説明

スポンジローラ

【課題】 連泡構造のスポンジ層を有するスポンジゴムローラにおいて、熱変形した楕円球状気泡の発生を防止する。
【解決手段】 芯金の周りに、吸水性発泡樹脂を含む未加硫の発泡性シリコーンゴムを注入した後、該ゴム層に少なくとも一次〜二次加硫を施して、連泡構造を含むスポンジ層を形成するにあたり、一次加硫を100℃未満の低温液体中で80分以下の短時間下の高速硬化方式で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連泡構造のシリコーンゴムスポンジ層を設けたスポンジローラの改良に関する。さらに詳しくは、本発明は、プリンターや複写機等の画像熱定着部の加圧ローラとして有用なスポンジローラの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、シリコーンゴムスポンジ層を設けたスポンジローラにおいて、該スポンジ層を連泡構造にする提案がなされている(例えば、特許文献1および特許文献2参照。)。これらの提案によれば、該連泡構造は水を含有する吸水性ポリマーの水分が蒸発してできたセルを利用して得られる。その結果、該スポンジ層は高い連泡率と優れた圧縮弾性を有することから、加圧ローラとして充分な反発弾性とニップ幅確保機能を発揮する。
【0003】
【特許文献1】特開2004―70159号公報
【特許文献2】特開2004―139026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、この度の本発明者らの検討で、上記のスポンンジローラが、定着用フィルムと併用されるサーフ(オンデマンド)定着方式やベルト定着方式の加圧ローラに適用された場合、深刻な問題が内在していることが判明した。この問題とは、位置固定されることなくスポンンジローラに従動しながら自由走行する定着用フィルムや、定着ベルトが該ローラの一方の端部に寄ってしまい、最終的には該フィルムの損傷・破損に至る、ことである。
【0005】
本発明者らは、上記問題の原因の解明に努めた結果、芯金界面近傍のスポンンジ層に熱変形した楕円球状気泡が存在し、この楕円球状気泡に因るスポンジ層の面圧斑が定着用フィルムや定着ベルトの“寄り“、ひいてはフィルムの損傷・破損を惹起せしめていることを究明した。
【0006】
したがって、本発明の課題は、上記の熱変形した楕円球状気泡の発生を防止する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、芯金の周りに、水を含有する吸水性ポリマーを含む未加硫のシリコーンゴムを注入した後、該ゴムに少なくとも一次〜二次加硫を施して、連泡構造を含むスポンジ層を形成するにあたり、一次加硫を100℃未満の低温液体中で80分以下の短時間下の高速硬化方式で行うことにより、楕円球状に変形した気泡の発生が防止されることが見出された。
【発明の効果】
【0008】
本発明のスポンジローラを、定着用フィルムと併用されるサーフ(オンデマンド)定着方式やベルト定着方式の加圧ローラとして配した場合、以下のような顕著な効果が奏される。
a.最終的に得られるスポンジ層に楕円球状に熱変形した気泡が発生していないので、スポンジ層全体に亘って楕円球状に熱変形した気泡の発生が防止され、スポンジローラの面圧が均一となる。これにより、定着フィルム、定着ベルトの“寄り”を阻止し、もって、定着フィルムや定着ベルトの破損を防止することができる。
b.一次加硫時の熱媒体である液体が熱伝導率の高い液体であるために、従来のエアー循環方式を採用した場合に比べて、短時間で均一な硬化処理が進行する為、著しく生産性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明を説明する。
図1は、本発明における一次加硫の態様の一例を示す略線図である。
図2は、図1の態様における金型内部の温度を示すグラフである。
図3は、従来法であるオーブンでの一次加硫の態様を示す略線図である。
図4は、図3の態様における金型内部の温度を示すグラフである。
図5は、スポンジローラ一般の構造を示す縦断面図である。
図6は、図5のスポンジローラをサーフ定着方式の加圧ローラとして配した場合の概略図である。
図7は、本発明で得られたスポンジローラをサーフ定着方式の加圧ローラとして適用した際の相手方定着フィルムに伝達される寄り力の測定結果を示すグラフである。
図8は、従来法(オーブンでの一次加硫)によるスポンジローラをサーフ定着方式の加圧ローラとして適用した際の相手方定着フィルムに伝達される寄り力の測定結果を示すグラフである。
【0010】
図1において、(1)は芯金、(2)は水を含有する吸水性ポリマー(以下、“吸水性ポリマー”と略記)と中空フィラーとを添加した未加硫のシリコーンゴム、(3)は金型、(4)は芯金(1)を挿入・保持するための孔、(5)はシリコーンゴムを注入する際の空気を抜くための孔、(6)はシリコーンゴム注入口、(7)は加熱媒体としての水、(8)は水を温めるためのヒータ管である。この場合、芯金(1)は、金型(3)の中央部に垂直に載置され、孔(4)で位置固定された状態で、未加硫のシリコーンゴム(2)が、シリコーンゴム注入口(6)から金型(3)内に注入される。
【0011】
上記の態様において、一次加硫を100℃未満の水浴中で80分以下の短時間下の高速硬化方式で行うことにより、最終的に得られるスポンジゴム層内で、楕円球状に熱変形した気泡の発生が防止される。ここで、水浴温度が100℃を超えると、一次加硫が過度に進行し、また、吸水性ポリマーが熱劣化して、二次加硫以降での楕円球状に熱変形した気泡が発生する懸念がある。このことは、加硫時間についても言え、100℃未満の水浴であっても、加硫時間が80分を超えると、同様の懸念が生じる。これらの温度、時間について好ましい範囲は、前者が20〜80℃、後者が30〜60分である。なお、この例での加熱媒体は水であるが、その他オイルなど熱伝導率の高い液体であれば適宜用いられる。
【0012】
このような高速硬化方式の利点は、図2に示すとおりである。すなわち、金型(3)の上部、中部および下部で加熱斑なく殆ど同一温度にしかも短時間で、一次加硫の設定温度に達していることがわかる。このことを従来方式と比較してみる。
【0013】
従来の一次加硫の態様は、図3に示されるように、芯金(1)を載置した金型(3)内に吸水性ポリマーと中空フィラーとを添加した未加硫のシリコーンゴム(2)を注入し、ついで、該金型を加熱オーブン(エアー循環)方式内に置いて一次加硫を行うものである。この図3および図1に共通して言えることとして、金型の上部にはシリコーンゴム注入する際の空気を抜くための孔(5)が存在する。
【0014】
ここで、加熱媒体である空気は熱伝導率が低いので、その熱は、図4に示すように、金型(3)から内部に向かって徐々に伝わる。しかも、この際の熱伝導は、金型の上部、中部および下部の間で斑がある。この為、未加硫のシリコーンゴム(2)は、金型(3)側から中心(芯金(1))に向かって徐々に温められながら熱膨張するので、最も温まり難い芯金(1)の界面付近、特に図1〜図2の(B)の箇所に歪みが発生する。この状態で設定温度に達し、さらに加熱が続行されると、シリコーンゴムに添加されていた吸水性ポリマー中の水が、シリコーンゴムを注入する際の空気を抜くための孔(5)から逃げようとし、その結果、吸水性ポリマーは楕円球状に変形してしまう。そして、二次加硫工程以降での発泡処理時に該楕円球状吸水性ポリマー中の水分が蒸発して、そのまま楕円球状気泡が残る、ものと推測されるのである。
【0015】
この点、本発明にしたがって一次加硫を高速硬化方式で行うと、上記の歪みが発生するまえに所望のゴム硬化が起こるので、吸水性ポリマーの楕円球状変形、ひいては、二次加硫工程以降での発泡処理時に楕円球状気泡の生成が防止される。事実、本発明の高速硬化方式を経て得られた連泡構造のスポンジローラにあっては、これをサーフ定着方式の加圧ローラとして配した場合、相手方の定着フィルムの“寄り力”を150g以下に低減できる。
【0016】
この“寄り力”について、図5および図6に基づいて述べる。図5は、スポンジローラの縦断面図で、芯金(1)の外周には連泡構造のスポンジ層(2a)が形成され、さらに該スポンジ層の外周には離型層(9)が設けられている。そして、このローラが、サーフ定着方式の加圧ローラとして配された態様を示したのが図6である。ここで、(10)は定着フィルムである。この態様において、スポンジ層(2a)が従来のオーブン方式を経て形成されている場合、定着フィルム(10)は、(A)方向へ寄る。つまり、スポンジローラから該フィルムに対して(A)方向の寄り力が掛かる。そして、この寄り力が増加していくと、終には定着フィルム(10)が破損する。この破損は寄り力が250g以上になると、しばしば生じる。
【0017】
図7は、本発明で得られた任意の4本のスポンジローラについて、サーフ定着方式を実施した際の寄り力を示している。いずれの場合も、定着フィルム(10)に負荷される寄り力はいずれも150g以下で、しかもバラツキがないことが分かる。これは、各スポンジローラの面圧が均一であり、したがって、それらのスポンジ層には変形した気泡、特に楕円球状に変形した気泡が含まれていないことの所産である。その結果、本発明によるスポンジローラは、定着フィルムや定着ベルトの破損を惹起することなく、長期間安定した画像定着を可能にする。
【0018】
これに対して、図8は、従来のオーブン方式を経て得られた任意の4本のスポンジローラについて、サーフ定着方式を実施した際の寄り力を示している。各定着フィルムに掛かる寄り力は150g強から300gに亘ってバラツキが生じているばかりか、ローラ毎にも寄り力が安定していない。これは、各スポンジローラの面圧が不均一であり、したがって、それらのスポンジ層には変形した気泡、特に楕円球状に変形した気泡が含まれている所産である。その結果、従来のスポンジローラは、定着フィルムや定着ベルトを容易に破損させ、長期間安定した画像定着は臨むべくもない。
【0019】
上記二つの実験では、スポンジローラとして、外径が11mmで、一端に長ボス(外径8mmで長さ50mm)を、そして他端に短ボス(外径8mmで長さ15mm)を設けたステンレス製芯金(1)の外周に厚みが3mmで長さが230mmのスポンジ層(2a)、ついで厚みが30μmのフッ素樹脂のフィルムから成る離型層(9)を設けたローラを用いた。他方、該ローラに接触走行する定着フィルム(10)としては、厚みが100μm、幅が240mm、周長が56mmのポリイミド製フィルムを用いた。また、寄り力は、上記スポンジローラと定着フィルムを図6のようなサーフ定着方式の装置に備え付け、さらに該定着フィルムの寄り方向(A)端部に歪みゲージを取付けて、回転速度60rpmで装置を稼動させた場合の寄り力を、ロードセルを使って測定した。
【0020】
以下、本発明にしたがう製造例について述べる。
【0021】
まず、未加硫のシリコーンゴムの例としては、液状シリコーンゴム100重量部に対して、吸水性ポリマーを0.1〜20重量部、中空フィラーを0.01〜10重量%、水を10〜200重量部、そして白金化合物触媒のような硬化触媒を添加した組成物ものと、液状シリコーンゴム100重量部に対して、吸水性ポリマーを0.1〜20重量部、中空フィラーを0.01〜10重量%、水を10〜200重量部、そしてSiHポリマーのような架橋剤を添加した組成物とを等量配合したもの各100部を十分に攪拌脱泡させて得られる配合物が挙げられる。なお、中空フィラーは、スポンジ層の圧縮弾性の向上に寄与する。
【0022】
ここで、吸水性ポリマーは、高分子の分野では周知のものであり、例えばアクリル酸ないしメタアクリル酸のアルカリ金属塩の重合体、ポリアルキレングリキール、特にポリエチレングリコール類をグラフトしたアクリル酸ないしメタアクリル酸の重合体、ポリアルキレングリキール、特にポリエチレングリコール類をブレンドないしは共重合したポリエステルやポリアミド、N−ビニールカルボン酸アミド系の架橋重合体などが挙げられる。
【0023】
さらに、中空フィラーとしては、無機硬質バルーンやガラスバルーンが挙げられる。これらバルーンの表面には、炭酸カルシウムのような無機フィラーがコーティングされていてもよい。
【0024】
以上に述べた組成物は、現実には、液状シリコーンベースポリマーに吸水性ポリマー、水、中空フィラー、および硬化触媒を添加した組成物として、例えば、「XE15−B9193A」(GE東芝シリコーン株式会社製)が、また、液状シリコーンベースポリマーに吸水性ポリマー、水、中空フィラー、および架橋剤を添加した組成物として、例えば、「XE15−B9193B」(GE東芝シリコーン株式会社製)が流通しているので、これらを利用するの効率的である。
【0025】
以上のような成分を含む未加硫シリコーンゴム配合物は、図1に示すような形で金型(4)に注入された後、既に述べた高速硬化方式による一次加硫が施される。この一次加硫においては、周知のようにシリコーンゴムが硬化し、しかも吸水性ポリマー中の水分を蒸発させないようにしながら、型成型する。
【0026】
ついで、第2段階以降の加硫処理、好ましくは2次および3次加硫を行う。第2段階では、該型成形物を120〜250℃、好ましくは120〜180℃で1〜5時間加熱して、含まれている水及び水を含んだ不純物中の水分を蒸発させる。この水分が蒸発する際に、独立した各気泡同士が連泡構造体に転化される。そして、第3段階では、得られた連泡構造体を180〜300℃、好ましくは200℃〜250℃で2〜8時間加熱して、はじめて硬化させることにより、楕円球状気泡を含まないシリコーンスポンジ層が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明にしたがって得られるスポンジローラは、これに接して回転する相手方部材に均一な面圧を与えるので、熱で紙等を完全にフィルムパックするラミネーターの加圧ローラにも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明における一次加硫の態様の一例を示す略線図。
【図2】図1の態様における金型内部の温度を示すグラフ。
【図3】従来法であるオーブンでの一次加硫の態様を示す略線図。
【図4】図3の態様における金型内部の温度を示すグラフ。
【図5】スポンジローラ一般の構造を示す縦断面図。
【図6】図5のスポンジローラをサーフ定着方式の加圧ローラとして配した場合の概略図。
【図7】本発明で得られたスポンジローラをサーフ定着方式の加圧ローラとして適用した際の相手方定着フィルムに伝達される寄り力の測定結果を示すグラフ。
【図8】従来法(オーブンでの一次加硫)によるスポンジゴムローラをサーフ定着方式の加圧ローラとして適用した際の相手方定着フィルムに伝達される寄り力の測定結果を示すグラフ。
【符号の説明】
【0029】
1 芯金
2 吸水性ポリマーを含む未加硫のシリコーンゴム
2a スポンンジ層
3 金型
4 芯金(1)を挿入・保持するための孔
5 シリコーンゴムを注入する際の空気を抜くための孔
6 シリコーンゴム注入口
7 水
8 ヒータ管
9 離型層
10 定着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金の周りに、水を含有する吸水性ポリマーを添加した未加硫のシリコーンゴムを注入した後、該ゴム層に少なくとも一次〜二次加硫を施して、連泡構造を含むスポンジ層を形成するにあたり、該一次加硫を100℃未満の低温液体中で80分以下の短時間下の高速硬化方式で行うことにより、最終的に得られるスポンジ層に楕円球状に熱変形した気泡の発生を防止することを特徴とするスポンジローラの製造方法。
【請求項2】
該低温液体が水である請求項1に記載のスポンジローラの製造方法。
【請求項3】
該低温液体の温度が20〜80℃である請求項1または2に記載のスポンジローラの製造方法。
【請求項4】
該一次加硫の時間が30〜60分である請求項1〜3のいずれかに記載のスポンジローラの製造方法。
【請求項5】
該未加硫のシリコーンゴムが中空フィラーを含む請求項1〜4のいずれかに記載のスポンジローラの製造方法。
【請求項6】
芯金の外周に連泡構造のスポンジ層を設けたスポンジローラであって、該スポンジ層は楕円球状に熱変形した気泡を含まない連泡構造であることを特徴とするスポンジローラ。
【請求項7】
該連泡構造が、請求項1に記載の高速硬化方式を経て得られた請求項6に記載のスポンジローラ。
【請求項8】
該スポンジ層の外周に離型層を設けた請求項6または7に記載のスポンジローラ。
【請求項9】
請求項8に記載のスポンジローラが、ベルト定着方式において加圧ローラとして組み込まれた定着装置。
【請求項10】
請求項8に記載のスポンジローラが、加圧ローラとこれに従動して自由走行する定着フィルムとを含むサーフ定着方式において、該加圧ローラとして組み込まれた定着装置。
【請求項11】
該加圧ローラから該定着フィルムに対して、150g以下の寄り力が伝達される請求項10に記載の定着装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−298836(P2007−298836A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127776(P2006−127776)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(000226932)日星電気株式会社 (98)
【Fターム(参考)】