説明

スプリングブレーキ装置

【課題】高い信頼性を以って回転体に対しブレーキを掛けることができ、且つ、高い生産効率を以って生産することができるスプリングブレーキ装置を提供する。
【解決手段】ブレーキ装置60におけるコイルスプリング607,608は、その一端部607b,608bがシリンダ603,604からの力を受けた際に拡径状態となり、シリンダ603,604からの力が作用しない、あるいは弛められた際に縮径状態になる。そして、コイルスプリング607,608における可動フック607bとシリンダ603,604との各間に、互いの間におけるコイルスプリング607,608の各巻回方向での角度補正のためのアジャスト機構((掛止ブロック609,610とアジャスターブロック611,612との組み合わせを以って構成されるアジャスト機構)が介挿されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリングブレーキ装置に関し、特にスプリングにおけるフックの掛止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、回転シャフトの回転あるいは上下動に対するブレーキとして、スプリングブレーキ装置が広く使われている(例えば、特許文献1〜特許文献4などを参照)。従来技術に係るスプリングブレーキ装置の要部構造について、図7を用い説明する。
図7(a)に示すように、スプリングブレーキ装置には、ブレーキ動作を実行する主要素としてコイルスプリング1607が備えられている。コイルスプリング1607は、回転シャフト1030と一体に設けられた回転コア1606の外周を巻回する状態に設けられている。
【0003】
図7(a)の拡大部分に示すように、コイルスプリング1607は、例えば、円形断面を有する線材が複数回巻回されてなるものであって、その一端部(固定フック)1607aが、ノックピン1615を介して固定ブロック1602に固定されている。一方、コイルスプリング1607の他端部(可動フック)1607bは、図示を省略しているシリンダなどにより、コイルの巻回方向に移動可能となっている。
【0004】
スプリングブレーキは、コイルスプリング1607の可動フック1607bに力が加えられていない状態(図7(a)の拡大部分を参照)では、コイルスプリング1607は、回転コア1606をその径方向に締め付けるように、回転コア1606の外周面1606fに当接した状態となっている。この状態では、回転コア1606がコイルスプリング1607の締め付け力によりブレーキが掛った状態となり、回転シャフト1030の回転停止状態が保持される。
【0005】
一方、コイルスプリング1606の可動フック1607bに力が加えられ、コイルスプリング1606の内径が拡げられると、コイルスプリング1607と回転コア1606の外周面1606fとの間に隙間が生じ、これによりブレーキが解除される。
なお、スプリングブレーキ装置では、コイルスプリング1607の巻回方向および固定フック1607aの設定により、回転コア1606の回転に対するブレーキの利く方向が設定されることになる。具体的には、図7(a)に示すコイルスプリング1607を採用する場合には、矢印Bのように見て左方向(反時計方向)への回転を停止し、あるいは停止状態を保持することができる。よって、逆方向への回転に対しブレーキを掛けようとする場合には、巻回方向が逆のコイルスプリングを採用したり、コイルスプリング1607における固定フックと可動フックとを逆に設けたりすることにより可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平01−47656号公報
【特許文献2】特公平03−28607号公報
【特許文献3】特公平06−89797号公報
【特許文献4】特許4055759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術に係るスプリングブレーキでは、コイルスプリング1607における固定フック1607aまたは可動フック1607bの取り付けにおいて、コイルスプリング1607の作製誤差に起因して現物合わせで最終的な組み付けを行う必要がある。即ち、図7(b)に示すように、先ずスプリングコイル1607の固定フック1607aをノックピン1615で固定した場合、スプリングコイル1607の作製誤差が可動フック1607の位置変動という現象を生じさせることになる。
【0008】
ここで、スプリングブレーキ装置においては、コイルスプリング1607と回転コア1606との相対関係がブレーキ性能に影響を及ぼすものであって、ブレーキ解除時における回転コア1606の外周面1606fとコイルスプリング1607との隙間が重要なファクターとなる。
以上のように、従来技術に係るスプリングブレーキ装置では、その製造段階におけるコイルスプリングの組み付けに際し、他の構成要素に対し現物合わせを行うことを余儀なくされ、生産効率という観点から問題を有していた。
【0009】
本発明は、上記課題の解決を図るべくなされたものであって、高い信頼性を以って回転体の回転を停止し、あるいは停止状態を保持することができ、且つ、高い生産効率を以って生産することができるスプリングブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、次の構成を採用することを特徴とする。
本発明は、回転体に対して環装されるコイルスプリングを有し、当該コイルスプリングが縮径状態のときに当該コイルスプリングと回転体との間の接触(摩擦)抵抗によりブレーキが利き、拡径状態のときにブレーキが解除されるスプリングブレーキ装置であって、コイルスプリングは、その一端部が装置ベースに固定され、且つ、他端部が可動体に連結されている。そして、コイルスプリングは、当該可動体からの力を上記他端部に受けて径変化(スプリング巻径の変化)自在となっている。
【0011】
ここで、“一端部”および“他端部”とは、端の一点を指すのではなく、ある長さを有する領域を指すものである。
また、本発明に係るスプリングブレーキでは、可動体がコイルスプリングの他端部に力を掛けた際に、コイルスプリングは拡径状態となり、可動体がコイルスプリングの他端部に力が掛けない、あるいは掛ける力を弛めた際に、コイルスプリングが縮径状態になる。そして、本発明に係るスプリングブレーキ装置では、コイルスプリングにおける一端部と装置ベースとの間、または、コイルスプリングにおける他端部と可動体との間に、互いの間におけるコイルスプリングの巻回方向での角度補正のためのアジャスト機構が介挿されている、ことを構成上の特徴として有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るスプリングブレーキ装置では、コイルスプリングの上記一端部と装置ベースとの間、または、コイルスプリングの上記他端部と可動体との間に、アジャスト機構が介挿されている。アジャスト機構は、コイルスプリングの上記一端部と装置ベースとの間、または、コイルスプリングの上記他端部と可動体との間の相互間での角度補正を行うために介挿されているものである。よって、本発明に係るスプリングブレーキ装置では、その製造に際し、コイルスプリングの一方の端部を固定または掛止し、もう一方の端部をアジャスト機構を介して固定または掛止することができる。
【0013】
ここで、上記のようにコイルスプリングは、その作製において、製造誤差を生じ、設計値から両端部の互いの角度が設計値からずれることがあるが、本発明に係るスプリングブレーキ装置では、このようなコイルスプリングの上記製造誤差をアジャスト機構で補正することができるので、現物合わせで組み付け作業を行う必要がない。また、アジャスト機構を用いて、回転体に対するコイルスプリングの相対的な位置合わせを確実に行うことができるので、高い信頼性を得ることができる。
【0014】
従って、本発明に係るスプリングブレーキ装置は、高い信頼性を以って回転体にブレーキを掛けることができ、且つ、高い生産効率を以って生産することができる。
なお、上記では、「ブレーキ」という用語を、「保持ブレーキ」を含む概念で用いている。
上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、次のようなバリエーションを採用することができる。
【0015】
上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、上記アジャスト機構が、コイルスプリングにおける他端部と可動体との間に介挿されているとともに、2つのリング状ブロックの組み合わせを以って構成されており、その内の一方に、コイルスプリングにおける他端部を掛止する溝あるいは孔が設けられ、他方に、径方向外側に向けて、可動体からの力を受けるためのピンが延設されており、2つのリング状ブロックが、互いの間の角度補正がなされた状態で緊結されている、という構成を採用することができる。
【0016】
また、上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、上記アジャスト機構が、コイルスプリングにおける一端部と装置ベースとの間に介挿されているとともに、2つのリング状ブロックの組み合わせを以って構成され、その内の一方に、コイルスプリングにおける他端部を掛止する溝あるいは孔が設けられており、他方が装置ベースに固定されており、2つのリング状ブロックが、互いの間の角度補正がなされた状態で緊結されている、という構成を採用することができる。
【0017】
また、上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、2つのリング状ブロックの内の一方から、他方のリング状ブロックに向けてボルトが突出形成されており、他方に、ボルトの挿通を許す孔が開設されており、2つのリング状ブロックが、他方のリング状ブロックに設けられた孔を挿通したボルトがナットにより緊結されている構成を採用することができる。そして、この構成を採用する場合において、他方のリング状ブロックにおける孔が、コイルスプリングの巻回方向において、長孔となっている、という構成を採用することができる。ボルトとナットとを緊結する際に、長孔を用いて角度補正を実行することができる。
【0018】
また、上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、コイルスプリングが、矩形断面を有する線材を以って構成されており、ブレーキを掛ける際に、回転体に対して面接触する、という構成を採用することができる。これにより、図7に示す従来技術に係るスプリングブレーキ装置のコイルスプリング(円形断面)よりも、高い摩擦力を発生させることができ、高いブレーキ特性を得ることができる。
【0019】
また、上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、コイルスプリングが、矩形断面を有する線材から構成され、且つ、その線材の断面における縦横比が実質的に“1”である、という構成を採用することができる。このようなコイルスプリングを採用する場合には、高いブレーキ特性と、高いレスポンス性能を得ることができる。同じ矩形断面の線材からなるコイルスプリングであっても、長方形断面のものよりも、縦横被が実質的に“1”、即ち、正方形断面のものの方が、ブレーキを掛ける際の高いレスポンス特性を得ることができる。
【0020】
また、上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、回転体に対して、第2のコイルスプリングが環装されており、第2のコイルスプリングの一端部が装置ベースに固定され、且つ、他端部が第2の可動体からの力を受けて巻回周方向に可動自在になっているものであって、第2のコイルスプリングが、上記コイルスプリングに対して、回転体に対するブレーキが利く方向が反対である、という構成を採用することができる。これにより、回転体が正逆両方向に回転する場合にあっても、その両方向に対応してブレーキを掛けられる。
【0021】
また、上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、コイルスプリングの巻回外周に、当該コイルスプリングが拡径状態のときに外径を規制するための規制部材が配されている、という構成を採用することができる。このような構成を採用する場合には、コイルスプリングの製造時におけるバラツキ等により、スプリングの外径がばらついた状態で拡径しようとするのを抑制することができ、回転体との間の正確な間隙を確保することができる。
【0022】
また、上記本発明に係るスプリングブレーキ装置では、コイルスプリングが、フリー状態(力を受けていない状態)において、縮径状態であり、且つ、その内径が回転体の外径よりも小さい、という構成を採用することができる。このような構成を採用する場合には、何らかの原因で装置電源が遮断されたような場合に、回転体の回転を止めることができ、安全面で優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係る回転駆動システム1の一部構成を示す模式斜視図である。
【図2】回転駆動システム1に含まれるブレーキ装置60の構成を示す平面図(一部断面図)である。
【図3】ブレーキ装置60におけるコイルスプリング607,608の固定フック607a,608aの構造を示す模式側面図である。
【図4】(a)は、ブレーキ装置60におけるコイルスプリング607の可動フック607bの構造と、掛止ブロック609およびアジャスターブロック611の構造とを示す模式斜視図であり、(b)は、回転コア606とコイルスプリング607との位置関係を示す模式側面図(一部断面図)である。
【図5】(a)は、ブレーキが掛けられた状態におけるコイルスプリング607を示す模式正面図であり、(b)は、ブレーキが解除された状態におけるコイルスプリング607を示す模式正面図であり、(c)は、ブレーキが解除された状態における回転コア606とコイルスプリング607との位置関係を示す模式側面図(一部断面図)である。
【図6】変形例に係るブレーキ装置の構成を示す平面図(一部断面図)である。
【図7】(a)は、従来技術に係るブレーキ装置の構成を示す模式側面図であり、(b)は、スプリング1607の構造を示す模式正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下の説明に係る実施の形態は、本発明の構成上の特徴および当該特徴的構成から奏される作用効果を分かりやすく説明するための一例として用いるものであって、本発明は、その本質的な特徴部分を除き、以下の内容に何ら限定を受けるものではない。
[実施の形態]
1.全体構成
本実施の形態に係る回転駆動システム1の全体構成について、図1を用い説明する。図1は、本実施の形態に係る回転駆動システム1の回転駆動に係る部分を抜き出して表している。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る回転駆動システム1は、一つのモータ10と、これに連結されたブレーキ装置60とを含み構成されている。モータ10からは、駆動軸10aが延出され、カップラ20を介して回転シャフト30が連結されている。
回転シャフト30は、2つのピローブロック40,50により支持されており、2つのピローブロック40,50の間に配されたブレーキ装置60を挿通している。
【0026】
なお、モータ10は、制御部(図示を省略)からの指示に従い、正逆両方向に回転できる。
2.ブレーキ装置60の構成
次に、本実施の形態に係る回転駆動システム1において、最も構成上の特徴となるブレーキ装置60の構成について、図2を用い説明する。図2は、ブレーキ装置60の構成を示す平面図(一部断面図)である。
【0027】
図2に示すように、ブレーキ装置60は、2枚のサイドプレート600,601と、固定ブロック602と、シリンダブロック603,604と、カバープレート605とを以って外装が構成されている。2枚のサイドプレート600,601には、ベアリング613,614が取り付けられた孔が設けられており、回転シャフト30は、ベアリング613,614により支持されている。
【0028】
ブレーキ装置60では、回転シャフト30に対して回転コア606が取り付けられている。回転コア606は、回転シャフト30とともに回転自在であり、回転シャフト30よりも大径となっている。回転コア606には、2つのコイルスプリング607,608が環装されており、コイルスプリング607とコイルスプリング608とは、巻回方向が同一に設定されている。
【0029】
コイルスプリング607,608は、その一端部(以下では、「固定フック」と記載する。)607a,608aが、回転コア606の長手方向(X軸方向)における略中央で固定ブロック602に固定されている。また、コイルスプリング607,608における各他端部(以下では、「可動フック」と記載する。)607b,608bは、掛止ブロック609,610およびアジャスターブロック611,612を介してシリンダブロック603,604の可動部分に取り付けられている。
【0030】
コイルスプリング607,608における可動フック607b,608bは、掛止ブロック609,610に設けられた溝部609b,610bに引っ掛けられており、掛止ブロック609,610とアジャスターブロック611,612とは、掛止ブロック609,610に植設されたボルト609a,610aとナット617,618との緊結により固定されている。
【0031】
アジャスターブロック611,612には、それぞれ対応するシリンダブロック603,604に向けてレバーピン611a,612aが突設されている。シリンダブロック603,604における可動部分(図2では、図示を省略。)は、レバーピン611a,612aに対して力を加え、当該力を受けてアジャスターブロック611,612がコイルスプリング607,608の巻回方向に回転する。このとき、掛止ブロック609,610とアジャスターブロック611,612とが固定されていることから、各コイルスプリング607,608の可動フック607b,608bがコイルスプリング607,608の巻回方向に移動され、各コイルスプリング607,608が径変化を生じることになる。
【0032】
なお、図2に示すように、固定ブロック602およびカバープレート605は、コイルスプリング607,608の外表面に対して小さな隙間を以って形成されており、必要以上に、あるいは歪にコイルスプリング607,608が拡径することを防止する役割を果たす。上記隙間は、例えば、0.5[mm]〜1.0[mm]の範囲にある。
3.ブレーキ装置60における固定ブロック602とコイルスプリング607,608との固定
ブレーキ装置60における固定ブロック602とコイルスプリング607,608との固定形態について、図3を用い説明する。図3(a)は、固定ブロック602とコイルスプリング607との固定形態を示し、図3(b)は、固定ブロック602とコイルスプリング608との固定形態を示す。なお、図3は、図2における矢印Aのように固定ブロック602と各コイルスプリング607,608とを模式的に見たときの図である。
【0033】
図3(a)、(b)に示すように、コイルスプリング607,608では、固定フック607a,608aがそれぞれ巻回加工されている。図3(a)に示すように、コイルスプリング607においては、回転コア606に対し、Z軸方向上部となる部分から、Y軸方向左側に固定フック607aが延出されており、その先端部分が略一回巻回加工されている。
【0034】
一方、図3(b)に示すように、コイルスプリング608においては、回転コア606に対し、Z軸方向下部となる部分から、Y軸方向左側に固定フック608aが延出されており、その先端部分が、上記同様に略一回巻回加工されている。
図3(a)、(b)に示すように、コイルスプリング607,608における各固定フック607a,608aは、固定ブロック602に対して、それぞれノックピン615,616を以って固定されている。本実施の形態では、このような固定形態を採用することによって、コイルスプリング607,608に対する不必要な力がかからないようにし、コイルスプリング607,608が歪むのを防止している。
【0035】
例えば、図3(a)、(b)のように、固定フックの先端部分を巻回せず、Z軸方向の上下から挟みこむようにこれら固定フックを固定しようとする場合には、コイルスプリングを拡径状態にするとき、固定に係る絞め込みの程度などにより、コイルスプリングに歪を生じることが予想され、ブレーキ特性という観点から問題を有することとなる場合も考えられる。
【0036】
これに対して、本実施の形態のような固定形態を採用する場合には、コイルスプリング607,608の固定フック607a,608aにZ軸方向上下の“ニゲ”を作り出すことができ、正確で、且つ、高いブレーキ特性を有することができる。
4.ブレーキ装置60における掛止ブロック609,610およびアジャスターブロック611,612
上記のように、本実施の形態に係るブレーキ装置60では、シリンダブロック603,604への各コイルスプリング607,608の連結に際し、各間に掛止ブロック609,610およびアジャスターブロック611,612が介挿されている。掛止ブロック609,610およびアジャスターブロック611,612は、これらの組み合わせを以ってコイルスプリング607,608の巻回方向での角度補正のためのアジャスト機構としての役割を果たすものである。具体的構成について、コイルスプリング607と、掛止ブロック609およびアジャスターブロック611を一例として、図4(a)を用い説明する。
【0037】
図4(a)に示すように、掛止ブロック609およびアジャスターブロック611は、ともにリング状をしたプレート体であり、中央の孔に回転シャフト30あるいは回転コア606が挿通されるようになっている。掛止ブロック609においては、その外周の一部に溝部609bが設けられている。この溝部609bは、コイルスプリング607の可動フック607bの断面形状に合わせて形成されており、当該部分にコイルスプリング607の可動フック607bの先端部分が掛止めされる。
【0038】
掛止ブロック609におけるX軸方向左側主面からは、X軸方向左側に向けて2本のボルト609aが植設されている。2本のボルト609aは、後述するアジャスターブロック611の厚みよりも長く設けられている。
図4(a)に示すように、アジャスターブロック611には、掛止ブロック609の2本のボルト609aに対応して、2つの挿通孔611bが設けられている。2つの挿通孔611bは、その円周方向において、長孔となっている。よって、掛止ブロック609とアジャスターブロック611との緊結に際しては、アジャスターブロック611の挿通孔611bを以って、掛止ブロック609とアジャスターブロック611との円周方向における相対角度の補正が可能であり、これらの組み付け時においては、互いの間の角度補正を行った後にボルト609aにナット617(図3を参照。)を螺結することになる。
【0039】
また、アジャスターブロック611の外周からは、シリンダブロック603の側(Y軸方向奥)に向けて、レバーピン611aが延設されている。
なお、コイルスプリング608と、掛止ブロック610およびアジャスターブロック612との各形態および掛止め形態などは、上記同様である。
上記のように、本実施の形態に係るブレーキ装置60では、その製造に際し、コイルスプリング607,608の可動フック607b,608bを、シリンダブロック603,604に対し、その間にアジャスト機構としての掛止ブロック609,610とアジャスターブロック611,612との組み合わせ構造を介して連結されている。
【0040】
コイルスプリング607,608は、その作製において、製造誤差を生じ、設計値から両端のフック同士における互いの角度が設計値からずれることがあるが、本実施の形態に係るブレーキ装置60では、このようなコイルスプリング607,608の上記製造誤差をアジャスト機構で補正することができるので、現物合わせで組み付け作業を行う必要がない。また、アジャスト機構を用いて、回転コア606に対するコイルスプリング607,608の相対的な位置合わせを確実に行うことができるので、高い信頼性を得ることができる。
【0041】
5.コイルスプリング607、608の構成
コイルスプリング607,608の構成について、コイルスプリング607を一例として図4(b)を用い説明する。
図4(b)では、コイルスプリング607の可動フック607bに力を受けておらず、縮径状態のときの回転コア606との相対的な関係を示す模式側面図である。
【0042】
図4(b)に示すように、コイルスプリング607は、矩形断面の線材のより構成されている。より具体的には、図4(b)の二点鎖線で囲んだ部分に示すように、コイルスプリング607を構成する線材の高さHと幅Wとの比(縦横比)は、略“1”、即ち、正方形断面となっている。なお、縦横比については、必ずしも略“1”である必要はないが、長方形断面の線材を採用する場合に比べて、ブレーキを掛ける際、あるいはブレーキがかかった状態を保持する際、およびブレーキを解除する際のレスポンスという観点から優れる。
【0043】
また、本実施の形態では、正方形断面の線材からなるコイルスプリング607を採用しているので、回転コア606の外周面606fとの接触面積を大きくとることができる。即ち、図7(a)に示す従来技術に係るブレーキ装置のように円形断面の線材からなるコイルスプリング1607の場合、回転コア1606の外周面1606fとの接触が線接触となるのに対して、本実施の形態では、正方形断面の線材からなるコイルスプリング607を採用することにより、回転コア606の外周面606fとの接触を面接触とすることができる。このため、ブレーキの利きを高めることができる。
【0044】
なお、コイルスプリング608についても、上記同様の構成を有する。
6.ブレーキ装置60のブレーキ動作
ブレーキ装置60のブレーキ動作について、図5を用い説明する。図5は、(a)が、ブレーキが掛っている状態での掛止ブロック609およびアジャスターブロック611を示す模式正面図であり、(b)が、ブレーキが解除されている状態での掛止ブロック609およびアジャスターブロック611を示すも模式正面図であり、(c)が、ブレーキが解除された状態での回転コア606とコイルスプリング607とを示す模式断面図である。
【0045】
図5(a)に示すように、シリンダブロック603における可動部603aがZ軸方向下部にあるときには、掛止めされているレバーピン611aの先端も当該部分にある。この状態においては、コイルスプリング607の可動フック607bの先端部分は、図5(a)のように“1時”と“2時”との間の方向を向いており、コイルスプリング607は、縮径した状態にある。この状態においては、回転コア606とコイルスプリング607とは、図4(b)に示す互いに当接した状態にあり、その間の摩擦力を以ってブレーキが利いた状態となる。
【0046】
次に、図5(b)に示すように、シリンダブロック603の可動部603aがZ軸方向上部にあるときには、掛止めされているレバーピン611aの先端も当該部分にあり、コイルスプリング607の可動フック607bの先端部分は、図5(b)のように“2時”と“3時”との間の方向を向いている。この状態では、コイルスプリング607は、図5(c)に示すように拡径された状態にあり、回転コア606の外周面606fとコイルスプリング607との間に隙間tを生じる。
【0047】
隙間tは、(D−D)/2で表される。
ここで、Dは、拡径状態にあるときにコイルスプリング607の内径であり、Dは、回転コア606の外周径である。
なお、コイルスプリング608についても同様の構成を有し、また、シリンダブロック604の駆動を以って同様の動きをする。
【0048】
本実施の形態に係るブレーキ装置60では、図5(a)および図4(b)の状態と、図5(b)および図5(c)の状態との変化を以って、ブレーキが掛った状態と、ブレーキが解除された状態とが実現される。
[変形例]
次に、変形例に係るブレーキ装置の構成について、図6を用い説明する。図6は、上記実施の形態のブレーキ装置60を説明する際に用いた図2に相当する図である。なお、図6では、ブレーキ装置におけるサイドプレートを省略している。
【0049】
図6に示すように、本変形例に係るブレーキ装置において、上記実施の形態に係るブレーキ装置60と構成上の主な差異点は、コイルスプリング657,658の巻回方向と、これに伴いコイルスプリング657,658のそれぞれに対応して回転コア656,669が設けられている点である。
コイルスプリング657とコイルスプリング658とは、その巻回方向が互いに逆向きとなっている。具体的には、X軸方向左側に位置するコイルスプリング657は、回転コア656に対して右向きに巻回されており、これに対して、X軸方向右側に位置するコイルスプリング658は、回転コア669に対して左向きに巻回されている。右向きに巻回されているコイルスプリング657では、X軸方向左側の端部が固定フック657aとなっており、ノックピン665を以って固定ブロック652に固定されている。
【0050】
一方、左向きに巻回されているコイルスプリング658でも、X軸方向左側の端部が固定フック658aとなっており、ノックピン666を以って固定ブロック670に固定されている。ここで、両コイルスプリング657,658における固定フック657a,658aは、図3に示したのと同様に、端部が巻回処理され、その中央部分にノックピン665,666が挿通されている。
【0051】
図6に示すように、コイルスプリング657,658は、ともにX軸方向右側の端部が可動フック657b,658bとなっており、上記実施の形態と同様に、掛止ブロック659,660およびアジャスターブロック661,662を介してシリンダブロック653,654に掛止めされている。そして、シリンダブロック653,654の各可動部が上下動することに伴い、各アジャスターブロック661,662のレバーピン661a,662aが上下に移動し、これによりコイルスプリング657,658における拡径状態と縮径状態とが変化することになる。
【0052】
本変形例においても、掛止ブロック659,660およびアジャスターブロック661,662がコイルスプリング657,658とシリンダブロック653,654との間の角度補正に係るアジャスト機構を有するものとして介挿されている。そのメカニズムについては、上記同様であり、角度補正をした状態でボルト659a,660aとナット667,668とにより互いが緊結されている。
【0053】
なお、本変形例では、上記実施の形態に係るブレーキ装置60のカバープレート605に相当するものが存在しないが、これは、本変形例では、固定ブロック652,670およびシリンダブロック653,654の内側壁面がその機能を有するためである。
以上の構成を有する変形例に係るブレーキ装置においても、上記実施の形態に係るブレーキ装置と同様の作用・効果を奏することができる。
【0054】
[その他の事項]
上記実施の形態および変形例では、ブレーキ装置における可動フック607b,608b,657b,658bとシリンダブロック603,604,653,654との間にアジャスト機構(掛止ブロック609,610,659,660とアジャスターブロック611,612,661,662との組み合わせにより実現される機構)を介挿させることとしたが、固定フック607a,608a,657a,658aと固定ブロック602,652,670との間にアジャスト機構を介挿させることとしてもよい。ただし、この場合には、上記実施の形態および変形例の構成の場合に比べて、ブレーキが掛る状態でより大きな力が付加されることになるので、2つのブロック609,610,659,660,611,612,661,662間の緊結をより確実にする必要がある。
【0055】
また、上記実施の形態および変形例では、断面形状が正方形である線材を用いたコイルスプリング607,608,657,658を採用したが、本発明は、これに限らず種々の断面形状を有する線材から構成のコイルスプリングを採用することができる。
また、上記実施の形態および変形例では、掛止ブロック609,610,659,660とアジャスターブロック611,612,661,662との組み合わせを以ってアジャスト機構を構成することとしたが、本発明は、これに限らず、角度補正を実現できる機構をコイルスプリングの一方の端部と可動体あるいは装置のベースとの間に介挿するものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、高い生産効率を以って生産することができ、且つ、高い信頼性を備えるスプリングブレーキ装置を実現するのに有用である。
【符号の説明】
【0057】
1.回転駆動システム
10.モータ
20.カップラ
30,35.回転シャフト
40,50.ピローブロック
60.スプリングブレーキ装置
600,601.サイドプレート
602,652,670.固定ブロック
603,604,653,654.シリンダブロック
605.カバープレート
606,656,669.回転コア
607,608,657,658.コイルスプリング
609,610,659,660.掛止ブロック
611,612,661,662.アジャスターブロック
613,614.ベアリング
615,616,665,666.ノックピン
617,618,667,668.ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に対して環装されるコイルスプリングを有し、前記コイルスプリングが縮径状態のときに当該コイルスプリングと前記回転体との間の接触抵抗によりブレーキが利き、拡径状態のときにブレーキが解除されるスプリングブレーキ装置であって、
前記コイルスプリングは、その一端部が装置ベースに固定され、且つ、他端部が可動体に連結され、当該可動体からの力を前記他端部が受けることにより径変化自在となっており、
前記可動体が前記コイルスプリングの他端部に力を掛けた際に、前記コイルスプリングは拡径状態となり、前記可動体が前記コイルスプリングの他端部に力が掛けない、あるいは掛ける力を弛めた際に、前記コイルスプリングが縮径状態になるものであって、
前記コイルスプリングにおける一端部と前記装置ベースとの間、または、前記コイルスプリングにおける他端部と前記可動体との間には、互いの間における当該コイルスプリングの巻回方向での角度補正のためのアジャスト機構が介挿されている
ことを特徴とするスプリングブレーキ装置。
【請求項2】
前記アジャスト機構は、前記コイルスプリングにおける他端部と前記可動体との間に介挿されているとともに、2つのリング状ブロックの組み合わせを以って構成されており、
前記2つのリング状ブロックの内の一方には、前記コイルスプリングにおける他端部を掛止する溝あるいは孔が設けられており、
前記2つのリング状ブロックの内の他方には、径方向外側に向けて、前記可動体からの力を受けるためのピンが延設されており、
前記2つのリング状ブロックは、互いの間の角度補正がなされた状態で緊結されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスプリングブレーキ装置。
【請求項3】
前記アジャスト機構は、前記コイルスプリングにおける一端部と前記装置ベースとの間に介挿されているとともに、2つのリング状ブロックの組み合わせを以って構成されており、
前記2つのリング状ブロックの内の一方には、前記コイルスプリングにおける他端部を掛止する溝あるいは孔が設けられており、
前記2つのリング状ブロックの内の他方は、前記装置ベースに固定されており、
前記2つのリング状ブロックは、互いの間の角度補正がなされた状態で緊結されている
ことを特徴とする請求項1に記載のスプリングブレーキ装置。
【請求項4】
前記2つのリング状ブロックの内の一方からは、前記他方のリング状ブロックに向けてボルトが突出形成されており、
前記2つのリング状ブロックの内の他方には、前記ボルトの挿通を許す孔が開設されており、
前記2つのリング状ブロックは、前記他方の孔を挿通した前記ボルトがナットにより緊結されているものであって、
前記他方のリング状ブロックにおける孔は、前記コイルスプリングの巻回方向において、長孔となっている
ことを特徴とする請求項2または3に記載のスプリングブレーキ装置。
【請求項5】
前記コイルスプリングは、矩形断面を有する線材を以って構成されており、ブレーキを掛けた際おいて、前記回転体に対して面接触する
ことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のスプリングブレーキ装置。
【請求項6】
前記コイルスプリングは、その線材の断面における縦横比が実質的に1である
ことを特徴とする請求項5に記載のスプリングブレーキ装置。
【請求項7】
前記回転体に対しては、第2のコイルスプリングが環装されており、
前記第2のコイルスプリングの一端部が装置ベースに固定され、且つ、他端部が第2の可動体からの力を受けて巻回周方向に可動自在になっているものであって、
前記第2のコイルスプリングは、前記コイルスプリングに対して、前記回転体に対しブレーキの掛る方向が反対である
ことを特徴とする請求項1から6の何れかスプリングブレーキ装置。
【請求項8】
前記コイルスプリングの巻回外周には、前記拡径状態のときに外径を規制するための規制部材が配されている
ことを特徴とする請求項1から7の何れかに記載のスプリングブレーキ装置。
【請求項9】
前記コイルスプリングは、フリー状態において、縮径状態であり、且つ、その内径が前記回転体の外径よりも小さい
ことを特徴とする請求項1から8の何れかに記載のスプリングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−174948(P2010−174948A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−16603(P2009−16603)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(592127965)NKE株式会社 (28)
【Fターム(参考)】