説明

スライドドア

【課題】車両衝突時に、乗員がスライドドアを押すとスライドドアの中央を外側に出して曲げ変形させ、車室内から外にものが飛び出すことを防止するスライドドアを提供する。
【解決手段】スライドドア13は、窓枠補強部材47と、ベルトライン補強部材51と、ラッチ補強部材54と、を備え、ラッチ補強部材54から上方へベルトライン補強部材51が(一例として距離Bだけ)離間して配置され、ラッチ補強部材54にベルトライン補強部材51が窓枠補強部材47で連結され、ラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51は、窓枠補強部材47の引っ張り強さより引っ張り強さが大きい鋼板で形成されている。ラッチ補強部材54上縁67、ベルトライン補強部材51の下縁68はともにスライドドア13の幅の方向(X軸方向)に延び、且つ互いに平行に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のスライドドアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のスライドドアには、3カ所でロック支持されたものがある。
このスライドドアは、ドア開閉ハンドルを設けた前端の上部に上位前側ロック機構、下部に下位前側ロック機構を設け、スライドドアの後端の中央に中位後側ロック機構を設けることによって、車室内から外に押されたときの結合力を高めている(例えば、特許文献1参照)。
また、ドアのベルトラインに沿ってドアの内部にドアインナウエストレインフォースを設け、ドアの前端の内部にドアインナレインフォースを設けて、ドアインナウエストレインフォースに結合しているものもある(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
しかし、従来技術(特許文献1)は、スライドドアの前端の上部、下部および後端の中央を支持しているので、衝突時に乗員によってスライドドアが車両の内部から押された場合に、ロックされていない3箇所を除いたスライドドア全体が車両の外側に押し出され、ドア開口部とスライドドアとの間の隙間が広がってしまい、車両の内部のものが車両の外に飛び出してしまう可能性がある。
【0004】
また、特許文献2に示されているように、スライドドアを通常の状態で使用しているときに、ドア本体に結合した窓枠部の付け根がたわまないように窓枠補強部材を設け、さらにベルトラインに沿った補強部材やスライドドアをロックするラッチ機構を取り付ける補強部材などを付け根の近傍に設けることで補強する構造を採用することで、スライドドアの中央やスライドドア以外のドアの中央の強度が大きくなっていることから、車室内から乗員がスライドドアを外に押したときに、スライドドアの中央を外側に出してたわませ、曲げ変形させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平3−65469号公報
【特許文献2】特許第3835262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、車両衝突時に、車室内から乗員がスライドドアを押すと、スライドドアの中央を外側に出してたわませ、曲げ変形させ、車室内から車両の外にものが飛び出すことを防止するスライドドアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、スライドドアは、ドア本体部と、窓枠部と、ドアインナパネルおよび窓枠部に取付けられた窓枠補強部材と、ベルトライン部に沿ってドアインナパネルに取付けられたベルトライン補強部材と、スライドドアの一端の中央に設けられ車体に必要に応じて係止するラッチ部材と、ラッチ部材が取付けられ、ドアインナパネルに取付けられたラッチ補強部材と、スライドドアの他端とスライドドアの上端とが交差する第1角部に設けられて車体にスライド自在に支持している第1連結機構と、スライドドアの他端とスライドドアの下端とが交差する第2角部に設けられて車体にスライド自在に支持している第2連結機構と、を備え、ラッチ補強部材から上方へベルトライン補強部材が離間して配置され、ラッチ補強部材にベルトライン補強部材が窓枠補強部材で連結され、ラッチ補強部材およびベルトライン補強部材は、窓枠補強部材の引っ張り強さより引っ張り強さが大きい鋼板で形成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、スライドドアは、ドア本体部と、窓枠部と、ドアインナパネルおよび窓枠部に取付けられた窓枠補強部材と、ベルトライン部に沿ってドアインナパネルに取付けられたベルトライン補強部材と、スライドドアの一端の中央に設けられ車体に必要に応じて係止するラッチ部材と、ラッチ部材が取付けられ、ドアインナパネルに取付けられたラッチ補強部材と、スライドドアの他端とスライドドアの上端とが交差する第1角部に設けられて車体にスライド自在に支持している第1連結機構と、スライドドアの他端とスライドドアの下端とが交差する第2角部に設けられて車体にスライド自在に支持している第2連結機構と、を備え、ラッチ補強部材から上方へベルトライン補強部材が離間して配置され、ラッチ補強部材にベルトライン補強部材が窓枠補強部材で連結され、ラッチ補強部材およびベルトライン補強部材は、窓枠補強部材の板厚より板厚が厚い鋼板で形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、ラッチ補強部材の縁のうち上方に位置する上縁、上縁に対向するベルトライン補強部材の下縁はともにスライドドアの幅の方向に延び、且つ互いに平行に形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、窓枠補強部材の縁のうちスライドドアの内方へ向けた内方縁は、ラッチ補強部材の上縁に接合され、且つベルトライン補強部材の下縁に接合されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、ドアインナパネルは、ドア本体部の内部に配置された機能部品に対する作業用の作業開口部と、作業開口部の縁からベルトライン補強部材とラッチ補強部材との間の離間部分と車両内外方向で重なるドアインナパネルの折れ起点設定部に達する平坦部と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、平坦部は、作業開口部の縁のうち、上方に位置する上縁部からドアインナパネルの幅方向に沿って形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明では、スライドドアは、ドアインナパネルおよび窓枠部に取付けられた窓枠補強部材と、ベルトライン部に沿ってドアインナパネルに取付けられたベルトライン補強部材と、スライドドアの一端の中央に設けられたラッチ部材と、ラッチ部材を取付けてドアインナパネルに取付けられたラッチ補強部材と、スライドドアの上端の第1角部に設けた第1連結機構と、スライドドアの下端の第2角部に設けられた第2連結機構と、を備え、ラッチ補強部材から上方へベルトライン補強部材が離間して配置され、ラッチ補強部材にベルトライン補強部材が窓枠補強部材で連結され、ラッチ補強部材およびベルトライン補強部材は、窓枠補強部材の引っ張り強さより引っ張り強さが大きいので、車両が衝突したときに、後部座席に座る乗員や荷物などものがスライドドアに当接すると、スライドドアは、ベルトライン補強部材と下方のラッチ補強部材との間からこれらに重なり接合している窓枠補強部材を起点にたわみ、曲がり始める。そして、スライドドアの内側を谷折りに曲がる。
この結果、スライドドアの前縁、後縁の開きが大きくなるのを抑制することができ、車室内から車両の外にものが飛び出すことを防止することができる。
【0014】
また、ドア本体部に設けたベルトライン補強部材及び下方のラッチ補強部材を窓枠部に重なる窓枠補強部材で連結しているので、車両の衝突以外の通常の使用時に、ドア本体部に接合した窓枠部の付け根部のたわみを効果的に防止することができる。従って、商品性を確保できる。
【0015】
請求項2に係る発明では、スライドドアは、ドアインナパネルおよび窓枠部に取付けられた窓枠補強部材と、ベルトライン部に沿ってドアインナパネルに取付けられたベルトライン補強部材と、スライドドアの一端の中央に設けられたラッチ部材と、ラッチ部材を取付けてドアインナパネルに取付けられたラッチ補強部材と、スライドドアの上端の第1角部に設けた第1連結機構と、スライドドアの下端の第2角部に設けられた第2連結機構と、を備え、ラッチ補強部材から上方へベルトライン補強部材が離間して配置され、ラッチ補強部材にベルトライン補強部材が窓枠補強部材で連結され、ラッチ補強部材およびベルトライン補強部材は、窓枠補強部材の板厚より板厚が厚いので、車両が衝突したときに、後部座席に座る乗員や荷物などものがスライドドアに当接すると、スライドドアは、ベルトライン補強部材と下方のラッチ補強部材との間からこれらに重なり接合している窓枠補強部材を起点に曲がり始める。そして、スライドドアの内側を谷折りに曲がる。
この結果、スライドドアの前縁、後縁の開きが大きくなるのを抑制することができ、車室内から車両の外にものが飛び出すことを防止することができる。
【0016】
また、ドア本体部に設けたベルトライン補強部材及び下方のラッチ補強部材を窓枠部に重なる窓枠補強部材で連結しているので、車両の衝突以外の通常の使用時に、ドア本体部に接合した窓枠部の付け根部のたわみを効果的に防止することができる。従って、商品性を確保できる。
【0017】
請求項3に係る発明では、ラッチ補強部材の縁のうち上方に位置する上縁、上縁に対向するベルトライン補強部材の下縁はともにスライドドアの幅の方向に延び、且つ互いに平行に形成されているので、車室内から荷重が入力されると、ラッチ補強部材の上縁とベルトライン補強部材の下縁との間で窓枠補強部材を起点に曲がり始め、スライドドアの幅の方向に沿って稜線を形成するようにスライドドアの内側を谷折りに曲げることができる。この結果、このように変形したスライドドアの前縁、後縁の開きのバラツキを小さくすることができる。
【0018】
請求項4に係る発明では、窓枠補強部材の縁のうちスライドドアの内方へ向けた内方縁は、ラッチ補強部材の上縁に接合され、且つベルトライン補強部材の下縁に接合されているので、窓枠補強部材の内方縁は、ラッチ補強部材の上縁およびベルトライン補強部材の下縁に固定される。この結果、車室内から荷重が入力されると、ラッチ補強部材の上縁とベルトライン補強部材の下縁との間で、より確実に窓枠補強部材を起点に曲げることができる。従って、スライドドアの変形後の状態を設計者の意図した状態に近づけ易くなるという利点がある。
【0019】
請求項5に係る発明では、ドアインナパネルは、作業開口部の縁からベルトライン補強部材とラッチ補強部材との間の離間部分と車両内外方向で重なる折れ起点設定部に達する平坦部を備えているので、車室内から荷重が入力されると、作業開口部の縁から折れ起点設定部に達する平坦部によって、スライドドアの内側を谷折りに曲げる変形を促進することができ、より確実にスライドドアのベルトライン部の近傍(スライドドアの中央部)からスライドドアの幅の方向に沿って稜線を形成するように曲げることができる。
【0020】
請求項6に係る発明では、平坦部は、作業開口部の縁のうち、上方に位置する上縁部からドアインナパネルの幅方向に沿って形成されているので、スライドドアの幅の方向に沿って稜線を形成するようにより確実にベルトライン部の近傍(スライドドアの中央部)からスライドドアの内側を谷折りに曲げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施例に係るスライドドアを採用した車両の側面図である。
【図2】実施例に係るドアインナパネルの中空側の組付け状態を示す側面図である。
【図3】ドアインナパネルの中央の詳細図である。
【図4】図2の4−4線断面図である。
【図5】実施例に係るスライドドアの変形の機構を説明する詳細図である。
【図6】実施例に係るスライドドアの変形の機構を説明する車両の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、実施例で詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
車両11は、図1に示すように、車体12に実施例に係るスライドドア13を採用している。15は前ドアである。
車体12は、車室18の床をなすアンダボデー21と、車室18の左右の側壁をなす左のサイドボデー(図に示していない)、右のサイドボデー22と、ルーフ23と、を備える。
【0024】
ここで、車両11の前後方向をX軸方向、図6に示す車両11の左右方向または幅方向をY軸方向、車両11の上下方向をZ軸方向とする。
【0025】
サイドボデー22は、後部座席24に対応したスライドドア13を取付けた後のドア開口部25を形成している。
【0026】
スライドドア13は、ドア開口部25に取付けられ、車両11の前後方向(X軸方向)にスライドする。そして、車体12にスライド装置27で支持されている。スライド装置27は上部レール機構28と、下部レール機構31と、後部中央レール機構32と、からなる。また、スライドドア13の前部中央33にはドア外ハンドル機構34が設けられている。
【0027】
なお、スライド装置27およびドア外ハンドル機構34は、既存のものである。ドア外ハンドル機構34は、ほぼ前部中央33にドアハンドルラッチ機構35を備える。
スライドドア13は、車両11側面視(図1〜図3の視点)、中央のベルトライン部(上縁)37をほぼ水平に形成したものである。
【0028】
次に、スライドドア13の主要構成を図1〜図6で説明する。
スライドドア13は、車両11の車体12のドア開口部25にスライド自在に取付けられ、ドアインナパネル41の周縁部42とドアアウタパネル43の周縁部44を接合した閉断面形状のドア本体部45と、ドア本体部45に連ね上方に設けられた閉断面形状の窓枠部46と、を備える。
【0029】
また、スライドドア13は、ドアインナパネル41および窓枠部46に跨って取付けられ、ドアアウタパネル43を重ねた窓枠補強部材47と、ドア本体部45の上縁をなすベルトライン部37に沿ってドアインナパネル41に取付けられ、ドアアウタパネル43を重ねたベルトライン補強部材51と、ドア本体部45内に配置され、スライドドア13の幅方向(車両11の前後方向(X軸方向))の一端52の上下方向(Z軸方向)の中央に設けられ、車体12に必要に応じて係止するラッチ部材53と、ラッチ部材53が取付けられ、ドアインナパネル41に取付けられ、ドアアウタパネル43を重ねたラッチ補強部材54と、を備える。
【0030】
さらに、スライドドア13は、スライドドア13の他端55とスライドドア13の上端56とが交差する第1角部57に設けられて車体12にスライド自在に支持している第1連結機構58と、スライドドア13の他端55とスライドドア13の下端61とが交差する第2角部62に設けられて車体12にスライド自在に支持している第2連結機構63と、を備える。
【0031】
その上、スライドドア13は、ラッチ補強部材54から上方へベルトライン補強部材51が(一例として距離B(図2)だけ)離間して配置され、ラッチ補強部材54にベルトライン補強部材51が窓枠補強部材47で連結されている。
窓枠補強部材47は距離Bの位置に曲げ部47aが設定されている。
【0032】
ラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51は、窓枠補強部材47の引っ張り強さより引っ張り強さが大きい鋼板で形成されている。
【0033】
ラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51は、窓枠補強部材47の板厚より板厚が厚い鋼板で形成されている。
【0034】
ラッチ補強部材54の縁66のうち上方に位置する上縁67、上縁67に対向するベルトライン補強部材51の下縁68はともにスライドドア13の幅の方向(X軸方向)に延び、且つ互いに平行に形成されている。
【0035】
窓枠補強部材47の縁71のうちスライドドア13の内方(矢印a1の方向)へ向けた内方縁72は、ラッチ補強部材54の上縁67に接合され、且つベルトライン補強部材51の縁73のうち下縁68に接合されている。
【0036】
ドアインナパネル41は、ドア本体部45の内部に配置された機能部品75に対する作業用の作業開口部77と、作業開口部77の縁78からベルトライン補強部材51とラッチ補強部材54との間の離間部分(曲げ部47a)と車両内外方向(Y軸方向)で重なるドアインナパネル41の折れ起点部79に達する平坦部81と、を備えている。
「機能部品75」とは、例えばガラス昇降装置75aである。
【0037】
平坦部81は、作業開口部77の縁78のうち、上方に位置する上縁部82からドアインナパネル41の幅方向(X軸方向)に沿って形成されている(点模様で示した部位)。
【0038】
次に、スライドドア13を詳しく説明していく。
スライドドア13は、既に述べたラッチ補強部材54と、ベルトライン補強部材51と、窓枠補強部材47と、を有する。
【0039】
この3枚の補強部材54、51、47と、ドア本体部45の中央に設けたパネル補強部材86と、スライドドア13の下部に設けたドア下部補強部材87とからドア補強機構88が形成されている。このドア補強機構88をドアインナパネル41に接合している。
【0040】
ドアインナパネル41は、ドアインナパネル41の中央上部に作業開口部77を形成している。作業開口部77は、ほぼ正方形の第1穴91の角に第2穴92を第1穴91の外方(矢印a2の方向)へ延ばすように連続して開けたものである。第1穴91は、上縁93がベルトライン部37とほぼ平行である。
【0041】
ドアインナパネル41はまた、図3に示す通り、ベルトライン部37に連ねて下方へ順に第1凸部95、平坦部81(点模様で示した部位)、第2凸部96を形成している。
第1凸部95および第2凸部96は車室18へ向け突出しているので、強度が向上している。
【0042】
平坦部81(点模様で示した部位)は、車両11の上下方向(Z軸方向)に延び、且つ段差を形成していない。この結果、第1凸部95および第2凸部96に比べ、強度は小さい部位である。第1凸部95にはベルトライン補強部材51を重ねて接合している。第2凸部96にはラッチ補強部材54を重ねて接合している。
【0043】
ラッチ補強部材54は、第1鋼板を塑性加工したものである。第1鋼板は、高張力鋼であり、引っ張り強さσ1は、例えば60kg/mmである。
ラッチ補強部材54は、図2に示す通り、略長方形で、外向き長縁97、内向き長縁98を車両11の上下方向に延ばして配置し、スライドドア13の中央(高さの約50%の位置)から下方のドア下部補強部材87の近傍まで延びている。そして、内向き長縁98を窓枠部46の延長線Eよりスライドドア13の内方(矢印a1の方向)に配置している。
【0044】
内向き長縁98から後方(矢印a3の方向)へ上短縁(上縁67)を延ばしてラッチ補強部材54の中間点(X軸方向の長さに対し)でベルトライン補強部材51から離れる方向け延ばしている。その結果、窓枠補強部材47のうちドアインナパネル41の折れ起点部79、平坦部81近傍(曲げ部47a)での折れ曲がりはより容易になる。
【0045】
ラッチ補強部材54の上短縁(上縁67)と内向き長縁98とで形成される角(始点)101をドアインナパネル41および窓枠補強部材47に溶接部102で接合している。その結果、窓枠補強部材47のうち折れ起点部79、平坦部81近傍(曲げ部47a)での折れ曲がりはより容易になる。
【0046】
さらに、上短縁(上縁67)と外向き長縁97とで形成される角(終点)103をドアインナパネル41および窓枠補強部材47に溶接部104で接合している。その結果、窓枠補強部材47のうち折れ起点部79、平坦部81近傍(曲げ部47a)での折れ曲がりはより容易になる。
なお、窓枠補強部材47は、ラッチ補強部材54の上短縁(上縁67)の近傍がベルトライン補強部材51で固定されている。
【0047】
ベルトライン補強部材51は、第2鋼板を塑性加工したものである。第2鋼板は、高張力鋼であり、引っ張り強さσ2は、例えば60kg/mmである。
【0048】
より詳しくは、ベルトライン補強部材51に用いる第2鋼板は、一枚の鋼板でもよく、テーラードブランク材でもよい。
ここでは、テーラードブランク材を採用した。テーラードブランク材は、高張力鋼板で、板厚の異なる厚板鋼板106に薄板鋼板107を、突き合わせ溶接を施すことで溶接部108で接合したものとする。
【0049】
厚板鋼板106が引っ張り強さσ2である。
なお、「厚板鋼板」とは、ここでは、薄板鋼板に比べ厚いという意味であり、一般の自動車用の薄板鋼板の厚さである。
【0050】
ベルトライン補強部材51は、略長方形で、ベルトライン部37にほぼ平行に上長縁111を配置して接合し、上長縁111はベルトライン部37に含まれる。下長縁112をスライドドア13の中央(ドア高さの約50%の位置)に配置してドアインナパネル41に接合している。
【0051】
また、ベルトライン補強部材51は、窓枠補強部材47の中央まで延びて重なっている。この重なった部位(一端部)は窓枠補強部材47を介在させてドアインナパネル41に溶接部114(図4)、溶接部102で接合している。
【0052】
窓枠補強部材47は、第3鋼板を塑性加工したものである。第3鋼板は、引っ張り強さσ3が、例えば30kg/mmであり、第1鋼板、第2鋼板より引っ張り強さは小さい。
【0053】
また、窓枠補強部材47は、板状で、略L字形をなし、立て部116が窓枠部46の太さにほぼ一致する形状に形成され、立て部116に連続する横部117が立て部116を延長してさらにスライドドア13の内方(矢印a1の方向)へ向け延ばすことでほぼ正方形に形成されている。
【0054】
そして、横部117の下端118をラッチ補強部材54に重ねて接合し、横部117の内方縁72を窓枠部46の延長線Eよりスライドドア13の内方(矢印a1の方向)に設け、内方縁72をドアインナパネル41とベルトライン補強部材51の間に挟んで接合した(図4)。ベルトライン補強部材51の下方にほぼ平行にパネル補強部材86が配置されている。
【0055】
パネル補強部材86は、ドアアウタパネル43に接着剤で接合している。パネル補強部材86によってドアアウタパネル43のたわみを抑制することができる。
パネル補強部材86の下方には、ドア下部補強部材87が配置されている。
【0056】
次に、スライドドア13の作用を説明する。
スライドドア13では、図6に示すように、車両11が衝突し、乗員がスライドドア13の内側(内装部材)に当接すると、スライドドア13は中央から曲がるので、変形によるスライドドア13の開きは抑制される。
【0057】
具体的には、例えば、右のスライドドア13以外の右側面に車両11の外側から衝撃が入力され、乗員などものが右のスライドドア13の内側の中央部に当接すると、ドアインナパネル41に荷重が分散されるとともに、窓枠補強部材47、ベルトライン補強部材51、ラッチ補強部材54に分散される。そして、ドアインナパネル41の作業開口部77、引っ張り強さの大きいラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51によって、ドアインナパネル41の中央部、ドアインナパネル41の中央に対向させたラッチ補強部材54とベルトライン補強部材51との間にそれぞれ荷重が集中するので、図5、図6に示す通り、スライドドア13の中央が、スライドドア13の内側を谷折りに曲がり、且つ、スライドドア13の上端56、下端61が矢印a4、矢印a5のように車室内へ向かって入り込む。
【0058】
この結果、スライドドア13の前縁(他端)55、後縁(一端)52とドア開口部25のあいたところの開きが大きくなるのを抑制することができ、車室内から車両11の外にものが飛び出すことを防止することができる。
【0059】
また、スライドドア13では、窓枠補強部材47に荷重が伝わると、ラッチ補強部材54とベルトライン補強部材51との間にほぼ一定の幅で形成された窓枠補強部材47のみでスライドドア13の幅の方向に延びる距離B(図2)の部位(曲げ部47a)に荷重が集中する(図5)。
この結果、距離Bの部位(曲げ部47a)を起点に窓枠補強部材47およびドアインナパネル41(スライドドア13)をスライドドア13の幅の方向(言い換えるとほぼ水平線)に沿う稜線121で曲げることができ、変形したスライドドア13とドア開口部25との間の開き(隙間)のバラツキを小さくすことができる。
【0060】
さらに、スライドドア13では、窓枠補強部材47に荷重が伝わると、ラッチ補強部材54とベルトライン補強部材51との間に形成された窓枠補強部材47の内方縁72のみの部位(距離B)に荷重が集中する。
この結果、内方縁72のみの部位(距離B)をより確実に変形の起点にすることができ、より確実に内方縁72のみの部位(距離B)で窓枠補強部材47およびドアインナパネル41(スライドドア13)を曲げることができ、スライドドア13の変形後の状態を設計者の意図した状態に近づけ易くなるという利点がある。
【0061】
その上、スライドドア13では、ドアインナパネル41に荷重が伝わると、第1凸部95と第2凸部96との間の平坦部(点模様で示した部位)81に荷重が集中する。
この結果、ドアインナパネル41の折れ曲がり変形を促進することができ、より確実にスライドドア13のベルトライン部37の近傍(スライドドア13の中央部)からスライドドア13の内側を谷折りにスライドドア13の幅の方向に沿って稜線121を形成するように曲げることができる。
【0062】
スライドドア13では、窓枠補強部材47に比べ、引っ張り強さの大きいラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51を選択したが、引っ張り強さに限定するものではなく、板厚でラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51を選択したものでもよい。
すなわち、ラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51は、窓枠補強部材47の板厚より板厚が厚い鋼板で形成した別のスライドドア(図に示していない)でもよい。
【0063】
別のスライドドアは、車両11側面視(図2の視点)、スライドドア13と同様であり、板厚のみが異なるものである。
【0064】
一例を挙げると、ラッチ補強部材54、ベルトライン補強部材51および窓枠補強部材47の引っ張り強さは同じとするか、ラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51の引っ張り強さは、窓枠補強部材47の引っ張り強さより小さい。
要は、単品部品として完成したラッチ補強部材54およびベルトライン補強部材51は、窓枠補強部材47より強度(引っ張り強さ、断面係数)が大きいものである。
【0065】
別のスライドドア13は、引っ張り強さσ1、σ2、σ3を特定したスライドドア13と同様の作用、効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のスライドドアは、自動車に好適である。
【符号の説明】
【0067】
11…車両、12…車体、13…スライドドア、25…ドア開口部、37…ベルトライン部、41…ドアインナパネル、42…ドアインナパネルの周縁部、43…ドアアウタパネル、44…ドアアウタパネルの周縁部、45…ドア本体部、46…窓枠部、47…窓枠補強部材、51…ベルトライン補強部材、53…ラッチ部材、54…ラッチ補強部材、57…スライドドアの第1角部、58…第1連結機構、62…第2角部、63…第2連結機構、67…ラッチ補強部材の上縁、68…ベルトライン補強部材の下縁、72…窓枠補強部材の内方縁、75…機能部品、77…作業開口部、79…折れ起点部、81…平坦部、82…作業開口部の上縁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体のドア開口部にスライド自在に取付けられたスライドドアであって、
前記スライドドアは、ドアインナパネルの周縁部とドアアウタパネルの周縁部を接合した閉断面形状のドア本体部と、
前記ドア本体部に連ね上方に設けられた閉断面形状の窓枠部と、
前記ドアインナパネルおよび前記窓枠部に跨って取付けられた窓枠補強部材と、
前記ドア本体部の上縁をなすベルトライン部に沿って前記ドアインナパネルに取付けられたベルトライン補強部材と、
前記ドア本体部内に配置され、前記スライドドアの幅方向の一端の上下方向の中央に設けられ、前記車体に必要に応じて係止するラッチ部材と、
前記ラッチ部材が取付けられ、前記ドアインナパネルに取付けられたラッチ補強部材と、
前記スライドドアの他端と前記スライドドアの上端とが交差する第1角部に設けられて前記車体にスライド自在に支持している第1連結機構と、
前記スライドドアの他端と前記スライドドアの下端とが交差する第2角部に設けられて前記車体にスライド自在に支持している第2連結機構と、
前記ラッチ補強部材から上方へ前記ベルトライン補強部材が離間して配置され、前記ラッチ補強部材に前記ベルトライン補強部材が前記窓枠補強部材で連結され、
前記ラッチ補強部材および前記ベルトライン補強部材は、前記窓枠補強部材の引っ張り強さより引っ張り強さが大きい鋼板で形成されていることを特徴とするスライドドア。
【請求項2】
車両の車体のドア開口部にスライド自在に取付けられたスライドドアであって、
前記スライドドアは、ドアインナパネルの周縁部とドアアウタパネルの周縁部を接合した閉断面形状のドア本体部と、
前記ドア本体部に連ね上方に設けられた閉断面形状の窓枠部と、
前記ドアインナパネルおよび前記窓枠部に跨って取付けられた窓枠補強部材と、
前記ドア本体部の上縁をなすベルトライン部に沿って前記ドアインナパネルに取付けられたベルトライン補強部材と、
前記ドア本体部内に配置され、前記スライドドアの幅方向の一端の上下方向の中央に設けられ、前記車体に必要に応じて係止するラッチ部材と、
前記ラッチ部材が取付けられ、前記ドアインナパネルに取付けられたラッチ補強部材と、
前記スライドドアの他端と前記スライドドアの上端とが交差する第1角部に設けられて前記車体にスライド自在に支持している第1連結機構と、
前記スライドドアの他端と前記スライドドアの下端とが交差する第2角部に設けられて前記車体にスライド自在に支持している第2連結機構と、
前記ラッチ補強部材から上方へ前記ベルトライン補強部材が離間して配置され、前記ラッチ補強部材に前記ベルトライン補強部材が前記窓枠補強部材で連結され、
前記ラッチ補強部材および前記ベルトライン補強部材は、前記窓枠補強部材の板厚より板厚が厚い鋼板で形成されていることを特徴とするスライドドア。
【請求項3】
前記ラッチ補強部材の縁のうち上方に位置する上縁、該上縁に対向する前記ベルトライン補強部材の下縁はともに前記スライドドアの幅の方向に延び、且つ互いに平行に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のスライドドア。
【請求項4】
前記窓枠補強部材の縁のうち前記スライドドアの内方へ向けた内方縁は、前記ラッチ補強部材の上縁に接合され、且つ前記ベルトライン補強部材の縁のうち下縁に接合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のスライドドア。
【請求項5】
前記ドアインナパネルは、前記ドア本体部の内部に配置された機能部品に対する作業用の作業開口部と、前記作業開口部の縁から前記ベルトライン補強部材と前記ラッチ補強部材との間の離間部分と車両内外方向で重なる前記ドアインナパネルの折れ起点部に達する平坦部と、を備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のスライドドア。
【請求項6】
前記平坦部は、前記作業開口部の前記縁のうち、上方に位置する上縁部から前記ドアインナパネルの幅方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項5記載のスライドドア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−112058(P2013−112058A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257968(P2011−257968)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)