説明

スライディングノズルプレート

【課題】高耐食性で高熱膨張の耐火物を用いて大型化が可能なSNプレートを提供すること。
【解決手段】アルミニウムなどを添加することで耐食性を向上させ、1500℃における熱膨張率が1.15%以上2.50%以下の特定耐火物1aを、少なくとも使用重要部をカバーするように部分的に配置した。特定耐火物1aの厚みは15mm以上25mm以下とする。特定耐火物1aを配置した以外の部分は、アルミナカーボンを主成分とする不焼成耐火物又は焼成耐火物で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼の流量を制御するスライディングノズル装置(以下「SN装置」という。)に用いられるプレートれんがである、スライディングノズルプレート(以下「SNプレート」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の製造において、取鍋やタンディッシュ等の溶融金属容器から排出される溶鋼の流量を制御するために、SN装置が使用される。このSN装置には2枚又は3枚の耐火物製のノズル孔を持つSNプレートが使用される。このSNプレートは拘束された条件下、重ね合わせられ、さらに面圧が負荷された状態で摺動され、ノズル孔の開度を調整することで溶鋼の流量が調整される。
【0003】
このことから、SNプレートには、溶鋼中の成分やスラグなどに対する耐食性はもちろんのこと、鋳造時の熱応力に対する耐スポーリング性も求められる。
【0004】
従来、SNプレートの耐食性を向上させる手段として、アルミニウムやシリコンなどの金属を添加することが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−027968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、耐食性向上のために金属を多量に添加すると、SNプレートが高熱膨張となり、耐スポーリング性が低下する。とくに、溶鋼が通過するノズル孔の孔径が50mmを超えるような大型のSNプレート(例えば、A寸(長さ)=550mm,B寸(幅)=250mm,C寸(厚み)=45mm)では、耐スポーリング性の問題が顕著となる。つまり、大型のSNプレートでは、高熱膨張になると焼成亀裂(焼成時の亀裂)が生じる可能性が高く、仮に焼成亀裂が生じなくとも、初期亀裂(溶鋼が通過した際にスポーリングによって生じる亀裂)が生じるおそれが高く、使用困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、高耐食性で高熱膨張の耐火物を用いて大型化が可能なSNプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のSNプレートは、1500℃における熱膨張率が1.15%以上2.50%以下の特定耐火物を、少なくとも使用重要部をカバーするように部分的に配置したことを特徴とするものである。
【0009】
なお、「使用重要部」とは、概念的にはSNプレートの摺動面(稼働面)においてとくに耐食性が要求される部分のことであるが、詳しくは後で定義する。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、SNプレートの耐食性を向上させるためにアルミニウムなどを添加することで1500℃における熱膨張率が1.15%以上の高熱膨張となった特定耐火物を、使用重要部をカバーするように配置する。ただし、この特定耐火物によってSNプレートの全体を形成すると、耐スポーリング性の低下の影響が顕著となるので、本発明では、特定耐火物を、少なくとも使用重要部をカバーするように「部分的」に配置する。すなわち、本発明では、とくに耐食性の要求される使用重要部あるいはその周辺には特定耐火物を配置し、それ以外の部分は他の耐火物で形成することで、高熱膨張の特定耐火物によって形成される部分を小型化する。これによって、特定耐火物を使用して大型のSNプレートを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のSNプレートの使用重要部を示す図である。
【図2】本発明のSNプレートにおいて特定耐火物を配置する部分の例を示す図である。
【図3】本発明のSNプレートの一例を示し、(a)は摺動面を示す底面図、(b)は断面図である。
【図4】FEM計算した各モデルのCADモデルを示す。
【図5】SNプレートのノズル孔のエッジ部に発生する最大応力をFEM計算した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明では、例えばアルミニウムなどの耐食性付与効果の高い金属を添加することで得られた1500℃における熱膨張率が1.15%以上2.50%以下の特定耐火物を、少なくともSNプレートの使用重要部をカバーするように部分的に配置する。特定耐火物を配置した以外の部分(母材)は、SNプレートの耐火物として汎用されているアルミナカーボンを主成分とする不焼成耐火物又は焼成耐火物などで構成することができる。
【0013】
ここで「使用重要部」とは、SNプレートの摺動面においてとくに耐食性が要求される部分であり、より具体的には、図1に示すように、SNプレート1の摺動面において、ストローク部S(実操業時に溶鋼と直接接触する部分)に、ノズル孔周辺部Hを加えた部分が使用重要部Dである。なお、図1においてS1は、全開位置と全閉位置におけるノズル孔の中心間距離、αは、ノズル孔周辺部Hの幅を示す。S1はSN装置の仕様によって決まる。αは、いわゆる安全代であり、10mm以上30mm以下であることが好ましい。αが10mm未満であると、ノズル孔のエッジ欠けによって母材が溶鋼に曝されるおそれがあり、構造的にも製造が困難で、製造できたとしても歩留まりが著しく悪い。一方、αが30mmを超えると、耐スポーリング性の低下の影響が顕著となる。
【0014】
本発明では、少なくとも図1に示す使用重要部Dをカバーするように上述の特定耐火物を部分的に配置する。例えば、図1に示す使用重要部Dにのみ特定耐火物を配置してもよいし、図2に示すように、図1に示す使用重要部DをカバーするD1ないしD3の部分に特定耐火物を配置してもよい。
【0015】
本発明のSNプレートに使用する特定耐火物は、耐食性付与効果の高い原料を含有する。耐食性付与効果の高い原料としては、金属アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化クロムなどが挙げられる。このような原料はSNプレートの高熱膨張化を招き、耐スポーリング性の弊害となる。例えば、アルミナカーボン系のSNプレートに金属アルミニウムを5質量%添加すると耐食性は向上するが、熱膨張率は1.15%となり高熱膨張化に伴った耐火物使用時の亀裂が懸念される。耐食性付与効果の高い原料は熱膨張率2.50%までは耐食性付与効果を奏するが、それ以上は耐食性付与効果は見込めない。いずれにしろ熱膨張率1.15%以上2.50%以下のSNプレートは高耐食性となるが、製造時の焼成亀裂や使用時のスポーリングによる亀裂(初期亀裂)の問題により、とくに大型のSNプレートには適用できなかった。本発明は1500℃における熱膨張率が1.15%以上2.50%以下の特定耐火物の適用を、使用重要部をカバーする部分に限定することで上記問題点の改善を図っている。
【0016】
特定耐火物の厚みは15mm以上25mm以下であることが好ましい。特定耐火物の厚みが15mm未満あるいは25mm超であると、FEMを用いた計算結果からノズル孔のエッジ部に発生する最大応力が大きくなり、エッジ欠けや亀裂の問題が懸念される。
【0017】
また、特定耐火物は、その底部外周がカットされていることが好ましい。特定耐火物の底部外周をカットすることで、特定耐火物を、使用重要部をカバーする部分にセットする際の作業性が向上する。このような作用効果を顕著に奏するには、特定耐火物の底部外周はR5以上又はC5以上でカットすることがより好ましい。
【実施例1】
【0018】
本発明の実施例として、特定耐火物を、使用重要部をカバーするように部分的に配置してSNプレートを製造した。また、比較例として、実施例と同じ特定耐火物を全体に適用してSNプレートを製造した。
【0019】
(実施例1−1)
製造したSNプレートの形状は、図3に示すとおりで、この実施例では、A寸(長さ)=500mm,B寸(幅)=250mm,C寸(厚み)=40mmとした。また、本発明の実施例において特定耐火物1aは、全開位置と全閉位置におけるノズル孔の中心間S1を250mm、ノズル孔の孔径φを100mm、SNプレートの摺動方向の安全代α1を10mm、摺動方向と直交する方向の安全代α2を25mmとして、SNプレートの摺動方向の長さがS1+ φ + 2α1=370mm 、摺動方向と直交する方向の長さがφ + 2α2=150mmで規定される部分D4に厚み20mmにて配置した。このD4の部分は、図1で説明した使用重要部Dをカバーする。
【0020】
特定耐火物としては、アルミナ粉末:92質量%、カーボン粉末:3質量%、金属アルミニウム粉末:5質量%の配合物を混合し、乾燥、焼成したものを使用した。この特定耐火物の1500℃における熱膨張率は1.15%、音速弾性率は80GPaであった(表3、4の材質A)。
【0021】
本発明の実施例では、この特定耐火物を上述の部分D4に限定して適用し、この部分D4以外(母材)には、アルミナ粉末:95質量%、カーボン粉末:3質量%、金属シリコン粉末:3質量%を混合し、乾燥、焼成したアルミナカーボン質の耐火物を適用した。すなわち、本発明の実施例では、部分D4に対応する形状の特定耐火物を準備し、これを母材の耐火物にモルタルを介して嵌め込むことでSNプレートを製作した。一方、比較例では、上述の特定耐火物を、図3に示したSNプレートの全体に適用した。つまり、比較例では、上述の特定耐火物の配合物によってSNプレート全体を形成し、乾燥、焼成した。
【0022】
製造の結果、本発明の実施例では、亀裂を生じることなく良好なSNプレートが得られた。一方、比較例では、目視で確認できる亀裂が生じており、実使用には供することはできないと判断された。
【0023】
(実施例1−2)
特定耐火物として、アルミナ粉末:87質量%、カーボン粉末:3質量%、金属アルミニウム粉末:10質量%を混合し、乾燥、焼成したものを使用して、実施例1−1と同様にSNプレートを製造した。この実施例の特定耐火物の1500℃における熱膨張率は1.33%、音速弾性率は120GPaであった(表3、4の材質C)。一方、比較例では、上述の特定耐火物を、図3に示したSNプレートの全体に適用した。
【0024】
製造の結果、部分D4に限定して特定耐火物を適用した本発明の実施例では、特定耐火物に微小な亀裂が確認されたが、特定耐火物を取り囲む母材の耐火物との亀裂のつながりは確認されなかったため、実使用にはとくに問題はないと考えられた。一方、特定耐火物を全体に適用した比較例では、亀裂が多数生じており、実使用には供することはできないと判断された。
【0025】
(実施例1−3)
特定耐火物として、マグネシア粉末:92質量%、カーボン粉末:3質量%、金属アルミニウム粉末:5質量%を混合し、乾燥、焼成したものを使用して、実施例1−1と同様にSNプレートを製造した。この実施例の特定耐火物の1500℃における熱膨張率は2.50%、音速弾性率は80GPaであった(表3、4の材質D)。一方、比較例では、上述の特定耐火物を、図3に示したSNプレートの全体に適用した。
【0026】
製造の結果、部分D4に限定して特定耐火物を適用した本発明の実施例では、特定耐火物に微小な亀裂が確認されたが、特定耐火物を取り囲む母材の耐火物との亀裂のつながりは確認されなかったため、実使用にはとくに問題はないと考えられた。一方、特定耐火物を全体に適用した比較例では、亀裂が多数生じており、実使用には供することはできないと判断された。
【0027】
以上のとおり、本発明にしたがい少なくとも使用重要部をカバーするように限定して特定耐火物を適用することで、実使用に問題となるような亀裂を生じることなく、大型のSNプレートを製造できることが確認された。
【0028】
なお、以上の本発明の実施例では、部分D4以外に適用する母材として焼成耐火物を適用したが、不焼成耐火物を適用してもよい。
【実施例2】
【0029】
使用重要部に配置する特定耐火物の厚みとノズル孔のエッジ部に発生する最大応力との関係をFEMにより計算した。
【0030】
FEMの計算条件は、以下のとおりである。
<使用ソフト>
CosmosWorks2007
MSC. Marc 2008
<モデリング>
1/2のCADモデルを作成。CADモデルから四節点四角形要素を使用してFEMモデルを作成。メッシュ分割の基準長さは5mm。
<熱解析>
初期温度:
ノズル孔、開度50%:1550℃、1.16×10−3W/mm・K
外周側:25℃、1.16×10−5W/mm・K
時間ステップ:1秒/ステップ、20秒間
<応力解析>
初期温度:25℃
対称性を考慮した変位拘束を付与。
回転抑制のためのY方向の拘束を付与。
X方向の変位拘束を付与。
熱解析の結果から熱応力を計算。
【0031】
表1にモデル番号と条件を示し、図4に表1に示したmodel1〜5のCADモデルを示す。表1及び図4に示すように、model1〜5では、SNプレートの使用重要部をカバーする部分(図3の部分D4)に配置する特定耐火物1aの厚みを5〜25mmも範囲で変化させた。Model6は、特定耐火物を配置しなかった例である。
【0032】
【表1】

【0033】
FEM計算において、加熱部位はノズル孔とし、外周は冷却する条件とした。また、FEM計算に使用した物性値は表2のとおりである。
【0034】
【表2】

【0035】
以上の条件の下、FEMにより、ノズル孔のエッジ部(特定耐火物を配置した側のエッジ部)に発生する最大応力を計算した。その結果を図5に示す。同図より、特定耐火物の厚みが15〜25mmの範囲で発生応力の低下が見られた。
【実施例3】
【0036】
特定耐火物の材質と耐食性の関係について調査した。表3に使用材質を示す。
【0037】
【表3】

【0038】
材質A〜Cについては、その配合物を混合、乾燥後、非酸化雰囲気で焼成することで焼成体とした。材質Dについては、その配合物を混合、乾燥することで不焼成体とした。各材質のサンプルを高周波誘導炉のるつぼに内張りし、そのるつぼに溶鋼を入れミルスケールを添加し、2時間撹拌した。試験後、各サンプルの溶損速度から耐食性を評価した。また、各材質のサンプルにつき、音速弾性率と1500℃における熱膨張率を評価した。音速弾性率は、JIS規格により定められたJIS R 1602の弾性率試験法により評価し、熱膨張率は、JIS R 2207−1の熱膨張の試験方法により評価した。その結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
表4では各材質の耐食性は、材質Aの溶損速度を100として指数で表記した。数値が小さいほど耐食性は良好である。表4から、音速弾性率が高くなると耐食性が向上する傾向にあり、高弾性率化に伴った耐火物組織の緻密化によって耐食性が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0041】
1 SNプレート
1a 特定耐火物
D 使用重要部
D1〜D4 使用重要部をカバーする部分
S ストローク部
H ノズル孔周辺部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1500℃における熱膨張率が1.15%以上2.50%以下の特定耐火物を、少なくとも使用重要部をカバーするように部分的に配置したスライディングノズルプレート。
【請求項2】
前記特定耐火物は、厚みが15mm以上25mm以下である請求項1に記載のスライディングノズルプレート。
【請求項3】
前記特定耐火物は、底部外周がカットされている請求項1又は2に記載のスライディングノズルプレート。
【請求項4】
前記特定耐火物の底部外周は、R5以上又はC5以上である請求項3に記載のスライディングノズルプレート。
【請求項5】
前記特定耐火物を配置した以外の部分は、アルミナカーボンを主成分とする不焼成耐火物又は焼成耐火物で形成されている請求項1〜4のいずれかに記載のスライディングノズルプレート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−130963(P2012−130963A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20744(P2011−20744)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【特許番号】特許第4801222号(P4801222)
【特許公報発行日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】