説明

スポット溶接用電極

【課題】本発明は、難溶性の素材、特にSnを主成分とするめっき鋼板を使用した場合の連続打点性により一層優れたスポット用電極を更に安価に提供することを目的とする。
【解決手段】Sn系めっき鋼板のスポット溶接用電極であって、厚さ1μm以上1000μm以下のNi又はNi合金からなる金属層を電極チップ先端に有しており、前記金属層の表面の面粗度Raが800nm以下であることを特徴とする、スポット溶接用電極である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sn系めっき鋼板のスポット溶接用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Sn系めっき鋼板は、その美麗さ・良加工性・高耐食性・良はんだ性から様々な用途で使用されている。しかしながら、Sn系めっき鋼板はCu系合金を基材とした電極を使う抵抗溶接の連続操業性が一般に劣るとされている。
【0003】
Sn系めっき鋼板が難溶接性材料である理由は、Snと抵抗溶接電極の基材であるCuがSn−Cu合金(青銅)を極めて生成し易いためである。Sn−Cu合金自体は比較的脆いため、電極表面に生成したSn−Cu合金が、スポット溶接の打点毎に欠損し、連続打点性が著しく低下することになる。更には、Snの融点が232℃であることから分かるように、純Snを含めたSn系合金の融点は一般に低く、スポット溶接のような抵抗溶接において、めっき層と電極との界面の温度はSn系めっき層が溶融するまでになるため、上記合金化はより加速度的に進行する。
【0004】
一般に、産業用のスポット溶接機では、その電極チップに銅合金、例えば、Cr−Cuを使用したものが多い。Cr−Cuを電極に用いているのは、電気伝導度・高温強度・耐摩耗性等を考慮したためであり、一つの電極チップによりスポット溶接が可能な打点数は冷延鋼板を使用した場合には5000打点程度である。
【0005】
しかし、実際にはスポット溶接の品質を維持するため、上記の限界打点数に達しないうちに電極チップの交換やドレッシング(電極先端の研削)をしているのが現状である。これは同じ電極チップによってスポット溶接を繰返し実行していると、電極チップ先端部が溶損等によって徐々に摩耗し、スポット溶接の品質低下が生じるので、これを回避するためである。また、自動車メーカのボデー組立工程等で使用されるロボット式のスポット溶接機は、例えば、一時間に200〜400打点程度のスポット溶接を実行するため、その電極チップの交換も頻繁に行う必要があるが、省力化の観点から、この交換作業をロボット等により自動交換するようにしている。
【0006】
しかしながら、電極チップ交換中にはラインを停止しなければならないことになるため、これが自動組立工程上のネックとなっている。スポット溶接機を同じ場所に2台設置し、交替でいずれか一方の溶接機を使用すれば、電極交換によるラインの停止は回避できるが、設備コストは単純にいえば2倍になるという難点がある。電極チップドレッシング中も同様に頻度が高まれば高まるほど、生産性の低下につながる。
【0007】
従来技術として、スポット溶接用の電極に関する技術を開示したものとして、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4等がある。特許文献1はCr−Cu製電極の製造方法に関するもの、特許文献2はアルミナ分散銅電極のアルミナの分布を規定したもの、特許文献3、特許文献4は電極の組成を規定したものである。後者2つの開示はAl板を溶接する際に良好な特性を示す旨が記述されているが、Al板の溶融温度が600℃程度であるのに対して、めっき鋼板を溶接する際の鋼板の溶融温度は1500℃以上で、電極の熱負荷という意味ではめっき鋼板の方が遥かに大きい。したがって、従来の開示技術からはSn系めっき鋼板のような難溶接性材料の溶接は極めて困難であった。
【0008】
また、Niを電極に含有させてスポット溶接性を向上させる技術を開示したものとして、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9等がある。特許文献5は、Niめっきを電極表面に施し、Zn系めっき鋼板を溶接するときにZn−Fe系の合金層を電極表面に生成させる技術である。しかしながら、Niめっきを電極表面に施した場合、電極チップドレッシング時にNiめっき層も研削してしまうため、繰り返しの使用に適さない。特許文献6、特許文献7は、電極にNiを含有させて電極の機械強度を上昇させる技術であるが、Ni含有により電極基材の固有抵抗が上昇するために、溶接時の電極の熱負荷が大きくなるので、Sn系めっき鋼板の溶接性向上には十分ではない。特許文献8は、Niを電極表面に形成し、Zn系めっき鋼板の溶接時に溶着を抑制させる技術である。これらの開示技術でもSn系めっき鋼板のような難溶接性材料の溶接に着眼したものではなく、溶接性向上には十分ではなかった。
【0009】
Sn系めっき鋼板のような難溶接性材料に対応した電極としては、電極組織に着目した特許文献10があるが、生産性の観点から更なるスポット溶接の連続打点性の向上は望まれている。また、特許文献11には、電極と被溶接材料の間に、被溶接材料よりも電極の汚損耗度が少なく、かつ耐食性を有する導電性金属材料の薄小片を介して溶接する方法が提案されているが、Sn系めっき鋼板に特化したものではなく、Sn系めっき鋼板の溶接性向上には十分ではない。
【0010】
一方、特許文献12では、厚さ1μm以上100μm以下のNi又はNi合金の金属箔を介して接合することによって、Sn系めっき鋼板のような難溶接性の材料を使用した場合にも、安定した電極チップの寿命を得ることができるスポット溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2−263956号公報
【特許文献2】特開平5−77061号公報
【特許文献3】特開平7−314153号公報
【特許文献4】特開平7−290255号公報
【特許文献5】特開昭60−187482号公報
【特許文献6】特開平2−166249号公報
【特許文献7】特開平3−97818号公報
【特許文献8】特開平4−28484号公報
【特許文献9】特開平7−290255号公報
【特許文献10】特開2005−111483号公報
【特許文献11】特公昭58−41950号公報
【特許文献12】特開2010−29915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のように、特許文献12では、厚さ1μm以上100μm以下のNi又はNi合金の金属箔を介して接合することによって、Sn系めっき鋼板のような難溶接性の材料を使用した時にも安定した電極チップの寿命を得ることができるスポット溶接方法が開示され、一定の評価を得つつある。しかしながら、より一層前記電極チップの実用化を促進するためには、前記金属箔を鋼板と溶接用電極との間に供給する機構や、所定打点毎に自動的に連続供給する機構が溶接装置側に必要となるというコスト増加の要因を改善したり、電極寿命を更に改善したりする必要がある。
【0013】
そこで、本発明は、難溶性の素材、特にSnを主成分とするめっき鋼板を使用した場合の連続打点性により一層優れたスポット溶接用電極を更に安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものである。その手段を以下に示す。
(1)Sn系めっき鋼板のスポット溶接用電極であって、厚さ1μm以上1000μm以下のNi又はNi合金からなる金属層を電極チップ先端に有し、前記金属層の表面の面粗度Raが800nm以下であることを特徴とする、スポット溶接用電極。
(2)前記金属層における600℃での電気抵抗率が1×10−6Ω・m以下であることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接用電極。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、Sn系めっき鋼板のような難溶接性材料を使用する際に、従来よりも寿命の長いスポット溶接用の電極チップを安価に提供することができる。本発明により、自動車組立工程等におけるライン停止を少なくすることが可能で、今後のより効率的な生産に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
本発明において上記のように限定する理由について詳述する。
【0018】
本発明方法で、電極チップ先端に形成させる金属層はNi又はNi合金からなる層とする。ここで、電極チップ先端とは、実際のスポット溶接時に、鋼板と現に接するスポット溶接用電極の領域を示す。金属層としてNi又はNi合金が好適な理由は、大きく以下の二つが考えられる。一つの理由は、Niの融点が1455℃であるため、電極チップ先端に形成させても、スポット溶接時に金属層は溶融せず、溶融したSn系めっきと電極チップ先端との直接接触を防止できるためである。もう一つの理由は、Ni又はNi合金が、電極チップやSn系めっき由来の種々の元素が拡散する際にその拡散の障壁となるバリア膜のような性質を有するためと考えられる。
【0019】
Ni又はNi合金からなる金属層の厚みは1μm以上1000μm以下とする。1μmより薄いと、実際のスポット溶接時に金属層が破損することがあるばかりでなく、上記のSn−Cu合金化の抑制効果が期待できない。逆に、1000μmより厚いと、金属層の抵抗が高くなるために発熱量が大きくなり、電極チップへの熱負荷も増大する。このため、1μm以上1000μm以下とする。好ましくは、1μm以上500μm以下とすれば、大きな電極ナゲットを得る目的で大電流下のスポット溶接を行っても、電極チップへの熱負荷を回避でき、より好ましくは1μm以上100μm以下とすれば、その回避効果が更に高まる。
【0020】
その一方で、資源の有効利用や電極の総コストの削減の観点から、寿命が尽きた該電極に前述のドレッシングを行うことで該電極を再生利用することが日常的に行われているのであるが、複数回のドレッシングに耐えるためには該金属層の厚みは後述する厚みとするのが良い。一般に、ドレッシングは、溶接用電極が適切な溶接状態を維持できる様、専用の研削装置又は切削装置を溶接用電極チップに接触させるように用いて実施される、定期的な切削・形削りプロセスであり、ドレッシングの都度、少量の電極材料が除去されることになる。本願発明のスポット溶接用電極では、電極チップの先端に適切な厚みの金属層が形成されていることが必要であるため、寿命が尽きた該電極をドレッシングによって再生利用する場合、少なくとも1μmの該金属層が残存するように該金属層を切削する必要がある。また、例えば、鋼板等の被溶接物への電極の押圧が大きい、使用した溶接電流値が大きい、溶接中の電極の冷却が不充分等の厳しい条件下で溶接を行う場合は、電極チップが発熱し易くなり、その結果、電極チップの先端面が標準の直径より大きくなってしまうので、この場合のドレッシングでは、該電極先端部に湾曲状の適切な形状を確保するために、更に多量に電極表面を研削する必要が生じる。
【0021】
本願発明者らが鋭意検討した結果、目安として概ね50〜100μmの前記金属層を研削すれば、必要なドレッシング効果も得られる上、電極チップの先端形状も適切に保つことができることを見出した。つまり、例えば、ドレッシング前の該金属層の厚みが300μm以上700μm未満であれば、5回程度のドレッシングを行っても、引き続き前記効果を得るために必要な該金属層の厚みが確保でき、好ましい。更に好ましくは、該金属層の厚みが700μm以上1000μm以下であれば、10回程度のドレッシングに耐えることができるので更に良い。すなわち、5回程度以上のドレッシングに耐えるためには、300μm以上1000μm以下とすることが好ましい。逆に、少なくとも50μmの該金属層を切削することができない程度にまで該金属層の厚みが減少している場合、あるいは初期から該金属層の厚みが50μm未満である場合には、ドレッシングによる再生は不可とすべきである。
【0022】
Ni合金の種類・組成は、特に限定するものではないが、合金化により著しく電気抵抗率が高くなった場合、金属層で異常発熱を引き起こし、かえってスポット溶接性を阻害することもあるから、留意が必要である。600℃は、スポット溶接時の電極と鋼板界面における最低到達温度であり、本発明でNi又はNi合金の金属層が曝される温度域であるのであるが、具体的には、600℃での電気抵抗率が1.0×10−6Ω・mより低いNi合金を適用した方が好ましい。これは、600℃での純Niの電気抵抗率は0.43×10−6Ω・mであるが、合金元素添加によって電気抵抗率が高くなり、電気抵抗率が高いと発熱し易くなるため、金属層と電極の溶着が生じたり、前記合金化が促進されたりするために好ましくないのであるが、このような不良が生じ始める600℃での電気抵抗率が1×10−6Ω・m超であることによる。尚、電気抵抗率の下限は、特に規定するものではないが、自ずと純Niの電気抵抗率となる。
【0023】
このように、Sn系めっき鋼板のスポット溶接用電極チップであって、厚さ1μm以上1000μm以下のNi又はNi合金の金属層が電極チップ先端に形成されていれば、一定の電極寿命を確保できるのであるが、本願発明では、連続打点性により一層優れたスポット用電極を更に安価に提供することを目的としており、そのためには、更に前記金属層の表面の面粗度を一定の範囲とする必要があることを本願発明者らは見出した。
【0024】
前記金属層の表面の面粗度Raは800nm以下とする。これは、Raが800nmを上回ると、実際のスポット溶接時に電極チップ先端と鋼板とが点状に接触する領域が増えてしまい、接触面積の低下から電流が局所集中し、異常発熱が生じるのに対し、Raが800nm以下であれば、そのような局所集中が回避されるためと推察される。より好ましくは、Raが500nm以下であれば、異常発熱が更に抑制され、電極寿命を更に長寿命とでき、より一層好ましくは、Raが300nm以下とすれば、異常発熱がより一層抑制され、電極寿命を一層長寿命にできるので好ましい。一方、面粗度Raの下限は特に設けないが、例えば、表面を鏡面研磨することでRaを10nm未満にするのは、研磨工程の長時間化や高級な研磨紙や研磨液が必要となることで、コスト上昇の要因となるので、工業製品として該電極を使用することを考えると、Raは10nm以上として使用するのがコスト面から好ましい。
【0025】
以上のように、Sn系めっき鋼板のスポット溶接用電極であって、厚さ1μm以上1000μm以下のNi又はNi合金からなる金属層を電極チップ先端に有しており、前記金属層の表面の面粗度Raが800nm以下であれば、電極寿命を飛躍的に向上できるので良い。
【0026】
前記金属層を電極チップ先端に形成させる手法として、電解めっき、無電解めっき、化学気相析出法(CVD)のような成膜手法が利用できる。電解ニッケルめっきは水溶液中で通電することで、被めっき物に金属Niを成膜する手法であり、めっき浴としては硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸を主成分とするワット浴、スルファミン酸ニッケルとホウ酸を主体とするスルファミン酸浴、塩化ニッケルや塩化水素を添加したストライク浴(ウッド浴)等が利用できるが、ワット浴を使用するのが最も実用的で実績も豊富なので良い。無電解Niめっきは、めっき液に含まれる還元剤の酸化によって放出される電子を用いて、浴中に含浸した被めっき物に金属Ni膜を析出させる手法である。めっき浴としてはNi−P浴やNi−B浴を利用するのが実績も豊富で比較的簡便に作業できるので良い。CVDは蒸着法の一つで、石英等でできた反応管内で加熱した基板物質上に、目的とする薄膜の成分を含む原料ガスを供給し、成膜する方法である。原料ガスを選択することで、比較的容易に合金膜を形成できるので良い。更に低コストで成膜させるには、溶融した金属を圧縮空気で吹き付けて皮膜層を形成させる、いわゆる溶射法を利用するのが良い。本願発明の金属層を作製する上で、溶射法の種類に制約は特になく、一般的に実用利用されているフレーム溶射(酸素、アセチレン混合ガス等のガス炎を溶射の熱源に利用する方法)、アーク溶射(2本の金属ワイヤー間でアークを発生させ、そのエネルギーでワイヤーを溶かし、それを圧縮空気で素材に衝突させる方法)、やプラズマ溶射(電極間に不活性ガスを流して放電し、高温・高速のプラズマジェットを溶射ガン中に形成させ、この中に粉末状の溶射材料を投入し、加熱・加速して器材に吹き付ける方法)等が利用できる。また、被接着物の融点以下の温度までしか加熱しないものの、高速で吹き付けることで溶射と同様に成膜が可能な、いわゆるコールドスプレー法も利用できる。
【0027】
電気めっき、無電解めっき、CVD、溶射法のような成膜手法を使用すれば、特に成膜後の鏡面研磨をしなくても一定の面粗度が得られるので効率が良いが、より長寿命な電極を作製するために、本願発明で開示しているようなより平坦な面粗度を確保する場合には、成膜後に更にドレッシング法や機械研磨法等のような、実績も豊富で比較的安価な手法で電極チップ先端を研磨すると良い。但し、Raを500nm以下あるいは300nm以下とするには、長時間のドレッシングや研磨が必要となり、高コストとなってしまうのでコスト面での注意が必要である。
【0028】
前記金属層の組成の同定には、エネルギー分散型X線分析法を使うのが実績も豊富で良い。電気抵抗率の測定は、同組成の合金を別に作製し、四端子法で測定するのが、精度がよく好ましい。前記金属層の厚みの測定には、電極を断面研磨して走査型電子顕微鏡で観察することで測定する手法が最も簡便で精度もよく、好ましい。あるいは、オージェ分光観察装置内でスッパタリングしながら合金層の塑性分析を行う手法も精度が高く良い。前記金属層の表面の面粗度Raは、電極を断面研磨して走査型電子顕微鏡で観察することで測定する手法が最も簡便で精度もよく、好ましい。あるいは、表面粗度計を用いる手法も簡便で良い。
【0029】
本発明のスポット溶接用電極が対象とする被溶接材料は、Sn系めっき鋼板である。Sn系めっき以外では、Zn系めっき、Al系めっきもSnと同様に電極のCuと合金化する懸念はあるが、本発明によるスポット溶接用電極を用いた溶接方法では、SnとCuの合金化抑制の効果が最も大きく、その場合に実用上の意義が大きい。Sn系めっきの種類は、特に限定するものではないが、不可避的不純物を含む純Snめっき、Sn−Agめっき、Sn−Cuめっき、Sn−Znめっき、Sn−Biめっき、Sn−Pbめっき等が挙げられる。特に、二元系以上の多元系めっきの共晶系は、純Snの融点(232℃)より低い温度でめっき層が溶融する組成域があり、SnとCuの合金化を促進するため、本発明によるスポット溶接方法の効果は大きい。このようなめっき組成の例として、Sn−3.5mass%Ag(共晶温度221℃)、Sn−0.7mass%Cuめっき(共晶温度227℃)、Sn−8.8mass%Znめっき(共晶温度199℃)、Sn−57mass%Biめっき(共晶温度139℃)、Sn−38.1mass%Pbめっき(共晶温度183℃)等が挙げられる。また、電極のCuと合金化するSnの絶対量も影響が大きく、電極と接する面のSnの絶対量として、主に、片面当たり5g/m相当以上のSnが付着しているSn系めっき鋼板を対象とする。
【0030】
なお、この溶接に使用する溶接機は、単相交流式抵抗溶接機、単相整流式抵抗溶接機、三相整流式抵抗溶接機、直流インバータ式抵抗溶接機、コンデンサー式抵抗溶接機等のいずれでも良い。電極チップの材質(Cr−Cu、アルミナ分散銅、ベリリウム銅等)、形状(R形、DR形、CF形等)、溶接条件(加圧力、溶接電流、溶接時間、スクイズ時間、保持時間、タクトタイム等)も、特に限定するものではない。
【実施例】
【0031】
使用したスポット溶接用電極は、上下共Cr-Cu製のDR形で先端の形状は6mmφ40mmRとした。電極チップの先端には、電解めっきによりNiからなる金属層を成膜させた。電解ニッケルめっきのめっき浴としてはワット浴を用いた。また、電極チップ先端にニッケル-コバルト合金を成膜させた際には、硫酸ニッケルを主成分とし、コバルト-フタロシアニン錯体をコバルトの供給源とし、次亜リン酸ナトリウムを還元剤としためっき浴を用い、無電解めっきによって成膜した。同様に、電極チップ先端にニッケル-クロム合金を成膜させた際には、硫酸ニッケルと塩化ニッケルを主成分としためっき浴に更に錯化剤としてクエン酸を用いて作製したクロム錯体を、還元剤としてジメチルアミンボランをそれぞれ添加しためっき浴を用い、無電解めっきによって成膜した。
【0032】
前記金属層の組成の同定は、エネルギー分散型X線分析法で実施した。金属層の電気抵抗率の測定は、同組成の合金を別に作製し、四端子法で測定した。前記金属層の厚みは、電極を断面研磨して走査型電子顕微鏡で観察することで測定し、前記金属層の表面の面粗度Raは、電極表面を表面粗度計を用いて測定した。合金層の種類や厚み、面粗度は表1〜3にそれぞれ示した。
【0033】
スポット溶接試験の被溶接材として、溶融Snめっき鋼板(材質:極低炭素鋼、板厚:0.8mm、めっき付着量:片面あたり45g/m、後処理皮膜量(SiO):片面95mg/m、塗油)を使用した。スポット溶接条件は、加圧力は195kgf(1.91kN)、溶接電流7.8kA、溶接通電時間10サイクル(50Hz地帯)、連続溶接速度3秒/回とし、溶接前の上下電極の間隔は30mmとした。また、比較のため、溶接電流を9.2kAとした条件でも、一部試料で試験を実施した。
【0034】
連続打点の電極寿命は、25点毎にピール法で溶接部を剥離してボタン径を測定し、ボタン径が3.6mmを切った時点でNGとし、3.6mmを切る25点前の打点数をその試験水準での連続打点とし、その値を表1〜3にそれぞれ示した。
【0035】
更に、ドレッシング後の性能比較のため、ドレッシング処理を複数回実施した電極でも、溶接電流7.8kAの条件下で一部の試験を実施した。ドレッシング後の連続打点数をドレッシングしなかった場合の連続打点数の0.9倍以上が確保できていれば、ドレッシング後も充分な性能が確保されたものとした。その際に得られたドレッシング可能な最大回数を表1に併せて示した。
【0036】
<金属層(Ni層)厚みの影響>
Ni層の厚みを変えた場合の連続打点性を表1に示した。本発明ではいずれも連続打点性は向上したが、Ni層が1μmより薄いと、金属層が破損し易くなり、逆に、1000μmより厚いと、金属層の抵抗が高くなるために発熱量が大きくなり、電極チップへの熱負荷も増大するため、連続打点性が低下することがわかった。
【0037】
また、溶接電流を大電流である9.2kAとした条件での結果を、表1に併せて示す。Ni層が1μm以上500μm以下であれば、大電流下の溶接時であっても良好な性能が確保できることがわかった。
【0038】
更に、ドレッシング後も充分な性能が確保できるか試験した結果を、表1に併せて示す。Ni層が300μm以上1000μm以下であれば、5〜10回という複数回のドレッシング後も良好な性能が確保できることがわかった。
【0039】
そして、金属層の表面の面粗度Raの効果を表1に併せて示す。Raが800nm以下であれば、電極寿命が向上し、Raが500nm以下であれば、電極寿命が更に向上し、300nm以下であればより一層向上した。
【0040】
一方、比較例1記載のように、金属層の表面の面粗度が本願発明の範囲であっても、Ni層が無ければ、本願発明の効果は得られなかった。
【0041】
比較例2記載のように、金属層の表面の面粗度が本願発明の範囲であっても、Ni層の厚さが本願発明の範囲よりも薄ければ、本願発明の効果は得られなかった。
【0042】
また、比較例3及び4記載のように、電極の先端にNi層が厚く形成されていればドレッシングによる再生利用は可能であったが、連続打点数が少ないために頻繁にドレッシングをせざるを得ず、生産性に欠けることが判った。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
<Ni層の電気抵抗率の影響>
金属層としてNi合金からなる層を用いた場合の連続打点性を表2に示した。金属層は上電極と上板の間、下電極と下板の間に一対で設置し、連続打点中、同じ金属層を使用し続けた。使用した金属層は予め四端子法で600℃での電気抵抗率を測定した厚み100μmの層である。
【0046】
本発明では、600℃での電気抵抗率が1×10−6(Ω・m)以下であれば連続打点数が向上する効果がより高かった。
【0047】
【表3】

【0048】
<被溶接材の影響>
また、溶融Sn系合金めっき鋼板(材質:極低炭素鋼、板厚:0.7mm、めっき付着量:片面あたり45g/m、後処理皮膜量(SiO):片面95mg/m、塗油)を各種作製し、スポット溶接に供した。溶融Sn系合金めっきとしては、Sn−Agめっき、Sn−Cuめっき、Sn−Znめっき、Sn−Biめっき、Sn−Pbめっきとした。その結果を表3に示した。溶融Sn系合金めっき鋼板は、いずれのめっき種類もNi層を形成した電極チップの使用により、連続打点性が明らかに向上した。
【0049】
【表4】

【0050】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn系めっき鋼板のスポット溶接用電極であって、
厚さ1μm以上1000μm以下のNi又はNi合金からなる金属層を電極チップ先端に有し、前記金属層の表面の面粗度Raが800nm以下であることを特徴とする、スポット溶接用電極。
【請求項2】
前記金属層における600℃での電気抵抗率が1×10−6Ω・m以下であることを特徴とする、請求項1に記載のスポット溶接用電極。