説明

スプレッド、その製造方法及び該スプレッドを用いたベーカリー製品

【課題】 ウエハース、パン等の表面に塗り広げて食される加工油脂食品であるスプレッドにおいて、栄養的価値の高い蛋白質を高濃度に含有し、且つ、ウエハース等に塗り広げるのが容易であり、菓子加工時の取り扱い性にも優れたスプレッド及びその製造方法を提供し、並びに、該スプレッドを用いたベーカリー製品を提供する。
【解決手段】 油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有し、蛋白質含有量が20〜60質量%であるスプレッド原料混合物を最大粒径が15〜40μmとなるように微粒子してスプレッドを得る。また、前記スプレッドを第一スプレッド原料とし、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料をスプレッド全体の85質量%以下で添加してスプレッドを得る。更にまた、これらのスプレッドを、ウエハース、ビスケット、クラッカー、パン、中空菓子等に塗付及び/又は充填してベーカリー製品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレッド及びその製造方法に関し、詳しくは、栄養的価値の高い蛋白質を高濃度に含有するスプレッド及び該スプレッドを用いたベーカリー製品の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
健康維持のために栄養バランスを向上させることを目的として、所望の栄養素を配合してなる栄養補助食品が知られている。すなわち、例えば、蛋白質を配合してなる栄養補助食品によれば、蛋白質を必須アミノ酸等の栄養源として効率よく摂取することができ、通常の食事からの摂取に付随する、脂肪、コレステロール、塩分、糖分等の過多な摂取を防ぐことができる。
【0003】
また、近時、食品素材から調製される蛋白質組成物のなかには、身体の生理学的機能等を改善する保健機能成分を豊富に含有するものが報告されている。例えば、大豆蛋白はアミノ酸バランスの優れた植物性蛋白であり、そして、高コレステロール血症者の悪玉コレステロール濃度を低下させる働きのあることが知られている。また、牛乳の主要蛋白質成分であるカゼインのペプチド化カゼインペプチドには、カルシウム吸収促進作用のあることが知られている。したがって、蛋白質を配合してなる栄養補助食品は、必須アミノ酸等の栄養源としてのみならず、特定の保健的機能を有する保健用栄養補助食品としても望まれている。
【0004】
このような栄養補助食品の摂取形態として、粉体食品、錠剤又はドリンク剤等として摂取することも行われるが、そのような形態では、食生活の一環として継続的に楽しみながら摂取することができない。
【0005】
そこで、ウエハース、ビスケット、クラッカー、パン等のベーカリー製品に蛋白質組成物を配合して、嗜好的に摂取し易い形態とすることが試みられている。しかしながら、有効十分量の蛋白質を摂取できる形態とすることを目的として、高濃度の蛋白質を含む蛋白質組成物を生地に配合すると、蛋白質の水和性、ゲル化特性等に起因して、本来の食感を生じさせる素材のテキスチャー特性が損なわれてしまうという問題があった。
【0006】
このような問題に対して、例えば、下記特許文献1には、蛋白質を高濃度で含有するものであって、ソフトで、噛みだし性および口溶け性が良好な焼成食品を提供することを目的として、食品全体に対して少なくとも15重量%(乾燥重量基準)の量の蛋白質成分と、油脂成分と、糖質成分とを少なくとも含んでなる、高蛋白焼成食品であって、蛋白質成分と、油脂成分と、糖質成分とを含んでなる第1の材料混合物を微粉砕して攪拌して、クリーム状の予備生成物を予め形成させ、これを、該予備生成物とは別に用意した、油脂成分および糖質成分を少なくとも含んでなる第2の材料混合物と、混合して焼成することにより得られる、高蛋白焼成食品が開示されている。
【0007】
一方、このような高蛋白焼成食品とは別に、ウエハース、パン等に使用するスプレッドに蛋白質を配合することが考えられるが、ウエハース、パン等の表面に塗り広げて食されるクリーム状のスプレッドに蛋白質を高濃度に配合すると、素材の展延性や流動性が損なわれてしまい、ウエハース、パン等の表面に塗り広げるのが困難となり、また、菓子加工装置の流動パイプへのつまりやホッパー攪拌羽根が回らなくなる等、加工時の取り扱い性が損なわれてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2003−339303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載された高蛋白焼成食品は、原料を焼成処理することによって得られるクッキー、ビスケットのようなクッキー様食品、クラッカー、ケーキ、パン、プレッツェル等の焼成食品に高濃度の蛋白質を配合してなるものであるので、高温焼成時におこる蛋白質の熱変性や、熱による生地の化学的変化等のために、素材のテキスチャー特性を保ちつつ、蛋白質の含有量をベーカリー製品全体の30質量%以上に増加させることは難しかった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ウエハース、パン等の表面に塗り広げて食されるクリーム菓子等のスプレッドにおいて、蛋白質を高濃度に含有し、且つ、ウエハース等に塗り広げるのが容易であり、菓子加工時の取り扱い性にも優れたスプレッド及びその製造方法を提供することにあり、更には、該蛋白質を高濃度に含有するスプレッドを用いたベーカリー製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一つは、油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有するスプレッドにおいて、蛋白質含有量が20〜60質量%であり、最大粒径が15〜40μmであることを特徴とするスプレッドである。ここで、「蛋白質組成物」とは、蛋白質純度が48〜100質量%であって食用に供することができる組成物を意味する。
【0011】
上記本発明のスプレッドによれば、その最大粒径が15〜40μmであるので、蛋白質を高濃度に配合しても、ウエハース等に塗り広げるのが容易であり、定着性にも優れ、また、菓子加工装置によって加工する場合にも、流動性の低下による菓子加工装置の流動パイプへのつまりやホッパー攪拌羽根が回らなくなること等がなく、加工時の取り扱い性に優れている。
【0012】
また、本発明のもう一つは、上記本発明のスプレッドに、更に、最大粒径が40μmを超えるスプレッド原料をスプレッド全体の85質量%以下で添加したことを特徴とするスプレッドである。ここで、「スプレッド原料」とは、加工油脂食品であるスプレッドを調製するために必要な原料、又は原料の混合物を意味し、例えば、油脂、蛋白質組成物、糖質、乳化剤、香料、栄養補助成分等、又はこれらの2種以上の混合物等である。
【0013】
上記本発明のスプレッドによれば、最大粒径が15〜40μmである第一スプレッド原料に、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料を添加したものであるので、最大粒径が15〜40μmである第一スプレッド原料が、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料を分散させる機能を果たす。したがって、第二スプレッド原料が、高濃度の蛋白質を含有し、その蛋白質の特性及び/又は第二スプレッド原料の成分に起因して、微粉砕処理に適さないような場合であっても、混錬することで、添加して得られるスプレッドは、蛋白質を高濃度に配合しても、ウエハース等に塗り広げるのが容易であり、塗り広げたあとの定着性にも優れている。また、菓子加工装置によって加工する場合にも、流動性の低下による菓子加工装置の流動パイプへのつまりやホッパー攪拌羽根が回らなくなること等がなく、加工時の取り扱い性に優れている。
【0014】
本発明のスプレッドの好ましい態様においては、上記蛋白質組成物が、大豆蛋白、ホエイ蛋白、乳蛋白、コラーゲン、又はそれらのペプチド化組成物から選ばれた少なくとも一種である。これによれば、栄養的価値の高い蛋白質を高濃度に含有するスプレッドとすることができる。
【0015】
更に、本発明のもう一つは、上記本発明のスプレッドを塗付及び/又は充填されたことを特徴とするベーカリー製品である。
【0016】
上記本発明のベーカリー製品によれば、蛋白質を高濃度に含有し、且つ、展延性、流動性、又は菓子基材への定着性に優れたスプレッドを用いた複合菓子であるので、栄養的価値の高い蛋白質を高濃度に含むベーカリー製品の大量生産が容易である。
【0017】
本発明のベーカリー製品においては、上記ベーカリー製品が、ウエハース、ビスケット、クラッカー、パン及び中空菓子から選ばれた一種であることが好ましい。
【0018】
また、本発明のもう一つは、油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有し、蛋白質含有量が20〜60質量%であるスプレッド原料混合物を最大粒径が15〜40μmとなるように微粒子化することを特徴とするスプレッドの製造方法である。
【0019】
上記本発明のスプレッドの製造方法によれば、蛋白質を高濃度に含有するスプレッド原料混合物に微粉砕処理を施すことにより、ウエハースに滑らかに塗り広げることができ、ウエハースに定着しやすく、且つ、菓子加工装置での流動性も良好である等、スプレッドとして好ましい展延性、流動性を付与することができる。
【0020】
更にまた、本発明のもう一つは、油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有し、蛋白質含有量が20〜60質量%であるスプレッド原料混合物を最大粒径が15〜40μmとなるように微粒子化して第一スプレッド原料を調製した後、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料をスプレッド全体の85質量%以下で添加することを特徴とするスプレッドの製造方法である。
【0021】
上記本発明のスプレッドの製造方法によれば、最大粒径が15〜40μmである第一スプレッド原料に、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料を添加するものであるので、最大粒径が15〜40μmである第一スプレッド原料が、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料を分散させる機能を果たす。したがって、得られるスプレッドは、蛋白質を高濃度に配合しても、ウエハース等に塗り広げるのが容易であり、塗り広げたあとの定着性にも優れている。また、菓子加工装置によって加工する場合にも、流動性の低下による菓子加工装置の流動パイプへのつまりやホッパー攪拌羽根が回らなくなること等がなく、加工時の取り扱い性に優れている。
【0022】
本発明のスプレッドの製造方法の好ましい態様においては、上記蛋白質組成物が、大豆蛋白、ホエイ蛋白、乳蛋白、コラーゲン、又はそれらのペプチド化組成物から選ばれた少なくとも一種である。これによれば、栄養的価値の高い蛋白質を高濃度に含有するスプレッドとすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、蛋白質を高濃度に含有するスプレッド原料混合物に微粉砕処理を施すことにより、ウエハースに滑らかに塗り広げることができ、ウエハースに定着しやすく、且つ、菓子加工装置での流動性も良好である等、スプレッドとして好ましい展延性、流動性を付与することができる。また、そのように調製したスプレッドを第一スプレッド原料とし、更に、蛋白質を高濃度に含有し、微粉砕処理を施さない第二スプレッド原料を添加して得られるスプレッドにも、スプレッドとして好ましい展延性、流動性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のスプレッドは、後述するように、油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有するスプレッド原料混合物を混合、混練、微粉砕等することで調製される加工油脂食品である。
【0025】
本発明において用いられるスプレッド原料としては、蛋白質組成物、並びに加工油脂食品であるスプレッドを調製するために通常用いられる原料、又は原料の混合物であればよく、例えば、蛋白質組成物以外のスプレッド原料としては、油脂、糖質、乳化剤、香料、栄養補助成分等、又はこれらの2種以上の混合物等を好ましく用いることができる。
【0026】
本発明において、油脂は、食用に供することができれば特に制限されるものではなく、植物性油脂、動物性油脂、加工油脂のいずれであってもよい。具体的には、例えば、米油、菜種油、大豆油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油、コーン油、パーム油、サフラワー油、カカオバター、魚油、牛脂、豚脂、あるいはこれらを必要に応じ加工した硬化油、微水添油、異性化水添油、エステル交換油、分別油、及びこれらの2種以上の加工を行なった油、並びにそれらの油脂を2種以上混合した油脂等である。
【0027】
本発明の好ましい態様においては、上記油脂を原料として調製されたショートニングを用いる。これによれば、ショートニングの加工性により、展延性、粘着性等、スプレッドとしての素材テキスチャー特性を付与することができる。
【0028】
本発明においては、スプレッド(水分を含んでいてもよい)の全体に対する油脂の乾燥重量換算での含有量は、好ましくは20〜60質量%であり、より好ましくは25〜45質量%である。上記油脂の含有量がスプレッド全体に対して20質量%以下であると、展延性、流動性が悪くなるため好ましくなく、60質量%以上であると蛋白質を高濃度に配合することができないので好ましくない。
【0029】
本発明において、糖質は、食用に供することができれば特に制限されるものではなく、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類のいずれであってもよく、それらの2種以上の組合わせであってもよい。具体的には、例えば、甘味を付与する目的で、砂糖、粉糖、果糖、グラニュー糖、甘味性オリゴ糖類、甘味性糖アルコール類、ステビア等を使用することができる。
【0030】
本発明のスプレッドの原料となる蛋白質組成物は、蛋白質純度が48〜100質量%であることが必要であり、更に、蛋白質純度が75〜98質量%であることが好ましい。これによれば、高濃度の蛋白質を含有するスプレッドを生産することができる。そして、食用に供することができれば特にその由来が制限されるものではなく、植物由来、動物由来のいずれであってもよく、蛋白質加水分解酵素によってペプチド化された組成物であってもよい。また、それらの2種以上の組合わせであってもよい。具体的には、大豆蛋白、ホエイ蛋白、乳蛋白、コラーゲン、又はそれらのペプチド化組成物等を例示できる。
【0031】
なお、大豆蛋白を高濃度に配合すると大豆蛋白に独特の臭味を呈するが、後述する実施例で示すように、他の蛋白質としてホエイ蛋白を混合して、大豆蛋白とホエイ蛋白の配合比が1:0.5〜5となるようにすれば、臭味を軽減することができる。また、大豆蛋白の消化吸収が遅く、ホエイ蛋白の消化吸収が速いため、これらの組合わせは、必須アミノ酸等の持続的な栄養補給の面でも好ましい。
【0032】
本発明においては、スプレッド(水分を含んでいてもよい)の全体に対する蛋白質の乾燥重量換算での含有量は、好ましくは20〜60質量%であり、より好ましくは30〜50質量%である。蛋白質含有量がスプレッド全体に対して20質量%以下であると、蛋白質を高濃度に配合することができないので好ましくなく、60質量%以上であると展延性、流動性が悪くなるため好ましくない。
【0033】
なお、この蛋白質含有量は、上記蛋白質組成物由来の蛋白質だけでなく、全てのスプレッド原料由来の蛋白質の総含有量を意味する。したがって、蛋白質含有量を予め測定した原料を用いて理論値として算出することもできるし、製造したスプレッドの蛋白質含有量を測定することで算出することもできる。ここで、蛋白質含有量の測定には、ケルダール法が簡便で望ましいが、遊離アミノ酸、アンモニア、硝酸塩等の測定妨害物質が多く含まれている場合には、これら測定妨害物質含有量を測定してケルダール法による蛋白質の測定値から減じて算出する。
【0034】
本発明においては、上記油脂、蛋白質組成物、糖質以外の他の成分を適宜必要に応じて原料に配合することができ、該他の成分は食用に供することができれば特に制限されるものではない。
【0035】
具体的には、例えば、油脂成分の乳化及び/又は原料成分の安定的な分散化の目的で、乳化剤等を配合することができる。乳化剤としては、レシチン、ポリグリセロール脂肪酸エステル、ポリグリセロールポリリシノール酸エステル(PGPR)等が挙げられる。また、呈味付与及び/又は改善の目的で、バニラ、レモングラス、オレンジ、チョコレート、コーヒー、キャラメル、抹茶、ミント、バナナ、イチゴ等の香料、シナモン、アニス、ジンジャー等の香辛料、塩、アミノ酸、蛋白加水分解物等の調味料、ココアパウダー等の食品素材等を配合することができる。更にまた、栄養補助成分として、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類、貝カルシウム等のカルシウム分、ピロリン酸第2鉄等の鉄分等を配合することができる。
【0036】
以下、本発明のスプレッドの製造方法を説明する。
【0037】
まず、油脂と蛋白質組成物と糖質と、適宜必要に応じてその他の原料とを混合して、混合物(水分を含んでいてもよい)の全体に対する蛋白質の乾燥重量換算での含有量が20〜60質量%となるようにスプレッド原料混合物を調製する。その際、材料を均一に分散させるため、溶解した油脂に蛋白質組成物及び糖質を添加して、品温を油脂の融解温度以上に保ちながら混練することが好ましい。また、最終製品の油脂含有量の一部に相当する量の油脂を添加して混練する、いわゆる固練りすることが好ましい。これにより、油脂を必要以上に含まないので、後の工程におけるロール装置での微粒子化がより効率的なものとなる。また、固練りによって練られた混合物は、やわらかくなるので、その後に加える油脂の添加量を少なく抑えることができ、蛋白質含有率を高めることができる。
【0038】
次に、得られたスプレッド原料混合物を最大粒径が15〜40μmとなるように微粒子化して、本発明のスプレッドを得る。微粒子化は、周知の方法によりおこなうことができ、例えば、ビューラー株式会社製のロール装置を用いておこなうことができる。ここで、上記のスプレッド原料混合物を固練りした場合は、微粒子化処理の後、残りの油脂を添加して更に混練して、本発明のスプレッドを得る。
【0039】
また、本発明のもう1つの態様においては、上記のようにして調製したスプレッドを第一スプレッド原料として、更に、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料をスプレッド全体の85質量%以下で添加して混練することで、本発明のスプレッドを得ることもできる。
【0040】
なお、前記第二スプレッド原料は、上記に挙げた、油脂、蛋白質組成物、糖質、乳化剤、香料、栄養補助成分等を原料とするスプレッド原料を意味し、加工油脂食品である本願発明のスプレッドに配合できる原料からなるものであれば特に制限されない。
【0041】
上記のようにして第一スプレッド原料と第二スプレッド原料を混練することで、本発明のスプレッドを得る場合には、材料を均一に分散させるため、第一スプレッド原料及び第二スプレッド原料の品温を原料に含まれる油脂の融点温度以上に保ちながら混練することが好ましい。また、「第一スプレッド原料」及び「第二スプレッド原料の油脂原料」の合算量と、「第二スプレッド原料の油脂原料以外の原料」との質量比が1:0〜1.3で、且つ、「第一スプレッド原料」と「第二スプレッド原料の油脂原料」との質量比が1:0〜2.3となるようにすることが好ましい。これによれば、スプレッドの蛋白質含有率を容易に高めることができる。なお、ここでの「質量比」は、水分を含んでもよい各原料の質量に基づく。また、「第二スプレッド原料の油脂原料」とは、第二スプレッド原料に配合する親油性の原料をいい、植物油脂、ショートニング、香料、及びレシチン等を例示できる。
【0042】
更にまた、第一スプレッド原料と第二スプレッド原料を混練する際には、混練の際に原料混合物が適度な硬さとなるように、第二スプレッド原料に配合する油脂の量を制限して、固練りにより混練し、混練後残りの油脂を添加、混錬して本発明のスプレッドを得ることが好ましい。これによれば、練られる混合物は、固練りによってやわらかくなるので、その後に加える油脂の添加量を少なく抑えることができ、蛋白質含有率を高めることができる。
【0043】
なお、上記いずれの混練工程においても、油脂による原料成分のエマルジョン化を助けるために、レシチン等の乳化剤を適宜添加することができる。また、香料、香辛料、調味料、ココアパウダー等の食品素材、カルシウム等の栄養補助成分等を適宜添加して、それらを配合することができる。
【0044】
本発明のスプレッドには、ナッツ類、ドライフルーツ等を添加して風味や食感を付与することができる。
【0045】
本発明のベーカリー製品は、上記のようにして得られた本発明のスプレッド及び/又は該スプレッドにナッツ類、ドライフルーツ等を添加したものを、周知の技術によってウエハース、ビスケット、クラッカー、パン、中空菓子等に塗付及び/又は充填して得ることができる。また、本発明のスプレッドは菓子加工装置での流動性が良好であるので、ベーカリー製品の生産においては、菓子加工装置を用いて効率よく大量生産することができる。
【実施例】
【0046】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0047】
なお、以下の実施例及び比較例の記載で使用している「部」は水分を含む値としての「質量部」を意味する。また、実施例及び比較例で製造したスプレッドの原料は以下のとおりである。
【0048】

・大豆蛋白(商品名「プロリーナ800」、不二製油社製)(水分含量5.8質量%、蛋白質純度86質量%)
・粉糖(水分含量1.0質量%)
・植物油脂(水分含量0.0質量%)
・レシチン(水分含量2.0質量%)
・ホエイ蛋白(WPI商品名「IsoChill9000」Trega Foods社製)(水分含量4.3質量%、蛋白質純度90質量%)
・果糖(水分含量0.3質量%)
・ビタミンミックス(商品名「PO−25」理研ビタミン社製)(水分含量0.5質量%)
・ヘーゼルナッツプラリネ(長岡香料社製)(水分含量0.7質量%)
・ショートニング(商品名「ハイベルSVM」鐘淵化学社製)(水分含量0.0質量%)
・ショートニング(商品名「ハイベルH−37」鐘淵化学社製)(水分含量0.0質量%)
・香料(水分含量50.0質量%)
・ココアパウダー(水分含量4.0質量%)
・ピロリン酸第2鉄(水分含量15.0質量%)
・貝カルシウム(水分含量0.3質量%)

【0049】
(実施例1)
大豆蛋白(商品名「プロリーナ800」、不二製油社製)250部、粉糖50部を混合し、これに植物油脂80部を加えた。この混合物を10分間混錬した後、ロール装置(ビューラー株式会社製)を用いて最大粒径が35μmとなるように微粉砕した。微粉砕したものに、更に、植物油脂120部、レシチン1.5部を加えて30分間混錬してペースト状にし、スプレッドA(実施品1)を製造した。なお、本実施例において最大粒径の測定は、常法にしたがって、最小読み取り値0.001mmのマイクロメーター(商品名「マイクロメーターMDC−S」、株式会社ミツトヨ製)を用いておこなった。具体的には、20〜25℃の環境下で、マイクロメーターのアンビル測定面にスプレッドを少量塗布した。この塗付したスプレッドに対してスピンドルを軽く接触させ、ラチェットストップが1回転半〜2回転した程度でやめ、このときの測定値を読み取った。同様の測定を5回繰り返して、その平均値を最大粒径とした。
【0050】
(比較例1)
大豆蛋白250部と粉糖50部とを混合し、これに植物油脂200部及びレシチン1.5部を加えた。これを混錬してスプレッドB(比較品1)を製造した。
【0051】
(評価例1)
スプレッドA(実施品1)は、33℃において滑らかなクリーム状の性状を有しており、33℃においてウエハースに滑らかに塗り広げることができかつ、ウエハースに定着しやすい性状であった。一方、スプレッドB(比較品1)は、その原料の配合割合がスプレッドA(実施品1)のものと同じであるにもかかわらず、立てすぎた生クリームのようにぼわぼわしており、ウエファースに塗り広げることができなかった。
【0052】
スプレッドだけを食してみたところ、スプレッドA(実施品1)は、口に入れた際にさらりと解けて非常に良い口溶けであった。一方、スプレッドB(比較品1)は、口に入れた際に口内の唾液を吸収し、口の中で一つの塊となり、非常に食べにくかった。
【0053】
なお、スプレッドA(実施品1)又はスプレッドB(比較品1)には、大豆蛋白特有の臭みや風味が感じられた。
【0054】
(実施例2)
ホエイ蛋白(WPI商品名「IsoChill9000」Trega Foods社製)4.5部、大豆蛋白3.0部及び粉糖1.5部を混合し、これに植物油脂2.4部、レシチン0.03部を加えた。この混合物を10分間混錬した後、ロール装置を用いて最大粒径が35μmとなるように微粉砕した。微粉砕したものに、更に、植物油脂を3.6部、レシチン0.045部加え、混錬してペースト状にし、スプレッドC(実施品2)を製造した。
【0055】
また、上記と同量のスプレッドC(実施品2)を調製し、品温45℃とした後、その全量を、ホエイ蛋白13.5部、大豆蛋白19.5部、粉糖15部、果糖1.5部及びビタミンミックス(商品名「PO−25」理研ビタミン社製)0.43部を混合したものに加えた。更に、ヘーゼルナッツプラリネ(香料社製)2部、並びに、ショートニング(商品名「ハイベルSVM」鐘淵化学社製)及びショートニング(商品名「ハイベルH−37」鐘淵化学社製)を品温40℃に保ちながら等量混合して調製した油脂15部を加えて、10分間混錬した。その後、ショートニング(商品名「ハイベルSVM」鐘淵化学社製)及びショートニング(商品名「ハイベルH−37」鐘淵化学社製)を品温40℃に保ちながら等量混合して調製した油脂11部及び香料0.2部加えて5分間混錬し、スプレッドD(実施品3)を製造した。なお、このスプレッドD(実施品3)はスプレッドC(実施品2)を16.2質量%含有している(スプレッドC及びスプレッドDともに水分を含む値を用いて算出)。
【0056】
(比較例2)
ショートニング(商品名「ハイベルSVM」)及びショートニング(商品名「ハイベルH−37」)を品温40℃に保ちながら17:15に混合して調製した油脂25部にヘーゼルナッツプラリネ2部、レシチン1.5部を添加して5分間混合した。この油脂混合物にホエイ蛋白18部、大豆蛋白22.5部を添加して10分間混合し、その後、ショートニング(商品名「ハイベルSVM」)及びショートニング(商品名「ハイベルH−37」)を品温40℃に保ちながら17:15に混合して調製した油脂7部、粉糖16.5部、果糖1.5部、ビタミンミックス0.43部及び香料0.2部を添加して5分間混錬してスプレッドE(比較品2)を製造した。
【0057】
(評価例2)
スプレッドC(実施品2)及びスプレッドD(実施品3)は、33℃においてウエハースに滑らかに塗り広げることができかつ、ウエハースに定着しやすい性状であった。一方スプレッドE(比較品2)は、その原料の配合割合がスプレッドD(実施品3)のものとほぼ等しいにもかかわらず、33℃においても硬くてペースト状やクリーム状にならないため、ウエハースに塗り広げることができなかった。
【0058】
なお、スプレッドD(実施品3)においては、上記スプレッドA(実施品1)やスプレッドB(比較品1)に比べて大豆蛋白特有の臭みや風味が軽減されていた。
【0059】
(実施例3)
ホエイ蛋白21.72部、大豆蛋白14.48部及び粉糖7.24部を混合し、これに植物油脂10.54部、レシチン0.13部を加えた。この混合物を10分間混錬して、ロール装置を用いて最大粒径が35μmとなるように微粉砕した。微粉砕したものに、更に、植物油脂11.86部、レシチン0.2部加え、混錬してペースト状にし、スプレッドF(実施品4)を製造した。
【0060】
また、上記と同量のスプレッドF(実施品4)を調製し、品温45℃とした後、その全量及びヘーゼルナッツプラリネ1.6部を、ホエイ蛋白3.02部、大豆蛋白3.68部、粉糖10部及びビタミンミックス0.31部を混合したものに加えた。これら混合したものを5分間混錬した後、香料0.13部加えて、スプレッドG(実施品5)を製造した。なお、このスプレッドG(実施品5)はスプレッドF(実施品4)を77.9質量%含有している(スプレッドF及びスプレッドGともに水分を含む値を用いて算出)。
【0061】
(比較例3)
品温40℃のショートニング(商品名「ハイベルSVM」)15部にヘーゼルナッツプラリネ2部を添加して混合した。この混合物にホエイ蛋白24.74部、大豆蛋白18.16部、粉糖16.5部及びビタミンミックス0.31部を加えて10分間混錬した。混錬後、品温40℃のショートニング(商品名「ハイベルH―37」)7.4部及び香料0.13部を添加して混合してスプレッドH(比較品3)を製造した。
【0062】
(評価例3)
スプレッドF(実施品4)及びスプレッドG(実施品5)は、33℃においてウエハースに滑らかに塗り広げることができかつ、ウエハースに定着しやすい性状であった。一方、スプレッドH(比較品3)は、その原料の配合割合がスプレッドG(実施品5)のものとほぼ等しいにもかかわらず、33℃において硬くてぼそぼそしており、ペースト状やクリーム状にならないため、ウエハースに塗り広げることができなかった。
【0063】
なお、スプレッドG(実施品5)においては、上記スプレッドA(実施品1)やスプレッドB(比較品1)に比べて大豆蛋白特有の臭みや風味が軽減されていた。
【0064】
(実施例4)
大豆蛋白40部及び粉糖8部を混合し、これに植物油脂9.9部を加えた。この混合物を10分間混錬した後、ロール装置を用いて最大粒径が35μmとなるように微粉砕した。微粉砕したものに、更に、植物油脂14.9部、レシチン0.4部加え、混練してペースト状にし、スプレッドI(実施品6)を製造した。
【0065】
また、上記と同量のスプレッドI(実施品6)を調製し、品温45℃とした後、その全量を、粉糖5.6部、ココアパウダー5部、ピロリン酸第2鉄0.12部、貝カルシウム2.2部及びビタミンミックス0.3部を混合したものに加えた。これら混合したものを10分間混錬した後、香料0.33部加えて、スプレッドJ(実施品7)を製造した。なお、このスプレッドJ(実施品7)はスプレッドI(実施品6)を84.4質量%含有している(スプレッドI及びスプレッドJともに水分を含む値を用いて算出)。
【0066】
(比較例4)
ショートニング(商品名「ハイベルSVM」)及びショートニング(商品名「ハイベルH−37」)を品温40℃に保ちながら7:3に混合して調製した油脂25部に、大豆蛋白40部、粉糖13.6部、ココアパウダー5部、ピロリン酸第2鉄0.12部、貝カルシウム2.2部及びビタミンミックス0.3部を加えて10分間混錬した。混錬後、香料0.33部を添加して混合して、スプレッドK(比較品4)を製造した。
【0067】
(評価例4)
スプレッドI(実施品6)及びスプレッドJ(実施品7)は、33℃においてウエハースに滑らかに塗り広げることができかつ、ウエハースに定着しやすい性状であった。一方、スプレッドK(比較品4)は、30%近く油脂を含有しているものの、33℃において硬くてつながりが悪く、滑らかなペースト状やクリーム状にならず、また、粘着力も弱いのでウエハースに塗り広げることができなかった。
【0068】
なお、スプレッドJ(実施品7)及びスプレッドK(比較品4)は、大豆蛋白特有の臭みや風味が感じられた。
【0069】
(比較例5)
ショートニング(商品名「ハイベルSVM」)及びショートニング(商品名「ハイベルH−37」)を品温40℃に保ちながら15:7に混合して調製した油脂33部に、ヘーゼルナッツプラリネ4.5部及びレシチン1.5部を添加して混合した。この混合物にホエイ蛋白18部、大豆蛋白22.5部、粉糖16.5部、果糖1.5部及びビタミンミックス0.54部を加えて10分間混錬した。混錬後、香料0.24部を添加して混合して、スプレッドL(比較品5)を製造した。
【0070】
(比較例6)
品温40℃のショートニング(商品名「ハイベルSVM」)15部、品温40℃のショートニング(商品名「ハイベルH−37」)10.5部にホエイ蛋白18部、大豆蛋白22.5部、粉糖16.5部、果糖1.5部及びビタミンミックス0.54部を加えて5分間混錬した。混錬後、品温40℃のショートニング(商品名「ハイベルSVM」)7.5部、ヘーゼルナッツプラリネ4.5部、レシチン1.5部及び香料0.24部を添加して混合して、スプレッドM(比較品6)を製造した。
【0071】
(評価例5)
スプレッドL(比較品5)は、33℃において硬くてつながりが悪く、滑らかなペースト状やクリーム状にならず、また、粘着力も弱いのでウエハースに塗り広げることができなかった。更に、流動性が非常に悪いため、菓子加工装置の流動パイプから押し出せなかった。
【0072】
スプレッドM(比較品6)は、スプレッドL(比較品5)に比べて塗り広げやすいペースト状であった。したがって、スプレッド原料混合物を油脂の少ない状態で混錬することにより、混練処理中に粉末の粒子が小さくなったことが示唆された。しかしながら、ロール処理の微粉砕工程を経ていないスプレッドM(比較品6)は、上記実施品1〜7に比べて硬く、菓子加工装置のホッパーでの攪拌中に攪拌羽根が回らなくなった。
【0073】
下記表1には、上記実施品1〜7及び比較品1〜6のスプレッドの油脂、蛋白質及び糖質の配合量、並びに微粉砕処理の有無を示す。なお、用いた大豆蛋白及びホエイ蛋白は、それぞれ86質量%、90質量%の高純度の蛋白質を含有する蛋白質組成物である。また、表中の配合量の欄の括弧内の数値は、乾物重量換算値である。
【0074】
【表1】

【0075】
以上の結果をまとめると、蛋白質を高濃度に含有するスプレッド原料混合物に微粉砕処理を施して得られたスプレッド(実施品1,2,4,6)は、ウエハースに滑らかに塗り広げることができ、ウエハースに定着しやすく、口どけもよく、且つ、菓子加工装置での流動性も良好である等、微粉砕処理を施さずに得られた比較品に比べて、スプレッドとして好ましい特性を示すことが明らかとなった。また、そのように調製したスプレッドを第一スプレッド原料とし、更に、微粉砕処理を施さない第二スプレッド原料を添加して得られるスプレッド(実施品3,5,7)にも、スプレッドとして好ましい特性が付与されることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有するスプレッドにおいて、蛋白質含有量が20〜60質量%であり、最大粒径が15〜40μmであることを特徴とするスプレッド。
【請求項2】
請求項1記載のスプレッドに、更に、最大粒径が40μmを超えるスプレッド原料をスプレッド全体の85質量%以下で添加したことを特徴とするスプレッド。
【請求項3】
前記蛋白質組成物が、大豆蛋白、ホエイ蛋白、乳蛋白、コラーゲン、又はそれらのペプチド化組成物から選ばれた少なくとも一種である請求項1又は2記載のスプレッド。
【請求項4】
請求項1〜3記載のスプレッドを塗付及び/又は充填されたことを特徴とするベーカリー製品。
【請求項5】
ウエハース、ビスケット、クラッカー、パン及び中空菓子から選ばれた一種である請求項4記載のベーカリー製品。
【請求項6】
油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有し、蛋白質含有量が20〜60質量%であるスプレッド原料混合物を最大粒径が15〜40μmとなるように微粒子化することを特徴とするスプレッドの製造方法。
【請求項7】
油脂と蛋白質組成物と糖質とを含有し、蛋白質含有量が20〜60質量%であるスプレッド原料混合物を最大粒径が15〜40μmとなるように微粒子化して第一スプレッド原料を調製した後、最大粒径が40μmを超える第二スプレッド原料をスプレッド全体の85質量%以下で添加することを特徴とするスプレッドの製造方法。
【請求項8】
前記蛋白質組成物が、大豆蛋白、ホエイ蛋白、乳蛋白、コラーゲン、又はそれらのペプチド化組成物から選ばれた少なくとも一種である請求項6又は7記載のスプレッドの製造方法。

【公開番号】特開2007−151547(P2007−151547A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304986(P2006−304986)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】