説明

スプレー缶用吸収体及びスプレー缶用の吸収体シートの製造方法

【課題】 液化ガスを充填したスプレー缶に使用する吸収体として、より吸収性能・保液性に優れた吸収体を得る。
【解決手段】 粉砕されたセルロース繊維集合体から構成された吸収体であって、該セルロース繊維は繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するスプレー缶用吸収体。微細セルロース繊維の水保持力が210%以上である前記スプレー缶用吸収体。吸収体がシート状に成形された前記スプレー缶用吸収体。吸収体が円筒状に成形された前記スプレー缶用吸収体。繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するセルロース繊維70〜95質量%と、熱融着性樹脂が5〜30質量%で構成された前記スプレー缶用吸収体。吸収体の表面に、表面シートが積層されている前記スプレー缶用吸収体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー缶内部に充填されている、液化ガス保液用の吸収体に関するものである。また、吸収体をシート状に製造する方法に関するものである。
なお、本発明におけるスプレー缶とは、詳しくは、ダストブロワー(各種機器類に付着する塵や埃などを噴出させた気体によって吹き飛ばして除去するために使用される除塵ブロワー)や、トーチバーナー用ボンベ(水道の冷凍解氷作業、ロウ付け・ハンダ付け、炭・薪の火おこし作業に使用されるガスボンベ)などのスプレー缶製品に好適に使用されるスプレー缶のことである。
【背景技術】
【0002】
従来、各種機器類に付着する塵や埃などを除去するために使用されている除塵ブロワーは、通常、噴射ボタンを備えた使い捨ての金属製のスプレー缶に、圧縮ガス又は液化ガスなどの噴射剤を充填したものであり、噴射ボタンを押してガスを噴射放出させるものである。
除塵ブロワーの噴射剤には、以前は不燃性フロンガスのHFC−134a(CHF−CF)が使用されていたが、近年では、オゾン層破壊係数・地球温暖化係数がより小さい可燃性フロンガスのHFC−152a(CH−CHF)や、オゾン層破壊の問題がなく地球温暖化係数が極めて小さいジメチルエーテル(DME)などが使用されている。
ところで、液化ガスを充填した除塵ブロワーやトーチバーナー用ボンベ等のスプレー缶製品は、その構造上、倒立状態で使用した場合、噴出部から液化ガスが液体のまま漏れ出す場合がある。特にジメチルエーテル(DME)や、その他可燃性の液化ガスの場合、漏れ出すと危険である。
このような問題を解決するため、従来技術として、ジメチルエーテルに炭酸ガスを混合し、ガスに難燃性を付与したり、また、除塵ブロワー用スプレー缶内に、充填した液化ガスを保持するための吸収体を充填したものが存在する(特許文献1)。
現状では、スプレー缶用吸収体としては、古紙等を粉砕したものを不織布で包み、筒状に加工したものや、発泡ウレタンやウレタンフォームを成形したものが多く用いられている。
【0003】
【特許文献1】特開2005−206723号公報
【特許文献2】特公昭60−19921号号公報
【特許文献3】特公昭63−44763号公報
【特許文献4】特開平06−212587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来使用されていた古紙等の粉砕品だと、既に1回〜数回のリサイクルを経て既に傷ついた繊維が含まれているため液体の保持力が悪い。また、原料の品質にばらつきがあるため、液体の保持力が一定でなく、1缶当りに必要な吸収体量が一定でなかったりする場合があった。また、古紙には、多くの場合、印刷インク等の不純物が付着しているため、繊維の表面が液をはじき易い状態になっており、液吸収性が悪い。そのために、スプレー缶を倒立状態で使用した場合に液漏れの原因となる場合があった。また、缶を倒立状態で保管する場合にも液漏れの原因となった。また、古紙に含まれる各種のインク成分は、液化ガスに溶解または反応して液化ガスを着色し、噴出させた際に、ガスによる着色トラブルを引き起こす要因となる恐れがあった。
このため、液化ガスを充填したスプレー缶に使用する吸収体として、より吸収性能・保液性に優れた吸収体が必要とされていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成をとる。
即ち、本発明の第1は、粉砕されたセルロース繊維集合体から構成された吸収体であって、該セルロース繊維は繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するスプレー缶用吸収体である。
【0006】
本発明の第2は、微細セルロース繊維の水保持力が210%以上である本発明の第1記載のスプレー缶用吸収体である。
【0007】
本発明の第3は、吸収体がシート状に成形された本発明の第1〜2のいずれかに記載のスプレー缶用吸収体である。
【0008】
本発明の第4は、吸収体が円筒状に成形された本発明の第1〜2のいずれかに記載のスプレー缶用吸収体である。
【0009】
本発明の第5は、繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するセルロース繊維70〜95質量%と、熱融着性樹脂が5〜30質量%で構成された本発明の第1〜4のいずれかに記載のスプレー缶用吸収体である。
【0010】
本発明の第6は、吸収体の表面が、表面シートで被覆されている本発明の第1〜5のいずれかに記載されたスプレー缶用吸収体である。
【0011】
本発明の第7は、表面シートをメッシュコンベア上に繰り出し、乾式のウェブ形成装置により、セルロース繊維を解繊して繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45〜100質量%含有するセルロース繊維とし、該セルロース繊維70〜95質量%と熱融着性樹脂を5〜30質量%を配合したものを空気中でさらに混合したのち、該表面シート上に連続的に堆積させてウェブを形成させ、該ウェブ上にさらに表面シートを積層するように繰り出し、該ウェブを加熱炉内で加熱してウェブを固着させたスプレー缶用の吸収体シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、この発明により、液化ガスを充填したスプレー缶に使用する吸収体として、より吸収性能・保液性に優れた吸収体を得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のスプレー缶用吸収体についてさらに具体的に説明する。
本発明のスプレー缶用吸収体は粉砕されたセルロースを吸収体の主体とし、該セルロース繊維は、繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するものである。
セルロース繊維の繊維長を0.35mm以下とすることで、繊維集合体としてスプレー缶内に密に充填し、保液力を向上できる。繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維が45質量%未満の場合には、吸収体の吸収性能・保液力に劣るため、スプレー缶を倒立させた場合の液漏れを防止する効果を十分に得ることができない。
なお、本発明における繊維長とは、繊維長測定機FS-200(カヤーニ社製)により測定した、平均繊維長を意味する。
【0014】
本発明の吸収体に含まれる繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維は、セルロース繊維を機械的及び/又は化学的な手段で粉砕することにより製造したものである。セルロース繊維を粉砕することで、表面積の大きな微小な繊維とすることができ、保液性が向上する。
セルロース繊維の粉砕法としては、回転型ミルやジェットミルのような高速衝撃粉砕法、ロールクラッシャー法などが主に使用されている。また、セルロースは有機物で柔らかいため、機械的な粉砕処理のみでは微小なセルロース粒子を得ることが困難であり、微小セルロース繊維を得るためには、化学的処理と機械的粉砕を組み合わせた方法も一般的に使用される。
【0015】
化学的処理と機械的粉砕を組み合わせた方法としては、セルロースが結晶領域と非結晶領域からなっており、非結晶領域は薬品に対して易反応性であることから、例えば鉱酸と反応させることにより非結晶領域を溶出し、結晶部主体のセルロース繊維を得る方法が知られている。そして、更にこれを機械的に処理することにより微細なセルロース粒子を得ることができる。具体的には、漂白パルプを軽度に酸加水分解し、濾過水洗後、乾燥、粉砕して一部非結晶領域を含むセルロース微粒子の製造方法、または精製パルプを塩酸または硫酸で加水分解して結晶領域のみを残して微粉化したものが知られている。
【0016】
微小な繊維幅のセルロース繊維の製造方法としては、セルロース繊維の懸濁液を小径オリフィスを通過させて、その懸濁液に少なくとも3000psiの圧力差で高速度を与え、次にこれを衝突させて急速に減速させることにより切断作用を行わせる工程と、前記工程を繰り返して前記セルロースの懸濁液が実質的に安定な懸濁液となるようにする工程とからなり、これらの工程により前記セルロースの出発材料に実質的な化学変化を起こさないで前記セルロースを微小セルロース繊維に変換する方法、すなわち高圧均質化装置(高圧ホモジナイザー)によりセルロース繊維懸濁液を処理する方法が知られている(特許文献2、特許文献3参照)。
【0017】
また、高圧均質化装置によるセルロース繊維の微小化の作用機構(解繊作用)について特に剪断作用、切断作用、摩擦作用に注目して検討していたところ、メディア間の速度差によって生じる剪断力により効率的に微小化できる方法として後述のようにメディア撹拌式の湿式粉砕機により粉砕処理することも可能である(特許文献4参照)。
【0018】
メディア撹拌式湿式粉砕装置は、固定した粉砕容器に挿入した撹拌機を高速で回転させて、粉砕容器内に充填したメディアとセルロース繊維を撹拌して剪断応力を発生させて粉砕する装置であり、塔式、槽式、流通管式、マニュラー式等あるが、メディア撹拌方式であればどの装置でも使用可能である。なかでも、サンドグラインダー、ウルトラビスコミル、ダイノミル、ダイヤモンドファインミルが良好である。
【0019】
メディアの種類としては、ガラスビーズ、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、ジルコンビーズ、スチールビーズ、チタニアビーズなどが使用可能であり、粒径は平均粒径が0.1mmの微小のものから、平均粒径6mmの大粒径のものまで使用可能である。これらメディアの種類、平均粒径、粉砕機の回転数および処理濃度等の処理条件は、要求される微細セルロース繊維の物性により適宜選択することが可能である。また、処理方法としては、バッチ式あるいは連続式の何れの方法でも良いし、数台の装置を直列に接続して、第一段で粗く処理し、後段で微細に処理することも可能である。
【0020】
セルロース繊維として広葉樹漂白クラフトパルプを例に挙げると、前記未処理パルプの繊維幅は20〜30μ、重さ荷重平均繊維長は約0.8mm、形は平滑で偏平な円筒形をなし、さらによじれたり屈曲したりしている。
【0021】
このようなパルプを、前述の粉砕装置等で処理することにより、微細繊維を多量に含む粉砕セルロースが容易に得られる。例えば、数平均繊維長0.25mm以下の微細セルロース繊維を容易に得ることが可能である。
【0022】
本発明の吸収体の原料として使用するセルロース繊維は、針葉樹、広葉樹の漂白または未漂白化学パルプ、溶解パルプ、古紙パルプ、更にはコットン等、任意の原料のセルロース繊維を適宜粉砕処理することで用いることが可能である。中でも、NBKP、LBKPパルプが、吸収性・保水性、および液化ガスに着色が起こらないという点で優秀であり、好適に用いられる。
【0023】
なお、古紙パルプについては、繊維の保液性がやや劣り、繊維に印刷インクが付着している等の問題があるものの、低コストであり、環境への負荷が小さいといった利点がある。古紙パルプを使用する場合には、繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維の含有量や、充填量を増加させ、あるいは後述する形状の工夫等によって、所望の保液性が得られるようにすることが望ましい。また、古紙パルプを単独で使用せず、他の原料パルプとともに使用することもできる。
【0024】
原料となる上記のセルロース繊維を、前述の機械的及び/又は化学的手段によって、繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維が45質量%以上となるまで粉砕したものが本発明に好適に用いられる。
また、予め粉砕したセルロース繊維を分級することで、繊維長0.35mm以下とした微細セルロース繊維を他の任意のセルロース繊維に45質量%以上混合したり、セルロースを粉砕する際に、前記微細セルロース繊維が45質量%以上含まれる程度に粉砕したものも好適に用いられる。
なお、パルプエアレイド不織布の製造の際、バグフィルターから回収されるセルロース繊維には、微細セルロース繊維が多量に含まれるため、本発明の原料として好適に使用できる。これにより、製造工程を簡略化することができる。
【0025】
また、本発明においては、吸収体を構成する微細セルロース繊維として、水保持力210%以上のものが、吸収性能・保液力に優れたスプレー缶用吸収体が得られるため、より好適に用いられる。
【0026】
以下、水保持力について説明する。
本件発明で用いる微細セルロース繊維は、通常のパルプ繊維とは異なる特性を持つ。即ち、セルロース繊維が微細化されるにつれ、粘性が高くなり、水との親和性が増して水を保持する能力(水保持力)が高くなるため、吸収性能、保液力が格段に優れている。
【0027】
水保持力の測定は以下の方法で行なう。
セルロース繊維試料を、底部に穴の開いた円筒状の遠心管にG3のガラスフィルターを取付けたものを用いて、3000Gで15分間の遠心処理により脱水処理し、その後、処理試料を取り出しセルロース試料の質量の測定を行う。その後この試料を105℃で少なくとも5時間にわたって乾燥させた試料の乾燥質量を測定する。
水保持力は、遠心処理後の湿った状態の試料質量から乾燥試料質量を減算し、これを乾燥試料質量で除算し、これに100を乗算して得た値である。
【0028】
但し、微細セルロース繊維は、微細であるほど水保持力が高いので、そのまま遠心処理を行なっても脱水が困難で、水相が試料上部に残ってしまう。従って、前処理として、濾過等により予め予備脱水して水保持力を700〜800%にしてから、水保持力測定を行なうものとする。
【0029】
なお、本発明において用いる微細セルロース繊維と、通常に叩解されたパルプの水保持力を比較すると以下の通りである。
前述のメディア撹拌式粉砕装置で粉砕処理された微細セルロース繊維は、通常、水保持力210%以上、もしくはそれ以上となる。
一方、針葉樹漂白クラフトパルプ(未処理フリーネス710ml、水保持力51%)を処理濃度2%でリファイナーにて叩解し、フリーネス(TAPPIスタンダードT227m−58に準じて測定)375ml、254ml、61ml、30mlとしたパルプ繊維の水保持力は、それぞれ138%、151%、181%、195%であった。
【0030】
また、針葉樹サルファイトパルプ(未処理でフリーネス705ml、水保持力72%)を、処理濃度2%でナイアガラビーターにて処理し、フリーネス380ml、210ml、45mlとしたパルプ繊維の水保持力は、それぞれ161%、182%、208%であった。
また、機械パルプの場合、加圧型グランドウッドパルプでフリーネス60ml、水保持力145%であった。
【0031】
本発明におけるスプレー缶製品(除塵ブロワーやトーチバーナー用ボンベ)に用いるスプレー缶用吸収体は、前述した繊維により構成された、繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有する粉砕セルロース繊維集合体からなるものである。繊維集合体のスプレー缶への充填方法は任意に選択することができる。従って、得られた粉砕セルロース繊維が所望の微細セルロース繊維を含有するように調節し、スプレー缶の大きさに応じて、直接所定量をスプレー缶に充填することで本発明の吸収体とすることも可能である。
また、前述の繊維を、予め一定量集積させた繊維集合体に形成することもできる。これを保液用の吸収体とし、さらにスプレー缶に充填することが、作業性や生産性の面からさらに好適である。
繊維の集積の方法としては、前述の繊維を、所定の通気性を有する紙や不織布等のシートからなる袋に充填したものを繊維集合体からなる吸収体とすることが可能である。繊維を袋に充填することによって、予め所定形状の成形体とすることができ、繊維が製造時に散乱したりすることを防ぐことが可能である。
【0032】
具体的には、スプレー缶形状に合わせて、その内径に適した大きさの円筒状の成形体とすると、充填が容易にできる上、使用中も安定してスプレー缶内に保持することができる。
【0033】
また、前述の繊維を、加圧等によって所定形状に成形したものを吸収体とすることができる。
本発明として好適な吸収体形状としては、具体的にはシート状の吸収体が挙げられる。シート状に成形した吸収体は、そのままスプレー缶に充填することも可能であるが、形状の自由度に優れているため、適宜折畳んだり、スプレー缶の内径に適した太さの巻取状にした後、スプレー缶に充填して用いることが可能である。
他に、本発明として好適な吸収体としては、円筒状の吸収体が挙げられる。即ち、前述の繊維をスプレー缶の内径に適した太さの円筒状に成形したものを、スプレー缶に充填して用いることが可能である。
【0034】
上記のように、セルロース繊維からなる吸収体を成形するためには、繊維同士を結合させる必要がある。従って、このような吸収体を得るためにはバインダーとなる物質を添加して成形することが望ましい。
具体的には、前述の繊維に水溶性樹脂等からなるバインダーを噴霧等により付着させた後、シート状に堆積させたり、成形型に入れた状態で乾燥させる方法により得ることが可能である。
使用するバインダーは、必要に応じて適宜選択可能であり、たとえば、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸ソーダ等の水溶液タイプのバインダーや、ポリアクリル酸エステル、アクリル・スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、メチルメタアクリレート・ブタジエン共重合体等の各エマルジョン、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス等のエマルジョンタイプのバインダー等が使用可能である。
ただし、この方法によればバインダーによって繊維の表面の表面を被覆するため、吸収体の性能が落ちる恐れがある。
【0035】
また、前述の繊維に、熱融着性樹脂を混合して加熱して繊維を融着させて成形することも可能である。この方法によれば、セルロース繊維と熱融着性樹脂の接着部分以外の繊維表面にはバインダーが付着しないため、吸収体の吸収性能が低下しない。さらに、生産性も優れているため、本発明の吸収体を成形する場合最も好適である。
具体的には、0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するセルロース繊維70〜95質量%と、熱融着性樹脂が5〜30質量%の配合とすることがさらに望ましい。
熱融着性樹脂が5質量%未満の場合は、吸収体の繊維同士の結合が十分とならない場合があり、紙粉等が多く発生する等のトラブルの原因となる恐れがある。また30質量%を越える場合は、吸収体の吸収性・保液性が妨げられるという不具合が発生する。
【0036】
使用する熱融着性樹脂としては、従来公知の様々の樹脂を状況に応じて適宜使用することが可能である。また、熱融着性樹脂の形態としては、粉粒体状であっても良いが、繊維状であることが、セルロース繊維と交絡するため、より繊維が脱落しにくく、少量でも繊維同士を融着させられるという観点から最も望ましい。
なお、本発明では、熱融着性繊維として、状況に応じて任意の素材のものを用いることが可能である。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系繊維、ポリエステル(PET)繊維、ナイロン繊維等が挙げられる。また、融点の異なる合成樹脂を組み合わせてなる複合繊維を使用することができる。複合繊維の樹脂の組合せとしては、PE/PP、PE/PET、PP/PET、低融点PET/PET、低融点PP/PP、ナイロン-6/ナイロン66、PP/PVA、PE/PVAの複合繊維等が存在し、その種類は任意に選択可能である。また、複合繊維には異なる樹脂を並列に紡糸したサイドバイサイド型複合繊維、低融点樹脂が外側、高融点樹脂が内側として紡糸した芯鞘型複合繊維等が存在し、そのいずれも使用可能である。
なお、各種合成繊維の繊維長、及び繊維径は任意に選択可能であるが、繊維長2〜6mmの範囲、繊維径1〜72dtの範囲のものが好適に用いられる。1〜5dtの範囲のものが更に好適である。
【0037】
本発明においては、吸収体の表面が表面シートで被覆されていることが望ましい。該シートは、吸収体の液吸収性を妨げないように、紙や不織布等の通気性のあるシートを使用する。前記シートの坪量は12〜50g/mのものが好適に用いられる。具体的には、不織布としては、エアレイド不織布、サーマルボンド不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布、湿式不織布等が用いられる。紙としては、テイッシュ、クラフト紙、クレープ紙等が用いられる。本発明においては、特に、テイッシュ、エアレイド不織布、スパンボンド不織布等が好適に用いられる。
【0038】
なお、表面シートで被覆する手段としては、前述のシートを袋状にし、この袋に粉砕されたセルロース繊維の繊維集合体を入れて、本発明の吸収体として用いることができる。この方法は、吸収体の全体が表面シートで被覆されて作業性が良く、吸収体が性能を発揮し易いため好適に行なわれる。また、後述するようにウェブ形成により吸収体をシート状に成形する際は、このようなシートを表面材として用いることができる。
【0039】
本発明において、前述のセルロース繊維と熱融着性繊維は、所望の配合に混合し、従来公知のウェブ形成法によってシート状に形成することが可能である。
ウェブ成形法としては、例えば、湿式抄紙法、空気中で原料を分散させてフォーミングする方法である所謂エアレイ法(代表的な製造プロセスとしてはJ&J法、K−C法、本州法等が挙げられ、本州法はキノクロス法ともいう)、カード法等の方法を用いることが出来る。
形成されたウェブは、従来公知の熱処理装置により、熱融着繊維の一部を溶融し、該熱融着性繊維間およびセルロース繊維と熱融着性繊維間を接着することで、本発明の吸収体シートを得ることが可能である。熱処理の方法も特に限定されるものではないが、例えば次に挙げる熱処理装置を使用することが出来る。すなわち、スルーエアー型乾燥機、ヤンキー型乾燥機、多筒ドラム型乾燥機等の乾燥装置、あるいは、熱カレンダー装置、熱エンボス装置等のカレンダー装置等である。
【0040】
具体的に、本発明のシート状の吸収体を得るための方法としては、表面シートをメッシュコンベア上に繰り出し、乾式のウェブ形成装置により、セルロース繊維を解繊して繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45〜100質量%するセルロース繊維とし、該セルロース繊維70〜95質量%と熱融着性樹脂を5〜30質量%を配合したものを空気中でさらに混合したのち、該表面シート上に連続的に堆積させてウェブを形成させ、該ウェブ上にさらに表面シートを積層するように繰り出し、該ウェブを加熱炉内で加熱してウェブを固着させる方法が好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
本発明を、実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
<実施例1>
(1)微細セルロース繊維の製造
市販の広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)を、水で濃度1.5%の懸濁液とし、該懸濁液120gを、メディアとして平均粒径0.7mmのガラスビーズ125mlを入れた六筒式サンドグライダー(アイメックス製,処理容量300ml)で、撹拌機の回転数2000rpmで、処理温度を約20℃として40分間湿式粉砕を行い微細セルロース繊維を得た。
なお、処理前の市販のLBKPの繊維の繊維長は、0.61mm、繊維幅は20μm、水保持力は44%、処理後のセルロース繊維の数平均繊維長は0.25mm、繊維幅は1〜2μm、水保持力288%であった。
(2)吸収体の製造
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊して得たセルロース繊維55質量%と、(1)で得た微細セルロース繊維45質量%を配合した繊維85gを、18g/mのサーマルボンド不織布(福助工業社製、商品名:D-01518)を素材とする製の筒状の袋に充填し、約6.3cm径の略円筒状の吸収体を得た。
なお、このセルロース繊維全体に対して、繊維長0.35mm以下の繊維は48質量%であった。
【0042】
<実施例2>
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊して得たセルロース繊維40質量%と微細セルロース繊維の配合比率を60質量%とした以外は、実施例1と同様にして吸収体を得た。
なお、このセルロース繊維全体に対して、繊維長0.35mm以下の繊維は、72質量%であった。
【0043】
<実施例3>
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊し、得られた繊維を分級して、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を45質量%含有するセルロース繊維を得た。該セルロース繊維を使用した以外は、実施例1と同様に吸収体を得た。
【0044】
<実施例4>
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊し、得られたセルロース繊維を分級して、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を60質量%含有するセルロース繊維を得た。該セルロース繊維を使用した以外は、実施例1と同様にして吸収体を得た。
【0045】
<実施例5>
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊し、得られたセルロース繊維を分級し、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を45質量%以上含有するセルロース繊維を得た。該セルロース繊維70質量%と、熱融着性繊維(PE/PET芯鞘型熱融着性繊維、繊維長5mm、繊維径2.2dt、チッソ社製、商品名:ETC)30質量%を配合したものを空気中で均一に混合した後、走行する無端のメッシュ状コンベア上に繰り出された表面シート(ティッシュペーパー、14g/m、厚さ0.15mm、ニットク社製)上に、エアレイ方式のウェブフォーミング機により空気流とともに落下堆積させ、その上にさらに前述の表面シートと同じものを積層させウェブを形成し、該ウェブを温度138℃のスルーエアードライヤーを通過させ、プレスすることによって、340g/mの吸収体シートを得た。
上記で得た吸収体シートを、更にコアレス型の巻取(約6.3cm径、85g)状とし、吸収体を得た。
【0046】
<実施例6>
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊し、得られた繊維を分級し、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を45質量%以上含有するセルロース繊維を得た。該セルロース繊維70質量%と、熱融着性繊維(PE/PET芯鞘型熱融着性繊維、繊維長5mm、繊維径2.2dt、チッソ社製、商品名:ETC)30質量%を配合した繊維85gを、6.3cm径、高さ17cmの円筒形状の成形型に入れ、加圧加熱により成形して円筒形状の吸収体を得た。
【0047】
<実施例7>
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊し、得られたセルロース繊維を分級し、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を45質量%以上含有するセルロース繊維を得た。該セルロース繊維を、走行する無端のメッシュ状コンベア上に、エアレイ方式のウェブフォーミング機によって空気流と共に落下させ、40g/m2のウェブを形成する。
同ウェブ上に、EVA系の水性バインダー液を、固形分7g/mとなるようにエアナイフノズルにより散布し、同時にメッシュ状のコンベアの下側より吸引機にて吸引する。
前記バインダーを散布したウェブを、さらに雰囲気温度を170℃に設定したボックス型熱風乾燥機の中を通過させて繊維相互間を結合させる。該ウェブを反転させ、最初にバインダー散布を施した面の反対面に、同様にバインダー散布を施して熱風乾燥機を通過させ、40g/mの吸収体シートを得た。
上記で得た吸収体シートを、更にコアレス型の巻取(約6.3cm径、90g)状とし、吸収体を得た。
【0048】
<比較例1>
市販のLBKPを乾式解繊装置で解繊し、得られた繊維を分級して、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を20質量%含有するセルロース繊維を得た。該セルロース繊維85gを、実施例1と同様に、不織布製の袋に充填して吸収体を得た。
【0049】
<比較例2>
新聞古紙を乾式解繊装置で解繊し、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を40質量%含有するセルロース繊維を得た。該セルロース繊維75gを、実施例1と同様に、不織布製の袋に充填して吸収体を得た。
【0050】
<比較例3>
比較例2と同様に新聞古紙を解繊して得た、微細セルロース繊維(繊維長0.35mm以下)を40質量%含有するセルロース繊維85gを、実施例1と同様に、不織布製の袋に充填して吸収体を得た。
【0051】
実施例、比較例で得た吸収体を以下の方法で評価した。その結果を表1に示す。
[液漏れ評価試験]
市販の除塵ダストブロワー(外径66mm,高さ20cm)のスプレー缶と同形の容器に、実施例、及び比較例で得た吸収体を充填、さらに液化石油ガス(LPG)を350mlを充填して30分間静置する。その後で容器を逆さに向けてガスを噴射し、噴射部からの液漏れが発生するまでの時間を計測する。
液漏れが発生するまでの時間が20秒以上であるものは、除塵ダストブロワーやトーチバーナー用ボンベ等のスプレー缶用吸収体として使用可能であり、○で表した。また、20秒未満で液漏れが発生するものは使用不可であり、×で表した。
【0052】
[変色評価]
エアゾール開発用テストガラス瓶中に、吸収体とジメチルエーテル(DME)を入れて密封し、常温で2週間静置し、その後DMEの着色の有無を評価する。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に明らかなように、実施例1〜7の吸収体、すなわち、繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するセルロース繊維の集合体を、可燃性の液化ガスを保持する吸収体として用いたスプレー缶製品は、いずれも20秒以上、倒立状態で液漏れなく噴射を保持することができた。
これは、例えば除塵ブロワーにおいて、噴射剤として使用される可燃性ガスへの引火が、噴射時に液化ガスが完全に気化しないことが原因で起こると考えられること、通常使用時に一回の噴射時間が20秒以上となることはほとんどなく、特に30秒以上の連続噴射時には、気化熱による温度低下で缶を素手で保持することが困難になると考えられることから、通常の除塵目的での使用であれば十分な性能である。よって、噴射角度が自由で、液漏れにより火炎が発生するおそれが小さく、安全性が高く使用感に優れた除塵ブロワーを実現することができる。
【0055】
これに対し、吸収体を構成するセルロース繊維中、繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維の含有量が45質量%に満たない比較例1〜3では、2〜10秒で液漏れが生じた。このうち新聞古紙を原料とする従来吸収体を用いた比較例2、3が、なかでも吸収体の含有量が少ない比較例2は、液漏れまでの時間がより短かった。また、比較例2、3では、着色も発生した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕されたセルロース繊維集合体から構成された吸収体であって、該セルロース繊維は繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有することを特徴とするスプレー缶用吸収体。
【請求項2】
微細セルロース繊維の水保持力が210%以上であることを特徴とする請求項1記載のスプレー缶用吸収体。
【請求項3】
吸収体がシート状に成形されたことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のスプレー缶用吸収体。
【請求項4】
吸収体が円筒状に成形されたことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のスプレー缶用吸収体。
【請求項5】
繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45質量%以上含有するセルロース繊維70〜95質量%と、熱融着性樹脂が5〜30質量%で構成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスプレー缶用吸収体。
【請求項6】
吸収体の表面が、表面シートで被覆されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載されたスプレー缶用吸収体。
【請求項7】
表面シートをメッシュコンベア上に繰り出し、乾式のウェブ形成装置により、セルロース繊維を解繊して繊維長0.35mm以下の微細セルロース繊維を45〜100質量%含有するセルロース繊維とし、該セルロース繊維70〜95質量%と熱融着性樹脂を5〜30質量%を配合したものを空気中でさらに混合したのち、該表面シート上に連続的に堆積させてウェブを形成させ、該ウェブ上にさらに表面シートを積層するように繰り出し、該ウェブを加熱炉内で加熱してウェブを固着させたことを特徴とするスプレー缶用の吸収体シートの製造方法。

【公開番号】特開2008−180377(P2008−180377A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−333873(P2007−333873)
【出願日】平成19年12月26日(2007.12.26)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【出願人】(591122864)王子キノクロス株式会社 (19)
【出願人】(397066627)エヌ・ケイ・ケイ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】