説明

スプリング構造体及びスプリング構造体の製造方法

【課題】きしみ音の発生を抑えるだけでなく、複数本のワイヤスプリングを容易に連結することができ、生産性を高めることが容易なスプリング構造体を提供する。
【解決手段】ワイヤを平面視略S字状に繰り返し折り曲げて形成した複数本のワイヤスプリングS〜Sを並列に配し、ワイヤスプリングS〜Sにおける所定箇所を連結部材21,22で横方向に連結してパネル状に形成したスプリング構造体10において、連結部材21,22を、ワイヤスプリングS〜Sを嵌め込んで位置決めするための嵌込部α〜αと、嵌込部α〜αを横方向に連結する帯状部β〜βとを備えた樹脂の成形品とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシート用クッションを支持するためのクッション支持装置などに好適に用いることのできるスプリング構造体と、該スプリング構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用シートなどの着座部や背凭部には、クッション性を高めるため、ウレタンフォームなどのクッション性を有する素材をパネル状に形成したクッション材が使用されている。このクッション材の下側には、金属製のワイヤに平面視略S字状の折り曲げ部を繰り返し形成してなる複数本のワイヤスプリング(特許文献1における第4図の「Sばね22」を参照。)を並列に配したパネル状のスプリング構造体が設けられている。このスプリング構造体によって、クッション材を適度な弾性力で支持することが可能になり、クッション材の大きな沈み込みなどを防止して、良好な座り心地を提供することが可能となる。
【0003】
ところが、この種のスプリング構造体においては、着席した際などにクッション材に加えられた荷重によって隣り合うワイヤスプリングの間隔が局所的に広くなり、その広くなった隙間にクッション材が落ち込んで、着座部や背凭部のクッション性が悪くなるなどの問題が生じやすかった。このため、隣り合うワイヤスプリングを連結部材(特許文献1における第1図の「ダブルテンションスプリング6」、第5図の「テンションスプリング26」及び第6図の「タイワイヤ27」を参照。)で横方向に連結することが行われている。
【0004】
ワイヤスプリングや連結部材は、強度に加えてある程度の弾力性が要求されることから、炭素含有率の高い鋼などによって形成されていた。しかし、炭素を多く含む鋼は、溶接が困難であったため、ワイヤスプリングと連結部材は、金属製のクリップ(特許文献1における第1図の「クリップ5」を参照。)をかしめることによって連結されていた。ところが、この場合には、ワイヤスプリングと連結部材の連結部分からきしみ音が発生しやすくなるという問題に加えて、クリップをかしめる作業が必ずしも容易ではなく、スプリング構造体を製造する手間やコストが増大するという問題もあった。また、スプリング構造体が重くなるという欠点もあった。
【0005】
このような実状に鑑みてか、これまでには、予め平面視略S字状に形成した複数本のワイヤスプリングを金型内に配列し、該金型に樹脂を射出して硬化させることにより、隣り合うワイヤスプリングを、該ワイヤスプリングに一体的に形成した樹脂製の連結部材によって連結することも行われている(特許文献2における第4頁第18行目〜第26行目、及び特許文献3における第6頁第48行目〜第49行目を参照。)。これにより、スプリング構造体から発生するきしみ音を防ぐだけでなく、スプリング構造体の軽量化や、スプリング構造体を容易に製造することも可能になるとされている(特許文献2における第5頁第26行目〜第6頁第3行目、及び特許文献3における第3頁第12行目〜第14行目を参照。)。
【0006】
ところが、連結部材を樹脂の射出成形によって形成するスプリング構造体は、製造する際に、複数本のワイヤスプリングを並べて収容できる大きな金型や、大型の射出成形機が必要になるという欠点があった。また、この種のスプリング構造体は、連結部材の射出成形をその都度行う関係上、必ずしも生産性を高めることが容易なものとはなっていなかった。さらに、この種のスプリング構造体では、ワイヤスプリングの形状を、寸法精度の出しやすい単純で規則正しいものとしておかなければ、ワイヤスプリングを金型に入れることができなくなったり、金型内に射出した樹脂が想定していない範囲に漏れたりなどの不具合が生じるおそれがあった。したがって、この種のスプリング構造体では、ワイヤスプリングの形状や配置に変化を持たせることにより、場所によってばね特性に変化を持たせるなどの工夫も施しにくかった。
【0007】
ところで、これまでには、隣り合うワイヤスプリングの屈曲部同士を、巻き締め可能な係止構造を有する樹脂製のクリップを用いて連結する方法も提案されている(特許文献4の第4頁第30行目〜第33行目及び図1の「クリップ4」を参照)。しかし、特許文献4のスプリング構造体におけるクリップは、一のワイヤスプリングの屈曲部と、該一のワイヤスプリングの隣に配される他のワイヤスプリングの屈曲部とを連結部材を介さずに直に連結するものであったため、スプリング構造体のばね特性(特に横方向のばね特性)を調節できる余地が広くなかった。また、隣り合う一対のワイヤスプリングの屈曲部同士が近くに配されるような場合にしか使用することができず、ワイヤスプリングの形状や配置によっては隣り合うワイヤスプリングを連結できないという欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭52−084301号公報
【特許文献2】実開平06−050545号公報
【特許文献3】特開2007−313045号公報
【特許文献4】特開2005−152482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、きしみ音の発生を抑えたり、重量を軽くしたりするだけでなく、複数本のワイヤスプリングを容易に連結することができ、生産性を高めることが容易なスプリング構造体を提供するものである。また、ワイヤスプリングの形状や配置に変化を持たせることができるなど、設計自由度が高く、場所によってばね特性に変化を持たせるといった工夫も施しやすく、性能を向上させることも可能なスプリング構造体を提供することも本発明の目的である。さらに、このスプリング構造体を用いたクッション支持装置や、このスプリング構造体の製造方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、ワイヤに平面視略S字状の折り曲げ部を繰り返し形成してなるN本(Nは2以上の任意の整数)のワイヤスプリングS〜Sを並列に配し、隣り合うワイヤスプリングS,Sn+1(nは1以上、N−1以下の全ての整数)における所定箇所を連結部材で横方向に連結してパネル状に形成したスプリング構造体であって、連結部材が、ワイヤスプリングSを嵌め込んで位置決めするための嵌込部αと、ワイヤスプリングSn+1を嵌め込んで位置決めするための嵌込部αn+1と、嵌込部αと嵌込部αn+1とを横方向に連結する帯状部βとを備えた樹脂の成形品であることを特徴とするスプリング構造体を提供することによって解決される。
【0011】
ここで、「略S字状」とは、一方に張り出した部分と他方に張り出した部分とが交互に設けられた形状を広く含む概念であるものとし、折り曲げ部が略半円形に形成されたもの(S字状(サインカーブ状))だけでなく、ジグザグ状(Z字状)や連続クランク状など、折り曲げ部が略三角形状や略四角形状に形成されたものなども含む概念であるものとする。また、ワイヤスプリングS〜Sは、その全てが分離した形態のものである必要はなく、その一部又は全体が連続した形態のものであってもよい。例えば、平面視略S字状に繰り返し折り曲げて形成された1本のワイヤスプリングを、その先端側と基端側が略平行となるようにその中間部で180°折り返した場合であっても、該ワイヤスプリングにおける先端部から中間部までの部分と、基端部から中間部までの部分とが並列な位置関係にあるのであれば、該ワイヤスプリングは2本と数えるものとする。
【0012】
本発明のスプリング構造体は、連結部材の全体が樹脂によって形成されているので、きしみ音が発生しにくいものとなっている。また、本発明のスプリング構造体は、連結部材の嵌込部α〜αにそれぞれワイヤスプリングS〜Sを嵌め込むだけで、ワイヤスプリングS〜Sを横方向に連結することができるので、容易に製造でき、その生産性を高めることも容易なものとなっている。さらに、ワイヤスプリングS〜Sに対して連結部材をある程度変形させながら取り付けることができるので、ワイヤスプリングS〜Sの形状や配置に誤差がある場合であっても、連結部材を容易に取り付けることが可能になる。したがって、ワイヤスプリングS〜Sの形状や配置を、精度の出しにくい不規則なものとすることも可能になり、スプリング構造体の設計自由度を高めることも可能になる。よって、スプリング構造体の性能をより高めることもできるようになる。さらにまた、本発明のスプリング構造体は、連結部材の帯状部の長さ、幅又は厚さなどに様々なバリエーションを考えることも可能である。したがって、帯状部β〜βN−1のうち少なくとも1つの帯状部の長さ、幅又は厚さを、他の帯状部の長さ、幅又は厚さと異なるようにすることも可能であり、スプリング構造体の設計自由度をより高めることも容易である。
【0013】
本発明のスプリング構造体において、ワイヤスプリングS〜Sの折り曲げピッチや折り曲げ角度は、ワイヤスプリング毎に又は全てのワイヤスプリングにおいて統一してもよい。しかし、この場合には、場所によってスプリング構造体のばね特性に変化を持たせるといった工夫を施しにくくなる。このため、少なくともある1つのワイヤスプリングS(mは1以上、N以下の任意の整数)の折り曲げピッチ又は折り曲げ角度を不均一(全てが不均一でなくても、少なくとも1箇所が不均一であればよい。)に設定することにより、ワイヤスプリングSにおける各折り曲げ部の形状を不揃いとすることが好ましい。本発明のスプリング構造体は、ワイヤスプリングの形状や配置にそれ程高い寸法精度が要求されないため、このような不規則な形状を有するワイヤスプリングSであっても容易に組み込むこともできる。
【0014】
ここで、ワイヤスプリングSの「折り曲げピッチ」とは、図16に示すように、ワイヤスプリングSにおける折り曲げ部の曲率中心(図16における点C,C,C,C・・・)の、ワイヤスプリングSの長手方向(ワイヤスプリングSを形成するワイヤそのものの長手方向ではなく、ワイヤスプリングSの全体形状の長手方向。図16に示す矢印Aの方向のこと。)に沿った間隔(図16におけるピッチP)のことをいう。また、ワイヤスプリングSの「折り曲げ角度」とは、図16に示すように、ワイヤスプリングSにおける折り曲げ部の両側でワイヤがなす角度(図16における角度θ)のことをいう。ワイヤスプリングSが図16の紙面手前側又は紙面奥側に反った形状となっている場合には、「折り曲げピッチ」と「折り曲げ角度」は、ワイヤスプリングSを反らせる前の平坦な状態において判断する。
【0015】
本発明のスプリング構造体において、ワイヤスプリングS〜Sは、それら全てが合同形状又は対称形状を有していてもよい。しかし、この場合には、やはり、場所によってスプリング構造体のばね特性に変化を持たせるといった工夫を施しにくくなる。このため、ワイヤスプリングS〜Sのうち少なくとも1つのワイヤスプリングを、他のワイヤスプリングと非合同形状かつ非対称形状とすると好ましい。本発明のスプリング構造体は、ワイヤスプリングの形状や配置にそれ程高い寸法精度が要求されないため、合同形状を有さない複数本のワイヤスプリングや、対称性を有さない複数本のワイヤスプリングであっても容易に組み込むこともできる。
【0016】
本発明のスプリング構造体において、帯状部β〜βN−1のうち少なくとも1つの帯状部に、配線を取り付けるための取付孔又は取付突片を設けることも好ましい。例えば、自動車用シートのクッション材の下側には、該シートに人が着席していることを検知するための着席センサの配線や、シートベルトが使用されていることを検知するためのシートベルトセンサの配線など、各種の配線が施されるが、上記のような構成を採用することによって、これらの配線を帯状部に取り付けることが可能になる。本発明のスプリング構造体における連結部材は、樹脂の成形品であるため、配線のための取付孔や取付突片も容易に形成することができる。
【0017】
本発明のスプリング構造体において、嵌込部α〜αは、ワイヤスプリングS〜Sを嵌め込むことができるものであれば特に限定されない。しかし、嵌込部α〜αは、それぞれワイヤスプリングS〜Sを嵌め込むための嵌込溝を下面に有し、連結部材をワイヤスプリングS〜Sの上方から被せることにより、ワイヤスプリングS〜Sをそれぞれ嵌込部α〜αに嵌め込むことができるようにすると好ましい。これにより、本発明のスプリング構造体を自動車用シートのクッション支持装置などとして使用する際には、その上側に載せられるクッション材からの荷重によって嵌込部α〜αをワイヤスプリングS〜Sに強く押し付けることが可能になり、嵌込部α〜αがワイヤスプリングS〜Sから外れにくくすることができるようになる。このとき、嵌込部α〜αの嵌込溝に、それぞれワイヤスプリングS〜Sの外面に係止してワイヤスプリングS〜Sが嵌込溝から脱落するのを防止するための係止爪を設けるとより好ましい。
【0018】
本発明のスプリング構造体において、嵌込部α1〜αの嵌込溝は、直線状に形成してもよいが、嵌込部α1〜αのうち少なくとも1つの嵌込部の嵌込溝を屈曲又は湾曲して形成し、該嵌込溝にワイヤスプリングの屈曲部又は湾曲部(前記折り曲げ部における曲がり角周辺)を嵌め込むことができるようにすることも好ましい。これにより、ワイヤスプリングに対して嵌込部をスライドしにくくすることが可能になり、連結部材の位置ずれを防止することが可能になる。嵌込部α1〜αの全ての嵌込溝を屈曲又は湾曲して形成し、該嵌込溝にワイヤスプリングS〜Sの屈曲部又は湾曲部を嵌め込むことができるようにするとより好ましい。
【0019】
ただし、このとき、嵌込部α1〜αを嵌込溝の方向に連続した変形しにくい形態(嵌込溝の方向に伸縮できない形態)としておくと、ワイヤスプリングの形状や配置に生じた誤差の程度によっては、嵌込溝にワイヤスプリングの屈曲部や湾曲部を嵌め込みにくくなるおそれがある。このため、嵌込部α1〜αのうち、少なくとも屈曲又は湾曲して形成された嵌込溝を有する嵌込部に、該嵌込溝を横断する方向のスリットを形成すると好ましい。これにより、嵌込部を嵌込溝の方向に伸縮できるようにし、ワイヤスプリングの形状や配置にある程度誤差がある場合であっても、嵌込溝にワイヤスプリングの屈曲部や湾曲部を嵌め込みやすくすることが可能になる。
【0020】
また、上記課題は、ワイヤに平面視略S字状の折り曲げ部を繰り返し形成してなるN本(Nは2以上の任意の整数)のワイヤスプリングS〜Sを並列に配し、隣り合うワイヤスプリングS,Sn+1(nは1以上、N−1以下の全ての整数)における所定箇所を連結部材で横方向に連結することによりパネル状に形成するスプリング構造体の製造方法であって、樹脂の成形品からなる連結部材に予め設けた嵌込部α〜αにそれぞれワイヤスプリングS〜Sを嵌め込むことにより、ワイヤスプリングS〜Sを位置決めしながら横方向に連結することを特徴とするスプリング構造体の製造方法を提供することによっても解決される。その趣旨は、上述した本発明のスプリング構造体と同様である。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によって、きしみ音の発生を抑えたり、重量を軽くしたりするだけでなく、複数本のワイヤスプリングを容易に連結することができ、生産性を高めることが容易なスプリング構造体を提供することが可能になる。また、ワイヤスプリングの形状や配置に変化を持たせることができるなど、設計自由度が高く、場所によってばね特性に変化を持たせるといった工夫も施しやすく、性能を向上させることも可能なスプリング構造体を提供することも可能になる。さらに、このスプリング構造体を用いたクッション支持装置や、このスプリング構造体の製造方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第一実施態様のスプリング構造体を、ワイヤスプリングと連結部材とに分解した状態を示した斜視図である。
【図2】第一実施態様のスプリング構造体を示した斜視図である。
【図3】第一実施態様のスプリング構造体におけるワイヤスプリングと連結部材とを、ワイヤスプリングを形成するワイヤの中心軸に垂直な面で切断した状態を示した断面図である。
【図4】第二実施態様のスプリング構造体を、ワイヤスプリングと連結部材とに分解した状態を示した斜視図である。
【図5】第二実施態様のスプリング構造体を示した斜視図である。
【図6】第二実施態様のスプリング構造体を示した側面図である。
【図7】第二実施態様のスプリング構造体における連結部材の嵌込部周辺を拡大した平面図である。
【図8】第二実施態様のスプリング構造体におけるワイヤスプリングと連結部材とを、ワイヤスプリングを形成するワイヤの中心軸に垂直な面で切断した状態を示した断面図である。
【図9】第三実施態様のスプリング構造体におけるワイヤスプリングと連結部材とを、ワイヤスプリングを形成するワイヤの中心軸に垂直な面で切断した状態を示した断面図である。
【図10】第四実施態様のスプリング構造体における連結部材の取付孔周辺を拡大した平面図である。
【図11】第五実施態様のスプリング構造体における連結部材の取付突片周辺を拡大した平面図である。
【図12】第五実施態様のスプリング構造体における連結部材の取付突片周辺を拡大した正面図である。
【図13】第六実施態様のスプリング構造体を、ワイヤスプリングと連結部材とに分解した状態を示した斜視図である。
【図14】第六実施態様のスプリング構造体を示した斜視図である。
【図15】第六実施態様のスプリング構造体を示した平面図である。
【図16】第六実施態様のスプリング構造体を示した側面図である。
【図17】ワイヤスプリングの折り曲げ部を拡大した状態を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のスプリング構造体について、図面を用いてより具体的に説明する。以下においては、6つの実施態様(第一実施態様から第六実施態様)を例に挙げて本発明のスプリング構造体を説明するが、本発明のスプリング構造体の実施態様は、これらに限定されるものではない。また、以下においては、自動車用シートの着座部のクッション材を支持するためのスプリング構造体を例に挙げて、本発明のスプリング構造体を説明するが、本発明のスプリング構造体の用途は、これに限定されるものではない。
【0024】
1.第一実施態様のスプリング構造体
まず、第一実施態様のスプリング構造体について説明する。図1は、第一実施態様のスプリング構造体10を、ワイヤスプリングS〜Sと連結部材21,22とに分解した状態を示した斜視図である。図2は、第一実施態様のスプリング構造体10を示した斜視図である。図3は、第一実施態様のスプリング構造体10におけるワイヤスプリングSと連結部材21とを、ワイヤスプリングSを形成するワイヤの中心軸に垂直な面で切断した状態を示した断面図である。
【0025】
第一実施態様のスプリング構造体10は、図1に示すように、ワイヤに平面視S字状の折り曲げ部を繰り返し形成してなる4本のワイヤスプリングS〜Sを所定間隔で並列に配し、図2に示すように、ワイヤスプリングS〜Sにおける所定箇所を連結部材21,22で横方向に連結してパネル状に形成したものとなっている。ワイヤスプリングS〜Sを横方向に連結する箇所の数は、特に限定されないが、第一実施態様のスプリング構造体10においては、2本の連結部材21,22を用いてワイヤスプリングS〜Sを2箇所において横方向に連結している。
【0026】
ワイヤスプリングS〜Sのうち、図1の左側に配されたワイヤスプリングS,Sは、1本の真っ直ぐなワイヤに各折り曲げ部を形成した後、該ワイヤをその中間部で180度折り返すことによって形成されたものとなっている。このため、ワイヤスプリングS,Sは、その後側(図1における上側)の端部で連続した形態のものとなっている。図1の右側に配されたワイヤスプリングS,Sも同様である。ワイヤスプリングS〜Sの前側の端部は、シートの着座部における前側のフレーム(図示省略)に取り付けられ、ワイヤスプリングS〜Sの後側の端部に設けられた鉤状部は、シートの着座部における後側のフレーム(図示省略)に取り付けられるようになっている。
【0027】
連結部材21,22のそれぞれは、図1に示すように、嵌込部α〜αと帯状部β〜βとを備えた樹脂の成形品となっている。嵌込部α〜αは、それぞれワイヤスプリングS〜Sを嵌め込んで位置決めするためのものとなっている。一方、帯状部β〜βは、嵌込部αと嵌込部α、嵌込部αと嵌込部α、嵌込部αと嵌込部α、をそれぞれ横方向に連結するためのものとなっている。
【0028】
嵌込部α〜αは、図3に示すように、それぞれワイヤスプリングS〜Sを嵌め込むための嵌込溝を下面に有しており、該嵌込溝には、ワイヤスプリングS〜Sの外面に係止してワイヤスプリングS〜Sが前記嵌込溝から脱落するのを防止するための係止爪が設けられている。このため、第一実施態様のスプリング構造体10は、図1と図2に示すように、連結部材21,22をワイヤスプリングS〜Sの上方から被せることにより、ワイヤスプリングS〜Sを嵌込部α〜αに嵌め込むことができるものとなっている。嵌込部α1〜αは、図1に示すように、それぞれの少なくとも1箇所が屈曲又は湾曲して形成されており、それに形成された前記嵌込溝も嵌込部α1〜αに沿って屈曲又は湾曲して形成されている。このため、嵌込部α1〜αの前記嵌込溝には、それぞれワイヤスプリングS〜Sの屈曲部又は湾曲部を嵌め込むことができるようになっている。嵌込部α1〜αをこのような形態とすることで、ワイヤスプリングS〜Sを二次元的に位置決めることができるようになっている。
【0029】
2.第二実施態様のスプリング構造体
次に、第二実施態様のスプリング構造体について説明する。特に言及しない構成については、第一実施態様のスプリング構造体と同様である。図4は、第二実施態様のスプリング構造体10を、ワイヤスプリングS〜Sと連結部材21,22とに分解した状態を示した斜視図である。図5は、第二実施態様のスプリング構造体10を示した斜視図である。図6は、第二実施態様のスプリング構造体10を示した側面図である。図7は、第二実施態様のスプリング構造体10における連結部材21の嵌込部α,α周辺を拡大した平面図である。図8は、第二実施態様のスプリング構造体10におけるワイヤスプリングSと連結部材21とを、ワイヤスプリングSを形成するワイヤの中心軸に垂直な面で切断した状態を示した断面図である。
【0030】
第二実施態様のスプリング構造体10は、図4に示すように、平面視クランク状の折り曲げ部が繰り返し形成されたワイヤスプリングS〜Sを使用したものとなっている。ワイヤスプリングS〜Sの各折り曲げ部における折り曲げ角度は全て90°で統一されているものの、その折り曲げピッチは不均一に設定されており、ワイヤスプリングS〜Sにおける各折り曲げ部の形状が不揃いとされている。具体的には、着座部の奥側(背凭側)の折り曲げピッチが着座部の手前側の折り曲げピッチよりも狭く設定されており、ワイヤスプリングS〜Sを形成するワイヤが、着座部の奥側で密になり、着座部の手前側で祖になるようになっている。このため、第二実施態様のスプリング構造体10は、より大きな荷重のかかりやすい着座部の奥側では、着席者の臀部をしっかりとサポートしながらも、全体としては十分な弾力性を発揮できるものとなっている。
【0031】
嵌込部α〜αは、図8に示すように、第一実施態様のスプリング構造体10(図3を参照)と同様の係止爪が設けられた嵌込溝を下面に有している。この嵌込溝が屈曲又は湾曲して形成されている点も、第一実施態様のスプリング構造体10と同様であるが、第二実施態様のスプリング構造体10においては、図7に示すように、嵌込部α1〜α(嵌込部α,αについては図示省略)のそれぞれに、前記嵌込溝を横断する方向のスリット12aが設けられている。このように、スリット12aを形成することによって、ワイヤスプリングS〜Sの形状に応じて嵌込部α〜αを変形させることが可能になり、ワイヤスプリングS〜Sの形状や配置にある程度誤差がある場合であっても、前記嵌込溝にワイヤスプリングの屈曲部や湾曲部を嵌め込むことが可能になる。スリット12aを設ける箇所は、特に限定されないが、スリット12aは、通常、前記嵌込溝の屈曲部又は湾曲部における中間地点(曲がり角)に設けられる。
【0032】
また、第二実施態様のスプリング構造体10では、図4に示すように、連結部材21における帯状部β,βが、連結部材21における帯状部βよりも長くなっている。さらに、連結部材21における帯状部β,βは、嵌込部α〜α周辺では幅広に形成されながらも、その中間部分では幅狭に形成されている。本発明のスプリング構造体10は、連結部材21,22を樹脂の成形品としていることに加えて、連結部材21,22における嵌込部α〜αを帯状部β〜βによって連結しているので、帯状部β〜βの長さや幅や厚さなどを、ワイヤスプリングS〜Sの形状や配置に応じて適宜調節することにより、スプリング構造体10に所望のばね特性を付与することができる。
【0033】
さらにまた、第二実施態様のスプリング構造体10は、図6に示すように、ワイヤスプリングS〜Sがその途中でスプリング構造体10の上面側に折り曲げられており、着座部の奥側が下側にやや沈み込んだ形態となるようになっている。このため、第二実施態様のスプリング構造体10は、着席者の臀部をその形状に沿って包み込むようにサポートすることができるものとなっている。スプリング構造体10の上面側や下面側に曲がった形態のワイヤスプリングS〜Sは、その寸法に精度を出しにくいが、本発明のスプリング構造体10では、その誤差を連結部21,22における帯状部β〜βの変形によって吸収することができるので、このような形態のワイヤスプリングS〜Sであっても容易に組み込むことができる。
【0034】
3.第三実施態様のスプリング構造体
次に、第三実施態様のスプリング構造体について説明する。特に言及しない構成については、第二実施態様のスプリング構造体と同様である。図9は、第三実施態様のスプリング構造体10におけるワイヤスプリングSと連結部材21とを、ワイヤスプリングSを形成するワイヤの中心軸に垂直な面で切断した状態を示した断面図である。
【0035】
第三実施態様のスプリング構造体10における嵌込部α〜αは、嵌込溝を下面に有している点では、第一実施態様又は第二実施態様のスプリング構造体10と同様であるが、該係止溝には係止爪が設けられていない。第三実施態様のスプリング構造体10では、図9に示すように、係止爪の代わりに、前記嵌込溝に嵌め込まれたワイヤスプリングS〜Sの下面を覆う開閉蓋が嵌込部α〜αに設けられている。該開閉蓋の基端は、肉薄に形成されたヒンジ部を介して嵌込部α〜αの近傍に接続されている。一方、前記開閉蓋の先端には、帯状部β〜βにおける嵌込部α〜α周辺に設けられた係止孔に係止するための鉤状部が設けられている。この嵌込部α〜αは、係止爪によってワイヤスプリングS〜Sの外周面を係止する嵌込部と比較して、より確実にワイヤスプリングS〜Sの脱落を防止できるものとなっている。
【0036】
4.第四実施態様のスプリング構造体
次に、第四実施態様のスプリング構造体について説明する。特に言及しない構成については、第二実施態様のスプリング構造体と同様である。図10は、第四実施態様のスプリング構造体10における連結部材21の取付孔21b周辺を拡大した平面図である。
【0037】
第四実施態様のスプリング構造体10は、図10に示すように、その連結部材21における帯状部β,β(帯状部βについては図示省略)に、配線を取り付けるための取付孔21bが設けられたものとなっている。この取付孔21bには、シートに人が着席していることを検知するための着席センサの配線や、シートベルトが使用されていることを検知するためのシートベルトセンサの配線など、各種の配線を通すことができる。本発明のスプリング構造体10は、連結部材21,22を樹脂の成形品としているため、このような取付孔21bを連結部材21,22に容易に設けることができる。
【0038】
5.第五実施態様のスプリング構造体
次に、第五実施態様のスプリング構造体について説明する。特に言及しない構成については、第二実施態様のスプリング構造体と同様である。図11は、第五実施態様のスプリング構造体10における連結部材21の取付突片21c周辺を拡大した平面図である。図12は、第五実施態様のスプリング構造体10における連結部材21の取付突片周辺21cを拡大した正面図である。
【0039】
第五実施態様のスプリング構造体10は、図11と図12に示すように、その連結部材21における帯状部β,β(帯状部βについては図示省略)の手前側の縁部に、配線を取り付けるための取付突片21cが設けられたものとなっている。この取付突片21cには、第四実施態様のスプリング構造体10における取付孔21bと同様、各種の配線を通すことができる。取付突片21cの形態は、配線を取り付けることができるのであれば特に限定されず、ループ状に設けてもよいが、第五実施態様のスプリング構造体10においては、図12に示すように、鉤状としている。本発明のスプリング構造体10は、連結部材21,22を樹脂の成形品としているため、このような形態の取付突片21cを連結部材21,22に一体的に設けることができる。
【0040】
6.第六実施態様のスプリング構造体
最後に、第六実施態様のスプリング構造体について説明する。特に言及しない構成については、第二実施態様のスプリング構造体と同様である。図13は、第六実施態様のスプリング構造体10を、ワイヤスプリングS〜Sと連結部材21,22とに分解した状態を示した斜視図である。図14は、第六実施態様のスプリング構造体10を示した斜視図である。図15は、第六実施態様のスプリング構造体10を示した平面図である。図16は、第六実施態様のスプリング構造体10を示した側面図である。
【0041】
第六実施態様のスプリング構造体10は、図13〜15に示すように、ワイヤスプリングS〜Sの折り曲げピッチと折り曲げ角度の両方が不均一に設定されており、ワイヤスプリングS〜Sにおける各折り曲げ部の形状が不揃いとされている。具体的には、着座部の奥側(背凭側)の折り曲げピッチ及び折り曲げ角度が、概して、着座部の手前側の折り曲げピッチ及び折り曲げ角度よりも狭く設定されている。このため、ワイヤスプリングS〜Sを形成するワイヤは、着座部の奥側で密になり、着座部の手前側で祖になっている。このため、第六実施態様のスプリング構造体10も、第二実施態様のスプリング構造体10と同様、より大きな荷重のかかりやすい着座部の奥側では、着席者の臀部をしっかりとサポートしながらも、全体としては十分な弾力性を発揮できるものとなっている。
【0042】
ところで、第六実施態様のスプリング構造体10のように、ワイヤスプリングS〜Sの折り曲げ角度を不均一とする場合であっても、その折り曲げ部の折り曲げ半径を一定としておけば、1つの折り曲げ成形機によって全ての折り曲げ部を形成できるので、ワイヤスプリングS〜Sの成形コストを抑えることができる。第六実施態様のスプリング構造体10においても、ワイヤスプリングS〜Sの各折り曲げ部における折り曲げ半径は統一している。
【0043】
また、第六実施態様のスプリング構造体10においては、図15に示すように、外側に配されたワイヤスプリングSとワイヤスプリングSには、左右に対称な形状のものを使用し、内側に配されたワイヤスプリングSとワイヤスプリングSにも、左右に対称な形状のものを使用している。しかし、外側のワイヤスプリングS,Sと内側のワイヤスプリングS,Sは、合同形状でも対称形状でもない異なる形状としており、外側のワイヤスプリングS,Sが内側のワイヤスプリングS,Sよりも硬くなる(図15の紙面に垂直な方向に変形しにくい)ようにしている。このように、スプリング構造体10における外側を内側よりも硬くすることにより、シートに着席した際の臀部を左右両側から適度にホールドすることが可能になり、シートの座り心地をさらに良くすることができる。
本発明のスプリング構造体10は、ワイヤスプリングS〜Sの形状や配置にそれ程高い寸法精度が要求されないため、このような形態のワイヤスプリングS〜Sであっても容易に組み込むこともできる。
【0044】
7.用途
本発明のスプリング構造体は、その用途を限定されるものではないが、通常、各種のクッション材を支持するためのスプリング構造体として使用される。設計自由度が高く、ばね特性の設定の自由度も高いという本発明のスプリング構造体の特徴を活かすためには、シートやベッドなど、使用時に心地よさが要求される器具や家具(人の身体を支える器具や家具)のクッション材を支持するためのものとして好適である。なかでも、シートの着座部や背凭部のクッション材を支持するためのスプリング構造体として好適である。特に、本発明のスプリング構造体は、きしみ音やガタツキが発生しにくいという利点も有しているため、振動のある環境下で使用される自動車用シートなど、乗り物用シートの着座部や背凭部のクッション材を支持するためのスプリング構造体として使用すると好適である。
【符号の説明】
【0045】
10 スプリング構造体
21 連結部材
21a スリット
21b 取付孔
21c 取付突片
22 連結部材
ワイヤスプリング
ワイヤスプリング
ワイヤスプリング
ワイヤスプリング
α 嵌込部
α 嵌込部
α 嵌込部
α 嵌込部
β 帯状部
β 帯状部
β 帯状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤに平面視略S字状の折り曲げ部を繰り返し形成してなるN本(Nは2以上の任意の整数)のワイヤスプリングS〜Sを並列に配し、隣り合うワイヤスプリングS,Sn+1(nは1以上、N−1以下の全ての整数)における所定箇所を連結部材で横方向に連結してパネル状に形成したスプリング構造体であって、
連結部材が、ワイヤスプリングSを嵌め込んで位置決めするための嵌込部αと、ワイヤスプリングSn+1を嵌め込んで位置決めするための嵌込部αn+1と、嵌込部αと嵌込部αn+1とを横方向に連結する帯状部βとを備えた樹脂の成形品であることを特徴とするスプリング構造体。
【請求項2】
ワイヤスプリングS(mは1以上、N以下の任意の整数)の折り曲げピッチ又は折り曲げ角度が不均一に設定されることにより、ワイヤスプリングSにおける各折り曲げ部の形状が不揃いとされた請求項1記載のスプリング構造体。
【請求項3】
ワイヤスプリングS〜Sのうち少なくとも1つのワイヤスプリングが他のワイヤスプリングと非合同形状かつ非対称形状である請求項1又は2記載のスプリング構造体。
【請求項4】
帯状部β〜βN−1のうち少なくとも1つの帯状部の長さ、幅又は厚さが、他の帯状部の長さ、幅又は厚さと異なる請求項1〜3いずれか記載のスプリング構造体。
【請求項5】
帯状部β〜βN−1のうち少なくとも1つの帯状部に、配線を取り付けるための取付孔又は取付突片が設けられた請求項1〜4いずれか記載のスプリング構造体。
【請求項6】
嵌込部α〜αが、それぞれワイヤスプリングS〜Sを嵌め込むための嵌込溝を下面に有し、連結部材をワイヤスプリングS〜Sの上方から被せることにより、ワイヤスプリングS〜Sをそれぞれ嵌込部α〜αに嵌め込むことができるようにした請求項1〜5いずれか記載のスプリング構造体。
【請求項7】
嵌込部α〜αの嵌込溝に、それぞれワイヤスプリングS〜Sの外面に係止してワイヤスプリングS〜Sが嵌込溝から脱落するのを防止するための係止爪が設けられた請求項6記載のスプリング構造体。
【請求項8】
嵌込部α1〜αのうち少なくとも1つの嵌込部の嵌込溝が屈曲又は湾曲して形成され、該嵌込溝にワイヤスプリングの屈曲部又は湾曲部を嵌め込むことができるようにした請求項6又は7記載のスプリング構造体。
【請求項9】
嵌込部α1〜αのうち屈曲又は湾曲して形成された嵌込溝を有する嵌込部に、該嵌込溝を横断する方向のスリットを形成した請求項8記載のスプリング構造体。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか記載のスプリング構造体を用いたクッション支持装置。
【請求項11】
ワイヤに平面視略S字状の折り曲げ部を繰り返し形成してなるN本(Nは2以上の任意の整数)のワイヤスプリングS〜Sを並列に配し、隣り合うワイヤスプリングS,Sn+1(nは1以上、N−1以下の全ての整数)における所定箇所を連結部材で横方向に連結することによりパネル状に形成するスプリング構造体の製造方法であって、
樹脂の成形品からなる連結部材に予め設けた嵌込部α〜αにそれぞれワイヤスプリングS〜Sを嵌め込むことにより、ワイヤスプリングS〜Sを位置決めしながら横方向に連結することを特徴とするスプリング構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−259685(P2010−259685A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114127(P2009−114127)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(591283501)備前発条株式会社 (33)
【Fターム(参考)】