説明

スペクトル拡散通信システムの受信方法および受信装置

【課題】キャリア周波数ずれを補償することで信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能なスペクトル拡散通信システムの受信方法および受信装置を提供する。
【解決手段】本発明の受信装置2は、キャリア周波数生成手段32と、前記キャリア周波数によって周波数変換された受信信号を逆拡散する逆拡散手段であるマッチドフィルタ34と、受信信号の拡散系列を分割して部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、前記逆拡散ベクトルの位相を正負に一定角度回転させ、2本の枝に分岐し、前記拡散系列の最後まで分岐を続ける2分木生成手段35と、前記2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、前記複数のパスのうち、前記合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを逆拡散データとして検出する最大値検出手段36と、復調手段38と、を備えて構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトル拡散通信システムの受信方法および受信装置に関し、特に長距離無線通信に好適なスペクトル拡散通信システムの受信方法および受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス情報化社会の到来とともに実用化の期待されているセンサネットワークでは、通信速度は、遅くても良いが通信距離は長くしたいとの要求がある。例えば、無線通信を応用した倉庫の在庫管理や農場管理および鳥獣監視などがある。
【0003】
一方、センサに搭載する通信装置として有望視されている現在のRFID(Radio Frequency IDentification)の通信距離は、数十mしかない。
【0004】
したがって、RFIDのメリットを生かしたまま通信距離を拡大させることができれば、ユビキタス情報化社会の実現は一層促進されると思われる。
【0005】
シャノンの定理では、通信容量Cの理論限界は次式で規定される。
【0006】
【数1】

【0007】
ここで、Wは通信路の帯域幅,Sは信号電力,Nは雑音電力である。いま、受信電力(信号電力S)が通信距離Dのα乗に比例して減衰すると仮定すれば、次式を導出できる。
【0008】
【数2】

【0009】
ここで、aは定数である。したがって、通信距離Dは、通信容量Cを小さく(通信速度を低く)することで拡大できることが分かる。
【0010】
しかし、実際の通信では、周波数ずれと時間ずれによる性能劣化によって通信距離が制限される。以下、周波数ずれと時間ずれの性能劣化について説明する。
【0011】
(1)周波数ずれによる性能劣化
図1は、一般的なスペクトル拡散通信のシステム構成図である。スペクトル拡散通信システムは、送信装置1と受信装置2を備えて構成される。
【0012】
送信装置1は、送信信号3を拡散符号4によりスペクトル拡散する拡散手段5と、キャリア周波数生成手段6と、前記キャリア周波数生成手段6で生成される信号と前記拡散手段5の出力信号を乗算して、前記出力信号を周波数変換するための乗算器7と、乗算器7の出力信号を伝送信号として無線で送信する送信用アンテナ8と、によって構成される。
【0013】
受信装置2は、送信装置1からの伝送信号を受信する受信用アンテナ9と、キャリア周波数生成手段10と、前記キャリア周波数生成手段10で生成される信号と前記受信用アンテナ9の出力信号を乗算して、前記出力信号を周波数変換するための乗算器11と、当該乗算器11の出力信号を拡散符号12によりスペクトル逆拡散する逆拡散手段13と、によって構成される。そして、その逆拡散手段13の出力が受信信号14となる。
【0014】
数2に示すシャノンの変形定理を帯域幅Wのスペクトル拡散通信に当てはめると、狭帯域化、すなわち拡散系列長を長くする(通信速度を低速にする)ことで、通信距離Dを拡大できることが分かる。
【0015】
しかし、実際の通信システムでは、送信装置1と受信装置2との間には僅かなキャリア周波数のずれがあり、これが原因で逆拡散期間に受信信号の位相が回転する。その結果、正しい処理利得が得られなくなり、通信距離Dが制限される。
【0016】
スペクトル拡散の正規化処理利得Gpは、逆拡散期間に発生する位相回転をθとするとき次式で与えられる。
【0017】
【数3】

【0018】
図2にキャリア周波数を40kHz,チップ速度を1kc/s,送信装置1及び受信装置2の周波数安定度をそれぞれ10ppmとした場合において、拡散系列長Lと正規化処理利得Gpの関係を示す。この図では、拡散系列長Lが大きくなると、正規化処理利得Gpが1から急激に落ち込んでいることがわかる。また図3に、拡散系列長Lと処理利得Gp(正規化してない)の関係を示す。この図では、拡散系列長Lが大きくなると、処理利得Gpが頭打ちになり、拡散比が制限されることがわかる。図中の横軸から垂直に伸びた点線は、拡散比の制限が始まる位置を示している。これらの図から、拡散系列長Lを大きくすると十分な処理利得Gpが得られないことがわかる。
【0019】
(2)時間ずれによる性能劣化
キャリア周波数以外にも、送信装置1と受信装置2との間には僅かなデータクロック周波数のずれが生じる。その結果、逆拡散期間に拡散系列のチップずれが起こり、同様に正しい処理利得が得られなくなり、通信距離Dが制限される。
【0020】
図4にキャリア周波数を40kHz,チップ速度を1kc/s,送信装置1及び受信装置2のキャリア周波数の周波数安定度をそれぞれ10ppmとした場合において、送信装置1と受信装置2との間において、逆拡散期間に生ずるチップずれの影響による拡散系列長Lと処理利得の関係を示す。この図でも、拡散系列長Lが大きくなると、正規化処理利得Gpが1から急激に落ち込んでいることがわかる。
【0021】
実際の通信では、周波数ずれと時間ずれの両方の影響を同時に受け、通信距離Dは、周波数ずれや時間ずれの性能劣化により制限を受ける。
【0022】
このような問題に対し、従来技術では、受信側で、予め保持している期待信号と、受信信号搬送波との相関演算によって、受信信号搬送波の中に存在するトグル点の候補を検出し、その検出結果に基づいてシフトさせた拡散符号を受信信号に乗算することにより、受信信号を復調する方法が開示されている(特許文献1)。
【0023】
また、遅延検波によって周波数ずれを伴う信号を復調する方法(特許文献2)や、搬送波周波数オフセット補正方法(特許文献3)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特許3639839号公報
【特許文献2】特開平9−93217号公報
【特許文献3】特開2007−202088号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、上記特許文献1〜3は、いずれも送受信機のキャリア周波数ずれの影響を受けない範囲にスペクトル拡散系列長を設定しており、S/Nの良い受信信号から送信機のキャリア周波数を検出する方法等を採用している。そして、長いスペクトル拡散系列長を使用する必要のある場合は、例えば温度補償機能付発振器のような高精度の発振器を使用することで対応している。
【0026】
したがって、送受信機間のキャリア周波数ずれの影響が大きい範囲にスペクトル拡散系列長を設定し、送信信号の狭帯域化すなわち通信速度を低速化することにより、送信電力を上げることなく無線長距離伝送するものではなかった。
【0027】
例えば図5では、スペクトル拡散通信システムで送信する信号Sと雑音Nの関係について、n個に分割された部分系列の送信信号Sと雑音Nがあった場合、部分系列の送信信号Sを加算し、その振幅をn倍にすれば、信号電力はn倍、雑音電力はn倍となることを示している。ここで、送信信号Sの出力を増加させれば、S/Nは良くなるが、高出力電波は電波法の規制等により上限が決まっている。
【0028】
図6は、スペクトル拡散通信システムで受信するn個に分割された部分系列の信号Sと雑音Nの関係を示しているが、受信側では送信側との間にキャリア周波数ずれ(各部分系列の逆拡散ベクトルの位相のずれ)があるため、部分系列の受信信号Sを加算したとしてもS/Nが悪く、受信側では、S/Nが悪い条件での復調が必要となる。
【0029】
そこで、本発明では、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能なスペクトル拡散通信システムの受信方法および受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明の請求項1に係る発明は、受信信号をキャリア周波数の信号で周波数変換し、前記周波数変換した前記受信信号について、長さLの拡散系列を長さΔLの部分系列に分割し、各部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させて、2本の枝に分岐し、前記拡散系列の最後まで前記2本の枝に分岐を続けて2分木を生成し、前記2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、前記複数のパスのうち、前記合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出することを特徴とする。 本発明の請求項2に係る発明は、前記キャリア周波数をF[Hz]とし、送信側でのキャリア周波数の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信側でのキャリア周波数の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、前記拡散系列の長さをL[chip]とし、前記逆拡散ベクトルの算出過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、
前記拡散系列を等間隔に分割する周波数ピッチΔfが次式であらわされ、
【0031】
【数4】

【0032】
これにより前記受信信号の長さLの拡散系列が、次式でn分割され、
【0033】
【数5】

【0034】
前記部分系列の長さΔLが、次式になる
【0035】
【数6】

【0036】
ことを特徴とする。
【0037】
本発明の請求項3に係る発明は、前記各部分系列毎に前記逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、前記逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が、逆拡散ベクトルの算出に際し最小スライド間隔に達したときに、キャリア周波数をF[Hz]とし、送信側でのキャリア周波数の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信側でのキャリア周波数の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列長をL[chip]とし、逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、次式で定義される時間ずれΔtを考慮して、逆拡散する前に入力する前記部分系列をずらす
【0038】
【数7】

【0039】
ことを特徴とする。
【0040】
本発明の請求項4に係る発明は、キャリア周波数を生成するキャリア周波数生成手段と、前記キャリア周波数によって周波数変換された受信信号を逆拡散する逆拡散手段であるマッチドフィルタと、受信信号の拡散系列を分割して部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、前記逆拡散ベクトルの位相を正負に一定角度回転させて、2本の枝に分岐し、前記拡散系列の最後まで前記2本の枝に分岐を続ける2分木生成手段と、前記2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、前記複数のパスのうち、前記合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出する最大値検出手段と、前記最大値検出手段の逆拡散データに基づいて、受信信号を復調する復調手段と、を備えたことを特徴とする。
【0041】
本発明の請求項5に係る発明は、前記受信信号の長さLの拡散系列を、キャリア周波数をF[Hz]とし、送信装置の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、前記拡散系列の長さをL[chip]とし、前記逆拡散ベクトルの算出過程で許容される位相回転α[rad]としたときに、前記拡散系列を等間隔に分割する周波数ピッチΔfが次式であらわされ、
【0042】
【数8】

【0043】
これにより前記受信信号の長さLの拡散系列が、次式でn分割され、
【0044】
【数9】

【0045】
前記部分系列の長さΔLが、次式になる拡散系列分割手段を備えたことを特徴とする。
【0046】
【数10】

【0047】
本発明の請求項6に係る発明は、キャリア周波数をF[Hz]とし、送信装置の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列長をL[chip]とし、逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、前記各部分系列毎に前記逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、前記逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が、前記マッチドフィルタの最小スライド間隔に達したときに、次式で定義される時間ずれΔtを考慮して、前記マッチドフィルタに入力する前記部分系列をずらす時間ずれ補償手段を備えたことを特徴とする。
【0048】
【数11】

【発明の効果】
【0049】
本発明の請求項1、2によれば、2分木の最初から最後までの複数のパスのうち、合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出することにより、結果的に各部分系列毎に算出された逆拡散ベクトルの位相ずれ、すなわち周波数ずれが最小となる信号を検出することとなり、キャリア周波数ずれを最小化した受信信号の復調が可能となるため、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【0050】
本発明の請求項3によれば、各部分系列毎に逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が逆拡散ベクトルの算出に際し最小スライド間隔に達したとき、時間ずれΔtを考慮して、逆拡散する前に入力する部分系列をずらすことにより、時間ずれを補償することができ、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【0051】
本発明の請求項4、5によれば、受信信号の拡散系列を分割して部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、前記逆拡散ベクトルの位相を正負に一定角度回転させ、2本の枝に分岐し、前記拡散系列の最後まで前記2本の分岐を続ける2分木生成手段と、前記2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、前記複数のパスのうち、前記合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出する最大値検出手段と、を備えたことにより、キャリア周波数ずれを最小化した受信信号の復調が可能となるため、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【0052】
本発明の請求項6によれば、各部分系列毎に逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化がマッチドフィルタの最小スライド間隔に達したときに、時間ずれΔt分だけ、マッチドフィルタの入力信号をずらす時間ずれ補償手段を備えたことにより、時間ずれを補償することができ、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】従来のスペクトル拡散通信のシステム構成図である。
【図2】拡散系列長Lと正規化処理利得Gpの関係を示す図である。
【図3】拡散系列長Lと処理利得Gpの関係を示す図である。
【図4】送受信機間の逆拡散期間に生ずるチップずれと処理利得の関係を示す図である。
【図5】スペクトル拡散通信システムの送信信号と雑音の関係を示す図である。
【図6】スペクトル拡散通信システムの受信信号と雑音の関係を示す図である。
【図7】比較例の周波数軸アプローチの概略構成図である。
【図8】本発明の一実施例における時間軸アプローチの概略構成図である。
【図9】同上、スペクトル拡散系列の分割を示す概念図である。
【図10】部分系列毎の位相回転がない場合の合成逆拡散ベクトルを示す図である。
【図11】部分系列毎の位相回転がある場合の合成逆拡散ベクトルを示す図である。
【図12】同上、m個の部分系列の合成逆拡散ベクトルを示す図である。
【図13】本発明の実施例の2分木の構成図である。
【図14】同上、時間軸アプローチによる二分木生成による探索動作を説明する概念図である。
【図15】同上、二分木生成による探索結果から合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを逆拡散データとして検出する動作を説明する概念図である。
【図16】比較例の周波数軸アプローチ特性の計算結果を示す図である。
【図17】本発明の実施例の時間軸アプローチ特性の計算結果を示す図である。
【図18】比較例の周波数軸アプローチ特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図19】本発明の実施例の時間軸アプローチ特性のシミュレーション結果を示す図である。
【図20】有線実験(α=π/2)において比較例の周波数軸アプローチと本発明の実施例の時間軸アプローチを適用した場合のS/N特性を示す図である。
【図21】有線実験(α=π/4)において比較例の周波数軸アプローチと本発明の実施例の時間軸アプローチを適用した場合のS/N特性を示す図である。
【図22】比較例の周波数軸アプローチと本発明の実施例の時間軸アプローチの演算量の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、時間軸アプローチによって、送信装置に対する受信装置のキャリア周波数ずれを補償するものであるが、わかりやすく説明するために、従来技術である周波数軸アプローチによるキャリア周波数ずれの補償方法を、比較例として最初に説明する。
【0055】
1.周波数軸および時間軸アプローチの動作原理
(1)周波数軸アプローチ
まず、比較例として、キャリア周波数ずれを周波数軸から見てずれ補償する周波数軸アプローチについて説明する。
【0056】
図7は、周波数軸アプローチを実現する受信装置20の概略構成図である。具体的には、無線で伝送されてきた信号を受信する受信用アンテナ21と、受信側のキャリア周波数Fの上限fHから下限fLまでのずれ周波数を周波数ピッチΔf間隔にn分割した周波数に対応したn個のキャリア周波数生成手段22と、それらのn個のキャリア周波数生成手段21で生成される信号と受信用アンテナ21で受信した受信信号を乗算して、当該受信信号を周波数変換するための乗算器23と、乗算器23の各出力信号を逆拡散する逆拡散手段であるマッチドフィルタ24と、逆拡散された各信号を比較し、キャリア周波数ずれの少ない最大の信号を受信データとして選択する比較器25と、その選択された信号を復調する復調手段26と、によって構成される。
【0057】
図示しない送信装置と受信装置20との間の周波数差は、キャリア周波数生成手段2に組み込まれた発振器(図示せず)の製造バラツキや温度等の使用環境が原因で変動する。しかし、逆拡散期間は十分短く、ここでは逆拡散期間内の周波数変動はないと仮定する。
【0058】
周波数軸アプローチでは、キャリア周波数ずれを周波数軸から補償する。いま、キャリア周波数をF[Hz],送信装置のキャリア周波数の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置のキャリア周波数の周波数安定度をAr[ppm],チップ速度をRC[cps],拡散系列長をL[chip],逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]とすると、キャリア周波数Fの上限fHおよび下限fLは次式で表わされる。
【0059】
【数12】

【0060】
【数13】

【0061】
図7に示す受信装置20は、上限周波数fHから下限周波数fLまでのずれ周波数を周波数ピッチΔf間隔に分割し、分割した各周波数で受信信号のキャリア復調及び逆拡散をn個のキャリア周波数生成手段22,乗算器23,マッチドフィルタ24で行い、各マッチドフィルタ24からの出力値を比較器25で比較することにより、その最大値を受信データとして検出する。
【0062】
周波数軸アプローチの正規化処理利得Gpsは、逆拡散過程で位相がα回転する場合、数3のθにαを代入することで与えられる。
【0063】
つぎに、周波数軸アプローチの演算量を求める。
【0064】
拡散系列長Lは、前記周波数ピッチΔfを用いると、
【0065】
【数14】

【0066】
で与えられる。これから周波数ピッチΔfは、
【0067】
【数15】

【0068】
となる。帯域2(At+Ar)Fのずれ周波数は周波数ピッチΔfによりn分割される。
【0069】
【数16】

【0070】
したがって、逆拡散にマッチドフィルタ24を使用するとき、周波数軸アプローチの演算量NSは次式で与えられる。
【0071】
【数17】

【0072】
周波数軸アプローチの演算量は、Lの3乗に比例して増加する。
【0073】
(2)時間軸アプローチ
つぎに、本発明の実施例として、キャリア周波数ずれを時間軸から見てずれ補償する時間軸アプローチについて説明する。
【0074】
図8は、本発明の受信方法(時間軸アプローチ)を実現する受信装置2の概略構成図である。具体的には、無線で伝送されてきた信号を受信する受信用アンテナ31と、受信側で所定のキャリア周波数の信号を生成するキャリア周波数生成手段32と、受信された受信信号とキャリア周波数生成手段32の出力信号を乗算して、当該受信信号を周波数変換する乗算器33と、乗算器33の出力を逆拡散する逆拡散手段であるマッチドフィルタ34と、送信装置(図示しない)と受信装置2のキャリア周波数のずれ範囲を探索する二分木生成手段35と、最大値検出手段36を備えた探索手段37と、前記探索手段37の探索結果に基づいて、受信信号を復調する復調手段38と、を備えて構成される。
【0075】
上記受信装置2が行なう時間軸アプローチの動作手順は、以下の通りである。
【0076】
(I)拡散系列を部分系列に分割
長さLの拡散系列を、位相回転がα[rad]となる長さΔLの部分系列に分割する。ここで、αは処理利得Gpの劣化が許容できる位相回転である。数3で与えられる正規化処理利得Gpは、逆拡散過程に発生する位相回転θが小さいとき、ほとんど劣化しない。例えば、θがπ/4のときのGpは約0.974である。時間軸アプローチはこの特徴を利用する。図9に拡散系列の分割を示すが、これは乗算器33の前段または後段に設けた拡散系列分割手段(図示せず)で行なわれる。
【0077】
(II)部分系列の逆拡散
受信用アンテナ31で受信信号に対して、前記拡散系列分割手段が分割した各部分系列ごとにI,Q直交軸で逆拡散を行う。ここでいうI軸は直交変調による波形の同相成分を意味し、Q軸は直交位相成分を意味する。マッチドフィルタ34による逆拡散結果は、(逆拡散ベクトル)として扱う。
【0078】
例えば、図10は、各部分系列毎に算出されたm個の逆拡散ベクトルΔL1、ΔL2・・・ΔLmに位相回転が無い場合において、その逆拡散ベクトルΔL1、ΔL2・・・ΔLmを合成した合成逆拡散ベクトルを示している。このような理想的な場合、正規化処理利得GpはロスがないLとなりI軸と同軸上になる。一方、図11のように逆拡散ベクトルΔL1、ΔL2・・・ΔLmにそれぞれθずつ位相回転がある場合、m個分では、図12のように、位相のずれが累積していき、合成逆拡散ベクトルは小さくなる。例えば、mが20で、θがπ/12の場合、正規化処理利得Gpは0.19Lとなる。なお、これら図10〜図12は逆拡散ベクトルについて説明するための図であり、本発明を適用したものではない。
【0079】
(III)二分木の構成
マッチドフィルタ34で得られた部分系列の逆拡散ベクトルは、次の二分木生成手段35で位相を±α回転した2本の枝に分岐される。二分木生成手段35は、この操作を拡散系列の最後まで続け二分木を完成させる。
【0080】
図13に二分木の構成を示す。なお、この図13は、位相回転の操作を示すものであるため、実際の動作上のキャリア周波数ずれに伴う位相ずれは、ここでは含めていない。したがって、例えばΔL1から+α位相が回転(ΔL2)した後、さらに−α位相が回転した場合(ΔL3)、位相回転の累積はゼロとなる。また、ΔL3の部分系列の逆拡散ベクトルの先端では、2本の枝が位相回転がゼロとなる点で交差しており、ΔL4の部分系列の逆拡散ベクトルの先端では、位相回転が+α、−αの点で2本の枝が交差する。そのため、実際の二分木生成手段35による探索では、その交点以後で重複する計算を省略して、一本の枝として計算することができる。
【0081】
(IV)ベクトル和の最大値の検出
最大値検出手段36は、二分木の初期状態から最終枝までのn個の部分系列からなるパスについて、パス毎に合成逆拡散ベクトルのノルムを求める。その後、ノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出し、復調手段38に送出する。図14は、時間軸アプローチによる二分木生成手段35による探索動作を説明する概念図である。この図は、部分系列毎に位相ずれを伴いながら二分木探索する様子を示している。ここで、図13と図14を比較すると、図13では、ΔL4の部分系列の逆拡散ベクトルが6本記載されているのに対し、図14では、8本記載されている。しかし、位相ずれを伴う図14においても、8本のうち、2本の逆拡散ベクトルが、他の2本の逆拡散ベクトルと大きさも向きも同じベクトルであるために計算が省略され、実際の計算は6本分である。これは、図13において交点以後で重複する計算を省略することと同様に説明できるが、より詳細な説明をすると、各部分系列ΔL中において、累積された位相の回転角度が同じ逆拡散ベクトルどうしは、その算出が1回の計算で済む、という意味である。
【0082】
図15は、最大値検出手段36によって、部分系列毎の逆拡散ベクトルを合成した逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを検出する動作を示す概念図である。この図のように、合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを選択し、その正規化処理利得をGpとすると、結果的に部分系列毎の逆拡散ベクトルの位相ずれを最小化するようにパスを選択したこととなり、キャリア周波数のずれも最小化する。
【0083】
時間軸アプローチの正規化処理利得Gptは、部分系列ごとに位相を+α,−α交互に回転する場合に得られ、数3で求めたのと同様に次式で与えられる。
【0084】
【数18】

【0085】
例えば、αがπ/4の場合には、Gptは約0.9Lとなる。
【0086】
なお、最大値検出手段36は、図示しない記憶手段であるメモリ40に各部分系列毎の逆拡散ベクトルやパス毎の合成逆拡散ベクトル等のデータを保存したり、読み込んだりして、パス毎に合成逆拡散ベクトルのノルムを求めたり、ノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出したりする。
【0087】
つぎに、図8の受信装置2で行なわれる時間軸アプローチの演算量を求める。
【0088】
各部分系列の長さΔLは、拡散系列長Lを数9で規定するn個に分割したものであり、次式であらわせる。なお、上記(1)周波数軸アプローチの場合と同様に、送信装置でのキャリア周波数の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置でのキャリア周波数の周波数安定度をAr[ppm]とする。
【0089】
【数19】

【0090】
時間軸アプローチの演算量NTは、各部分相関のマッチドフィルタ演算,二分木の構成,ベクトルノルムの最大値の検出から求まる。ここで、各部分相関のマッチドフィルタの演算量の総和は、拡散系列長Lのマッチドフィルタ34の演算量に等しく、残りの演算はこれに比べると十分小さい。したがって、時間軸アプローチの演算量NTは、次式で近似できる。
【0091】
【数20】

【0092】
時間軸アプローチの演算量NTは、拡散系列長Lの2乗となり、拡散系列長Lの3乗に比例する周波数軸アプローチに比べ、管理センターとなる受信装置2側の信号処理負荷は小さい。つまり、図7の構成ではなく、図8の構成を採用することで、受信用アンテナ31が受信信号を受信してから、キャリア周波数のずれを最小化するような逆拡散データ(受信データ)を出力するまでの処理速度を、拡散系列長Lの3乗の比例から2乗に減らすことができる。
【0093】
つぎに、前述した時間ずれの補償について検討する。時間ずれを補償する手段として、図7に示すマッチドフィルタ24の前段や、図8に示すマッチドフィルタ34の前段には、それぞれ時間ずれ補償手段29、39が配設される。
【0094】
送信装置1や受信装置2において、キャリア周波数とデータクロック周波数は、それぞれ別個の発振器で生成する場合もあるが、ここでは同じ発振器として、上記キャリア周波数生成手段22,32で生成する場合を考える。
【0095】
このとき、双方のデータクロック周波数のずれがΔfであれば、送信装置1と受信装置2との間の拡散系列の時間軸は、送信キャリア周波数をfS,受信キャリア周波数fRとするとき、(fR−Δf)/fR倍に伸縮する。したがって、図7に示す周波数軸アプローチを実現する受信装置2では、時間ずれ補償手段29により周波数のずれに応じて時間軸を伸縮させたのち逆拡散することで、周波数ずれ及び時間ずれの補償が可能となる。
【0096】
一方、図8に示す時間軸アプローチを実現する受信装置2では、部分系列毎にする位相回転αに伴う時間ずれΔtが、次式のようにあらわせる。
【0097】
【数21】

【0098】
したがって、時間軸アプローチでは、位相回転の累積による時間軸変化がマッチドフィルタ34の最小スライド間隔に達したとき、上記数11の時間ずれΔt分だけ、部分系列のマッチドフィルタ34への入力をずらせば、周波数ずれ及び時間ずれの補償が可能となる。
【0099】
2.周波数軸および時間軸アプローチの性能比較
(1)周波数軸及び時間軸アプローチ特性
キャリア周波数を40kHz,チップ速度を1kc/s,送信装置1及び受信装置2のキャリア周波数の周波数安定度をそれぞれ10ppmとした場合の、周波数軸アプローチ特性の計算結果を、α=π/8,π/4,π/2の3つの場合について図16に示す。また、時間軸アプローチ特性の計算結果を同様に図17に示す。また、周波数軸アプローチ特性のシミュレーション結果を図18に示し、時間軸アプローチ特性のシミュレーション結果を図19に示す。周波数軸アプローチでは、前記図7に示す受信装置2を用い、時間軸アプローチでは、前記図8に示す受信装置2を用いている。
【0100】
これらの図16〜図19から、周波数軸アプローチ及び時間軸アプローチともに、拡散系列長を大きくしたときの性能劣化はなく、キャリア周波数ずれ及び時間ずれを補償出来ていることが分かる。また、性能の劣化量は許容位相回転αにより調整できる。αを大きくすれば、許容誤差も大きくなるため、劣化量が大きくなるが、αを小さくすれば、劣化量が小さくなるため、正規化処理利得が1に近づく。
【0101】
比較例および本発明の実施例は、無線に限らず、有線でも適用できるため、有線に適用した場合のシミュレーション結果を図20、図21に示す。
【0102】
図20及び図21は、αをπ/2、π/4とし、S/Nが良い場合(60dB)と悪い場合(-30dB)について、シミュレーション実験した結果であり、周波数軸アプローチ(比較例)、時間軸アプローチ(本発明の実施例)、理論計算値の特性をそれぞれ示している。いずれの結果も、拡散系列長Lが103以上になると、理論計算値と同様の結果となる。なお、S/Nが悪い場合(-30dB)においては、拡散系列長Lが小さいと、理論計算値とずれがあるが、これは実験における雑音の発生状況によるものと考えられる。
【0103】
(2)演算量の比較
図22に、それぞれ数17と数20に示す周波数軸アプローチと時間軸アプローチの演算量を示す。
【0104】
拡散系列長Lを大きくするとき、周波数軸アプローチ式はLの3乗に比例するのに対し、時間軸アプローチはLの2乗となる。また、時間軸アプローチの演算量は、許容位相回転αに依存しない。
【0105】
したがって、拡散系列長を大きくした長距離通信では、時間軸アプローチに必要な演算量は周波数軸アプローチの数桁分の1になり、管理センター側の信号処理負荷は小さく済むことが分かる。
【0106】
(3)まとめ
シャノンの定理から通信距離と通信速度の関係を導出し、通信速度を低くすることで通信距離が拡大できることを示した。しかし、この変形シャノンの定理をスペクトル拡散通信に応用すると、送受信機間に生ずる周波数ずれと時間ずれが問題となることが分かった。
【0107】
そこで、スペクトル拡散を応用した長距離無線通信として、周波数軸アプローチと時間軸アプローチによる。周波数ずれと時間ずれの補償方法について検討した。これら補償方法は、拡散系列を長くしても性能劣化はほとんどなく、劣化量は調整できることが分かった。
【0108】
また、ずれ補償に必要な演算量は、周波数軸アプローチは拡散系列長の3乗に比例するのに対し、時間軸アプローチは拡散系列長の2乗で済むことが分かった。技術革新の著しいCPU性能の向上を考慮すると、特に時間軸アプローチは十分に実用可能と思われる。また、本発明の受信方法は、センサに搭載する無線機をそのまま使用できるため有利である。
【0109】
以上のように、本実施例の受信方法では、受信信号をキャリア周波数の信号で周波数変換し、周波数変換した前記受信信号について、長さLの拡散系列を長さΔLの部分系列に分割し、各部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、各部分系列毎に算出された逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させて、2本の枝に分岐し、拡散系列の最後まで前記2本の枝に分岐を続けて2分木を生成し、2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、複数のパスのうち、合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出している。
【0110】
また、キャリア周波数をF[Hz]とし、送信側での周波数安定度をAt[ppm]とし、受信側での周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列の長さをL[chip]とし、逆拡散ベクトルの算出過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、拡散系列を等間隔に分割する周波数ピッチΔfが上記数4であらわされ、これにより受信信号の長さLの拡散系列が、上記数5でn分割され、部分系列の長さΔLが、上記数6に示されるように分割している。
【0111】
この場合、2分木の最初から最後までの複数のパスのうち、合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出することにより、結果的に各部分系列毎に算出された逆拡散ベクトルの位相ずれ、すなわち周波数ずれが最小となる信号を検出することとなり、キャリア周波数ずれを最小化した受信信号の復調が可能となるため、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【0112】
また、本実施例の受信方法では、キャリア周波数をF[Hz]とし、送信側での周波数安定度をAt[ppm]とし、受信側での周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列長をL[chip]とし、逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、各部分系列毎に逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が、逆拡散ベクトルの算出に際し最小スライド間隔に達したときに、上記数21で定義される時間ずれΔtを考慮して、逆拡散する前に入力する前記部分系列をずらしている。
【0113】
この場合、各部分系列毎に逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が逆拡散ベクトルの算出に際し最小スライド間隔に達したとき、時間ずれΔtを考慮して、逆拡散する前に入力する部分系列をずらすことにより、時間ずれを補償することができ、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【0114】
また、本実施例の受信装置2では、キャリア周波数を生成するキャリア周波数生成手段32と、キャリア周波数によって周波数変換された受信信号を逆拡散する逆拡散手段であるマッチドフィルタ34と、受信信号の拡散系列を分割して部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、逆拡散ベクトルの位相を正負に一定角度回転させて、2本の枝に分岐し、拡散系列の最後まで分岐を続ける2分木生成手段35と、2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、複数のパスのうち、合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出する最大値検出手段36と、最大値検出手段36の逆拡散データに基づいて、受信信号を復調する復調手段38と、を備えて構成されている。
【0115】
また、前記受信信号の長さLの拡散系列を、キャリア周波数をF[Hz]とし、送信装置1の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置2の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列長をL[chip]とし、逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、拡散系列を等間隔に分割する周波数ピッチΔfが上記数4であらわされ、これにより受信信号の長さLの拡散系列が、上記数5でn分割され、前記部分系列の長さΔLが、上記数6に示される長さとする拡散系列分割手段を備えて構成されている。
【0116】
この場合、受信信号の拡散系列を分割して部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、前記逆拡散ベクトルの位相を正負に一定角度回転させ、2本の枝に分岐し、前記拡散系列の最後まで前記2本の分岐を続ける2分木生成手段35と、前記2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、前記複数のパスのうち、前記合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出する最大値検出手段36と、を備えたことにより、キャリア周波数ずれを最小化した受信信号の復調が可能となるため、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【0117】
また、本実施例の受信装置2は、キャリア周波数をF[Hz]とし、送信装置1の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置2の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列長をL[chip]とし、逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、各部分系列毎に逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、前記逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が前記マッチドフィルタ34の最小スライド間隔に達したときに、上記数7で定義される時間ずれΔtを考慮して、前記マッチドフィルタ34に入力する部分系列をずらす時間ずれ補償手段39を備えて構成されている。
【0118】
この場合、各部分系列毎に逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化がマッチドフィルタ34の最小スライド間隔に達したときに、時間ずれΔt分だけ、マッチドフィルタ34の入力信号をずらす時間ずれ補償手段39を備えたことにより、時間ずれを補償することができ、信号の狭帯域化の制限を無くし、無線長距離通信が可能となる。
【0119】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば、上記実施例の二分木生成による探索では、すべての部分系列の分木させた枝に対して逆拡散ベクトル演算している。つまり、すべての枝について、最後の深さまで演算している。しかし、二分木生成の途中過程で、明らかに位相ずれが大きい枝については演算を打ち切って、演算量を減らしても良い。
【符号の説明】
【0120】
2 受信装置
32 周波数変動手段
34 マッチドフィルタ
35 二分木生成手段
36 最大値検出手段
37 探索手段
38 復調手段
39 時間ずれ補償手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号をキャリア周波数の信号で周波数変換し、
前記周波数変換した前記受信信号について、長さLの拡散系列を長さΔLの部分系列に分割し、
各部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、
各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させて、2本の枝に分岐し、
前記拡散系列の最後まで前記2本の枝に分岐を続けて2分木を生成し、
前記2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、
前記複数のパスのうち、前記合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出することを特徴とするスペクトル拡散通信システムの受信方法。
【請求項2】
前記キャリア周波数をF[Hz]とし、送信側での周波数安定度をAt[ppm]とし、受信側での周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、前記拡散系列の長さをL[chip]とし、前記逆拡散ベクトルの算出過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、
前記拡散系列を等間隔に分割する周波数ピッチΔfが次式であらわされ、
【数1】

これにより前記受信信号の長さLの拡散系列が、次式でn分割され、
【数2】

前記部分系列の長さΔLが、次式になることを特徴とする請求項1記載のスペクトル拡散通信システムの受信方法。
【数3】

【請求項3】
前記キャリア周波数をF[Hz]とし、送信側での周波数安定度をAt[ppm]とし、受信側での周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列長をL[chip]とし、逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、前記各部分系列毎に前記逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、前記逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が、逆拡散ベクトルの算出に際し最小スライド間隔に達したときに、
次式で定義される時間ずれΔtを考慮して、逆拡散する前に入力する前記部分系列をずらすことを特徴とする請求項1または2記載のスペクトル拡散通信システムの受信方法。
【数4】

【請求項4】
キャリア周波数を生成するキャリア周波数生成手段と、
前記キャリア周波数によって周波数変換された受信信号を逆拡散する逆拡散手段であるマッチドフィルタと、
受信信号の拡散系列を分割して部分系列毎に逆拡散ベクトルを算出し、前記逆拡散ベクトルの位相を正負に一定角度回転させて、2本の枝に分岐し、前記拡散系列の最後まで前記2本の枝に分岐を続ける2分木生成手段と、
前記2分木の最初から最後までの複数のパスについて、各部分系列毎に算出された前記逆拡散ベクトルを合成した合成逆拡散ベクトルのノルムをそれぞれ算出し、前記複数のパスのうち、前記合成逆拡散ベクトルのノルムが最大となるパスを復調すべき逆拡散データとして検出する最大値検出手段と、
前記最大値検出手段の逆拡散データに基づいて、受信信号を復調する復調手段と、
を備えたことを特徴とするスペクトル拡散通信システムの受信装置。
【請求項5】
前記受信信号の長さLの拡散系列を、
キャリア周波数をF[Hz]とし、送信装置の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、前記拡散系列の長さをL[chip]とし、前記逆拡散ベクトルの算出過程で許容される位相回転α[rad]としたときに、
前記拡散系列を等間隔に分割する周波数ピッチΔfが次式であらわされ、
【数5】

これにより前記受信信号の長さLの拡散系列が、次式でn分割され、
【数6】

前記部分系列の長さΔLが、次式になる拡散系列分割手段を備えたことを特徴とする請求項4記載のスペクトル拡散通信システムの受信装置。
【数7】

【請求項6】
前記キャリア周波数をF[Hz]とし、送信装置の周波数安定度をAt[ppm]とし、受信装置の周波数安定度をAr[ppm]とし、チップ速度をRC[cps]とし、拡散系列長Lを[chip]とし、逆拡散過程で許容される位相回転をα[rad]としたときに、前記各部分系列毎に前記逆拡散ベクトルの位相をそれぞれ正負に一定角度回転させるのに伴い、前記逆拡散ベクトルの位相回転の累積による時間軸変化が、前記マッチドフィルタの最小スライド間隔に達したときに、次式で定義される時間ずれΔtを考慮して、前記マッチドフィルタに入力する前記部分系列をずらす時間ずれ補償手段を備えたことを特徴とする請求項4または5記載のスペクトル拡散通信システムの受信装置。
【数8】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−186650(P2012−186650A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48247(P2011−48247)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】