説明

スプリンクラヘッドカバー取付用補助具

【課題】スプリンクラヘッドカバーの取り付け作業時の効率性がよく、かつ汎用性にも優れるスプリンクラヘッドカバー取付用補助具を提供する。
【解決手段】既設のスプリンクラヘッド3の感熱部5を覆うスプリンクラヘッドカバー7であって、スプリンクラヘッド3に対して所定の押圧力以上の押圧力で押し込むようにして取り付けられ、かつ火災時の熱を受けて落下するカバープレート9を備えてなるスプリンクラヘッドカバー7の取り付けの際に用いられるスプリンクラヘッドカバー取付補助具1であって、カバープレート9に当接する当接部51と、当接部51に下方から押圧力を作用させる本体部53とを有し、前記押圧力を作用させたときに当接部51は広がるように変形し、カバープレート9に作用する前記押圧力がカバープレート9が変形しない圧力になるような変形性能と形状保持性能を有することを特徴とするスプリンクラヘッドカバー取付補助具1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は火災を消火するスプリンクラヘッドのスプリンクラヘッドカバーを取り付ける際に使用するスプリンクラヘッドカバー取付用補助具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スプリンクラヘッドは、建物内の天井面や壁面に埋め込まれるようにして設置され、火災時に放水して火災の初期消火を行うものである。
このようなスプリンクラヘッドは、室内から見た際の意匠性を向上することを主目的として、スプリンクラヘッドカバーで覆い隠すコンシールド型スプリンクラヘッドがある。
コンシールド型スプリンクラヘッドにおいては、天井面等にスプリンクラを設置した後でスプリンクラヘッドカバーを取り付ける構造になっている。このようなコンシールド型スプリンクラヘッドに関しては、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1はコンシールド型スプリンクラヘッドにおけるスプリンクラヘッドカバーは、スプリンクラヘッドの基端側(給水管が接続される側)の外周に形成された牡ネジにスプリンクラヘッドカバー側に設けられた筒状部を挿入して取り付けるというものである。筒状部は、拡径・縮径方向に弾性変形可能になっており、前記牡ネジに所定以上の押圧力で押し込み、その後ねじ込むことで取付できるようになっている。
【0004】
また、スプリンクラヘッドカバーは、ハウジングと皿状のカバープレートを備えてなり、カバープレートは半田等の低融点合金によりハウジング側に接合されている。火災時には火災の熱によって低融点合金が溶融してカバープレートが落下する。
【0005】
上記のように、コンシールド型スプリンクラヘッドにおけるスプリンクラヘッドカバーは、既に天井面に設置されているスプリンクラヘッドに取り付けるものであるため、作業性に優れることが求められる。
スプリンクラヘッドカバーの構成部材であるカバープレートは、火災時の熱を受け、その熱を低融点合金に伝達する必要があるため、熱伝導率が高く、かつ熱容量が小さいものである必要から、薄い銅板によって形成される。そのため、スプリンクラヘッドカバー取付時にカバープレートに応力が作用すると変形する可能性が高いので、スプリンクラヘッドカバー取付時には慎重に行う必要がある。そのため、スプリンクラヘッドカバー取付は一般に手のひらを使って慎重に行われてきたが、経験を要し作業効率も悪かった。
【0006】
このようなことから、スプリンクラヘッドカバー取付時の作業の安全性と効率化を図る目的で、例えば特許文献2に開示されたような「スプリンクラヘッド付属品着脱工具」が提案されている。
特許文献2に開示されたスプリンクラヘッド付属品着脱工具は、天井または壁面におけるスプリンクラヘッドの設置位置に設けた穴を塞ぐスプリンクラヘッド付属品(スプリンクラヘッドカバーに相当)をスプリンクラヘッドに対して取付けまたは取外す着脱工具であって、スプリンクラヘッド付属品を支持可能な支持面を有する本体と、本体の上面と離間して対向配置されており、スプリンクラヘッド付属品を差し込ませることで該スプリンクラヘッド付属品と係止し本体上に保持する保持体と、保持体にて保持されるスプリンクラヘッド付属品に対して前記差し込み方向で係止して本体の所定位置にスプリンクラヘッド付属品を位置決めする係止部と、を備えるというものである。(特許文献2の請求項1参照)
【0007】
また、特許文献3には、コンシールド型スプリンクラヘッドにおいて、スプリンクラヘッドカバーが火災の熱によって落下したときに、電気信号を送信して、該電気信号によってスプリンクラヘッドへの送水管の開放弁を開放して送水管に消火水を充水するようにしたスプリンクラ消火設備が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/97265号公報
【特許文献2】特開2011−120699号公報
【特許文献3】特開2003−275337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に開示されたスプリンクラヘッド付属品着脱工具は、スプリンクラヘッドカバーを支持する本体と、スプリンクラヘッドカバーを差し込んだ状態で保持する保持体と、スプリンクラヘッドカバーの本体に対する位置決めをする係止部とを備えるという複雑な構造のものである。
特に保持体はスプリンクラヘッドカバーを差し込んで保持するので特定のスプリンクラヘッドカバーにしか用いることができず汎用性に欠けるという問題がある。
また、作業性の面においても、保持体にスプリンクラヘッドカバーを保持させなければならず、煩雑であり、作業性に劣るという問題もある。
【0010】
また、特許文献3に開示されているように、スプリンクラヘッドカバーが火災の熱よって落下したときに、スプリンクラヘッドへの送水管の開放弁を開放して送水管に消火水を充水するタイプのものでは、スプリンクラヘッドカバーの取り付け時に例えばスプリンクラヘッドカバーの変形等によってスプリンクラヘッドカバーが外れたとの誤報によって開放弁が開くようなことを防止する必要がある。しかし、特許文献2に開示のものでは、このような要請に応えるような構造にはなっていない。
【0011】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、コンシールド型スプリンクラヘッドのスプリンクラヘッドカバーの取り付け作業を安全に行うとともに効率よく行うのに役立ち、かつ汎用性にも優れるスプリンクラヘッドカバー取付用補助具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明に係るスプリンクラヘッドカバー取付補助具は、既設のスプリンクラヘッドの感熱部を覆うスプリンクラヘッドカバーであって、前記スプリンクラヘッドに対して所定の押圧力以上の押圧力で押し込むようにして取り付けられ、かつ火災時の熱を受けて落下するカバープレートを備えてなるスプリンクラヘッドカバーの取り付けの際に用いられるスプリンクラヘッドカバー取付補助具であって、
前記カバープレートに当接する当接部と、該当接部に下方から押圧力を作用させる本体部とを有し、
前記押圧力を作用させたときに前記当接部は前記カバープレートに密着して広がるように変形し、前記カバープレートに作用する前記押圧力が前記カバープレートが変形しない圧力になるような変形性能と形状保持性能を有することを特徴とするものである。
【0013】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、スプリンクラヘッドカバー取付補助具を形成する部材の材質が、表面強度30以上50以下の弾性体であることを特徴とするものである。
【0014】
(3)また、上記(2)に記載のものにおいて、スプリンクラヘッドカバー取付補助具を形成する材質が発泡ポリプロピレン、または、シリコーンゴムであることを特徴とするものである。
【0015】
(4)また、上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のものにおいて、前記当接部は、円筒状に形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
(5)また、上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載のものにおいて、前記スプリンクラヘッドカバーが、カバープレートを覆う筒状の枠体からなる保護カバー備えたものであり、
前記当接部が前記保護カバーの内径よりも小径に設定され、かつ前記当接部を前記カバープレートに当接させ、前記所定の押圧力で押し込んだときに、前記本体部が前記保護カバーの下端面よりも下方に延出する長さに設定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るスプリンクラヘッドカバー取付補助具は、カバープレートに当接する当接部と、該当接部に下方から押圧力を作用させる本体部とを有し、前記押圧力を作用させたときに前記当接部は前記カバープレートに密着して広がるように変形し、前記カバープレートに作用する前記押圧力が前記カバープレートが変形しない圧力になるような変形性能と形状保持性能を有するので、コンシールド型スプリンクラヘッドのスプリンクラヘッドカバーの取り付け作業を安全に行うとともに効率よく行うのに役立ち、かつ汎用性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係るスプリンクラヘッドカバー取付用補助具を図示したものである。
【図2】図1のスプリンクラヘッドカバー取付用補助具を用いてスプリンクラヘッドカバーの取付を説明した図である。
【図3】図1のスプリンクラヘッドカバー取付用補助具の使用時における変形の様子を説明した図である。
【図4】図3の一部を断面図として図示したものである。
【図5】図1のスプリンクラヘッドカバー取付用補助具を用いて保護カバー付スプリンクラヘッドカバーの取付を説明した図である。
【図6】本発明の効果確認の実験の説明図である(比較例)。
【図7】本発明の効果確認の実験の説明図である(比較例)。
【図8】図6、図7に示した実験結果を示すグラフである。
【図9】本発明の効果確認の実験の説明図である(発明例)。
【図10】本発明の効果確認の実験の説明図である(発明例)。
【図11】図9、図10に示した実験結果を示すグラフである。
【図12】スプリンクラヘッドとスプリンクラヘッドカバーを説明した図である。
【図13】スプリンクラヘッドカバーを説明した図である。
【図14】スプリンクラヘッドカバーの強度を調べる実験を説明した図である。
【図15】図14の実験の結果を説明した図である。
【図16】スプリンクラヘッドカバーの強度を調べる実験を説明した図である。
【図17】図15の実験の結果を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本実施の形態に係るスプリンクラヘッドカバー取付補助具1は、既設のスプリンクラヘッド3の感熱分解部19を覆うスプリンクラヘッドカバー7であって、スプリンクラヘッド3に対して所定の押圧力以上の押圧力で押し込むようにして取り付けられ、かつ火災時の熱を受けて落下するカバープレート9を備えてなるスプリンクラヘッドカバー7の取り付けの際に用いられるスプリンクラヘッドカバー取付補助具1である(図1、図2参照)。
スプリンクラヘッドカバー取付補助具1は、スプリンクラヘッド3およびスプリンクラヘッドカバー7の構造と関連するので、まずスプリンクラヘッド3とスプリンクラヘッドカバー7について図12、図13に基づいて説明する。
図12はスプリンクラヘッド3にスプリンクラヘッドカバー7を取り付けた状態を図示するものであり、スプリンクラヘッドカバー7のみ断面で示している。図13はスプリンクラヘッドカバー7の断面図である。
【0020】
<スプリンクラヘッド>
スプリンクラヘッド3は、放水口11が設けられると共に送水管(図示なし)が接続される接続部13と、スプリンクラヘッドカバー7を係止する係止部15と、火災の熱を感熱板17で受けて分解する感熱分解部19を備えている。
【0021】
<スプリンクラヘッドカバー>
スプリンクラヘッドカバー7は、図13に示すように、全体が略円筒状に形成されたカバー本体部21と、カバー本体部21に係止されてスプリンクラヘッド3の感熱分解部19を覆うカバー体23とを有している。
【0022】
また、スプリンクラヘッドカバー7は、特許文献3に示すもののように電気信号を送信するための電気信号線37を有している。そのため、取り付け時においては、例えばスプリンクラヘッドカバー7の変形等によってスプリンクラヘッドカバー7が外れたとの誤報によって開放弁が開くようなことを防止する必要がある。
【0023】
カバー本体部21は、スプリンクラヘッド3の係止部15に係合してスプリンクラヘッドカバー7をスプリンクラヘッド3に保持する係合部25と、カバー体23を係止するカバー体保持部27とを有している。
カバー本体部21は樹脂によって形成されている。係合部25は、複数の板状体29が周方向に立設して形成され、弾性力を有し、径方向の内外に撓むことができるようになっている。スプリンクラヘッド3の係止部15が係合部25に入るようにしてスプリンクラヘッドカバー7を押し込むことで係合部25が弾性力によって広がって、係止部15に係合してスプリンクラヘッドカバー7をスプリンクラヘッド3に取り付けることができる。
【0024】
カバー体23は、下に凸の略ドーム状に形成され、カバー本体部21に係止される内カバー体31と、内カバー体31の外側を覆うように内カバー体31に取り付けられた中央に平面部を有する略ドーム状のカバープレート9を有している。
カバープレート9は、中心部において半田等の低融点合金35によって内カバー体31に接合されており、該接合が外れることで落下するようになっている。カバープレート9が落下することで、内カバー体31のカバー体保持部27への係止が解かれ、内カバー体31も落下するようになっている。カバープレート9は、前述したように、火災時の熱を受け、その熱を低融点合金35に伝達する必要があるため、熱伝導率が高く、かつ熱容量が小さいものである必要から、薄い銅板によって形成される。そのため、スプリンクラヘッドカバー7をスプリンクラヘッド3に取り付ける際に押し込み力を付加することでカバープレート9が変形しやすい。
【0025】
本実施の形態のカバープレート9がどの程度変形しやすいかについて、カバープレート9の強度を確認する実験を行ったので、以下この実験について説明する。実験は、カバープレート9の中央から少し外れた位置を指先程度の押圧面積の部材で押圧する実験1と、カバープレート9の平面部全体に当接するような平面部材で押圧する実験2を行った。
【0026】
まず、実験1について説明する。実験1は、スプリンクラヘッドカバー7を指先などで押圧して取り付ける場合を想定したものである。実験方法は、図14に示すように、スプリンクラヘッドカバー7を天地逆に固定した状態から(図14(a)参照)、先端にM5のボルト26を取り付けた試験機24を用いて、カバープレート9の中央から少し外れた位置を上からボルト26の先端で押圧力が200Nになるまで押圧し(図14(b)参照)、その後ボルト26を上に上げる(図14(c)参照)というものである。この際の、カバープレート9の変形の様子を観察した。
【0027】
実験1の結果、カバープレート9に図14(c)に示すような凹み28ができた。また、実験1における押圧力と試験機24のストロークの関係を図15に示す。図15において縦軸は押圧力であり、横軸は試験機24のストロークである。このストロークは、カバープレート9の凹み28の大きさ(深さ)に対応している。図15を見ると、押圧開始から押圧力が約30Nになるまでの間、ストロークが急激に増加しており、大きく凹んでいることが分かる。
【0028】
このように、カバープレート9は指程度の押圧面積を有するもので押圧すると、30N程度の小さな力でも簡単に凹んでしまうことが分かった。このことは、スプリンクラヘッドカバー7の手による取り付けが難しいことを意味している。
【0029】
なお、押圧力が約30Nを超えると、押圧力に対するストロークの増加が比較的抑えられており、カバープレート9が凹みにくくなっているが、これは押圧力が約30N(ストロークが約0.8mm)で凹み28が、内カバー体31の表面に達したためであると考えられる。
【0030】
次に、実験2について説明する。実験2は、カバープレート9の平面部の全体を押圧して取り付けをする場合を想定したものである。実験方法は、図16に示すように、スプリンクラヘッドカバー7を天地逆に固定した状態から、試験機24をカバープレート9の平面部の全体に当接させ(図16(a)参照)、50Nになるまで押圧し(図16(b)参照)、その後、試験機24を上に上げる(図16(c)参照)というものである。この際のカバープレート9の変形の様子を観察した。
【0031】
実験2の結果、カバープレート9は、図16(c)に示すようにカバープレート9の平面部が広がるように変形した。
実験2における押圧力と試験機24のストロークの関係を図17に示す。図17において縦軸は押圧力を示し、横軸はストロークを示している。図17に示されるように、グラフはなだらかに上昇しており、凹みが急激に増加することない。実験1と実験2を比較すると、押圧力50Nの時点において、実験1では約0.9mmのストロークであったが、実験2では約0.4mmのストロークと変形量が小さい。これは、カバー体23の略ドーム状の形状全体で押圧力に抵抗しているためであると考えられる。このように、平面を有する硬質の取付補助具を用いて、カバープレート9の平面部全体を押圧すれば、ある程度変形量を小さく抑えることができる。
【0032】
しかし、変形量が小さいとはいえ、少なくとも50N程度の小さな押圧力で、カバープレート9は変形してしまっている。
前述のとおり、カバープレート9の中央部は、低融点合金35によって内カバー体31に接合されている重要な部位である。例えば、前記変形によってこの接合が外れてしまうと、カバープレート9が落下してしまう可能性がある。また、前記接合が外れなかったにしても、外れやすくなっている場合がある。この場合、後に地震時の振動などでカバープレート9が落下してしまう可能性がある。
このように、平面を有する取付補助具を用いたとしても、力加減を誤ればカバープレート9を簡単に変形させてしまい、取り付け不良となる可能性がある。
【0033】
以上のとおり、スプリンクラヘッドカバー7は、スプリンクラヘッド3に押し込んで取り付けられ、その取付方法自体は簡単であるが、少しでも押圧力をかけすぎるとカバープレート9が簡単に変形してしまい、取り付け時の力加減が非常に難しいというものである。
【0034】
<スプリンクラヘッドカバー取付補助具>
次に、本実施の形態に係るスプリンクラヘッドカバー取付補助具1について説明する。
本実施の形態のスプリンクラヘッドカバー取付補助具1は、図1に示すように、全体形状が、円筒状をしてなり、スプリンクラヘッドカバー7のカバープレート9に当接する当接部51と、当接部51に下方から押圧力を作用させる本体部53とを有している。
スプリンクラヘッドカバー取付補助具1は、円筒状をしているので、図1の上端面が当接部51となり、その下方の部位が本体部53となる。
【0035】
スプリンクラヘッドカバー取付補助具1に要求される機能は、スプリンクラヘッド3にスプリンクラヘッドカバー7を取り付ける際の圧力をカバープレート9に作用させたときに当接部51が広がり、カバープレート9に作用する押圧力がカバープレート9が変形しない押圧力になるような変形性能を有し、かつ押圧力をカバープレート9に伝達するだけの形状保持性能を有することである。
以下、変形性能と、形状保持性能について説明する。
《変形性能》
変形性能は、当接部51をカバープレート9に当接させて押圧した際に、カバープレート9に作用する押圧力がカバープレート9が変形しない押圧力になるように当接部51がカバープレート9表面の曲面と密着するように変形するとともに、カバープレート9との当接面積が広がるという性質である。
仮に、図1のような円筒状の部材が金属製や木製のような硬質の部材であった場合、カバープレート9との接触面は、円筒における内側の線部での線接触となり、カバープレート9に対する圧力が強くなり、カバープレート9を変形させてしまう。
他方、当接部51がカバープレート9の形状に沿うような略ドーム状の凹部を有するものであれば、受圧面積が広くなるが、カバープレート9の形状に合うような凹部である必要があり、汎用性に欠ける。また、仮にカバープレート9の形状に合うような形状にしたとしても、カバープレート9の形状と当接部51を密着するように位置合わせをして作業する必要があり、作業性に欠けることになる。
【0036】
この点、本実施の形態のスプリンクラヘッドカバー取付補助具1であれば、上記のような変形性能を有しているので、汎用性と作業性に優れるものである。
【0037】
変形性能は、所定の押圧力が作用した際に受圧面積が増すように変形して、カバープレート9に作用する圧力(単位面積あたりの押圧力)がカバープレート9が変形しない圧力となることである。
カバープレート9が変形する圧力をQ(Pa)、押圧力をP(N)、変形後の受圧面積をSとすると、Q>P/Sとなる必要がある。
したがって、変形性能としては、押圧力Pを受けたときに、カバープレート9と接触する受圧面積Sが、S>P/Qとなるような変形を行うことができると定義できる。
押圧力Pは、スプリンクラヘッド3とスプリンクラヘッドカバー7との関係で規定されるが、本実施の形態では約28.5N(この値は実験により求めた。詳細は後述する)である。一般に、新品のスプリンクラヘッドカバーでは30N±20%程度である。
本実施の形態では、カバープレート9の平面部の面積は約103.9mmであり、上記の実験で50Nではすでに変形してしまっていることから、仮に50Nで変形したとすると、カバープレート9が変形する圧力Qは約0.48MPaである。
なお、後述するように、スプリンクラヘッドカバー7の取り付けに必要な押圧力は、本発明のスプリンクラヘッドカバー取付用補助具1を用いることで約10N小さくなり、この場合の必要な押圧力は20N±20%程度となる。
【0038】
《形状保持性能》
形状保持性能は、押圧力を作用させたときに、押圧力をカバープレート9に伝達するだけ強度を有していることである。
図1に示すような形状の部材が、仮にスポンジのような材質であった場合、押圧力を作用させたときに、カバープレート9の形状に沿うように変形するが、形状が保持されず、結局は押圧力を広くなった受圧面でカバープレート9に伝達できない。
そこで、本実施の形態のスプリンクラヘッドカバー取付補助具1には、形状保持性能が要求されるのである。
【0039】
上記のような、変形性能と形状保持性能を有する材質としては、例えばシリコーンゴムが挙げられる。シリコーンゴムは、JIS K 6253(国際規格ISO7619相当)で規定される「硬さを表す指標としての表面強度」(以下、表面強度)を5〜80の間で任意に調整できる弾性体であり、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1が要する性能を満足するように表面強度を30〜50程度のものとする。
また、他の材質として、発泡ポリプロピレンが挙げられる。
なお、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1においては、当接部51が上記のような変形性能と形状保持性能を有する材質で形成され、かつ本体部53を所定の押圧力で押圧した際にカバープレート9と密着するのに要する厚みを有しておればよく、その他の本体部53の材質としては、硬質の樹脂、金属、等を用いるようにしても良い。
【0040】
次に上記のように構成されたスプリンクラヘッドカバー取付補助具1を用いてスプリンクラヘッド3にスプリンクラヘッドカバー7を取り付ける取付方法を図2〜図4に基づいて説明する。
【0041】
天井面2に設置したスプリンクラヘッド3に対して、スプリンクラヘッドカバー7の係合部25を対向配置するように保持する。図2では保持する手は示されていない。
他方の手で、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1を図2に示すように、例えば手のひらに載せるように保持する。このとき、当接部51がカバープレート9に対向配置するようにする。この状態で、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1をカバープレート9に近づけ、当接部51をカバープレート9に当接させ、さらに上方に向けて押し上げるようにする。このとき、図3、図4に示すように、当接部51が変形して、カバープレート9に対する受圧面が広がり、カバープレート9の変形を防止しつつ押圧力をカバープレート9に伝達できる。押圧力をカバープレート9に伝達することで、保持部がスプリンクラヘッド3の係止部15に係合してスプリンクラヘッドカバー7を取り付けることができる。
【0042】
以上のように、本実施の形態のスプリンクラヘッドカバー取付補助具1は、変形性能と形状保持性能を備えているので、様々な形状のカバープレートに対応することができるため汎用性に優れている。また、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1は、前記各性能を備えているので、多少カバープレートの中心からずれて当接させたとしても、当接部51が変形してカバープレートの形状に密着するため、位置合わせする必要がなく作業性に優れる。
【0043】
なお、図5に示すように、スプリンクラヘッドカバー7が、カバープレート9を覆う筒状の枠体からなる保護カバー39を備える場合がある。
このような場合、スプリンクラヘッドカバー7をスプリンクラヘッド3に取付ようとすると、保護カバー39の内側からカバープレート9を押圧する必要があるが、本実施の形態のスプリンクラヘッドカバー取付補助具1を用いれば容易にカバープレート9を変形させることなく押圧力を付与して取り付けることができる。
【0044】
スプリンクラヘッドカバー7が、図5に示すような保護カバー39を備えている場合においてスプリンクラヘッドカバー取付補助具1に要求される要件は、以下の通りである。当接部51が保護カバー39の内径よりも小径に設定され、かつ当接部51を前記カバープレート9に当接させたときに、本体部53が保護カバー39の下端面よりも下方に延出する長さに設定されていることである。
【0045】
なお、上記の実施の形態においては、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1の形状として円筒状のものを例示した。これは、カバープレート9を接合する低融点合金35がカバープレート9の中心部分にあることから、当該部位に押圧力を全く作用させないようにするためである。このようにすることで、作動不良を効果的に防止することが可能である。この意味で、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1をカバープレート9における接合部位と接触しないような形状にするのが好ましい。
もっとも、形状は円筒状に限らない。
【実施例】
【0046】
本発明に係るスプリンクラヘッドカバー取付補助具1の効果を確認するための実験を行ったので、これについて図6〜図11に基づいて説明する。
実験は、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1を用いずにカバープレート9の平面部の全体を押圧し取付を行う実験3と、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1を用いて取付を行う実験4を行った。
【0047】
まず、実験3について説明する。実験方法は、スプリンクラヘッド3にスプリンクラヘッドカバー7を仮置きし(図6参照)、上方から試験機24によって押圧して取り付け(図7参照)、この取り付けに必要な押圧力を測定した。なお、係止部15が有する5段の凸部すべてに係合部25が係合した状態を取付完了とする。
【0048】
実験3の結果、カバープレート9に変形は見られなかった。この取り付けに必要な押圧力について図8に基づいて説明する。図8は、押圧力と試験機24のストロークの関係を表した図である。図8において、縦軸が押圧力であり、横軸が試験機24のストロークである。
図8の縦軸を見ると徐々に大きさを増す5つの押圧力のピークがある。これらの押圧力のピークは、係止部15が有する5段の凸部を係合部25が乗り越えて係合していったことを示している。最初の押圧力のピークは1つ目の凸部を乗り越える際に必要な押圧力であり、2つ目の押圧力のピークは1つ目と2つ目の凸部を同時に乗り越える際に必要な押圧力を意味している。同様に3つ目の押圧力のピーク以降、必要な押圧力が徐々に増えていっている。最終的に5つの凸部を乗り越えて取付完了の状態となるには、5つ目の押圧力のピークで示されるように、約28.5Nの押圧力が必要であることが分かる。この値が前述したカバープレート9が変形しない押圧力Pとなる。
【0049】
次に、実験4について説明する。実験方法は、図9、図10に示すようにスプリンクラヘッドカバー取付補助具1を用いること以外は、実験方法は実験3と同じである。
実験4の結果、カバープレート9に変形は見られなかった。この取り付けに必要な押圧力について図11に基づいて説明する。図11は、押圧力と試験機24のストロークの関係を表した図である。図11の縦軸と横軸は図8と同様である。
図11を見ると、5つ目の押圧力のピークから読み取れるように、取付完了に必要な押圧力は約17.2Nであり、実験3の場合と比較して約11N小さい値であった。
【0050】
上記のように実験3と実験4において必要な押圧力が異なる理由について説明する。これには、スプリンクラヘッド3とスプリンクラヘッドカバー7の係合部(係止部15と係合部25が係合する部位)と押圧力の作用点が関係していると考えられる。
係合部は図12に示すように、カバープレート9の平面部の周辺に位置している。実験3の場合、押圧力はカバープレート9の平面部に作用するため、押圧力の力の方向の軸と係合方向とが一直線状になくずれているため、押圧力が係合部に効果的に作用することができない。
一方、実験4の場合、押圧時にスプリンクラヘッドカバー取付補助具1の当接部51が変形してカバープレート9に作用する押圧力の作用線が係合方向に一致するため、押圧力を効果的に係合部に作用させることができ、比較的小さい押圧力で取り付けが可能であると推察される。
以上のように、スプリンクラヘッドカバー取付補助具1を用いれば小さい押圧力で取り付けを行うことができるという効果を奏することも判明した。
【符号の説明】
【0051】
1 スプリンクラヘッドカバー取付補助具
2 天井面
3 スプリンクラヘッド
7 スプリンクラヘッドカバー
9 カバープレート
11 放水口
13 接続部
15 係止部
17 感熱板
19 感熱分解部
21 カバー本体部
23 カバー体
24 試験機
25 係合部
26 ボルト
27 カバー体保持部
28 凹み
29 板状体
31 内カバー体
35 低融点合金
37 電気信号線
39 保護カバー
51 当接部
53 本体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のスプリンクラヘッドの感熱部を覆うスプリンクラヘッドカバーであって、前記スプリンクラヘッドに対して所定の押圧力以上の押圧力で押し込むようにして取り付けられ、かつ火災時の熱を受けて落下するカバープレートを備えてなるスプリンクラヘッドカバーの取り付けの際に用いられるスプリンクラヘッドカバー取付補助具であって、
前記カバープレートに当接する当接部と、該当接部に下方から押圧力を作用させる本体部とを有し、
前記押圧力を作用させたときに前記当接部は前記カバープレートに密着して広がるように変形し、前記カバープレートに作用する前記押圧力が前記カバープレートが変形しない圧力になるような変形性能と形状保持性能を有することを特徴とするスプリンクラヘッドカバー取付補助具。
【請求項2】
スプリンクラヘッドカバー取付補助具を形成する部材の材質が、表面強度30以上50以下の弾性体であることを特徴とする請求項1記載のスプリンクラヘッドカバー取付補助具。
【請求項3】
スプリンクラヘッドカバー取付補助具を形成する材質が発泡ポリプロピレン、または、シリコーンゴムであることを特徴とする請求項2記載のスプリンクラヘッドカバー取付補助具。
【請求項4】
前記当接部は、円筒状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のスプリンクラヘッドカバー取付補助具。
【請求項5】
前記スプリンクラヘッドカバーが、カバープレートを覆う筒状の枠体からなる保護カバー備えたものであり、
前記当接部が前記保護カバーの内径よりも小径に設定され、かつ前記当接部を前記カバープレートに当接させ、前記所定の押圧力で押し込んだときに、前記本体部が前記保護カバーの下端面よりも下方に延出する長さに設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のスプリンクラヘッドカバー取付補助具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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