説明

スプルブッシュ、ピンポイントゲートブッシュ及び成形用金型

【課題】 射出成形における成形サイクル時間の短縮と材料歩留まりの、両方を解決するための手段を提供する。
【解決手段】 スプル穴のスプルロック側の開口部5とノズルタッチ側の開口部3における、長さ方向に垂直な断面形状が異なり、前記スプルロック側の開口部5を周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状、前記ノズルタッチ側の開口部3は前記凹凸の凹部の先端が接する円8bよりも径が小さい円形状として、スプルロック側の開口部5とノズルタッチ側の開口部3との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状としたスプルブッシュ1や、同様の構造を具備するピンポイントゲートブッシュなどを用いる。これによってスプル部などの体積が減少し、スプル内壁の表面性が増加して冷却速度が向上するので、材料の歩留り向上と成形サイクル時間短縮が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に熱可塑性の高分子材料の成形用金型に用いられる、スプルブッシュ及びそれを用いた金型に関し、特に成形サイクル時間の短縮と材料の歩留まり向上を可能とするものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に射出成形の金型は、加熱により溶融可塑化された材料を高圧で内部に充填し、成形体を形成するためのキャビティや、キャビティ内に材料を導入するためのゲート、ランナを設けた可動型と、材料を射出するノズルに接し、ランナに材料を導入するためのスプルなどが設けられた固定型からなる。
【0003】
図9は射出成形の金型の一例の一部の断面を示した図である。図1において、25はスプル、26はランナロックピン、27はロケートリング、28は固定側取付板、29はランナストリッパプレート、30はランナ、31は固定側型板、32は入れ子、33はピンポイントゲートブッシュである。
【0004】
図9に示した例で説明すると、射出成形においては、射出成形機におけるスクリューを内蔵するシリンダで、加熱・溶融・混練した高分子材料を、シリンダの先端に設けられたノズルから、金型のスプル25に圧入し、スプル25からランナ30、ピンポイントゲートブッシュ33を経て型締めされたキャビティへ充填・冷却・固化させ、次いで可動型を動かすことで型開きし、可動型側に設けられたエジェクタピンで、成形品を突き出し取り出すというサイクルで成形を行う。
【0005】
このような成形工程で、生産性を向上するには、成形サイクルに要する時間の短縮により、単位時間あたりの生産数を増加することが必要である。また成形コストの削減には、材料の歩留まり向上が重要となるが、射出成形においては、成形体の他に、前記のスプル25、ランナ30、ピンポイントゲートブッシュ33の部分においても材料が消費されることから、これらの体積減少が課題となる。
【0006】
射出成形においては、前記のように、材料を加熱により溶融した状態でキャビティに充填することから、キャビティ内に充填された材料が冷却固化しないと、突き出すことができないので、冷却を迅速にすることがサイクル時間短縮に寄与することになる。
【0007】
このような観点から特許文献1には、スプルブッシュ外周部に切り欠き部を形成し、固定型のスプルブッシュが嵌合する孔の壁面と切り欠き部とによって、冷却媒体が循環する冷却媒体用空間を形成することで、冷却速度を速くする技術が開示されている。しかし、この場合、固定型の構造が複雑になる他、別途に冷却媒体を循環させるためのポンプが必要となる。
【0008】
また、特許文献2には、スプルブッシュ内に溶融した材料が通過するスプル孔を有するスライド部を摺動可能に嵌合して設け、かつ該スライド部が長手方向に複数に分割され、該分割されたスライド部が、型開時に型開方向へ移動することにより、スプル孔の径が拡大可能な状態を生じる構造のスプルブッシュを用いることにより、スプル部が占める容積を減少する技術が開示されている。しかし、ここに開示されているスプルブッシュは、構造がやや複雑で、コスト低減という意味では課題を残すものとなっている。
【0009】
また、材料歩留まり向上のための技術として、例えば特許文献3に開示されているようなホットランナの技術がある。しかしこの場合においても、ランナなどを冷却しないで成形することに伴って生じる、ゲートの糸ひき現象や詰まり、材料の滞留変色などの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】 特開2007−050412号公報
【特許文献2】 特開2001−113569号公報
【特許文献3】 特開1997−164557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の課題は、前記の課題に鑑み、成形サイクル時間の短縮と材料歩留まりの、両方を解決するための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題の解決のため、冷却速度の増加と材料歩留まりの向上の両方に対応した、スプルブッシュなどの構造を再検討した結果なされたものである。
【0013】
即ち、本発明は、射出成形用金型のスプルブッシュにおいて、スプルロック側の開口部とノズルタッチ側の開口部における、長さ方向に垂直な断面形状が異なり、前記スプルロック側の開口部は周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状、前記ノズルタッチ側の開口部は前記凹凸の凹部の先端が接する円よりも径が小さい円形状であり、前記スプルロック側の開口部と前記ノズルタッチ側の開口部との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状であることを特徴とするスプルブッシュである。
【0014】
また、本発明は、射出成形用金型のピンポイントゲートブッシュにおいて、ゲート側の開口部と反対側の開口部における、長さ方向に垂直な断面形状が異なり、前記反対側の開口部は周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状、前記ゲート側の開口部は前記反対側の開口部よりも径が小さい円形状、または、前記反対側の開口部よりも面積が狭く、周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状であり、前記ゲート側の開口部と前記反対側の開口部との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状であることを特徴とするピンポイントゲートブッシュである。
【0015】
また、本発明は、射出成形用金型のピンポイントゲート延長ブッシュにおいて、ピンポイントゲートが接合される側の開口部と反対側の開口部における、長さ方向に垂直な断面形状が異なり、前記反対側の開口部は周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状、前記ピンポイントゲートが接合される側の開口部は前記反対側の開口部よりも径が小さい円形状、または、前記反対側の開口部よりも面積が狭く、周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状であり、前記ピンポイントゲートが接合される側の開口部と前記反対側の開口部との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状であることを特徴とするピンポイントゲートブッシュである。
【0016】
また、本発明は、前記のスプルブッシュ、前記のピンポイントゲートブッシュ、前記のピンポイントゲート延長ブッシュの少なくともいずれかを構成要素として含むことを特徴とする射出成形用金型である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるスプルブッシュにおいては、スプル穴の内壁に向かって凸部が突出した状態の、凹凸形状が形成されているため、スプル穴の体積が、断面が円形のテーパ形状のスプル穴に比較すると容積が小さくなる。このため、製品とならない材料の発生量が減少し、材料の歩留まりが向上する。
【0018】
また、スプル穴の内壁に設けられた凹凸形状のため、スプル穴の内壁の表面積が増加し、それに伴って伝熱面積も拡がるので、スプル部分や周辺部の冷却速度が速くなり、サイクル時間の短縮に寄与する。
【0019】
さらに、成形体の形状などによる金型の設計の都合上、スプルのブッシュの他に、図7に示したように、ピンポイントゲートを用いたり、図示していないピンポイントゲート延長ブッシュを用いたりすることがあり、これらの部材に対しても前記と同様の構造を付与することで、同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 本発明に係るスプルブッシュの一例を示す図、図1(a)は平面図、図2(b)はAA断面図、図1(c)は底面図。
【図2】 スプルロック側の開口部形状の詳細を示す図。
【図3】 本発明に係るスプルブッシュの内部のスプル穴形状の概略を示す斜視図。
【図4】 本発明に係るピンポイントゲートブッシュの第一の例を示す図、図4(a)は平面図、図4(b)はAA断面図、図4(c)は底面図。
【図5】 本発明に係るピンポイントゲートブッシュの第二の例を示す図、図5(a)は平面図、図5(b)はAA断面図、図5(c)は底面図。
【図6】 本発明に係るピンポイントゲートブッシュの第三の例を示す図、図六(a)は平面図、図6(b)はAA断面図、図6(c)は底面図。
【図7】 本発明に係るピンポイントゲート延長ブッシュの一例を示す図、図7(a)は平面図、図7(b)はAA断面図、図7(c)は底面図。
【図8】 図6に示したピンポイントゲートブッシュと図7に示したピンポイントゲート延長ブッシュを接合した状態を示す図。
【図9】 射出成形の金型の一例の一部の断面を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、具体的な図を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、本発明に係るスプルブッシュの一例を示す図で、図1(a)は平面図、図2(b)はAA断面図、図1(c)は底面図である。図2は、スプルロック側の開口部形状の詳細を示す図である。また、図3は、本発明に係るスプルブッシュの内部のスプル穴形状の概略を示す斜視図である。
【0023】
図1において、1はスプルブッシュ、2はノズルタッチ部、3はスプル穴のノズルタッチ側の開口部、4はスプル穴、5はスプル穴のスプルロック側の開口部である。また、図2において、6は凸部、7は凹部、8aは凸部の先端が接する円、8bは凹部の先端が接する円である。
【0024】
図1及び図2に示したように、この例においては、スプルロック側の開口部5の形状が45°の間隔で8組の凹凸を有するものとなっている。そして、ノズルタッチ側の開口部3の形状は、通常の円であり、スプルロック側の開口部5とノズルタッチ側の開口部3との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状である。
【0025】
そして、図2における凹部の先端が接する円8bの直径をφ3.1mm、ノズルタッチ側の開口部3の直径をφ3mm、スプル穴4の長さを51mmとした場合、その体積は、約571mmとなる。それに対して図3に示したように8組の凹凸を設けた場合は、約466mmとなる。同様に、6組の凹凸では、461mm、10組の凹凸では463mm、12組の凹凸では457mmとなり、通常のスプルブッシュに比較すると体積を減少することができる。
【0026】
また、ここでは実測値を示さないが、凹凸を設けることにより、スプル穴4の表面積が大きくなることにより、伝熱面積の増加が冷却速度を速めることになり、成形サイクル時間を短縮できるのは、前記の通りである。
【0027】
図4は、本発明に係るピンポイントゲートブッシュの第一の例を示す図で、図4(a)は平面図、図4(b)はAA断面図、図4(c)は底面図である。図4において、9はピンポイントゲートブッシュ、10はゲート側の開口部、11はテーパ部、12は反対側の開口部である。図4に示したように、この例においては、ゲート側の開口部10が円形状で、反対側の開口部12が、6組の凹凸を設けた形状である。
【0028】
図5は、本発明に係るピンポイントゲートブッシュの第二の例を示す図で、図5(a)は平面図、図5(b)はAA断面図、図5(c)は底面図である。図5において、13はピンポイントゲートブッシュ、14はゲート側の開口部、15はテーパ部、16は反対側の開口部である。図5に示したように、この例においては、ゲート側の開口部7が6組の凹凸を設けた形状であり、反対側の開口部9が、やはり6組の凹凸を設けた形状で、ゲート側よりも面積が広く、その間は不連続箇所のないテーパ形状となっている。
【0029】
図6は、本発明に係るピンポイントゲートブッシュの第三の例を示す図で、図6(a)は平面図、図6(b)はAA断面図、図6(c)は底面図である。図6において、17はピンポイントゲートブッシュ、18はゲート側の開口部、19はテーパ部、20は反対側の開口部である。図6に示したように、この例においては、ゲート側の開口部が円形状、反対側の開口部が6組の凹凸を設けた形状である。そして、二つの開口部の間のテーパ部19は2段となっているが、溶融した材料の流動の障害となる不連続箇所はない構造である。
【0030】
図7は、本発明に係るピンポイントゲート延長ブッシュの一例を示す図で、図7(a)は平面図、図7(b)はAA断面図、図7(c)は底面図である。図7において、21はピンポイントゲート延長ブッシュ、22は反対側の開口部、23はテーパ部、24はピンポイントゲートが接続される側の開口部である。図7に示したように、二つの開口部のそれぞれが、面積の異なる6組の凹凸を設けた形状である。
【0031】
図8は、図6に示したピンポイントゲートブッシュ17と、図7に示したピンポイントゲート延長ブッシュ21を接合した状態を示す図。このように必要に応じて、ピンポイントゲート延長ブッシュを用いることで、金型設計の自由度向上に寄与することができる。
【0032】
以上に説明したように、本発明によれば、簡単に金型に組み込むことが可能で、成形サイクル時間短縮や材料歩留り向上に寄与し得る、スプルブッシュなどを提供することが可能となる。また、本発明は射出成形以外の、例えばトランスファー成形やダイキャストにも応用が可能である。
【0033】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 スプルブッシュ
2 ノズルタッチ部
3 ノズルタッチ側の開口部
4 スプル穴
5 スプルロック側の開口部
6 凸部
7 凹部
8a 凸部の先端が接する円
8b 凹部の先端が接する円
9,13,17 ピンポイントゲートブッシュ
10,14,18 ゲート側の開口部
11,15,19,23 テーパ部
12,16,22 反対側の開口部
24 ピンポイントゲートが接続される側の開口部
25 スプル
26 ランナロックピン
27 ロケートリング
28 固定側取付板
29 ランナストリッパプレート
30 ランナ
31 固定側型板
32 入れ子
33 ピンポイントゲートブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形用金型のスプルブッシュにおいて、スプルロック側の開口部とノズルタッチ側の開口部における、長さ方向に垂直な断面形状が異なり、前記スプルロック側の開口部は周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状、前記ノズルタッチ側の開口部は前記凹凸の凹部の先端が接する円よりも径が小さい円形状であり、前記スプルロック側の開口部と前記ノズルタッチ側の開口部との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状であることを特徴とするスプルブッシュ。
【請求項2】
射出成形用金型のピンポイントゲートブッシュにおいて、ゲート側の開口部と反対側の開口部における、長さ方向に垂直な断面形状が異なり、前記反対側の開口部は周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状、前記ゲート側の開口部は前記反対側の開口部よりも径が小さい円形状、または、前記反対側の開口部よりも面積が狭く、周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状であり、前記ゲート側の開口部と前記反対側の開口部との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状であることを特徴とするピンポイントゲートブッシュ。
【請求項3】
射出成形用金型のピンポイントゲート延長ブッシュにおいて、ピンポイントゲートが接合される側の開口部と反対側の開口部における、長さ方向に垂直な断面形状が異なり、前記反対側の開口部は周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状、前記ピンポイントゲートが接合される側の開口部は前記反対側の開口部よりも径が小さい円形状、または、前記反対側の開口部よりも面積が狭く、周方向に一定間隔でかつ一定深さの複数の凹凸が設けられた形状であり、前記ピンポイントゲートが接合される側の開口部と前記反対側の開口部との間は、長さ方向に凹凸のない一様に連続したテーパ形状であることを特徴とするピンポイントゲートブッシュ。
【請求項4】
請求項1に記載のスプルブッシュ、請求項2に記載のピンポイントゲートブッシュ、請求項3に記載のピンポイントゲート延長ブッシュの少なくともいずれかを構成要素として含むことを特徴とする射出成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−75504(P2013−75504A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290674(P2011−290674)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【出願人】(509221412)株式会社プラモール精工 (4)
【Fターム(参考)】