説明

スペクトル拡散受信装置

【目的】 相関波形の奇相関の影響による雑音成分を取り除いて、パスダイバーシチ時の特性劣化を防止したPDI(Post Decision Integrator)直接拡散/スペクトル拡散受信装置を得ることを目的としている
【構成】 PDI直接拡散/スペクトル拡散受信装置の相関器7の出力を遅延検波部6で遅延検波し、その出力を分岐し補償回路付き伝搬路検出部17に入力し、奇相関に相関波形の変動を取り除き、先行波と遅延波の位置を検出する。その結果を用いて、遅延検波部6出力に乗算器9で重み付けし、その乗積結果を積分器4で積分し、データ判定器5で判定する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は直接拡散/スペクトル拡散受信装置の多重伝搬路(マルチパス)下における受信特性の改善に関する。
【0002】
【従来の技術】図3は、例えば,横山光雄著“スペクトル拡散通信システム”科学技術出版社(1988)に示されたパスダイバーシチの一種であるPDI(Post DecisionIntegrator)直接拡散/スペクトル拡散受信装置の構成である。図において、1はマッチドフィルタやSAW素子などを用いた相関器、2は1シンボル時間TS だけ相関器出力を遅延させる遅延回路、3は遅延回路2によって遅延した相関器出力と、相関器1の出力を乗積する乗算器、4は遅延波の存在する時間(遅延広がり)TM だけ乗算器3の出力を積分する積分器であり、5は積分器4の出力を判定するデータ判定器である。
【0003】次に動作について説明する。図3のPDI直接拡散/スペクトル拡散受信装置において、直接拡散/スペクトル拡散信号を受信し、周波数変換、帯域制限などを行ったのち、受信信号は相関器1に入力する。相関器1では、受信信号と送信器側でスペクトル拡散に用いたものと同一の拡散コードとを用いて、直接拡散/スペクトル拡散信号の逆拡散(相関処理)を行う。逆拡散後の相関波形の一例を図4(a),(b)に示す。ここで、図4(a)は多重伝搬路(マルチパス)による遅延波の存在しない場合の相関波形の例を示す図であり、図4R>4(b)は遅延波が存在する場合の相関波形の例を示す図である。
【0004】図4(a)において、101,102は先行波の相関ピークを表し、横軸103は時間軸、104,105は受信信号の位相を表す実数軸及び虚数軸である。上記の相関ピークの間隔は1情報シンボル時間TSである。さらに、図4(b)の106,107は多重伝搬路(マルチパス)によって生じた先行波101の遅延波の相関ピークである。同様に108,109は先行波102による遅延波の相関ピークである。上記の先行波の相関ピークから最も長い遅延を有する遅延波の相関ピークまでの時間をTMとする。なお、遅延波の相関波形106と108、同様の107と109の位相差は先行波の相関ピーク101と102の位相差にほぼ等しい。
【0005】遅延回路2では相関器1からの信号を1情報シンボル時間TS 遅延させ、乗算器3で相関器1の出力(相関波形)と、遅延回路2によってTS だけ遅延した相関波形を乗積(遅延検波)する。その結果、乗算器3の出力には1情報シンボル時間だけ異なる2つの相関波形の位相差に相当する信号が得られる。例えば、相関波形が図4(a)の場合、相関ピーク101と102の位相差に相当する信号が乗算器3の出力に得られる。通常のPDIを用いずに遅延検波のみを行うスペクトル拡散受信装置では、この先行波の相関ピーク101,102の位相差を用いデータ判定器5でデータの判定を行っている。
【0006】積分器4では、乗算器の出力を時間TM だけ積分することで、多重伝搬路による遅延広がりによって時間的に分散している先行波101と102の位相差に相当する信号、及び先行波に対して遅延時間がTM 以下の遅延波106と108、107と109の位相差に相当する信号を積分(合成)する。この積分器4の出力をデータ判定器5で判定し、その判定結果を出力する。以上の結果、PDIを用いない場合には、1つの相関波形(先行波の相関波形)のピークの位相差のみを用いてデータの判定を行っていたのに対し、PDIでは複数の相関波形(先行波及び遅延波の相関波形)の位相差を積分(合成)し、その合成結果を用いて判定を行うので、遅延波が存在する場合、ダイバーシチ利得が得られる。
【0007】以下に、上記のように構成された従来の直接拡散/スペクトル拡散受信装置における、奇相関の影響について説明する。例えば、直接拡散/スペクトル拡散通信方式の拡散コードとして、7チップのPN系列(-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1)を用い、差動符号化後の送信情報1に対しては、この拡散コードをそのまま送信し、差動符号化後の送信情報0に対しては、この拡散コードの+1と−1とを反転し送信することでスペクトルの拡散を行うとする(受信側で遅延検波を行う場合、通常、送信側では差動符号化が行われる)。上記のPN系列を用いて、1,1,1という送信情報を拡散変調すると、送信信号は(-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1,-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1,-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1)となる。
【0008】次に、上記の送信信号を受信し、送信側で用いたものと同一の拡散コード(-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1)で相関処理したときの相関波形を図5(a)に示す。図において、110,111,112は相関波形のピーク(相関ピーク)であり、このピーク値の正負が送信情報の1,0に対応している。これに対し、送信情報として1,0,1を用いると、拡散変調された送信信号は(-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1,+1,+1,-1,-1,-1,+1,-1,-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1)であり、上記の送信信号を受信し、送信側で用いたものと同一の拡散コード(-1,-1,+1,+1,+1,-1,+1)で相関処理したときの相関波形をこの時の相関波形を図5(b)に示す。後者の場合、相関波形がピーク110,111,112以外の点113,114,115,116で大きく変動していることがわかる。この変動が奇相関の影響であり、この変動の形および大きさは、それぞれの拡散系列に固有のものであり、また、送信情報によりこの変動が生じたり、生じない場合がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記のように構成された従来の直接拡散/スペクトル拡散受信装置では、相関器出力の奇相関の影響によって、相関波形が本来の先行波、遅延波の存在する時間以外で変動する。この変動113,114,115,116は直接拡散/スペクトル拡散通信方式では雑音と等価であると見なせる。PDI受信機では、このような雑音と等価である相関波形の位相差と、雑音と等価であると見なせる相関波形のピーク以外の位相差まで積分器4で積分(合成)してしまうため、相関波形のピークの位相差のみを合成する理想的なダイバーシチに比べ、ダイバーシチ利得が劣化するという課題があった。
【0010】本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、奇相関による相関波形の位相差の変動が生じた場合でも、その奇相関による相関波形の変動をキャンセラーによって除去し、受信特性の劣化を防止した直接拡散/スペクトル拡散受信装置を得ることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために、この発明の直接拡散/スペクトル拡散受信装置は、受信信号の逆拡散を行う相関器と、その相関器出力を遅延させる遅延回路と、その遅延回路出力と相関器出力を乗積する乗算器と、乗算器出力から先行波と遅延波を検出する伝搬路検出部と、伝搬路検出部で検出した先行波と遅延波を用いて、乗算器出力の雑音成分を取り除く回路と、その出力を積分する積分器を有し、パスダイバーシチを行うように構成された直接拡散/スペクトル拡散受信装置において、受信装置の判定結果を用いて、相関器出力の奇相関成分の影響を打ち消す奇相関キャンセラーを備えるようにしたものである。
【0012】
【作用】上記のように構成された直接拡散/スペクトル拡散受信装置では、判定結果を用いて、奇相関の影響で相関波形の変動が生じているかどうかを検出し、変動している場合には、相関波形の変動を除去し、その変動を除去した相関波形を用いることにより、奇相関の影響によるダイバーシチ利得の劣化を防止することができる。
【0013】
【実施例】実施例1.図1は本発明の直接拡散/スペクトル拡散受信装置の実施例1を示す構成ブロック図である。図において、7は受信信号の逆拡散を行う相関器、6a,6bはそれぞれ同相及び直交チャネルの遅延検波部、遅延検波部出力10,11は補償回路付き伝搬路検出部17に入力される。補償回路付き伝搬路検出部の出力18は乗積器9a,9bに入力され、それぞれ遅延検波回路6a,6bの出力と乗積される。この乗積結果を積分器4で積分し、積分結果をデータ判定器5で判定し出力する。判定結果は補償回路付き伝搬路検出部17にも入力される。なお、本実施例では変調方式としてQPSK等の直交変調を用いた場合を例にあげ説明しているため、上記相関器7は直交変復調方式用のものであり、遅延検波部6a,6b、積分器4a,4b等は同相チャネル、直交チャネル用に2系統用いている。
【0014】図2は図1に示す補償回路付き伝搬路検出部17の内部構成を示すブロック図である。図において、13a,13bは遅延検波部6a,6bの出力信号を2乗する2乗器、14は同相チャネル、直交チャネルの2乗器13a,13bの出力を加算する加算器、20は加算器14の出力を遅延させる遅延回路、21は判定器5の出力の判定結果と判定回路16の出力を用いて奇相関の影響を打ち消す奇相関キャンセラである。15は巡回加算器、16は15の巡回加算結果が所定のしきい値を超えた場合1を出力し、それ以外の時は0を出力する判定回路である。
【0015】上記のように構成された直接拡散/スペクトル拡散受信装置の動作について説明する。受信信号は相関器7により逆拡散(相関処理)が行われ、各遅延検波部6a,6bによって遅延検波される。その結果、遅延検波部6a,6bの出力には、1シンボルの時間差の相関波形の位相差に相当する信号が得られる。さらに、遅延検波器6a,6bの出力からそれぞれ2乗器13a,13bを介して、加算器14により相関波形の位相差の絶対値の2乗が得られる。この相関波形の位相差の絶対値の2乗は、遅延回路20により、積分器4a,4b及びデータ判定器5の処理時間に相当する時間だけ遅延させる。
【0016】奇相関キャンセラ21ではデータ判定器5で得られた送信情報の判定結果より、奇相関により相関波形の変動が生じているかどうかを推定する。奇相関による相関波形の変動の有無は、送信情報によって決まるので、受信信号の判定結果から、奇相関による相関波形の変動の有無を推定できる。奇相関の影響による相関波形の変動が生じている場合には、判定回路16で得られる先行波、遅延波の位置情報を用いて、各先行波及び遅延波の奇相関による相関波形の変動のみを打ち消す。奇相関による相関波形の変動の形は、拡散コードによって一意に定まるので、先行波、遅延波の位置がわかれば、ある時点での奇相関による相関波形の変動は推定可能である。奇相関キャンセラ21によって奇相関の影響が打ち消された信号は、巡回加算器15で巡回加算され、相関波形のピークを強調し、相関波形のピークの位相差以外の雑音成分を抑圧する。
【0017】判定回路16では、巡回加算結果が、予め設定されたしきい値を超えるかどうかを判定することで、遅延波の位置を検出し、遅延波が存在する場合には重み付け係数として1を出力し、それ以外では0を出力する。この重み付け係数を乗積器9a,9bで遅延検波部6a,6bの出力に乗積することで、先行波及び遅延波による相関波形の位相差成分のみが積分器4a,4bに供給され、それ以外の雑音成分は積分器4に供給されない。その結果、積分器4a,4bでは相関波形のピーク(相関ピーク)の位相差のみが積分(合成)され、奇相関の影響による相関波形の変動など雑音成分は積分されないので、ダイバーシチ利得の劣化を防止することができる。
【0018】以上のように構成された直接拡散/スペクトル拡散受信装置では、奇相関キャンセラによって奇相関の影響による相関波形の変動が取り除かれる。従って、奇相関の影響による相関波形の変動まで積分してしまうことを防止でき、ダイバーシチ利得の劣化を防止できる。
【0019】なお、実施例1では、2乗器13a,13bを用いたが、2乗器の代わりに絶対値を求める回路を用いてもよい。
【0020】また、実施例1では、重み付けの係数として1,0を用いたが、これ以外の係数を用いてもよい。
【0021】また、実施例1では雑音成分の抑圧のために巡回加算器を用いているが、代わりに移動平均を用いた場合でも同様である。
【0022】また、巡回加算や移動平均などの雑音抑圧手段を用いずに、先行波、遅延波の位置検出を行った場合でも、同様の効果を奏する。
【0023】また、遅延回路20は、積分器4、データ判定器5などの処理遅延の補償のために用いるものであり、この処理遅延が補償されれば、ブロック図中の他の位置に遅延回路20が設置された場合も同様である。
【0024】
【発明の効果】この発明は以上説明したように構成されるため、以下に記載されるような効果を奏する。補償回路付き伝搬路検出部で、奇相関による相関波形の位相差の変動を取り除くことにより、伝搬路検出が正確に行われ、ダイバーシチ利得の劣化を防止することのできる直接拡散/スペクトル拡散受信装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の直接拡散/スペクトル拡散受信装置の実施例1を示す構成ブロック図である。
【図2】図1に示す補償回路付き伝搬路検出部の内部構成を示すブロック図である。
【図3】従来のPDI直接拡散/スペクトル拡散受信装置の構成ブロック図である。
【図4】従来のPDI直接拡散/スペクトル拡散受信装置の動作を説明するための相関波形の例を示す図である。
【図5】従来のPDI直接拡散/スペクトル拡散受信装置の奇相関による相関波形の変動の例を説明する図である。
【符号の説明】
1 相関器
2 遅延回路
3 乗算器
4 積分器
5 データ判定器
6a,6b 遅延検波部
7 直交変調用相関器
9a,9b 乗算器
10 同相チャネルの信号の経路
11 直交チャネルの信号の経路
13a,13b 2乗器
14 加算器
15 巡回加算器
16 判定回路
17 補償回路付き伝搬路検出部
18 重み付け係数の経路
19 データ判定結果の経路
20 遅延回路
21 奇相関キャンセラ
101 先行波の相関ピーク
102 先行波の相関ピーク
103 時間軸
104 実数軸
105 虚数軸
106 遅延波の相関ピーク
107 遅延波の相関ピーク
108 遅延波の相関ピーク
109 遅延波の相関ピーク
110 相関ピーク
111 相関ピーク
112 相関ピーク
113 奇相関による相関波形の変動
114 奇相関による相関波形の変動
115 奇相関による相関波形の変動
116 奇相関による相関波形の変動

【特許請求の範囲】
【請求項1】 受信信号の逆拡散を行う相関器と、その相関器出力を遅延させる遅延回路と、その遅延回路出力と相関器出力を乗積する乗算器と、乗算器出力から先行波と遅延波を検出する伝搬路検出部と、伝搬路検出部で検出した先行波と遅延波を用いて、乗算器出力の雑音成分を取り除く回路と、その出力を積分する積分器を有しパスダイバーシチを行うように構成された直接拡散/スペクトル拡散受信装置において、受信装置の判定結果を用いて、相関器出力の奇相関成分の影響を打ち消す奇相関キャンセラーを備えることを特徴とするスペクトル拡散受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平5−199206
【公開日】平成5年(1993)8月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−7484
【出願日】平成4年(1992)1月20日
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)