説明

スペクトラムアナライザおよびスペクトラム分析方法

【課題】フラクショナルスプリアスに起因するスペクトル波形の表示を阻止しつつ、迅速な測定を可能にする。
【解決手段】指定されたスパン(分析対象周波数範囲)の幅値が境界値より大きい場合、基準信号周波数を所定の基準値に設定し、RBW(分解能帯域幅)より狭いループフィルタ帯域を選択することによってフラクショナルスプリアスをRBWの内側にしてスペクトラム波形として表示されないようにする。また、指定されたスパンの幅値が境界値より小さい場合、基準信号周波数を基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と分周比の整数部との積に等しい分だけVCO出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスとの周波数差を拡大させ、その拡大した周波数差より狭い範囲でループフィルタの帯域をRBWが含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数掃引されるローカル信号をローカル信号発生部で生成して入力信号とともにミキサに入力し、そのミキサの出力から所定の中間周波数帯の信号を抽出し、その抽出信号のレベルを検出して、入力信号に含まれる所望観測範囲の周波数成分のスペクトル波形を表示するスペクトラムアナライザにおいて、VCOから位相比較器の間の帰還ループに分数型分周器を用いて微細に周波数掃引できる構成のPLLシンセサイザ(フラクショナルN型PLLシンセサイザ)をローカル信号発生部に採用したものにおいて、そのPLLシンセサイザのスプリアスによって生じる不要な波形成分が測定結果に表示されないようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スペクトラムアナライザは、入力信号中の所望の周波数範囲に含まれる信号成分の強度を検出して、横軸周波数と縦軸強度の画面上に波形表示するものであり、一般的に、図4のような構成を有している。
【0003】
即ち、周波数掃引されるローカル信号Lをローカル信号発生部11で生成して入力信号SINとともに周波数変換部12のミキサ13に与え、その出力をフィルタ14に入力して、所定の中間周波数帯の信号成分SIFを抽出する。
【0004】
ここで、中間周波数帯の中心周波数fIFに対して、ローカル周波数fが高い上側ヘテロダインを採用すると、ローカル周波数fがfL1〜fL2へ掃引変化すれば、入力信号SINに含まれる成分のうち、周波数(fL1−fIF)〜(fL2−fIF)の成分が時系列に抽出されることになり、その抽出信号SIFを、信号処理部15に入力し、分解能帯域幅RBWに対応した帯域制限処理と、振幅検出処理を行い、周波数毎の信号強度のデータ、即ちスペクトラム波形のデータを求め、表示部16においてそのデータを周波軸上にプロットしていくことで、(fL1−fIF)〜(fL2−fIF)の周波数範囲のスペクトラム波形を得ることができる。
【0005】
このように周波数掃引されるローカル信号によって入力信号の各周波数成分を所定の中間周波数帯に変換する方式のスペクトラムアナライザでは、ローカル信号の周波数精度や再現性が要求されるため、一般的にPLLシンセサイザが用いられている。
【0006】
PLLシンセサイザは、図5に示すように、VCO(電圧制御発振器)11aの出力を分周器11bによりN分周して、基準信号Rとともに位相比較器11cに与え、その位相差に応じて出力される誤差信号をループフィルタ11dによって平滑し、これを制御信号(またはその一部)としてVCO11aに与え、上記位相差が0あるいは一定値(π、π/2等)となるようにフィードバック制御し、VCO11aの出力周波数fVCOを基準信号周波数fと分周器11bの分周比Nの積N・fにロックさせる。
【0007】
この構成のPLLシンセサイザを、スペクトラムアナライザのローカル信号発生部11として用いる場合、VCO11aの周波数を一定のステップで連続的に可変する必要があるが、観測レンジが数GHzと高いスペクトラムアナライザであってもその要求される周波数分解能は数Hz以下であり、ローカル周波数の分解能はそれ以下が必要となる。
【0008】
これを上記構造のPLLシンセサイザで実現するためには、出力周波数fVCOが例えば数MHz程度のステップで変化するように、基準信号周波数fと分周比Nの少なくとも一方を微細に可変する必要がある。
【0009】
ここで、PLLの応答速度に関していえば、基準信号周波数が高いほどループフィルタ11dの帯域を広くでき、高速な周波数切り換えが可能となるが、その分広帯域となって遠傍のC/Nは悪化する。逆に、基準信号周波数を低くすれば遠傍のC/Nは良くなるが、周波数切り換えに時間が掛かる。
【0010】
したがって、周波数掃引という高速な周波数切り換えが必要なPLLシンセサイザでは、基準信号周波数を下げずに、出力周波数を微細に変化させる必要がある。
【0011】
また、分周比に応じてループゲインが変化するので、分周比を大幅に変化させることも好ましくない。
【0012】
つまり、基準信号周波数をある程度高い周波数に設定して、分周比をある範囲内で微細に変化させて、出力周波数を掃引させることが望ましい。
【0013】
ここで、一般的な整数型の分周器では数GHzの信号を微細なステップで分周させることはできないが、近年では、分数型の分周器(フラクショナル分周器)が実現されており、これを用いることで微細なステップの分周が可能である。
【0014】
分数型の分周器を用いたPLLシンセサイザは、フラクショナルN型PLLシンセサイザと呼ばれ、整数Nと0以上1未満の値F(通常Fは分数で表される値)に対して分周比(N+F)の分周が可能であり、原理的には、一定時間内に分周比Nの分周と分周比N+1の分周とをある比率で行って、その平均的な分周比がN+Fとなるようにしたものである。
【0015】
例えば、N=100、F=0.1であれば、100分周9回(入力パルス数900個)と101分周1回(入力パルス数101個)とを行い、合計入力パルス数1001個に対して10回の分周パルスを出力する。したがって平均的な分周比は1001/10=100.1となる。
【0016】
この分数型の分周器を用い、例えば値Fの最小桁を10−6等にすることで微細なステップでVCOの周波数を可変できるが、この分数型の分周器にはその原理上避けられないスプリアス(フラクショナルスプリアス)が発生する。
【0017】
このスプリアスは、分周比(N+F)に対して、整数N、N+1の分周を行うことに起因して発生するものであり、このようなスプリアスがローカル信号に含まれると、入力信号成分とスプリアスとの周波数差が中間周波数帯に一致したときにその入力信号成分が中間周波数帯に変換され、スペクトラム波形として表示されてしまい、誤った測定を行うことになる。
【0018】
このフラクショナルスプリアスに起因して生じるスペクトラム波形を除去する技術として、次の特許文献1には、ローカル信号掃引時の条件、例えば分周比やローパスフィルタの時定数を変えて2回掃引し、その掃引で得られた2つのスペクトラム波形に基づいてフラクショナルスプリアスに起因して生じるスペクトラム波形を特定して除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2008−111832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上記文献では、掃引条件を変えて2回掃引して得られた2つのスペクトラム波形に基づいてフラクショナルスプリアスに起因して生じるスペクトル波形を特定して除去する方式であるため、正規の測定結果が得られるまでに最低でも2回掃引の時間を要し、迅速な測定が行えないという問題があった。
【0021】
また、その2回の掃引を行っているうちに入力信号のスペクトラムが変化すると、フラクショナルスプリアスに起因して生じるスペクトル波形の特定が困難になり、正しいスペクトラム波形を得るためにさらに時間が必要となる。
【0022】
本発明は上記問題を解決し、フラクショナルスプリアスに起因するスペクトル波形の表示を阻止しつつ、迅速な測定が可能なスペクトラムアナライザおよびスペクトラム分析方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前記目的を達成するために、本発明のスペクトラムアナライザは、
周波数掃引されるローカル信号と解析対象の入力信号とをミキシングし、そのミキシング結果から所定の中間周波数帯の信号成分を抽出する周波数変換部(21)と、
VCO(26a)の出力信号を分数型の分周器(26b)により分周し、その分周出力と基準信号発生器(26c)から出力される基準信号とを位相周波数比較器(26d)に入力し、該位相周波数比較器から出力される位相誤差信号をループフィルタ(26e)に入力し、該ループフィルタから出力される制御信号により前記VCOの出力信号の周波数を前記基準信号の周波数と前記分周器の分周比の積にロックさせるフラクショナルN型PLLシンセサイザ(26)を含み、前記VCOの出力またはその逓倍出力を前記ローカル信号として前記周波数変換部へ与えるとともに、前記入力信号のうち指定された分析対象周波数範囲の信号成分が前記周波数変換部からその周波数順に時系列に出力されるように前記分周器の分周比を順次更新することで前記ローカル信号の周波数を掃引するローカル信号発生部(25)と、
前記ローカル信号が周波数掃引されている間に前記周波数変換部から出力される信号に対して指定された分解能帯域幅の帯域制限処理および振幅検出処理を行い、前記分析対象周波数範囲のスペクトラム波形を求める信号処理部(30)と、
前記信号処理部によって得られたスペクトラム波形を表示する表示部(35)と、
前記分析対象周波数範囲および分解能帯域幅を任意に指定するための操作部(37)とを有するスペクトラムアナライザにおいて、
前記ローカル信号発生部の前記フラクショナルN型PLLシンセサイザの前記ループフィルタの帯域および前記基準信号発生器が出力する基準信号の周波数が変更可能になっており、
前記分析対象周波数範囲の幅値の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が、いずれの領域に入るかを判定する幅値判定手段(38)と、
前記分解能帯域幅の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分解能帯域幅の値が、いずれの領域に入るかを判定する分解能帯域幅判定手段(39)と、
前記幅値判定手段と前記分解能帯域幅判定手段の判定結果に基づいて、前記基準信号の周波数、前記ループフィルタの帯域、前記分周比の設定処理を行う設定処理部(40)とが設けられ、
前記設定処理部は、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記幅値判定手段により前記複数の領域のうち幅が大きい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を所定の基準値に設定し、設定された分解能帯域幅より狭いループフィルタ帯域を選択することによって、フラクショナルスプリアスの発生周波数を前記設定された分解能帯域幅の内側にして、スペクトラム波形として表示されないようにし、前記基準値に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する第1設定モード(S6、S7、S13、S14〜S20)と、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記幅値判定手段により前記複数の領域のうち幅が小さい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を前記基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と前記分周比の整数部との積に等しい分だけ前記VCOの出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、該拡大した周波数差より狭い範囲で前記ループフィルタの帯域を前記指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧し、前記シフトした基準信号の周波数に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する第2設定モード(S5、S10、S11、S12、S20)とを含む設定処理を行い、該設定された条件で前記ローカル信号発生部のローカル信号を掃引させることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項2のスペクトラム分析方法は、
周波数掃引されるローカル信号と解析対象の入力信号とをミキシングし、そのミキシング結果から所定の中間周波数帯の信号成分を抽出する周波数変換部(21)と、
VCO(26a)の出力信号を分数型の分周器(26b)により分周し、その分周出力と基準信号発生器(26c)から出力される基準信号とを位相周波数比較器(26d)に入力し、該位相周波数比較器から出力される位相誤差信号をループフィルタ(26e)に入力し、該ループフィルタから出力される制御信号により前記VCOの出力信号の周波数を前記基準信号の周波数と前記分周器の分周比の積にロックさせるフラクショナルN型PLLシンセサイザ(26)を含み、前記VCOの出力またはその逓倍出力を前記ローカル信号として前記周波数変換部へ与えるとともに、前記入力信号のうち指定された分析対象周波数範囲の信号成分が前記周波数変換部からその周波数順に時系列に出力されるように前記分周器の分周比を順次更新することで前記ローカル信号の周波数を掃引するローカル信号発生部(25)と、
前記ローカル信号が周波数掃引されている間に前記周波数変換部から出力される信号に対して指定された分解能帯域幅の帯域制限処理および振幅検出処理を行い、前記分析対象周波数範囲のスペクトラム波形を求める信号処理部(30)と、
前記信号処理部によって得られたスペクトラム波形を表示する表示部(35)と、
前記分析対象周波数範囲および分解能帯域幅を任意に指定するための操作部(37)とを有するスペクトラムアナライザによるスペクトラム分析方法において、
前記分析対象周波数範囲の幅値の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が、いずれの領域に入るかを判定する段階(S2)と、
前記分解能帯域幅の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分解能帯域幅の値が、いずれの領域に入るかを判定する段階(S10、S13、S16)と、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記複数の領域のうち幅が大きい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を所定の基準値に設定し、設定された分解能帯域幅より狭いループフィルタ帯域を選択することによって、フラクショナルスプリアスの発生周波数を前記設定された分解能帯域幅の内側にして、スペクトラム波形として表示されないようにし、前記基準値に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する段階(S6、S7、S13、S14〜S20)と、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記複数の領域のうち幅が小さい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を前記基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と前記分周比の整数部との積に等しい分だけ前記VCOの出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、該拡大した周波数差より狭い範囲で前記ループフィルタの帯域を前記指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧し、前記シフトした基準信号の周波数に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する段階(S5、S10、S11、S12、S20)とを含む設定処理を行い、該設定された条件で前記ローカル信号発生部のローカル信号を掃引させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
このように、本発明では、指定された分析対象周波数範囲の幅値が大きい場合に、基準信号の周波数を所定の基準値に設定し、設定された分解能帯域幅より狭いループフィルタ帯域を選択することによって、フラクショナルスプリアスの発生周波数を前記設定された分解能帯域幅の内側にして、スペクトラム波形として表示されないようにし、基準値に対して指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように分周比を設定する処理を行い、指定された分析対象周波数範囲の幅値が小さい場合には、基準信号の周波数を基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と分周比の整数部との積に等しい分だけVCO出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、その拡大した周波数差より狭い範囲でループフィルタの帯域を指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧し、シフトした基準信号の周波数に対して指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように分周比を設定する処理を行い、その設定された条件でローカル信号発生部のローカル信号を掃引させるようにしている。
【0026】
ここで、スペクトラムアナライザでは1つのスペクトラム波形を得るためのデータ数は表示部の表示ポイント数等で規定されており、その制限から分析対象周波数範囲の幅値が大きい場合に必然的に分解能帯域幅の設定可能な値も大きくなる。したがって、VCOの出力信号の主信号成分に近接するスプリアスによって周波数変換される不要成分は、主信号成分によって周波数変換される信号成分のスペクトラム波形に埋もれて観測されないで済み、分解能帯域幅より若干狭い帯域のループフィルタを用いることで、速度を犠牲にすることなく正確なスペクトラム波形を観測できる。
【0027】
また、分析対象周波数範囲の幅値が小さい場合、必然的に分解能帯域幅の設定可能な値も小さくなって、VCOの出力信号の主信号に近接するスプリアスによって周波数変換される不要成分が、主信号によって周波数変換される信号成分のスペクトラム波形と分離されて観測されてしまうことが考えられるが、本発明では、この場合に、基準信号の周波数を基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と分周比の整数部との積に等しい分だけVCOの主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、その拡大した周波数差より狭い範囲でループフィルタの帯域を指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧しているので、周波数差を拡大した分だけ広帯域なループフィルタを使用でき、速度を犠牲にすることなく正確なスペクトラム波形を観測できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態の構成図
【図2】ローカル信号のスプリアスとの関係を示す図
【図3】実施形態の動作を説明するためのフローチャート
【図4】スペクトラムアナライザの基本構成図
【図5】PLLシンセサイザの構成図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用したスペクトラムアナライザ20の全体構成図である。
【0030】
図1において、分析対象の入力信号SINは、周波数変換部21に入力される。周波数変換部21は、入力信号SINと後述するローカル信号発生部25から出力されるローカル信号Lとをミキサ22によりミキシングし、そのミキシング結果をフィルタ23に入力して、所定の中間周波数帯の信号成分を抽出する。なお、ここでは、周波数変換を1回行う例を示しているが、ミキサとフィルタの組合せを複数段縦列に接続し、より低い周波数帯へ周波数変換処理を行う構成であってもよい。ただしその場合、後続のミキサには周波数固定のローカル信号を与える。また、フィルタ23の帯域幅は、後述する信号処理部30による制限帯域の最も広い幅以上(例えば10MHz等)に設定されている。
【0031】
ローカル信号発生部25は、前記したフラクショナルN型PLLシンセサイザ26と逓倍器27により構成されている。
【0032】
フラクショナルN型PLLシンセサイザ26は、VCO(電圧制御発振器)26aの出力信号を分数型の分周器26bにより分周し、その分周出力と基準信号発生器26cから出力される基準信号Rとを位相周波数比較器(PFD)26dに入力し、その位相周波数比較器26dから出力される位相誤差信号をループフィルタ26eに入力し、ループフィルタ26eから出力される制御信号によりVCO26aの出力信号の周波数fVCOを基準信号Rの周波数fと分周器26cの分周比(N+F)の積にロックさせる。
【0033】
なお、ここでは、分析対象周波数範囲を拡げるために、VCO26aの出力を逓倍器27でM逓倍(Mは例えば2、4、8)してローカル信号Lを得ているが、逓倍器27を省略してVCO26aの出力をローカル信号としてもよい。また、分析対象周波数範囲をさらに拡げるために、発振周波数範囲が異なる複数のVCOを用い、それをスイッチで切り換える構成であってもよい。
【0034】
また、ループの応答速度とローカル信号のC/Nを決定するループフィルタ26eはローパス型で、その帯域(高域遮断周波数)は例えば10kHz、25kHz、50kHz、300kHzのいずれかに選択的に可変できるようになっている。ここでは帯域可変できるループフィルタ26eを示しているが、帯域が異なる複数のループフィルタのいずれかをスイッチによって選択する構成であってもよい。
【0035】
また、基準信号発生器26cは、例えばDDS(direct digital synthesizer)を用いたものであり、基準信号Rの周波数を基準値(例えば50MHz)から僅かに変更できるようになっている。なお、基準信号発生器26cは同様の機能を有するものであれば、DDS以外のものであってもよい。
【0036】
上記ループフィルタ26eの帯域、基準信号Rの周波数、分周器26bの分周比(N+F)は、後述する設定処理部40によって設定され、ローカル信号発生部25は、その設定された条件にしたがって、入力信号のうち指定された分析対象周波数範囲の信号成分が周波数変換部21からその周波数順に時系列に出力されるように分周器26b分周比を順次更新させてローカル信号Lの周波数を掃引する。
【0037】
周波数変換部21の出力信号は信号処理部30に入力される。
信号処理部30は、ローカル信号Lが周波数掃引されている間に周波数変換部21から出力される信号をA/D変換器31によってサンプリングしてデジタルの信号列に順次変換し、その信号列を帯域制限処理部32に入力して、指定された分解能帯域幅RBWの帯域制限処理(デジタルフィルタ処理)を行い、さらに振幅検出処理部33により振幅検出処理を行って、分析対象周波数範囲のスペクトラム波形のデータを求める。なお、図示していないが、信号処理部30にはデジタルの信号列やスペクトラム波形のデータを一時記憶するメモリが含まれる。
【0038】
信号処理部30によって得られたスペクトラム波形のデータは表示部35に出力され、横軸周波数、縦軸レベルの画面上にそのスペクトラム波形が表示される。
【0039】
操作部37は、分析対象周波数範囲および分解能帯域幅を含む各種の測定条件を任意に指定するためのものである。なお、分析対象周波数範囲は、下限周波数と上限周波数の組合せ、または下限周波数、上限周波数、中心周波数のいずれかと幅値(スパン)の組合せで指定される。
【0040】
分析対象周波数範囲の指定情報は、幅値判定手段38に入力される。幅値判定手段38は、分析対象周波数範囲の幅値(スパン)の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、指定された分析対象周波数範囲の幅値が、そのいずれの領域に入るかを判定する。
【0041】
例えば、最大の分析対象周波数範囲を0Hz〜10GHzとし、設定可能な幅値を1Hz〜10GHzとすると、
A1領域 1Hz<スパン≦150kHz
A2領域 150kHz<スパン≦500kHz
A3領域 500kHz<スパン≦5MHz
B1領域 5MHz<スパン≦100MHz
B2領域 100MHz<スパン≦10GHz
に分けて、指定された分析対象周波数範囲の幅値が、A1〜B2の領域のいずれに入るかを判定する。なお、この領域は5MHz以下のA領域と5MHzを越えるB領域に大別されており、その大別された領域に応じて設定処理も異なる。
【0042】
このA領域とB領域の境界は、最大の分析対象周波数範囲(ここでは0〜10GHz)、それに対するVCO26aの周波数可変範囲(ここでは2.5〜5GHz)と逓倍器27の逓倍数M(ここでは2)、スパンと分解能帯域幅RBWの設定可能な値との比等を考慮して決定されたものであり、VCO26aの周波数範囲が変わらないとすれば、逓倍数Mが2倍の4になれば各領域の周波数も2倍となり、A領域とB領域の境界値もそれに比例して2倍の10MHzとなる。
【0043】
分解能帯域幅RBWの設定情報は、分解能帯域幅判定手段39に入力される。分解能帯域幅判定手段39は、分解能帯域幅の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、指定された分解能帯域幅の値が、いずれの領域に入るかを判定する。
【0044】
例えば、上記条件において、分解能帯域幅RBWの設定可能範囲を、
第1領域 RBW≦50kHz
第2領域 300kHz>RBW≧100kHz
第3領域 RBW≧300kHz
に分け、指定された分解能帯域幅RBWがいずれの領域に入るかを判定する。なおこの実施形態では、第2領域中でRBW=100kHzの場合も一つの一致条件としている。
【0045】
設定処理部40は、幅値判定手段38と分解能帯域幅判定手段39の判定結果に基づいて、ローカル信号発生部25の基準信号Rの周波数、ループ帯域、分周比の設定処理を行う。
【0046】
この設定処理について説明する前に、フラクショナルスプリアスについて検討する。
フラクショナルスプリアスは、前記したように、分周比N+Fに対して、分周器26bがNとN+1の分周を行うことに起因して発生するものであり、VCO26aの出力の主信号成分の周波数fVCOに対して、
Δf(P)=P・|fVCO−f・N|
Δf(P)′=P・|fVCO−f・(N+1)|
だけ離れた上下の位置に現れることが知られている(Pはスプリアスの次数で1、2、3、…の値をとる)。なお、実施形態では逓倍器27があるので、ローカル信号Lに含まれるのはそのM倍の周波数成分となる。
【0047】
例えば、F=0の場合、分周比=Nとなり、図2の(a)示すように、VCO26aの出力信号には、周波数fVCOの主信号成分(丸印で示す)と整数Nに関する全ての次数のスプリアスSPが周波数N・fの位置にあり、整数N+1に関するスプリアスSPN+1は周波数(N+1)・fの位置にある。
【0048】
しかし、整数Nに関する全ての次数のスプリアスSPが主信号周波数と一致しており、また、整数N+1に関するスプリアスSPN+1は主信号から基準信号周波数以上大きく離間しており、ループフィルタ26eにより抑圧されてPLL出力には現れない。つまり分周比=Nの場合にはスプリアスは発生しない。原理的に言えばこの状態はフラクショナル分周でなく単純な固定整数の分周であるから、フラクショナル方式固有のスプリアスは発生しないとも言える。
【0049】
次に、掃引のステップとして分周比をΔF(0<ΔF<1)だけ増加した場合、図2の(b)に示すように、主信号の周波数fVCOは、(N+ΔF)・fにシフトし、その主信号の周波数に対して、±ΔF・f、±2ΔF・f、±3ΔF・f、…離れた位置に整数Nに関する各次数のスプリアスSP(±1)、SP(±2)、SP(±3)、…が現れる。また、これらのスプリアスから高い方へそれぞれf離れた位置に、整数N+1に関する各スプリアスSPN+1(±1)、SPN+1(±2)、SPN+1(±3)、…が現れる。
【0050】
さらに、分周比をΔF増してN+2ΔF(0<2ΔF<1)にした場合、図2の(c)に示すように、主信号の周波数fVCOは、(N+2ΔF)・fにシフトし、その主信号の周波数に対して、±2ΔF・f、±4ΔF・f、±6ΔF・f、…離れた位置に整数Nに関する各次数のスプリアスSP(±1)、SP(±2)、SP(±3)、…が現れる。また、これらのスプリアスから高い方へそれぞれf離れた位置に、整数N+1に関する各スプリアスSPN+1(±1)、SPN+1(±2)、SPN+1(±3)、…が現れる。
【0051】
つまり、分周比の少数部Fを増していくにつれて、主信号と整数Nに関するスプリアスとの周波数差は拡がっていくことになる。ただし、整数N+1に関する負側のスプリアスはSPN+1(−1)、SPN+1(−2)、…は、少数部Fの増加に伴って主信号に近づいてくる。
【0052】
ここで問題となるスプリアスの次数を3次までとし、整数N+1に関する負側の3次のスプリアスSPN+1(−3)が主信号と重なるとき、
N・f+ΔF・f=(N+1)f−2ΔF・f
が成立する。
【0053】
この式を解くと、
ΔF・f=f/3
となる。
【0054】
よって、主信号の周波数fVCOがN・f+f/3になったときに、主信号と3次のスプリアスSPN+1(−3)が重なる。
【0055】
同様に、負側の2次のスプリアスSPN+1(−2)が主信号に重なるのは、周波数fVCO=N・f+f/2になったときであり、負側の1次のスプリアスSPN+1(−1)が主信号に重なるのは、周波数fVCO=N・f+fになったときである。
【0056】
簡略化して主信号の周波数fVCOと、Nに関する正側の1次のスプリアスSPN+1(1)と、N+1に関する負側の1次のスプリアスSPN+1(−1)について注目すると、主信号fVCOはf分移動するとスプリアスSPN+1(−1)に重なるが、整数Nに関する正側のスプリアスSP(1)が周波数f/2で折り返されて主信号と重なるようにも考えられる。
【0057】
同様に、主信号fVCOはf/2分移動するとスプリアスSPN+1(−2)に重なるが、整数Nに関する正側のスプリアスSP(2)が周波数f/2で折り返されて主信号と重なるように考えられる。さらに主信号fVCOはf/3分移動するとスプリアスSPN+1(−3)に重なるが、整数Nに関する正側のスプリアスSP(3)が周波数f/2で折り返されて主信号と重なるように考えられる。
【0058】
ここで、問題となるスプリアスは、主信号の近傍に存在するものであり、ループ帯域から十分離れたものは抑圧されてしまう。つまり、ループ帯域内で、主信号からそれに最も近いスプリアスまでの周波数差がループ帯域内で、且つその周波数素に逓倍数Mを乗じた値が分解能帯域幅RBWを越えると、その逓倍されたスプリアスによって周波数変換された不要なスペクトラムが表示されてしまう。
【0059】
この不要なスペクトル表示を防ぐために、このスペクトラムアナライザ20では、ループフィルタ26eの帯域および基準信号の周波数を可変できる構成とし、分析対象周波数範囲の幅値(スパン)の大きさと分解能帯域幅RBWとの関係に応じて、ループフィルタ26eの帯域制限によるスプリアス抑圧作用と、基準周波数のシフトによって主信号とスプリアスとの周波数差を拡大させる機能とを使い分けている。
【0060】
つまり、整数N、N+1によるスプリアスの周波数が主信号に極めて近い(例えば1kHz以下)場合で且つその周波数差が分解能帯域幅RBWより大きい場合、その周波数より狭いループ帯域を与えればスプリアス成分を抑圧できるが、それでは周波数がロックするのに要する時間が長くなって応答速度が極端に遅くなり測定結果を迅速に得ることができないが、そのような場合に、主信号成分とスプリアスの周波数差を拡大することにより、ループ帯域を広く設定したままでそのスプリアスを抑圧し、ローカル信号の掃引を行うようにしている。
【0061】
また、上記周波数差が少ない場合であっても、指定された分解能帯域幅RBWがその周波数差より十分大きい場合には、そのスプリアスによって周波数変換される信号のスペクトラムが主信号成分によって周波数変換されるスペクトラムに埋もれてしまうことを積極的に利用し、高速な掃引を実現している。
【0062】
前記スプリアスと主信号の周波数差は、ユーザによって指定される分析対象周波数範囲の幅値(スパン)と分解能帯域幅RBWに大きく依存している。
【0063】
つまり、スパンが大きい場合、掃引時の1ステップ当たりの周波数変化量(前記したΔFに対応)が増えてVCOの主信号成分とスプリアスとの周波数差が大きくなるが、必然的に設定可能な分解能帯域幅RBWも大きくなる。ここで、ループ帯域を越えるスプリアスに対してはそのフィルタによって抑圧することができ、またループ帯域内のスプリアスについては、分解能帯域幅RBWが大きいことを利用し、主信号成分に近接するスプリアスによって周波数変換される不要成分を、主信号成分によって周波数変換される信号成分のスペクトラム波形に埋もれさせて観測させないようにし、分解能帯域幅より若干狭い帯域のループフィルタを用いることで、速度を犠牲にすることなく正確なスペクトラム波形を観測できる。
【0064】
また、スパンが小さい場合、1ステップ当たりの周波数変化量(前記したΔFに対応)が小さくなるが、必然的に分解能帯域幅も小さくなって、ローカル信号の主信号に近接するスプリアスによって周波数変換される不要成分が、主信号によって周波数変換される信号成分のスペクトラム波形と分離されて観測されてしまうことが考えられる。しかし、この場合、実施形態のスペクトラムアナライザ20では、基準信号Rの周波数を基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と分周比の整数部との積に等しい分だけVCOの出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、その拡大した周波数差より狭い範囲でループフィルタの帯域を指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧しているので、周波数差を拡大した分だけ広帯域なループフィルタを使用でき、速度を犠牲にすることなく正確なスペクトラム波形を観測できる。
【0065】
ここで、基準信号のシフト量と周波数差の関係は、前記した式、
Δf(P)=P・|fVCO−f・N|
において、基準信号の周波数を基準値fからf−Δfrにシフトすると、スプリアスの周波数は、N・frだけ大きくなる。例えばN=25で、シフト量Δfrを例えば1MHzとすれば、スプリアスを25MHzも主信号から離すことができる。ただし、この場合、シフトした基準信号の周波数に対応させて分周比N+Fも変更する必要がある。
【0066】
前記した設定処理部40は、スパンや分解能帯域幅RBWの値により、可能な限りループの応答速度を下げることなく、フラクショナルスプリアスによる余分なスペクトラムが表示されないように、ローカル信号発生部25の基準信号Rの周波数、ループフィルタ26eの帯域、分周比の設定処理を行う。
【0067】
図3は、前記した幅値判定手段38、分解能帯域幅判定手段39および設定処理部40の動作の一例を示すフローチャートである。
【0068】
以下、このフローチャートに基づいて実施形態のスペクトラムアナライザ20の動作を説明する。
【0069】
始めに、操作部37によって分析対象周波数範囲や分解能帯域幅RBWが変更指定されると(S1)、指定されたスパンが前記区分けした領域のいずれにあるかが判定される(S2)。
【0070】
ここで、スパンが5MHz以下のA1〜A3領域にある場合には、指定される分解能帯域幅RBWも小さくなり、フラクショナルスプリアスとVCO26aの出力信号の主信号成分との周波数差が少なくなると判断して、その周波数差を拡大させるために必要な量だけ基準値fからシフトした基準信号Rの周波数を算出する(S3〜S5)。
【0071】
また、スパンが5MHzより大きいB1、B2領域にある場合には、指定される分解能帯域幅RBWも大きく、フラクショナルスプリアスと主信号成分との周波数差を十分確保できると判断し、基準信号Rの周波数を基準値(50MHz)に決定する(S6、S7)。
【0072】
さらに、指定されたスパンに応じてループフィルタ26eの帯域をより細かく決定する。
【0073】
即ち、スパンが最も小さいA1領域にある場合(S3)では、拡大した周波数差分のスプリアスはスペクトラム波形の周波数軸の表示範囲(つまりスパン)の外側となってしまうので、抑圧する必要が無い。したがって、この場合には、広いループ帯域300kHzを用い、PLLの帯域内のノイズの圧縮を行い、C/Nを良くしている(S8)。
【0074】
また、スパンがA2領域にある場合(S4)には、拡大した周波数差を狭いループフィルタで十分抑圧できるので、この領域に対しては、最も狭いループ帯域10kHzを選択している(S9)。
【0075】
また、スパンがA3領域にある場合(S5)には、拡大した周波数差の範囲も大きくなるので、分解能帯域幅RBWに応じて最適なループ帯域を選択する必要が生じる。
【0076】
そこで、分解能帯域幅RBWの判定結果を調べ(S10)、分解能帯域幅RBWが50kHz以下の場合には、スプリアスの抑圧を優先して最も狭いループ帯域10kHzを選択し(S11)、分解能帯域幅RBWが100kHz以上(または50kHzを越える)の場合には、スパンに対する分解能帯域幅RBWの割合が大きく、スプリアスによって周波数変換されるスペクトラム成分は主信号によって周波数変換されるスペクトラム成分に埋もれてしまうので、速度を優先してやや広いループ帯域25kHzを選択する(S12)。
【0077】
また、スパンが5MHzを越えるB1領域にある場合(S6)には、基準信号のままで使用するためにフラクショナルスプリアスが近傍に現れる。このため、フラクショナルスプリアスの成分がスペクトラム波形に現れないように、分解能帯域幅RBWに応じて最適なループ帯域を選択する必要が生じる。
【0078】
そこで分解能帯域幅RBWの判定結果を調べ(S13)、分解能帯域幅RBWが50kHz以下の場合には、スプリアスの抑圧を優先して最も狭いループ帯域10kHzを選択し(S14)、分解能帯域幅RBWが100kHz以上(または50kHzを越える)の場合には、スパンに対して分解能帯域幅RBWの比が大きく、スプリアスによるスペクトラム成分は主信号によるスペクトラム成分に埋もれてしまうので、速度を優先してさらに広いループ帯域50kHzを選択する(S15)。
【0079】
また、スパンがさらに大きいB2領域にある場合(S7)、基準信号のままで使用するためにフラクショナルスプリアスが近傍に現れる。このため、フラクショナルスプリアスの成分がスペクトラム波形に現れないように、やはり分解能帯域幅RBWに応じて最適なループ帯域を選択する必要が生じる。
【0080】
そこで分解能帯域幅RBWの判定結果を調べ(S16)、分解能帯域幅RBWが50kHz以下(現実的には10kHz台となる)の場合には、ループ帯域10kHzを選択し(S17)、分解能帯域幅RBWが100kHzの場合には、ループ帯域50kHzを選択し(S18)、解能帯域幅RBWが100kHzを越える場合には、さらに広いループ帯域300kHzを選択して、速度を優先している(S19)。
【0081】
このようにして、指定されたスパンと分解能帯域幅RBWとに基づいて、基準周波数とループ帯域とを決定した後、その基準周波数に対して指定された分析対象周波数範囲の信号のスペクトラムが得られるような分周比N+Fを算出し(S20)、これらの情報をローカル信号発生部25に設定して、掃引を開始させる(S21)。
【0082】
上記のように、実施形態のスペクトラムアナライザ20では、指定された分析対象周波数範囲の幅値が境界値より大きいB1,B2領域の場合、指定される分解能帯域幅も必然的に大きくなり、VCOの出力信号に含まれる主信号成分に近接するスプリアスによって周波数変換される不要成分は、主信号成分によって周波数変換される信号成分のスペクトラム波形に埋もれて観測されないで済むので、その分解能帯域幅より若干狭いループ帯域を選択して、速度を犠牲にすることなく正確なスペクトラム波形を観測できるようにしている。
【0083】
また、分析対象周波数範囲の幅値が小さいA3領域で、分解能帯域幅が比較的小さい場合、VCOの出力信号の主信号成分に近接するスプリアスによって周波数変換される不要成分が、主信号成分によって周波数変換される信号成分のスペクトラム波形と分離されて観測されてしまうことが考えられるが、この場合に、基準信号の周波数を基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と分周比の整数部との積に等しい分だけVCOの出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、その拡大した周波数差より狭い範囲でループフィルタの帯域を指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧しているので、周波数差を拡大した分だけ広帯域なループフィルタを使用でき、速度を犠牲にすることなく正確なスペクトラム波形を観測できる。
【0084】
なお、上記した周波数の各領域の範囲は、設定処理のモード変更の目安となる一つの例であって、分析対象周波数の領域がより低い周波数帯へシフトしていれば、その領域の境界となる周波数も低くする必要があり、また、逓倍器を用いない場合や、より高次の逓倍をする場合等に応じて変更することがある。
【符号の説明】
【0085】
20……スペクトラムアナライザ、21……周波数変換部、22……ミキサ、23……フィルタ、25……ローカル信号発生部、26……フラクショナルN型PLLシンセサイザ、27……逓倍器、30……信号処理部、31……A/D変換器、32……帯域制限処理部、33……振幅検出処理部、35……表示部、37……操作部、38……幅値判定手段、39……分解能帯域幅判定手段、40……設定処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数掃引されるローカル信号と解析対象の入力信号とをミキシングし、そのミキシング結果から所定の中間周波数帯の信号成分を抽出する周波数変換部(21)と、
VCO(26a)の出力信号を分数型の分周器(26b)により分周し、その分周出力と基準信号発生器(26c)から出力される基準信号とを位相周波数比較器(26d)に入力し、該位相周波数比較器から出力される位相誤差信号をループフィルタ(26e)に入力し、該ループフィルタから出力される制御信号により前記VCOの出力信号の周波数を前記基準信号の周波数と前記分周器の分周比の積にロックさせるフラクショナルN型PLLシンセサイザ(26)を含み、前記VCOの出力またはその逓倍出力を前記ローカル信号として前記周波数変換部へ与えるとともに、前記入力信号のうち指定された分析対象周波数範囲の信号成分が前記周波数変換部からその周波数順に時系列に出力されるように前記分周器の分周比を順次更新することで前記ローカル信号の周波数を掃引するローカル信号発生部(25)と、
前記ローカル信号が周波数掃引されている間に前記周波数変換部から出力される信号に対して指定された分解能帯域幅の帯域制限処理および振幅検出処理を行い、前記分析対象周波数範囲のスペクトラム波形を求める信号処理部(30)と、
前記信号処理部によって得られたスペクトラム波形を表示する表示部(35)と、
前記分析対象周波数範囲および分解能帯域幅を任意に指定するための操作部(37)とを有するスペクトラムアナライザにおいて、
前記ローカル信号発生部の前記フラクショナルN型PLLシンセサイザの前記ループフィルタの帯域および前記基準信号発生器が出力する基準信号の周波数が変更可能になっており、
前記分析対象周波数範囲の幅値の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が、いずれの領域に入るかを判定する幅値判定手段(38)と、
前記分解能帯域幅の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分解能帯域幅の値が、いずれの領域に入るかを判定する分解能帯域幅判定手段(39)と、
前記幅値判定手段と前記分解能帯域幅判定手段の判定結果に基づいて、前記基準信号の周波数、前記ループフィルタの帯域、前記分周比の設定処理を行う設定処理部(40)とが設けられ、
前記設定処理部は、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記幅値判定手段により前記複数の領域のうち幅が大きい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を所定の基準値に設定し、設定された分解能帯域幅より狭いループフィルタ帯域を選択することによって、フラクショナルスプリアスの発生周波数を前記設定された分解能帯域幅の内側にして、スペクトラム波形として表示されないようにし、前記基準値に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する第1設定モード(S6、S7、S13、S14〜S20)と、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記幅値判定手段により前記複数の領域のうち幅が小さい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を前記基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と前記分周比の整数部との積に等しい分だけ前記VCOの出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、該拡大した周波数差より狭い範囲で前記ループフィルタの帯域を前記指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧し、前記シフトした基準信号の周波数に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する第2設定モード(S5、S10、S11、S12、S20)とを含む設定処理を行い、該設定された条件で前記ローカル信号発生部のローカル信号を掃引させることを特徴とするスペクトラムアナライザ。
【請求項2】
周波数掃引されるローカル信号と解析対象の入力信号とをミキシングし、そのミキシング結果から所定の中間周波数帯の信号成分を抽出する周波数変換部(21)と、
VCO(26a)の出力信号を分数型の分周器(26b)により分周し、その分周出力と基準信号発生器(26c)から出力される基準信号とを位相周波数比較器(26d)に入力し、該位相周波数比較器から出力される位相誤差信号をループフィルタ(26e)に入力し、該ループフィルタから出力される制御信号により前記VCOの出力信号の周波数を前記基準信号の周波数と前記分周器の分周比の積にロックさせるフラクショナルN型PLLシンセサイザ(26)を含み、前記VCOの出力またはその逓倍出力を前記ローカル信号として前記周波数変換部へ与えるとともに、前記入力信号のうち指定された分析対象周波数範囲の信号成分が前記周波数変換部からその周波数順に時系列に出力されるように前記分周器の分周比を順次更新することで前記ローカル信号の周波数を掃引するローカル信号発生部(25)と、
前記ローカル信号が周波数掃引されている間に前記周波数変換部から出力される信号に対して指定された分解能帯域幅の帯域制限処理および振幅検出処理を行い、前記分析対象周波数範囲のスペクトラム波形を求める信号処理部(30)と、
前記信号処理部によって得られたスペクトラム波形を表示する表示部(35)と、
前記分析対象周波数範囲および分解能帯域幅を任意に指定するための操作部(37)とを有するスペクトラムアナライザによるスペクトラム分析方法において、
前記分析対象周波数範囲の幅値の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が、いずれの領域に入るかを判定する段階(S2)と、
前記分解能帯域幅の設定可能範囲を複数の領域に区分けし、前記指定された分解能帯域幅の値が、いずれの領域に入るかを判定する段階(S10、S13、S16)と、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記複数の領域のうち幅が大きい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を所定の基準値に設定し、設定された分解能帯域幅より狭いループフィルタ帯域を選択することによって、フラクショナルスプリアスの発生周波数を前記設定された分解能帯域幅の内側にして、スペクトラム波形として表示されないようにし、前記基準値に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する段階(S6、S7、S13、S14〜S20)と、
前記指定された分析対象周波数範囲の幅値が前記複数の領域のうち幅が小さい方の領域に含まれると判定された場合に、前記基準信号の周波数を前記基準値から所定値シフトさせ、そのシフト量と前記分周比の整数部との積に等しい分だけ前記VCOの出力信号の主信号成分とフラクショナルスプリアスの周波数差を拡大するとともに、該拡大した周波数差より狭い範囲で前記ループフィルタの帯域を前記指定された分解能帯域幅が含まれる領域に応じて設定してフラクショナルスプリアスのレベルを抑圧し、前記シフトした基準信号の周波数に対して前記指定された分析対象周波数範囲の掃引が行えるように前記分周比を設定する段階(S5、S10、S11、S12、S20)とを含む設定処理を行い、該設定された条件で前記ローカル信号発生部のローカル信号を掃引させることを特徴とするスペクトラム分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−128021(P2011−128021A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286836(P2009−286836)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】