説明

スプレーによる薄膜形成方法及びこの薄膜を用いた電極形成方法

【課題】組成物を塗布する基材の材質及び形状を制限することなく、また基材の形状や組成物の性状に応じた乾燥条件を調整することなく、真空プロセスやスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極を、効率良く連続的に基材表面に形成する。
【解決手段】先ず75重量%以上の銀ナノ粒子を含有する金属ナノ粒子を分散媒に分散させて30mPa・s以下の粘度の組成物を調製する。次に組成物をスプレー塗工法により基材表面に塗布して薄膜を形成する。上記スプレー塗工法による組成物の基材表面への塗布時に、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で5000倍以上かつ100000倍以下の流量で通気して組成物の液滴を微細化しながら基材表面に塗布して薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に金属ナノ粒子を含む塗液(組成物)をスプレー塗工法により塗布することで、導電性を有する薄膜を形成する方法と、この方法で形成された薄膜を用いた電極形成方法に関する。更に詳しくは太陽電池基板上に金属電極となる薄膜を形成する方法と、この方法で形成された薄膜を用いて電極を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基材上に導電性を有する薄膜を形成する際に、CVD法やPVD法等の真空プロセスを用いる場合と、スピンコーティング法やスプレー塗工法等の塗布プロセスを用いる場合がある。塗布プロセスの一つであるスプレー塗工法を用いて、基材表面に金属微粒子を含む塗液を塗布することで、導電性を有する薄膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。特許文献1に示された有機EL表示素子の製造方法では、有機層を形成する材料を含む溶液を、ノズルから霧状に噴出し、ノズルと対向する位置に配置した基板に塗布し、有機層を形成する。また上記基板を保持する基板保持台或いはその近傍に乾燥源を備え、基板上に塗布された上記溶液の乾燥速度を制御し、有機層の形成速度を調整するように構成される。例えば、乾燥源として、ヒータを設置し、熱電対の温度モニタリングにより温度調節器でヒータ電源の電力を制御し、基板保持台の温度を50℃にコントロールするように構成される。
このように構成された有機EL表示素子の製造方法では、有機層を形成する材料を含む溶液をノズル先端から霧状に基板上に塗布することで、基板上に有機層の形成位置を限定したマスク板を用いた場合、或いは正孔注入電極の凹凸のある場合でも塗布が可能になる。また基板保持台内に乾燥源を備えることで、有機層の凝集が無くなり、均一な膜厚の有機層が得られるようになっている。
【0003】
一方、特許文献2に示された薄膜形成方法では、基板の一面に薄膜材料の微粒子を分散させた薬液を均一に塗布した後であって、この薬液中に分散している薄膜材料の微粒子が凝集する前に、基板を80〜150℃程度の温度雰囲気中に曝して薬液を乾燥させることにより、均一な薄膜を形成する。また上記薬液の塗布は、基板面に対して相対的に二次元移動するスプレーノズルで薬液を噴霧して行う。更に上記スプレーノズルは、導入された高圧気体の高速噴射で負圧となった薬液送入口より吸引される薬液を、上記高速噴射する気体で破砕し微粒子化して噴射するノズルである。
このように構成された薄膜形成方法では、基板の一面に均一に塗布された薬液中に分散している薄膜材料の微粒子が凝集する前に、所定の温度雰囲気中に上記基板を曝し、この基板の全体に塗布された薬液を均一な温度下で同時に乾燥させることにより、薬液に分散された薄膜材料の微粒子を凝集させることなく均一な薄膜を形成できる。またスプレーノズルを基板に対して相対的に二次元移動して所定部分に薬液を噴霧して塗布するので、薬液の無駄な使用を抑制できる。更に高圧気体の高速噴射で薬液送入口に負圧を発生させ、薬液送入口から薬液を吸引し、この薬液を高速噴射する気体で破砕し微粒子化して噴射するので、薬液の噴霧量の調節が容易になり、均一な薄膜を形成できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−297876号公報(請求項1及び4、段落[0032])
【特許文献2】特開2004− 66138号公報(請求項1〜3、段落[0025]、段落[0051]〜[0053])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の特許文献1に示された有機EL表示素子の製造方法では、加熱により変形又は変質し易い材質の基板を使用できず、また基板のサイズが大きく熱容量が大きい場合や、基板の塗布面が加熱し難い形状である場合に、基板を加熱するのに多くの時間を要するとともに、溶媒の蒸発によって降温した基板を再び昇温するのに比較的多くの時間を要し、更に基板の形状や溶液の性状に応じて乾燥条件を調整しなければならず、作業性が悪い問題点があった。
また、上記従来の特許文献2に示された薄膜形成方法では、微粒子同士が強固に凝集する傾向の強い金属ナノ粒子を用いた場合、基板とともにスプレーノズルを80〜150℃程度の温度雰囲気中に曝すと、スプレーノズルの吐出口に付着した薬液の乾燥及び凝集が著しく速く進行してしてしまい、ノズルが閉塞してしまうおそれがあった。
本発明の第1の目的は、組成物を塗布する基材の材質及び形状を制限することなく、また基材の形状や組成物の性状に応じた乾燥条件を調整することなく、真空プロセスやスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極を、効率良く連続的に基材表面に形成できる、スプレーによる薄膜形成方法及びこの薄膜を用いた電極形成方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、スプレーノズルを閉塞させることなく、また凹凸面を有する基材であっても、均一な厚さを有する薄膜又は電極を基材表面に形成できる、スプレーによる薄膜形成方法及びこの薄膜を用いた電極形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の観点は、75重量%以上の銀ナノ粒子を含有する金属ナノ粒子を分散媒に分散させて30mPa・s以下の粘度の組成物を調製する工程と、この組成物をスプレー塗工法により基材表面に塗布して薄膜を形成する工程とを含むスプレーによる薄膜形成方法であって、スプレー塗工法による組成物の基材表面への塗布時に、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で5000倍以上かつ100000倍以下の流量で通気して組成物の液滴を微細化しながら基材表面に塗布して薄膜を形成することを特徴とする。
この第1の観点に記載されたスプレーによる薄膜形成方法では、比較的低い温度での焼結性に優れた金属ナノ粒子を含む組成物が、高圧の液滴破砕用ガスの高速噴射により発生する負圧により吸引されて液滴となり、更にこの組成物の液滴が高圧の液滴破砕用ガスの高速噴射により破砕されて微粒子化した後に、基材表面に塗布されて基材表面に薄膜が形成される。このとき微粒子化した液滴同士が基材上で再び結合しないので、基材表面に均一な厚さの薄膜を形成することができる。
また銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子として、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、クロム、鉄及びマンガンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属ナノ粒子を含有し、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量が、全ての金属ナノ粒子100重量%に対し0.02重量%以上かつ25重量%以下であることが好ましい。
また分散媒はアルコール類又はアルコール類含有水溶液であることが好ましいが、これらに限定されない。
【0007】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点のいずれかに記載の方法により基材の表面に薄膜を形成する工程と、この表面に薄膜が形成された基材を大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で130〜400℃の温度で焼成して、基材表面に電極を形成する工程を含む電極形成方法である。
この第4の観点に記載された電極形成方法では、表面に薄膜が形成された基材を130〜400℃という比較的低い温度で焼成しても、真空プロセスやスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極が得られる。
本発明の第5の観点は、表面粗さ10〜500nmの凹凸を有する基材表面に、第4の観点に記載の電極形成方法を用いて形成され、基材表面の凹凸に追随して厚さのばらつきが中心値の30%以内であって表面粗さが10〜600nmとなるように形成された電極である。
この第5の観点に記載された電極では、基材の表面の凹凸に追随した均一な厚さの電極を形成できる。このため真空プロセスやスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スプレー塗工法による組成物の基材表面への塗布時に、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で5000倍以上かつ100000倍以下の流量で通気して組成物の液滴を微細化しながら基材表面に塗布して薄膜を形成したので、基材の平坦面に薄膜を形成した後に焼成して電極を形成した場合のスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極を、スプレー塗工法という比較的簡素な塗布プロセスにより基材表面に形成できる。またスプレー塗工法を用いたので、大型の基材やロールトゥーロール型の基材(一方のロールから他方のロールに巻取られるフィルム状の基材)に連続的に塗布でき、スピンコーティング法より生産性を向上できる。
また基材上の凹凸面にスピンコーティング法により組成物を塗布すると、組成物が凹凸面の谷の部分に残留するため、凹凸の高低差より薄膜の厚さが薄い場合、均一な厚さの薄膜を形成することが難しかったけれども、本発明の薄膜形成方法では、組成物の液滴が微細化されており、着弾後すぐに乾燥することから、組成物の液滴が基材の凹凸の斜面に着弾した後も、この斜面に残留させることができ、均一な厚さの薄膜を形成できる。この結果、組成物の基材に対する濡れ性を調整せずに、薄膜の厚さの均一性を更に向上できる。従って、組成物を塗布する基材の材質及び形状は制限されず、基材の形状や組成物の性状に応じた乾燥条件を調整する必要もない。なお、組成物の基材に対する濡れ性は、例えばアルコール類の添加量により調整される。
【0009】
また比較的煩雑な工程を含む真空プロセスを用いずに、真空プロセスと同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極を、スプレー塗工法という比較的簡素な塗布プロセスにより基材表面に形成できる。この結果、プロセスの大幅な簡素化を図ることができる。
また基材を室温より高い80〜150℃程度の温度雰囲気中に曝さずに済むので、スプレー塗工法に用いられるスプレーノズルの吐出口に付着した組成物が乾燥しない。この結果、スプレーノズルを閉塞させることなく、組成物を基材表面に塗布できる。
また上記方法により表面に薄膜を形成し、この表面に薄膜が形成された基材を大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で130〜400℃の温度で焼成して基材表面に電極を形成すれば、真空プロセスやスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極が得られる。
更に表面粗さ10〜500nmの凹凸を有する基材表面に、上記電極形成方法を用いて形成され、基材表面の凹凸に追随して厚さのばらつきが中心値の30%以内であって表面粗さが10〜600nmとなるように電極を形成すれば、基材の表面の凹凸に追随した均一な厚さの電極を形成できる。この結果、真空プロセスやスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する電極が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
本発明の薄膜形成方法は、75重量%以上、好ましくは80重量%以上の銀ナノ粒子を含有する金属ナノ粒子を分散媒に分散させて、30mPa・s以下、好ましくは10mPa・s以下の粘度の組成物を調製する工程と、この組成物をスプレー塗工法により基材表面に塗布して薄膜を形成する工程とを含む。またスプレー塗工法による組成物の基材表面への塗布時に、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で5000倍以上かつ100000倍以下、好ましくは10000〜50000倍の流量で通気して組成物の液滴を微細化しながら基材表面に塗布して薄膜を形成する。ここで、銀ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100重量%に対して75重量%以上に限定したのは、75重量%未満ではこの組成物を用いて形成された薄膜を焼成して得られる電極(例えば、太陽電池の電極)の反射率が低下してしまうからである。また組成物の粘度を30mPa・s以下に限定したのは、30mPa・sを越えると粘度が高すぎてスプレー塗工が困難になるからである。更にスプレー塗工法による組成物の基材表面への塗布時に、体積比で組成物の流量1に対する液滴破砕用ガスの流量を5000倍以上かつ100000倍以下の範囲に限定したのは、5000倍未満では組成物の液滴を十分に微細化できず、100000倍を越えても基材表面に塗布された薄膜を焼成して得られる電極の特性が向上しないからである。なお、組成物の流量はスプレー塗工法に用いられるスプレーノズルの大きさ(噴射能力)によって異なるけれども、例えば組成物の流量を1〜10ミリリットル/分とした場合、液滴破砕用ガスの流量は5〜50リットル/分の範囲に設定される。
【0011】
金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1〜3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1〜3の範囲に限定したのは、炭素数が4以上であると焼成時の熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く、上記薄膜内に有機残渣が多く残り、変質又は劣化してしまい、薄膜を焼成して得られた電極の導電性及び反射率が低下してしまうからである。更に金属ナノ粒子は一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有する。一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の含有量を、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対して70%以上の範囲に限定したのは、70%未満では金属ナノ粒子の比表面積が増大して保護剤である有機物の占める割合が大きくなり、焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し易い有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、薄膜内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化してしまい、薄膜を焼成して得られる電極の導電性及び反射率が低下したり、或いは金属ナノ粒子の粒度分布が広くなり薄膜の密度が低下し易くなって、薄膜を焼成して得られる電極の導電性及び反射率が低下してしまうからである。更に上記金属ナノ粒子の一次粒径を10〜50nmの範囲内に限定したのは、統計的手法より一次粒径が10〜50nmの範囲内にある金属ナノ粒子が経時安定性(経年安定性)と相関しているからである。
【0012】
一方、組成物を構成する金属ナノ粒子のうち、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子として、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、クロム、鉄及びマンガンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属ナノ粒子を含有することが好ましい。この銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量は、全ての金属ナノ粒子100重量%に対し0.02重量%以上かつ25重量%以下、好ましくは0.03〜20重量%である。ここで、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100重量%に対して0.02重量%以上かつ25重量%以下の範囲に限定したのは、0.02重量%未満では特に大きな問題はないけれども、0.02〜25重量%の範囲内においては、耐候性試験(温度100℃かつ湿度50%の恒温恒湿槽に1000時間保持する試験)後の薄膜を焼成して得られる電極の導電性及び反射率が耐候性試験前より悪化しないという特徴があり、25重量%を越えると薄膜の焼成直後の電極の導電性及び反射率が低下し、しかも耐候性試験後の電極が耐候性試験前の電極より導電性及び反射率が低下してしまうからである。
【0013】
また組成物を構成する分散媒は、アルコール類又はアルコール類含有水溶液からなることが好ましい。分散媒として使用するアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセロール、イソボニルヘキサノール及びエリトリトールからなる群より選ばれた1種又は2種以上が挙げられる。アルコール類の添加は、基材との濡れ性の改善のためであり、基材の種類に合わせて水とアルコール類の混合割合を自由に変えることができる。また分散媒は、全ての分散媒100重量%に対して、1重量%以上、好ましくは2重量%以上の水と、2重量%以上、好ましくは3重量%以上のアルコール類とを含有することが好適である。例えば、分散媒が水及びアルコール類のみからなる場合、水を2重量%含有するときはアルコール類を98重量%含有し、アルコール類を2重量%含有するときは水を98重量%含有する。更に分散媒、即ち金属ナノ粒子表面に化学修飾している保護分子は、水酸基(−OH)又はカルボニル基(−C=O)のいずれか一方又は双方を含有する。水の含有量を全ての分散媒100重量%に対して1重量%以上の範囲が好適であるとしたのは、1重量%未満では、金属ナノ粒子の分散性の悪化により、薄膜の焼成後の電極の導電性と反射率が低下してしまい、アルコール類の含有量を全ての分散媒100重量%に対して2重量%以上の範囲が好適であるとしたのは、2重量%未満では、組成物の基材への濡れ性が悪いため均一な薄膜が形成できず、薄膜の焼成後の電極の導電性と反射率が低下してしまうからである。なお、水酸基(−OH)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、組成物の分散安定性に優れ、薄膜の低温焼結にも効果的な作用があり、カルボニル基(−C=O)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、上記と同様に組成物の分散安定性に優れ、薄膜の低温焼結にも効果的な作用がある。
【0014】
更に組成物中の銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100重量%に対して0.01重量%以上かつ30重量%以下、好ましくは1〜10重量%含有することが好適である。銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量を金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100重量%に対して0.01重量%以上かつ30重量%以下の範囲に限定したのは、0.01重量%未満では特に焼成後の電極の特性には影響はないけれども、必要な厚さの電極を得ることが難しく、30重量%を越えると組成物の粘度を30mPa・s以下にすることができず、組成物のスプレー塗工時にインク或いはペーストとしての必要な流動性を失ってしまうからである。なお、基材上の薄膜の厚さの調整は、組成物を基材表面に塗布して乾燥後に更に組成物を基材表面に塗布するという重ね塗りが有効である。
【0015】
一方、スプレー塗工法に用いられるスプレーノズルは、この実施の形態では、ノズルボディ内部の空洞に挿入されたパイプ状の中子と、この中子のノズル孔回りに形成された複数のスリット状の旋回導孔とを有する。これらの旋回導孔がノズル孔回りに略スパイラル状に形成され、これによりノズルボディ外周面に形成されたガス送入口から入った液滴破砕用ガスがノズル孔に向う旋回流となるように構成される。また組成物(液体)は中子の内部を通ってノズル孔側に送込まれるようになっている。なお、本発明のスプレー塗工法に用いられるスプレーノズルは、旋回流を発生しない通常のスプレーノズル、或いはその他のスプレーノズルでもよい。
【0016】
上記組成物を製造する方法を説明する。
(a) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
先ず硝酸銀を脱イオン水等の水に溶解して金属塩水溶液を調製する。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水等の水に溶解させて得られた濃度10〜40%のクエン酸ナトリウム水溶液に、窒素ガス等の不活性ガスの気流中で粒状又は粉状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製する。次に上記不活性ガス気流中で上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合する。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が30〜60℃に保持されるようにすることが好ましい。また上記両水溶液の混合比は、金属塩水溶液中の金属イオンの総原子価数に対する、還元剤水溶液中のクエン酸イオンと第一鉄イオンのモル比がいずれも3倍モルとなるようにする。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に10〜300分間続けて金属コロイドからなる分散液を調製する。この分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションや遠心分離法等により分離した後、この分離物に脱イオン水等の水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理し、更に引き続いてアルコール類で置換洗浄して、金属(銀)の含有量を2.5〜50重量%にする。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、金属ナノ粒子が一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有するように調製する、即ち数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整する。
【0017】
なお、金属ナノ粒子と記載したが、この(a)の場合では、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整している。また数平均の測定方法は、先ず得られた金属ナノ粒子をTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)により約50万倍程度の倍率で撮影する。次に得られた画像から金属ナノ粒子200個について一次粒径を測定し、この測定結果をもとに粒径分布を作成する。更にこの粒径分布から、一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子が全金属ナノ粒子で占める個数割合を求める。
【0018】
これにより銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体(組成物)が得られる。なお、この分散体100重量%に対する最終的な金属含有量(銀含有量)は2.5〜95重量%とするとともに、溶媒の水及びアルコール類をそれぞれ1%以上及び2%以上にそれぞれ調整する。
【0019】
(b) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を2とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをりんご酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が2である分散体(組成物)が得られる。
(c) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをグリコール酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1である分散体(組成物)が得られる。
(d) 銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を構成する金属としては、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム又は亜鉛が挙げられる。金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、塩化金酸、塩化白金酸、硝酸パラジウム、三塩化ルテニウム、塩化ニッケル、硝酸第一銅、二塩化錫、硝酸インジウム又は塩化亜鉛に替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体(組成物)が得られる。
【0020】
なお、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1や2とする場合、金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、上記種類の金属塩に替えること以外は上記(b)や上記(c)と同様にして分散体を調製する。これにより、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1や2である分散体(組成物)が得られる。
金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合には、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を第1分散体とし、上記(d)の方法で製造した銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含む分散体を第2分散体とすると、75重量%以上の第1分散体と25重量%未満の第2分散体とを第1及び第2分散体の合計含有量が100重量%となるように混合する。なお、第1分散体は、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体に留まらず、上記(b)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体や上記(c)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を使用してもよい。
【0021】
次に、このように製造された組成物(分散体)を用いて基材表面に薄膜を形成する方法を説明する。
先ず組成物を基材表面にスプレー塗工法により塗布して薄膜を形成する。具体的には、組成物が中子の内部を通ってノズル孔側に送込まれるとともに、ガス送入口から空洞に供給された高圧の液滴破砕用ガスが旋回導孔を通りノズル孔に向う旋回流となって噴出孔内に高速噴射される。高圧の液滴破砕用ガスの高速噴射により噴出口内が負圧となり、この負圧により中子内の組成物が吸引されて液滴となる。この液滴となった組成物は高圧の液滴破砕用ガスの高速噴射により破砕されて微粒子化した後に、基材表面に塗布されて基材表面に薄膜が形成される。このとき微粒子化した液滴同士が基材上で再び結合しないので、基材表面に均一な厚さの薄膜を形成することができる。
【0022】
また基材表面に塗布された薄膜を乾燥させるために、基材を室温より高い80〜150℃程度の温度雰囲気中に曝さずに済むので、スプレー塗工法に用いられるスプレーノズルの吐出口に付着した組成物が乾燥することはない。この結果、スプレーノズルを閉塞させることなく、組成物を基材表面に塗布できる。更に基材上の凹凸面にスピンコーティング法により組成物を塗布すると、組成物が凹凸面の谷の部分に残留するため、凹凸の高低差より薄膜の厚さが薄い場合、均一な厚さの薄膜を形成することが難しかったけれども、本発明の薄膜形成方法では、組成物の基材に対する濡れ性を調整することにより、組成物の液滴が基材の凹凸の斜面に着弾した後も、この斜面に残留させることができ、均一な厚さの薄膜を形成できる。この結果、組成物を塗布する基材の材質及び形状は制限されず、基材の形状や組成物の性状に応じた乾燥条件を調整する必要もない。なお、組成物の基材に対する濡れ性は、上述したようにアルコール類の添加量により調整される。また基材表面に塗布された薄膜の乾燥時間を短縮するためには、分散媒の低沸点化と、基材温度や雰囲気温度の上昇とが有効であるけれども、金属ナノ粒子は焼結し易く、低温で強固に凝集してしまうため、基材温度や雰囲気温度の選定は金属ナノ粒子が凝集しない範囲で設定される。更に上記薄膜を焼成した後の電極の厚さが0.1〜2.0μm、好ましくは0.3〜1.5μmの範囲内となるように基材表面に塗布して形成されることが好ましい。ここで、焼成後の電極の厚さを0.1〜2.0μmの範囲に限定したのは、0.1μm未満では電極が太陽電池の電極である場合に必要な電極の表面抵抗値が不十分となり、2.0μmを越えると特性上の不具合はないけれども、材料の使用量が必要以上に多くなって材料が無駄になるからである。
【0023】
上記基材としては、シリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料又は金属からなる基板のいずれか、或いはシリコン、ガラス、透明導電材料を含むセラミックス、高分子材料及び金属からなる群より選ばれた2種以上の積層体であることができる。また透明導電膜のいずれか1種を少なくとも含む基材や、透明導電膜を表面に成膜した基材を用いてもよい。透明導電膜としては、酸化インジウム系、酸化スズ系、酸化亜鉛系が挙げられる。酸化インジウム系としては、酸化インジウム、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)、IZO(Indium Zic Oxide)が挙げられる。酸化錫系としては、ネサ(酸化錫SnO2)、ATO(Antimony Tin Oxide:アンチモンドープ酸化錫)、フッ素ドープ酸化錫が挙げられる。酸化亜鉛系としては、酸化亜鉛、AZO(アルミドープ酸化亜鉛)、ガリウムドープ酸化亜鉛が挙げられる。基材は太陽電池素子又は透明電極付き太陽電池素子のいずれかであることが好ましい。透明電極としては、ITO、ATO、ネサ、IZO、AZO等などが挙げられる。高分子基板としては、ポリイミドやPET(ポリエチレンテレフタレート)等の有機ポリマーにより形成された基板が挙げられる。
【0024】
次に表面に薄膜が形成された基材を大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で130〜400℃、好ましくは140〜300℃の温度に、10分間〜1時間、好ましくは15〜40分間保持して焼成する。ここで、表面に薄膜が形成された基板の焼成温度を130〜400℃の範囲に限定したのは、130℃未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性及び反射率が低下してしまい、400℃を越えると低温プロセスという生産上のメリットを生かせない、即ち製造コストが増大し生産性が低下してしまうからである。また基材表面に形成された薄膜の焼成時間を10分間〜1時間の範囲に限定したのは、10分間未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電極内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性及び反射率が低下してしまい、1時間を越えると特性には影響しないけれども、必要以上に製造コストが増大して生産性が低下してしまうからである。なお、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス等が挙げられる。
【0025】
このように基材表面に形成された薄膜を焼成して得られた電極は、基材の平坦面に電極を形成した場合のスピンコーティング法と同等以上の低比抵抗、反射率、表面粗さ及び密着性を有する。具体的には、表面に電極が形成された基材を、温度を100℃に保ちかつ湿度を50%に保った恒温恒湿槽に1000時間収容した後であっても、波長750〜1500nmの電磁波、即ち可視光領域から赤外線領域までの電磁波を80%以上電極により反射できるとともに、電極の導電性、即ち電極の体積抵抗率を2×10-5Ω・cm(20×10-6Ω・cm)未満と極めて低い値に維持できる。このようにして形成された電極を太陽電池の電極として用いると、この太陽電池は、長年使用しても高導電率及び高反射率を維持することができ、経年安定性に優れる。また表面粗さ10〜500nm、好ましくは20〜100nmの凹凸を有する基材表面に、上記電極形成方法を用いて電極を形成した場合、この電極は基材表面の凹凸に追随して形成され、電極の厚さのばらつきは中心値の30%以内、好ましくは中心値の10%以内であって、電極の表面粗さは10〜600nm、好ましくは20〜100nmとなる。この結果、基材の表面の凹凸に追随した均一な厚さの電極を形成できる。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、表面粗さとは、JIS B 0601−2001に示された基準長さ毎の最低谷底から最大山頂までの高さを原子間力顕微鏡(AFM)で測定し、この高さで表される表面粗さ(Rz)を意味するものである。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ず平均粒径が約30nmの銀ナノ粒子0.1重量%を、水、エタノール及びメタノールの混合溶液99.9重量%に分散させて、粘度0.7mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格は炭素数3であり、銀ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の数平均は80%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でシリコン基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を10ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を100リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で10000倍の流量で通気した。更にこの基板を大気雰囲気中で130℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例1とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で1:3:6であった。なお、本明細書において、銀ナノ粒子や金ナノ粒子等の平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製 S−4300SE及びS−900)により観察した画像において、任意の100個の粒子について粒径を実測したときの平均粒径とする。
【0027】
<実施例2>
先ず平均粒径が約30nmの銀ナノ粒子9.998重量%と、平均粒径が約10nmの金ナノ粒子0.002重量%とを、水、エタノール及びメタノールの混合溶液90重量%に分散させて、粘度5mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子及び金ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子及び金ナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の数平均は85%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でガラス基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を11ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を1100リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を大気雰囲気中で200℃に60分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例2とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で2:3:5であった。
【0028】
<実施例3>
先ず平均粒径が約20nmの銀ナノ粒子4.9重量%と、平均粒径が約5nmの白金ナノ粒子0.1重量%を、水、エタノール及びメタノールの混合溶液95重量%に分散させて、粘度2mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子及び白金ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子及び白金ナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の銀ナノ粒子の数平均は95%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でガラス基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で10000倍の流量で通気した。更にこの基板を窒素ガス雰囲気中で220℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例3とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で1:2:6であった。
【0029】
<実施例4>
先ず平均粒径が約40nmの銀ナノ粒子4.8重量%と、平均粒径が約5nmのルテニウムナノ粒子0.2重量%とを、水、エタノール及びメタノールの混合溶液95重量%に分散させて、粘度2mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子及びルテニウムナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子及びルテニウムナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の数平均は75%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でシリコン基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を0.1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を窒素ガス雰囲気中で250℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例4とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で1:2:7であった。
【0030】
<実施例5>
先ず平均粒径が約30nmの銀ナノ粒子4.8重量%と、平均粒径が約20nmのニッケルナノ粒子0.1重量%と、平均粒径が約5nmの銅ナノ粒子0.1重量%とを、水、エタノール及びメタノールの混合溶液95重量%に分散させて、粘度2mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子、ニッケルナノ粒子及び銅ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子、ニッケルナノ粒子及び銅ナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の数平均は80%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でガラス基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を0.1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を窒素ガス雰囲気中で350℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例5とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で1:5:3であった。
【0031】
<実施例6>
先ず平均粒径が約20nmの銀ナノ粒子4.8重量%と、平均粒径が約5nmのインジウムナノ粒子0.19重量%と、平均粒径が約5nmの錫ナノ粒子0.01重量%とを、水、エタノール及びメタノールの混合溶液95重量%に分散させて、粘度2mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子、インジウムナノ粒子及び錫ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子、インジウムナノ粒子及び錫ナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の数平均は90%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でガラス基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を0.1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を窒素ガス雰囲気中で400℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例6とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で2:1:6であった。
【0032】
<実施例7>
先ず平均粒径が約30nmの銀ナノ粒子4.9重量%と、平均粒径が約10nmの亜鉛ナノ粒子0.1重量%とを、水、エタノール及びメタノールの混合溶液95重量%に分散させて、粘度2mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子及び亜鉛ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子及び亜鉛ナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の数平均は70%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でガラス基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を0.1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を窒素ガス雰囲気中で400℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例7とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で3:1:5であった。
【0033】
<実施例8>
先ず平均粒径が約30nmの銀ナノ粒子4.5重量%と、平均粒径が約10nmのクロムナノ粒子0.3重量%と、平均粒径が約15nmの鉄ナノ粒子0.2重量%とを、水、エタノール及びメタノールの混合溶液95重量%に分散させて、粘度2mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子、クロムナノ粒子及び鉄ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子、クロムナノ粒子及び鉄ナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の数平均は85%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でガラス基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を0.1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を窒素ガス雰囲気中で300℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例8とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で3:10:1であった。
【0034】
<実施例9>
先ず平均粒径が約30nmの銀ナノ粒子4.9重量%と、平均粒径が約15nmのマンガンナノ粒子0.1重量%とを、水、エタノール及びメタノールの混合溶液95重量%に分散させて、粘度2mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子及び亜鉛ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格はそれぞれ炭素数3であり、銀ナノ粒子及びマンガンナノ粒子からなる金属ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の数平均は93%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中で磨りガラス基板(表面粗さ500nm)表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を0.1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を窒素ガス雰囲気中で300℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例9とした。なお、水、エタノール及びメタノールの混合割合は重量比で2:9:2であった。
【0035】
<実施例10>
先ず平均粒径が約10nmの銀ナノ粒子30重量%を、水及びエチレングリコールの混合溶液70重量%に分散させて、粘度30mPa・s(20℃)の組成物を調製した。銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子の炭素骨格は炭素数3であり、銀ナノ粒子に含まれる一次粒径10〜50nmの範囲内の金属ナノ粒子の数平均は95%であった。次に上記組成物をスプレー塗工法を用いて大気雰囲気中でガラス基板表面に塗布して薄膜を形成した。このときの組成物の流量を0.1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を10リットル/分とした。即ち、体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で100000倍の流量で通気した。更にこの基板を大気雰囲気中で200℃に30分間保持して熱処理することにより、基板表面に電極を形成した。この表面に電極が形成された基板を実施例10とした。なお、水及びエチレングリコールの混合割合は重量比で1:4であった。
【0036】
<比較例1>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を10ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を40リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で4000倍の流量で通気したこと以外は、実施例1と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例1とした。
<比較例2>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を4リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で4000倍の流量で通気したこと以外は、実施例2と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例2とした。
<比較例3>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を1リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で1000倍の流量で通気したこと以外は、実施例3と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例3とした。
<比較例4>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を2リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で2000倍の流量で通気したこと以外は、実施例4と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例4とした。
【0037】
<比較例5>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を3リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で3000倍の流量で通気したこと以外は、実施例5と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例5とした。
<比較例6>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を1リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で1000倍の流量で通気したこと以外は、実施例6と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例6とした。
<比較例7>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を1リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で1000倍の流量で通気したこと以外は、実施例7と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例7とした。
<比較例8>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を3リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で3000倍の流量で通気したこと以外は、実施例8と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例8とした。
【0038】
<比較例9>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を3リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で3000倍の流量で通気したこと以外は、実施例9と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例9とした。
<比較例10>
組成物を基板表面に塗布するときに、組成物の流量を1ミリリットル/分とし、液滴破砕用ガスの流量を4リットル/分とした、即ち体積比で組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で4000倍の流量で通気したこと以外は、実施例10と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例10とした。
<比較例11>
平均粒径が約10nmの銀ナノ粒子40重量%を、水及びエチレングリコールの混合溶液60重量%に分散させて、粘度50mPa・s(20℃)の組成物を調製したこと以外は、実施例10と同様にして表面に電極が形成された基板を作製した。この基板を比較例11とした。
【0039】
<比較試験1及び評価>
実施例1〜10及び比較例1〜11の表面に電極が形成された基材について、反射率、比抵抗、平均表面粗さ及び基板(基材)への接着性を評価した。電極の反射率評価は、紫外可視分光光度計と積分球の組合せにより、波長800nmにおける電極の反射率を測定した。また比抵抗は、四探針法により電極の表面抵抗を測定し、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)により電極の厚さを測定し、それぞれ測定した表面抵抗と電極の厚さとから計算により求めた。また平均表面粗さは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope;AFM)によって得られた表面形状に関する評価値をJIS B0601に従って評価することで得た。更に基板への密着性は、電極を形成した基板への接着テープ引き剥がし試験により定性的に評価し、『良好』とは、基板から接着テープのみが剥がれた場合を示し、『不良』とは、接着テープの剥がれと基板表面が露出した状態が混在した場合を示し、『極めて不良』とは、接着テープ引き剥がしによって基材表面の全面が露出した場合を示す。その結果を、組成物の粘度と、組成物の流量Lに対する液滴破砕用ガスの流量Gの体積比での倍率(表1ではG/Lと表記する。)と、電極の厚さとともに表1に示す。
【0040】
【表1】

表1から明らかなように、比較例1〜10では電極の反射率が80〜92%R(800nm)と低かったのに対し、G/Lのみを変えて比較例1〜10にそれぞれ対応する実施例1〜10では電極の反射率が90〜98%R(800nm)と高くなった。また比較例1〜10では電極の比抵抗が6×10-5〜20×10-5Ω・cmと大きかったのに対し、G/Lのみを変えて比較例1〜10にそれぞれ対応する実施例1〜10では電極の比抵抗が3×10-5〜6×10-5Ω・cmと低くなった。また比較例1〜8及び10では電極の平均表面粗さが30〜200nmと大きかったのに対し、G/Lのみを変えて比較例1〜8及び10にそれぞれ対応する実施例1〜8及び10では電極の平均表面粗さが20〜100nmと小さくなった。また比較例9では電極の平均表面粗さが200nmと小さかったのに対し、G/Lのみを変えて比較例9に対応する実施例9では電極の平均表面粗さが450nmと大きくなった。これは、実施例9では、磨りガラス基板(表面粗さ500nm)表面の凹凸に追随する形で薄膜が成膜されたため、電極の表面粗さが磨りガラス基板の表面粗さと同等となったのに対し、比較例9では、磨りガラス基板(表面粗さ500nm)表面の凹凸の凹部を埋める形で薄膜が成膜されたため、電極の表面粗さが磨りガラス基板の表面粗さより小さくなったものである。更に比較例1〜10では電極の基板に対する密着性が不良であったものが10枚中6枚もあったのに対し、G/Lのみを変えて比較例1〜10にそれぞれ対応する実施例1〜10では電極の基板に対する密着性が全て良好であった。なお、比較例11は組成物の粘度が高すぎて、スプレーノズルが著しく閉塞したため、組成物を基板に塗布できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の薄膜形成方法は、太陽電池に代表される基材表面への電極(導電性を有する薄膜)を必要とする部材の製造方法として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
75重量%以上の銀ナノ粒子を含有する金属ナノ粒子を分散媒に分散させて30mPa・s以下の粘度の組成物を調製する工程と、
前記組成物をスプレー塗工法により基材表面に塗布して薄膜を形成する工程と
を含むスプレーによる薄膜形成方法であって、
前記スプレー塗工法による前記組成物の前記基材表面への塗布時に、体積比で前記組成物の流量1に対し液滴破砕用ガスを大気雰囲気中で5000倍以上かつ100000倍以下の流量で通気して前記組成物の液滴を微細化しながら前記基材表面に塗布して前記薄膜を形成することを特徴とするスプレーによる薄膜形成方法。
【請求項2】
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子として、金、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、銅、錫、インジウム、亜鉛、クロム、鉄及びマンガンからなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属ナノ粒子を含有し、
前記銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量が、全ての金属ナノ粒子100重量%に対し0.02重量%以上かつ25重量%以下である請求項1記載のスプレーによる薄膜形成方法。
【請求項3】
分散媒がアルコール類又はアルコール類含有水溶液である請求項1記載のスプレーによる薄膜形成方法。
【請求項4】
請求項1ないし3いずれか1項に記載の方法により基材の表面に薄膜を形成する工程と、
この表面に薄膜が形成された基材を大気雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中で130〜400℃の温度で焼成して、前記基材表面に電極を形成する工程と
を含むスプレーによる薄膜形成方法で形成された薄膜を用いた電極形成方法。
【請求項5】
表面粗さ10〜500nmの凹凸を有する基材表面に、請求項4記載の電極形成方法を用いて形成され、前記基材表面の凹凸に追随して厚さのばらつきが中心値の30%以内であって表面粗さが10〜600nmとなるように形成された電極。

【公開番号】特開2010−137220(P2010−137220A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261558(P2009−261558)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】