説明

スポット溶接の検査装置

【課題】スポット溶接等によって接合された金属構造体の接合部の品質を非破壊で検査する検査装置を提供する。
【解決手段】金属材料どうしを重ね合わせてスポット溶接して形成した溶接部を挟んで第1と第2のプローブを対向させて配置し、溶接部の溶接状態を検査するスポット溶接の検査装置において、第1プローブは、棒状とした第1芯材と、この第1芯材に巻き回した第1印加コイル及び第1検出コイルを具備し、第2プローブは、棒状とした第2芯材と、この第2芯材に巻き回した第2印加コイル及び第2検出コイルを具備し、第2印加コイルで生じさせた磁場を第1検出コイルで検出する第1モードと、第1印加コイルで生じさせた磁場を第2検出コイルで検出する第2モードと、第1印加コイルで生じさせた磁場を第1検出コイルで検出する第3モードと、第2印加コイルで生じさせた磁場を第2検出コイルで検出する第4モードとを実行することとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接によって形成した接合部を非破壊で検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属構造体を製造するに当たり金属材料どうしをスポット溶接することが広く使われている。スポット溶接は重ね合わせた金属材料を対向した電極で挟み、電極間に電流を流すことにより接合する方法である。この方法は自動車や家電製品、電気機器等の筐体などを接合する方法として広く使われている。
【0003】
スポット溶接した部分の信頼性は、その接合強度が指標となる。つまり接合強度が高いほど信頼性が高いといえる。スポット溶接は、電極によって挟まれた箇所の金属材料の電気抵抗を利用して通電時に熱を発生させ、金属材料どうしを溶融させた後に通電をやめ、急速に冷却されて接合される。この溶融された部分をナゲットと呼び、ナゲット径つまり接合面が大きいほど接合強度が高いといえる。
【0004】
このため従来は、スポット溶接部の品質検査としてナゲット径を検査することが行われていた。ナゲットはスポット溶接した内部であるため表面からは目で観察することはできないものである。このため内部の構造を観察する方法として色々な方法がとられている。
【0005】
例えば、スポット溶接部に磁場を印加してその磁気的応答特性を測定する方法が知られている。具体的には、静磁場を印加したのちに遮断して、スポット溶接部表面上の多数の点での磁場時間変化を測定して、その変化量の位置変化からナゲット径を推定する方法である。(特許文献1)。
【0006】
また、別の方法として、コの字型のヨーク材の両端に印加コイルを形成し、磁束をスポット溶接したそれぞれの金属材料にまたがるように印加する方法がある(非特許文献1)。すなわち、溶接した金属材料間に磁束を流し、スポット溶接部上部から漏れる磁束を検出する方法である。この方法では、ナゲット径を磁場分布から推定できるが、磁場強度と接合強度との相関性も高いことから、ナゲット径を推定しなくても直接接合強度を推定することができる。
【0007】
また、別の方法として、スポット溶接時に磁気的検査を行う方法もある。すなわち、スポット溶接に使う対向した電極に高周波磁場印加コイルと検出コイルを取り付け、スポット溶接部を透過する磁場を検出し、電極間に通電が終了してからその検出磁場強度の時間変化を計測するものである(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3098193号公報
【特許文献2】特開2006−29882号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「A magnetic flux leakage methodusing a magnetoresistive sensor for nondestructive evaluation of spot welds」K.Tsukada,M.Yoshioka,T.Kiwa, Y.Hirano,NDT&E International, Vol.44(2011)pp.101-105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の磁気計測方法のうち、スポット溶接部の片側から磁場を印加して遮断した後の検出コイルの信号の減衰を測定する方法では、基本的に磁場を印加して発生した渦電流が磁場遮断後に減衰していく状態を測定している。
【0011】
この方法では、渦電流が表層部近くで発生しているため、深部の状態までを解析することはできなかった。表層部近くの情報でナゲット径を観察することはできるが、ナゲット径の変化は一般に1mm以下の分解能を必要とするため、ナゲットが形成されない不良の場合は検査が容易であるが、ナゲットが形成されているものでどのくらい接合強度が得られているかを測定するには精度が悪いものである。
【0012】
一方、溶接された2つの金属材料にまたがって磁束を導入してスポット溶接部から漏れてくる磁束を測定する方法では、磁場強度と接合強度との間で非常によい相関が得られているものの、印加磁場プローブが段差のある2つの鋼板両方に接触あるいは近づく必要がある。このため測定対象の形状により、印加磁場プローブが当てられない場合があるため、適用できる測定対象に制限があった。
【0013】
また、スポット溶接の対向する電極の片方ずつに印加コイルと検出コイルを設け、10kHz以上の高周波を印加して渦電流を発生させ、ナゲットの形成による、おもに透磁率の変化による渦電流発生の変化をみる方法でも、先に述べた表層部近くでの渦電流の変化を見ているため、深部の状態までを解析することはできなかった。
【0014】
そこで、本発明は、磁気的な検査方法において、スポット溶接による溶接部の表層から深部に至る構造の解析をして、溶接部の信頼性を診断可能とする検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、金属材料どうしを重ね合わせてスポット溶接して形成した溶接部を挟んで第1と第2のプローブを対向させて配置し、溶接部の溶接状態を検査するスポット溶接の検査装置において、第1プローブは、棒状とした第1芯材と、この第1芯材に巻き回した第1印加コイル及び第1検出コイルを具備し、第2プローブは、棒状とした第2芯材と、この第2芯材に巻き回した第2印加コイル及び第2検出コイルを具備しているものである。
【0016】
特に本発明では、第2印加コイルで生じさせた磁場を第1検出コイルで検出する第1モードと、第1印加コイルで生じさせた磁場を第2検出コイルで検出する第2モードと、第1印加コイルで生じさせた磁場を第1検出コイルで検出する第3モードと、第2印加コイルで生じさせた磁場を第2検出コイルで検出する第4モードとを実行することにより検査することとしている。
【0017】
また、本発明のスポット溶接の検査装置では、第1モード及び/または第2モードで検出された磁場強度が所定の閾値よりも大きい場合に、第3モード及び第4モードを実行することなく終了することにも特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、それぞれ印加コイルと検出コイルを備えた第1と第2のプローブを用いて、第1〜4モードでの磁場の検出により溶接部の溶接状態を検査することにより、溶接部の内部に形成されているナゲット部の内部情報を効率よく、かつ精度よく検出して、溶接部の溶接状態を適正に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】検査装置全体の構成を示す概略図である。
【図2】第1モードでの計測結果のグラフである。
【図3】第2モードでの計測結果のグラフである。
【図4】図2から得られた溶接部の中心近傍における磁場強度と、引っ張り強度試験による接合強度との相関を示したグラフである。
【図5】第3モードでの計測結果のグラフである。
【図6】第4モードでの計測結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のスポット溶接の検査装置は、金属材料どうしを重ね合わせてスポット溶接して形成した溶接部を挟んで第1と第2のプローブを対向させて配置し、これらのプローブを用いて溶接部の溶接状態を検査することとしている。
【0021】
特に、第1プローブは、棒状とした第1芯材と、この第1芯材に巻き回した第1印加コイル及び第1検出コイルを具備し、第2プローブは、棒状とした第2芯材と、この第2芯材に巻き回した第2印加コイル及び第2検出コイルを具備している。
【0022】
第1芯材及び第2芯材には、高透磁率の材料を用いることが望ましく、具体的には、比透磁率が100以上のフェライト等が望ましい。
【0023】
このように、高透磁率材からなる第1芯材及び第2芯材を用いることで、溶接部の表から磁場を裏に印加して裏から計測する動作と、裏から磁場を表に印加して表から計測する動作を行うことができ、溶接部の深部の状態を解析することができる。
【0024】
第1芯材には第1印加コイルと第1検出コイルを巻き回すとともに、第2芯材には第2印加コイルと第2検出コイルを巻き回しており、プローブの配置交換を行うことなく計測でき、また、片側だけの計測に比べてより精度の高い計測を可能とすることができる。
【0025】
一方、例えば、第1プローブの第1印加コイルによって磁場を検査対象に印加して、第1検出コイルによって計測することにより、検査対象を貫通する磁場ではなく、検査対象の表面層に発生した渦電流の情報を検出することができる。この結果、検査対象の表面からの深さ方向の情報を得ることができる。
【0026】
このとき、第1検出コイルの信号は、第1印加コイルと同じ周波数で検波するロックイン検波手段で検出している。磁気計測においては、商業電源からの磁気ノイズなど環境の磁気雑音があるため誤差が生じやすいが、このロックイン検波手段を用いることによって、第1印加コイルに同期した検出信号だけが取り出せるので、雑音を除去してより微弱な信号だけを取り出すことができる。第2プローブでも同様である。
【0027】
第1印加コイル及び第2印加コイルから印加する磁場はパルス状としており、様々な周波数を含んだ磁場として検査対象に印加することができる。ここで、第1検出コイル及び第2検出コイルによって検出した信号をフーリエ変換すると、各周波数の印加磁場に対する信号として分解することができる。
【0028】
印加磁場の周波数の違いは、磁場を印加して発生した渦電流の深さの違いとして表わすことができる。この渦電流が発生できる深さは次式の表皮深さδとして表される。
δ=(1/πμfσ)1/2
ここで、μは透磁率であり、σは導電率、fは周波数である。
従って、印加磁場の周波数から、磁場が印加された検査対象の表面からの深さ方向に関する情報を取り出すことができる。
【0029】
ロックイン検波手段によってロックイン検波した信号では、印加磁場の周波数を走査することにより各周波数に対する結果を得ることができ、また、パルス状の磁場を印加して検出した信号では、フーリエ変換することによって各周波数に対する結果を得ることができる。
【0030】
第1検出コイル及び第2検出コイルの検出感度は、周波数によって異なるので、各周波数に対する感度補正をする必要がある。また、第1検出コイル及び第2検出コイルの検出感度は、印加した磁場強度も周波数によって異なることが一般であり、特にパルス状の磁場では含まれている各周波数の強度は異なっている。
【0031】
このため、検査対象がない時に計測した各周波数における検出信号強度によって、検査対象を計測した時の各周波数における検出信号強度を規格化している。この規格化により、周波数の違いによる印加磁場強度の違いに影響されない信号を得ることができる。また各位相情報も検査対象がない場合に取った時の位相を基に,検査対象を計測した時の位相変化量を計測するので、正確な各周波数に対する検査対象の位相情報を得ることができる。
【0032】
以下、本発明の実施形態を、添付する図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0033】
図1は、本発明の一実施形態である検査装置の概略図である。
【0034】
検査装置は、第1プローブ1-1と第2プローブ1-2を具備しており、第1プローブ1-1と第2プローブ1-2は、金属材料5どうしを重ね合わせてスポット溶接して形成した溶接部を挟んで配置することとしている。本実施形態では、金属材料5として、厚みが1.2mmの鋼板を用いている。
【0035】
図示していないが、第1プローブ1-1と第2プローブ1-2は、それぞれ支持部材に装着しており、溶接部を挟んで互いに正対させて第1プローブ1-1と第2プローブ1-2を配置している。本実施形態では、支持部材は側面視C字状の部材としており、スポット溶接されている金属材料5と接触しない形状としている。
【0036】
第1プローブ1-1は、棒状とした第1芯材2-1と、この第1芯材2-1に巻き回した第1印加コイル3-1と第1検出コイル4-1を具備している。同様に、第2プローブ1-2は、棒状とした第2芯材2-2と、この第2芯材2-2に巻き回した第2印加コイル3-2と第2検出コイル4-2を具備している。
【0037】
第1芯材2-1及び第2芯材2-1は、それぞれ比透磁率800のフェライト棒であって、本実施形態では、φ3mmの丸棒状としている。第1印加コイル3-1及び第2印加コイル3-2は、それぞれ銅線を第1芯材2-1及び第2芯材2-2に巻き回して形成しており、本実施形態では巻き数を30回としている。第1検出コイル4-1及び第2検出コイル4-2も、それぞれ銅線を第1芯材2-1及び第2芯材2-2に巻き回して形成しており、本実施形態では巻き数を15回としている。各芯材、各コイルの設計条件は、スポット溶接される金属材料5の材質やスポット溶接で形成される溶接部の大きさに合わせて適宜調整してよい。
【0038】
検査装置は、第1プローブ1-1と第2プローブ1-2の他に、第1印加コイル3-1と第2印加コイル3-2にそれぞれ所定の交流電流を印加する交流電源6と、第1検出コイル4-1から出力された信号を増幅して出力する第1アンプ7-1と、第2検出コイル4-2から出力された信号を増幅して出力する第2アンプ7-2とを備えている。
【0039】
さらに、検査装置は、検査装置で行われる検査の実行を制御するとともに第1プローブ1-1及び第2プローブ1-2を用いた検出結果の解析を行う制御部10を備えている。
【0040】
制御部10では、交流電源6から出力された交流電流を第1印加コイル3-1と第2印加コイル3-2のいずれに入力するかを切り替える入力切替器11を制御することとしている。
【0041】
なお、交流電源6は、発振器8から入力された所定周波数の信号に基づいて所定周波数とした交流電流を出力することとしており、発振器8は制御部10の制御に基づいて所定周波数の信号を生成して交流電源6に入力することとしている。
【0042】
また、制御部10では、第1アンプ7-1を介して第1検出コイル4-1から出力された信号と、第2アンプ7-2を介して第2検出コイル4-2から出力された信号のいずれの信号を制御部10に入力させるかを切り替える出力切替器12を制御することとしている。
【0043】
出力切替器12から出力される信号は、制御部10だけでなくロックイン検波手段であるロックイン検波器9にも入力している。そして、ロックイン検波器9では、発振器8から出力された所定周波数の信号を入力して、この信号の周波数と同じ周波数成分を抽出して、制御部10に入力させることとしている。
【0044】
また、入力切替器11には、交流電源6から出力された交流電流だけでなく、制御部10の制御に基づいて所定のパルス状とした電流信号を出力するパルス信号発生電源13から出力された電流信号も入力可能としてもよい。すなわち、第1印加コイル3-1及び第2印加コイル3-2には、交流電源6とパルス信号発生電源13のいずれか一方から入力された電流信号を入力可能としてもよい。
【0045】
図示していないが、検査装置には、検査対象であるスポット溶接された金属材料5を固定支持するとともに平面方向に水平移動させるステージを設けており、このステージを制御部10の制御に基づいて移動させながら溶接部を検査することとしている。なお、検査装置は、ステージではなく、第1プローブ1-1と第2プローブ1-2を支持した支持部材を移動させる構造としてもよい。
【0046】
このように構成した検査装置において、制御部10は、溶接部の検査を行うに当たり、次の4つのモードを実行することにより検査することとしている。第1モードでは、制御部10は、交流電流を第2印加コイル3-2に通電して生じさせた磁場を第1検出コイル4-1で検出している。第2モードでは、制御部10は、交流電流を第1印加コイル3-1に通電して生じさせた磁場を第2検出コイル4-2で検出している。第3モードでは、制御部10は、交流電流を第1印加コイル3-1に通電して生じさせた磁場を第1検出コイル4-1で検出している。第4モードでは、制御部10は、交流電流を第2印加コイル3-2に通電して生じさせた磁場を第2検出コイル4-2で検出している。
【0047】
なお、第1モードと第4モードは、第2印加コイル3-2で磁場を生成しているため、場合によっては第1検出コイル4-1と第2検出コイル4-2で同時に検出を行ってもよく、第2モードと第3モードは、第1印加コイル3-1で磁場を生成しているため、場合によっては第1検出コイル4-1と第2検出コイル4-2で同時に検出を行ってもよい。あるいは、第3モードと第4モードは、それぞれ片面側だけの検査であるので、同時に行ってもよい。
【0048】
第1モード及び第2モードでは、制御部10には、第1検出コイル4-1及び第2検出コイル4-2から出力された信号のうち、ロックイン検波器9において発振器8から入力された周波数の基準信号と同期した成分の信号だけを入力し、この信号から得られる磁場強度情報及び位相情報などの解析を行っている。
【0049】
以下において、スポット溶接によって形成された溶接部に対して測定を行った結果を説明する。ここで、検査対象には、厚み1.2mmの鋼板からなる金属材料5に対してスポット溶接を行ったものを用いている。
【0050】
スポット溶接を行う際に、スポット溶接の電極径はφ6.5mmとし、電極に交流電流を印加してスポット溶接を行っているが、溶接部の接合強度の異なるサンプルを作成するために、交流電流のサイクル数を5サイクル、7.5サイクル、12.5サイクル、15サイクル、17.5サイクルとした交流電流を電極に印加して溶接部をそれぞれ作成した。
【0051】
溶接部の測定を行う際には、第1プローブ1-1と第2プローブ1-2に対して金属材料5を移動させることにより測定位置を変えながら複数の位置で測定を順次行っており、特に、測定位置は、溶接部の中心を通過する直線上に設けた。
【0052】
図2は、第1モード、すなわち、交流電源6から出力された交流電流を第2印加コイル3-2に通電して生じさせた磁場を第1検出コイル4-1で検出した結果である。交流電流の周波数は20Hzとしている。溶接部の中心近傍である4mmの位置において最も磁場強度が小さくなり、かつ、スポット溶接のサイクル数が大きくなるほど磁場強度が小さくなっていることがわかる。ここで、本第1モードでは、周波数を100Hz以下の極低周波で測定することにより渦電流の影響を受けずに計測することができる。
【0053】
図3は、第2モード、すなわち、交流電源6から出力された交流電流を第1印加コイル3-1に通電して生じさせた磁場を第2検出コイル4-2で検出した結果である。交流電流の周波数は20Hzとしている。第2モードでも第1モードと同様に、溶接部の中心近傍である4mmの位置において最も磁場強度が小さくなり、かつ、スポット溶接のサイクル数が大きくなるほど磁場強度が小さくなっていることがわかる。
【0054】
図4は、磁場強度と引っ張り強度の相関を示すグラフであり、図2の4mm地点での磁場強度の値を代表値として、プロットしたものである。引っ張り強度は、スポット溶接されている金属材料5を引っ張り試験機で引っ張って破断するまでの最大値としている。
【0055】
図4において、相関係数は-0.94である。同様に図3を用いて引っ張り強度の評価を行っても相関係数は-0.94と一致しており、第1モードと第2モードにおいて差異はなく、どちらも溶接部の内部情報が正確に検出していることが分かる。また、この結果から、引っ張り強度が強いスポット溶接ほど磁場強度(透磁率)が低くなることが確認でき、両者の間には非常に高い相関が得られることが分かった。
【0056】
したがって、検査装置では、第1モード及び/または第2モードで溶接部の検査を行って、磁場強度が予め設定した所定の閾値よりも大きい場合には、「溶接不良」と直ちに判定して、第3モード及び第4モードを実行することなく検査を終了してもよい。このように、接合不良が生じていると思われる接合部での第3モード及び第4モードの検査を実行しないことにより、不必要な検査の実行を抑制して、検査効率の向上を図ることができる。
【0057】
図5は、第3モード、すなわち、交流電源6から出力された交流電流を第1印加コイル3-1に通電して生じさせた磁場を第1検出コイル4-1で検出した結果である。交流電流の周波数は、第1モード及び第2モードの場合よりも大きく、1kHzとして、溶接部の表面層を検査可能としている。上述したように、印加磁場の周波数の違いは、磁場を印加して発生した渦電流の深さの違いとして現れるため、第3モードでは、交流電源6から出力する交流電流の周波数を適宜変更しながら測定することが望ましい。
【0058】
図6は、第4モード、すなわち、交流電源6から出力された交流電流を第2印加コイル3-2に通電して生じさせた磁場を第2検出コイル4-2で検出した結果である。交流電流の周波数は1kHzとして、溶接部の表面層を検査可能としており、第3モードの場合と同様に、交流電源6から出力する交流電流の周波数を適宜変更しながら測定することが望ましい。
【0059】
図5と図6の比較から明らかなように、第3モードでは、スポット溶接時のサイクル数と磁場強度との間に相関性が見られるのに対して、第4モードでは、スポット溶接時のサイクル数と磁場強度との間に相関性が見られず、溶接部の表と裏とで内部の構造が異なっていることがわかる。
【0060】
これは、スポット溶接する場合に、一般に、電流を流す電極の一方は、先端部を先細あるいは丸みをもった形状とし、他方の電極は先端部を平らな形状としているため、スポット溶接の際に溶接部に流れる電流の分布が、溶接部の表と裏とで異なり、その結果、溶接部に形成されるナゲットの形状、及び表面からの深さ分布が異なっているためだと考えられる。特に、丸みをもった先端部を有する電極を当接させて溶接部を形成した場合には、インデテーション部と呼ばれるくぼみが生じやすく、また電流もここに集中するので、より浅い位置でナゲットが形成されることとなっている。
【0061】
第3モードと第4モードでは、それぞれ印加コイル側の検出コイルで検出を行っているため、第1印加コイル3-1と第2印加コイル3-2を同時に駆動して、第1検出コイル4-1と第2検出コイル4-2で測定することにより溶接部の表層部の構造を調べることもできる。すなわち、第3モードと第4モードを同時に行うこともできる。
【0062】
上述した第3モード及び第4モードでは、溶接部の深さ分布を検出するために、交流電源6から出力する交流電流の周波数を様々に異ならせる必要があり、制御部10の制御に基づいて発振器8から所定周波数とした信号を交流電源6に順次入力して測定を行うこととしているが、パルス信号発生電源13を用いることにより、より簡便に測定を行うことができる。
【0063】
すなわち、パルス信号発生電源13から出力されるパルス状の交流電流を第1印加コイル3-1や第2印加コイル3-2に入力するとともに、第1検出コイル4-1や第2検出コイル4-2から出力された信号をフーリエ変換によって各周波数に分解することにより、一度で複数種類の周波数の測定を行うことができる。したがって計測時間を短縮させることができる。
【0064】
なお、第3モード及び第4モードにおいても、周波数によって印加磁場強度が異なるとともに各検出コイルの感度も異なり、特にパルス波形とした交流電流を用いた場合には、各周波数の磁場強度が大きく異なっている。このため、あらかじめ検査対象の金属材料5がない時のバックグランド計測を行い、各周波数における各検出コイルの信号強度と位相を解析しておくことが望ましい。
【0065】
そして、検査対象の金属材料5の測定を行い、第1検出コイル4-1及び第2検出コイル4-2の信号強度の規格化を行うとともに、位相の変化量を算出することにより、スポット溶接部の表面からの内部構造を解析することができる。
【0066】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例や設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、自動車や,家電製品、電気機器などの筐体である金属構造体の製造に当たり広く使われているスポット溶接部などの接合部の接合強度を非破壊で推定するのに適用できる。
【符号の説明】
【0068】
1-1 第1プローブ
1-2 第2プローブ
2-1 第1芯材
2-2 第2芯材
3-1 第1印加コイル
3-2 第2印加コイル
4-1 第1検出コイル
4-2 第2検出コイル
5 金属材料
6 交流電源
7-1 第1アンプ
7-2 第2アンプ
8 発振器
9 ロックイン検波器
10 制御部
11 入力切替器
12 出力切替器
13 パルス信号発生電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料どうしを重ね合わせてスポット溶接して形成した溶接部を挟んで第1と第2のプローブを対向させて配置し、前記溶接部の溶接状態を検査するスポット溶接の検査装置において、
前記第1プローブは、棒状とした第1芯材と、この第1芯材に巻き回した第1印加コイル及び第1検出コイルを具備し、
前記第2プローブは、棒状とした第2芯材と、この第2芯材に巻き回した第2印加コイル及び第2検出コイルを具備し、
前記第2印加コイルで生じさせた磁場を前記第1検出コイルで検出する第1モードと、
前記第1印加コイルで生じさせた磁場を前記第2検出コイルで検出する第2モードと、
前記第1印加コイルで生じさせた磁場を前記第1検出コイルで検出する第3モードと、
前記第2印加コイルで生じさせた磁場を前記第2検出コイルで検出する第4モードと
を実行することにより検査するスポット溶接の検査装置。
【請求項2】
前記第1モード及び/または前記第2モードで検出された磁場強度が所定の閾値よりも大きい場合に、前記第3モード及び前記第4モードを実行することなく終了する請求項1に記載のスポット溶接の検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−145394(P2012−145394A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2800(P2011−2800)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【特許番号】特許第4756224号(P4756224)
【特許公報発行日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】