スポット溶接装置及びスポット溶接方法
【課題】厚板と薄板を重ね合わせた被溶接体をスポット溶接する際に安定した溶接品質が得られるスポット溶接装置を提供する。
【解決手段】薄板101側に当接する第2溶接電極35及び受部13と第2厚板103に当接する第1溶接電極25によって被溶接部材100を挟持し、第1溶接電極25によって加圧付与し第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に通電することで薄板101から第2厚板103に亘って良好なナゲットが形成される。同様に薄板101に当接する第1溶接電極25及び受部13と第2厚板103に当接する第2溶接電極35によって被溶接部材100を挟持し、第2溶接電極35によって加圧付与することで薄板101から第2厚板103に亘って良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【解決手段】薄板101側に当接する第2溶接電極35及び受部13と第2厚板103に当接する第1溶接電極25によって被溶接部材100を挟持し、第1溶接電極25によって加圧付与し第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に通電することで薄板101から第2厚板103に亘って良好なナゲットが形成される。同様に薄板101に当接する第1溶接電極25及び受部13と第2厚板103に当接する第2溶接電極35によって被溶接部材100を挟持し、第2溶接電極35によって加圧付与することで薄板101から第2厚板103に亘って良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性の異なる厚板と薄板を重ね合わせた板組みの被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置及びスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重ね合わされた鋼板等の板材の接合には、一対の溶接電極間で挟み加圧力を与えながら両電極間に大電流を一定時間通電し、接合部をほぼ溶融温度まで上げて接合するスポット溶接が広く行われている。
【0003】
スポット溶接にあたり、両溶接電極により付与される加圧力及び通電時間が一定の場合には、ナゲット径は電流の増加に従って徐々に増加するが、電流値が過大になると発熱量が多くなり板材間に溶融金属が飛散する散りの発生原因となる。即ち、散りは接合部の過熱による溶融金属の爆飛現象で、ナゲットに空孔、割れ等が発生して、ナゲットの形状や金属組織に不連続部を生じ、接合部における板厚の減少と共に著しい強度低下の要因となる。反対に電流が過少の場合にはナゲットが小さくなり十分な接合強度が得られない。また、加圧力が小さいときには板材間の接触面積が少なくなり、電流密度が高くなり過熱による散り発生原因となる。一方、加圧力が大き過ぎると接合部の接触面積が大きくなり電流密度が低下して発熱量が減少する。この結果、ナゲットが小さくなり溶接強度が低下する。
【0004】
ここで、図13(a)に示すように、剛性の低い薄肉の板材である薄板101、薄板101より厚肉の板材、即ち剛性が高い第1厚板102、第2厚板103の3枚を重ね合わせた被溶接部材100をスポット溶接する場合には、薄板101と第1厚板102の間及び第1厚板102と第2厚板103の間が隙間がなく密着した状態で、可動側電極111と固定側電極112により被溶接部材100を挟んで電源113により通電すると、可動側電極111と固定側電極112間の通電経路における電流密度がほぼ均一となり薄板101から第2厚板103に亘って良好なナゲットが形成されて、必要な溶接強度を得ることができる。
【0005】
しかし、実際には、可動側電極111と固定側電極112によって被溶接部材100を挟んで加圧したときに、剛性の低い薄板101と第1厚板102が上方に撓んで、薄板101と第1厚板102の間及び第1厚板102と第2厚板103との間に隙間が生じる。
【0006】
この場合、可動側電極111と薄板101間の接触面積は薄板101の撓みにより大きくなるのに対して、薄板101と第1厚板102間及び第1厚板102と第2厚板103間の接合部の接触面積は隙間により小さくなる。
【0007】
このため、可動側電極111と固定側電極112間の電流密度が薄板101側に対して第2厚板103側が高くなり、薄板101と第1厚板102間よりも第1厚板102と第2厚板103間の方が局部的な発熱量が多くなる。
【0008】
その結果、図13(a)に示すように、先ず第1厚板102と第2厚板103との接合部にナゲット105が形成され、次第にナゲット105が大きくなりやがて図13(b)に示すように薄板101と第1厚板102間が溶着される。しかし、この薄板101と第1厚板102との間の溶け込み量が小さく溶接強度が不安定で、薄板101が剥離することが懸念され、かつ溶接品質にバラツキがある。この不具合は、特に第1厚板102及び第2厚板103が厚いほど第1厚板102と薄板101との間にナゲット105が到達しにくく、顕著である。
【0009】
また、同様に薄板101と第1厚板102間の溶け込み量が小さく溶接強度が不安定となる原因としては、薄板101が薄いため、可動側電極111の接触により熱が可動側電極111に奪われ、薄板101側の温度が上がらず、ナゲット105が形成されにくいこともある。
【0010】
この対策として、例えば特許文献1に開示されるスポット溶接方法がある。このスポット溶接方法は、図14に示すように、薄板101、第1厚板102、第2厚板103を重ね合わせた被溶接部材100をスポット溶接するときに、薄板101側に位置する可動側電極125の加圧力FUを、第2厚板103側に位置する固定側電極124の加圧力FLより小さくすることで、薄板101と第1厚板102との接合部の接触抵抗が大きくなると共に第1厚板102と第2厚板103との接合部の接触抵抗が小さくなり、可動側電極125と固定側電極124間に通電したときに、薄板101と第1厚板102との接合部における発熱量を増加させることができ、薄板101と第1厚板102の溶接強度を高めることができる。
【0011】
この方法の実施に用いられるスポット溶接ガンの構成は、図15に示すように、溶接ロボット115の手首部116にスポット溶接装置120が搭載され、溶接ロボット115は、クランパ118によって支持された被溶接部材100の各打点位置にスポット溶接ガン120を移動し、被溶接部材100のスポット溶接を行う。
【0012】
スポット溶接ガン120は、手首部116に取り付けられたガン支持ブラケット117に固定されたリニアガイド121によって上下動自在に支持されたベース部122を備え、このベース部122には下方に延びるC形ヨーク123が設けられ、このC形ヨーク123の下端先端に固定側電極124が設けられる。
【0013】
また、ベース部122の上端には、サーボモータ等の加圧アクチュエータ126が搭載され、加圧アクチュエータ126により上下動するロッド127の下端に固定側電極124と対向して可動側電極125が取り付けられる。ガン支持ブラケット117の上端にサーボモータ128が搭載され、サーボモータ128の作動によりボールねじ機構を介してベース部122が上下動する。
【0014】
ここで、図示しないコントローラに予め記憶されているティーチングデータに従って、薄板101側に位置する可動側電極125による加圧力FUを固定側電極124による加圧力FLよりも小さくする(FU<FL)。
【0015】
このように可動側電極125による加圧力FUを固定側電極124による加圧力FLより小さく(FU<FL)するために、コントローラは、先ず、サーボモータ128によりベース部122を上昇させて固定側電極124を被溶接部材100の下面に当接させると共に、加圧アクチュエータ126により可動側電極125を下降させて被溶接部材100の上面に当接させる。この場合、加圧アクチュエータ126の加圧力が可動側電極125と、ベース部122及びC形ヨーク123を介して固定側電極124とに均等に作用する
【0016】
次に、サーボモータ128によりベース部122を押し上げる。このベース部122の押し上げにより、固定側電極124の加圧力FLがベース部122の押し上げ分だけ増加し、可動側電極125による加圧力FUが固定側電極124による加圧力FLより小さくなる(FU<FL)。
【0017】
その結果、可動側電極125と固定側電極124との間に通電したときに、薄板101と第1厚板102の接合部における電流密度が高くなり発熱量が第1厚板102と第2厚板103の接合部における発熱量に対して相対的に増加する。これにより、薄板101から第2厚板103に亘って偏りのない良好なナゲットが形成され溶接強度を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2003−251469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記特許文献1によると、クランパ118によって支持された被溶接部材100の各打点位置にスポット溶接ガン120を移動し、被溶接部材100の第2厚板103側に固定側電極124を当接させると共に可動側電極125を薄板101に当接させ、更にベース部122を押し上げて固定側電極124の加圧力FLより可動側電極125側の加圧力FUを小さくすることで、相対的に薄板101と第1厚板102間の電流密度が高くなり、薄板101と第1厚板102の接合部における発熱量が確保でき、溶け込み量が増大して溶接強度が増加する。
【0020】
しかし、クランパ118によりクランプ保持された被溶接部材100を固定側電極124と可動側電極125によって挟持加圧した状態でベース部122を移動して固定側電極124の加圧力FLより可動側電極125による加圧力FUを小さくするには、被溶接部材100をクランプ保持するクランパ118に大きな負荷が要求される。一方、クランプ118による被溶接部材100のクランプ位置と溶接位置、即ち溶接打点位置が大きく離間した状態では、被溶接部材100が撓み変形して固定側電極124による加圧力FLと可動側電極125による加圧力FUにバラツキが生じて安定した薄板101と第1厚板102との間の接触抵抗及び第1厚板102と第2厚板103との間の接触抵抗の確保が困難であり、被溶接部材100の接合部における電流密度にバラツキが生じてスポット溶接の品質低下が懸念される。また、溶接加圧時の反力で移動し得るようにロボットの手首とベース部との間にイコライジング機能を備えたスポット溶接ガンでは使用できず、使用するスポット溶接ガンが制限される。
【0021】
従って、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、剛性の異なる厚板と薄板を重ね合わせた被溶接体をスポット溶接する場合において安定した溶接品質が得られるスポット溶接装置及びスポット溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成する請求項1に記載の発明によるスポット溶接装置は、薄肉の板材である薄板、該薄板より剛性の大きい厚肉の板材である第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、ベース部と、該ベース部に支持された受部と、該ベース部に支持されて互いに対向して接離方向に移動する第1溶接電極及び第2溶接電極とを備え、上記薄板に当接する上記第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第1溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、上記薄板に当接する上記第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0023】
これによれば、薄板に当接する第2溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第1溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第1溶接電極によって加圧付与することで、第1溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第2溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第2溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第1溶接電極による加圧力より小さくなる。これにより、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成される。同様に薄板に当接する第1溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第2溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第2溶接電極によって加圧付与することで、第2溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第1溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第1溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第2溶接電極による加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【0024】
更に薄板、第1厚板、第2厚板の配置が異なる被溶接部材の相互間、例えば下から順に薄板、第1厚板、第2厚板が重なる3枚重ねの被溶接部材と、上から順に薄板、第1厚板、第2厚板が重なる3枚重ねの被溶接部材とを連続してスポット溶接する際にも溶接装置の姿勢変更範囲を小さくすることができる。
【0025】
上記目的を達成する請求項2に記載の発明によるスポット溶接装置は、薄板、該薄板より剛性の大きい第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、ベース部と、該ベース部に支持された受部と、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第1溶接電極と、上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記第1溶接電極と対向して退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第2溶接電極とを備え、上記第1加圧位置の第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第1加圧位置の上記第1溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、上記第2加圧位置の第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2加圧位置の上記第2溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0026】
これによれば、薄板に当接する第1加圧位置における第2溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第1加圧位置における第1溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第1加圧位置に第1溶接電極によって加圧付与することで、第1加圧位置の第1溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第2溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第2溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第1溶接電極による加圧力より小さくなる。これにより、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成される。同様に薄板に当接する第2加圧位置の第1溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第2加圧位置の第2溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第2加圧位置の第2溶接電極によって加圧付与することで、第2溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第1溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第1溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第2溶接電極による加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【0027】
上記目的を達成する請求項3に記載の発明によるスポット溶接装置は、厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、ベース部と、該ベース部に支持されて上記薄肉の板材と当接する受部と、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第1溶接電極と、上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第2溶接電極とを備え、上記受部、上記第1溶接電極および上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0028】
これによれば、薄肉の板材に当接する受部と第1アクチュエータによって移動する第1溶接電極及び第2アクチュエータによって移動する第2溶接電極によって被溶接部材を加圧挟持することで薄肉の板材と厚肉の板材との加圧力が厚肉の板材と厚肉の板材との加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄肉の板材と厚肉の板材の接合部の電流密度が高くなり、薄肉の板材から厚肉の板材に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【0029】
上記目的を達成する請求項4に記載の発明によるスポット溶接方法は、厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接方法において、ベース部に支持された受部に上記薄肉の板材を当接させるとともに、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって移動する第1溶接電極と上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって移動する第2溶接電極とによって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0030】
これによると、薄肉の板材に当接する受部と第1アクチュエータによって移動する第1溶接電極及び第2アクチュエータによって移動する第2溶接電極によって被溶接部材を加圧挟持することで薄肉の板材と厚肉の板材との加圧力が厚肉の板材と厚肉の板材との加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄肉の板材と厚肉の板材の接合部の電流密度が高くなり、薄肉の板材から厚肉の板材に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、薄板に当接する第2溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第1溶接電極によって被溶接部材を挟持し、第1溶接電極によって加圧付与することで、薄板側に位置する第2溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第1溶接電極による加圧力より小さくなる。これにより、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成される。同様に薄板に当接する第1溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第2溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第2溶接電極によって加圧付与することで、薄板側に位置する第1溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第2溶接電極による加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態におけるスポット溶接装置の構成図である。
【図2】要部を示す図1のII矢視図である。
【図3】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図4】図3の要部断面作動説明図である。
【図5】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図6】図5の要部断面作動説明図である。
【図7】スポット溶接装置の模擬的に示す作動説明図である。
【図8】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図9】図8の要部断面作動説明図である。
【図10】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図11】図10の要部断面作動説明図である。
【図12】スポット溶接装置の模擬的に示す作動説明図である。
【図13】従来のスポット溶接の概要を示す説明図である。
【図14】従来のスポット溶接の概要を示す説明図である。
【図15】従来のスポット溶接の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図12を参照して説明する。
【0034】
図1はスポット溶接装置の構成図、図2は要部を示す図1のII矢視図である。このスポット溶接装置の説明にあたり、便宜上図1における上方及び下方をスポット溶接装置における上方及び下方と称する。
【0035】
スポット溶接装置1の説明に先立って、被溶接部材100について図2を参照して説明する。被溶接部材100は、重ね合わされた2枚の厚板の一方に薄板を重ね合わせた、例えば順に剛性の低い薄肉の板材である薄板101、薄板101より板厚が大きく剛性が高い厚肉の板材である第1厚板102及び第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成される。
【0036】
スポット溶接装置1は、図1及び図2に示すように、例えば多関節型ロボット等の溶接ロボットのアーム先端部に取り付けられる手首部にイコライザユニット2を介在して支持され、溶接ロボットによって三次元方向に移動可能に構成される。そして、溶接ロボットは、図示しないクランパ等によって所定の位置に保持された被溶接部材100の予め設定された各打点位置、即ち溶接部にスポット溶接装置1を順次移動して被溶接部材100にスポット溶接を行う。
【0037】
スポット溶接装置1は、溶接ロボットの手首部にイコライザユニット2を介して取り付けられる装置取付ブラケット4及び装置取付ブラケット4に一体的に取り付けられるガンブラケット5からなるベース部3を備える。装置取付ブラケッ4はイコライザユニット2に連結される矩形平板状の取付基部4A及び取付基部4Aの両側から下方に折曲して対向する一対のガン取付部4Bを有する断面コ字状に形成される。
【0038】
装置取付ブラケット4の各ガン取付部4Bにそれぞれ対向してガンブラケット5が取り付けられる。各ガンブラケット5は、ガン取付部4Bに取り付けられる矩形板状で延在するブラケット本体6及びブラケット本体6から下方に延在する固定アーム支持部7が一体形成された略T字板状に形成される。
【0039】
対向するガンブラケット5に固定アーム10、第1加圧アクチュエータ20、第2加圧アクチュエータ30及び溶接トランス40が取付支持される。
【0040】
固定アーム10は、基端11aが各ガンブラケット5の固定アーム支持部7の端部に掛け渡されて結合されて下方に延在する断面略コ字形の固定アーム本体11及び固定アーム本体11の先端から折曲して延在する支持部12を有する略L字状であって、支持部12の先端部12aに上下方向に延在する中心軸心を有する筒状で上端13a及び下端13bの両端が支持部12から突出する受部13が形成される。
【0041】
第1加圧アクチュエータ20は、シリンダ装置或いはサーボモータ、本実施の形態ではサーボモータ21及びボールネジ送り機構等によって構成された直動部22を有し、サーボモータ21の作動によって直動部22のロッド23が昇降動する。直動部22のロッド23の下端に第1電極アーム24が設けられ、第1電極アーム24の先端に固定アーム10の受部13の中心軸心と同軸上に第1溶接電極25が取り付けられる。これにより第1溶接電極25は、その頂端25aが第1加圧アクチュエータ20のサーボモータ21の作動により受部13の上端13aから上方に離反する上昇移動端の退避位置と、被溶接部材100を受部13の上端13aと協働して挟持すると共に被溶接部材100に加圧力を付与する第1加圧位置と、受部13内を貫通して頂端25aが受部13の下端13bの位置に達する第2加圧位置との間で移動する。
【0042】
第2加圧アクチュエータ30は、シリンダ装置或いはサーボモータ、本実施の形態ではサーボモータ31及びボールネジ送り機構等によって構成された直動部32を有し、サーボモータ31の作動によって直動部32のロッド33を昇降動させる。直動部32のロッド33の下端に直線状の基部34A及び基部34Aの下端に折曲形成された電極保持部34Bを有するL字形の第2電極アーム34が設けられ、第2電極アーム34の電極保持部34Bに固定アーム10の受部13の中心軸心と同軸上に頂端35aが位置する第2溶接電極35が取り付けられる。また、ガンブラケット5の固定アーム支持部7に、第2電極アーム34の基部34Aに摺接して第2電極アーム34の移動をガイドする電極アーム摺動部36が設けられる。
【0043】
これにより第2溶接電極35が第2加圧アクチュエータ30のサーボモータ31の作動により受部13の下端13aから下方に離反する下降移動端の退避位置と、被溶接部材100を受部13の下端13b及び第2加圧位置における第1溶接電極25と協働して挟持すると共に被溶接部材100に加圧力を付与する第2加圧位置と、受部13内を貫通して受部13の上端13bの位置に達して受部13の上端13a及び第1加圧位置における第1溶接電極25と協働して被溶接部材100を挟持する第1加圧位置との間で移動する。
【0044】
電源となる溶接トランス40の出力端子41がバスバ43及び第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25に通電可能に接続され、出力端子42がバスバ44及び第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35に通電可能に接続される。
【0045】
また、図示しない溶接ロボットコントローラRCには、溶接ロボットのティーチングデータが格納され、ティーチングデータには、被溶接部材100の各溶接打点位置を順次スポット溶接するための作動プログラム及び各溶接打点、即ち溶接位置におけるスポット溶接装置1の位置及び姿勢が含まれる。図示しない溶接装置コントローラWCには溶接装置1の作動プログラム及び第1アクチュエータ20、第2アクチュエータ30及び溶接トランス40の作動制御が含まれる。
【0046】
次ぎに、スポット溶接装置1の作動を説明する。この説明にあたり説明の便宜上、スポット溶接すべき被溶接部材100が下から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接する第1溶接工程を図3乃至図7の作動説明図を参照して説明し、続いて被溶接部材100が上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接する第2溶接工程を図8乃至図12の作動説明図を参照して説明する。
【0047】
下から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた被溶接部材100のスポット溶接に第1溶接工程において、予め設定された作動プログラムに従い、第1溶接電極25が上昇移動端の待避位置に保持され、第2溶接電電極35が第1加圧位置、即ち第2溶接電極35の頂端35aが受部13の上端13aと対応する位置まで第2アクチュエータ30のサーボモータ31を回転制御して移動させる。
【0048】
この第1溶接電極25が待避位置で第2溶接電極35が第1加圧位置に保持された第1溶接電極25と第2溶接電極35が離反した状態で、溶接ロボットコントローラRCは溶接ロボットを作動し、予め設定されたプログラムに従いスポット溶接装置1を被溶接部材100の打点位置に移動し、図3に示すように固定アーム10に設けられた受部13の上端13a及び第2溶接電極35の頂端35aを被溶接部材100の下面、即ち薄板101に下方から当接した状態に位置決めする。
【0049】
このスポット溶接装置1が溶接位置に位置決めされた状態では、図4に示すように被溶接部材100の薄板101の下面に第2溶接電極35の先端35a及び第2溶接電極35の先端35aに近接して環状に受部13の上端13aが接触する一方、第1溶接電極25の先端25aが第2厚板103と間隙を有して対向する。
【0050】
次に、図5及び図7に示すように、受部13の上端13a及び第2溶接電極35の頂端35aが被溶接部材100の薄板101に当接した状態で第1加圧アクチュエータ20のサーボモータ21の作動により第1溶接電極25を退避位置から第1加圧位置方向に移動させて第2厚板103に圧接させて第2溶接電極35の頂端35aと第1溶接電極25の頂端25aとの間で被溶接部材100の溶接部を挟持すると共に加圧付与する。
【0051】
この被溶接部材100の薄板101に第2溶接電極35の頂端35a及び受部13が当接した状態で第1溶接電極25により第2厚板103に加圧力を付与した状態では、図7に模擬的に作動説明図を示すように第1加圧アクチュエータ20による加圧力が第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25から第2厚板103に上方から付与され、かつベース部3及び第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35から薄板101に下方から加圧力されると共に第2溶接電極35に隣接して固定アーム10を介して受部13から薄板101に下方から加圧力が付与される。
【0052】
この場合、第1加圧アクチュエータ20による加圧力が第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25に作用し、かつベース部3及び第2電極アーム34を介して第2溶接電極35に作用すると共に固定アーム10を介して受部13に作用し、第2厚板103に作用する第1溶接電極25による加圧力FUと薄板101に作用する第2溶接電極35による加圧力FL及び受部13による加圧力Fαの総和が等しくなる(FU=FL+Fα)。
【0053】
これにより、被溶接部材100は、第2厚板103側に上方から作用する第1溶接電極25から加圧力FUと、薄板35側に下方から作用する第2溶接電極35からの加圧力FL及び受部13からの加圧力Fαによって安定した状態で挟持保持される。
【0054】
一方、被溶接部材100の溶接部には、第1溶接電極25から第2厚板103に加圧力FUが付与され、薄板101に第2溶接電極35から加圧力FLが付与されると共に受部13から加圧力Fαが付与され、第2溶接電極35から薄板101に作用する加圧力FLとして第1溶接電極25による加圧力FUから受部13による加圧力Fαを減じた大きさの加圧力が付与される(FL=FU−Fα)。
【0055】
この薄板101側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLを第2厚板103側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUより小さく(FL<FU)することで、薄板101と第1厚板102の接合部における接触圧力が、第1厚板102と第2厚板103間の溶接部における接触圧力より小さくなり、相対的に薄板101と第1厚板102間の接触抵抗が大きくなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さくなる。
【0056】
ここで、仮に固定アーム10による受部13を備えない場合には、第2溶接電極35に被溶接部材100の薄板101に当接した状態で第1加圧アクチュエータ20の作動により第1溶接電極25を第2厚板103に圧接させて第2溶接電極35と第1溶接電極25との間で被溶接部材100の溶接部を挟持すると共に加圧付与すると、第1アクチュエータ20の加圧力が第1溶接電極25と第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35とに均等に作用し、第1溶接電極25により第2厚板103に付与される加圧力FUと第2溶接電極35により薄板101に付与される加圧力FLが均等に付与される。
【0057】
次に、第1溶接電極25と第2溶接電極35及び受部13とで被溶接部材100を挟持加圧して薄板101側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLを第2厚板103側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUより小さくした状態で、溶接トランス40から第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に所定時間通電して溶接する。この第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に通電した時に、相対的に薄板101と第1厚板102間の接合部における接触抵抗が大きく電流密度が高くなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さく保持される。これにより、薄板101と第1厚板102の接合部における発熱量が第1厚板102と第2厚板103の接合部における発熱量に対して相対的に増加して、薄板101から第2厚板103に亘って電流密度の偏りのない良好なナゲットが形成され、薄板101の溶接強度が確保できる。
【0058】
この溶接が完了した後、第1加圧アクチュエータ20の作動により第1溶接電極25を第1加圧位置から退避位置に移動させて、第1溶接電極25と第2溶接電極35及び受部13とによる被溶接部材100の挟持を開放する。
【0059】
次に、上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接する第2溶接工程を図8乃至図12の作動説明図を参照して説明する。
【0060】
上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた被溶接部材100をスポット溶接するにあたり、予め設定された作動プログラムに従い、第2溶接電極35が下降移動端の待避位置に保持され、第1溶接電極25が第2加圧位置、即ち第1溶接電極25の頂端25aが受部13の下端13bと対応する位置まで第1アクチュエータ20のサーボモータ21を回転制御して移動させる。
【0061】
この第2溶接電極35が待避位置で第1溶接電極25が第2加圧位置に保持されて第1溶接電極25と第2溶接電極35が離反した状態で溶接ロボットを作動し、予め設定されたプログラムに従いスポット溶接装置1を被溶接部材100の打点位置に移動し、図8に示すように固定アーム10に設けられた受部13の下端13b及び第1溶接電極25の頂端25aを被溶接部材100の上面、即ち薄板101に上方から当接した状態に位置決めする。
【0062】
このスポット溶接装置1が溶接位置に位置決めされた状態では、図9に示すように被溶接部材100の薄板101の上面に第1溶接電極25の先端25a及び第1溶接電極25の先端25aに近接して環状に受部13の下端13bが接触する一方、第2溶接電極35の先端35aが第2厚板103と間隙を有して対向する。
【0063】
次に、図10及び図11に示すように、受部13の下端13b及び第1溶接電極25が被溶接部材100の薄板101に当接した状態で第2加圧アクチュエータ30のサーボモータ31の作動により第2溶接電極35を退避位置から第2加圧位置方向に移動させて第2厚板103に圧接させて第1溶接電極25の頂端25aと第2溶接電極35の頂端35aとの間で被溶接部材100の溶接部を挟持すると共に加圧付与する。
【0064】
このように被溶接部材100の薄板101に第1溶接電極25の頂端25a及び受部13の下端13bが当接した状態で第2溶接電極35により第2厚板103に加圧力を付与した状態では、図12に模擬的に作動説明図を示すように第2加圧アクチュエータ30による加圧力が第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35から第2厚板103に下方から付与され、かつベース部3及び第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25から薄板101に上方から加圧されると共に第1溶接電極25に隣接して固定アーム10を介して受部13から薄板101に上方から加圧力が付与される。
【0065】
この場合、第2加圧アクチュエータ30による加圧力が第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35に作用し、かつベース部3及び第1電極アーム24を介して第1溶接電極25に作用すると共に固定アーム10を介して受部13に作用し、第2厚板103に作用する第2溶接電極35による加圧力FLと薄板101に作用する第1溶接電極25による加圧力FU及び受部13による加圧力Fαの総和が等しくなる(FL=FU+Fα)。
【0066】
これにより、被溶接部材100は、第2厚板103側に下方から作用する第2溶接電極35から加圧力FLと、薄板35側に上方から作用する第1溶接電極25からの加圧力FU及び受部13からの加圧力Fαによって安定した状態で挟持保持される。
【0067】
一方、被溶接部材100の溶接部には、第2溶接電極35から第2厚板103に加圧力FLが付与され、第1溶接電極25から薄板101に加圧力FUとして第2溶接電極35による加圧力FLから受部13による加圧力Fαを減じた大きさの加圧力が付与される(FU=FL−Fα)
【0068】
この薄板101側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUを第2厚板103側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLより小さく(FU<FL)することで、薄板101と第1厚板102の接合部における接触圧力が、第1厚板102と第2厚板103間の溶接部における接触圧力より小さくなり、相対的に薄板101と第1厚板102間の接触抵抗が大きくなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さくなる。
【0069】
次に、第2溶接電極35と第1溶接電極25及び受部13とで被溶接部材100を挟持加圧して薄板101側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUを第2厚板103側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLより小さくした状態で、溶接トランス40から第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に所定時間通電して溶接する。この第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に通電した時に、相対的に薄板101と第1厚板102間の接合部における接触抵抗が大きく電流密度が高くなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さく保持される。これにより、薄板101と第1厚板102の接合部における発熱量が第1厚板102と第2厚板103の接合部における発熱量に対して相対的に増加して、薄板101から第2厚板103に亘って電流密度の偏りのない良好なナゲットが形成され、薄板101の溶接強度が確保できる。
【0070】
この溶接が完了した後、第2加圧アクチュエータ30の作動により第2溶接電極35を第2加圧位置から退避位置に移動させて、第1溶接電極25と第2溶接電極35及び受部13とによる被溶接部材100の挟持を開放する。
【0071】
次に、溶接ロボット1を作動して、スポット溶接装置10を被溶接部材100の打点位置から退避させ、次の被溶接部材100の打点位置に移動する。
【0072】
このように構成された本実施の形態によると、剛性の低い薄板101、この薄板101より剛性の高い第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接するスポット溶接装置1が、ベース部3に固定アーム10を介して設けられた受部13と、第1加圧アクチュエータ20によって退避位置、第1加圧位置、第2加圧位置を移動する第1溶接電極25と、第2加圧アクチュエータ30によって退避位置、第2加圧位置、第1加圧位置の間で移動可能な第2溶接電極35備え、第1加圧位置の第2溶接電極35及び受部13と、第2溶接電極35と対向する第1加圧位置の第1溶接電極25とによって被溶接部材100を挟持と共に薄板101に第2溶接電極35によって加圧力FLを付与すると共に受部13によって加圧力Fαを付与し、第2厚板103に第1溶接電極25によって加圧力FUを付与することで、薄板101と第1厚板102間の接触圧力が第1厚板102と第3厚板103の接触圧力より小さく制御され、第1溶接電極25と第2溶接電極35を通電したときに薄板101と第1厚板102の接合部の電流密度が第1厚板102と第2厚板103の接合部の電流密度に対して相対的に高くなるため、薄板101から第2厚板103に亘って大きく溶け込んだ偏りのない良好なナゲットが形成され、薄板101の溶接強度を確保できる。同様に第2加圧位置の第1溶接電極25及び受部13と、第2加圧位置の第2溶接電極35とによって被溶接部材100を挟持すると共に薄板101に第1溶接電極25によって加圧力FUを付与すると共に受部13によって加圧力Fαを付与し、第2厚板103に第2溶接電極35によって加圧力FLを付与することで、薄板101と第1厚板102間の接触圧力が第1厚板102と第3厚板103の接触圧力より小さく制御され、第1溶接電極25と第2溶接電極35を通電したときに薄板101から第2厚板103に亘って大きく溶け込んだ偏りのない良好なナゲットが形成され薄板101の溶接強度を確保でき、安定した溶接品質が得られる。これにより薄板101、第1厚板102、第2厚板103の配置が異なる被溶接部材100の相互間、例えば下から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重なる3枚重ねの被溶接部材100と、上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重なる3枚重ねの被溶接部材100とを連続してスポット溶接する際にも溶接装置1の姿勢変更範囲を小さくすることができる。
【0073】
なお、本発明は上記実施に形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第1加圧アクチュエータ20及び第2加圧アクチュエータ30としてサーボモータ21、31を使用したがエアシリンダを使用することも、直動部22、32としてボールネジ送り機構を使用したが他のギヤ機構等により構成することができる。
【0074】
また、受部13として上端13a及び下端13bを有する筒状に形成したが、被溶接部材100の形状等に応じて半割筒状や、固定アーム10の支持部12から突出する半円弧状の突状等に変更可能である。
【0075】
また、被溶接部材100は3枚重ねに限らず、剛性の異なる厚板と薄板を重ね合わせたものであれば、4枚以上を重ねたものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 スポット溶接装置
3 ベース部
10 固定アーム
13 受部
20 第1加圧アクチュエータ
24 第1電極アーム
25 第1溶接電極
30 第2加圧アクチュエータ
34 第2電極アーム
35 第2溶接電極
100 被溶接部材
101 薄板(薄肉の板材)
102 第1厚板(厚肉の板材)
103 第2厚板(厚肉の板材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、剛性の異なる厚板と薄板を重ね合わせた板組みの被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置及びスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、重ね合わされた鋼板等の板材の接合には、一対の溶接電極間で挟み加圧力を与えながら両電極間に大電流を一定時間通電し、接合部をほぼ溶融温度まで上げて接合するスポット溶接が広く行われている。
【0003】
スポット溶接にあたり、両溶接電極により付与される加圧力及び通電時間が一定の場合には、ナゲット径は電流の増加に従って徐々に増加するが、電流値が過大になると発熱量が多くなり板材間に溶融金属が飛散する散りの発生原因となる。即ち、散りは接合部の過熱による溶融金属の爆飛現象で、ナゲットに空孔、割れ等が発生して、ナゲットの形状や金属組織に不連続部を生じ、接合部における板厚の減少と共に著しい強度低下の要因となる。反対に電流が過少の場合にはナゲットが小さくなり十分な接合強度が得られない。また、加圧力が小さいときには板材間の接触面積が少なくなり、電流密度が高くなり過熱による散り発生原因となる。一方、加圧力が大き過ぎると接合部の接触面積が大きくなり電流密度が低下して発熱量が減少する。この結果、ナゲットが小さくなり溶接強度が低下する。
【0004】
ここで、図13(a)に示すように、剛性の低い薄肉の板材である薄板101、薄板101より厚肉の板材、即ち剛性が高い第1厚板102、第2厚板103の3枚を重ね合わせた被溶接部材100をスポット溶接する場合には、薄板101と第1厚板102の間及び第1厚板102と第2厚板103の間が隙間がなく密着した状態で、可動側電極111と固定側電極112により被溶接部材100を挟んで電源113により通電すると、可動側電極111と固定側電極112間の通電経路における電流密度がほぼ均一となり薄板101から第2厚板103に亘って良好なナゲットが形成されて、必要な溶接強度を得ることができる。
【0005】
しかし、実際には、可動側電極111と固定側電極112によって被溶接部材100を挟んで加圧したときに、剛性の低い薄板101と第1厚板102が上方に撓んで、薄板101と第1厚板102の間及び第1厚板102と第2厚板103との間に隙間が生じる。
【0006】
この場合、可動側電極111と薄板101間の接触面積は薄板101の撓みにより大きくなるのに対して、薄板101と第1厚板102間及び第1厚板102と第2厚板103間の接合部の接触面積は隙間により小さくなる。
【0007】
このため、可動側電極111と固定側電極112間の電流密度が薄板101側に対して第2厚板103側が高くなり、薄板101と第1厚板102間よりも第1厚板102と第2厚板103間の方が局部的な発熱量が多くなる。
【0008】
その結果、図13(a)に示すように、先ず第1厚板102と第2厚板103との接合部にナゲット105が形成され、次第にナゲット105が大きくなりやがて図13(b)に示すように薄板101と第1厚板102間が溶着される。しかし、この薄板101と第1厚板102との間の溶け込み量が小さく溶接強度が不安定で、薄板101が剥離することが懸念され、かつ溶接品質にバラツキがある。この不具合は、特に第1厚板102及び第2厚板103が厚いほど第1厚板102と薄板101との間にナゲット105が到達しにくく、顕著である。
【0009】
また、同様に薄板101と第1厚板102間の溶け込み量が小さく溶接強度が不安定となる原因としては、薄板101が薄いため、可動側電極111の接触により熱が可動側電極111に奪われ、薄板101側の温度が上がらず、ナゲット105が形成されにくいこともある。
【0010】
この対策として、例えば特許文献1に開示されるスポット溶接方法がある。このスポット溶接方法は、図14に示すように、薄板101、第1厚板102、第2厚板103を重ね合わせた被溶接部材100をスポット溶接するときに、薄板101側に位置する可動側電極125の加圧力FUを、第2厚板103側に位置する固定側電極124の加圧力FLより小さくすることで、薄板101と第1厚板102との接合部の接触抵抗が大きくなると共に第1厚板102と第2厚板103との接合部の接触抵抗が小さくなり、可動側電極125と固定側電極124間に通電したときに、薄板101と第1厚板102との接合部における発熱量を増加させることができ、薄板101と第1厚板102の溶接強度を高めることができる。
【0011】
この方法の実施に用いられるスポット溶接ガンの構成は、図15に示すように、溶接ロボット115の手首部116にスポット溶接装置120が搭載され、溶接ロボット115は、クランパ118によって支持された被溶接部材100の各打点位置にスポット溶接ガン120を移動し、被溶接部材100のスポット溶接を行う。
【0012】
スポット溶接ガン120は、手首部116に取り付けられたガン支持ブラケット117に固定されたリニアガイド121によって上下動自在に支持されたベース部122を備え、このベース部122には下方に延びるC形ヨーク123が設けられ、このC形ヨーク123の下端先端に固定側電極124が設けられる。
【0013】
また、ベース部122の上端には、サーボモータ等の加圧アクチュエータ126が搭載され、加圧アクチュエータ126により上下動するロッド127の下端に固定側電極124と対向して可動側電極125が取り付けられる。ガン支持ブラケット117の上端にサーボモータ128が搭載され、サーボモータ128の作動によりボールねじ機構を介してベース部122が上下動する。
【0014】
ここで、図示しないコントローラに予め記憶されているティーチングデータに従って、薄板101側に位置する可動側電極125による加圧力FUを固定側電極124による加圧力FLよりも小さくする(FU<FL)。
【0015】
このように可動側電極125による加圧力FUを固定側電極124による加圧力FLより小さく(FU<FL)するために、コントローラは、先ず、サーボモータ128によりベース部122を上昇させて固定側電極124を被溶接部材100の下面に当接させると共に、加圧アクチュエータ126により可動側電極125を下降させて被溶接部材100の上面に当接させる。この場合、加圧アクチュエータ126の加圧力が可動側電極125と、ベース部122及びC形ヨーク123を介して固定側電極124とに均等に作用する
【0016】
次に、サーボモータ128によりベース部122を押し上げる。このベース部122の押し上げにより、固定側電極124の加圧力FLがベース部122の押し上げ分だけ増加し、可動側電極125による加圧力FUが固定側電極124による加圧力FLより小さくなる(FU<FL)。
【0017】
その結果、可動側電極125と固定側電極124との間に通電したときに、薄板101と第1厚板102の接合部における電流密度が高くなり発熱量が第1厚板102と第2厚板103の接合部における発熱量に対して相対的に増加する。これにより、薄板101から第2厚板103に亘って偏りのない良好なナゲットが形成され溶接強度を確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2003−251469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上記特許文献1によると、クランパ118によって支持された被溶接部材100の各打点位置にスポット溶接ガン120を移動し、被溶接部材100の第2厚板103側に固定側電極124を当接させると共に可動側電極125を薄板101に当接させ、更にベース部122を押し上げて固定側電極124の加圧力FLより可動側電極125側の加圧力FUを小さくすることで、相対的に薄板101と第1厚板102間の電流密度が高くなり、薄板101と第1厚板102の接合部における発熱量が確保でき、溶け込み量が増大して溶接強度が増加する。
【0020】
しかし、クランパ118によりクランプ保持された被溶接部材100を固定側電極124と可動側電極125によって挟持加圧した状態でベース部122を移動して固定側電極124の加圧力FLより可動側電極125による加圧力FUを小さくするには、被溶接部材100をクランプ保持するクランパ118に大きな負荷が要求される。一方、クランプ118による被溶接部材100のクランプ位置と溶接位置、即ち溶接打点位置が大きく離間した状態では、被溶接部材100が撓み変形して固定側電極124による加圧力FLと可動側電極125による加圧力FUにバラツキが生じて安定した薄板101と第1厚板102との間の接触抵抗及び第1厚板102と第2厚板103との間の接触抵抗の確保が困難であり、被溶接部材100の接合部における電流密度にバラツキが生じてスポット溶接の品質低下が懸念される。また、溶接加圧時の反力で移動し得るようにロボットの手首とベース部との間にイコライジング機能を備えたスポット溶接ガンでは使用できず、使用するスポット溶接ガンが制限される。
【0021】
従って、かかる点に鑑みてなされた本発明の目的は、剛性の異なる厚板と薄板を重ね合わせた被溶接体をスポット溶接する場合において安定した溶接品質が得られるスポット溶接装置及びスポット溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成する請求項1に記載の発明によるスポット溶接装置は、薄肉の板材である薄板、該薄板より剛性の大きい厚肉の板材である第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、ベース部と、該ベース部に支持された受部と、該ベース部に支持されて互いに対向して接離方向に移動する第1溶接電極及び第2溶接電極とを備え、上記薄板に当接する上記第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第1溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、上記薄板に当接する上記第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0023】
これによれば、薄板に当接する第2溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第1溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第1溶接電極によって加圧付与することで、第1溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第2溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第2溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第1溶接電極による加圧力より小さくなる。これにより、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成される。同様に薄板に当接する第1溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第2溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第2溶接電極によって加圧付与することで、第2溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第1溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第1溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第2溶接電極による加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【0024】
更に薄板、第1厚板、第2厚板の配置が異なる被溶接部材の相互間、例えば下から順に薄板、第1厚板、第2厚板が重なる3枚重ねの被溶接部材と、上から順に薄板、第1厚板、第2厚板が重なる3枚重ねの被溶接部材とを連続してスポット溶接する際にも溶接装置の姿勢変更範囲を小さくすることができる。
【0025】
上記目的を達成する請求項2に記載の発明によるスポット溶接装置は、薄板、該薄板より剛性の大きい第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、ベース部と、該ベース部に支持された受部と、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第1溶接電極と、上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記第1溶接電極と対向して退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第2溶接電極とを備え、上記第1加圧位置の第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第1加圧位置の上記第1溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、上記第2加圧位置の第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2加圧位置の上記第2溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0026】
これによれば、薄板に当接する第1加圧位置における第2溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第1加圧位置における第1溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第1加圧位置に第1溶接電極によって加圧付与することで、第1加圧位置の第1溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第2溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第2溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第1溶接電極による加圧力より小さくなる。これにより、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成される。同様に薄板に当接する第2加圧位置の第1溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第2加圧位置の第2溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第2加圧位置の第2溶接電極によって加圧付与することで、第2溶接電極による加圧力が被溶接部材の第2厚板に付与され、第1溶接電極による加圧力及び受部による加圧力が薄板に付与されて薄板側に位置する第1溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第2溶接電極による加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、相対的に薄板と第2厚板の接合部の電流密度が高くなり、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【0027】
上記目的を達成する請求項3に記載の発明によるスポット溶接装置は、厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、ベース部と、該ベース部に支持されて上記薄肉の板材と当接する受部と、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第1溶接電極と、上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第2溶接電極とを備え、上記受部、上記第1溶接電極および上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0028】
これによれば、薄肉の板材に当接する受部と第1アクチュエータによって移動する第1溶接電極及び第2アクチュエータによって移動する第2溶接電極によって被溶接部材を加圧挟持することで薄肉の板材と厚肉の板材との加圧力が厚肉の板材と厚肉の板材との加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄肉の板材と厚肉の板材の接合部の電流密度が高くなり、薄肉の板材から厚肉の板材に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【0029】
上記目的を達成する請求項4に記載の発明によるスポット溶接方法は、厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接方法において、ベース部に支持された受部に上記薄肉の板材を当接させるとともに、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって移動する第1溶接電極と上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって移動する第2溶接電極とによって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とする。
【0030】
これによると、薄肉の板材に当接する受部と第1アクチュエータによって移動する第1溶接電極及び第2アクチュエータによって移動する第2溶接電極によって被溶接部材を加圧挟持することで薄肉の板材と厚肉の板材との加圧力が厚肉の板材と厚肉の板材との加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄肉の板材と厚肉の板材の接合部の電流密度が高くなり、薄肉の板材から厚肉の板材に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、薄板に当接する第2溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第1溶接電極によって被溶接部材を挟持し、第1溶接電極によって加圧付与することで、薄板側に位置する第2溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第1溶接電極による加圧力より小さくなる。これにより、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成される。同様に薄板に当接する第1溶接電極及び受部と第2厚板に当接する第2溶接電極によって被溶接部材を挟持し、かつ第2溶接電極によって加圧付与することで、薄板側に位置する第1溶接電極による加圧力が第2厚板側に位置する第2溶接電極による加圧力より小さくなり、第1溶接電極と第2溶接電極との間に通電したとき、薄板から第2厚板に亘って溶け込み量の偏りのない良好なナゲットが形成されて被溶接部材に対する溶接品質が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態におけるスポット溶接装置の構成図である。
【図2】要部を示す図1のII矢視図である。
【図3】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図4】図3の要部断面作動説明図である。
【図5】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図6】図5の要部断面作動説明図である。
【図7】スポット溶接装置の模擬的に示す作動説明図である。
【図8】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図9】図8の要部断面作動説明図である。
【図10】スポット溶接装置の作動説明図である。
【図11】図10の要部断面作動説明図である。
【図12】スポット溶接装置の模擬的に示す作動説明図である。
【図13】従来のスポット溶接の概要を示す説明図である。
【図14】従来のスポット溶接の概要を示す説明図である。
【図15】従来のスポット溶接の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図12を参照して説明する。
【0034】
図1はスポット溶接装置の構成図、図2は要部を示す図1のII矢視図である。このスポット溶接装置の説明にあたり、便宜上図1における上方及び下方をスポット溶接装置における上方及び下方と称する。
【0035】
スポット溶接装置1の説明に先立って、被溶接部材100について図2を参照して説明する。被溶接部材100は、重ね合わされた2枚の厚板の一方に薄板を重ね合わせた、例えば順に剛性の低い薄肉の板材である薄板101、薄板101より板厚が大きく剛性が高い厚肉の板材である第1厚板102及び第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成される。
【0036】
スポット溶接装置1は、図1及び図2に示すように、例えば多関節型ロボット等の溶接ロボットのアーム先端部に取り付けられる手首部にイコライザユニット2を介在して支持され、溶接ロボットによって三次元方向に移動可能に構成される。そして、溶接ロボットは、図示しないクランパ等によって所定の位置に保持された被溶接部材100の予め設定された各打点位置、即ち溶接部にスポット溶接装置1を順次移動して被溶接部材100にスポット溶接を行う。
【0037】
スポット溶接装置1は、溶接ロボットの手首部にイコライザユニット2を介して取り付けられる装置取付ブラケット4及び装置取付ブラケット4に一体的に取り付けられるガンブラケット5からなるベース部3を備える。装置取付ブラケッ4はイコライザユニット2に連結される矩形平板状の取付基部4A及び取付基部4Aの両側から下方に折曲して対向する一対のガン取付部4Bを有する断面コ字状に形成される。
【0038】
装置取付ブラケット4の各ガン取付部4Bにそれぞれ対向してガンブラケット5が取り付けられる。各ガンブラケット5は、ガン取付部4Bに取り付けられる矩形板状で延在するブラケット本体6及びブラケット本体6から下方に延在する固定アーム支持部7が一体形成された略T字板状に形成される。
【0039】
対向するガンブラケット5に固定アーム10、第1加圧アクチュエータ20、第2加圧アクチュエータ30及び溶接トランス40が取付支持される。
【0040】
固定アーム10は、基端11aが各ガンブラケット5の固定アーム支持部7の端部に掛け渡されて結合されて下方に延在する断面略コ字形の固定アーム本体11及び固定アーム本体11の先端から折曲して延在する支持部12を有する略L字状であって、支持部12の先端部12aに上下方向に延在する中心軸心を有する筒状で上端13a及び下端13bの両端が支持部12から突出する受部13が形成される。
【0041】
第1加圧アクチュエータ20は、シリンダ装置或いはサーボモータ、本実施の形態ではサーボモータ21及びボールネジ送り機構等によって構成された直動部22を有し、サーボモータ21の作動によって直動部22のロッド23が昇降動する。直動部22のロッド23の下端に第1電極アーム24が設けられ、第1電極アーム24の先端に固定アーム10の受部13の中心軸心と同軸上に第1溶接電極25が取り付けられる。これにより第1溶接電極25は、その頂端25aが第1加圧アクチュエータ20のサーボモータ21の作動により受部13の上端13aから上方に離反する上昇移動端の退避位置と、被溶接部材100を受部13の上端13aと協働して挟持すると共に被溶接部材100に加圧力を付与する第1加圧位置と、受部13内を貫通して頂端25aが受部13の下端13bの位置に達する第2加圧位置との間で移動する。
【0042】
第2加圧アクチュエータ30は、シリンダ装置或いはサーボモータ、本実施の形態ではサーボモータ31及びボールネジ送り機構等によって構成された直動部32を有し、サーボモータ31の作動によって直動部32のロッド33を昇降動させる。直動部32のロッド33の下端に直線状の基部34A及び基部34Aの下端に折曲形成された電極保持部34Bを有するL字形の第2電極アーム34が設けられ、第2電極アーム34の電極保持部34Bに固定アーム10の受部13の中心軸心と同軸上に頂端35aが位置する第2溶接電極35が取り付けられる。また、ガンブラケット5の固定アーム支持部7に、第2電極アーム34の基部34Aに摺接して第2電極アーム34の移動をガイドする電極アーム摺動部36が設けられる。
【0043】
これにより第2溶接電極35が第2加圧アクチュエータ30のサーボモータ31の作動により受部13の下端13aから下方に離反する下降移動端の退避位置と、被溶接部材100を受部13の下端13b及び第2加圧位置における第1溶接電極25と協働して挟持すると共に被溶接部材100に加圧力を付与する第2加圧位置と、受部13内を貫通して受部13の上端13bの位置に達して受部13の上端13a及び第1加圧位置における第1溶接電極25と協働して被溶接部材100を挟持する第1加圧位置との間で移動する。
【0044】
電源となる溶接トランス40の出力端子41がバスバ43及び第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25に通電可能に接続され、出力端子42がバスバ44及び第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35に通電可能に接続される。
【0045】
また、図示しない溶接ロボットコントローラRCには、溶接ロボットのティーチングデータが格納され、ティーチングデータには、被溶接部材100の各溶接打点位置を順次スポット溶接するための作動プログラム及び各溶接打点、即ち溶接位置におけるスポット溶接装置1の位置及び姿勢が含まれる。図示しない溶接装置コントローラWCには溶接装置1の作動プログラム及び第1アクチュエータ20、第2アクチュエータ30及び溶接トランス40の作動制御が含まれる。
【0046】
次ぎに、スポット溶接装置1の作動を説明する。この説明にあたり説明の便宜上、スポット溶接すべき被溶接部材100が下から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接する第1溶接工程を図3乃至図7の作動説明図を参照して説明し、続いて被溶接部材100が上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接する第2溶接工程を図8乃至図12の作動説明図を参照して説明する。
【0047】
下から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた被溶接部材100のスポット溶接に第1溶接工程において、予め設定された作動プログラムに従い、第1溶接電極25が上昇移動端の待避位置に保持され、第2溶接電電極35が第1加圧位置、即ち第2溶接電極35の頂端35aが受部13の上端13aと対応する位置まで第2アクチュエータ30のサーボモータ31を回転制御して移動させる。
【0048】
この第1溶接電極25が待避位置で第2溶接電極35が第1加圧位置に保持された第1溶接電極25と第2溶接電極35が離反した状態で、溶接ロボットコントローラRCは溶接ロボットを作動し、予め設定されたプログラムに従いスポット溶接装置1を被溶接部材100の打点位置に移動し、図3に示すように固定アーム10に設けられた受部13の上端13a及び第2溶接電極35の頂端35aを被溶接部材100の下面、即ち薄板101に下方から当接した状態に位置決めする。
【0049】
このスポット溶接装置1が溶接位置に位置決めされた状態では、図4に示すように被溶接部材100の薄板101の下面に第2溶接電極35の先端35a及び第2溶接電極35の先端35aに近接して環状に受部13の上端13aが接触する一方、第1溶接電極25の先端25aが第2厚板103と間隙を有して対向する。
【0050】
次に、図5及び図7に示すように、受部13の上端13a及び第2溶接電極35の頂端35aが被溶接部材100の薄板101に当接した状態で第1加圧アクチュエータ20のサーボモータ21の作動により第1溶接電極25を退避位置から第1加圧位置方向に移動させて第2厚板103に圧接させて第2溶接電極35の頂端35aと第1溶接電極25の頂端25aとの間で被溶接部材100の溶接部を挟持すると共に加圧付与する。
【0051】
この被溶接部材100の薄板101に第2溶接電極35の頂端35a及び受部13が当接した状態で第1溶接電極25により第2厚板103に加圧力を付与した状態では、図7に模擬的に作動説明図を示すように第1加圧アクチュエータ20による加圧力が第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25から第2厚板103に上方から付与され、かつベース部3及び第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35から薄板101に下方から加圧力されると共に第2溶接電極35に隣接して固定アーム10を介して受部13から薄板101に下方から加圧力が付与される。
【0052】
この場合、第1加圧アクチュエータ20による加圧力が第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25に作用し、かつベース部3及び第2電極アーム34を介して第2溶接電極35に作用すると共に固定アーム10を介して受部13に作用し、第2厚板103に作用する第1溶接電極25による加圧力FUと薄板101に作用する第2溶接電極35による加圧力FL及び受部13による加圧力Fαの総和が等しくなる(FU=FL+Fα)。
【0053】
これにより、被溶接部材100は、第2厚板103側に上方から作用する第1溶接電極25から加圧力FUと、薄板35側に下方から作用する第2溶接電極35からの加圧力FL及び受部13からの加圧力Fαによって安定した状態で挟持保持される。
【0054】
一方、被溶接部材100の溶接部には、第1溶接電極25から第2厚板103に加圧力FUが付与され、薄板101に第2溶接電極35から加圧力FLが付与されると共に受部13から加圧力Fαが付与され、第2溶接電極35から薄板101に作用する加圧力FLとして第1溶接電極25による加圧力FUから受部13による加圧力Fαを減じた大きさの加圧力が付与される(FL=FU−Fα)。
【0055】
この薄板101側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLを第2厚板103側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUより小さく(FL<FU)することで、薄板101と第1厚板102の接合部における接触圧力が、第1厚板102と第2厚板103間の溶接部における接触圧力より小さくなり、相対的に薄板101と第1厚板102間の接触抵抗が大きくなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さくなる。
【0056】
ここで、仮に固定アーム10による受部13を備えない場合には、第2溶接電極35に被溶接部材100の薄板101に当接した状態で第1加圧アクチュエータ20の作動により第1溶接電極25を第2厚板103に圧接させて第2溶接電極35と第1溶接電極25との間で被溶接部材100の溶接部を挟持すると共に加圧付与すると、第1アクチュエータ20の加圧力が第1溶接電極25と第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35とに均等に作用し、第1溶接電極25により第2厚板103に付与される加圧力FUと第2溶接電極35により薄板101に付与される加圧力FLが均等に付与される。
【0057】
次に、第1溶接電極25と第2溶接電極35及び受部13とで被溶接部材100を挟持加圧して薄板101側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLを第2厚板103側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUより小さくした状態で、溶接トランス40から第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に所定時間通電して溶接する。この第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に通電した時に、相対的に薄板101と第1厚板102間の接合部における接触抵抗が大きく電流密度が高くなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さく保持される。これにより、薄板101と第1厚板102の接合部における発熱量が第1厚板102と第2厚板103の接合部における発熱量に対して相対的に増加して、薄板101から第2厚板103に亘って電流密度の偏りのない良好なナゲットが形成され、薄板101の溶接強度が確保できる。
【0058】
この溶接が完了した後、第1加圧アクチュエータ20の作動により第1溶接電極25を第1加圧位置から退避位置に移動させて、第1溶接電極25と第2溶接電極35及び受部13とによる被溶接部材100の挟持を開放する。
【0059】
次に、上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接する第2溶接工程を図8乃至図12の作動説明図を参照して説明する。
【0060】
上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた被溶接部材100をスポット溶接するにあたり、予め設定された作動プログラムに従い、第2溶接電極35が下降移動端の待避位置に保持され、第1溶接電極25が第2加圧位置、即ち第1溶接電極25の頂端25aが受部13の下端13bと対応する位置まで第1アクチュエータ20のサーボモータ21を回転制御して移動させる。
【0061】
この第2溶接電極35が待避位置で第1溶接電極25が第2加圧位置に保持されて第1溶接電極25と第2溶接電極35が離反した状態で溶接ロボットを作動し、予め設定されたプログラムに従いスポット溶接装置1を被溶接部材100の打点位置に移動し、図8に示すように固定アーム10に設けられた受部13の下端13b及び第1溶接電極25の頂端25aを被溶接部材100の上面、即ち薄板101に上方から当接した状態に位置決めする。
【0062】
このスポット溶接装置1が溶接位置に位置決めされた状態では、図9に示すように被溶接部材100の薄板101の上面に第1溶接電極25の先端25a及び第1溶接電極25の先端25aに近接して環状に受部13の下端13bが接触する一方、第2溶接電極35の先端35aが第2厚板103と間隙を有して対向する。
【0063】
次に、図10及び図11に示すように、受部13の下端13b及び第1溶接電極25が被溶接部材100の薄板101に当接した状態で第2加圧アクチュエータ30のサーボモータ31の作動により第2溶接電極35を退避位置から第2加圧位置方向に移動させて第2厚板103に圧接させて第1溶接電極25の頂端25aと第2溶接電極35の頂端35aとの間で被溶接部材100の溶接部を挟持すると共に加圧付与する。
【0064】
このように被溶接部材100の薄板101に第1溶接電極25の頂端25a及び受部13の下端13bが当接した状態で第2溶接電極35により第2厚板103に加圧力を付与した状態では、図12に模擬的に作動説明図を示すように第2加圧アクチュエータ30による加圧力が第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35から第2厚板103に下方から付与され、かつベース部3及び第1電極アーム24等を介して第1溶接電極25から薄板101に上方から加圧されると共に第1溶接電極25に隣接して固定アーム10を介して受部13から薄板101に上方から加圧力が付与される。
【0065】
この場合、第2加圧アクチュエータ30による加圧力が第2電極アーム34等を介して第2溶接電極35に作用し、かつベース部3及び第1電極アーム24を介して第1溶接電極25に作用すると共に固定アーム10を介して受部13に作用し、第2厚板103に作用する第2溶接電極35による加圧力FLと薄板101に作用する第1溶接電極25による加圧力FU及び受部13による加圧力Fαの総和が等しくなる(FL=FU+Fα)。
【0066】
これにより、被溶接部材100は、第2厚板103側に下方から作用する第2溶接電極35から加圧力FLと、薄板35側に上方から作用する第1溶接電極25からの加圧力FU及び受部13からの加圧力Fαによって安定した状態で挟持保持される。
【0067】
一方、被溶接部材100の溶接部には、第2溶接電極35から第2厚板103に加圧力FLが付与され、第1溶接電極25から薄板101に加圧力FUとして第2溶接電極35による加圧力FLから受部13による加圧力Fαを減じた大きさの加圧力が付与される(FU=FL−Fα)
【0068】
この薄板101側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUを第2厚板103側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLより小さく(FU<FL)することで、薄板101と第1厚板102の接合部における接触圧力が、第1厚板102と第2厚板103間の溶接部における接触圧力より小さくなり、相対的に薄板101と第1厚板102間の接触抵抗が大きくなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さくなる。
【0069】
次に、第2溶接電極35と第1溶接電極25及び受部13とで被溶接部材100を挟持加圧して薄板101側に位置する第1溶接電極25の加圧力FUを第2厚板103側に位置する第2溶接電極35の加圧力FLより小さくした状態で、溶接トランス40から第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に所定時間通電して溶接する。この第1溶接電極25と第2溶接電極35との間に通電した時に、相対的に薄板101と第1厚板102間の接合部における接触抵抗が大きく電流密度が高くなると共に、第1厚板102と第2厚板103間の接触抵抗が小さく保持される。これにより、薄板101と第1厚板102の接合部における発熱量が第1厚板102と第2厚板103の接合部における発熱量に対して相対的に増加して、薄板101から第2厚板103に亘って電流密度の偏りのない良好なナゲットが形成され、薄板101の溶接強度が確保できる。
【0070】
この溶接が完了した後、第2加圧アクチュエータ30の作動により第2溶接電極35を第2加圧位置から退避位置に移動させて、第1溶接電極25と第2溶接電極35及び受部13とによる被溶接部材100の挟持を開放する。
【0071】
次に、溶接ロボット1を作動して、スポット溶接装置10を被溶接部材100の打点位置から退避させ、次の被溶接部材100の打点位置に移動する。
【0072】
このように構成された本実施の形態によると、剛性の低い薄板101、この薄板101より剛性の高い第1厚板102、第2厚板103が重ね合わされた3枚重ねの板組によって構成された被溶接部材100をスポット溶接するスポット溶接装置1が、ベース部3に固定アーム10を介して設けられた受部13と、第1加圧アクチュエータ20によって退避位置、第1加圧位置、第2加圧位置を移動する第1溶接電極25と、第2加圧アクチュエータ30によって退避位置、第2加圧位置、第1加圧位置の間で移動可能な第2溶接電極35備え、第1加圧位置の第2溶接電極35及び受部13と、第2溶接電極35と対向する第1加圧位置の第1溶接電極25とによって被溶接部材100を挟持と共に薄板101に第2溶接電極35によって加圧力FLを付与すると共に受部13によって加圧力Fαを付与し、第2厚板103に第1溶接電極25によって加圧力FUを付与することで、薄板101と第1厚板102間の接触圧力が第1厚板102と第3厚板103の接触圧力より小さく制御され、第1溶接電極25と第2溶接電極35を通電したときに薄板101と第1厚板102の接合部の電流密度が第1厚板102と第2厚板103の接合部の電流密度に対して相対的に高くなるため、薄板101から第2厚板103に亘って大きく溶け込んだ偏りのない良好なナゲットが形成され、薄板101の溶接強度を確保できる。同様に第2加圧位置の第1溶接電極25及び受部13と、第2加圧位置の第2溶接電極35とによって被溶接部材100を挟持すると共に薄板101に第1溶接電極25によって加圧力FUを付与すると共に受部13によって加圧力Fαを付与し、第2厚板103に第2溶接電極35によって加圧力FLを付与することで、薄板101と第1厚板102間の接触圧力が第1厚板102と第3厚板103の接触圧力より小さく制御され、第1溶接電極25と第2溶接電極35を通電したときに薄板101から第2厚板103に亘って大きく溶け込んだ偏りのない良好なナゲットが形成され薄板101の溶接強度を確保でき、安定した溶接品質が得られる。これにより薄板101、第1厚板102、第2厚板103の配置が異なる被溶接部材100の相互間、例えば下から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重なる3枚重ねの被溶接部材100と、上から順に薄板101、第1厚板102、第2厚板103が重なる3枚重ねの被溶接部材100とを連続してスポット溶接する際にも溶接装置1の姿勢変更範囲を小さくすることができる。
【0073】
なお、本発明は上記実施に形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、第1加圧アクチュエータ20及び第2加圧アクチュエータ30としてサーボモータ21、31を使用したがエアシリンダを使用することも、直動部22、32としてボールネジ送り機構を使用したが他のギヤ機構等により構成することができる。
【0074】
また、受部13として上端13a及び下端13bを有する筒状に形成したが、被溶接部材100の形状等に応じて半割筒状や、固定アーム10の支持部12から突出する半円弧状の突状等に変更可能である。
【0075】
また、被溶接部材100は3枚重ねに限らず、剛性の異なる厚板と薄板を重ね合わせたものであれば、4枚以上を重ねたものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 スポット溶接装置
3 ベース部
10 固定アーム
13 受部
20 第1加圧アクチュエータ
24 第1電極アーム
25 第1溶接電極
30 第2加圧アクチュエータ
34 第2電極アーム
35 第2溶接電極
100 被溶接部材
101 薄板(薄肉の板材)
102 第1厚板(厚肉の板材)
103 第2厚板(厚肉の板材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板、該薄板より剛性の大きい第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、
ベース部と、
該ベース部に支持された受部と、
該ベース部に支持されて互いに対向して接離方向に移動する第1溶接電極及び第2溶接電極とを備え、
上記薄板に当接する上記第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第1溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、
上記薄板に当接する上記第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
薄板、該薄板より剛性の大きい第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、
ベース部と、
該ベース部に支持された受部と、
上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第1溶接電極と、
上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記第1溶接電極と対向して退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第2溶接電極とを備え、
上記第1加圧位置の第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第1加圧位置の上記第1溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、
上記第2加圧位置の第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2加圧位置の上記第2溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項3】
厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、
ベース部と、
該ベース部に支持されて上記薄肉の板材と当接する受部と、
上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第1溶接電極と、
上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第2溶接電極とを備え、
上記受部、上記第1溶接電極および上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項4】
厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接方法において、
ベース部に支持された受部に上記薄肉の板材を当接させるとともに、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって移動する第1溶接電極と上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって移動する第2溶接電極とによって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接方法。
【請求項1】
薄板、該薄板より剛性の大きい第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、
ベース部と、
該ベース部に支持された受部と、
該ベース部に支持されて互いに対向して接離方向に移動する第1溶接電極及び第2溶接電極とを備え、
上記薄板に当接する上記第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第1溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、
上記薄板に当接する上記第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2厚板に当接する上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項2】
薄板、該薄板より剛性の大きい第1厚板、第2厚板を順に重ね合わせた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、
ベース部と、
該ベース部に支持された受部と、
上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第1溶接電極と、
上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記第1溶接電極と対向して退避位置と第1加圧位置と第2加圧位置とに移動する第2溶接電極とを備え、
上記第1加圧位置の第2溶接電極及び該第2溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第1加圧位置の上記第1溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第1溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接し、
上記第2加圧位置の第1溶接電極及び該第1溶接電極に隣接して上記薄板に当接する上記受部と上記第2加圧位置の上記第2溶接電極とによって上記被溶接部材を挟持すると共に第2溶接電極によって加圧付与し、該挟持加圧状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項3】
厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接装置において、
ベース部と、
該ベース部に支持されて上記薄肉の板材と当接する受部と、
上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第1溶接電極と、
上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって上記受部に対して相対移動する第2溶接電極とを備え、
上記受部、上記第1溶接電極および上記第2溶接電極によって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接装置。
【請求項4】
厚肉の板材を複数枚重ね合わせるとともに、これら板材に薄肉の板材を重ね合わせてた被溶接部材をスポット溶接するスポット溶接方法において、
ベース部に支持された受部に上記薄肉の板材を当接させるとともに、上記ベース部に支持された第1加圧アクチュエータによって移動する第1溶接電極と上記ベース部に支持された第2加圧アクチュエータによって移動する第2溶接電極とによって上記被溶接部材を加圧挟持した状態で上記第1溶接電極と第2溶接電極との間で通電してスポット溶接することを特徴とするスポット溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−200738(P2012−200738A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65355(P2011−65355)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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