説明

スプレーノズルおよびレジスト成膜装置

【課題】有底の凹部の底部までレジスト液を塗布する。
【解決手段】本発明は、有底のビアホール51が表面に形成されたウエハ50に向けてレジスト液を噴射してレジスト膜60を成膜するスプレーノズル14であって、レジスト液を供給するレジスト液供給路23Aが軸心に沿って貫通して設けられた主軸23と、この主軸23を回転自在に支持する軸受け25と、主軸23の先端に取り付けられ、回転することでレジスト液を霧化させるエアカップ19とを備え、主軸23と軸受け25は、非金属製とされている構成としたところに特徴を有する。このような構成によると、回転霧化式のスプレーノズル14によってレジスト液をウエハ50に向けて噴射しているため、ビアホール51の底部までレジスト液を塗布することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレーノズルおよびレジスト成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスにおける高密度パッケージ技術の一つとして、TSVと呼ばれる技術が注目されている。このTSVは、チップを貫通する貫通電極を用いて積層したチップ間を接続する技術であり、例えば、下記特許文献1に記載のものが知られている。TSVの製造工程の一例について簡単に説明すると、まず、ウエハの表面にビアホールと呼ばれる有底の凹部を形成し、このビアホールの内壁に沿ってレジスト膜を成膜する。次に、露光、現像を行うことにより、ビアホールの底部に成膜されたレジスト膜のみを除去する。引き続き、ドライエッチングを行うことにより、ビアホールの底部に露出したウエハが除去される。そして、ビアホール内のレジスト膜を剥離した後、ビアホール内に銅めっきを施すことで、チップを貫通する貫通電極が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−96918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなレジスト膜は一般に、スピンコートと呼ばれる方式によって塗布されている。しかしながら、上記したTSVのビアホールは小径でかつ深く形成されているため、レジスト液をビアホールの底部まで塗布しにくくなっている。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、有底の凹部の底部までレジスト液を塗布することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、有底の凹部が表面に形成されたウエハに向けてレジスト液を噴射してレジスト膜を成膜するスプレーノズルであって、レジスト液を供給するレジスト液供給路が軸心に沿って貫通して設けられてなる主軸と、この主軸を回転自在に支持する軸受けと、主軸の先端に取り付けられ、回転することでレジスト液を霧化させるカップとを備え、主軸と軸受けは、非金属製とされている構成としたところに特徴を有する。
【0006】
このような構成によると、回転霧化式のスプレーノズルによってレジスト液をウエハに向けて噴射しているため、凹部の底部までレジスト液を塗布することができる。すなわち、カップを回転させることによってレジスト液を霧化させることにより、レジスト液の液滴を微小化することができる。そして、レジスト液の液滴が微小化されると、レジスト液を凹部の底部に塗布しやすくなる。したがって、凹部の内壁に沿ってレジスト膜を成膜することができる。また、主軸と軸受けを非金属製としているため、主軸と軸受けが摺動して屑が発生した場合でも、この屑がウエハ上に落下して回路間を短絡させるおそれはない。
【0007】
本発明の実施の態様として、以下の構成が好ましい。
主軸と軸受けは、樹脂製とされている構成としてもよい。
このような構成によると、金属製の主軸よりも軽量化を図ることができるため、主軸の回転速度を高くすることができる。また、主軸の回転速度を一定とした場合に、金属製の主軸に比べて主軸を回転させるのに必要なエア圧を下げることができる。
【0008】
カップは、非金属製とされている構成としてもよい。また、カップは、樹脂製とされている構成としてもよい。
このような構成によると、スプレーノズルの軽量化を図ることができる。特にカップが軽量化されることで、カップの高速回転が可能になり、レジスト液の液滴をさらに微小化することができる。また、カップが他の部材と摺動するなどしてカップの屑が発生しても、この屑によって回路間が短絡するおそれはない。
【0009】
また、本発明は、上記のスプレーノズルと、先端にスプレーノズルが取り付けられたアームと、アームの基端を固定する可動ヘッドと、可動ヘッドを平行移動させるアクチュエータと、ウエハを吸着して固定するプレートとを備え、レジスト液をスプレーノズルからプレート上に固定されたウエハに向けて噴射することにより、ウエハ上にレジスト膜を成膜することを特徴とするレジスト成膜装置に適用してもよい。
このようなレジスト成膜装置によると、ヘッドを移動させてスプレーノズルを移動させることができるため、ウエハの全面にレジスト液を噴射して塗布することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有底の凹部の底部までレジスト液を塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】レジスト成膜装置の要部を拡大した平面図
【図2】レジスト成膜装置の要部を拡大した正面図
【図3】スプレーノズルの断面図
【図4】ウエハの表面にレジスト液を塗布する前の状態を示した断面図
【図5】ウエハの表面にレジスト液を塗布した後の状態を示した断面図
【図6】樹脂タービンと金属タービンの回転特性の比較を示したグラフ
【図7】樹脂タービンと金属タービンのエア消費量の比較を示したグラフ
【図8】回転数と平均液滴径の関係を示したグラフ
【図9】シェーピングエア圧力と平均液滴速度の関係を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1ないし図9の図面を参照しながら説明する。図1および図2はレジスト成膜装置10を示しており、このレジスト成膜装置10は、レジスト液を噴射してウエハ50の表面にレジスト膜60を成膜するための装置である。本実施形態のウエハ50は円形の薄板状をなし、直径200mmのシリコンウエハとされている。このウエハ50の表面には、TSV(Through-Silicon Via:シリコン貫通ビア)における貫通電極を形成するためのビアホール51が凹設されている。このビアホール51は、有底の凹部として形成されている。
【0013】
レジスト成膜装置10には、図2に示すように、ウエハ50を吸着して固定するステージ11が設けられており、このステージ11に支持されたウエハ50を全周に亘って取り囲むようにしてミストレスカップ12が周設されている。このミストレスカップ12は、ステージ11を支持する基台13の外周縁から上方に立ち上がる形態とされており、ウエハ50上で跳ね返ったレジスト液が周囲に飛散することを規制している。
【0014】
ステージ11の内部には、ヒータ(図示せず)が設けられており、このヒータによってウエハ50が任意の温度に加熱されるようになっている。ウエハ50の上方には、回転霧化式のスプレーノズル14が配設されている。このスプレーノズル14は、アーム15の先端に取り付けられている。このアーム15の基端は、可動ヘッド16に固定されており、この可動ヘッド16は、X軸アクチュエータ17によってX方向へ平行移動可能とされ、Y軸アクチュエータ18によってY方向へ平行移動可能とされている。
【0015】
さて、スプレーノズル14は非金属製とされており、2軸のアクチュエータ17,18によって可動ヘッド16がX方向およびY方向に平行移動することによってウエハ50上の任意の位置で噴射可能とされている。本実施形態では、スプレーノズル14が千鳥状に動作することにより、ウエハ50の全面にレジスト液を塗布できるようになっている。
【0016】
スプレーノズル14の下端には、図3に示すように、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン,polytetrafluoroethylene)からなるエアカップ19が回転可能に装着されている。このエアカップ19は、レジスト液を噴射する噴射口を備えている。エアカップ19の噴射口の内面19Aには、複数の孔と回転方向に傾斜した複数の溝とが形成されている。エアカップ19は、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン,polyetheretherketone)からなる樹脂タービン21の先端に取り付けられている。
【0017】
この樹脂タービン21は、PEEKからなるスピンドル22の内部に回転可能に備えられ、樹脂タービン21の内部には、PEEKからなる主軸23が収容されている。この主軸23は、上下一対の軸受け25,25(ボディの材質がPEEKからなり、軸受け部分がカーボンからなる)により支持されている。また、樹脂タービン21は、主軸23の回転状態においては主軸23と各軸受け25,25の間にエアが介在したエアタービンである。したがって、スピンドル22に高圧のエアが供給されると、このエアがエアベアリングとなって主軸23が回転自在に支持され、樹脂タービン21が回転する。この樹脂タービン21の回転によって主軸23が高速度で回転駆動される。この結果、樹脂タービン21の先端に取り付けられたエアカップ19は最大70000回転/分で高速回転することになる。
【0018】
主軸23の内部には、レジスト液を供給するレジスト液供給路23Aが軸心に沿って貫通して形成されている。レジスト液供給路23Aへのレジスト液の供給は、スプレーノズル14の上端部を封止するバックプレート24の供給口24Aにレジスト液を供給することで行われる。そして、樹脂タービン21を高速で回転させることにより、エアカップ19からレジスト液が霧化されて噴射される。これにより、レジスト液は、その液滴径が数μmの大きさとなって微小化され、ウエハ50の表面に形成された小径のビアホール51の内部にレジスト液の液滴を進入させやすくなる。
【0019】
また、スプレーノズル14におけるエアカップ19の周囲には、PEEKからなるエアキャップ20が装着されている。エアキャップ20の先端には、シェーピングエアと呼ばれるキャリアガスを高速で噴出するシェーピングエア孔20Aが形成されており、このシェーピングエア孔20Aから吹き出したシェーピングエアの圧力(シェーピングエアの風量)を調整することによってレジスト液の飛行液滴速度を制御できるようになっている。これにより、レジスト液の液滴を数十m/sの速度で噴射することができる。このようなスプレーノズル14によると、間口の直径が20μmから200μmのビアホール51の底面および側面にレジスト膜60を成膜することが可能である。
【0020】
エアカップ19の内部には、成膜されなかったミスト状のレジスト液を捕手するための捕手溶剤が収容されている。この捕手溶剤によって捕手されたレジスト液は廃レジストとして廃棄される。また、捕手溶剤と廃レジストを分離した後、再度捕手溶剤をエアカップ19に送り込むことができるようになっている。なお、レジスト成膜装置10内の空気は、ヘパフィルタを介して循環されており、Class100の清浄度に保たれている。
【0021】
本実施形態は以上のような構成であって、続いてウエハ50上にレジスト膜60を成膜する手順を図4および図5を参照しながら説明する。レジスト膜60の成膜条件は、以下のとおりである。エアカップ19の回転数を70000回転/分とし、シェーピングエア圧力を0.19MPaとし、使用レジストとして、東京応化工業株式会社製PMER P-LA900を使用した。スプレーノズル14からウエハ50に向けてレジスト液を噴射するスプレー工程では、図4に示すウエハ50をステージ11に固定してスプレーノズル14からウエハ50に向けてレジスト液をスプレーする。ウエハ50に塗布されたレジスト液は、ビアホール51の底部まで進入し、成膜される。
【0022】
<実施例>
次に、本発明の実施例を図6ないし図9の図面に基づいて説明する。図6は、樹脂タービン21の回転特性と金属タービンの回転特性との比較を示したグラフである。樹脂タービン21は約50gであるのに対して、金属タービンは約270gであり、樹脂タービン21は金属タービンの5分の1程度に軽量化されている。したがって、同じシェーピングエア圧力で回転させた場合、樹脂タービン21は金属タービンよりも高速で回転することになる。
【0023】
図7は、樹脂タービン21のエア消費量と金属タービンのエア消費量との比較を示したグラフであって、同じシェーピングエア圧力で回転させた場合、樹脂タービン21のエア消費量は、金属タービンのエア消費量の6割程度であり、樹脂タービン21のほうが金属タービンよりも少ないエア消費量が少ないことが分かる。
【0024】
図8は、樹脂タービン21の回転数とレジスト液の平均液滴径の関係を示したグラフである。まず、シェーピングエア圧力が0.16MPaの場合、樹脂タービン21の回転数を高くしていくと、これに伴ってレジスト液の平均液滴径が徐々に微小化されることが分かる。また、シェーピングエア圧力が0.21MPaの場合、樹脂タービン21の回転数を高くしても、レジスト液の平均液滴径はほとんど変化しないことが分かる。また、樹脂タービン21の回転数が毎分30,000回転の場合には、0.16MPaよりも0.21MPaの方が平均液滴径が小さく、樹脂タービン21の回転数が毎分70,000回転の場合には、0.16MPaと0.21MPaでほぼ同じ平均液滴径となることが分かる。
【0025】
図9は、シェーピングエア圧力とレジスト液の飛行液滴の平均速度(以下「平均液滴速度」という)との関係を示したグラフである。シェーピングエア圧力を高くしていくと、平均液滴速度が徐々に高くなることが分かる。これは、レジスト液の液滴がエアカップ19の噴射口から飛び出す際の初速度が高くなるためであると考えられる。すなわち、シェーピングエア圧力を高くすると、樹脂タービン21を回転させるのに必要な量を超えてエアが供給されるため、余分なエアがエアカップ19の噴射口から吹き出す結果、平均液滴速度が高くなるものと考えられる。なお、レジスト液の液滴速度と液滴径は、シャドー・ドップラー・パーティクルアナライザーを用いて測定を行った。
【0026】
以上のように本実施形態では回転霧化式のスプレーノズル14を用いてウエハ50に向けてレジスト液を噴射するようにしたから、レジスト液の液滴を微小化させてビアホール51の底部までレジスト液を塗布することができる。さらに、シェーピングエア孔20Aの圧力を調整することにより、霧化されたレジスト液の液滴を高速で噴射することができるため、ビアホール51の底部までレジスト液を確実に塗布することができる。これにより、TSVにおけるビアホール51のレジスト膜60の成膜工程に好適なスプレーノズル14を提供することができる。
【0027】
また、スプレーノズル14は樹脂製とされているため、ウエハ上に金属屑が落下するなどして回路間が短絡することを規制できる。さらに、樹脂タービン21が軽量化されたことで樹脂タービン21の高速回転が可能になり、レジスト液の液滴をさらに微小化するとともに液滴速度をさらに高速化することが可能になった。また、樹脂タービン21の軽量化に伴って、樹脂タービン21を回転させるのに必要なエア圧を下げることができる。
【0028】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態ではエアベアリング方式の軸受け構造を備えたスプレーノズル14を例示しているものの、本発明によると、例えば、ボールベアリング方式の軸受け構造を備えたスプレーノズルに適用してもよい。
【0029】
(2)上記実施形態では樹脂製のスプレーノズル14を例示しているものの、本発明によると、非金属製のスプレーノズルであればよく、樹脂製以外のスプレーノズルに適用してもよい。
【符号の説明】
【0030】
10…レジスト成膜装置
11…ステージ(プレート)
14…スプレーノズル
15…アーム
16…可動ヘッド
17…X軸アクチュエータ(アクチュエータ)
18…Y軸アクチュエータ(アクチュエータ)
19…エアカップ(カップ)
23…主軸
23A…レジスト液供給路
25…軸受け
50…ウエハ
51…ビアホール(凹部)
60…レジスト膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底の凹部が表面に形成されたウエハに向けてレジスト液を噴射してレジスト膜を成膜するスプレーノズルであって、
前記レジスト液を供給するレジスト液供給路が軸心に沿って貫通して設けられてなる主軸と、
この主軸を回転自在に支持する軸受けと、
前記主軸の先端に取り付けられ、回転することで前記レジスト液を霧化させるカップとを備え、
前記主軸と前記軸受けは、非金属製とされているスプレーノズル。
【請求項2】
前記主軸と前記軸受けは、樹脂製とされている請求項1に記載のスプレーノズル。
【請求項3】
前記カップは、非金属製とされている請求項1または請求項2に記載のスプレーノズル。
【請求項4】
前記カップは、樹脂製とされている請求項3に記載のスプレーノズル。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のスプレーノズルと、
先端に前記スプレーノズルが取り付けられたアームと、
前記アームの基端を固定する可動ヘッドと、
前記可動ヘッドを平行移動させるアクチュエータと、
前記ウエハを吸着して固定するプレートとを備え、
前記レジスト液を前記スプレーノズルから前記プレート上に固定された前記ウエハに向けて噴射することにより、前記ウエハ上にレジスト膜を成膜することを特徴とするレジスト成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−115181(P2013−115181A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259054(P2011−259054)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名は、「2011年度 精密工学会秋季大会」である。 主催者名は、「公益社団法人精密工学会」である。 開催日は、「2011年9月20日〜22日」である。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、戦略的基盤技術高度化支援事業 半導体デバイス製造工程における回転霧化式エアロゾルスプレーによる成膜装置の開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】