説明

スライドドア

【課題】輸送コスト低減を図るため、積層しても反りにくいスライドドア100を提供する。
【解決手段】車両用空調装置の空気通路に設けられたスライドドア100は、樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体100aと、このスライドドア本体の第1方向両端部に沿ってそれぞれ一列に設けられた複数の摺動部1a、1b、ギヤ部からなる駆動部2a、2bと、これらに挟まれた中間領域100cを有する。この中間領域には、スライドドア本体の表面に突出して設けられ摺動部および駆動部と少なくとも同等の突出高さHを有する突出部3(3a〜3f)を有する。これによれば、樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体を多数積層して搬送する場合において、摺動部1a、1b、駆動部2a、2bと実質同じ突出高さを有する突出部3(3a〜3f)で、積層されたスライドドアの垂れ下がりを抑止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気通路開閉装置に使用され、成形品よりなるスライドドアに関し、特に、スライドドア本体に複数のギヤ部からなる駆動部を一体に有する車両用空調装置用のスライドドアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載の空気通路開閉装置が公知である。この空気通路開閉装置は、空気通路の開口部を形成するケースを備えている。また、樹脂で板状に形成されて可撓性を有する板状部であるスライドドアを有し、このスライドドアは摺動可能なようにケース内に配置され、摺動によって特にデフロスタ開口部を開閉する。
【0003】
スライドドアは、スライドドア本体を成す板状部の端部に形成された樹脂性のラック(ギヤによる駆動部)を有している。ラックにはケース側に設けられた円形のピニオンが噛み合う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−36778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記スライドドアにおいて、車両用空調装置の空調ユニットに組み付けられる前の状態においては、複数のスライドドアを箱に梱包して輸送する。その際、スライドドアを積み重ねた状態で梱包すれば、輸送効率が向上するが、スライドドアに一体成形された駆動部等でしか、スライドドア相互間を保持できない。
【0006】
そして、保持されないスライドドア平面の中間領域付近は自重でたわんでしまう。そのたわみが輸送の高温環境に置かれるとさらに大きくなり、ドアの反りとなって性能が悪化する。具体的には、シール性能の悪化、必要な操作力や駆動力の上昇、スライドドアがスライドするときの摺動音が大きくなるという問題を生じる。
【0007】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目して成されたものであり、その目的は、積層状態で輸送された場合でも反りにくいスライドドアを提供することにある。
【0008】
従来技術として列挙された特許文献の記載内容は、この明細書に記載された技術的要素の説明として、参照によって導入ないし援用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、空気通路を開閉するように設けられた板状のスライドドア(100)であって、樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体(100a)と、スライドドア本体(100a)を駆動するためにスライドドア本体(100a)の第1方向両端部に沿ってそれぞれ一列に設けられた複数のギヤ部からなる第1駆動部(2a)、および第2駆動部(2b)と、第1駆動部(2a)と第2駆動部(2b)とに挟まれた中間領域(100c)のスライドドア本体(100a)の表面に突出して設けられ第1駆動部(2a)および第2駆動部(2b)と実質的に同じ突出高さ(H)を有する突出部(3)と、を有することを特徴としている。
【0010】
この発明によれば、樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体を多数積層して搬送する場合において、積層されたスライドドア相互間の両端部には、第1駆動部、および第2駆動部が突起状に介在して、積層されたスライドドア相互間の隙間を確保することができる。また、スライドドアの中間領域には第1駆動部、および第2駆動部と実質的に同じの突出高さを有する突出部を有するから、この突出部で、積層されたスライドドア相互間の中間領域の垂れ下がりを抑止することができる。これにより、スライドドアの搬送中における変形を抑制することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、スライドドア本体(100a)の第1方向両端部にそれぞれ一列に設けられた複数の突起からなる第1摺動部(1a)、および第2摺動部(1b)を有し、第1駆動部(2a)、および第2駆動部(2b)は、第1摺動部(1a)と第2摺動部(1b)との間に挟まれ第1方向の両側にそれぞれ一列に延在し、突出部(3)は、第1摺動部(2a)、第2摺動部(1b)、第1駆動部(2a)、および第2駆動部(2b)と実質的に同じ突出高さ(H)を有することを特徴としている。
【0012】
この発明によれば、スライドドア本体の第1方向両端部にそれぞれ一列に設けられた複数の突起からなる第1摺動部、および第2摺動部を有するから、スライドドアの摺動抵抗が減り、スライドドアがスライドしやすい。また、樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体を多数積層して搬送する場合において、積層されたスライドドア相互間の両端部には、第1摺動部、第2摺動部、第1駆動部、および第2駆動部が突起状に介在して、積層されたスライドドア相互間の隙間を確保することができる。また、スライドドアの中間領域には第1摺動部、第2摺動部、第1駆動部、および第2駆動部と同等の突出高さを有する突出部を有するから、この突出部で、積層されたスライドドア相互間の中間領域の垂れ下がりを抑止することができる。これにより、スライドドアの搬送中における変形を抑制することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明では、突出部(3)は、スライドドア本体(100a)を把持するロボットチャック用のボス(3a)からなることを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、突出部は、ロボットチャック用のボスからなるから、ロボットがスライドドア本体を把持するときに必要なボスを、スライドドア積層時におけるスライドドアの垂れ下がりを防止する支えとして活用することができる。
【0015】
請求項4に記載の発明では、突出部(3)は、スライドドア本体(100a)の第1方向と直交する第2方向の少なくとも一端部に設けられたドア変形防止用突起(3c〜3f)から成ることを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、突出部は、スライドドア本体の第1方向と直交する第2方向の端部に設けられたドア変形防止用突起からなるから、スライドドア積層時にスライドドアの垂れ下がりを防止するスライドドア相互間の支えとしてドア変形防止用突起を活用することができる。
【0017】
請求項5に記載の発明では、第2方向は、スライドドア本体(100a)がスライドする方向であり、ドア変形防止用突起(3c〜3f)は、スライドドア本体(100a)の沿面に沿って流れる風を受ける湾曲または傾斜部(3t)を有することを特徴としている。
【0018】
この発明によれば、ドア変形防止用突起は、スライドドア本体の沿面に沿って流れる風を受ける湾曲または傾斜部を有するから、スライドドアが車両用空調装置に取り付けられたときに、沿面を流れる空調風を妨げる程度(風の抵抗)を少なくすることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明では、スライドドア本体は、成形用の金型(51、52)にて射出成形された成形品であり、突出部(3)は、スライドドア本体(100a)を射出成形するときにゲート(53)から流れ込む樹脂が金型(51、52)の窪み部分で固まって形成される膨出部(3g)からなることを特徴としている。
【0020】
この発明によれば、突出部は、ゲートから流れ込む樹脂が金型(51、52)の窪み部分で固まった膨出部からなるから、特別な突出部を追加して形成する必要が無く、ゲートに対向した部分に成形される膨出部を利用できる。
【0021】
請求項7に記載の発明では、スライドドア本体は、成形用の金型(51、52)にて樹脂成形された成形品であり、突出部(3)、第1摺動部(1a)、第2摺動部(1b)、第1駆動部、(2a)および第2駆動部(2b)の少なくともいずれかには、突出方向に延びるリブ(1a2、2a2、2a3、2b2、2b3)が一体に設けられていることを特徴としている。
【0022】
この発明によれば、スライドドアは成形用の金型(51、52)にて樹脂成形された成形品であり、リブの存在により、一方の金型(52)との間の密着力が増し、成形後の離型時にスライドドアを常に一方の金型(52)側に残すことができ、離型時におけるスライドドア本体の亀裂を抑制することができる。更に、リブの存在により、積層時におけるリブの延在方向に加わる力に抗することができるため、突出部、第1摺動部、第2摺動部、第1駆動部、および第2駆動部のうちいずれかの変形を抑制することができる。
【0023】
なお、特許請求の範囲および上記各手段に記載の括弧内の符号ないし説明は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を分かり易く示す一例であり、発明の内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態におけるスライドドアの平面図である。
【図2】図1に示したスライドドアの右側面図である。
【図3】図1のS3−S3線に沿う拡大断面図である。
【図4】図1のS4−S4線に沿う拡大断面図である。
【図5】図1のS5−S5線に沿う拡大断面図である。
【図6】図1のS6−S6線に沿う拡大断面図である。
【図7】図1の第1駆動部および第2駆動部の終端に設けられた連結ギヤの拡大平面図である。
【図8】図1の突出部を代表するドア変形防止用突起およびロボットチャック用のボスの斜視図である。
【図9】図1のスライドドアが取り付けられた車両用空調装置の空調ダクト内部を模式的に示す第1実施形態のスライドドアの組み付け構成図である。
【図10】図9の矢印Y10方向から見た、スライドドアと空調ダクト内の風が流れる空間部となる開口部との関係を示す模式説明図である。
【図11】上記実施形態のスライドドアを多数積層した状態を示す正面図である。
【図12】比較例となる固定金型と可動金型との間に、スライドドアをなす樹脂が射出成形された状態を示す摸式断面図である。
【図13】図12の比較例において可動金型が固定金型から離れるときに成形品となるスライドドアが引っ張られた状態を示す摸式断面図である。
【図14】第1実施形態のようにリブを形成した状態において可動金型が固定金型から離れるときの成形品となるスライドドアの状態を示す摸式断面図である。
【図15】本発明の第2実施形態において、援用する図6において示した膨出部を成形する状態を示す説明図である。
【図16】本発明の第3実施形態を示し、突出部となるドア変形防止用突起およびボスにリブを設けた斜視図である。
【図17】本発明の第4実施形態を示すドア変形防止用突起およびその変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。
【0026】
各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1ないし図14を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態を示すスライドドアの平面図である。図2は、図1に示したスライドドアの右側面図である。図1においてスライドドア100は合成樹脂の成形品であり、金型内に合成樹脂を射出成形して製造される。スライドドア100の材質はポリプロピレンであり厚さは、2mm程度の薄板である。
【0028】
このスライドドア100は、車両用空調装置のダクト内の空気通路に設けられた板状の空気の流れをさえぎる部材である。そして、スライドドア100は、樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体100aと、スライドドア100の摺動を容易にするためにスライドドア本体の第1方向(図1左右方向)両端部にそれぞれ一列に設けられた複数(図1では左に6箇所、右に5箇所)の突起からなる第1摺動部1a、および第2摺動部1b(総称して摺動部1とも言う)を有する。
【0029】
また、第1摺動部1aと第2摺動部1bとの間に挟まれた第1方向の両側にそれぞれ一列に設けられた複数のラック(ギヤ部)からなる第1駆動部2a、および第2駆動部2b(総称して駆動部2とも言う)を有する。これらの駆動部2は図示しないモータで回転するピニオンによって駆動されるラックを構成する。
【0030】
第1駆動部2aと第2駆動部2bとに挟まれた中間領域100cのスライドドア本体100aの表面に突出して設けられ第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bと少なくとも同等の突出高さH(図2)を有する突出部からなるボス3a、3b(総称して突出部3とも言う)を有している。
【0031】
このボス3a、3bは、スライドドア100を把持するロボットチャック用の摘み部分からなる。すなわち、ロボットアームがスライドドア100を把持して、車両用空調装置内に組み付けるときに、ロボットアームの腕先がボス3a、3bの少なくとも一方を掴んで、スライドドア100を持ち上げる。
【0032】
また、突出部3は、スライドドア本体100aの第1方向と直交する第2方向(図1の上下方向)の少なくとも一端部に設けられたドア変形防止用突起3c、3d、3e、3fからも構成されている。
【0033】
上記第2方向(図1の上下方向)はスライドドア本体100aのスライド方向であり、ドア変形防止用突起3c、3d、3e、3fは、中央方向からスライドドア本体100aの沿面に沿って流れる風に対して抵抗が少ない湾曲または傾斜部を有している。
【0034】
スライドドア100の平面の中間領域100cには、スライドドア本体100aを射出成形するときにゲートから流れ込む樹脂が成形金型の窪み部分で固まった膨出部3gを有する。そして、これらの突出部3および膨出部3gは、第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bと同じ方向(図1の紙面奥から手前側に向かう方向)にスライドドア本体100aの表面から突出している。
【0035】
次に、図2に示した各部の断面形状について説明する。図3は、図1のS3−S3線に沿う拡大断面図である。この図3に示すように、第1摺動部1a(図1では見えない第2摺動部1bも同じ)、ギヤ部からなる第1駆動部2a(第2駆動部2b)は、スライドドア本体100aと一体に樹脂成形されており、中空の凹部1a1、2a1が形成された反対側が、図3の上方に向けて突出している。
【0036】
また、第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bには、突出方向に長いリブ1a2、2a2、2a3等が設けられている。これらのリブ1a2等は突出方向(図3の上方向)に長く、第1摺動部1a(第2摺動部1b)、および第1駆動部2a(第2駆動部2b)の側面に夫々設けられている。また、上記リブは、第1駆動部2a(第2駆動部2b)では両側面に設けられている。
【0037】
また、リブ1a2、2a2、2a3、2b2、2b3等は突出方向に長く、リブ1a2、2a2、2a3、2b2、2b3等の高さは、第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bと実質的に同じ高さになっていることが望ましい。
【0038】
なお、図3では、リブ1a2、2a2、2a3を第1摺動部1aおよび第1駆動部2aより短く図示しているが、リブ1a2、2a2、2a3のほうが第1摺動部1aおよび第1駆動部2aより若干長くしても良い。
【0039】
次に、図4は、図1のS4−S4線に沿う拡大断面図である。この図4に示すように、第2駆動部2bの両側面には、突出方向に長いリブ2b2、2b3が設けられている。また、第2駆動部2bの中央にはセンターに補強部2b4が設けられ、第2駆動部2bが補強されている。
【0040】
次に、図5は、図1のS5−S5線に沿う拡大断面図である。この図5に示すように、スライドドア100を把持するロボットチャック用のボス3b(3aも同様)の中央にはセンター補強部3b3が設けられ、ボス3bが補強されている。
【0041】
次に、図6は、図1のS6−S6線に沿う拡大断面図である。この図6に示すように、スライドドア100の平面の中間領域100cに設けられた膨出部3gは、他の突出部と同様に図6の上方、つまりスライドドア100の表側に突出している。従って、スライドドア100の裏側には突出部がなく、裏側は平坦な面を形成している。
【0042】
また、図2から判明するように、スライドドア本体100aがスライドする方向である第2方向の両端部は、各突出部と同じく、スライドドア100の表側に向けて跳ね返った跳ね返り部5a、5bが設けられ、これにより薄いスライドドア100の剛性を高めている。
【0043】
次に、図7は、図1、図2の第1駆動部2a、および第2駆動部2bの終端に設けられた連結ギヤ2a5または2b5の拡大平面図である。なお、これら連結ギヤ2a5、2b5は、第1駆動部2a、第2駆動部2bの一部である。この図7から判明するように、第1駆動部2a、および第2駆動部2bの一部である連結ギヤ2a5、2b5の夫々にも、リブが2a51、2b51が合計6箇所設けられている。
【0044】
更に、図8は、突出部3a〜3fを代表するドア変形防止用突起3c、ボス3aの斜視図である。図1および図8のようにドア変形防止用突起3c(3d〜3fも同じ)は、中間領域100cの中央方向からスライドドア本体100aの沿面に沿って流れる風に対して抵抗が少ない湾曲または傾斜部3tを有するU字状平面部3cUを有する。また、ロボットチャック用のボス3a(3bも同じ)は、図8の(b)部のように箱状に突出した部分からなる。そして、ボス3a(3b)の中央に穴3ahが形成されている。
【0045】
突起部3(または3a〜3f)の突起高さH(図2、図8)は、ギヤを構成する第1駆動部2a、および第2駆動部2bの突出高さと実質同じに形成されている。また、ドア変形防止用突起3c〜3fは、特にスライドドア100の移動方向端部に設けられており、スライドドア中央部に向かって凸形状であり、スライドドア100と一体に成形されている。このドア変形防止用突起3c〜3fは、図示しない金型の押し出しピンの先端を半円形状に削って、この削った部分に射出成形時の樹脂が流れ込んで形成されたものである。
【0046】
また、自動組付けのため、ロボット把持部として使用されるロボットチャック用のボス3a(3bも同じ)もスライドドア本体100aの中間領域に備えられ、第1駆動部2a、および第2駆動部2bの突出高さHと実質同じ高さに形成されている。
【0047】
次に、スライドドア100を車両用空調装置内に取り付けた状態を説明する。図9は、スライドドアが取り付けられた車両用空調装置の空調ダクト内部を模式的に示す第1実施形態のスライドドアの組み付け構成図である。
【0048】
図9において、車両用空調装置の空調ダクト21内には取り付け部材22を介してスライドドア100が図9の上下方向にスライド可能に設けられている。スライドドア100には、ドア変形防止用突起3d、3fが設けられている。なお、簡略化のために、その他の突出部3は省略している。ブロアによって風23が蒸発器24内を通過して冷風25となり、この冷風25が空調ダクト21内の開口部21aを通過する。そして、冷風25の一部がヒータコア26を通過して温風27となる。
【0049】
冷風25と温風27とはエアミックス部28で混合され、車室内に吹出される空調風29となる。スライドドア100は、この場合、エアミックスドアを形成し、冷風25と温風27の混合割合をスライドする量に応じて調整する。
【0050】
図10は図9の矢印Y10方向から見た、スライドドア100と空調ダクト21内の風が流れる空間部となる開口部21aとの関係を示す模式説明図である。スライドドア100でさえぎられた開口部21a内を通過しようとする冷風25はスライドドア100の表面を流れる。
【0051】
このときに、U字状ないし流線形状に(あるいはドア中央部に凸形状に)ドア変形防止用突起3c、3dが形成されているため、風流れの抵抗増加が抑制される。また、圧損上昇や異音の発生も抑制することができる。
【0052】
更に、第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bおよび突出部3a〜3f(総称して突出部3とも言う)は、空気上流側に凸形状であるが、空気流れに沿う図1の上下方向に点在して風の抵抗を少なくしている。
【0053】
また、スライドドア100は風圧をシールするドアであり、性能に対して影響が大きい移動方向端部をドア変形防止用突起3c、3d、3e、3fにより変形防止するため、シール性能を阻害することがなくなる。
(第1実施形態の作用効果)
図11は、第1実施形態のスライドドア100を多数積層した状態を示す正面図である。これによれば、樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体100aを多数積層して搬送する場合において、積層されたスライドドア100相互間の両端部には、夫々、第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bが突起状に介在して、積層されたスライドドア100相互間の隙間を確保することができる。
【0054】
また、スライドドア100の中間領域100cには第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bと少なくとも同等の突出高さを有する突出部3a〜3f(総称して突出部3とも言う)を有するから、この突出部3で、スライドドア本体100aの平面部の保持されていない部分の長さを短くすることができ、積層されたスライドドア100相互間の中間領域100cの垂れ下がりを抑止することができる。これにより、スライドドア100の搬送中における変形を抑制することができる。
【0055】
また、突出部3のひとつは、ロボットチャック用のボス3a、3bからなるから、ロボットがスライドドア100を把持するときに必要なボス3a、3bを、スライドドア100積層時にスライドドア100の垂れ下がりを防止するスライドドア100相互間の支えとして活用することができる。
【0056】
更に、突出部3の他の部分は、スライドドア本体100aの第1方向(図1の左右方向)と直交する第2方向(図1の上下方向)の端部(移動方向端部)に設けられたドア変形防止用突起3c〜3fからなる。従って、スライドドア100積層時に、スライドドア100の垂れ下がりを防止するスライドドア相互間の支えとして相対向したドア変形防止用突起3c、3eおよび3d、3fを活用することができる。
【0057】
なお、この突出部3は、第2方向(図1の左右方向)の両端部に相対向して設けられても良い。しかし、図1のように、ドア変形防止用突起3c〜3fをスライドドア100のスライド方向端部に設けることにより、性能への影響が大きい移動方向端部の反りを防止できる。
【0058】
そして、ドア変形防止用突起3c〜3fは、中間領域の中央からスライドドア本体100aの沿面に沿って流れる風に対して抵抗が少ない湾曲または傾斜部を有する(換言すれば、図1のように平面方向から見たときにU字状または逆U字状等の流線形の形状を呈する)から、スライドドア100が車両用空調装置に取り付けられたときに、表面を流れる空調風を妨げる程度を少なくすることができる。
【0059】
なお、U字状または逆U字状等の流線形の形状を呈するドア変形防止用突起3c〜3fは、樹脂成形用金型の図示しない円柱状押し出しピン(突出しピンまたはエジェクターピンとも言う)の先端側面を各ドア変形防止用突起3c〜3fの形状に削って形成される。
【0060】
これにより離型作業が容易になる。この理由は、金型内部にくぼんだ各ドア変形防止用突起3c〜3f形成用の凹部を持つ金型で、各ドア変形防止用突起3c〜3fを作ると離型性が悪化するが、円柱状押し出しピンの先端側面を各ドア変形防止用突起3c〜3fの形状に削って形成した場合は、形成された各ドア変形防止用突起3c〜3f自体、および、そのすぐ隣を押し出しピンにより押すため離型が容易となるからである。
【0061】
以上述べたように、積層時におけるスライドドアの保持点数を増やすことにより、スライドドアの撓み(変形)を抑制し、性能(シール性、操作力、摺動音)の悪化を抑えることができる。そのため、梱包材の簡素化や輸送効率向上が図られ、輸送コストを下げることができる。
【0062】
次に、リブ1a2、2a2等の存在により、成形型との間の密着力が増し、成形後の離型時にスライドドア100を常に一方の成形型側に残すことができ、離型時におけるスライドドア本体100aの亀裂を抑制することができ、かつリブ1a2、2a2等の存在により、積層時におけるリブ1a2、2a2等の長手方向に加わる力に抗することができるため、突出部3、第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、および第2駆動部2bのうちいずれかの変形を抑制することができる。以下、これについて説明する。
【0063】
図12から図14は、成形型によってスライドドア100を射出成形する状態を示し、図12は、比較例となる固定金型52と可動金型51の2つの金型のキャビティ内に、スライドドア100を成す樹脂が射出成形された状態を示す摸式断面図、図13は、上記比較例において可動金型51が固定金型52から離れるときに製品となるスライドドア100が引っ張られた状態を示す摸式断面図、図14は、第1実施形態のように、代表して示すリブRB(上述のリブ1a2、2a2等、つまり1a2、2a2、2a3、2b2、2b3、2a51、2b51を総称する)を形成した状態において可動金型51が固定金型52から離れるときに製品となるスライドドア100の状態を示す摸式断面図である。
【0064】
図12のように金型同士が合わせられた状態のキャビティ内に樹脂が流し込まれる。そして、離型時に、金型相互間の間隔が広がり、樹脂成形品であるスライドドア100が取り出されるが、スライドドア100は薄い波打った薄板状であるため、図13のように、一方と他方の型相互間でスライドドア100が引っ張られると、成形されたばかりのスライドドア100に亀裂100CRが生じることがある。
【0065】
これに対し、図14の第1実施形態のように、リブRBを形成していると、リブRBが形成されたほうの金型にスライドドア100が付着して離型することができる。すなわち、リブRBによって金型52とスライドドア100との密着度が増し、金型相互間でのスライドドア100の引っ張り合いがなくなり、亀裂が発生することがない。
【0066】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以降の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。図15は、先の第1実施形態で図6において示した膨出部3gを成形する状態を示す説明図である。この膨出部3gは樹脂流れの分岐部であるランナーに形成され、ゲート53から樹脂を流し込んで成形される。
【0067】
この膨出部3gは、スライドドア100として特別に機能するものではなく、成形時に樹脂の流れをよくするために必要なものであるが、膨出部3gの高さHを他の突出部3と同じ高さHとすれば、この膨出部3gも、スライドドア100を積層したときの変形防止用突起として活用することができる。
【0068】
このように、第2実施形態においては、突出部3は、スライドドア本体100aを射出成形するときにゲートから流れ込む樹脂が成形金型の窪み部分で固まった膨出部3gからなる。これによれば、特別な突出部を追加して形成する必要が無く、ゲート53に対向した部分に成形される膨出部3gを利用して変形防止用突起を容易に形成できる。
【0069】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、以降の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。図16の(a)、(b)は、本発明の第3実施形態を示す突出部3a〜3fの代表となる3a、3cにリブ3aR、3cRを設けた斜視図である。このようにリブ3aR、3cRを突出方向に形成することにより、突出部3a、3cを補強することができる。
【0070】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。なお、以降の各実施形態においては、上述した第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略し、異なる構成および特徴について説明する。図17の(a)から(f)は、本発明の第4実施形態を示すドア変形防止用突起およびその他の変形例の平面図である。
【0071】
図17の(a)に示す形態は、ドア変形防止用突起3e1の先端側を丸くして形成し、リブ3eRを設けている。また、図17の(b)に示す形態は、中空部のない中実のドア変形防止用突起3e2としてリブ3eRを設けている。
【0072】
図17の(c)に示す形態は、中空部を持つ傘状のドア変形防止用突起3e3としてリブ3eRを設けている。図17の(d)に示す形態は、4つの棒状突起の集合からドア変形防止用突起3e4を形成したものである。図17の(e)に示す形態は、中空部のない中実とした傘状のドア変形防止用突起3e5としてリブ3eRを設けている。図17の(f)に示す形態は、3つの棒状突起の集合からドア変形防止用突起3e6を形成したものである。
【0073】
(その他の実施形態)
また、上述の実施形態では、図1において第1駆動部2aとドア変形防止用突起3cとの間の第1方向の間隔、ドア変形防止用突起3cとドア変形防止用突起3dとの間の第1方向の間隔、ドア変形防止用突起3dと第2駆動部2bとの間の第1方向の間隔を、成形用金型の冷却用の図示しない水穴の関係上、不等ピッチとしたが、積層時のスライドドア100のたわみを押さえるには等ピッチとすることが望ましい。
【0074】
更に、上述の実施形態では、ロボットチャック部を成すボス3a、3bは、本来1つでもよい(例えばボス3bを設けず、ボス3aのみ存在しても良い)。しかし、スライドドア100積層時の変形防止用突起としてスライドドア本体100aをバランスよく支えるために2つ並置している。なお、ボス3a、3bの位置は、膨出部3gの近くが好ましいが、この膨出部3gの近くは金型冷却部となる水穴があるので、膨出部3gから少し離れた位置にボス3a、3bを設けている。
【0075】
なお、スライドドア100の周囲の端部に、空気流をシールするウレタン樹脂等からなるシール部材を設けるときは、このシール部材の突出高さを第1摺動部1a、第2摺動部1b、第1駆動部2a、第2駆動部2b等の高さHと等しくしても良い。このようにすれば、シール部材を、積層時の変形防止用突起として活用することができる。
【0076】
加えて、スライドドアは組み付け時に多少湾曲するように曲げられて取り付けられるものであっても良い。また、これらの変形防止用突起をスライドドア100の表側に突出させている。従って、スライドドア100の裏側に変形防止用突起がなく、裏側は平坦な面を形成しているが、一部の変形防止用突起を裏側に設けても良い。
【0077】
また、本発明に言う実質的に同じ突出高さ(H)とは、積層されたスライドドアを過度に変形しないように支えることができる高さの意味であり、摺動部1や駆動部2とほぼ同一の高さを意味する。具体的には、摺動部1や駆動部2の高さの0.7倍から1.3倍、好ましくは0.9倍から1.1倍の高さを言う。
【符号の説明】
【0078】
1 摺動部
1a 第1摺動部
1b 第2摺動部
1a2、2a2、2a3、2b1、2b2、2a51、2b51 リブ
2 駆動部
2a 第1駆動部
2b 第2駆動部
3 突出部
3a、3b ロボットチャック用のボス
3c、3d、3e、3f ドア変形防止用突起
3g 膨出部
21 空調ダクト
21a 開口部
28 エアミックス部
100 スライドドア
100a スライドドア本体
100c 中間領域
H 突出高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気通路を開閉するように設けられた板状のスライドドア(100)であって、
樹脂成型された薄板からなるスライドドア本体(100a)と、
前記スライドドア本体(100a)を駆動するために前記スライドドア本体(100a)の第1方向両端部に沿ってそれぞれ一列に設けられた複数のギヤ部からなる第1駆動部(2a)、および第2駆動部(2b)と、
前記第1駆動部(2a)と前記第2駆動部(2b)とに挟まれた中間領域(100c)の前記スライドドア本体(100a)の表面に突出して設けられ前記第1駆動部(2a)、および前記第2駆動部(2b)と実質的に同じ突出高さ(H)を有する突出部(3)と、を有することを特徴とするスライドドア。
【請求項2】
更に、前記スライドドア本体(100a)の第1方向両端部にそれぞれ一列に設けられた複数の突起からなる第1摺動部(1a)、および第2摺動部(1b)を有し、
前記第1駆動部(2a)、および前記第2駆動部(2b)は、前記第1摺動部(1a)と前記第2摺動部(1b)との間に挟まれ前記第1方向の両側にそれぞれ一列に延在し、前記突出部(3)は、前記第1摺動部(2a)、前記第2摺動部(1b)、前記第1駆動部(2a)、および前記第2駆動部(2b)と実質的に同じ突出高さ(H)を有することを特徴とする請求項1に記載のスライドドア。
【請求項3】
前記突出部(3)は、スライドドア本体(100a)を把持するロボットチャック用のボス(3a)からなることを特徴とする請求項1または2に記載のスライドドア。
【請求項4】
前記突出部(3)は、前記スライドドア本体(100a)の前記第1方向と直交する第2方向の少なくとも一端側に設けられたドア変形防止用突起(3c〜3f)から成ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスライドドア。
【請求項5】
前記第2方向は、スライドドア本体(100a)がスライドする方向であり、前記ドア変形防止用突起(3c〜3f)は、前記スライドドア本体(100a)の沿面に沿って流れる風を受ける湾曲または傾斜部(3t)を有することを特徴とする請求項4に記載のスライドドア。
【請求項6】
前記スライドドア本体(100a)は、成形用の金型(51、52)にて射出成形された成形品であり、前記突出部(3)は、前記スライドドア本体(100a)を射出成形するときにゲート(53)から流れ込む樹脂が前記金型(51、52)の窪み部分で固まって形成される膨出部(3g)からなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のスライドドア。
【請求項7】
前記スライドドア本体(100a)は、成形用の金型(51、52)にて樹脂成形された成形品であり、前記突出部(3)、前記第1摺動部(1a)、前記第2摺動部(1b)、前記第1駆動部、(2a)および前記第2駆動部(2b)の少なくともいずれかには突出方向に延びるリブ(1a2、2a2、2a3、2b2、2b3)が一体に設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のスライドドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−103571(P2013−103571A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247921(P2011−247921)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000106988)シミズ工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】