説明

スプレー容器

【課題】内容物の噴出状態を安定させることができるスプレー容器を提供する。
【解決手段】ステム22に連通可能に構成されるとともに、ステム22を上下動可能に収容するハウジング24と、ハウジング24とステム22との間に配設され、ステム22を上方付勢する付勢手段83と、上端がハウジング24内に向けて開放される一方、下端が容器本体内で内容物に浸漬される吸上筒部26と、を備え、ハウジング24には、容器本体内の圧力に応じてハウジング24内と吸上筒部26内とを開閉可能とするスリット弁110が配設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー容器に関する。
【背景技術】
【0002】
容器本体内に収容された内容物を噴出するスプレー容器として、容器本体内に空気を自力で供給して容器本体内を蓄圧し、蓄圧した空気によって容器本体から内容物を噴出する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的に、スプレー容器は、容器本体に上方付勢状態で下方移動可能に立設されたステムと、ステムの上端に装着され、容器本体内の内容物を噴出するノズル孔を有するノズル部材と、を備え、ノズル部材をステムとともに押下することにより、容器本体内とステム内とが連通され、容器本体内の内容物がノズル孔から噴出される構成とされ、容器本体には、筒状の固定部材が固定されるとともに、固定部材には、筒状の可動部材が容器軸方向に摺動自在に嵌合され、固定部材に対して可動部材を押し込むことにより、固定部材内の空気が押し出され、容器本体内に空気が流入し、容器本体と固定部材との間に、固定部材側から容器本体内への空気の流入を許容する一方、その逆の流れを禁止する逆止弁が設けられている。
このようなスプレー容器では、固定部材と、可動部材と、の協働によるピストン運動により、容器本体内に空気を供給し、容器本体内を蓄圧した後、ノズル部材を押下することにより、容器本体内に収容された内容物がノズル孔を通って噴出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平02−70749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術では、ノズル部材から噴出される内容物の液滴の大きさや噴出範囲等の噴出状態を安定させることに対しては改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、内容物の噴出状態を安定させることができるスプレー容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係るスプレー容器は、上方付勢状態で下方移動可能に立設されたステムと、該ステムの上端に装着され、容器本体内の内容物を噴出するノズル孔を有するノズル部材と、を備え、前記ノズル部材を前記ステムとともに押下することにより、前記容器本体内と前記ステム内とが連通され、前記容器本体内の内容物が前記ノズル孔から噴出される構成とされ、前記容器本体には、筒状の固定部材が固定されるとともに、該固定部材には、筒状の可動部材が容器軸方向に摺動自在に嵌合され、前記固定部材に対して前記可動部材を押し込むことにより、前記固定部材と前記可動部材との間の空気が押し出され、前記容器本体内に空気が流入し、前記容器本体と前記固定部材との間に、前記固定部材側から前記容器本体内への空気の流入を許容する一方、その逆の流れは禁止する逆止弁が設けられたスプレー容器であって、前記ステムに連通可能に構成されるとともに、前記ステムを上下動可能に収容するハウジングと、該ハウジングと前記ステムとの間に配設され、前記ステムを上方付勢する付勢手段と、上端が前記ハウジング内に向けて開放される一方、下端が前記容器本体内で前記内容物に浸漬される吸上筒部と、を備え、前記ハウジングには、前記容器本体内の圧力に応じて前記ハウジング内と前記吸上筒部内とを開閉可能とするスリット弁が配設されていることを特徴とする。
【0008】
このような特徴により、容器本体の内圧が所定値以上の場合はスリット弁が開弁状態となり、ハウジング内と吸上筒部とが連通することにより、ノズル部材とともにステムを押下げると吸上筒部を流通する内容物がハウジングを通してステム内に供給され、ノズル孔からの噴出が許容される。一方で、容器本体の内圧が所定値未満に低下した場合にはスリット弁が閉弁状態となり、ハウジング内と吸上筒部とが遮断されることで、ノズル部材とともにステムを押下げた状態であってもステムへの内容物の供給が停止され、ノズル孔からの噴出を停止することができる。
このように、容器本体内の圧力に応じて噴出を許容、または停止することができるので、内容物の噴出状態を安定させることができる。すなわち、スリット弁が開弁状態のときのみ噴出が許容されるため、一定圧力以上の好適な噴霧状態で噴出することができる。
【0009】
また、本発明のスプレー容器において、前記スリット弁は、前記ハウジングに固定される固定部と、前記吸上筒部の上端開口部に対向する弁部材と、前記固定部と前記弁部材とを連結し、かつ前記弁部材を容器軸方向に沿って移動可能に支持する弾性連結片と、を備えていてもよい。
【0010】
この場合には、スリット弁が弾性連結片を介して容器軸方向に移動可能に構成されているため、容器本体の内圧に応じてスリット弁を柔軟に移動させることができる。これにより、スリット弁の開放に要する内圧を高く設定することなどが可能となり、内容物の噴出状態をより安定させることができる。さらに、弾性連結片の復元によって上方に向けて突出した弁部材が下降(復元)することで、内容物の流通方向においてスリット弁よりも下流側の空間の体積が増加し、この下流側空間が負圧になる。これにより、下流側空間に残存する内容物が逆流するため、ノズル孔からの液垂れを抑制できる(いわゆる、サックバック効果)。このとき、弁部材の下降前、下降中、下降後のいずれの段階でスリットが閉鎖されるように設定しても良い。
【0011】
また、本発明のスプレー容器において、逆止弁は固定部材とハウジングの上端縁との間で容器軸方向に挟持され、ハウジングには、容器軸方向において逆止弁から離れた位置にステム内に連通可能な貫通孔が形成されていてもよい。
この場合、仮にハウジングの上端縁、すなわち逆止弁との接触部分にステム内に連通可能な溝を形成した場合には、逆止弁とハウジングの上端縁とが直接接触することで、溝の開口縁が逆止弁に食い込む等、逆止弁の耐久性の低下や流通の阻害が生じる虞がある。一方で、ハウジングに上述した溝を覆うキャップ部材を設け、逆止弁とキャップ部材とを面同士で接触させることも考えられるが、この場合にはキャップ部材の追加に伴う部品点数の増加や製造コストの増加に繋がる虞がある。
これに対して、本発明のスプレー容器では、容器軸方向において逆止弁から離れた位置にステム内に連通可能な貫通孔を形成することで、ハウジングの上端面と逆止弁とを全周に亘って均等に接触させることが可能になるので、逆止弁の耐久性を向上でき、流通の阻害を生じることもなくなる。また、ハウジングの別体のキャップ部材等を設ける必要もないので、部品点数の削減や低コスト化を図ることができる。
【0012】
また、本発明のスプレー容器において、固定部材との間で逆止弁を挟持するとともに、ノズル部材を押下することで、ステムとともに容器軸方向に移動して、逆止弁から離間し、ステム内とハウジング内とを連通させる可動筒部を有し、可動筒部の上端部は、下方から上方に向かうに従い外径が漸次縮小するテーパ状に形成されていても構わない。
この場合には、可動筒部の上端部をテーパ状に形成することで、スリット弁の開弁状態において、ステム内とハウジング内とを連通させた際に、内容物(及び空気)が可動筒部の上端部(可動筒部と逆止弁との間)を乗り越え易くなり、ハウジング内からステム内に向けて内容物(及び空気)を効率的に送り込むことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るスプレー容器によれば、内容物の噴出状態を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態におけるスプレー容器の断面図である。
【図2】ヘッド部材の断面図である。
【図3】(a)はスリット弁の平面図、(b)はスリット弁の側面図である。
【図4】容器本体の内圧の変化によるスリット弁の挙動を示すスリット弁の断面図である。
【図5】本実施形態の他の構成を示すスリット弁の断面図である。
【図6】本実施形態の他の構成を示すヘッド部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照し、本発明の実施形態に係るスプレー容器を説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るスプレー容器1は、内容物が収容される容器本体2と、容器本体2の口部11に装着されたヘッド部材3と、を備えている。なお、本実施形態では、容器本体2、及びヘッド部材3の各中心軸線は、共通軸上に位置している。以下、この共通軸を容器軸Oといい、容器軸Oに沿う方向を上下方向、上下方向に沿ったヘッド部材3側を上側、容器本体2側を下側という。また、容器軸Oに直交する方向を径方向といい、容器軸O回りに周回する方向を周方向という。
【0016】
容器本体2は、上述した口部11と、口部11の下端に連設されて下方に向かうに従い漸次拡径された肩部12と、肩部12の下端から下方に向けて延設された胴部13と、胴部13の下端開口部を閉塞する底部14と、を有している。また、胴部13の下部は、上部に比べ縮径された縮径部15とされ、この縮径部15、及び底部14を下方から覆うように有底筒状のスタンド16が、縮径部15にアンダーカット嵌合されている。
【0017】
図1,2に示すように、ヘッド部材3は、容器本体2内に空気を供給するポンプ部材21と、上方付勢状態で下方移動可能に立設されたステム22と、ステム22の上端に装着され、容器本体2内の内容物を噴出するノズル孔23aを有するノズル部材23と、ステム22に連通可能に構成されるとともに、ステム22を上下動可能に収容するハウジング24と、ハウジング24とステム22との間に配設され、ステム22を上方付勢する付勢手段83と、上端がハウジング24内に向けて開放される一方、下端が容器本体2内で内容物に浸漬される吸上筒部26と、を備えている。
【0018】
ポンプ部材21は、容器本体2の口部11に取り付けられた筒状の固定部材31と、固定部材31に対して上下方向に沿って摺動自在に嵌合された筒状の可動部材32(図1参照)と、を備えている。
固定部材31は、容器本体2内を上下方向に沿って延在する外筒33と、外筒33の径方向の内側に配置された内筒34と、外筒33、及び内筒34の下端部同士を連結する連結環35(図1参照)と、を備えている。
【0019】
外筒33の上端部には、径方向の外側に向けて張り出す外フランジ部36が形成され、この外フランジ部36がシール部材(パッキン)30を間に挟んで口部11の上端面に支持されている。また、外フランジ部36は、固定キャップ37によって容器本体2に固定されている。固定キャップ37は、有頂筒状に形成され、径方向の中央部に円形の開口部38が形成された円板状の天板部39と、天板部39の外周縁から下方に向けて延設され、容器本体2の口部11に取り付けられた取付筒40(図1参照)と、を備えている。そして、天板部39の外周側と口部11の上端面との間で、上述したシール部材30を介して外フランジ部36が挟持されている。なお、天板部39の開口部38は、上述した外筒33の内径よりも僅かに大きく形成されており、開口部38の内側には内筒34の上端部が配置されている。
【0020】
一方、内筒34の上端部には、径方向の内側に向けて張り出す内フランジ部41が形成されている。この内フランジ部41には、上下方向に沿って貫通する貫通孔42(図2参照)が周方向に沿って間隔をあけて複数形成されている。また、内フランジ部41の内周縁には、上方に向けてガイド筒部43が立設されている。
【0021】
図1に示すように、可動部材32は、上述した外筒33と内筒34との間に挿入されて外筒33と内筒34との間を上下方向に沿って摺動自在な摺動筒45(本実施形態では、外筒33の内面に摺動している)と、摺動筒45の上端部に取り付けられたキャップ46と、を備えている。
摺動筒45は、その下端部に径方向の外側に向けて張り出すフランジ部47を有している。このフランジ部47は、外周面が外筒33に密接している。フランジ部47の上方には、摺動筒45を径方向に沿って貫通するスリット48が、周方向に一定範囲で延びるように形成されている。なお、摺動筒45の下端面には、上方に向けて窪んだ溝部44が形成されており、摺動筒45の下端部が径方向に弾性変形可能に構成されている。
なお、前記スリット48は複数設けてもよい。
また、摺動筒45の上部は、下部に比べて縮径した縮径部49とされ、この縮径部49の上端開口部を閉塞するように天板部50が連設されている。
【0022】
キャップ46は、天板部51、及び周壁部52を備える有頂筒状に形成されている。周壁部52は、容器本体2の胴部13とほぼ同径に形成され、容器本体2の口部11、及び肩部12を上方から覆うように配置されている。天板部51における径方向の中央部には、下方に沿って延設された嵌合筒53が形成され、摺動筒45の縮径部49に外嵌されている。
【0023】
図2に示すように、ステム22は、上方に向けて開放された有底筒状に形成され、上下方向に沿って延設された筒状の周壁部61と、周壁部61の下端開口部を閉塞する底壁部62と、を備えている。
周壁部61は、上部が固定部材31のガイド筒部43(固定キャップ37の天板部39)よりも上方に突出した状態で、ガイド筒部43内に配設され、ガイド筒部43に対して上下移動可能に支持されている。周壁部61は、上下方向におけるガイド筒部43よりも下側の部分に、径方向の外側に向けて突出するリブ63が形成されており、このリブ63がガイド筒部43の下端縁に形成された収容部64内に収容されている。また、周壁部61におけるリブ63の下方には、周壁部61を径方向に沿って貫通する貫通孔65が周方向に沿って複数形成(本実施形態では一対を対向して配置)されている。周壁部61の下端は、上方から下方に向かうに従い外径が漸次縮小しており、その下端縁から円板状の底壁部62が連設されている。
【0024】
ノズル部材23は、有頂筒状に形成され、ノズル天板部71と、ノズル天板部71の外周縁から下方に沿って延設されたノズル周壁部72と、を有している。
ノズル天板部71は、面方向が上下方向に対して僅かに傾斜した状態で配置された円板状の部材である。ノズル天板部71における径方向の中央部には、下方に沿って延設された装着筒73が形成され、この装着筒73が上述したステム22の上端部分に外嵌されている。
ノズル周壁部72は、上方から下方に向かうに従い拡径された円錐台状に形成されている。ノズル周壁部72の上部における周方向の一部には、径方向の外側に向けて開口する上述したノズル孔23aが形成されている。このノズル孔23aは、上述した装着筒73内を介してステム22内に連通している。
また、前記ノズル部材23は、前記貫通孔42を上方から覆うように位置している。
【0025】
ハウジング24は、有底筒状に形成され、容器本体2内でステム22を下方から覆うように配設されている。具体的に、ハウジング24は、ステム22の周壁部61における径方向の外側に配置された筒部75と、筒部75の下端開口部を閉塞する底壁部76と、を備えている。
筒部75の上部には、径方向に沿って貫通する貫通孔77が形成されている。また、筒部75の下部は、上部に比べて縮径した縮径部78が形成されている。
底壁部76における径方向の中央部には、上下方向で貫通する開口部79が形成され、この開口部79を介して容器本体2内とハウジング24内とが連通可能に構成されている。
【0026】
また、ステム22とハウジング24との間には、ステム22内とハウジング24内との連通・遮断を切り替えるゲート部材25が配設されている。
ゲート部材25は、有底筒状の部材であり、ステム22とともにハウジング24内を上下移動可能に構成されている。具体的に、ゲート部材25は、ステム22の周壁部61、及びハウジング24の筒部75の間で上下方向に沿って延設された可動筒部81と、可動筒部81の下端開口部を閉塞する可動底部82と、を備え、本実施形態においてはステム22を上方付勢する上述した付勢手段83が可動底部82の外周縁に連設され、これらが一体に形成されている。
【0027】
可動筒部81は、ステム22の周壁部61の下端部に外嵌されるとともに、上端部が下方から上方に向かうに従い漸次先細るテーパ部84を有している。テーパ部84は、上述したステム22の貫通孔65と、ハウジング24の貫通孔77と、の間を径方向で遮るように配置されている。また、可動筒部81には、径方向の外側に向けて突出するリブ85が周方向に沿って複数形成されている。これらリブ85は、テーパ部84の下端から下方に向けて延設され、それぞれの外周面が上述したハウジング24の筒部75に摺接している。これにより、ゲート部材25の径方向へのガタツキを抑制できる。
【0028】
可動底部82は、上側がステム22の底壁部62に当接する一方、下側はハウジング24の底壁部76との間に間隔あけて配置されている。
付勢手段83は、可動底部82の外周縁において、周方向に間隔をあけて複数形成されている。具体的に、各付勢手段83は、上方から下方に向かうに従い径方向の外側に広がりながら延設されており、その下端部がハウジング24の底壁部76の外周部分で支持されている。したがって、付勢手段83は、ゲート部材25の上下移動に伴って、可動底部82とハウジング24との間で弾性変形可能に構成されている。
【0029】
吸上筒部26は、上述したハウジング24の外側を覆う装着部91と、装着部91の下端に接続された吸上パイプ92と、を有している。
装着部91は、有底筒状に形成され、ハウジング24、及び固定部材31の間で上下方向に沿って延設された嵌合筒93と、嵌合筒93の下端縁に連設された底壁部94と、底壁部94における径方向の中央部に形成された取付筒95と、を有している。
【0030】
嵌合筒93は、上側の大径部96、及び大径部96の下側に連設され、大径部96よりも内径が小さい小径部97を有する二段筒状に形成されている。嵌合筒93の大径部96は、ハウジング24にアンダーカット嵌合されている。嵌合筒93には、径方向の内側に向けて凹んだ溝部98が周方向に間隔をあけて複数形成されている。これら溝部98は、嵌合筒93(大径部96)における上端部を除く上下方向の全長に亘って形成されており、固定部材31の内筒34との間に隙間を有している。また、大径部96の上端部(上端面)には、上述した溝部98内に連通する環状溝99が形成されている。そして、溝部98、及び環状溝99により、容器本体2内に空気を供給するための空気流路R1を構成している。
【0031】
底壁部94は、径方向の中央部に上下方向に沿って貫通する貫通孔100を有する円板状の部材であり、貫通孔100の開口縁には下方に向けて延びる取付筒95が連設されている。
吸上パイプ92は、上端部が取付筒95の内側に嵌合されてハウジング24に向けて開放される一方、下端部が容器本体2の底部14に近接する位置まで延設され、内容物に浸漬されている。そして、吸上パイプ92から装着部91とハウジング24との間、及びハウジング24とゲート部材25との間までの空間は、容器本体2からノズル部材23に向けて内容物が流通する内容物流路R2を構成している。
【0032】
ここで、容器本体2と固定部材31との間には、固定部材31側から容器本体2内への空気の流入を許容する一方、その逆の流れは禁止する逆止弁101が設けられている。この逆止弁101は、弾性変形可能なリング状の板材であり、内フランジ部41の貫通孔42を下方から覆い、容器本体2の内外を区画している。具体的に、逆止弁101は、その内周側が固定部材31の内フランジ部41及びステム22のリブ63と、ゲート部材25の可動筒部81及びハウジング24の筒部75と、の間で挟持されている。これにより、逆止弁101の外周側は、径方向の外側に向かうに従い下方に垂れ下がった状態で保持され、外周縁が内筒に密接している。
【0033】
また、吸上筒部26とハウジング24との間には、スリット弁110が配設されている。図2,3に示すように、スリット弁110は、ゴムやエラストマー等の弾性材料からなる有底筒状の部材であり、ハウジング24の筒部75、及び吸上筒部26における装着部91の小径部97により上下方向で挟持された固定部111と、固定部111における径方向の内側に配置されて上下方向に沿って延びる連結筒112と、連結筒112の下端縁に弾性連結片113を介して連結された弁部材114と、を備えている。
連結筒112は、上端部が固定部111の上端部に連結部115を介して連結されるとともに、ハウジング24の縮径部78に外嵌されている。
【0034】
弁部材114は、連結筒112の内側で上下方向に沿って延設された弁筒体121と、弁筒体121の下端開口部を閉塞するように連設された弁本体122と、を備えている。
図3に示すように、弁筒体121は、弾性連結片113により連結筒112に対して上下方向に移動可能に構成されている。弾性連結片113は、外周部分がヒンジ部123を介して連結筒112に接続された後、上方に向けて延びる立ち上がり周壁部124を備え、内周部分が立ち上がり周壁部124の上端部で頂端部125を介して弁筒体121の上端部に接続されている。なお、立ち上がり周壁部124は、下方から上方に向かうに従い漸次縮径している。
【0035】
図2,3に示すように、弁本体122は、吸上筒部26の装着部91の内側で、吸上パイプ92の上端開口部に対向して配置されるとともに、吸上パイプ92側の上流部分と、ハウジング24側の下流部分と、に内容物流路R2を上下方向で区画するように配置され、内容物流路R2を開閉可能とするものである。具体的に、弁本体122は、図3に示すように径方向に沿うフラット(平坦)面とされ、連結筒112との接続部分を起点にして上下方向に変形可能に構成されている。また、弁本体122の径方向の中央部には、内容物が通過可能な十字状のスリット131が形成されている。
なお、図5に示すように、前記弁本体122を外周側から内周側に向かうに従い下方に向けて膨出する湾曲面としてもよい。この場合は、弁本体122をフラット面で形成した場合に比べ、スリット131を開放するためにより大きな圧力が必要となる。
このように、弁本体122の形状については、目的とする噴霧状態(圧力)に応じて、適宜設計することができる。
【0036】
そして、スリット弁110は、図3に示す初期位置ではスリット131の開口縁同士が密接して内容物の通過を停止する閉弁状態となっており、図4(b)に示す変形位置ではスリット131の開口縁同士が離間して内容物の通過を許容する開弁状態となっている。
【0037】
次に、上述したスプレー容器1の作用について説明する。
まず、図1に示すように、固定部材31の外筒33と内筒34との間で可動部材32の摺動筒45を上下移動させることで、容器本体2内に空気を供給して容器本体2の内圧を高める。
具体的には、可動部材32の摺動筒45を外筒33と内筒34との間に挿入した状態で、摺動筒45を下方に向けて押し込み、固定部材31と可動部材32とで囲まれたシリンダ空間S(摺動筒45のフランジ部47よりも下側の空間、摺動筒45と内筒34との間の空間、及び摺動筒45とノズル部材23との間の空間)を加圧する。すると、シリンダ空間Sの圧力が固定部材31の内フランジ部41に形成された貫通孔42を通して逆止弁101に作用する。これにより、逆止弁101の外周側が下方に向けて撓み変形することで、逆止弁101が開弁される。なお、内筒34の外周面に上下方向の全長に亘るとともに、周方向に沿って複数の縦溝が形成され、摺動筒45の一部が内筒34の外周面に摺接していてもよい。
【0038】
これにより、シリンダ空間Sと空気流路R1とが連通して、シリンダ空間Sから空気流路R1内に空気が流入する。空気流路R1内に流入した空気は、吸上筒部26の嵌合筒93に形成された環状溝99を通った後、溝部98と固定部材31の内筒34との間を通って容器本体2内に供給される。なお、空気流路R1に流入した空気の一部は、ハウジング24の貫通孔77を通って径方向の内側に向けて流通し、ステム22よりも上流側でゲート部材25の可動筒部81と逆止弁101とにより塞き止められている。
【0039】
また、可動部材32の摺動筒45を下端位置まで押し下げ、摺動筒45の押下操作を停止すると、摺動筒45によるシリンダ空間Sの加圧が停止され、逆止弁101が復元変形することで、逆止弁101が閉弁される。
その後、可動部材32の摺動筒45を引き上げると、シリンダ空間Sが負圧となり、この負圧により摺動筒45のスリット48が開放される。すると、外気がスリット48を通して流入し、シリンダ空間Sが大気圧まで上昇する。
そして、可動部材32の上下移動を繰り返すことで、固定部材31と、可動部材32と、の協働によるピストン運動により、容器本体2内に空気を供給し、容器本体2の内圧を高めることができる。
【0040】
ここで、容器本体2の内圧が高まると、ヒンジ部123を中心にして立ち上がり周壁部124が上方に向けて回動することで、弁部材114は図3に示す初期位置から、図4(a)に示すように上方に向けて移動する。
そして、容器本体2の内圧がさらに高まり所定値以上になると、図4(b)に示すように、弁本体122が弁筒体121との接続部分を中心にして変形した変形位置となる。これにより、スリット131間の隙間が広がり、スリット弁110が開弁された開弁状態となる。すなわち、内容物流路R2が開放されて、吸上筒部26側の上流部分とハウジング24側の下流部分とが連通する。
【0041】
そして、図2に示すように、スリット弁110が開弁状態になると、容器本体2内の内容物が内容物流路R2を流通する。具体的に、内容物は吸上パイプ92を通って装着部91内に到達した後、スリット弁110のスリット131間、及びハウジング24の開口部79を通ってハウジング24内に流入する。ハウジング24内に流入した内容物は、付勢手段83間を通った後、ゲート部材25における可動筒部81のリブ85間とハウジング24の筒部75との間を通り、ステム22よりも上流側で可動筒部81と逆止弁101とに塞き止められる。
【0042】
次に、スプレー容器1から内容物を噴出する場合は、上述したようにスリット弁110を開弁状態とした後、可動部材32を引き上げて固定部材31から取り外し、ノズル部材23を押下する。ノズル部材23を押下すると、ステム22、及びゲート部材25がノズル部材23とともに下方に向けて移動する。
【0043】
このとき、ステム22のリブ63が逆止弁101の内周部分を押し下げることで、逆止弁101が撓み変形する。すると、ゲート部材25の可動筒部81の上端面が逆止弁101から離間することで、可動筒部81に対して径方向の外側と内側とが、可動筒部81と逆止弁101との間を介して連通する。これにより、可動筒部81によって塞き止められていた内容物、及び空気が可動筒部81の上端面と逆止弁101との間を通って、ステム22の貫通孔65からステム22内に流入する。その後、ステム22内に流入した内容物は、ノズル部材23の装着筒73内を通った後、空気とともにノズル孔23aから噴出される。これにより、好適な噴霧形態で液滴が噴出される。
【0044】
ところで、本実施形態のスプレー容器1では、噴出を繰り返すことで、内容物とともに空気が容器本体2から排出され、容器本体2の内圧が低下する。
ここで、本実施形態では、容器本体2の内圧が所定値未満まで低下すると、ヒンジ部123を中心にして立ち上がり周壁部124が下方に向けて回動することで、弁部材114を下方に向けて移動させるとともに、弁本体122が弁筒体121との接続部分を中心にして復元変形する。
【0045】
これにより、弁本体122が図4(b)に示す開弁状態から、図4(a)や図3に示す閉弁状態に戻る。これにより、内容物流路R2が閉塞されて、吸上筒部26とハウジング24との間での内容物の流通が遮断される。よって、この状態でノズル部材23を操作して、ステム22内とハウジング24内とが連通したとしても内容物が噴出されなくなるようになっている。
【0046】
また、再び内容物を噴出するためには、可動部材32を固定部材31に装着して容器本体2の内圧を所定値以上まで高めることで、上述した作用と同様の作用によって内容物を噴出することができる。
【0047】
このように、本実施形態では、ハウジング24と吸上筒部26との間に、内容物流路R2を開閉可能とするスリット弁110が設けられている構成とした。
この構成によれば、容器本体2の内圧が所定値以上の場合はスリット弁110が開弁状態となり、ハウジング24内と吸上筒部26とが連通することにより、内容物流路R2が開放される。これにより、ノズル部材23とともにステム22を押下げると、内容物が内容物流路R2を通してステム22内に供給され、ノズル孔23aからの噴出が許容される。
一方で、容器本体2の内圧が所定値未満に低下した場合にはスリット弁110が閉弁状態となり、ハウジング24内と吸上筒部26との連通が遮断されることで、内容物流路R2が閉塞される。これにより、ノズル部材23とともにステム22を押下げた状態であっても、ステム22への内容物の供給が停止して、ノズル孔23aからの噴出を禁止することができる。
したがって、容器本体2内の圧力に応じて噴出を許容、または停止することができるので、内容物の噴出状態を安定させることができる。すなわち、スリット弁110が開弁状態のときのみ噴出が許容されるため、常に好適な噴霧形態で液滴(内容物)を噴出することができる。
【0048】
また、本実施形態では、スリット弁110の弁本体122が変形位置のときに弁本体122を開弁することで、開弁状態を安定して維持することができる。
さらに、スリット弁110の弁部材114が弾性連結片113を介して上下方向に移動可能に構成されているため、容器本体2の内圧に応じてスリット弁110を柔軟に移動させることができる。これにより、スリット弁110の開放に要する内圧を高く設定することなどが可能となり、内容物の噴出状態をより安定させることができる。
さらに、弾性連結片113の復元によって上方に向けて突出した弁部材114が下降(復元)することで、内容物の流通方向においてスリット弁110よりも下流側の空間の体積が増加し、この下流側空間が負圧になる。これにより、下流側空間に残存する内容物が逆流するため、ノズル孔23aからの液垂れを抑制できる(いわゆる、サックバック効果)。このとき、弁部材114の下降前、下降中、下降後のいずれの段階でスリット131が閉鎖されるように設定しても良い。
【0049】
また、本実施形態では、ゲート部材25の可動筒部81の上端部をテーパ部84に形成したため、開弁状態において、ステム22内とハウジング24内とを連通させた際に、内容物、及び空気が可動筒部81の上端部を乗り越え易くなり、ステム22に向けて内容物、及び空気を効率的に送り込むことができる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、上述した実施形態では、ハウジング24の下方に別体でスリット弁110を配設する構成について説明したが、これに限らず、ハウジング24と一体でスリット弁を配設し、ハウジング24の開口部79を開閉可能としても構わない。
また、スリット131の形や幅は、容器本体2の内圧の保持状況で適宜設計変更が可能である。例えば、スリット131の開口縁にテーパを設けるなどの形状変更をしても構わない。
【0051】
さらに、上述した実施形態では、連結筒112と弁部材114とを弾性連結片113を介して連結する構成について説明したが、これに限らず、連結筒112に弁本体122を直接連結しても構わない。具体的に、図6に示すスリット弁110は、ハウジング24、及び装着部91の間で挟持された固定部111と、固定部111の内周縁から上方に沿って延びる連結筒112と、連結筒112の上端開口部を覆うように形成された弁本体122と、を備えている。
固定部111は、装着部91における底壁部94と、ハウジング24の底壁部76から下方に向けて延びる押さえ筒74との間で上下方向から挟持されている。また、連結筒112は、装着部91における底壁部94の貫通孔100から上方に向けて延びる取付筒95に外嵌されている。弁本体122は、径方向の中央部にスリット131を有し、ハウジング24の底壁部76と装着部91との間で、連結筒112との接続部分を起点に上下方向に変形可能に構成されている。なお、図6に示す構成では、弁本体122の初期位置を、吸上パイプ92、及び取付筒95の上端縁に当接したフラット面としたが、これに限らず、下方に向けて湾曲させても構わない。
【0052】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…スプレー容器 2…容器本体 22…ステム 23a…ノズル孔 23…ノズル部材24…ハウジング 25…ゲート部材 26…吸上筒部 31…固定部材 32…可動部材 83…付勢手段 101…逆止弁 110…スリット弁 111…固定部 113…弾性連結片 114…弁部材 122…弁本体 131…スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方付勢状態で下方移動可能に立設されたステムと、
該ステムの上端に装着され、容器本体内の内容物を噴出するノズル孔を有するノズル部材と、を備え、
前記ノズル部材を前記ステムとともに押下することにより、前記容器本体内と前記ステム内とが連通され、前記容器本体内の内容物が前記ノズル孔から噴出される構成とされ、
前記容器本体には、筒状の固定部材が固定されるとともに、該固定部材には、筒状の可動部材が容器軸方向に摺動自在に嵌合され、前記固定部材に対して前記可動部材を押し込むことにより、前記固定部材と前記可動部材との間の空気が押し出され、前記容器本体内に空気が流入し、前記容器本体と前記固定部材との間に、前記固定部材側から前記容器本体内への空気の流入を許容する一方、その逆の流れは禁止する逆止弁が設けられたスプレー容器であって、
前記ステムに連通可能に構成されるとともに、前記ステムを上下動可能に収容するハウジングと、
該ハウジングと前記ステムとの間に配設され、前記ステムを上方付勢する付勢手段と、
上端が前記ハウジング内に向けて開放される一方、下端が前記容器本体内で前記内容物に浸漬される吸上筒部と、を備え、
前記ハウジングには、前記容器本体内の圧力に応じて前記ハウジング内と前記吸上筒部内とを開閉可能とするスリット弁が配設されていることを特徴とするスプレー容器。
【請求項2】
前記スリット弁は、前記ハウジングに固定される固定部と、
前記吸上筒部の上端開口部に対向する弁部材と、
前記固定部と前記弁部材とを連結し、かつ前記弁部材を容器軸方向に沿って移動可能に支持する弾性連結片と、を備えていることを特徴とする請求項1記載のスプレー容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−10531(P2013−10531A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144145(P2011−144145)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】