説明

スライドファスナー用スライダー

【課題】操作性に影響を与えずに、スライダー胴体や引手からの接触音を低減して音鳴りを防止できるスライドファスナー用スライダーを提供する。
【解決手段】本発明は、スライダー胴体(10,10',52,62)を備えるスライドファスナー用スライダー(1,41,46,51,61) であって、スライダー胴体(10,10',52,62)の横断方向に離間して上翼板(11)から立設された左右脚部(14a,14b,14a',14b',53a,53b) と、前記左右脚部(14a,14b,14a',14b',53a,53b) の上端部間に架橋された架橋部(14c,14c',53c,63c) とを有し、前記スライダー胴体(10,10',52,62)と一体に形成された門型形状の引手取付柱(14,14',53,63)、及び、前記架橋部(14c,14c',53c,63c) に一端が取り付けられ、同架橋部(14c,14c',53c,63c) から延出した引手(20,42,47)を備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライダー胴体と引手との接触により発生する音の低減が図れるスライドファスナー用スライダーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣服や鞄等の開口部を容易に開閉するために、その開口部にはスライドファスナーが取り付けられている。スライドファスナーは、一般に、左右のファスナーテープの対向するエレメント取付縁部に多数のファスナーエレメントが列設されて左右一対のファスナーストリンガーが形成され、得られた左右のファスナーストリンガーに配された多数のファスナーエレメントからなる左右のエレメント列にスライダーを挿通させることによって構成されている。
【0003】
また、スライダーは、エレメント列に挿通させるスライダー胴体と、同スライダー胴体に取り付けられた引手とを備えている。前記スライダー胴体は、金属製であることが多く、一般に、上下翼板と、同上下翼板をスライダー前端部にて連結する連結柱と、上翼板及び/又は下翼板の左右側縁に形成された左右のフランジと、上翼板表面(上面)にスライダー前後方向(スライダーの摺動方向)に沿って立設された引手取付柱とを有している。
【0004】
このスライダー胴体の前端側には、連結柱により分割された左右の肩口が形成され、スライダー胴体の後端には後口が形成されている。更に、上下翼板間には、左右の肩口と後口とを連通するY字状のエレメント案内通路が配されている。上記引手は、スライダー胴体に設けた引手取付柱に一端を連結させる連結部と、同連結部の他端に配される摘み部とを有している。
【0005】
このような構成を有するスライドファスナーの一例が、欧州特許第761117号明細書(特許文献1)に記載されている。この特許文献1に記載されているスライドファスナー71は、図14に示したように、左右一対のファスナーストリンガー72のエレメント列73にスライダー74を挿通させて構成されている。この特許文献1におけるスライダー74は、スライダー胴体75と引手76とを備えており、スライダー胴体75は、上翼板、下翼板、連結柱、左右フランジ、及び逆U字状の引手取付柱75aを有している。
【0006】
また、引手76は連結体77と摘み部78とを有しており、連結体77は、その一端部に形成された孔部からなる第1取付部77aと、他端部に配された環状のリムからなる第2取付部77bとを有している。この場合、連結体77は、例えばスライダー胴体75に予め片持ち状態で配設した逆U字状の引手取付柱75aに第1取付部77aを挿入して引っ掛け、その後、連結体77が引手取付柱75aから外れないように同引手取付柱75aを塑性変形させることによって、スライダー胴体75に取り付けられている。
【0007】
一方、摘み部78は、図15に示すように、第1主体部(表面半部)78aと、第2主体部(裏面半部)78bと、第1及び第2主体部78a,78b間を連結する首部78cとを有している。また、摘み部78の第1主体部78aにおける第1面(内側面)には、面ファスナーを構成する複数のループ78dが形成されており、第2主体部78bにおける第1面(内側面)には、面ファスナーを構成する複数のフック78eが形成されている。
【0008】
このような複数のループ78dとフック78eとを有する摘み部78は、第1主体部78a又は第2主体部78eを前記連結体77の第2取付部(リム)77bへ挿入した後に、第1主体部78aと第2主体部78bとを互いに重ね合わせ、第2主体部78bのフック78eを第1主体部78aのループ78dに係合させることによって、連結体77に取り付けられている。
【0009】
以上のような特許文献1のスライドファスナー71は、例えば摘み部78の取り付けにリベットを用いているようなスライドファスナー等に比べて、安価に製造することができる。また、摘み部78は、例えば面ファスナーを所定の形状に切り抜くことによりって、所望の形状に容易に形成することができる。このため、摘み部78は、バリエーションを豊富に揃えることができ、更に、摘み部78の表面及び裏面(第1主体部及び第2主体部の第2面)に、様々な模様やロゴ等を印刷等により容易に付することも可能であるといった利点を有する。
【0010】
ところで、スライドファスナーは、一般的に衣服や鞄等の開口部に用いられているが、近年では、自動車等に設置される座席のシートカバー等にも多く利用されてきている。例えば特許第3380150号公報(特許文献2)には、スライドファスナーがシートバックの表皮(シートカバー)に使用されている座席が開示されている。
【0011】
この特許文献2に記載されている座席81は、図16に示すように、シートクッション82及びシートバック83の2つの部材からなる。また、これらの部材82,83は、それぞれ、図示しないシートフレームと、シートフレームに固定される図示しない所定形状のパッドと、パッドを覆う表皮86,87とを有している。前記パッドは、ポリウレタン等により成形されており、クッション性を有している。
【0012】
この特許文献2において、シートバック83の表皮87には、座席後面の下端縁から上方へ向けて切欠き88が形成されており、この切欠き88を介して表皮後面部87aが左右に分離するように形成されている。そして、このシートバック83は、その表皮後面部87aに形成された切欠き88に沿ってスライドファスナー89が縫着されており、同スライドファスナー89のスライダー92を下方に摺動させることにより、左右のエレメント91を噛合させて上記切欠き88が閉鎖されるように構成されている。
【0013】
また、スライドファスナー89の一端部は、表皮後面部87aの下端縁87bよりも下方に長く延設されており、左右のファスナーストリンガーのうちの一方が、表皮下端縁87bから延設された部分を表皮87の裏面側に折り返して、外側から見えないように隠蔽された状態で表皮87に縫着されている。
【0014】
このような特許文献2の座席81であれば、スライドファスナー89を開いて表皮後面部87aを左右に分離させた状態で表皮87をシートバック83のパッドに被せ、その後、スライダー92を摺動させてスライドファスナー89を閉鎖することにより、表皮87をパッドに体裁良く被覆させることができる。
【0015】
特に、この特許文献2の座席81では、スライドファスナー89の一方のファスナーストリンガーが、表皮下端縁87bよりも下方に延設させた部分を表皮裏面側に隠蔽した状態で縫着されている。このため、スライドファスナー89を閉鎖した際に、他方のファスナーストリンガーの延設部分も表皮裏面側に折り返されて隠蔽される。これにより、スライドファスナー89が閉鎖状態のときには、スライドファスナー89の延設部分側の端部が表皮裏面側の所定位置に保持される。
【0016】
従って、座席81のパッドに被覆された表皮87は、例えば座席81に着座した乗員の指等がスライドファスナー89に誤って引っ掛かっても、スライドファスナー89の前記延設部分が表皮裏面側から引き出され難い。このため、スライドファスナー89の閉鎖状態を安定して維持することが可能である。
【特許文献1】欧州特許第761117号明細書
【特許文献2】特許第3380150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
前記特許文献1のような従来のスライドファスナーにおいて、スライダーの摘み部は、引手を摘み易くするために、面ファスナーを備えた織物等の帯状体で構成されるとともに、摘み部の表裏面が、スライダーの摺動方向に対して横向きとなるように配設されている。また、スライダーの連結部は、ユーザーが摘み部を摘んでスライダーをエレメント列に沿って円滑に摺動できるように、スライダー胴体側の第1取付部を中心としてスライダーの摺動方向に沿って回動可能にスライダー胴体に支持されている。更に、この連結部は、スライダー胴体と引手とを長期に渡って確実に連結しておくために、一般に破断等が生じ難い金属部材で形成されている。
【0018】
このように従来のスライドファスナーは、スライダーの引手がスライダーの操作性等を考慮して取り付けられていたものの、スライダーの非操作時には、金属製のスライダー胴体と引手の連結部とが互いに接触し、耳障りな金属音が発生するという問題があった。また、スライドファスナーが、例えば前記特許文献2のように自動車用座席のシートカバー等に用いられる場合では、自動車走行時の振動等によってスライダー胴体と引手とが頻繁に接触し、更に、スライダーがぶらつくことにより、スライダー胴体や引手がシートフレーム等の他の部材と接触するために接触音が発生するという問題もあった。
【0019】
なお、このスライダー胴体及び引手が互いに接触することや、他の部材との接触することによる接触音の発生は、例えばスライダー胴体や引手の連結部を合成樹脂の成形品で構成することによって、ある程度低減することは可能であるものの、スライドファスナーの更なる品質向上を図るためには、接触音をより効果的に防止することが望まれていた。
【0020】
また、スライダーの操作性を低下させずに、スライダー胴体や引手における接触音の発生を防止することは、上述のような座席のシートカバーに用いられるスライドファスナーだけでなく、例えば接触音が気になるようなベビー服、幼児用衣服、介護用衣服等に用いられるスライドファスナーに対しても求められていた。
【0021】
更に、前記特許文献2のようにスライドファスナー89が自動車用座席81の表皮(シートカバー)87等に用いられたときに、スライドファスナー89を閉鎖してスライダー92を表皮裏面側に隠蔽しても、例えばスライドファスナー89の隠蔽した部分(表皮下端縁87bから延設させた部分)が短い場合には、スライダー89の引手がスライダー胴体側を中心に回動し、同引手の一部が表皮87の下端縁87bから垂れ下がるように飛び出してしまうことがあった。このようにスライダー89の引手が露呈すると、見栄えが悪く、また、引手が他の部材に引っ掛かり易いためスライダーが誤って操作される虞もあった。
【0022】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、操作性に影響を与えることなく、スライダー胴体や引手から発生する接触音を低減して、例えば座席のシートカバー等に用いられても音鳴りを防止することができるスライドファスナー用スライダーを提供することにあり、更には、スライドファスナーを座席のシートカバー等に用いた際に、シートカバーの裏面側に確実に隠蔽しておくことが可能なスライドファスナー用スライダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるスライドファスナー用スライダーは、基本的な構成として、上翼板と下翼板とが案内柱により肩口側前端部で連結され、後端に後口を有するスライダー胴体を備えるスライドファスナー用スライダーであって、前記スライダー胴体の横断方向に離間して、前記上翼板から立設された左右脚部と、前記左右脚部の上端部間に架橋された架橋部とを有し、前記スライダー胴体と一体に形成された門型形状の引手取付柱、及び、前記架橋部に一端が取り付けられ、同架橋部から延出した引手、を更に備えてなることを最も主要な特徴とするものである。
【0024】
本発明に係るスライドファスナー用スライダーにおいて、前記スライダー胴体は合成樹脂からなることが好ましい。
【0025】
また、本発明のスライダーは、前記架橋部へ取り付ける前記引手の柱取付部が前記架橋部の周囲を回動することを抑止する回動抑止手段を有していることが好ましい。この場合、前記回動抑止手段は、前記架橋部から突設した舌片により構成されていることが好ましい。或いは、前記回動抑止手段は、前記引手を前記架橋部に固着することにより構成されていても良い。
【0026】
更に本発明のスライダーにおいて、前記引手は、弾性的に撓曲可能に構成されていることが好ましい。或いは、前記引手が硬質の合成樹脂からなるものであっても良い。
また、前記引手は、スライダー前後方向に配される第1及び第2引手主体部と、同第1及び第2引手主体部間を連結する折返し部とを備えた細長状の薄片により形成され、前記第1及び第2引手主体部は、前記引手を前記折返し部で折り返したときに相対する各第1面の少なくとも一部に、互いに係脱可能な面ファスナーの係合素子が配されていることが好ましい。
【0027】
この場合、前記第1引手主体部は、前記第2引手主体部よりも長尺に形成され、前記第1引手主体部と前記第2引手主体部とを互いに係着させたときに前記第2引手主体部が重なり合う部分以外の前記第1引手主体部の前記第1面の領域に、面ファスナーの雄係合素子が配されていることが好ましい。特に、前記引手は、前記架橋部から前記スライダー胴体の肩口側に延出させたときに、前記第1引手主体部の前記第1面が下方を向くようにして取り付けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るスライドファスナー用スライダーは、スライダー胴体と、スライダー胴体の上翼板上に左右対称な形状に一体形成された門型形状の引手取付柱と、その引手取付柱の架橋部に一端が取り付けられた帯紐体からなる引手とを備えており、前記引手取付柱は、スライダー胴体の横断方向に離間して上翼板から立設された左右脚部と、同左右脚部の上端部間に架橋された架橋部とを有している。
【0029】
このような構成を有する本発明のスライダーであれば、引手が左右方向に配した門型形状の引手取付柱によって架橋部からスライダー前後方向に延出するとともに引手表裏面がスライダーの摺動方向に対して横向きとなるように配設される。これにより、スライダーの引手が摘み易く、スライダーの操作を容易に行うことができるため、その操作性に優れている。
【0030】
その上、本発明のスライダーは、従来のような金属製の連結部材を用いることなく、引手の一端が引手取付柱に直接取り付けられている。このため、引手がスライダー胴体と接触しても、また、他の部材と接触しても、接触音の発生を効果的に防止することができる。特に本発明において、スライダー胴体が合成樹脂製であるものや、引手が帯紐体からなるものであれば、スライダー胴体と引手との接触による音の発生をより確実に防止でき、また、スライダー胴体が他の部材と接触しても、接触音の発生を効果的に防止することができる。
【0031】
また、本発明のスライダーは、前記架橋部へ取り付ける前記引手の柱取付部が前記架橋部の周囲を回動することを抑止する回動抑止手段を有している。これにより、スライダーの非操作時における引手の向きをある一定の方向に規制することができる。このため、引手がぶらつくことを防ぎ、引手がスライダー胴体や他の部材と接触すること自体を効果的に防止できる。
【0032】
更に、引手の向きをある一定の方向に規制することにより、例えばスライドファスナーを座席のシートカバーに用いた場合に、スライドファスナーを閉鎖したときの引手の向きを所定の方向に定めることが可能となる。これにより、スライダーをシートカバーの裏面側に隠蔽した際に、スライダーが自動車の振動等を受けても、引手がシートカバーの裏面側から飛び出さず、引手を確実に隠蔽することができる。このため、スライドファスナーの閉鎖状態を安定して維持することができる。
【0033】
この場合、前記回動抑止手段は、前記架橋部から突設した舌片によって容易に構成することができ、或いは、前記引手を前記架橋部に固着することによっても容易に構成することができる。例えば回動抑止手段として舌片を形成する場合、同舌片を架橋部から所定の方向へ、例えば上翼板と平行に肩口側又は後口側へ向けて突出させることにより、スライダーの非操作時における引手の向きをその所定方向へ容易に向けることができる。
【0034】
本発明のスライダーにおいて、前記引手は弾性的に撓曲可能に構成されている。これにより、スライダーをエレメント列に沿って摺動するときに、引手の向きをスライダーが摺動する方向へ容易に向けることができるため、スライダーの操作を円滑に行うことができる。また、スライダーが前記回動抑止手段を有している場合には、引手を指から放したときに、引手を回動抑止手段によって規制している所定の方向へ確実に向けることが可能となる。また、前記引手は硬質の合成樹脂からなるものであっても良い。これにより、引手を把持し易く構成でき、スライダーの摺動操作を容易に行うことが可能となる。
【0035】
また本発明において、スライダーの引手は、スライダー前後方向に配される第1及び第2引手主体部と、それらを連結する折返し部とを備えた細長状の薄片により形成されている。しかも、第1及び第2引手主体部は、各第1面の少なくとも一部に互いに係脱可能な面ファスナーの係合素子を有している。これにより、引手を安価に作製することができる上、引手の引手取付柱への取り付けを容易に行うことができる。
【0036】
この場合、本発明の第1引手主体部は、第2引手主体部よりも長尺に形成されており、また、第1引手主体部と第2引手主体部とを互いに係着させたときに第2引手主体部が重なり合う部分以外の第1引手主体部の第1面の領域に、面ファスナーの雄係合素子が配されている。これにより、例えばスライドファスナーを座席のシートカバーに用いた場合、スライダーをシートカバーの裏面側に隠蔽した際に、第1引手主体部の第1面に配した雄係合素子をシートカバー裏面に係着させてスライダーを所定の位置で固定することができる。従って、スライダーがぶらつくことを防止できるため、スライダーが座席のシートフレーム等と接触することを防いで接触音の発生をより確実に防止することができる。また、スライダーが自動車の振動等を受けてもエレメント列を自由に摺動することもなく、スライドファスナーの閉鎖状態をより安定して維持することができる。
【0037】
特にこの場合、引手が、引手取付柱の架橋部からスライダー胴体の肩口側に延出させたときに、第1引手主体部の第1面が下方(上翼板側)を向くようにして取り付けられていることが好ましい。これにより、スライダーをシートカバーの裏面側に隠蔽した際に、第1引手主体部の雄係合素子をシートカバー裏面に容易に係着させることができ、スライダーを所定の位置でより確実に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0039】
図1〜図3は、本発明の実施例1に係るスライドファスナー用スライダーを示している。ここで、図1は、同スライダーのスライダー胴体を示す斜視図であり、図2は、同スライダーの引手を示す斜視図である。また、図3は、同スライダーにおける前後方向の断面を示す断面図である。
【0040】
なお、各実施例の説明において、スライダーの前後方向とは、スライダーの摺動方向に平行な方向であり、スライドファスナーにおいて左右のエレメントを噛合させるときに摺動させる方向を前方とし、左右のエレメントを解離させるときに摺動させる方向を後方とする。また、スライダーの左右方向とは、スライドファスナーを構成した際にファスナーテープ面に平行で、且つ、スライダー前後方向に対して直角な方向をいい、スライダーの上下方向とは、スライドファスナーを構成した際のファスナーテープの表裏方向と同じ方向をいう。
【0041】
本実施例1に係るスライドファスナー用スライダー1は、図1に示したスライダー胴体10と、図2に示した引手20とを有している。
前記スライダー胴体10は、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性合成樹脂材料や、耐摩耗性強化材を添加した熱可塑性合成樹脂材料などを使用して射出成形により一体形成された成形品で構成されている。
【0042】
このスライダー胴体10は、図1に示すように、上翼板11と、上翼板11と離間して平行に配された下翼板12と、これらの上下翼板11,12の前端部を連結する案内柱13と、上翼板11の表面(上面)に一体形成された門型形状の引手取付柱14と、下翼板12の後部側の左右両側縁から上翼板11に向けて立設した左右のフランジ15とを有している。
【0043】
これにより、スライダー胴体10の前部には、案内柱13により分離された左右の肩口が形成されるとともに、スライダー胴体10の後端には、後口が形成されている。また、上下翼板11,12間には、左右の肩口と後口とを連通するY字形状のエレメント案内路が設けられており、このエレメント案内路は、後述するようにスライドファスナー7を構成したときに、左右のエレメント3を挿通させる通路となる。
【0044】
前記引手取付柱14は、スライダー前後方向の略中央部分で上翼板11の左右両側端部から上方に立設された左右脚部14a,14bと、同左右脚部14a,14bの上端部間にスライダー左右方向に沿って架橋された架橋部14cとを有しており、左右対称な形状に形成されている。前記架橋部14cは、上翼板11の上面と平行に配されており、この架橋部14cに引手20の一端が取り付けられる。なお、本発明において、左右脚部14a,14bは、スライダー胴体10の横断方向に離間して配されていれば、上翼板11の左右両側端部よりも内側の位置に立設することも可能であり、引手20の幅寸法等に応じて、左右脚部の立設位置を容易に変更することができる。
【0045】
前記引手20は、織製された細長い薄片状の帯紐体により形成されており、弾性的に撓曲可能に構成されている。また、引手20は、摘み部としてスライダー前後方向に配される第1引手主体部21と、同第1引手主体部21よりも前後方向に短く形成された第2引手主体部22と、第1及び第2引手主体部21,22間を連結する折返し部23とを一体に有している。
【0046】
前記第1引手主体部21は、ユーザーが摘んで把持し易いように、左右方向に比較的幅広に形成されている。また、この第1引手主体部21は、一方の面(第1面21a)に複数のフック24を有しており、面ファスナーを構成している。
【0047】
前記第2引手主体部22は、第1引手主体部21と同じ左右幅寸法を有している。また、この第2引手主体部22は、第1引手主体部21のフック24が配設されている面と同じ側の面(第1面22a)に複数のループ25を有しており、第1引手主体部21のフック24を係脱可能な面ファスナーを構成している。
【0048】
前記折返し部23は、第1及び第2引手主体部21,22よりも幅狭に形成されており、その表裏両面にはフック24もループ25も配されていない。
なお、本発明の引手はこれに限定されるものではなく、例えば第1及び第2引手主体部21,22は、それぞれの第1面にフック24とループ25と混在させて配設することによって面ファスナーを構成することも可能である。
【0049】
このような本実施例1における引手20は、例えばフックとループが所定の間隔をもって並列に配された面ファスナーテープを図2に示した形状に打ち抜くこと等により、容易に製造することができる。また、この製造された引手20は、以下のようにしてスライダー胴体10の架橋部14cに取り付けられる。
【0050】
即ち、先ず、引手20の第2引手主体部22をスライダー胴体10の上翼板11と引手取付柱14の架橋部14cとの間に挿通させ、引手20の折返し部23を引手取付柱14の架橋部14cの位置に合わせる。その後、第2引手主体部22を第1引手主体部21側に折り返し、第1引手主体部21と第2引手主体部22とをフック24及びループ25によって互いに係着させる。これにより、引手20をスライダー胴体10の架橋部14cに捲き付けた状態で容易に取り付けることができる。
【0051】
この場合、引手20の第1引手主体部21は、図3に示したように、折返し部23側の一部領域に第2引手主体部22が重ねられて係着しているため、第2引手主体部22が重ねられていない部分には、第1面21a側に配したフック24部が露出した状態になっている。
【0052】
また、本実施例1では、引手20が、引手取付柱14の架橋部14cからスライダー胴体10の後口側に延出させた状態で第1引手主体部21の第1面21aが上方に向くように、言い換えると、引手取付柱14の架橋部14cからスライダー胴体10の肩口側に延出させた状態で第1引手主体部21の第1面21aが下方(上翼板11側)を向くように、架橋部14cを中心に回動可能に取り付けられている。
【0053】
このような本実施例1のスライダー1を、図4及び図5に示すように、左右一対のファスナーストリンガー2が有する左右のエレメント3に挿通することによって、スライドファスナー7が構成される。この場合、左右一対のファスナーストリンガー2は、コイル状の連続エレメント3に芯紐6を挿通したものを、左右のファスナーテープ4の相対するテープ側縁部に縫着糸5で縫着することによって形成されている。
【0054】
本実施例1のスライダー1を備えたスライドファスナー7において、スライダー1の引手20は、弾性的に撓曲可能な帯状体で構成されているとともに、その引手折返し部23(柱取付部)がスライダー胴体10の引手取付柱14を中心としてスライダー1の摺動方向に回動可能に取り付けられている。このため、本実施例1に係るスライドファスナー7は、スライダー1の引手20が摘み易く、スライダー1の操作を円滑に行うことができるため、スライダー1の操作性に優れている。
【0055】
また、本実施例1のスライダー1は、引手20が金属部材を用いることなく引手取付柱14に直接取り付けられているため、引手20が合成樹脂製のスライダー胴体10やその他の他の部材等と接触しても、その接触音の発生を効果的に防止でき、音鳴りがしないスライドファスナー7を構成することができる。
【0056】
このような本実施例1に係るスライドファスナー7は、図6及び図7に示したように、自動車用座席31のシートカバー等に好適に使用することができる。この場合、自動車用座席31は、シートクッション32とシートバック33とを備え、これらのシートクッション32及びシートバック33は、それぞれ図示しないシートフレームと、シートフレームに固定され、クッション性を有する図示しないパッドと、パッドを覆うシートカバー34,35とを有している。
【0057】
また、シートバック33に用いられるシートカバー35は、外面側に配される合成皮革からなる表皮部35aと、内面側に配されるクッション性を有したスポンジ部35bとを有している。また、シートカバー35の座席後面側には、2つの互いに平行な切込み36が座席上下方向に沿って形成されており、これらの切込み36に沿って、本実施例1に係るスライドファスナー7がそれぞれ縫着されている(図7を参照)。
【0058】
この場合、スライドファスナー7は、シートカバー後面部の切込み36の全長に渡って配設されているとともに、シートカバー35の後面部下端縁37から下方に所定の長さで突出するように延設されている。また、このスライドファスナー7は、エレメント3の上下両端部に止具が配されており、スライダー1をエレメント3に沿って座席31の下方に向けて摺動させたときにスライドファスナー7が閉鎖するような向きで取り付けられている。
【0059】
このように本実施例1に係るスライドファスナー7が自動車用座席31のシートカバー35に使用される場合、シートカバー35を各スライドファスナー7が開いた状態でシートバック33に被せ、その後、スライダー1を下方へ摺動させてスライドファスナー7を閉鎖することによって、シートカバー35をシートバック33に容易に且つ体裁良く取り付けることができる。
【0060】
その後、シートカバー35の後面部下端縁37から延設しているスライドファスナー7の延設部分7aを、図8に示すように、シートカバー後面部の裏面(スポンジ部35b)側へ折返してシートカバー35とパッドとの間に挿入することにより、その延設部分7aを座席31の表面からは見えないように隠蔽することができる。
【0061】
特に、本実施例1のスライダー1において、引手20の第1引手主体部21における第1面21aのうち、第2引手主体部22が重ねられていない部分には、上述のようにフック24が露出している。このため、スライドファスナー7の延設部分7aをカバー裏面側に隠蔽した際に、第1引手主体部21のフック24をシートカバー35のスポンジ部35bに係着させて、スライダー1の位置を固定することができる。これにより、例えば自動車が走行時に振動しても、シートカバー35とパッド部との間で、スライダー1の位置がずれたり、スライダー1がぶらついたりすることを防止できる。
【0062】
また、上述のような引手20とスライダー胴体10等との接触音の発生を防止するという効果に加えて、スライダー1の位置が固定されることによってスライダー1が座席31のシートフレーム等の他部材と接触することを防止でき、スライダー1とシートフレーム等との接触音の発生も抑えることができる。
【0063】
更に、スライダー1の位置が固定されることにより、カバー裏面側に隠蔽したスライドファスナー7の延設部分7aが、自動車の振動等によりシートカバーの後面部下端縁37から外側に垂れ下がって露呈してしまうことも防止できる。このため、良好な見栄えを安定して確保することができる。
【0064】
なお、本実施例1に係るスライドファスナー7は、スライダー1の操作性や音鳴り防止の点から上述のような自動車用座席31のシートカバー35の他に、例えば介護用衣服、ベビー服、幼児用衣服等に対しても好適に使用することができる。特に、本実施例1に係るスライドファスナー7は、スライダー1の引手に配したフック24によりスライダー1の位置を固定できるため、例えばベビー服や幼児用衣服等に用いた場合にスライダー1が子供によって誤って操作されることも効果的に防止することが可能である。
【実施例2】
【0065】
次に、本発明の実施例2に係るスライドファスナー用スライダーについて説明する。ここで、図9は、本実施例2に係るスライドファスナー用スライダーを模式的に示す側面図である。なお、本実施例2及び後述する実施例3〜実施例5において、前記実施例1と同様の構成を有する部品及び部材については同じ符号を用いて表しており、それによって、その説明を省略することとする。
【0066】
図9に示した本実施例2のスライダー41は、スライダー胴体10と、引手42とを備えており、スライダー胴体10自体は、前記実施例1と同様の構成を有している。一方、本実施例2の引手42は、織製された細長い薄片状の帯紐体により形成されており、スライダー前後方向に配される互いに長さの等しい第1及び第2引手主体部43,44と、これらの引手主体部43,44間を連結する折返し部45とを一体に有している。
【0067】
前記第1及び第2引手主体部43,44は、ユーザーが摘んで把持し易いように、左右の幅が比較的広く形成されている。なお、これらの第1及び第2引手主体部43,44には、前記実施例1のように面ファスナーを構成するフックやループ等の係合素子は配されていない。また、前記折返し部45は、第1及び第2引手主体部43,44よりも幅が狭く形成されている。
【0068】
このような本実施例2における引手42は、第2引手主体部44をスライダー胴体10の上翼板11と引手取付柱14との間に挿通させ、引手42の折返し部45を引手取付柱14の位置に合わせ、更に、第2引手主体部44を第1引手主体部43側に折り返して第1引手主体部43と重ね合わせ、その後、第1引手主体部43と第2引手主体部44とを互いに縫着することによって、スライダー胴体10の架橋部14cに取り付けられている。
【0069】
このような本実施例2のスライダー41を用いて構成されたスライドファスナーでは、引手42が弾性的に撓曲可能な帯状体で構成されているとともに、その引手折返し部45がスライダー胴体10の引手取付柱14を中心としてスライダー41の摺動方向に回動可能に取り付けられている。このため、本実施例2に係るスライドファスナーは、スライダー41の引手42が摘み易く、スライダー41の操作を円滑に行うことができる。
【0070】
また、本実施例2のスライダー41は、引手42が金属部材を用いることなく引手取付柱14に直接取り付けられているため、引手42が合成樹脂製のスライダー胴体と接触しても、またシートフレーム等のような他の部材と接触しても、その接触音の発生を効果的に防止でき、音鳴りがしないスライドファスナーを構成することができる。
【0071】
このような本実施例2に係るスライドファスナーは、前記実施例1と同様に自動車用座席31のシートカバー35等に使用することができ、更にその他にも、スライダーの良好な操作性、音鳴り防止、肌触りの良さの点から、例えば介護用衣服、ベビー服、幼児用衣服等に対しても特に好適に使用することができる。
【実施例3】
【0072】
続いて、本発明の実施例3に係るスライドファスナー用スライダーについて説明する。ここで、図10は、本実施例3に係るスライドファスナー用スライダーを模式的に示す側面図である。
【0073】
図10に示したスライダー46は、スライダー胴体10と、引手47とを備えている。このスライダー胴体10’は、前記実施例1,2のスライダー胴体10に対して引手取付柱14’の形状が変更されており、左右脚部14a’,14b’間に架橋された架橋部14c’が円筒状に形成され、更に架橋部14c’の略中央部には、引手挿入用のスリットが設けられている。なお、スライダー胴体10’における引手取付柱14’以外の構成は、前記実施例1,2のスライダー胴体10と同様である。
【0074】
また、前記引手47は、合成樹脂を成形することにより形成されており、スライダー前後方向に配される引手主体部48と、引手主体部48の一端に形成された柱取付部49とを有しており、引手主体部48の一方の第1面48aには複数のフック50が形成されている。
【0075】
この場合、引手主体部48は、硬質の合成樹脂からなり、ユーザーが摘んで把持し易いように、左右の幅が比較的広く形成されている。また、柱取付部49は、引手主体部48と一体に形成されており、スライダー胴体10’の架橋部14c’の周りを回動可能なようにドーナツ状の円形断面を有している。
【0076】
このような引手47をスライダー胴体10’に取り付ける場合には、引手47の柱取付部49を、スライダー胴体10の架橋部14c’に設けたスリットに斜め方向から挿し込むことにより柱取付部49の中空部に架橋部14c’を挿入する。更に、同引手47をスライダー胴体10’の幅方向に動かしながら回動させて、同柱取付部49の中空部に架橋部14c’を左右両側から嵌め込むことによって、引手47がスライダー胴体10’に回動可能に取り付けられる。
【0077】
なお、引手47をスライダー胴体10’に取り付ける方法は特に限定されるものではない。例えば引手47を、柱取付部49の一部を構成する断面C字状部分と引手主体部48とが一体に形成された第1部材と、柱取付部49の残りの部分を構成する断面円弧状の第2部材とに分割して形成しておく。そして、前記第1部材の断面C字状部分にスライダー胴体10の架橋部14c’を挿入した状態で同C字状部分の両端面に前記第2部材の両端面を宛がい、その後、第1部材と第2部材との当接部分を溶着又は接着することによって、引手47をスライダー胴体10に取り付けることも可能である。
【0078】
このようにして得られたスライダー46は、合成樹脂製の引手47が金属部材を用いずに引手取付柱14’に直接取り付けられているため、同引手47が合成樹脂製のスライダー胴体と接触したときに、その接触音の発生を抑えることができる。
【0079】
更に、このスライダー46を用いて構成されたスライドファスナーは、前記実施例1と同様に自動車用座席31のシートカバー35等に好適に使用することができる。このように本実施例3のスライドファスナー自動車用座席31のシートカバー35に使用した場合、本実施例3のスライダー46は、引手主体部48の第1面48aに複数のフック50が設けられているため、例えば前記実施例1と同様にスライドファスナーのシートカバー35からの延設部分をカバー裏面側に隠蔽した際に、引手主体部48のフック50をシートカバー35のスポンジ部35bに容易に係着させることができる。
【0080】
これにより、例えば自動車が走行時に振動しても、スライダー46の位置がずれたり、スライダー46がぶらついたりすることを防止できる等の前記実施例1におけるスライドファスナー7と同様の効果を得ることができる。
【実施例4】
【0081】
本発明の実施例4に係るスライドファスナー用スライダーについて説明する。ここで、図11は、同スライダーのスライダー胴体を示す斜視図であり、図12は、同スライダーの断面を示す縦断面図である。
【0082】
本実施例4のスライダー51は、スライダー胴体52と、引手20とを備えている。前記スライダー胴体52は、上下翼板11,12と、上下翼板11,12の前端部を連結する案内柱13と、上翼板11の上面に一体形成された門型形状の引手取付柱53と、下翼板12の左右両側縁に配された左右のフランジ15とを有している。
前記引手取付柱53は、上翼板11の左右両側端部から上方に立設された左右脚部53a,53bと、同左右脚部53a,53bの上端部間にスライダー左右方向に沿って架橋された架橋部53cと、架橋部53cから上翼板11の上面と平行に前方へ突設した舌片53dとを有している。
【0083】
本実施例4における引手20は、前記実施例1と同様のものであり、第1及び第2引手主体部21,22と、第1及び第2引手主体部21,22間を連結する折返し部23とを有している。また、引手の第1引手主体部21は、複数のフック24を第1面21a上に有している。第2引手主体部22は、第1引手主体部21のフック24を係着可能な複数のループ25を第1面22a上に有している。
【0084】
なお、この引手20は、前記実施例1と同じように、第2引手主体部22をスライダー胴体52における上翼板11と引手取付柱53の架橋部53c及び舌片53dとの間に挿通させ後、第2引手主体部22を第1引手主体部21側に折り返してフック24とループ25とを互いに係着させることにより、引手取付柱53の架橋部53c及び舌片53dに捲き付けた状態で取り付けられている。
【0085】
特に本実施例4において、引手20は、引手20における引手取付柱53からの延長方向がスライダー前方に向くようにして取り付けられている。これにより、引手20の延出方向が、引手取付柱53の舌片53dによって前方方向に規制されるとともに、引手20の折返し部23が架橋部53c及び舌片53dを中心にして、その周囲を回動することが抑止される。これにより、引手20がぶらつくことを防止することができる。
【0086】
そして、このような本実施例4のスライダー51を用いて構成されたスライドファスナーは、スライダー51の引手20が弾性的に撓曲するため、引手20が上述のように引手取付柱53の周りを回動することができなくても、スライダー51の操作時に引手20を指で摘んで容易に湾曲させることができる。
【0087】
このため、例えばスライドファスナーを閉鎖するときには、スライダー51の引手20を摘んで、引手20の延出方向へ引っ張ることによりスライダー51を閉鎖方向へ容易に摺動することができる。また、スライドファスナーを左右に開くときには、スライダー51の引手20を摘んで、延出方向とは反対の方向(後方)へ湾曲させながら(図12の二点鎖線を参照)引っ張ることにより、スライダー51を開離方向へ容易に摺動することができる。またこの場合、スライダー51を操作した後に指を引手20から離したときには、引手取付柱53に設けた舌片53dと引手20の弾性復帰とにより、引手20を再び架橋部53cからスライダー前方方向に向けることができる。
【0088】
これにより、本実施例4に係るスライドファスナーを、図6に示したような自動車用座席31のシートカバー35に使用する場合、同スライドファスナーを閉鎖してスライドファスナーの延設部分をシートカバー後面部の裏面側に隠蔽したときに、引手20を架橋部53cからスライダー前方方向へ確実に向けることができる。このため、引手20の第1引手主体部21の第1面21aに露出しているフック24を、シートカバー35のスポンジ部35bに確実に係着させることができ、前記実施例1に比べて、スライダーの位置をより確実に固定することができる。なお、舌片53dは、架橋部53cから上翼板11の上面と平行に後方へ突設させても良い。
【実施例5】
【0089】
本発明の実施例5に係るスライドファスナー用スライダーについて説明する。ここで、図13は、同スライダーの断面を示す縦断面図である。
本実施例5のスライダー61は、スライダー胴体62と、引手20とを備えている。前記スライダー胴体62は、上下翼板11,12と、上下翼板11,12の前端部を連結する案内柱13と、上翼板11の上面に一体形成された門型形状の引手取付柱63と、下翼板12の左右両側縁に配された左右のフランジ15とを有している。
【0090】
前記引手取付柱63は、上翼板11の左右両側端部から上方に立設された左右脚部と、同左右脚部の上端部間に架橋された架橋部63cとを有しており、架橋部63cの太さが前記実施例1のスライダー1に比べて太く形成されている。
一方、本実施例5における引手20は、前記実施例1及び実施例4と同様のものであり、第1及び第2引手主体部21,22と、折返し部23とを有している。
【0091】
また、本実施例5の引手20は、第2引手主体部22をスライダー胴体62の上翼板111と架橋部63cとの間に挿通させた後、第2引手主体部22を第1引手主体部21側に折り返して係着させることにより架橋部63cに捲き付けられている。更にその後、引手20が架橋部63cからスライダー前方へ延出するようにして同引手20を保持した状態で、引手20の折返し部23を超音波溶着等により架橋部63cに固着させている。
【0092】
これにより、引手20の延出方向が前方に規制されるとともに、引手20の折返し部23が架橋部63cを中心にして、その周囲を回動することが抑止される。従って、引手20が引手取付柱63を中心にぶらつくことを防止することができる。
【0093】
そして、このような本実施例5のスライダー61を用いて構成されたスライドファスナーは、スライダー61の引手20が弾性的に撓曲する。このため、本実施例5に係るスライドファスナーは、前記実施例4と同様に、スライダー61の操作時に引手20を指で摘んで湾曲させることができ、当該スライドファスナーを閉鎖又は開離する際に、スライダー61の摺動操作を容易に行うことができる。また、スライダー61を操作した後に指を引手20から離したときには、引手20を架橋部63cからスライダー前方方向に向けることができるため、前記実施例4に係るスライドファスナーと同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施例1に係るスライドファスナー用スライダーのスライダー胴体を示す斜視図である。
【図2】同スライダーの引手を示す斜視図である。
【図3】同スライダーにおける前後方向の断面を示す断面図である。
【図4】同スライダーを用いて構成されたスライドファスナーを示す正面図である。
【図5】同スライドファスナーのスライダーをスライダー後口側から見たときのスライダー後面図である。
【図6】自動車用座席を示す斜視図である。
【図7】同自動車用座席に取り付けられるシートカバーの一部断面を示す断面図である。
【図8】スライドファスナーの延設部分を隠蔽したときの状態を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例2に係るスライドファスナー用スライダーを模式的に示す模式図である。
【図10】本発明の実施例3に係るスライドファスナー用スライダーを模式的に示す側面図である。
【図11】本発明の実施例4に係るスライドファスナー用スライダーのスライダー胴体を示す斜視図である。
【図12】同スライダー胴体の断面を示す縦断面図である。
【図13】本発明の実施例5に係るスライドファスナー用スライダーのスライダー胴体の断面を示す縦断面図である。
【図14】従来のスライドファスナーを示す正面図である。
【図15】同スライドファスナーに用いられる引手を説明する説明図である。
【図16】従来のスライドファスナーが使用される自動車用座席を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0095】
1 スライドファスナー用スライダー
2 ファスナーストリンガー
3 エレメント
4 ファスナーテープ
5 縫着糸
6 芯紐
7 スライドファスナー
7a 延設部分
10,10’ スライダー胴体
11 上翼板
12 下翼板
13 案内柱
14,14’ 引手取付柱
14a,14a’ 左脚部
14b,14b’ 右脚部
14c,14c’ 架橋部
15 フランジ
20 引手
21 第1引手主体部
21a 第1面
22 第2引手主体部
22a 第1面
23 折返し部
24 フック
25 ループ
31 座席
32 シートクッション
33 シートバック
34,35 シートカバー
35a 表皮部
35b スポンジ部
36 切込み
37 シートカバーの後面部下端縁
41 スライドファスナー用スライダー
42 引手
43 第1引手主体部
44 第2引手主体部
45 折返し部
46 スライドファスナー用スライダー
47 引手
48 引手主体部
48a 第1面
49 柱取付部
50 フック
51 スライドファスナー用スライダー
52 スライダー胴体
53 引手取付柱
53a 左脚部
53b 右脚部
53c 架橋部
53d 舌片
61 スライドファスナー用スライダー
62 スライダー胴体
63 引手取付柱
63c 架橋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上翼板(11)と下翼板(12)とが案内柱(13)により肩口側前端部で連結され、後端に後口を有するスライダー胴体(10,10',52,62)を備えるスライドファスナー用スライダー(1,41,46,51,61) であって、
前記スライダー胴体(10,10',52,62)の横断方向に離間して、前記上翼板(1
1)から立設された左右脚部(14a,14b,14a',14b',53a,53b) と、前記左右脚部(14a,14b,14a',14b',53a,53b) の上端部間に架橋された架橋部(14c,14c',53c,63c) とを有し、前記スライダー胴体(10,10',52,62)と一体に形成された門型形状の引手取付柱(14,14',53,63)、及び、
前記架橋部(14c,14c',53c,63c) に一端が取り付けられ、同架橋部(14c,14c',53c,63c) から延出した引手(20,42,47)、
を更に備えてなることを特徴とするスライドファスナー用スライダー。
【請求項2】
前記スライダー胴体(10,10',52,62)は合成樹脂からなる請求項1記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項3】
前記架橋部(14c,53c,63c) へ取り付ける前記引手(20,42) の柱取付部(23,45) が前記架橋部(14c,53c,63c) の周囲を回動することを抑止する回動抑止手段を有してなる請求項1又は2記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項4】
前記回動抑止手段は、前記架橋部(53c) から突設した舌片(53d) により構成されてなる請求項3記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項5】
前記回動抑止手段は、前記引手(20)を前記架橋部(63c) に固着することにより構成されてなる請求項3記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項6】
前記引手(20,42) は、弾性的に撓曲可能に構成されてなる請求項1〜5のいずれかに記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項7】
前記引手(47)は、硬質の合成樹脂からなる請求項1〜5のいずれかに記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項8】
前記引手(20)は、スライダー前後方向に配される第1及び第2引手主体部(21,22) と、同第1及び第2引手主体部(21,22) 間を連結する折返し部(23)とを備えた細長状の薄片により形成され、
前記第1及び第2引手主体部(21,22) は、前記引手(20)を前記折返し部(23)で折り返したときに相対する各第1面(21a,22a) の少なくとも一部に、互いに係脱可能な面ファスナーの係合素子(24,25) が配されてなる、
請求項1〜7のいずれかに記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項9】
前記第1引手主体部(21)は、前記第2引手主体部(22)よりも長尺に形成され、
前記第1引手主体部(21)と前記第2引手主体部(22)とを互いに係着させたときに前記第2引手主体部(22)が重なり合う部分以外の前記第1引手主体部(21)の前記第1面(21a) の領域に、面ファスナーの雄係合素子(24)が配されてなる、
請求項8記載のスライドファスナー用スライダー。
【請求項10】
前記引手(20)は、前記架橋部(14c,53c,63c) から前記スライダー胴体(10,52,62)の肩口側に延出させたときに、前記第1引手主体部(21)の前記第1面(21a) が下方を向くようにして取り付けられてなる請求項9記載のスライドファスナー用スライダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−56076(P2009−56076A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225369(P2007−225369)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】