説明

スペクトラム拡散信号受信装置

【課題】GPSのL5信号等のように、同一周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの、一方の搬送波にデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波にデータ変調することなく第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するものにおいても、回路規模を増やすことなく、復調処理を行うこと。
【解決手段】受信信号の捕捉時、追尾時で相関処理を行うコード及びキャリアの信号を切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擬似雑音符号(以下、PNコード、という)を用いてスペクトラム拡散された受信信号を復調する、スペクトラム拡散信号受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同一周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの、一方の搬送波にデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波にデータ変調することなく第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するシステムがある。例えば、GPSのL5信号において、上記信号の送信が行われる予定である。(非特許文献1参照)。
【0003】
GPSのL5信号におけるI5コード及びQ5コードは、送信装置に配置された13ビットの2つのコード発生器(I5コードは、XAコード発生器及びXBIコード発生器、Q5コードはXAコード発生器及びXBQコード発生器)により生成された2種類のコード列をmodulo2加算したコード列であり、いずれもビットレートが10.23Mbps、コード長が10230チップ、繰返し周期は1msで、変調のタイミングは同期している。また、XAコードに対するXBIコード及びXBQコードの位相を変えることにより、人工衛星毎に固有のコード列を得ることができる。
【0004】
そのI5コード及びQ5コードの位相は互いに直交しており、I5コードとQ5コードとは、周期の開始タイミングが同期した所定の関係にある。L5信号としては、同相成分のI5コード、直交成分のQ5コードにより変調された構成となっている。また、I5コードにはボーレート100spsの航法データDが重畳されている。
【0005】
さらに、I5信号、Q5信号には各々、ノイマン−ハフマン(Neuman−Hoffman)コード(以下、NHコード、と呼ぶ)と呼ばれる補助符合が乗ぜられている。具体的にはI5コードには、ビットレートが1kbps、コード長が10チップ、繰返し周期が10msのコード(以下、NHiコード、と呼ぶ)が、Q5コードにはビットレートが1kbps、コード長が20チップ、繰返し周期が20msのコード(以下、NHqコード、と呼ぶ)が乗ぜられる。これらのNHiコードとNHqコードは、周期の開始タイミングが同期した所定の関係にある。NHiコード及びNHqコードパターンを以下に示す。
NHi(t)=0000110101
NHq(t)=00000100110101001110
【0006】
GPSでは、これらの信号コードを受信機内のコード発生器で発生させたコードによって逆拡散して信号を取り出す。また、信号を復調するためには、搬送波相関器に与えるローカル周波数がGPS信号の位相及び周波数と一致する必要がある。そのために、GPS受信機内部では、コード相関器に与えるコードの位相及び周波数のスキャンと、搬送波相関器に与える搬送波(以下、キャリア、とも言う)の位相及び周波数のスキャンとを並列して実施し、コードとキャリアの双方の相関ピーク点を探索し捕捉する。これらのピークが検出されたら、ピーク点がずれないようにコードとキャリアを追尾する。
【0007】
このようなL5信号によってスペクトラム拡散されたGPS受信信号に対して、既存のQPSK信号の復調技術と、非特許文献1の開示内容に基づいて、その受信信号を復調するスペクトラム拡散装置は、本発明者によって以下の参考例の様に考えられた。
【0008】
図3は、L5信号スペクトラム拡散信号受信装置の参考例を示す図であり、アンテナ部1と、周波数変換部2と、PNコード処理部10、キャリア処理部20、加算部31a,31b,32a,32b、NHコード処理部50、制御部40から構成されている。なお、以降の説明では簡略化のため、コードDLLの説明は省略する。
【0009】
アンテナ部1によってGPS衛星からの信号を受信し、周波数変換部2によって受信した信号に対して周波数変換を行い、中間周波数(Intermediate Frequency;IF)信号を生成する。
【0010】
PNコード処理部10は、PNコード発生部12と、I信号PNコード相関部11aとQ信号PNコード相関部11bを有しており、受信したI5コード、Q5コード各々に対してコード相関を求める。
【0011】
PNコード発生部12は、レプリカコードである発生I5コードI5gと、発生Q5コードQ5gを生成する。I信号PNコード相関部11aは、IF信号の受信I5コードと、発生I5コードI5gとの相関を行い、I信号PNコード相関値を出力する。また、Q信号PNコード相関部11bは、IF信号の受信Q5コードと、発生Q5コードQ5gとの相関を行い、Q信号PNコード相関値を出力する。
【0012】
キャリア処理部20は、第1I信号キャリア相関部21aと、第1Q信号キャリア相関部21bと、第2I信号キャリア相関部22aと、第2Q信号キャリア相関部22bと、ローカル信号発生部23と、π/2位相遅延部28と、−π/2位相遅延部29を有しており、L5信号のI信号成分、Q信号成分各々に対してキャリア相関を求める。
【0013】
ローカル信号発生部23は、制御部40からのローカル信号制御信号LOcに基づいて、ローカル周波数信号ωgを生成する。
【0014】
第1I信号キャリア相関部21aでは、I信号PNコード相関部11aからのI信号PNコード相関値と、同相のローカル周波数信号ωgとの相関を取り、第1I信号キャリア相関値を出力する。
【0015】
第1Q信号キャリア相関部21bでは、I信号PNコード相関部11aからのI信号PNコード相関値と、ローカル周波数信号ωgをπ/2位相遅延部28によりπ/2位相を遅延させたローカル周波数信号との相関を取り、第1Q信号キャリア相関値を出力する。
【0016】
第2I信号キャリア相関部22aでは、Q信号PNコード相関部11bからのQ信号PNコード相関値と、ローカル周波数信号ωgを−π/2位相遅延部29により−π/2位相を遅延させたローカル周波数信号との相関を取り、第2I信号キャリア相関値を出力する。
【0017】
第2Q信号キャリア相関部22bでは、Q信号PNコード相関部11bからのQ信号PNコード相関値と、同相のローカル周波数信号ωgとの相関を取り、第2Q信号キャリア相関値を出力する。
【0018】
第1I信号加算部31aは、入力された第1I信号キャリア相関値を一定時間に亘って加算処理を行い、その処理結果を出力する。同様に、第1Q信号加算部31b、第2I信号加算部32a、第2Q信号加算部32bは、各々入力された第1Q信号キャリア相関値、第2I信号キャリア相関値、第2Q信号キャリア相関値をPNコードの繰り返し時間に応じて、例えば1msに亘って加算処理を行い、その処理結果を出力する。
【0019】
なお、BPSK変調であるL1信号の場合と比較し、L5信号では、倍の加算部が必要となる。
【0020】
また、加算部31a〜32bで加算する一定時間は、通常I5コード周期に設定される(共に1ms)。即ち、I5コードにおいては、10230チップ繰り返す毎に開始状態となる。また、I5コードと航法データは同期しており、その航法データは、I5コードが開始状態となる時刻に同期して遷移する。人工衛星からの受信信号は、航法データとI5コードとをモジュロ2(modulo2)の加算処理によって生成された信号であるので、航法データが遷移すると、I5コードの符号は反転する。航法データの遷移の状態は予期できないため、I5コードの繰返し周期である1msに同期してI信号キャリア相関値の加算処理を行わないと、加算処理後の値が相殺されてしまう。従って、加算処理時間は通常I5コード周期(1ms)に設定される。
【0021】
NHコード処理部50は、NHコード発生部53と第1I信号NHコード相関部51aと第1Q信号NHコード相関部51bと第2I信号NHコード相関部52aと第2Q信号NHコード相関部52bを有しており、受信したNHiコード、NHqコード各々に対してコード相関を求める。
【0022】
NHコード発生部53は、レプリカ−ノイマン−ハフマンコードである発生NHiコードNHig及び発生NHqコードNHqgを生成する。
【0023】
第1I信号NHコード相関部51a及び、第1Q信号NHコード相関部51bは、各々第1I信号加算部31aの出力結果、第1Q信号加算部31bの出力結果と、発生NHiコードNHigとの相関を取り、第1I信号加算相関値、第1Q信号加算相関値を出力する。
【0024】
同様に、第2I信号NHコード相関部52a及び、第2Q信号NHコード相関部52bは、各々第2I信号加算部32aの出力結果、第2Q信号加算部32bの出力結果と、発生NHqコードNHqgとの相関を取り、第2I信号加算相関値、第2Q信号加算相関値を出力する。
【0025】
制御部40は、第1I信号NHコード相関部51aからの第1I信号加算相関値、第1Q信号NHコード相関部51bからの第1Q信号加算相関値、第2I信号NHコード相関部52aからの第2I信号加算相関値、第2Q信号NHコード相関部52bからの第2Q信号加算相関値に基づいて、PNコード制御信号PNc、ローカル信号制御信号LOc、NHコード制御信号NHcを発生する。これら制御信号PNc、LOc、NHcの制御内容は、スペクトラム拡散信号受信装置がL5信号の初期捕捉及び安定追尾を行うためのものであり、発生I5コードI5g及び発生Q5コードQ5g、ローカル周波数信号ωg、NHiコードNHig、NHqコードNHqgの位相及び周波数とが含まれている。
【非特許文献1】ARINC Incorporated,ICD-GPS-705 Navstar GPS Space Segment/User Segment L5 Int erfaces, 02 December, 2002, p.5−23
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
L1C/A信号の様なBPSK変調信号と比較し、L5信号はQPSK変調されており、I5コード、Q5コードという2種類の信号に対して相関処理を行う必要があるため、回路規模が増大する。
【0027】
本発明は、こうした課題に対してなされたものであり、GPSのL5信号等のように、同一周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの、一方の搬送波にデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波にデータ変調することなく第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するものにおいても、回路規模を増やすことなく、復調処理を行うことを可能とするスペクトラム拡散信号受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
請求項1のスペクトラム拡散信号受信装置は、同じ周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの一方の搬送波がデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波がデータ変調されることなく且つ第1コードと同期した所定の関係にある第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するスペクトラム拡散信号受信装置において、
前記受信信号の追尾時と捕捉時とで、データ復調に用いる前記第1受信信号の信号成分と前記第2受信信号の信号成分とを切り替える受信信号切替部と、前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替える重畳信号切替部を有し、
捕捉時には、データ変調を受けていない前記第2受信信号の信号成分を用いるように、前記受信信号切替部及び前記重畳信号切替部を切り替えて、搬送波及び第2コードを捕捉し、
追尾時には、データ変調された前記第1受信信号の信号成分を用いるように、前記受信信号切替部及び重畳信号切替部を切り替えて、搬送波と第1コードの追尾を継続するとともに、データを復調することを特徴とする。
【0029】
請求項2のスペクトラム拡散信号受信装置は、同じ周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの一方の搬送波がデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波がデータ変調されることなく且つ第1コードと同期した所定の関係にある第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するスペクトラム拡散信号受信装置において、
前記受信信号の追尾時と捕捉時とで、前記第1受信信号の信号成分と前記第2受信信号の信号成分との両方を用いるか或いは前記第2受信信号の信号成分のみを用いるかを決定するために、前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替える重畳信号切替部を有し、
捕捉時には、前記第2受信信号の信号成分のみを用いるように、前記重畳信号切替部により前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替えて、データ変調の影響を受けていない前記第2受信信号の信号成分を利用して搬送波及び第2コードを捕捉し、
追尾時には、前記第1受信信号の信号成分と前記第2受信信号信号成分との両方を用いるように、前記重畳信号切替部により前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替えて、データ変調の影響を受けていない前記第2受信信号の信号成分を利用してループ制御により前記第2受信信号の引き込みを行う一方、データ変調された前記第1受信信号の信号成分を利用してデータの復調を並行して行うことを特徴とする。
【0030】
請求項3のスペクトラム拡散信号受信装置は、請求項1または2に記載のスペクトラム拡散信号受信装置において、重畳信号成分の1つであるレプリカPNコードを発生するPNコード発生部と、前記受信信号の信号成分と前記レプリカPNコードとの相関を行うPNコード相関部を有し、
前記重畳信号切替部は、捕捉時と追尾時とで、前記PNコード相関部に与える前記レプリカPNコードの種類を、前記第2コードに含まれる第2PNコードに対応する第2レプリカPNコード又は及び前記第1コードに含まれる第1PNコードに対応する第1レプリカPNコードとに、切り替え、
さらに、重畳信号成分の1つであるローカル周波数信号を発生するローカル信号発生部と、前記受信信号の信号成分と前記ローカル周波数信号との相関を行うキャリア相関部とを有し、
前記重畳信号切替部は、捕捉時と追尾時とで、前記キャリア相関部に与える前記ローカル周波数信号の位相を切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明のスペクトラム拡散信号受信装置によれば、同じ周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの一方の搬送波がデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波がデータ変調されることなく且つ第1コードと周期の開始タイミングが同期した所定の関係にある第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するスペクトラム拡散信号受信装置において、受信信号の捕捉時、追尾時で相関処理を行うコード及びキャリアの信号を切り替えることにより、回路規模の削減が可能となる。
【0032】
さらに、回路規模を増加させることなく、加算時間の延長による捕捉性能の向上、及び引き込み範囲の拡大による追尾性能の向上を得ることが出来る。
できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明のスペクトラム拡散信号受信装置は、同じ周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの一方の搬送波がデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波がデータ変調されることなく且つ第1コードと所定の関係にある第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するものである。
【0034】
その第1の実施の形態として、受信信号の追尾時と捕捉時とで、データ復調に用いる前記第1受信信号の信号成分と、前記第2受信信号とを切り替える受信信号切替部と、前記受信信号に重畳させる重畳信号成分を切り替える重畳信号切替部を有し、捕捉時には、データ変調を受けていない前記第2受信信号の信号成分を用いるように、前記受信信号切替部及び前記重畳信号切替部を切り替えて、I5コード周期よりも加算時間を延長して搬送波及び第2コードを捕捉し、追尾時には、データ変調された前記第1受信信号の信号成分を用いるように、前記受信信号切替部及び重畳信号切替部を切り替えて、搬送波と第1コードの追尾を継続するとともに、データを復調するものがある。
【0035】
また、第2の実施の形態として、受信信号の追尾時と捕捉捕捉時とで、第1受信信号の信号成分と第2受信信号との両方或いは第2受信信号のみを用いるかを決定するために、受信信号に重畳させる重畳信号成分を切り替える重畳信号切替部を有し、捕捉時には、第2受信信号のみを用いるように、重畳信号切替部により前記受信信号に重畳させる重畳信号成分を切り替えて、データ変調の影響を受けていない前記受信信号の信号成分を利用してI5コード周期よりも加算時間を延長して搬送波及び第2コードを捕捉し、追尾時には、第1受信信号の信号成分と第2受信信号との両方を用いるように、重畳信号切替部により受信信号に重畳させる重畳信号成分を切り替えて、データ変調の影響を受けていない第2受信信号の信号成分を利用してループ制御により第2受信信号の引き込みを行う一方、データ変調された第1受信信号の信号成分を利用してデータの復調を並行して行うものがある。
【0036】
以下の本発明の実施例は、GPSのL5信号の構造にあわせて説明している。しかし、本発明は、例えば、欧州におけるガリレオシステムのように、位相が互いに直交した2つの搬送波に各々独立にスペクトラム拡散された信号において、同相成分もしくは直交成分にのみデータが重畳されている場合にも、PNコード、ローカル周波数信号の切替を適切に行うことにより、容易に実現可能である。
【0037】
複数の衛星を受信するために内部に複数の受信チャンネルを有するが、ここでは説明を簡単にするために1チャンネルの動作として説明する。
【0038】
図1は、第1の実施形態に係わるスペクトラム拡散信号受信装置の構成例を示すブロック図である。なお、参考例の図3に示したものと対応するものには同一の符号をつけている。
【0039】
スペクトラム拡散信号受信装置は、図1に示す様に、アンテナ部1と、周波数変換部2と、PNコード処理部10aと、キャリア処理部20aと、加算部31,32とNHコード処理部50aと、制御部40aとを有している。アンテナ部によってGPS衛星からの信号を受信し、周波数変換部によって受信した信号に対して周波数変換を行い、IF信号を生成する。
【0040】
PNコード処理部10aは、PNコード発生部12と、PNコード切替部13と、I信号PNコード相関部11aとQ信号PNコード相関部11bを有している。
【0041】
PNコード発生部12は、制御部40aからのPNコード制御信号PNcに基づいて、重畳信号成分の1つである発生I5コードI5g及び発生Q5コードQ5gを出力する。なお、PNコード発生部12は、一般に、数値制御発振器(NCO)やシフトレジスタで構成される。
【0042】
PNコード切替部13は、制御部40aからの切替制御信号CCsに基づいて、発生I5コードI5g、及び発生Q5コードQ5gを切り替え、I信号PNコード相関部11a及びQ信号PNコード相関部11bに出力する。捕捉状態にあるときは、図1のようにPNコード切替部13を1側に設定することで発生Q5コードQ5gを選択する。なお、追尾状態にあるときは、PNコード切替部13を2側に設定することで発生I5コードI5gを選択する。
【0043】
I信号PNコード相関部11a及びQ信号PNコード相関部11bは、IF信号の受信PNコードと、PNコード切替部13によって選択された発生Q5コードQ5gもしくは発生I5コードI5gとの相関を取り、それぞれPNコード相関値I1、Q1を出力する。
【0044】
キャリア処理部20aは、ローカル信号発生部23と、π/2位相遅延部28、−π/2位相遅延部29、第1キャリア切替部25、第2キャリア切替部26、第3キャリア切替部27、第1I信号キャリア相関部21a、第1Q信号キャリア相関部21b、第2I信号キャリア相関部22a、第2Q信号キャリア相関部22bを有している。
【0045】
ローカル信号発生部23は、制御部40aからのローカル信号制御信号LOcに基づいて、重畳信号成分の1つであるローカル周波数信号ωgを生成する。なお、ローカル信号発生部23は数値制御発振器(NCO)などによって構成される。
【0046】
−π/2位相遅延部29は、ローカル周波数信号ωgの位相をπ/2進めたローカル周波数信号を出力し、π/2位相遅延部28は、ローカル周波数信号ωgの位相をπ/2だけ遅らせたローカル周波数信号を出力する。
【0047】
重畳信号切替部である第1キャリア切替部25は、制御部40aからの切替制御信号CCsに基づいて、ローカル信号発生部23によって出力されたローカル周波数信号ωgを2つに分岐する。
【0048】
なお、第1キャリア切替部25は、受信信号切替部である第2キャリア切替部26及び第3キャリア切替部27が切替動作を行うので、省略することができる。この場合には、ローカル信号発生部23によって出力されたローカル周波数信号ωgが、キャリア相関部21a〜22bへ、切替部を介さずに、供給される。ただ、図1のように第1キャリア切替部25を設けると、捕捉時と追尾時とで、キャリア相関部21a、21bと、キャリア相関部22a、22bのどちらかを、不動作状態にしておくことができる。
【0049】
受信信号切替部である第2キャリア切替部26は、制御部40aからの切替制御信号CCsに基づいて、第1Iキャリア相関部21aの出力結果と、第2Iキャリア相関部22aの出力結果を切り替える。
【0050】
同様に、受信信号切替部である第3キャリア切替部27は、制御部40aからの切替制御信号CCsに基づいて、第1Qキャリア相関部21bの出力結果と、第2Qキャリア相関部22bの出力結果を切り替える。
【0051】
ここで、捕捉状態にあるときは、図1に示しているように、第1、第2、第3キャリア切替部を全て1側に設定することで、Q信号PNコード相関部11bからのPNコード相関値Q1にのみキャリア相関を行う。なお、追尾状態にあるときは、第1、第2、第3キャリア切替部を全て2側に設定することでI信号PNコード相関部11aからのPNコード相関値I1にのみキャリア相関を行うようにする。
【0052】
第1I信号キャリア相関部21aは、PNコード相関値I1と、ローカル周波数信号ωgとの相関を取り、キャリア相関値I21を出力する。第1Q信号キャリア相関部21bは、PNコード相関値I1と、π/2だけ位相遅延したローカル周波数信号ωgとの相関を取り、キャリア相関値Q21を出力する。第2I信号キャリア相関部22aは、PNコード相関値Q1と、−π/2だけ位相遅延したローカル周波数信号ωgとの相関を取り、キャリア相関値I22を出力する。第2Q信号キャリア相関部22bは、PNコード相関値Q1と、ローカル周波数信号ωgとの相関を取り、キャリア相関値Q22を出力する。
【0053】
I信号加算部31は、第2キャリア切替部26の出力結果について、一定時間に亘って加算処理を行い、その処理結果を出力する。同様に、Q信号加算部32は、第3キャリア切替部27の出力結果について、一定時間に亘って加算処理を行い、その処理結果を出力する。
【0054】
NHコード処理部50aは、NHコード発生部53と、NHコード切替部54、I信号NHコード相関部51、Q信号NHコード相関部52を有している。
【0055】
NHコード発生部53は、制御部40aからのNHコード制御信号NHcに基づいて、発生NHiコードNHig及び発生NHqコードNHqgを出力する。なお、NHコード発生部53は、一般に、数値制御発振器(NCO)やシフトレジスタで構成される。
【0056】
重畳信号切替部であるNHコード切替部54は、制御部40aからの切替制御信号CCsに基づいて、NHコード発生部53によって出力された発生NHiコードNHig、及び発生NHqコードNHqgを切り替えて、I信号NHコード相関部51及びQ信号NHコード相関部52に出力する。
【0057】
捕捉時にあるときは、図1に示されるようにNHコード切替部54を1側に設定することで発生NHqコードNHqgを選択する。なお、追尾時には、NHコード切替部54を2側に設定することで発生NHiコードNHigを選択する。
【0058】
I信号NHコード相関部51及びQ信号NHコード相関部52は、I信号加算部31及びQ信号加算部32の出力結果と、NHコード切替部54によって選択された発生NHqコードNHqg(追尾時には発生NHiコードNHig)との相関を取り、I信号加算相関値I3及びQ信号加算相関値Q3を出力する。
【0059】
制御部40aは、切替制御部41とデータ復調部42とループ制御部43と開閉部44を含む。ループ制御部43は、I信号加算相関値I3及びQ信号加算相関値Q3に基づいて、PNコード制御信号PNc、ローカル信号制御信号LOc、NHコード制御信号NHcを発生する。これら制御信号PNc、LOc、NHcの制御内容は、スペクトラム拡散信号受信装置がL5信号の初期捕捉及び安定追尾を行うためのものであり、発生I5コードI5g及び発生Q5コードQ5g、ローカル周波数信号ωg、発生NHiコードNHig、発生NHqコードNHqgの位相及び周波数とが含まれている。
【0060】
この制御部40aは、I信号加算相関値I3及びQ信号加算相関値Q3に基づいて、PNコード、キャリア、NHコードの捕捉を行う。そして、それらPNコード、キャリア、NHコードのそれぞれ相関ピークが検出されたら受信信号が捕捉されたと判断し、相関がずれないように追尾を行う。また、受信信号の捕捉の判断は、I信号加算相関値I3及びQ信号加算相関値Q3に基づくPNコード、キャリア、NHコードの相関値がそれぞれ所定の閾値を超えた時、としてもよい。
【0061】
切替制御部41では、切り替え制御信号CCsを出力し、捕捉時では、図1のようにPNコード切替部13、第1キャリア切替部25、第2キャリア切替部26、第3キャリア切替部27、NHコード切替部54を1側に制御し、追尾時では2側に設定するように制御する。さらに、開閉部44を捕捉時はオフにし、追尾時はオン状態にするように制御する。
【0062】
データ復調部42は追尾時のI信号加算相関値I3を用いて航法データの復調を行う。
【0063】
第1の実施形態に係るスペクトラム拡散信号受信装置は、以上の様に構成されるものであり、図示しないGPS衛星からL5信号を受信した際の動作について、具体的に式を用いて説明する。
【0064】
周波数変換部2を用いて、受信したL5信号に対して周波数変換を行って生成したIF信号は、第1受信信号[I5(t)・D(t)・NHi(t)・Ai・cos(ωt)]と第2受信信号[Q5(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt)]との合成信号であり、例えば次の式(1)で表せる。
IF=I5(t)・D(t)・NHi(t)・Ai・cos(ωt)+Q5(t)・NHq(t) ・Aq・sin(ωt) (1)
但し、IF:IF信号入力、I5(t):受信I5コード、Q5(t):受信Q5コード、
D(t):航法データ、NHi(t):受信NHiコード、NHq(t):受信NHiコード、Ai,Aq:信号振幅、ω:受信キャリア周波数
【0065】
信号捕捉時の動作についてまず説明する。捕捉時には、第2キャリア切替部26、及び第3キャリア切替部27によってQ信号成分のみが選択され、I信号成分は選択されない。従って、Q信号PNコード相関値のみを考える。
【0066】
発生Q5コードをQ5g(t)とすると、Q信号PNコード相関値Q1は、下式となる。
Q1=Q5(t)・Q5g(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt) (2)
ローカル周波数信号ωgを、2cos(ωgt+φ)とした場合、−π/2位相遅延すると2cos(ωgt+φ+π/2)=−2sin(ωgt+φ)となるので、第2I信号キャリア相関値I22は、下式となる。
I22=Q5(t)・Q5g(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt)・−2sin(ωgt+φ) (3)
【0067】
また、第2Q信号キャリア相関値Q22は、下式となる。
Q22= Q5(t)・Q5g(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt)・2cos(ωgt+φ) (4)
【0068】
さらに、I22 ,Q22を、I信号加算部31、Q信号加算部32において加算処理を行い、その結果と、発生NHqコードNHqgとの相関を行うと、I信号加算相関値I3、Q信号加算相関値Q3は下式で表せる。
I3= Aq・−cos(φ) (5)
Q3= Aq・−sin(φ) (6)
【0069】
なお、ここでは、理想的に、発生Q5コードQ5g、発生NHqコードNHqgの位相及び周波数、ローカル周波数信号ωgの周波数は、受信信号のQ5コード、NHqコード及びキャリア周波数と同じく、
Q5(t)=Q5g(t)、ω=ωg、NHq(t)=NHqg(t) (7) を仮定している。
【0070】
また、I3(式(5))、Q3(式(6))を用いて、ループ制御部43は下式においてφ=0となるように位相誤差を検出する。
δΦ=I・Q=1/2・Aq2・sin(2φ) (8)
【0071】
ここで、I信号加算部31に入力されるキャリア相関値I22、Q信号加算部32に入力されるキャリア相関値Q22は、航法データD(t)が重畳されていない。従って、航法データD(t)の影響を受けずに、例えば1msではなく航法データレートの10ms以上の加算時間を設定することが可能となり、初期捕捉性能を向上させることが出来る。
【0072】
次に、信号追尾時の動作について説明する。この追尾時には、第2キャリア切替部26、及び第3キャリア切替部27によってI信号成分のみが利用され、Q信号成分は利用されない。従って、I信号PNコード相関値のみを考える。
【0073】
発生I5コードをI5g(t)とすると、I信号PNコード相関部11aの相関値I1は下式となる。
I1=I5(t)・I5g(t)・D(t)・NHi(t)・Ai・cos(ωt) (9)
【0074】
このとき、第1I信号キャリア相関部21aのキャリア相関値I21は、下式となる。
I21=I5(t)・I5g(t)・D(t)・NHi(t)・Ai・cos(ωt)
・2cos(ωgt+φ) (10)
【0075】
また、ローカル周波数信号ωgを、π/2位相遅延すると、2cos(ωgt+φ−π/2)=2sin(ωgt+φ)、となるので、第1Q信号キャリア相関部21bのキャリア相関値Q21は、下式となる。
Q21=I5(t)・I5g(t)・D(t)・NHi(t)・Ai・cos(ωt)
・2sin(ωgt+φ) (11)
【0076】
さらに、I21(式(10))、Q21(式(11))を、I信号加算部31、Q信号加算部32において加算処理を行い、その結果をNHiコードとの相関を行うと、I信号加算相関値I3、Q信号加算相関値Q3は下式で表せる。
I3=D(t)・Ai・cos(φ) (12)
Q3=D(t)・Ai・sin(φ) (13)
【0077】
なお、ここでも、理想的に、発生I5コードI5g及び発生NHiコードNHigの位相及び周波数、ローカル周波数信号の周波数は、受信信号のI5コード、NHqコード及びキャリア周波数と同じく、
I5(t)=I5g(t)、ω=ωg、NHi(t)=NHig(t) (14)
としている。
【0078】
航法データを打ち消すために、例えばコスタスループ(Costas Loop)を構成した場合、I3(式(12))、Q3(式(13))を用いてループ制御部43は下式においてφ=0となるように位相誤差を制御する。
δΦ=I3・Q3=1/2・Ai2・sin(2φ) (15)
そして、データ復調部42はI3を監視し、φ=0となった時に航法データDを得る。
【0079】
このように、第1の実施形態に係るスペクトラム拡散信号受信装置では、信号捕捉時と信号追尾時で使用する信号を切り替える。これにより、GPSのL5信号におけるI5信号成分、Q5信号成分を選択的に利用するので、回路規模を削減することが出来る。また、回路規模が削減できるので消費電力を削減できる。さらに、I5コード周期以上の加算時間の設定により、初期捕捉性能を向上させることができる。
【0080】
なお、PNコード処理部10a、キャリア処理部20aを入れ替え、キャリア相関、PNコード相関の順に復調処理を行ってもよい。
【0081】
図2は、第2の実施形態に係わるスペクトラム拡散信号受信装置の構成を示すブロック図である。なお、図1に示したものと対応するものには同一の符号をつけている。
【0082】
この第2の実施の形態では、信号の捕捉時ではL5信号のQ信号成分のみを利用し、追尾時ではL5信号のI信号成分とともにQ信号成分も利用するようにしている。一方、第1の実施形態では、信号の捕捉時ではL5信号のQ信号成分のみを利用し、追尾時ではL5信号のI信号成分のみを利用していたから、第2の実施の形態では、信号追尾時のL5信号の利用形態が異なっている。
【0083】
スペクトラム拡散信号受信装置は、図2に示す様に、アンテナ部1と、周波数変換部2と、PNコード処理部10bと、キャリア処理部20bと、加算部31,32とNHコード処理部50bと、制御部40bとを有している。
【0084】
アンテナ部1によってGPS衛星からの信号を受信し、周波数変換部2によって受信した信号に対して周波数変換を行い、IF信号を生成する。
【0085】
PNコード処理部10bは、PNコード発生部12と、PNコード切替部13と、I信号PNコード相関部11aとQ信号PNコード相関部11bを有している。
【0086】
PNコード発生部12は、制御部40bからのPNコード制御信号PNcに基づいて、発生I5コードI5g及び発生Q5コードQ5gを出力する。
【0087】
PNコード切替部13は、制御部40bからの切替制御信号CCsに基づいて、発生I5コードI5g、及び発生Q5コードQ5gを切り替え、I信号PNコード相関部11aに出力する。このとき、捕捉時にあるときは、図2のように、PNコード切替部13を1側に設定することで発生Q5コードQ5gを選択する。一方、追尾時にあるときは、PNコード切替部13を2側に設定することで発生I5コードI5gを選択する。
【0088】
I信号PNコード相関部11aは、IF信号の受信PNコードと、PNコード切替部13によって選択された発生I5コードI5gもしくは発生Q5コードQ5gとの相関を取り、PNコード相関値I1を出力する。
【0089】
Q信号PNコード相関部11bは、IF信号の受信PNコードと、発生Q5コードQ5gとの相関を取り、PNコード相関値Q1を出力する。
【0090】
キャリア処理部20bは、ローカル信号発生部23と、−π/2位相遅延部29−1,29−2、キャリア切替部25、I信号キャリア相関部21、Q信号キャリア相関部22を有している。
【0091】
ローカル信号発生部23は、制御部40bからのローカル信号制御信号LOcに基づいて、ローカル周波数信号ωgを生成する
【0092】
キャリア切替部25は、制御部40bからの切替制御信号CCsに基づいて、ローカル信号発生部23によって出力されたローカル周波数信号の位相を−π/2位相遅延部29−1によって−π/2の位相遅延を行ったローカル周波数信号と、ローカル周波数信号の位相を−π/2位相遅延部29−1及び29−2の2個用いることによって−πだけ位相遅延を行ったローカル周波数信号とを切り替えてQ信号キャリア相関部22に出力する。
【0093】
このとき、捕捉状態にあるときは、図2のようにキャリア切替部25を1側に設定することで−π/2だけ位相遅延を行ったローカル周波数信号を選択し、追尾状態にあるときは、2側に設定することで−πだけ位相遅延を行ったローカル周波数信号を選択する。
【0094】
I信号キャリア相関部21は、I信号PNコード相関部11aからのPNコード相関値I1と、ローカル周波数信号との相関を取り、キャリア相関値I2を出力する。
【0095】
Q信号キャリア相関部22は、Q信号PNコード相関部11bからのQ信号PNコード相関値Q1と、キャリア切替部25によって選択された、−π/2だけ位相遅延したローカル周波数信号(捕捉時の場合)、または−πだけ位相遅延したローカル周波数信号(追尾時の場合)との相関を取り、Q信号キャリア相関値Q2を出力する。
【0096】
I信号加算部31及びQ信号加算部32は、入力されたキャリア相関値I2及びQ信号キャリア相関値Q2について、一定時間に亘って加算処理を行い、その処理結果を出力する。
【0097】
NHコード処理部50bは、NHコード発生部53と、NHコード切替部54、I信号NHコード相関部51、Q信号NHコード相関部52を有している。
【0098】
NHコード発生部53は、制御部40bからのNHコード制御信号NHcに基づいて、発生NHiコードNHig及び発生NHqコードNHqgを出力する。
【0099】
NHコード切替部54は、制御部40bからの切替制御信号CCsに基づいて、NHコード発生部53によって出力された発生NHiコードNHig、及び発生NHqコードNHqgを切り替えて、I信号NHコード相関部51に出力する。このとき、捕捉状態にあるときは、図2のようにNHコード切替部54を1側に設定することで発生NHqコードNHqgを選択する。また、追尾状態にあるときは、NHコード切替部54を2側に設定することで発生NHiコードNHigを選択する。
【0100】
I信号NHコード相関部51は、I信号加算部31の出力結果と、NHコード切替部54によって選択された発生NHiコードNHig(追尾時の場合)もしくは発生NHqコードNHqg(捕捉時の場合)との相関を取り、加算相関値I3を出力する。また、Q信号NHコード相関部52は、Q信号加算部32の出力結果と、発生NHqコードNHqgの相関を取り、Q信号加算相関値Q3を出力する。
【0101】
制御部40bは、切替制御部41とデータ復調部42とループ制御部43と制御部切替部45を含む。
【0102】
ループ制御部43は、I信号加算相関値I3及びQ信号加算相関値Q3に基づいて、PNコード制御信号PNc、ローカル信号制御信号LOc、NHコード制御信号NHcを発生する。
【0103】
これら制御信号の制御内容は、スペクトラム拡散信号受信装置がGPSのL5信号の初期捕捉及び安定追尾を行うためのものであり、発生I5コードI5g及び発生Q5コードQ5g、ローカル周波数信号ωg、発生NHiコードNHig、発生NHqコードNHqgの位相及び周波数とが含まれている。
【0104】
この制御部40bは、I信号加算相関値I3及びQ信号加算相関値Q3に基づいて、PNコード、キャリア、NHコードの捕捉を行う。そして、PNコード、キャリア、NHコードののそれぞれ相関ピークが検出されたら受信信号が捕捉されたと判断し、相関がずれないように追尾を行う。また、受信信号の捕捉の判断は、加算相関値I3及びQ信号加算相関値Q3に基づくPNコード、キャリア、NHコードの相関値がそれぞれ所定の閾値を超えた時、としてもよい。
【0105】
切替制御部41では、切り替え制御信号CCsを出力し、捕捉時ではPNコード切替部13、第1キャリア切替部25、NHコード切替部54、制御部切替部45を1側に制御し、追尾時では2側に設定するように制御する。データ復調部42は追尾時の加算相関値I3を用いて航法データの復調を行う。
【0106】
第2の実施形態に係るスペクトラム拡散信号受信装置は、以上の様に構成されるものであり、図示しないGPS衛星からL5信号を受信した際の動作について、具体的に式を用いて説明する。
【0107】
周波数変換部2を用いて、受信したL5信号に対して周波数変換を行って生成したIF信号は、前記した式(1)で表わされる。
【0108】
信号捕捉時の動作について説明する。この捕捉時には、PNコード切替部13により発生Q5コードI5qが選択されるため、発生Q5コードをQ5q(t)とした場合には、I信号PNコード相関部11aのPNコード相関値I1は、下式となる。
I1=Q5(t)・Q5q(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt) (16)
【0109】
また、ローカル信号発生部23からのローカル周波数信号を2cos(ωgt+φ)とした場合、I信号キャリア相関部21のキャリア相関値I2は、下式となる。
I2=Q5(t)・Q5q(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt)・2cos(ωgt +φ) (17)
【0110】
また、NHコード切替部54によって選択された発生NHqコードNHqg(t)と、キャリア相関値I2をI信号加算部31において加算処理を行った結果との相関を行うと、I信号加算相関値I3は下式で表せる。
I3=Aq・−sin(φ) (18)
【0111】
なお、ここでは、理想的に、発生Q5コードQ5g及び発生NHqコードNHqgの位相及び周波数、ローカル周波数信号の周波数は、受信信号のQ5コード、キャリア、NHqコードと同じく、
Q5(t)=Q5g(t)、ω=ωg、NHq(t) =NHqg(t) (19)
としている。
【0112】
同様に、Q信号PNコード相関部11bからのQ信号PNコード相関値Q1は、I1(式(16))同じく下式となる。
Q1=Q5(t)・Q5q(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt) (20)
【0113】
また、第1キャリア切替部25では、ローカル周波数信号ωgを−π/2位相遅延した2cos(ωgt+φ+π/2)=−2sin(ωgt+φ)が選択されるため、Q信号キャリア相関値Q2は下式となる。
Q2=Q5(t)・Q5g(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt)・−2sin(ωg t+φ) (21)
【0114】
さらに、Q信号加算部32において加算処理を行った結果を、発生NHqコードNHqgと相関を行うと、Q信号NHコード相関部52のQ信号加算相関値Q3は下式で表せる。
Q3=Aq・−cos(φ) (22)
【0115】
I3(式(18))、Q3(式(22))を用いて、ループ制御部43は下式においてφ=0となるように位相誤差を検出する。
δΦ=I3・Q3=1/2・Aq2・sin(2φ) (23)
【0116】
ここで、I信号加算部31に入力されるキャリア相関値I2(式(17))、Q信号加算部32に入力されるQ信号キャリア相関値Q2(式(21))は、航法データが重畳されていない。従って、航法データの影響を受けずに、例えば1msではなく航法データのビット長10ms以上の加算時間を設定することが可能となり、初期捕捉性能を向上させることが出来る。
【0117】
次に、信号追尾時の動作について説明する。この時、PNコード切替部13により発生I5コードI5gが選択されるため、I信号PNコード相関部11aのPNコード相関値I1は、下式となる。
I1=I5(t)・I5g(t)・D(t)・NHi(t)・Ai・cos(ωt) (24)
【0118】
また、I信号キャリア相関部21からのキャリア相関値I2は、下式となる。
I2=I5(t)・I5g(t)・D(t)・NHi(t)・Ai・cos(ωt)
・2cos(ωgt+φ) (25)
【0119】
また、NHコード切替部54によって選択された発生NHiコードNHig(t)と、キャリア相関値I2をI信号加算部31において加算処理を行った結果との相関を行うと、I信号NHコード相関部51からの加算相関値I3は下式で表せる。
I3=D(t)・Ai・cos(φ) (26)
【0120】
なおここでも、理想的に、発生I5コードI5g及び発生NHiコードNHigの位相及び周波数、ローカル周波数信号ωgの周波数は、受信信号のI5コード、キャリア、NHiコードと同じく、
I5(t)=I5g(t)、ω=ωg、NHi(t)=NHig(t) (27)
としている。
【0121】
同様に、Q信号PNコード相関部11bからのQ信号PNコード相関値Q1は、下式となる。
Q1=Q5(t)・Q5g(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt) (28)
【0122】
また、第1キャリア切替部25では、2側に切り替えられているため、ローカル周波数信号を−π位相遅延した2cos(ωgt+φ+π)=−2cos(ωgt+φ)が選択される。これにより、Q信号キャリア相関部22からのQ信号キャリア相関値Q2は下式となる。
Q2=Q5(t)・Q5g(t)・NHq(t)・Aq・sin(ωt)
・−2cos(ωgt+φ) (29)
【0123】
さらに、Q信号加算部32において加算処理を行った結果を、発生NHqコードNHqgと相関を行うと、Q信号NHコード相関部52からのQ信号加算相関値Q3は下式で表せる。
Q3=Aq・sin(φ) (30)
【0124】
Q信号加算相関値Q3を用いて、PLLを構成した場合には、ループ制御部43はQ3(式(30))においてφ=0となるように制御を行う。
【0125】
そして、データ復調部42はI3(式(26))を監視し、φ=0となった時に航法データDを得る。
【0126】
第1の実施形態(図1)においては、信号追尾時にコスタスループを使用していた。これは、信号追尾時に、I信号NHコード相関部51からの加算相関値I3、Q信号NHコード相関部52からの加算相関値Q3ともに航法データDが乗ぜられており、航法データの極性が反転してもキャリア追尾が続けられるようにするためである。一方、この第2の実施形態に係るスペクトラム拡散信号受信装置においては、航法データDの復調とは独立して、ループ制御部43を用いてPLLを使用できる。そのため、第1の実施形態の効果に加え、更に第2の実施形態では、追尾の引き込み範囲が広く、より正確な追尾が可能となる。
【0127】
なお、PNコード処理部10b、キャリア処理部20bを入れ替え、キャリア相関、PNコード相関の順に復調処理を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】第1の実施形態に係るスペクトラム拡散信号受信装置の主要部の内部構造を示すブロック図である。
【図2】第2の実施形態に係るスペクトラム拡散信号受信装置の主要部の内部構造を示すブロック図である。
【図3】参考例のスペクトラム拡散信号受信装置の主要部の内部構造を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0129】
1・・・アンテナ部
2・・・周波数変換部
10,10a,10b・・・PNコード処理部
11a・・・I信号PNコード相関部
11b・・・Q信号PNコード相関部
11a・・・I信号PNコード相関部
11b・・・Q信号PNコード相関部
12・・・PNコード発生部
13・・・PNコード切替部
20,20a,20b・・・キャリア処理部
21a・・・第1I信号キャリア相関部
21b・・・第1Q信号キャリア相関部
22・・・Q信号キャリア相関部
22a・・・第2I信号キャリア相関部
22b・・・第2Q信号キャリア相関部
23・・・ローカル信号発生部
25・・・第1キャリア切替部
26・・・第2キャリア切替部
27・・・第3キャリア切替部
28・・π/2位相遅延部
29・・・−π/2位相遅延部
31・・・I信号加算部
31a・・・第1I信号加算部
31b・・・第1Q信号加算部
32・・・Q信号加算部
32a・・・第2I信号加算部
32b・・・第2Q信号加算部
40,40a,40b・・・制御部
41・・・切替制御部
42…データ復調部
43…ループ制御部
44…開閉部
45…制御部切替部
50,50a,50b・・・NHコード処理部
51・・・I信号NHコード相関部
51a・・・第1I信号NHコード相関部
51b・・・第1Q信号NHコード相関部
52・・・Q信号NHコード相関部
52a・・・第2I信号NHコード相関部
52b・・・第2Q信号NHコード相関部
53・・・NHコード発生部
54・・・NHコード切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの一方の搬送波がデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波がデータ変調されることなく且つ第1コードと同期した所定の関係にある第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するスペクトラム拡散信号受信装置において、
前記受信信号の追尾時と捕捉時とで、データ復調に用いる前記第1受信信号の信号成分と前記第2受信信号の信号成分とを切り替える受信信号切替部と、前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替える重畳信号切替部を有し、
捕捉時には、データ変調を受けていない前記第2受信信号の信号成分を用いるように、前記受信信号切替部及び前記重畳信号切替部を切り替えて、搬送波及び第2コードを捕捉し、
追尾時には、データ変調された前記第1受信信号の信号成分を用いるように、前記受信信号切替部及び重畳信号切替部を切り替えて、搬送波と第1コードの追尾を継続するとともに、データを復調することを特徴とする、スペクトラム拡散信号受信装置。
【請求項2】
同じ周波数で位相が互いに直交した2つの搬送波のうちの一方の搬送波がデータ変調され且つ第1コードでスペクトラム拡散された第1受信信号と、他方の搬送波がデータ変調されることなく且つ第1コードと同期した所定の関係にある第2コードでスペクトラム拡散された第2受信信号とを含む受信信号を受信するスペクトラム拡散信号受信装置において、
前記受信信号の追尾時と捕捉時とで、前記第1受信信号の信号成分と前記第2受信信号の信号成分との両方を用いるか或いは前記第2受信信号の信号成分のみを用いるかを決定するために、前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替える重畳信号切替部を有し、
捕捉時には、前記第2受信信号の信号成分のみを用いるように、前記重畳信号切替部により前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替えて、データ変調の影響を受けていない前記第2受信信号の信号成分を利用して搬送波及び第2コードを捕捉し、
追尾時には、前記第1受信信号の信号成分と前記第2受信信号信号成分との両方を用いるように、前記重畳信号切替部により前記受信信号の信号成分に重畳させる重畳信号成分を切り替えて、データ変調の影響を受けていない前記第2受信信号の信号成分を利用してループ制御により前記第2受信信号の引き込みを行う一方、データ変調された前記第1受信信号の信号成分を利用してデータの復調を並行して行うことを特徴とする、スペクトラム拡散信号受信装置。
【請求項3】
重畳信号成分の1つであるレプリカPNコードを発生するPNコード発生部と、前記受信信号の信号成分と前記レプリカPNコードとの相関を行うPNコード相関部を有し、
前記重畳信号切替部は、捕捉時と追尾時とで、前記PNコード相関部に与える前記レプリカPNコードの種類を、前記第2コードに含まれる第2PNコードに対応する第2レプリカPNコード又は及び前記第1コードに含まれる第1PNコードに対応する第1レプリカPNコードとに、切り替え、
さらに、重畳信号成分の1つであるローカル周波数信号を発生するローカル信号発生部と、前記受信信号の信号成分と前記ローカル周波数信号との相関を行うキャリア相関部とを有し、
前記重畳信号切替部は、捕捉時と追尾時とで、前記キャリア相関部に与える前記ローカル周波数信号の位相を切り替えることを特徴とする、請求項1または2に記載のスペクトラム拡散信号受信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−243626(P2007−243626A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63488(P2006−63488)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】