説明

スライドファスナー用スライダー

【課題】樹脂製の引手後付けタイプのスライダーで、引手装着後、引手を如何なる方向へ引張っても胴体の後口側の口径に影響を与えないスライダーを提供する。
【解決手段】引手取付杆11は、上翼板2の後口9側から肩口8に向けて片持状に設け、先端部13に係止部16を設け、胴体1の肩口8に被係止部20を設けて双方を係止可能に形成し、引手取付杆11の基部12から肩口8に向けて上翼板2に凹部21を設け、上翼板2と基部12との間に間隙部14を形成し、この間隙部14により上翼板2に基部12と分離した第1上翼板部分2aと、基部12から肩口8側に配され、基部12と連結する第2上翼板部分2bとを形成し、引手取付杆11に引手30を装着し係止した後、引手30を如何に操作しても、胴体1の後口9の口径Hを拡開する弊害をなくしチエン割れを防いだスライダーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、引手取付杆が可撓性を備え、引手取付杆が一体成形された樹脂製のスライダー胴体に対し、衣服、カバンなどを取り扱う業者が、自由かつ希望するデザイン、ブランドの引手を後付け工程で簡単にスライダー胴体へ取り付けることができる引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーである。
【背景技術】
【0002】
従来、予め成形しておいたスライダー胴体に対し、引手を後から取り付けることができるように形成した樹脂製のスライドファスナー用スライダーとして、図6に示すように、可撓性を備えた取付用アームをスライダー胴体の肩口側における案内柱の上面から片持状に突出させ、このアームの先端に断面形状が矢形状を呈する係合溝を設け、胴体の後口側における上翼板の上面にアームの先端に設けた係合溝に嵌合できる断面形状が傘形状の係止片を突設し、アームの先端と係止片との間の間隙から引手の軸部を挿入した後、係合溝と係止片とを嵌合させることによりアーム先端と係止して、間隙が閉鎖され、引手の軸部がアームから抜脱不能とすることが知られている。
【0003】
また、引手を後から取り付けることができるように形成した樹脂製のスライドファスナー用スライダーとして、図7に示すように、可撓性を備えた引手保持枠を胴体の肩口側における案内柱の上面から片持状に突出させ、引手保持枠の先端にフック状の鉤部を形成し、胴体の後口側における上翼板の上面に台形の突起を突設し、この突起の下面からスライダー胴体の後口にかけて嵌合溝を設け、鉤部と突起との間の間隙から引手の軸部を差し込んだ後、鉤部を嵌合溝内へ嵌合させることにより鉤部と突起とが係止して、間隙が閉鎖され、引手の軸部が引手保持枠から抜脱不能とすることが知られている。
【特許文献1】実開平2−98709号公報
【特許文献2】特公平3−31441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前項で述べた図6に示す引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーは、ファスナーチエンを閉鎖させるべく、引手取付用アームに取り付けられた引手を把持して、スライダーの前方すなわち肩口側へ向けて引張ったとき、引張り力が上方からアームに加わって、アームの先端すなわちスライダー胴体の後口側の係止部分を持ち上げようとする作用が働き、その結果スライダー胴体の上翼板の後口側が持ち上げられ、上翼板と下翼板との間隙すなわちスライダー胴体における口径が拡開して、左右のファスナーエレメントが噛み合わない状態すなわちチエン割れ現象を惹起する。またアームの先端と係止片とはスライダーの上下方向に係止する構造であり、横方向には何ら係止する構造を備えていないことから、アームに横方向の引張り力が加わると、アームの先端が横方向へスライドして、係合溝と係止片との嵌合が外れる恐れがあるなど問題点がある。
【0005】
また図7に示す引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーは、引手を把持してファスナーチエンを閉鎖する方向へ引手操作を行ったとき、引手を上方へ引張ることによってアームの先端を持ち上げようとする作用が働き、これによりスライダー胴体の後口側の上翼板が持ち上げられ、上翼板と下翼板との間の口径が拡開して、チエン割れ現象を惹起する。また、ファスナーチエンを開放させるべく引手をスライダーの後方すなわち後口側へ引張ったとき、引張り力が鉤部におけるフックの向きとは逆方向に加わり、鉤部と突起との係止を外れさせようとする作用が働いて、係止状態が解除され、引手取付枠から引手が脱落してしまう恐れがあるなどの問題点がある。
【0006】
この発明は、上述の問題点を考慮して発明されたものであり、この発明のうち請求項1記載の発明は、樹脂製の引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーにおいて、引手の操作によって引手取付杆にいかなる張力が働いても、引手取付杆の基部と胴体の上翼板における後口側部分との間に間隙部を設置することによって、胴体の後口において上翼板と下翼板とによって形成されるガイド溝の口径の高さ寸法が拡開することを未然に防ぎ、スライドファスナーにおけるチエン割れ現象を惹起しない引手後付けタイプの樹脂製のスライドファスナー用スライダーを提供することが主たる目的である。
【0007】
請求項2および3記載の発明は、それぞれ請求項1記載の発明の目的に加え、引手取付杆の基部と上翼板との間に間隙部を形成するための形態を具体的に特定し、引手取付杆からの張力が胴体の上翼板の後口側部分に加わり難い引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【0008】
請求項4,5および6記載の発明は、それぞれ請求項1記載の発明の目的に加え、引手取付杆の先端部に設けた係止部と胴体の肩口側に設けた被係止部の形態を具体的に特定し、係止部と被係止部の係止が強固になされ、さらに引手取付杆に設けた突起部と胴体の上面に設けた突片とを強固に係止させ、引手取付杆に取り付けられた引手を胴体の肩口側へ向けて引張ったときに、引張り力が引手取付杆の先端部を胴体へ接近させる方向に働いて、より強固な係止状態が維持される引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーを提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するため、この発明のうち請求項1記載の発明は、上下に対向して配置した上翼板2と下翼板3とを肩口8側すなわち胴体1の前方側において案内柱4で連結した胴体1と、胴体1の上翼板2の上面に立設され、胴体1の後口9側すなわち後方側から肩口8側へ向けて片持状に延びる引手取付杆11とを備えた樹脂製のスライドファスナー用スライダーにおいて、引手取付杆11は、胴体1の上翼板2から上方へ突出する基部12と、胴体1の肩口8側へ向けて延び、先端に先端部13を有し、上翼板2上における基部12の周辺に凹部21を設けることによって、上翼板2と基部12との間に間隙部14を形成し、先端部13に形成した係止部16と胴体1の肩口8側に形成した被係止部20とを係止可能に形成した引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーを主な構成とするものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、凹部21は、基部12の左右両側と下側において連続した形で形成するとともに、胴体1の後口9から肩口8側へ向けて延設する形に形成し、基部12は肩口8側において上翼板2と連結した引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーである。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の構成に加え、上翼板2は、基部12の左右両側および下側とに配置された間隙部14によって、基部12と分離した第1上翼板部分2aと、基部12よりも肩口8側に配置され、基部12と連結する第2上翼板部分2bとを有し、第2上翼板部分2bの左右両側および下側にも間隙部14が形成された引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーである。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加え、係止部16は、引手取付杆11の先端部13に設けたフック部18から形成し、被係止部20は、胴体1の上翼板2の肩口8側から突出し、先端にフック部23を備えた突片22を凹陥部15の上面に架橋状に設けて形成し、係止部16と被係止部20とが係止したとき、フック部18が案内柱4の上面に形成した凹陥部15内に挿入された引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーである。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成に加え、引手取付杆11は、先端部13よりも基部12側に形成された突起部17を有し、突起部17は、係止部16と被係止部20とが係止したとき、突片22よりも後口9側に位置し、突片22と胴体1の前後方向に対面して配された引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーである。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の構成に加え、突片22は、突起部17と接する面にフック状に形成した第2被係止部24を設け、突起部17は、突片22と接する面にフック状に形成した第2係止部19を設け、第2被係止部24と第2係止部19とが係止できるように形成した引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーである。
【発明の効果】
【0015】
この出願の発明の効果として、請求項1記載の発明は、上下に対向して配置した上翼板と下翼板とを肩口側にて案内柱で連結した胴体と、胴体の上翼板の上面に立設され、胴体の後口側から肩口側へ向けて片持状に延びる引手取付杆とを備えた樹脂製のスライドファスナー用スライダーにおいて、引手取付杆は、胴体の上翼板から突出する基部と、胴体の肩口側へ向けて延びる先端部とを有し、上翼板に配設した基部の周辺に凹部を設けることにより、上翼板との間に間隙部を形成し、先端部に形成した係止部と胴体の肩口側に形成した被係止部とを係止可能としたことによって、下記の効果を奏するものである。
【0016】
引手取付杆に取り付けた引手の引張り操作によって、引手取付杆は胴体に対して撓み変形するものの、引手取付杆と連結する上翼板は撓み変形することがなく、胴体の後口における上翼板と下翼板との間に形成されるガイド溝の口径が拡開することを未然に防ぎ、スライダーの摺動時にファスナーエレメントが噛み合わない状態、すなわちチエン割れ現象を惹起することがない引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーに仕上げることができる効果がある。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、凹部は、基部の左右両側と下側とに連続して形成するとともに、胴体の後口側から肩口側へ向けて延設し、基部は肩口側において上翼板と連結したことによって、引手取付杆に加わった張力が、基部の左右および下方から上翼板に伝わり難く、胴体の後口側における上翼板の撓み変形を確実に防止できる効果がある。
【0018】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明の効果に加え、上翼板は、基部の左右両側および下側とに配置された間隙部により、基部と分離した第1上翼板部分と、基部よりも肩口側に配置され、基部と連結する第2上翼板部分とを有し、第2上翼板部分の左右両側および下側にも間隙部が形成されたことによって、引手取付杆を引張り上げようとする力が加わったとき、この力が上翼板に加わる部分を、引手取付杆の基部よりも胴体の肩口側により接近した位置に配することができ、胴体の後口側の上翼板に張力がより伝わり難くすることができる効果がある。
【0019】
請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、係止部は、引手取付杆の先端部に設けたフック部から形成し、被係止部は、胴体の上翼板の肩口側から突出し、先端にフック部を備えた突片を凹陥部の上面に架設して形成し、係止部と被係止部とが強固に係止するとともに、フック部が案内柱の上面に形成した凹陥部内に挿入されることによって、係止部と被係止部とが係止状態にあるとき、引手取付杆に横方向への引張り力が加わっても、フック部が左右方向へ位置ずれしようとする作用を凹陥部の側壁が防ぎ、係止状態が解除されることがない効果がある。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の効果に加え、引手取付杆は、先端部よりも基部側に形成された突起部を有し、突起部は係止部と被係止部とが係止したとき、突片よりも後口側に位置し、突片と胴体の前後方向に対面して配されることによって、引手を引張ったとき、引手の軸部が引手取付杆の先端部に接することなく、突起部に接するので、軸部と突起部との接点を中心として、先端部を体へ接近させようとする回転力が働き、係止部と被係止部との係止をより強固な状態にすることができる効果がある。
【0021】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明の効果に加え、突片は、突起部と接する面にフック状に形成した第2被係止部を設け、突起部は、突片と接する面にフック状に形成した第2係止部を設け、第2被係止部と第2係止部とが係止可能に形成したことによって、引手取付杆の先端部を胴体の上面に凹設した凹陥部に係止するため、二段階で係止手段を形成し、引手取付杆を強固に胴体の上面に固定し、如何なる使用態様にも耐え得る引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーに仕上げることができる効果があるなど、この発明が奏する効果はきわめて顕著である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明における引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーは、樹脂製で、図1〜4に示すように、内部にファスナーエレメントが挿通可能なガイド溝6を備えた胴体1と、胴体1の上面に立設され、引手30が取り付けられる引手取付杆11とが一体に成形されている。胴体1は、上下に所定の間隔を空けて対向して配置された上翼板2と下翼板3とを肩口8側で案内柱4によって連結し、上翼板2と下翼板3との間にガイド溝6を形成されている。引手取付杆11は、胴体1の後口9側から肩口8側へ向けて片持状に形成されており、胴体1の上翼板2に連結された基部12と、基部12から延出した先端部13とを有している。この先端部13は、胴体1とは連結せず、上翼板2の上面との間に引手30の軸部31が挿入可能な間隙を形成するように配置された自由端部となっている。この間隙から引手30の軸部31を挿入し、引手30を引手取付杆11に引っ掛けた後、先端部13を上翼板2の上面に接近させて間隙を閉鎖する方向へ引手取付杆11を変形させ、先端部13を胴体1に係止させることにより、引手30は引手取付杆11から抜脱不能に取り付けられる。
【0023】
引手取付杆11の基部12は、胴体1の上翼板2における後口9側の上面に設けられており、上翼板2における基部12の周辺に凹部21が形成されている。凹部21は、基部12の左右両側と下側とに連続する形で形成し、基部12と上翼板2との間に間隙部14を形成している。すなわち基部12は、凹部21内における幅方向中央に配置され、基部12の左右両側と下側上翼板2とは分離し、基部12の肩口8側でのみ上翼板2と連結した形態となっている。さらに、凹部12は基部12を越えて胴体1の肩口8側へ向けて延設されており、胴体1の前後方向の略中央位置にまで形成されている。これにより、上翼板2は、基部12と分離した第1上翼板部分2aと、基部12と同様にその左右両側と下側とに凹部21が形成され、第1上翼板部分2aとの間に間隙部14が形成された第2上翼板部分2bとを有する。この間隙部14を形成することによって、引手取付杆11に取り付けられた引手30に引張り力が加わったとき、例えば、引手30を把持してスライダーを前後方向に摺動させたとき、引手取付杆11に加わる張力が上翼板2における基部12の周辺部分すなわち上翼板2の後口側部分に伝わり難くすることができ、引手取付杆11の撓みが、胴体1の後口9側における上翼板2と下翼板3とで設定されているガイド溝6の口径Hに影響しないようにしている。
【0024】
引手取付杆11の先端部13は、胴体1の上翼板2における肩口8側の上面と対向状に配置されており、胴体1へ向けて突出するとともに、その先端に内向すなわち後口9側へ向けて屈曲するフック部18を有した係止部16が形成されている。先端部13と対向する胴体1の肩口8側の部分には、案内柱4の上面に、フック部18が挿入し収納可能な凹陥部15が形成されている。この凹陥部15は、胴体1の前方側が開口し、左右両側に側壁を備えた形態である。また、凹陥部15の後口9側に隣接する位置には、上翼板2の上面から突出する突片22と、突片22の先端から外向すなわち肩口8側へ向けて突出し、凹陥部15の上方を覆うように配置されたフック部23とを有する被係止部20が形成されている。引手取付杆11の先端部13が胴体1に向けて接近する方向へ変形させられたときに、係止部16のフック部18が凹陥部15内に挿入し、フック部18と被係止部20のフック部23とが引っ掛ることにより、係止部16と被係止部20とが係止され、先端部13と胴体1とが連結される。このとき、フック部18の左右両側面が、凹陥部15の左右側壁と対面状に配置されるので、引手取付杆11に横方向の張力が加わっても、先端部13の位置が横方向にずれることがなく、係止部16と被係止部20との係止が維持される。
【0025】
また引手取付杆11は、先端部13よりも基部12側の位置から突出し、胴体1の上翼板2の上面に向けて延びる突起部17を有している。この突起部17は、先端部13との間隔を空けて平行状に配置されており、係止部16と被係止部20とが係止したときに、先端部13と突起部17との間に突片22が配置される。突起部17は突片22の後口9側の面と対面し、かつ接しており、突片22を肩口8側へ押圧して、フック部23をフック部18と引っ掛る方向へ付勢している。すなわち突片22は先端部13と突起部17とによって胴体の前後方向から挟持され、係止部16と被係止部20との係止状態を強固にしている。また、突起部17は、引手30を把持して引張ったときに、引手30の軸部31と当接することにより、先端部13が軸部31と突起部17との接点を中心にして、胴体1に接近しようとする回転力が生じ、これによりフック部18とフック部23とが密接する作用が働き、係止部16と被係止部20との係止状態が強固に維持されるようにしている。
【実施例1】
【0026】
この発明における実施例1の引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーは、図1〜4に示すように、胴体1と、胴体1の上面に設けられた引手取付杆11とを有し、胴体1と引手取付杆11とがポリアセタール、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂を用いて射出成形手段によって成形する。スライダーにおける胴体1の形態は、上下に対向して配置した上翼板2と下翼板3とを肩口8側すなわち胴体1の前端側で案内柱4によって連結し、上翼板2と下翼板3との両サイドに対向する下翼板3または上翼板2へ向けて突出するフランジ5を設け、スライダーの内部に上翼板2と、下翼板3と、案内柱4と、フランジ5とで囲まれたガイド溝6を形成する。このガイド溝6内にファスナーエレメントが挿通し、スライダーをファスナーエレメントに沿って摺動させることによりファスナーエレメントを噛合または分離させることができる。
【0027】
胴体1の上翼板2の上面には引手取付杆11が立設され、この引手取付杆11は、基部12が胴体1の後口9側すなわち後端側から突出し、先端部13が胴体1の肩口8側に向けて延びた片持状に形成されている。また、上翼板2には、引手取付杆11の基部12に対して左右両側に位置する部分と、下側に位置する部分とに連続して凹状の凹部21が形成されている。この凹部21は、胴体1の後口9側から肩口8側へ向けて、胴体1の前後方向の略中央位置にまで延設され、基部12と凹部21との間に空洞化した間隙部14が形成される。この間隙部14によって、後口9側の上翼板2は、基部12に対して左右両側と下側とに配置され、基部12と分離した第1上翼板部分2aと、基部12よりも肩口8側に配置され、基部12と連結した第2上翼板部分2bとに分割された形態となる。間隙部14を設けることにより、引手取付杆11に引張り力が加わったとき、この引張り力が上翼板2の後口9には伝わらないようにすることができ、上翼板2が撓み変形することなく、後口9における上翼板2と下翼板3との間の高さ寸法H、すなわちガイド溝6の口径が拡開することがない。
【0028】
一方、引手取付杆11の先端部13の形態は、引手取付杆11の下面から胴体1の案内柱4へ向けて突出しており、内向すなわち基部12側へ向けて屈曲したフック部18を設け、このフック部18が係止部16を構成している。このフック部18は案内柱4の上側すなわち胴体1の肩口8側の端部に形成した凹陥部15に挿入することができる。また凹陥部15に対して後口9側に隣り合う位置には、外向すなわち胴体1の肩口8側へ向けて突出するフック部23を備えた突片22が形成され、このフック部23が係止部16と係止可能な被係止部20を構成している。さらに引手取付杆11には先端部13よりも内側すなわち基部12側の位置に、先端部13と平行状に突起部17を設け、突片22をその背面側すなわち胴体1の中央側から押圧し、先端部13と突起部17との間で突片22を挟持する。引手取付杆11の内側に挿入された引手30の軸部31は、胴体1の前方への移動の際は突起部17で軸部31を受け止め、この受け止め動作によって、引手取付杆11の先端部13に設けたフック部18が、胴体1に設けた凹陥部15に対し深く入り込む作用が生じ、係止部16と被係止部20とを強固に係止する。また引手取付杆11の先端部13におけるフック部18は、凹陥部15の左右両側壁面によって左右方向にずれ動くことがなく、引手取付杆11が横方向へ引張られても係止部16と被係止部20の係止状態が維持される。
【0029】
凹陥部15は、案内柱4の上側部分において、前面すなわち肩口8側の面が開口する形に切欠かれている。この部分は胴体1の上下方向において最も肉厚の厚い部分であることから、凹陥部15を形成しても胴体1の強度を著しく低下させることがない。また、先端部13が胴体1へ接近する方向へ変形する際に、フック部18を凹陥部15内へ入り込み易くすることができる。凹陥部15の後面すなわち後口9側の面の上方には突片22が配置されている。この突片22の下面に形成するフック部23は、凹陥部15の上方を覆うように突設されるとともに、凹陥部15の左右側壁間を跨いで架設されている。これにより、フック部23は、凹陥部15の周辺において、後口9側と左右両側とで上翼板2の上面と連結することになり、頑丈な形態とすることができる。凹陥部15は、胴体1の前後方向に、フック部18を収容するための十分な広さを有しており、フック部18が凹陥部15内に入り込んだとき、先端部13の前面と案内柱4の前面とを同一垂直面内に位置させることができる。よって、先端部13は案内柱4の前面よりも前方側へ突出することがなく、先端部13が他物に引っ掛る弊害をなくし、体裁のよいスライダーに仕上げることができる。
【0030】
完成された引手後付けタイプのスライダーに引手30を装着するには、図2に示すように、引手30を取り付ける前は、引手取付杆11の先端部13と、胴体1の案内柱4の上面に形成した突片22との間に、引手30の軸部31が挿通できる間隙を設け、この間隙を利用して胴体1の肩口8側から引手30の軸部31を引手取付杆11の内側に挿通し、挿通した後において図3に示すように、引手取付杆11を上方から押圧して先端部13に設けたフック部18を、胴体1に設けた凹陥部15に架設した突片22に設けたフック部23を備えた被係止部20とを係止させる。これにより間隙が閉鎖され、引手30は引手取付杆11から抜脱不能となる。
【0031】
引手30を装着したスライダーは、ファスナーチエンを閉鎖する方向すなわち図3に示す胴体1の肩口側8へスライダーを摺動させると、引手30の軸部31は図面で二点鎖線で示したように突起部17の基部に当接し、引手取付杆11を斜上方へ引張ると、突起部17と軸部31の接点を中心として、引手取付杆11の先端部13と胴体1へ接近させようとする回転力が生じる。これにより、引手取付杆11の先端部13に設けたフック部18を胴体1の凹陥部15へ後口9側へ向けて深く入り込ませる撓み変形が生じ、係止部16と被係止部20とを強固に係止させる。またファスナーチエンを分離する方向すなわち図3に示す胴体1の後口9側へスライダーを摺動させると、引手30の軸部31は図示の如く引手取付杆11を後方の斜上方へ引張り、引手取付杆11を上方へ多少撓ませるが、先端部13と突起部17とが突片22を前後から挟持していることにより、係止部16と被係止部20との係止状態が解除されることがない。また引手取付杆11の上方への撓みに伴なって、胴体1の後口9側における上翼板2と下翼板3との間の口径Hには何ら影響を与えないので、ファスナーチエンは円滑に左右に分離させることができる。
【実施例2】
【0032】
図5に示す実施例2の引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーは、実施例1に示したスライダーにおける引手取付杆11の突起部17と案内柱4の上面に形成した突片22との形態を改良したものであり、その他の形態は実施例1のスライダーの形態と同一である。実施例2について説明すると、引手取付杆11の先端部13に内向のフック部18を設け、このフック部18の上面に係止部16を形成し、そして先端部13の内側に先端部13と平行状に配置された突起部17を引手取付杆11から突出させて、案内柱4の上面に設けた突片22を先端部13と突起部17とによって挟持する。
【0033】
一方、案内柱4の上面には案内柱4の前面を切欠した凹陥部15を設け、この凹陥部15に対して後口9側に隣り合う位置に、先端にフック部23を設けた突片22を突設し、フック部23の下面に被係止部20を形成する。凹陥部15に引手取付杆11の先端部13に設けたフック部18を挿入し、係止部16と被係止部20とを係止させる。このときフック部18は凹陥部15の左右両側壁面によって、左右方向にはずれ動くことがない。
【0034】
そして突起部17の先端の突片22と接触する側の面にフック状に突出する第2係止部19を設け、また突片22には突起部17と接触する側の面すなわちフック部23を設けた面とは反対側の面にフック状に突出する第2被係止部24を設けて、第2係止部19と第2被係止部24とを係止して固定する。引手30の軸部31が突起部17の基部に当接したとき、突起部17の第2係止部19と突片22の第2被係止部24とが強固に係止し、かつ突片22に形成した被係止部20と先端部13の係止部16とは、前例と同様に先端部13に設けたフック部23が、案内柱4の上面に設けた凹陥部15に対し、奥深く入り込む作用が生じ、強固に係止する。従って胴体1と引手取付杆11との固定は、2個所に設置した係止部分によって、頑丈に固定され、引手30を如何なる方向から引張っても円滑にスライダーを摺動させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明の引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーは、衣服、カバンなどを取り扱う業者が、自分たちが希望するデザインまたはブランドの引手を、需要者自身が自由かつ容易に、ファスナーチエンに装備され、または装備されていないスライダーに引手を取り付け、商品を完成して販売する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1に基づく、引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダーの斜視図である。
【図2】同上のスライダーであって、引手を取り付ける前の断面図である。
【図3】同上のスライダーであって、引手を取り付けた後の断面図である。
【図4】同上のスライダーであって、図3におけるA−A断面図である。
【図5】実施例2に基づく、スライダーの胴体および引手取付杆の一部を示す要部の断面図である。
【図6】公知のスライダーの引手取り付け前の胴体の一部切欠した正面図である。
【図7】他の公知のスライダーの引手取り付け前の胴体と引手を示す正面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 胴体
2 上翼板
2a 第1上翼板部分
2b 第2上翼板部分
3 下翼板
4 案内柱
8 肩口
9 後口
11 引手取付杆
12 基部
13 先端部
14 間隙部
15 凹陥部
16 係止部
17 突起部
18 フック部(引手取付杆側)
19 第2係止部
20 被係止部
21 凹部
22 突片
23 フック部(胴体側)
24 第2被係止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に対向して配置した上翼板2と下翼板3とを肩口8側にて案内柱4で連結した胴体1と、胴体1の上翼板2の上面に立設され、胴体1の後口9側から肩口8側へ向けて片持状に延びる引手取付杆11とを備えた樹脂製のスライドファスナー用スライダーにおいて、引手取付杆11は、胴体1の上翼板2から突出する基部12と、胴体1の肩口8側へ向けて延びる先端部13とを有し、上翼板2に配設した基部12の周辺に凹部21を設けることにより、上翼板2との間に間隙部14を形成し、先端部13に形成した係止部16と胴体1の肩口8側に形成した被係止部20とを係止可能に形成したことを特徴とする引手後付けタイプのスライドファスナー用スライダー。
【請求項2】
凹部21は、基部12の左右両側と下側とに連続して形成するとともに、胴体1の後口9から肩口8側へ向けて延設し、基部12は肩口8側において上翼板2と連結してなる請求項1記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項3】
上翼板2は、基部12の左右両側および下側とに配置された間隙部14により、基部12と分離した第1上翼板部分2aと、基部12よりも肩口8側に配置され、基部12と連結する第2上翼板部分2bとを有し、第2上翼板部分2bの左右両側および下側にも間隙部14が形成されてなる請求項2記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項4】
係止部16は、引手取付杆11の先端部13に設けたフック部18から形成し、被係止部20は、胴体1の上翼板2の肩口8側から突出し、先端にフック部23を備えた突片22を凹陥部15の上面に架設して形成し、係止部16と被係止部20とが係止したとき、フック部18が案内柱4の上面に形成した凹陥部15内に挿入されてなる請求項1記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項5】
引手取付杆11は、先端部13よりも基部12側に形成された突起部17を有し、突起部17は、係止部16と被係止部20とが係止したとき、突片22よりも後口9側に位置し、突片22と胴体1の前後方向に対面して配されてなる請求項4記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項6】
被係止部20の突片22における突起部17と接する面にフック状に形成した第2被係止部24を設け、突起部17における突片22と接する面にフック状に形成した第2係止部19を設け、第2被係止部24と第2係止部19とが係止可能に形成してなる請求項5記載のスライドファスナー用スライダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−200277(P2008−200277A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39776(P2007−39776)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】