説明

スペーサ用把持具

【課題】スペーサを確実に把持することができ、また把持されたスペーサを、椎弓や棘突起の切断部に容易かつ確実に挿入することができるスペーサ用把持具を提供すること。
【解決手段】スペーサ用把持具1は、椎弓または棘突起の切断により形成された切断部に挿入して、脊柱管を拡大するのに使用されるスペーサを把持して、前記切断部に挿入する操作を行うのに用いられるものである。スペーサ300は、切断部に挿入した状態で、脊柱管(椎孔)側に位置する前面(第1の面)310と、この前面310と対向する後面(第2の面)320とを備えている。このスペーサ用把持具1は、相対的に接近および離間する一対の把持部材21、22を有し、第1の把持部材21を前面310に圧接させ、第2の把持部材22を後面320に圧接させることにより、スペーサ300を把持するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペーサ用把持具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、頚椎脊椎症性脊髄症や、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、椎間板ヘルニア等に対する治療として、正中縦割式頚椎拡大椎弓形成術が行われている。
【0003】
正中縦割式拡大椎弓形成術では、椎弓や棘突起の正中部(中央部)を切断し、正中部を境にして、両側の椎弓を、ヒンジのようにして開くことにより、脊柱管を拡大する。この際、椎弓や棘突起を切断した切断部には、スペーサが挿入される。
【0004】
このスペーサとしては、ほぼT字状に形成され、幅の狭い部分が脊柱管(椎孔)側となるように、前記切断部に挿入して使用される。
【0005】
このようなスペーサを切断部に挿入する際には、通常、スペーサを把持するための把持具が用いられる。この把持具としては、図14に示すものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
図14(a)に示すように、把持具500は、スペーサ510を把持する把持部520と、把持部520を開閉操作する操作部530とを有している。
【0007】
図14(b)に示すように、把持部520は、ほぼ同一形状をなす一対の把持部材540、550で構成されており、操作部530の操作により、2つの把持部材540、550が互いに離れる方向および近づく方向に操作される。
【0008】
この把持具500では、両把持部材540、550を、スペーサ510の幅方向に対して直交する面に圧接することにより、スペーサ510を幅方向に把持(挟持)する。
【0009】
しかし、スペーサ510を幅方向に把持する把持具500では、スペーサ510の支持が不安定であり、把持部材540、550同士の間からスペーサ510が脱落し易いという問題がある。
【0010】
また、スペーサ510を把持した状態で、両把持部材540、550がスペーサ510からはみ出す(特に幅方向にはみ出す)ことから、スペーサ510を切断部に挿入する際に、隣接する椎弓や棘突起や、既にこれらに固定されたスペーサ等に把持部材が接触したり、椎弓や棘突起の切断部に臨む端部を確認し難くかったり等して、スペーサを確実に挿入するのが非常に難しいという問題がある。
【0011】
【非特許文献1】高安正和,「頸椎椎弓形成術 ―椎弓正中縦割式:アパセラムスペーサーとチタン製スクリューを用いた手術手技―」,脊椎脊髄ジャーナル,三輪書店,2002年6月25日,第15巻,第6号別刷,p605−610
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、スペーサを確実に把持することができ、また把持されたスペーサを、椎弓や棘突起の切断部に容易かつ確実に挿入することができるスペーサ用把持具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的は、下記(1)〜(11)の本発明により達成される。
(1) 椎弓または棘突起の切断により形成された切断部に挿入して、脊柱管を拡大するのに使用されるスペーサを把持して、前記切断部に挿入する操作を行うのに用いられるスペーサ用把持具であって、
前記スペーサは、前記切断部に挿入した状態で、脊柱管側に位置する第1の面と、該第1の面と対向する第2の面とを備え、
当該スペーサ用把持具は、相対的に接近および離間する一対の把持部材を有し、一方の前記把持部材を前記第1の面に圧接させ、他方の前記把持部材を前記第2の面に圧接させることにより、前記スペーサを把持するように構成されていることを特徴とするスペーサ用把持具。
【0014】
これにより、スペーサを確実に把持することができ、また把持されたスペーサを、椎弓や棘突起の切断部に容易かつ確実に挿入することができる。
【0015】
(2) 前記第1の把持部材の形状と前記第2の把持部材の形状とが異なっている上記(1)に記載のスペーサ用把持具。
【0016】
これにより、第1の把持部材と第2の把持部材とを、それぞれの機能を好適に発揮し得る最適な形状とすることができる。その結果、スペーサをより確実に把持することができ、また把持されたスペーサを、椎弓や棘突起の切断部により容易、確実かつ安全に挿入することができる。
【0017】
(3) 前記第2の把持部材の幅は、前記第1の把持部材の幅より大きい上記(2)に記載のスペーサ用把持具。
【0018】
これにより、把持されたスペーサを、椎弓や棘突起の切断部により容易に挿入することができる。
【0019】
(4) 前記第2の把持部材の最大長さは、前記第1の把持部材の長さより小さい上記(2)または(3)に記載のスペーサ用把持具。
【0020】
これにより、第1の把持部材の幅を狭くした場合でも、スペーサを確実に把持することができる。
【0021】
(5) 前記スペーサには、該スペーサを椎弓または棘突起に固定するのに使用される固定部材を挿通するための貫通孔が形成され、
前記スペーサを把持した状態で、前記第1の把持部材および前記第2の把持部材は、それぞれ、前記貫通孔との干渉を避けるような形状をなしている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のスペーサ用把持具。
【0022】
これにより、固定部材を使用して、スペーサを容易に椎弓や棘突起に固定することができる。
【0023】
(6) 前記スペーサの前記第1の面は、ほぼ長方形状をなし、
前記第1の把持部材は、前記スペーサを把持した状態で、前記第1の面の長辺方向のほぼ中央に当接する上記(5)に記載のスペーサ用把持具。
【0024】
これにより、スペーサを確実に把持しつつ、固定部材により椎弓や棘突起に容易かつ確実に固定することができる。
【0025】
(7) 前記スペーサの前記第2の面は、ほぼ長方形状をなし、
前記第2の把持部材は、前記スペーサを把持した状態で、前記第2の面の長辺縁部に沿って当接する部分を有する上記(5)または(6)に記載のスペーサ用把持具。
【0026】
これにより、スペーサを確実に把持しつつ、固定部材により椎弓や棘突起に容易かつ確実に固定することができる。
【0027】
(8) 前記第2の把持部材は、前記スペーサを把持した状態で、前記第2の面の短辺縁部の一部に当接する部分を有する上記(7)に記載のスペーサ用把持具。
【0028】
スペーサをより確実に把持することができ、スペーサを椎弓や棘突起の切断部により容易かつ確実に挿入することができる。
【0029】
(9) 前記第2の把持部材は、前記スペーサを把持した状態で、前記第2の面の短辺縁部の一部に当接する部分を有する上記(7)に記載のスペーサ用把持具。
【0030】
第2の把持部材の大型化を防止しつつ、スペーサを確実に把持する効果をより向上させることができる。
【0031】
(10) 前記第1の把持部材および前記第2の把持部材は、いずれも、その角部が丸みを帯びた形状をなしている上記(1)ないし(9)のいずれかに記載のスペーサ用把持具。
【0032】
スペーサを椎弓の切断部に挿入する際に、不本意に周辺組織を傷付けるのを防止することができる。
【0033】
(11) 前記第1の把持部材および前記第2の把持部材の少なくとも一方には、前記スペーサを把持した際に、該スペーサが滑り落ちるのを防止するための滑り止め手段が設けられている上記(1)ないし(10)のいずれかに記載のスペーサ用把持具。
【0034】
これにより、第1の把持部材と第2の把持部材との間からスペーサが滑り落ちるのが防止され、スペーサをより確実に把持することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、スペーサを確実に把持することができ、また把持されたスペーサを、椎弓や棘突起の切断部に容易かつ確実に挿入することができる。
【0036】
したがって、例えば正中縦割式拡大椎弓形成術等のスペーサを使用する手技を、迅速かつ良好に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明のスペーサ用把持具を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明のスペーサ用把持具の実施形態を示す側面図、図2は、図1に示すスペーサ用把持具でスペーサを把持した状態を示す側面図、図3は、図1中の矢印A方向から視た図、図4は、図2中の矢印A方向から視た図、図5〜図8は、それぞれ、正中縦割式拡大椎弓形成術を順を追って説明するための図、図9は、スペーサを示す斜視図、図10は、図9に示すスペーサの上面図、図11は、図9に示すスペーサの側面図である。
【0039】
<正中縦割式拡大椎弓形成術>
まず、図5〜図8を参照して、正中縦割式拡大椎弓形成術について説明する。なお、図5〜図8中の上側が背側、下側が腹側である。
【0040】
図5に示すように、椎骨100は、椎体110と、椎体110の後方(図5中の上側)に延び、脊柱管(椎孔)140を形成する椎弓120と、椎弓120の中央部から後方に突出する棘突起130とを有している。
【0041】
[1] まず、図5に示すように、椎骨100における棘突起130を、項靭帯、棘上・棘間靭帯および筋群(図示せず)等が付着したままの状態で、椎弓120から切断線131において切離(切断)する。
【0042】
[2] 次に、図6に示すように、椎弓120の中央部(正中部)を、例えばエアドリル等を用いて切断する。これにより、椎弓120の中央部には、切断部150が形成される。
【0043】
また、正中面200を境にして椎弓120の根元部の外側に、例えばエアドリル等を用いて溝121a、121bを形成する。
【0044】
この溝121a、121bの深さは、外板のみ削り、内板を削らない程度とする。この溝121a、121bを形成した部位は、ヒンジ部(蝶番)122a、122bとなる。
【0045】
[3] 次に、図7に示すように、ヒンジ部122a、122bを中心に、椎弓120を回動させ、切断部150を広げる。
【0046】
なお、必要に応じて、椎弓120の切断部150に臨む切断端部120a、120bを整形する。
【0047】
[4] 次に、図8に示すように、切断部150に、スペーサ300を挿入する。そして、スペーサ300と、椎弓120の切断端部120a、120bとを、ワイヤ400a、400bにより固定する。
【0048】
これにより、患者の椎弓120と、スペーサ300とで、拡大された椎弓160が形成される。
【0049】
なお、前記[1]において切離された棘突起130は、中央(正中)に戻し、スペーサ300に糸等により固定し、骨癒合するのを図る。
【0050】
<スペーサ>
次に、以上のような正中縦割式拡大椎弓形成術において使用されるスペーサ300の一例について、図9〜図11を参照して説明する。
【0051】
なお、以下の説明では、特に断らない限り、スペーサ300を患者の施術部位(切断部150)に挿入(装着)した状態を基本として方向を特定する。すなわち、患者の腹側(脊柱管140側)を「前」、背側を「後」と言い、患者の頭側を「上」、患者の脚側を「下」と言う。
【0052】
図9〜図11に示すように、スペーサ300は、前面(第1の面)310と、後面(第2の面)320と、側面330a、330bと、当接面340a、340bと、上面370と、下面380とで囲まれた立体で構成され、上面視(または下面視)でほぼT字状をなしている。
【0053】
図8に示すように、前面310は、スペーサ300を切断部150に挿入した状態で、拡大された椎弓160の内側(脊柱管140)に臨む面であり、後面320は、前面310に対向し、拡大された椎弓160の外側に臨む面である。
【0054】
前面310および後面320は、それぞれ、ほぼ長方形状をなしている。
前面310と後面320とは、ほぼ平行となるように対向しており、スペーサ300を切断部150に挿入した状態で、これらの面は、それぞれ、正中面200とほぼ直交する。
【0055】
前面310は、湾曲凹面で構成され、これにより、脊柱管140をより大きく(広く)拡大して、脊髄神経の圧迫を防止し得るようになっている。
【0056】
一方、後面320は、平坦面で構成され、図10に示すように、正中面200と直交する方向の長さ(幅L)が、前面310のそれ(幅L)より大きくなっている。
【0057】
また、側面330a、330bは、ほぼ同一寸法とされ、いずれも、ほぼ長方形状をなしている。
【0058】
また、当接面340a、340bは、それぞれ、湾曲凹面で構成され、スペーサ300を切断部150に挿入した状態で、椎弓120の切断端部120a、120bが当接する。これにより、切断端部120a、120bがスペーサ300に係合し、スペーサ300が椎弓120に対して位置ズレするのを防止することができる。
【0059】
なお、スペーサ300の角部は、丸みを帯びた形状をなしている(R付けがなされている)。これにより、スペーサ300を切断部150に挿入する際に、周辺組織を傷付けるのを防止することができる。
【0060】
また、図11に示すように、スペーサ300の上面370と下面380とは、それぞれ、平坦面で構成されており、互いにほぼ平行となっている。
【0061】
このようなスペーサ300において、前面310の幅L、後面320の幅L、前面310と後面320との最小離間距離(以下「厚さ」と言う。)L、上面370と下面380との離間距離(以下「高さ」と言う。)L等の各寸法は、それぞれ、症例に応じて適宜設定される。
【0062】
また、スペーサ300には、後面320から、それぞれ各当接面340a、340bに貫通する貫通孔390a、390bが形成され、スペーサ300の上面視(または下面視)でハの字状をなしている。
【0063】
貫通孔390a、390bには、それぞれ、固定部材としてのワイヤ400a、400bが挿通可能になっている。
【0064】
図8に示すように、切断部150にスペーサ300を挿入し、この状態で、貫通孔390a、390bにワイヤ400a、400bを挿通し、椎弓120の切断端部120a、120bにワイヤ400a、400bの先端部をねじ込む。これにより、スペーサ300を椎弓120に確実に固定して、術後、スペーサ300が椎弓120に対して位置ズレするのをより確実に防止することができる。
【0065】
なお、固定部材は、その他、例えばピン、スクリュー等で構成することもできる。
このようなスペーサ300は、セラミックス材料を主材料として構成されたものが好ましい。セラミックス材料は加工性に優れているため、旋盤、ドリル等を用いた切削加工によりその形状、大きさ等を調整することが容易である。
【0066】
セラミックス材料としては、各種のものが挙げられるが、特に、アルミナ、ジルコニア、リン酸カルシウム系化合物等のバイオセラミックスが好ましい。なかでもリン酸カルシウム系化合物は、優れた生体親和性を備えているため、スペーサ300の構成材料として特に好ましい。
【0067】
リン酸カルシウム系化合物としては、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト等のアパタイト類、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのリン酸カルシウム系化合物のなかでもCa/P比が1.0〜2.0のものが好ましく用いられる。
【0068】
このようなリン酸カルシウム系化合物のうち、ハイドロキシアパタイトがより好ましい。ハイドロキシアパタイトは、骨の無機質主成分と同様の構造であるため、優れた生体適合性を有している。
【0069】
また、スペーサ300の気孔率は、70%以下であることが好ましく、30〜50%がより好ましい。気孔率をこの範囲とすることにより、強度を維持しつつ、良好な生体親和性を発揮し、骨伝導による骨新生を促進することができる。
【0070】
なお、スペーサ300の構成材料としては、上記セラミックス材料の他、該セラミックス材料とチタン等の生体為害性の小さい金属材料との複合材料等を用いることも可能である。
【0071】
本発明のスペーサ用把持具は、以上のようなスペーサ300を把持して、切断部150に挿入する操作を行うのに使用される。
【0072】
<スペーサ用把持具>
以下、本発明のスペーサ用把持具について説明する。
【0073】
なお、以下の説明では、図1および図2中の左側を「先端」、右側を「基端」と言い、上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0074】
図1に示すスペーサ用把持具1は、スペーサ300を把持する把持部2と、把持部2の開閉操作を行う操作部3と、把持部2と操作部3とを連結する腕部4とを有している。
【0075】
把持部2は、一対の把持部材21、22を有しており、これらが相対的に接近および離間するようになっている。本実施形態では、第2の把持部材22が、第1の把持部材21に対して接近および離間することにより、把持部2が開閉する。
【0076】
スペーサ用把持具1によりスペーサ300を把持する際に、第1の把持部材(一方の把持部材)21は、スペーサ300の前面310に圧接させる部位であり、第2の把持部材(他方の把持部材)22は、スペーサ300の後面320に圧接させる部位である。
【0077】
第1の把持部材21は、板片状(直方体状)をなしている。一方、第2の把持部材22は、その幅Mが第1の把持部材21の幅Mより大きく、かつ、その長さNが第1の把持部材21の長さNより小さい棒状(バー状)をなしている。
【0078】
第2の把持部材22を、図1に示すように、第1の把持部材21との距離がスペーサ300の厚さTより大きくなるように離間させた状態(以下「離間状態」と言う)で、両把持部材21、22同士の間にスペーサ300を位置させる。
【0079】
そして、第2の把持部材22を第1の把持部材21に接近させ、第1の把持部材21を前面310に、第2の把持部材22を後面320にそれぞれ圧接させる。これにより、両把持部材21、22によりスペーサ300が厚さ方向に把持(挟持)された状態(以下「把持状態」と言う。)となる。
【0080】
このように、本発明のスペーサ用把持具1では、スペーサ300を厚さ方向に把持することにより、幅方向に把持する従来のスペーサ用把持具に比べて、スペーサ300を安定的に把持することができ、把持部材21、22同士の間からスペーサ300が脱落するのを確実に防止することができる。
【0081】
また、両把持部材21、22の寸法がスペーサ300の寸法に対して十分に小さいので、既に固定されている隣接するスペーサ300や、隣接する椎弓120と干渉するのを防止することができ、本発明のスペーサ用把持具1を用いることにより、スペーサ300を切断部150に容易かつ確実に挿入することができる。
【0082】
さらに、本発明のスペーサ用把持具1では、把持状態において、第1の把持部材21が前面310の幅方向(長辺方向)のほぼ中央に当接し、第2の把持部材22が後面320の長辺縁部に沿って当接し、各把持部材21、22がいずれも貫通孔390a、390bと干渉しないようになっている。
【0083】
また、従来のスペーサ用把持具でスペーサ300を把持したときのように、両把持部材21、22がスペーサ300から幅方向に飛び出して両側に存在しないので、切断端部120a、120bを確実に確認することができる。
【0084】
このようなことから、本発明のスペーサ用把持具1を用いることにより、ワイヤ400a、400bによるスペーサ300の椎弓120に対する固定を確実に行うこともできる。
【0085】
第1の把持部材21の幅Mは、特に限定されないが、スペーサ300の前面310の幅Lの0.1〜0.7倍程度であるのが好ましく、0.3〜0.5倍程度であるのがより好ましい。
【0086】
また、第1の把持部材21の最大長さNは、幅Mの大きさ等によっても若干異なり、特に限定されないが、スペーサ300の高さLの0.3〜0.9倍程度であるのが好ましく、0.5〜0.8倍程度であるのがより好ましい。
【0087】
第1の把持部材21の寸法を前記範囲とすることにより、スペーサ300をより確実に把持することができるとともに、スペーサ300を切断部150に挿入した際に、脊髄神経に接触して、これを圧迫するのを確実に防止することができる。
【0088】
一方、第2の把持部材22の幅Mは、特に限定されないが、スペーサ300の後面320の幅Lの0.7〜1倍程度であるのが好ましく、0.85〜0.95倍程度であるのがより好ましい。
【0089】
また、第1の把持部材22の長さNは、幅Mの大きさ等によっても若干異なり、特に限定されないが、スペーサ300の高さLの0.1〜0.5倍程度であるのが好ましく、0.1〜0.3倍程度であるのがより好ましい。
【0090】
第1の把持部材22の寸法を前記範囲とすることにより、第1の把持部材21の寸法を比較的小さく設定した場合においても、スペーサ300をより確実に把持することができる。
【0091】
また、各把持部材21、22の角部は、丸みを帯びた形状をなしている(R付けされている)。これにより、スペーサ300を切断部150に挿入する際に、不本意に周辺組織を傷付けるのを防止することができる。
【0092】
このような第1の把持部材21および第2の把持部材22には、それぞれ、スペーサ300を把持した際に、スペーサ300が滑り落ちるのを防止するための滑り止め手段を設けるのが好ましい。これにより、第1の把持部材21と第2の把持部材22との間からスペーサ300が脱落するのをより確実に防止することができる。
【0093】
この滑り止め手段としては、例えば、第1の把持部材21および第2の把持部材のそれぞれの少なくとも対向面に樹脂層を設ける構成、対向面に粗面加工を施す構成等が挙げられる。
【0094】
なお、樹脂層を設ける場合、その構成材料としては、例えば、ポリアミド等が挙げられる。
【0095】
以上のような第1の把持部材21および第2の把持部材22の基端部には、それぞれ第1の腕部材41および第2の腕部材42が連結されている。これらの腕部材41、42により腕部4が構成されている。
【0096】
第1の腕部材41と第2の腕部材42とは、ほぼ平行となるように設けられ、第2の腕部材42が第1の腕部材41に沿って先端方向および基端方向に移動操作される。これにより、第2の把持部材22が第1の把持部材21に対して接近および離間する。
【0097】
また、第1の腕部材41の先端部(第1の把持部材21との境界部)には、突起411が上方に向かって突出して形成されている。この突起411に第2の腕部材42の先端が当接することにより、第2の腕部材42の先端方向への移動が規制される。
【0098】
この状態で、第1の把持部材21と第2の把持部材22とは、接触しないように構成されている。これにより、第1の把持部材21と第2の把持部材22とが衝突して、両把持部材21、22が損傷するのを防止することができる。
【0099】
また、この状態における第1の把持部材21と第2の把持部材22との最小離間距離は、スペーサ300の厚さTより小さく設定されている。これにより、把持部2によりスペーサ300をより確実に把持することができる。
【0100】
腕部4の基端側には、把持部2の開閉操作を行う操作部3が設けられている。
【0101】
操作部3は、第1の腕部材41と一体的に形成された第1の操作部材31と、第1の操作部材31に対して回動可能に設けられた第2の操作部材32とで構成されている。
【0102】
第2の操作部材32は、その上端部において、第1の操作部材31に対してピン33により支持され、これにより、第1の操作部材31に対して接近および離間可能となっている。
【0103】
また、第2の操作部材32は、略くの字状に屈曲した連結部材34を介して第2の腕部材42に連結されている。
【0104】
この連結部材34は、その屈曲部位にピン33が挿通され、下端部は、第2の操作部材32に固定されている。一方、連結部材34の上端部は、ピン35により第2の腕部材42に回動可能に連結されている。
【0105】
これにより、第2の操作部材32を第1の操作部材31に接近させる方向(図1中反時計周り)に回動させると、第2の操作部材32に固定された連結部材34がピン33を中心として反時計回りに回動する。
【0106】
そして、連結部材34がピン33を中心に反時計回りに回動すると、ピン35が先端方向に押圧されることにより、第2の腕部材42が先端方向に移動し、第2の把持部材22が第1の把持部材21に接近する。すなわち、把持部2が閉じる。
【0107】
一方、第2の操作部材32を第1の操作部材31から離間する方向(図1中時計周り)に回動させると、前記とは逆に、第2の把持部材22が第1の把持部材21から離間する。すなわち、把持部2が開く。
【0108】
これらの操作部材31、33の下端部には、それぞれ、術者が指を入れて、スペーサ用把持具1の操作を行う環状の指挿入部311、321が設けられている。
【0109】
また、操作部3には、第2の操作部材32の第1の操作部材31に対する固定を行う(回動を規制する)ロック機構38が設けられている。
【0110】
このロック機構38は、上面に鋸歯状の凹凸が形成された係合部材381と、この係合部材381の凹凸に係合する係合片382とで構成されている。
【0111】
係合部材381は、その一端部が第1の操作部材31に、ピン383により回動可能に支持されており、他端部は、第2の操作部材32と交差するように配置されている。
【0112】
そして、第2の操作部材32の係合部材381と交差する部分には、弾性変形可能な係合片382が設けられており、その下端が係合部材381の凹部に係合している。
【0113】
また、第1の操作部材31の係合部材381を支持する部分よりも上側の位置には、突起312が第2の操作部材32側に突出して形成されている。突起312と係合部材381とは、コイルバネ(付勢部材)39により連結され、このコイルバネ39により係合部材381は上方向に引っ張られ(付勢され)ている。
【0114】
このようなロック機構38では、係合片382が係合部材381の鋸歯状の凸部を乗り越えて進むことができるため、第2の操作部材32を第1の操作部材31に接近させる方向への操作は許容されるが、第2の操作部材32を第1の操作部材31から離間させる方向には、係合片382が係合部材381の凹部に係合して、その操作が許容されない。
【0115】
なお、係合部材381の先端を図1中下方へ押圧して、係合片382と係合部材381の凹凸との係合を解除することにより、ロック機構38の固定を解除することができる。
【0116】
このようなスペーサ用把持具1を用いて、スペーサ300を切断部150に挿入する際には、まず、椎骨100に対して前記[1]〜[3]の手技を施しておく。
【0117】
次に、スペーサ用把持具1を用意し、前述したようにしてロック機構38の固定を解除する。
【0118】
次に、指挿入部311、321に指を挿入し、第2の操作部材32を第1の操作部材31から離間する方向に回動させる。これにより、第2の腕部材42および第2の把持部材22が基端方向に移動し、第1の把持部材21と第2の把持部材22とが離間状態となる。
【0119】
次に、この状態で、第1の把持部材21と第2の把持部材22との間にスペーサ300を位置させる。
【0120】
次に、操作部3を握って、第2の操作部材32を第1の操作部材31に接近する方向に回動させる。これにより、第2の腕部材42および第2の把持部材22が先端方向に移動する。
【0121】
そして、図2および図4に示すように、第1の把持部材21および第2の把持部材22を、それぞれスペーサ300の前面310および後面320に圧接させ、スペーサ300を両把持部材21、22により把持(挟持)することができる。
【0122】
なお、このとき、ロック機構38により、第2の操作部材32が第1の操作部材31に対して固定され、第1の把持部材21と第2の把持部材22との離間距離が保持される。これにより、スペーサ用把持具1のスペーサ300の把持状態が確実に維持される。
【0123】
次に、スペーサ用把持具1を操作し、スペーサ300を、その前面310が脊柱管140側となるように切断部150に挿入する。これにより、患者の椎弓120とスペーサ300とにより、拡大された椎弓160が形成される。
【0124】
このとき、スペーサ用把持具1は、スペーサ300を、厚さ方向に把持しているので、幅方向に把持する場合に比べて、スペーサ300を安定に把持することができ、両把持部材21、22の間からスペーサ300が脱落するのが防止される。
【0125】
また、両把持部材21、22の寸法がスペーサ300の寸法に対して十分に小さいので、既に固定されている隣接するスペーサ300や、隣接する椎弓120と干渉するのを防止することができ、スペーサ300を切断部150に容易かつ確実に挿入することができる。
【0126】
次に、スペーサ300と切断端部120a、120bとを、ワイヤ400a、400bにより固定する。
【0127】
このスペーサ300の椎弓120に対する固定操作に際して、スペーサ用把持具1は、スペーサ300の把持状態において、第1の把持部材21および第2の把持部材22が、貫通孔390a、390bと干渉しないようになっており、また、両把持部材21、22がスペーサ300から幅方向に飛び出して両側に存在しないので、切断端部120a、120bを確実に確認することができるので、ワイヤ400a、400bによるスペーサ300の椎弓120に対する固定を確実に行うことができる。
【0128】
最後に、前記[1]において切離された棘突起130を中央(正中)に戻し、スペーサ300に糸等により固定し、骨癒合するのを図る。
【0129】
次に、本発明のスペーサ用把持具の先端部の他の構成例について説明する。
【0130】
図12および図13は、それぞれ、本発明のスペーサ用把持具の先端部の他の構成例を示す図である。
【0131】
なお、以下の説明では、図12および図13中の上側を「先端」、下側を「基端」と言う。
【0132】
図12に示す第2の把持部材22は、その左右両端部に先端方向に向かって突出する部分を有しており、平面視において、略コ字状をなしている。これにより、把持状態において、第2の把持部材22が後面320の長辺縁部および短辺縁部の一部に当接する。また、この状態で、第2の把持部材22は、貫通孔390a、390bと干渉しないようになっている。
【0133】
このように、第2の把持部材22が後面320の長辺縁部および短辺縁部の一部に当接する構成とすることにより、スペーサ用把持具1では、スペーサ300をより確実に把持することができ、スペーサ300を切断部150により容易かつ確実に挿入することができる。
【0134】
また、第2の把持部材22を、平面視において、略コ字状とすることにより、第2の把持部材22の大型化を防止しつつ、前記効果をより向上させることができる。
【0135】
なお、第2の把持部材22の形状は、平面視において、例えば、U字状(円弧状)等とすることもできる。
【0136】
以上、本発明のスペーサ用把持具を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
【0137】
また、スペーサの構成は、図示のものに限定されず、例えば、貫通孔が形成されていないものであってもよく、2つの貫通孔を一組として、例えばスペーサの高さ方向に複数組が形成されたものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明のスペーサ用把持具の実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に示すスペーサ用把持具でスペーサを把持した状態を示す側面図である。
【図3】図1中の矢印A方向から視た図である。
【図4】図2中の矢印A方向から視た図である。
【図5】正中縦割式拡大椎弓形成術を順を追って説明するための図である。
【図6】正中縦割式拡大椎弓形成術を順を追って説明するための図である。
【図7】正中縦割式拡大椎弓形成術を順を追って説明するための図である。
【図8】正中縦割式拡大椎弓形成術を順を追って説明するための図である。
【図9】スペーサを示す斜視図である。
【図10】図9に示すスペーサの上面図である。
【図11】図9に示すスペーサの側面図である。
【図12】本発明のスペーサ用把持具の先端部の他の構成例を示す図である。
【図13】本発明のスペーサ用把持具の先端部の他の構成例を示す図である。
【図14】従来のスペーサ用把持具の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0139】
1 スペーサ用把持具
2 把持部
21 第1の把持部材
22 第2の把持部材
3 操作部
31 第1の操作部材
311 指挿入部
312 突起
32 第2の操作部材
321 指挿入部
322 凸部
33 ピン
34 連結部材
35 ピン
38 ロック機構
381 係合部材
382 係合片
383 ピン
39 コイルバネ
4 腕部
41 第1の腕部材
411 突起
42 第2の腕部材
421 凸部
100 椎骨
110 椎体
120 椎弓
120a、120b 切断端部
121a、121b 溝
122a、122b ヒンジ部
130 棘突起
131 切断線
140 脊柱管
150 切断部
160 拡大された椎弓
200 正中面
300 スペーサ
310 前面
320 後面
330a、330b 側面
340a、340b 当接面
370 上面
380 下面
390a、390b 貫通孔
400a、400b ワイヤ
500 把持具
510 スペーサ
520 把持部
530 操作部
540、550 把持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎弓または棘突起の切断により形成された切断部に挿入して、脊柱管を拡大するのに使用されるスペーサを把持して、前記切断部に挿入する操作を行うのに用いられるスペーサ用把持具であって、
前記スペーサは、前記切断部に挿入した状態で、脊柱管側に位置する第1の面と、該第1の面と対向する第2の面とを備え、
当該スペーサ用把持具は、相対的に接近および離間する一対の把持部材を有し、一方の前記把持部材を前記第1の面に圧接させ、他方の前記把持部材を前記第2の面に圧接させることにより、前記スペーサを把持するように構成されていることを特徴とするスペーサ用把持具。
【請求項2】
前記第1の把持部材の形状と前記第2の把持部材の形状とが異なっている請求項1に記載のスペーサ用把持具。
【請求項3】
前記第2の把持部材の幅は、前記第1の把持部材の幅より大きい請求項2に記載のスペーサ用把持具。
【請求項4】
前記第2の把持部材の最大長さは、前記第1の把持部材の長さより小さい請求項2または3に記載のスペーサ用把持具。
【請求項5】
前記スペーサには、該スペーサを椎弓または棘突起に固定するのに使用される固定部材を挿通するための貫通孔が形成され、
前記スペーサを把持した状態で、前記第1の把持部材および前記第2の把持部材は、それぞれ、前記貫通孔との干渉を避けるような形状をなしている請求項1ないし4のいずれかに記載のスペーサ用把持具。
【請求項6】
前記スペーサの前記第1の面は、ほぼ長方形状をなし、
前記第1の把持部材は、前記スペーサを把持した状態で、前記第1の面の長辺方向のほぼ中央に当接する請求項5に記載のスペーサ用把持具。
【請求項7】
前記スペーサの前記第2の面は、ほぼ長方形状をなし、
前記第2の把持部材は、前記スペーサを把持した状態で、前記第2の面の長辺縁部に沿って当接する部分を有する請求項5または6に記載のスペーサ用把持具。
【請求項8】
前記第2の把持部材は、前記スペーサを把持した状態で、前記第2の面の短辺縁部の一部に当接する部分を有する請求項7に記載のスペーサ用把持具。
【請求項9】
前記第2の把持部材は、平面視において、略コ字状をなしている請求項8に記載のスペーサ用把持具。
【請求項10】
前記第1の把持部材および前記第2の把持部材は、いずれも、その角部が丸みを帯びた形状をなしている請求項1ないし9のいずれかに記載のスペーサ用把持具。
【請求項11】
前記第1の把持部材および前記第2の把持部材の少なくとも一方には、前記スペーサを把持した際に、該スペーサが滑り落ちるのを防止するための滑り止め手段が設けられている請求項1ないし10のいずれかに記載のスペーサ用把持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−166937(P2006−166937A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359027(P2004−359027)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【出願人】(504456259)
【Fターム(参考)】