説明

スプリンクラ消火設備および開放弁

【課題】この発明は、不時の消火用水の放水を確実に防止できるスプリンクラ消火設備およびそれに適用される開放弁を得る。
【解決手段】隣接するスプリンクラヘッドが異なる群のスプリンクラヘッドとなるように、交互に配列された第1および第2スプリンクラヘッド6,7の群と、第1スプリンクラヘッド6が連結された第1配管2と、第2スプリンクラヘッド7が連結された第2配管3と、第1および第2配管2,3に所定圧の空気を充満させるポンプ22と、を備える。開放弁10は、一次配管8と第1および第2配管2,3との間に配設され、第1および第2スプリンクラヘッド6,7の開放により第1および第2配管2,3内の空気圧が共に低下した場合にのみ開弁し、一次配管8と第1および第2配管2,3との間を連通し、消火用水9を開放された第1および第2スプリンクラヘッド6,7から放水させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、不時の消火用水の放水を防止できるスプリンクラ消火設備およびそれに適用される開放弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の予作動式スプリンクラ消火設備は、予作動弁まで加圧水を充填しておき、火災感知器からの火災信号を受けて予作動弁を開放してスプリンクラヘッドに至る配管を満水状態とし、やがてスプリンクラヘッドが感熱開放されると、まず加圧空気などが放出され、続いて水が放出されて消火活動を開始する(例えば、特許文献1参照)。そこで、従来の予作動式スプリンクラ消火設備では、スプリンクラヘッドが開放されても、火災感知器が火災を感知していなければ、配管内の空気のみが放出されるので、スプリンクラヘッドの誤動作による消火用水の放水が防止される。
【0003】
【特許文献1】特開平6−178826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の予作動式スプリンクラ消火設備では、火災感知器が火災を感知した後、スプリンクラヘッドが感熱開放されなければ、火災感知器を復旧し、スプリンクラヘッドに至る配管に充満されている水を排水して、設備を初期状態に復帰させている。しかし、スプリンクラヘッドに至る配管に充満されている水は完全に排水しきれず、立ち上がり配管部などに溜まる場合がある。その後、火災以外でのスプリンクラヘッドの開放、例えば外力などで分解されると、排水しきれていなかった水が放水されてしまうという危険性があった。
【0005】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、不時の消火用水の放水を確実に防止できるスプリンクラ消火設備およびそれに適用される開放弁を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるスプリンクラ消火設備は、隣接するスプリンクラヘッドが異なる群のスプリンクラヘッドとなるように、交互に配列され、かつ感知範囲が防護区画の全域を網羅するように配設された第1スプリンクラヘッドの群および第2スプリンクラヘッドの群と、それぞれの上記第1スプリンクラヘッドが連結された第1配管と、それぞれの上記第2スプリンクラヘッドが連結された第2配管と、上記第1および第2配管に所定圧の空気を個別に充満させる空気供給手段と、消火用水を供給する一次配管と、上記一次配管と上記第1および第2配管との間に配設され、上記第1および第2スプリンクラヘッドの開放により上記第1および第2配管内の空気圧が共に低下した場合にのみ開弁し、上記一次配管と上記第1および第2配管との間を連通し、上記消火用水を開放された上記第1および第2スプリンクラヘッドから放水させる開放弁と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、第1および第2スプリンクラヘッドの一方を誤って開放しても、一次配管と第1および第2配管との間が連通されないので、消火用水が放水されるようなことはない。従って、不時の消火用水の放水を確実に防止できるスプリンクラ消火設備が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1はこの発明に係るスプリンクラ消火設備における配管系統図、図2はこの発明に係るスプリンクラ消火設備を模式的に示すシステム図である。
【0009】
図1および図2において、本スプリンクラ消火設備1は、第1配管2と、第2配管3との2系統の配管を有する。そして、第1分岐配管4が第1配管2から多数分岐され、第1スプリンクラヘッド6が各第1分岐配管4の先端に取り付けられている。また、第2分岐配管5が第2配管3から多数分岐され、第2スプリンクラヘッド7が各第2分岐配管5の先端に取り付けられている。ここで、第1配管2からの分岐にはヘッダー2hが用いられ、第2配管3からの分岐にもヘッダー3hが用いられ、それぞれフレキ管を用いて複数の第1分岐配管4または第2分岐配管5を分岐することで、容易に配管作業を行うことができる。
【0010】
第1および第2スプリンクラヘッド6,7は、例えば、R:3.25の感知感度のもので、即ち設置点を中心とする直径3.25mの感知範囲内の火災を感知して感熱開放するように構成されている。第1および第2スプリンクラヘッド6,7は、隣接するスプリンクラヘッドが異なる系統のスプリンクラヘッドとなるように、一辺の長さをAとする正方形の格子パターンの各交差部に交互に配設されている。格子パターンの一辺の長さAは、格子パターンの対角位置のスプリンクラヘッドの感知範囲が互いに接するように設定される。これにより、第1および第2スプリンクラヘッド6,7の感知範囲が防護区画Kの全域を網羅する。
【0011】
開放弁10は、加圧水貯蔵室11と、第1配管2に連結された第1空気制御室12と、第2配管3に連結された第2空気制御室13と、を備えている。
第1ピストン14が、一次配管8に連結されて消火用水9が導入される一次側室11aと二次側室11bとを遮断する閉止位置と、一次側室11aと二次側室11bとを連通する開放位置と、の間を摺動可能に加圧水貯蔵室11内に配設されている。加圧水貯蔵室11の二次側室11bが第1および第2連通配管18,19を介して第1および第2配管2,3に連結されている。また、第1および第2逆止弁20,21が第1および第2連通配管18,19の配管途中に配設され、第1および第2配管2,3から加圧水貯蔵室11側への逆流を阻止している。
【0012】
第2ピストン15が、第1配管2に連結された第1操作室12aと、大気に開放された第1大気室12bと、を画成するように摺動可能に第1空気制御室12内に配設されている。第3ピストン16が、第2配管3に連結された第2操作室13aと、大気に開放された第2大気室13bと、を画成するように摺動可能に第2空気制御室13内に配設されている。
【0013】
第1空気制御室12の第1操作室12aおよび第2空気制御室13の第2操作室13aには、空気供給手段としてのポンプ22を介して、基準圧の空気が供給されるようになっている。また、加圧水貯蔵室11の一次側室11aには、ポンプ23により加圧された加圧水である消火用水9が一次配管8を介して供給されるようになっている。
【0014】
第1〜第3ピストン14〜16は、第1操作室12a内の基準圧の空気の第2ピストン15への加圧方向と、第2操作室13a内の基準圧の空気の第3ピストン16への加圧方向とが、一次側室11a内の消火用水9の動作圧の第1ピストン14への加圧方向と逆向きとなるように、連結棒17を介して連結されている。そして、第1および第2操作室12a,13aの少なくとも一方が基準圧の空気で充満されているときには、第1ピストン14が閉止位置に位置する。第1および第2操作室12a,13aの両方の基準圧の空気が放出され、大気圧近傍まで低下すると、第1ピストン14が閉止位置から開放位置に移動するようになっている。なお、このような第1ピストン14の動作は、第1および第2操作室12a,13a内に充満される空気の圧力と消火用水9の圧力との関係を調整したり、第1〜第3ピストン14〜16の面積比を調整することで、容易に実現できる。
【0015】
つぎに、このように構成されたスプリンクラ消火設備1の動作について説明する。
まず、通常監視状態では、ポンプ22が作動され、第1および第2空気制御室12,13の第1および第2操作室12a,13a内に基準圧の空気が供給されている。そして、第1および第2操作室12a,13aに連結されている第1および第2配管2,3内が、基準圧の空気で充満されている。この時、第1および第2配管2,3から加圧水貯蔵室11の二次側室11bへの空気の流入が逆止弁20,21により阻止されている。また、ポンプ23が作動され、消火用水9が加圧水貯蔵室11の一次側室11aに供給されている。この状態では、第1および第2操作室12a,13aおよび第1および第2配管2,3内に充満している空気圧が第2および第3ピストン15,16に作用し、加圧水貯蔵室11の一次側室11aに充満する消火用水9の動作圧に打ち勝ち、第1ピストン14が閉止位置に位置されている。
【0016】
ここで、火災が発生したとする。火源Bの真上に最も近くに位置する第2スプリンクラヘッド7aが最初に感熱開放する。これにより、第2操作室13aおよび第2配管3内の空気が第2スプリンクラヘッド7aから放出され、第2操作室13a内の圧力が大気圧近傍まで低下する。この時点では、第1操作室12aおよび第1配管2内に充満している空気の基準圧が第2ピストン15に作用し、一次側室11aに充満する消火用水9の動作圧に打ち勝ち、第1ピストン14はなお閉止位置に維持される。
【0017】
ついで、火災の規模が拡大し、火源Bの真上近傍に位置する第1スプリンクラヘッド6aが感熱開放する。これにより、第1操作室12aおよび第1配管2内の空気が第1スプリンクラヘッド6aから放出され、第1操作室12a内の圧力が大気圧近傍まで低下する。これにより、一次側室11aに充満する消火用水9の動作圧が、第1および第2操作室12a,13a側から第2および第3ピストン15,16に作用する加圧力の総和に打ち勝ち、第1ピストン14を閉止位置から開放位置に移動させる。そして、消火用水9が加圧水貯蔵室11の一次側室11aから二次側室11bに流入し、さらに第1および第2連通配管18,19、第1および第2配管2,3、および第1および第2分岐配管4,5を介して感熱開放された第1および第2スプリンクラヘッド6a,7aから火源Bおよびその周辺部に放水され、初期消火が行われる。
【0018】
そして、火災の規模がさらに拡大すると、第1および第2スプリンクラヘッド6,7が順次感熱開放され、感熱開放された第1および第2スプリンクラヘッド6,7から放水が開始され、本格消火が行われる。
なお、第1操作室12aおよび第2操作室13aはそれぞれ個別に加圧されているので、各々に圧力スイッチを設けることで、一方の作動を検出することができ、放水の前に警報することができる。
【0019】
このように、この発明では、異なる系統のスプリンクラヘッドが隣り合うように、互いに交互に、かつ感知範囲が防護区画Kの全域を網羅するように第1および第2スプリンクラヘッド6,7の群が配設され、各第1スプリンクラヘッド6が第1配管2に連結され、各第2スプリンクラヘッド7が第2配管3に連結されている。開放弁10が、消火用水9が供給される一次配管8と、第1および第2配管2,3との間に配設されている。そして、開放弁10が、少なくとも1つの第1スプリンクラヘッド6と、少なくとも1つの第2スプリンクラヘッド7との両者が感熱開放した場合にのみ開放され、消火用水9が第1および第2配管2,3に供給され、感熱開放された第1および第2スプリンクラヘッド6,7をから放水されるように構成されている。このことから、放水は常に2個のスプリンクラヘッドから行われることとなり、確実に消火を行うことができる。
【0020】
そこで、例えば第1スプリンクラヘッド6aが感熱開放したが、第2スプリンクラヘッド7が感熱開放する前に火災が消火したような場合には、消火用水9は第1および第2配管2,3に供給されない。従って、従来技術のように、消火用水9を第1および第2配管2,3から排水するような復旧作業が不要となる。さらに、従来技術のように、復旧作業で排出しきれなかった消火用水9が、その後の火災以外でのスプリンクラヘッドの開放で放水されるような事故も、未然に回避される。しかも、不時の消火用水9の放水事故を確実に回避できるので、特に、半導体工場、クリーンルームなどの水損を嫌う物件に適用すれば、極めて顕著な効果が期待できる。
【0021】
さらに、このスプリンクラ消火設備1は、火災感知器を用いていないので、電源や制御盤などの電気関連設備が不要となり、システム全体を安価に、シンプルに構築することができるとともに、火災感知器の誤動作に起因する消火用水の放出事故もない。
また、第1および第2スプリンクラヘッド6,7が、正方形の格子パターンの各交差部に交互に配設され、かつ一辺の長さAが対角位置のスプリンクラヘッドの感知範囲が接するように設定されているので、感知範囲が防護区画Kの全域を網羅することができるように第1および第2スプリンクラヘッド6,7を効率的に設置でき、その配設個数を減らすことができる。
【0022】
なお、上記実施の形態では、第1および第2スプリンクラヘッド6,7が、正方形の格子パターンの各交差部に交互に配設されているが、第1および第2スプリンクラヘッド6,7は必ずしも正方形の格子パターンの交差部に配設されている必要はなく、第1および第2スプリンクラヘッド6,7の感知範囲が防護区画Kの全域を網羅していればよい。
また、上記実施の形態では、R:3.25の感知感度のスプリンクラヘッドを用いるものとしているが、スプリンクラヘッドの感知感度はR:3.25に限定されるものではなく、スプリンクラヘッド消火設備の仕様によって適宜設定される。特に、第1および第2スプリンクラヘッド6,7の感熱開放の時間的ずれが大きくなる恐れがある場合には、第1および第2スプリンクラヘッド6,7に替えて感知感度の高いスプリンクラヘッドを配置すればよい。具体的には、R:3.52の感知感度のスプリンクラヘッドに替えて、R:5.20の感知感度のスプリンクラヘッドを配設すれば、感熱開放の遅れの問題は解決できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明に係るスプリンクラ消火設備における配管系統図である。
【図2】この発明に係るスプリンクラ消火設備を模式的に示すシステム図である。
【符号の説明】
【0024】
1 スプリンクラ消火設備、2 第1配管、3 第2配管、4 第1分岐配管、5 第2分岐配管、6 第1スプリンクラヘッド、7 第2スプリンクラヘッド、8 一次配管、9 消火用水(加圧水)、10 開放弁、11 加圧水貯蔵室、12 第1空気制御室、13 第2空気制御室、14 第1ピストン、15 第2ピストン、16 第3ピストン、17 連結棒、22 ポンプ(空気供給手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接するスプリンクラヘッドが異なる群のスプリンクラヘッドとなるように、交互に配列され、かつ感知範囲が防護区画の全域を網羅するように配設された第1スプリンクラヘッドの群および第2スプリンクラヘッドの群と、
それぞれの上記第1スプリンクラヘッドが連結された第1配管と、
それぞれの上記第2スプリンクラヘッドが連結された第2配管と、
上記第1および第2配管に所定圧の空気を個別に充満させる空気供給手段と、
消火用水を供給する一次配管と、
上記一次配管と上記第1および第2配管との間に配設され、上記第1および第2スプリンクラヘッドの開放により上記第1および第2配管内の空気圧が共に低下した場合にのみ開弁し、上記一次配管と上記第1および第2配管との間を連通し、上記消火用水を開放された上記第1および第2スプリンクラヘッドから放水させる開放弁と、
を備えたことを特徴とするスプリンクラ消火設備。
【請求項2】
上記第1スプリンクラヘッドおよび上記第2スプリンクラヘッドが、正方形の格子パターンの交差部に交互に配設されていることを特徴とする請求項1記載のスプリンクラ消火設備。
【請求項3】
第1ピストンが、動作圧力が導入される一次側室と二次側室とを遮断する閉止位置と該一次側室と該二次側室とを連通する開放位置との間を摺動移動するように配設された加圧水貯蔵室と、
第2ピストンが摺動自在に配設され、基準圧力が導入される第1操作室と大気に開放される第1大気室とを画成する第1空気制御室と、
第3ピストンが摺動自在に配設され、基準圧力が導入される第2操作室と大気に開放される第2大気室とを画成する第2空気制御室と、を備え、
上記第1ピストン、上記第2ピストンおよび上記第3ピストンが、上記第1操作室内の基準圧力の該第2ピストンへの加圧方向と上記第2操作室内の基準圧力の該第3ピストンへの加圧方向とが上記一次側室内の動作圧力の該第1ピストンへの加圧方向と逆向きとなるように連結され、
上記第1および第2操作室の少なくとも一方に上記基準圧力が導入されているときには、上記一次側室に導入されている上記動作圧力に抗して上記第1ピストンを上記閉止位置に位置させ、
上記第1および第2操作室の両方から上記基準圧力が放出されたときに、上記第1ピストンが上記動作圧力により上記閉止位置から上記開放位置に移動されるように構成されていることを特徴とする開放弁。

【図1】
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【図2】
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