説明

スライドファスナー、物品、及びトレースシステム

【課題】正規品と識別情報の組み合わせを強固に保持し得る手法と、それを利用してなるトレースシステムを提供すること。
【解決手段】昇華染色技術を利用してスライドファスナー10のファスナーストリンガー20に対して二次元コード(識別情報)40を組み込むこととし、そのスライドファスナー10を正規品(鞄など)に取り付けることにより、正規品の流通経路(移動経路)をトレースシステムにおいてトレース可能とする。昇華染色にて染色した二次元コード40は、色落ち等しないため半永久的に利用可能であり、また、複製・再利用が困難である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレースシステムに関し、特に、模倣品の流通防止に寄与するトレースシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
トレースシステムとしては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1のトレースシステムは、識別情報として物品に付された二次元コードを携帯端末によって読み取ることにより物品の流通経路を追跡記録するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−251079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、模倣品による被害は甚大なものとなっているが、正規品の流通経路のトレースを的確に行うことができるようになれば、模倣品の流通を抑えることができ、模倣品被害を低減することができる。
【0005】
既存のトレースシステムを用いて正規品の流通経路のトレースを的確に行うためには、正規品と識別情報の組み合わせを勝手に変更できないことが前提となる。しかしながら、従来の技術では、正規品と識別情報の組み合わせを強固に保持することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、正規品と識別情報の組み合わせを強固に保持し得る手法と、それを利用してなるトレースシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、第1のスライドファスナーとして、一対のファスナーストリンガーと、該ファスナーストリンガーを開閉するためのスライダーとを備えるスライドファスナーであって、前記ファスナーストリンガーに識別情報が組み込まれてなるスライドファスナーが得られる。
【0008】
また、本発明によれば、第2のスライドファスナーとして、第1のスライドファスナーであって、前記識別情報は、一次元コード又は二次元コードである、スライドファスナーが得られる。
【0009】
また、本発明によれば、第3のスライドファスナーとして、第1又は第2のスライドファスナーであって、前記識別情報は、昇華染色技術を利用して前記ファスナーストリンガーに組み込まれてなる、スライドファスナーが得られる。
【0010】
また、本発明によれば、第4のスライドファスナーとして、第3のスライドファスナーであって、前記ファスナーストリンガーは樹脂からなる、スライドファスナーが得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第1乃至第4のスライドファスナーのいずれかを備える物品が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記物品と、前記識別情報を利用して当該物品の流通又は移動した経路を追跡記録するトレースシステムが得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記物品の前記識別情報をトレースシステムにおいて利用して当該物品の流通又は移動した経路を追跡記録する方法が得られる。
【0014】
更に、本発明によれば、第3又は第4のスライドファスナーの製造時において前記ファスナーストリンガーに対して前記識別情報を昇華染色によって組み込む際に使用される加熱・加圧用カセットであって、
平板状の上板部及び下板部を備えており、
前記上板部及び前記下板部の対向面の少なくともいずれか一方に、前記ファスナーストリンガーのファスナーエレメントに対応した凹部が形成されてなる
加熱・加圧用カセットが得られる。
【発明の効果】
【0015】
物品(正規品)に取り付けられたスライドファスナーを取り外そうとすると、正規品本体に傷が付いてしまうことから、取り外したスライドファスナーの複製などを行った後に、正規品を復元することは困難である。従って、正規品とスライドファスナーとの組み合わせを強固に保持することができ、トレースシステムによる正規品の流通経路のトレースを的確に行うことができる。
【0016】
また、上記の加熱・加圧用カセットを用いてスライドファスナーのファスナーストリンガーに対して昇華染色技術を利用した識別情報の組み込みを行うと、より鮮明な識別情報を構成することができ、上記トレースシステムにおける識別情報の検知ミス等を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態によるスライドファスナーを示す図である。
【図2】図1のスライドファスナーの裏面を示す図である。
【図3】図2のスライドファスナーの製造時、特に、昇華染色技術を利用した識別情報の組み込み時に用いられる加熱・加圧用カセットを示す斜視図である。
【図4】図3のIV--IV線に沿った加熱・加圧用カセットの断面を示す断面図である。
【図5】図3の加熱・加圧用カセットを用いたスライドファスナーの昇華染色の様子を示す断面図である。
【図6】図1のスライドファスナーを備える物品(鞄)を示す斜視図である。
【図7】図6の物品の流通又は移動した経路を追跡記録するトレースシステムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1及び図2に示されるように、本発明の実施の形態によるスライドファスナー10は、一対のファスナーストリンガー20と、ファスナーストリンガー20を開閉するためのスライダー30とを備えている。詳しくは、ファスナーストリンガー20は、ファスナーテープ22と、ファスナーテープ22に取り付けられたファスナーエレメント(務歯列)24と、スライダー30の移動を規制する上止具26及び下止具28とを備えている。本実施の形態におけるファスナーテープ22は、ポリエステル等の樹脂繊維を織成して形成されたものであり、また、ファスナーエレメント24、上止具26及び下止具28も樹脂からなるものである。即ち、本実施の形態によるスライドファスナー10は、いわゆる樹脂ファスナーである。しかしながら、本発明はこれに限定されるわけではなく、スライドファスナー10は、例えば、ファスナーエレメント24、上止具26及び下止具28が金属からなる金属ファスナーであってもよい。
【0019】
本実施の形態によるスライドファスナー10は、図2に示されるように、ファスナーストリンガー22の裏面上に識別情報として二次元コード40が組み込まれている。この二次元コード40は、マトリックス式のものである。但し、本発明はこれに限定されるわけではなく、例えば、ファスナーストリンガー22に対してスタック式の二次元コードを組む込むこととしてもよいし、バーコード(一次元コード)を組み込むこととしてもよい。また、数字や絵文字、特定のデザイン等からなる識別情報を組み込むこととしてもよい。
【0020】
本実施の形態において、ファスナーストリンガー22に対する二次元コード40の組み込みには、昇華染色技術が利用されている。昇華染色技術によると、いわゆる色落ち等を防ぐことができるため、事実上、半永久的に識別情報の利用が可能となる。なお、昇華染色技術によって染色可能なのは、樹脂等であることから、二次元コード40のように比較的大きな面積を必要とする識別情報の場合、スライドファスナー10としては本実施の形態のような樹脂ファスナーが好ましい。
【0021】
ファスナーストリンガーは、ファスナーメーカーにより製造された時点では、100メーターほどの長さを有しており且つ円形のリールに巻かれているため、それに染色をするにあたってはリールからファスナーストリンガーを引き出しながら行うのが通常の考え方であり、そのため、昇華染色の機材として回転式の構造を有するものが開発されていた。しかしながら、二次元コードなどの識別情報の染色を考慮した場合、コードの図柄のズレ(ゴースト)などはない方が好ましい。更に、実使用時には、メンテナンスのし易さや故障率の低減などの要求もある。これらを考慮し、本実施の形態においては、図3及び図4に示されるような加熱・加圧用カセット100を創作し、用いることとした。
【0022】
図3乃至図5を参照すると、加熱・加圧用カセット100は、未染色の複数のスライドファスナー10′を同時に昇華染色する際に用いられるものであり、熱伝導率の高い材料からなる上板部110及び下板部120を備えている。より具体的には、本実施の形態による上板部110及び下板部120は、カーボングラファイトからなるものであり、夫々、略平板状の形状を有している。また、下板部120の上板部110との対向面120aは平坦であるのに対して、上板部110の下板部120との対向面110aには、複数列の凹部112が形成されている。各凹部112は、図4の紙面に直交する方向に延びており、複数の未染色のスライドファスナー10′の夫々のファスナーエレメント24′に対応している。本実施の形態によるスライドファスナー10は、上述したように樹脂ファスナーであるため、下板部120の対向面120aは平坦面としてあるが、染色時におけるファスナーストリンガー22の裏面の意図しない移動を防止するためファスナーストリンガー22に対応させて僅かに凹んだ浅凹部を形成することとしてもよい。更に、スライドファスナー10を金属ファスナーとする場合には、ファスナーストリンガー22の裏面側にもファスナーエレメントが突出することとなるため、下板部120にも凹部を形成することとする。その場合、下板部120の凹部は、上板部110の凹部112と対向するように形成される。
【0023】
かかる加熱・加圧用カセット100を用いての染色は、図5に示されるようにして行われる。まず、昇華染色用の染料を印刷してなる転写紙132,134を用意し、上側の転写紙132と下側の転写紙134の夫々の印刷された面を対向させ、その間に未染色のスライドファスナー10′を挟む。次いで、それらを上板部110と下板部120の間に配置する。この際、未染色のスライドファスナー10′のファスナーエレメント24′を上板部110の凹部112に対応させるようにする。その状態において、上板部110及び下板部120に熱を加えつつ、上板部110と下板部120とに圧を加えることで、転写紙132及び134に印刷された染料を昇華させファスナーストリンガー22に転写する。このようにして、ファスナーストリンガー22に模様をつけると共にファスナーストリンガー22に識別情報(二次元コード40)を組み込む。
【0024】
本実施の形態においては、図6に示されるように、上述したスライドファスナー10を物品(鞄)200に組み込むこととする。なお、図示された鞄200においては、二次元コード40の存在を明確にするため、スライドファスナー10を閉めた状態において、鞄200の外部にて二次元コード40の存在を認識できるように描いてあるが、鞄200の内部に二次元コード40が位置するように設けられていてもよい。
【0025】
かかる鞄200の流通経路は、そこに組み込まれたスライドファスナー10の二次元コード40を利用することにより、図7に示されるようなトレースシステムにて追跡記録することができる。図7には、一般的なトレースシステムが例示されている。図示されたトレースシステムは、鞄200のスライドファスナー10に組み込まれている二次元コード40を読み取るコードリーダ付の携帯端末400と、携帯端末400に通信エリアを提供する基地局500と、ネットワーク700を介して基地局500に接続され、基地局500及びネットワーク700を介して携帯端末400から受けた二次元コード40の情報を基に鞄200の流通経路(移動経路)を追跡し、その履歴を管理・記録するサーバ600とを備えている。ここで、ネットワーク700は、公衆回線網やインターネットなどのパブリックなネットワークや特定企業内のドメスティックなネットワーク、又はそれらの組み合わせからなるものであり、特に限定はない。このようなトレースシステムを用いれば、鞄200にスライドファスナー10を取り付けた時点(即ち、鞄200の生産時点)から鞄200の流通経路をトレースしていくことが可能となるため、正規品の管理を確実に行うことができ、模倣品を流通させるといった不正行為自体を抑制することができる。
【0026】
詳しくは、スライドファスナー10の鞄200への取り付けはミシン等を用いて縫いつけることにより行うため、鞄200からスライドファスナー10を取り外そうとすると、鞄200の皮・生地を傷めることとなってしまい、一旦取り外したスライドファスナー10を鞄200に再度取り付けようとしても傷が目立つことになってしまう。即ち、スライドファスナー10を取り外して不正使用しようとすると、正規品を一つダメにしてしまうことになる。従って、かかる不正使用の形態は現実的ではない。
【0027】
また、二次元コード40の内容をスライドファスナー10毎に異ならせることとすると、取り外したスライドファスナー10を基にスライドファスナー10のコピー品を多数作成し、そのスライドファスナー10を用いて模倣品を作製したとしても、トレースシステム上で模倣品であることがすぐに判別されてしまうことになる。従って、模倣品の排除を効果的に行うことができる。この場合、スライドファスナー10を鞄200に付属させる保証書等と組み合わせることにより、当該鞄200が正規品であることの信頼性を更に高めることとすると、模倣品の排除も更に効果的に行うことができる。
【符号の説明】
【0028】
10,10′ スライドファスナー
20 ファスナーストリンガー
22 ファスナーテープ
24,24′ ファスナーエレメント(務歯列)
26 上止具
28 下止具
30 スライダー
40 二次元コード
50 物品
100 加熱・加圧用カセット
110 上板部
110a 対向面
112 凹部
120 下板部
120a 対向面
132 転写紙
134 転写紙
200 物品(鞄)
300 トレースシステム
400 携帯端末
500 基地局
600 管理サーバ
700 ネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のファスナーストリンガーと、該ファスナーストリンガーを開閉するためのスライダーとを備えるスライドファスナーであって、前記ファスナーストリンガーに識別情報が組み込まれてなるスライドファスナー。
【請求項2】
請求項1記載のスライドファスナーであって、前記識別情報は、一次元コード又は二次元コードである、スライドファスナー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のスライドファスナーであって、前記識別情報は、昇華染色技術を利用して前記ファスナーストリンガーに組み込まれてなる、スライドファスナー。
【請求項4】
請求項3記載のスライドファスナーであって、前記ファスナーストリンガーは樹脂からなる、スライドファスナー。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のスライドファスナーを備える物品。
【請求項6】
請求項5記載の物品と、前記識別情報を利用して当該物品の流通又は移動した経路を追跡記録するトレースシステム。
【請求項7】
請求項5記載の物品の前記識別情報をトレースシステムにおいて利用して当該物品の流通又は移動した経路を追跡記録する方法。
【請求項8】
請求項3又は請求項4記載のスライドファスナーの製造時において前記ファスナーストリンガーに対して前記識別情報を昇華染色によって組み込む際に使用される加熱・加圧用カセットであって、
平板状の上板部及び下板部を備えており、
前記上板部及び前記下板部の対向面の少なくともいずれか一方に、前記ファスナーストリンガーのファスナーエレメントに対応した凹部が形成されてなる
加熱・加圧用カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−48710(P2011−48710A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197543(P2009−197543)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(503212571)楽プリ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】