以下であることを特徴とするスフィンゴ糖脂質含有組成物。
【請求項2】
動植物又は菌類から抽出されたスフィンゴ糖脂質含有組成物であって、酸価が25以下であることを特徴とするスフィンゴ糖脂質含有組成物。
【請求項3】
動植物又は菌類が、米、小麦、大豆、トウモロコシ、こんにゃく芋、馬鈴薯又は哺乳動物の乳である請求項1又は2記載のスフィンゴ糖脂質含有組成物。
【請求項4】
動植物又は菌類から有機溶剤又は亜臨界若しくは超臨界ガスを用いてスフィンゴ糖脂質を含む抽出物を得、この抽出物を水中に懸濁分散せしめた後、2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩を添加して塩析し、凝集物から脂質成分を回収することを特徴とするスフィンゴ糖脂質含有組成物の製造方法。
【請求項5】
2価以上の陽イオンの塩を少なくとも1種類以上含む有機及び/又は無機酸の塩を添加した後、pHを5.0〜8.5に調整して塩析することを特徴とする請求項4記載のスフィンゴ糖脂質含有組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のスフィンゴ糖脂質含有組成物が配合されたことを特徴とする食品。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかに記載のスフィンゴ糖脂質含有組成物が配合されたことを特徴とする皮膚化粧料。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のスフィンゴ糖脂質含有組成物が配合されたことを特徴とする入浴剤。

【公開番号】特開2006−104351(P2006−104351A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−293940(P2004−293940)
【出願日】平成16年10月6日(2004.10.6)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】